函館の水族館構想
函館の水族館構想(はこだてのすいぞくかんこうそう)とは、北海道函館市で構想されていた水族館構想である。
断念後についても記述する。
概要
[編集]昭和初期から函館市に建設要望が繰り返されていた[1]。
北海道立水族館構想
[編集]1951年(昭和26年)、立待岬の敷地を候補地として「北海道立水族館」を誘致。同年2月に北海道議会水産常任委員会が視察したが、7月室蘭市に決まる(旧・北海道立水族館、現・市立室蘭水族館<室蘭民報みんなの水族館>。1953年(昭和28年)6月21日開館)。なお、他の候補都市は小樽市[1]。
函館圏総合開発基本計画
[編集]1970年(昭和45年)の函館圏総合開発基本計画に水族館建設が位置付けられる。函館青年会議所が1975年(昭和50年)に千代台町会館にミニ水族館を設置、1979年(昭和54年)に千代台町の国立病院跡で「水の中の生き物展」を開催し、気運を盛り上げようと試みた[1]。
湯川地区・緑の島
[編集]- 湯の川マリンパーク構想(湯川地区)
市は1987年(昭和62年)2月、湯川地区で函館市熱帯植物園に水族館と多目的温泉保養施設(クアハウス)を組み合わせた大規模複合レクリエーション施設「湯の川マリンパーク」をまとめた。1988年(昭和63年)1月には湯の川マリンパーク構想調査検討委員会が設置され、同年4月には、函館水族館建設期成会が設立、同年6月には、はこだて海の科学館建設市民研究会も第2候補地として湯川案を作成した[1][2][3]。 しかし、同年7月、湯の川マリンパーク構想調査検討委員会は敷地が狭いことを理由に再検討を指摘する報告書をまとめ、木戸浦隆一函館市長(当時)に提出した。1990年(平成2年)12月に木戸浦市長(当時)は敷地が狭く、実施協力企業が集まらないことを理由に構想を断念した[1]。
- 第一次函館アクアコミュニティ構想(緑の島)
湯川地区案に代わるものとして市が1990年(平成2年)に緑の島での函館アクアコミュニティ構想を発表した。1992年(平成5年)5月には内容が発表されて、総費用50億円、ペンギンコーナーや熱帯雨林コーナー、エントランスには巨大コンブ水槽などをもつ施設であった。バブル経済崩壊の影響で中核として運営してくれる企業が見つからず1995年(平成7年)3月頓挫した[4]。
- 第二次函館アクアコミュニティ構想(緑の島)
水族館や第三セクターによるウォーターフロント開発の中核施設建設などの計画が持ち上がり[5][6][7]、1997年(平成9年)には函館市とコクドが「函館アクアコミュニティ構想」における基本協定を締結した[8]。横浜・八景島シーパラダイスを参考に縮小した施設として総事業費78億5,000万円で構想した[9]。大観覧車建設による景観問題や収支計画における採算面に市議会の一部や市民(2000年<平成12年>12月結成の函館の水族館とアクアコミュニティ構想を考える会)から厳しい見方が強まり[10][11][12][13]、2001年(平成13年)11月30日に建設を断念した(井上博司函館市長(当時)による市長記者会見で発表)[14][13]。 当時の市には2000年(平成12年)の公立はこだて未来大学の開学、市立函館病院の新築移転の負担の影響もあった[15]。
函館商工会議所は1997年7月の会報にて、函館は家族連れで楽しむ場所がないので一日も早く完成してほしいと思うのは皆同じではなかろうかと期待を寄せていた[16]。
海の生態科学館構想
[編集]その後も市は規模を縮小しての科学館「海の生態科学館」やコンベンション施設建設を検討していたが[17][18][19]、2007年(平成19年)に事業断念を表明した。理由に2006年(平成18年)に起きた北海道夕張市の財政破綻による慎重論が影響している[20]。なお、参議院事務局第二特別調査局によると夕張市の財政破綻の要因は、1.炭鉱閉山後の基盤整備、2.行政体制の効率化の遅れ、3.観光施設への過大投資、4.歳入の減少、5.不適正な財務処理手法にあったという[21]。
海の生態科学館は社会教育施設として位置付けることで採算性の批判をかわす方針に転換し、平成の大合併(2004年<平成16年>12月1日、戸井町、恵山町、南茅部町、椴法華村との合併)を記念して建設する方針であった[22]。赤字を想定しており、コスト削減のため公設民営方式を取るとの考えであったが、「民営で社会教育を充実させられるのか」「民営ならば黒字を目指すべきでは」との意見が寄せられた[23]。事業費は約30億円で、市は北海道大学大学院教授の私案「道南パノラマ大水槽」を採用する意向であった[24]。津軽海峡を再現し、イカの群泳する海、小さなイルカ、海鳥、昆布などを配置する。水槽をチューブトンネルで通れる構造とし、様々な角度から観察できるようにする案だった。現在の水族館は娯楽要素が強すぎる、博物館や図書館のような機能を持ち、楽しく学べる海洋科学館を目標としていた[3]。
市は2004年(平成16年)よりプラズマディスプレイを利用した「まちかどデジタル水族館」の設置をしていた[25]。
構想断念後の動き
[編集]2024年(令和6年)現在、市による水族館整備計画はない[26]。
ただし、2014年(平成26年)に旧函館どつく跡地に水産・海洋分野の研究開発拠点などとなる施設「函館市国際水産・海洋総合研究センター」[27]、2015年(平成27年)には湯川町に函館市民体育館を改築する形でスポーツやコンベンションなどの多目的施設「函館アリーナ」がオープンしている。 はこだてみらい館では2021年(令和3年)夏に、はこだて海のみらい展として、デジタル水族館等体験イベントを開催した[28]。
2019年(令和元年)からは日本財団の支援を受けたBlue Commons Japanによって函館朝市えきに市場内に「函館朝市ミニ水族館」を設置、運営を開始した[29]。2023年(令和5年)には新たに水槽を2基加えるリニューアルを行った[30]。
脚注
[編集]- ^ a b c d e 函館西部地区Ⅰ 海側部 p.124
- ^ ともえ1988年2月号 p.5
- ^ a b 函館の水族館 公立はこだて未来大学 2004年
- ^ 函館西部地区Ⅰ 海側部 p.125
- ^ “難航のマリンパーク構想 湯川立地を断念 市長表明 緑の島で水族館整備”. フォト北海道(道新写真データベース). 北海道新聞社 (1990年12月13日). 2018年5月24日閲覧。
- ^ “函館港の観光構想*コクドが参画検討*「緑の島」*水族館など整備へ*第三セクターの中核に”. フォト北海道(道新写真データベース). 北海道新聞社 (1994年11月29日). 2018年5月24日閲覧。
- ^ “<函館港を考える>第4部 転機の海に*8*生まれ変わる水際(下)*官民の情報交換カギ*一貫性ある施設整備を”. フォト北海道(道新写真データベース). 北海道新聞社 (1994年12月17日). 2018年5月24日閲覧。
- ^ “函館港緑の島レジャー施設*基本協定26日調印*市とコクド*2000年オープン”. フォト北海道(道新写真データベース). 北海道新聞社 (1997年2月24日). 2018年5月24日閲覧。
- ^ 函館西部地区Ⅰ 海側部 p.126
- ^ “函館市の水族館構想*100メートル級観覧車を計画*コクド*新たに景観問題も”. フォト北海道(道新写真データベース). 北海道新聞社 (1999年9月4日). 2018年5月24日閲覧。
- ^ “函館市・アクアコミュニティ計画*水族館核の基本構想明らかに*2003年開業へ大きく前進*採算面、景観調和が課題”. フォト北海道(道新写真データベース). 北海道新聞社 (2000年9月9日). 2018年5月24日閲覧。
- ^ “<波動>函館港アクアコミュニティ計画*難問群れなす念願の水族館*採算は? “70万人入場”に疑問符*大観覧車「自慢の景観を損なう」”. フォト北海道(道新写真データベース). 北海道新聞社 (2000年10月1日). 2018年5月24日閲覧。
- ^ a b 函館西部地区Ⅰ 海側部 p.127
- ^ “<アクア断念>下*水族館*市長は建設に意欲*財政厳しく実現不透明”. フォト北海道(道新写真データベース). 北海道新聞社 (2001年12月5日). 2018年5月24日閲覧。
- ^ 函館西部地区Ⅰ 海側部 p.126
- ^ ともえ1999年7月号 p.1
- ^ “<どうなんリポート>一度は断念…今度は「社会教育」*再び浮上 水族館論議*市「小規模で」*本年度から調査、検討*求められる情報公開”. フォト北海道(道新写真データベース). 北海道新聞社 (2003年6月29日). 2018年5月24日閲覧。
- ^ “「海の生態科学館」素案を検証*ソフト重視で個性化”. フォト北海道(道新写真データベース). 北海道新聞社 (2005年2月2日). 2018年5月24日閲覧。
- ^ “函館市、補正予算案発表*一般会計*1.9%減 1242億円*21億円余りを追加*縄文文化交流センター*整備推進費500万円”. フォト北海道(道新写真データベース). 北海道新聞社 (2007年6月12日). 2018年5月24日閲覧。
- ^ 函館西部地区Ⅰ 海側部 p.129
- ^ "立法と調査" pp.60-62
- ^ 平成16年度 第2回 函館市南茅部地域審議会会議録 函館市 2005年
- ^ "水族館建設基本構想策定委初会合" e-Hakodate/函館新聞 2004年4月27日更新 2023年12月26日閲覧
- ^ 水族館建設基本構想策定委、事業費30億円ベース e-Hakodate/函館新聞 2004年11月11日11:15更新
- ^ "函館駅にデジタル水族館/海の生物間近に" e-Hakodate/函館新聞 2006年11月3日10:33 2023年12月23日閲覧
- ^ "はこだて亀田水族館(仮称)について" 函館市民の声 函館市 2024年9月20日更新 2024年9月29日閲覧
- ^ “函館市国際水産・海洋総合研究センター”. 函館市公式観光情報サイトはこぶら. 2018年5月25日閲覧。
- ^ "はこだて海のみらい展" はこだてみらい館 2023年12月27日閲覧
- ^ 『函館朝市にミニ水族館 近海の魚介類を展示』 日本経済新聞 2019年7月16日18:22更新 2023年10月14日閲覧
- ^ "函館朝市 ミニ水族館に新たに2つの水槽加わる" 北海道 NEWS WEB NHK 2023年4月29日19時20分更新 2023年12月26日閲覧
参考文献
[編集]- 函館商工会議所 『ともえ1988年2月号』 1988年
- 函館商工会議所 『ともえ1999年7月号』 1999年
- 公立はこだて未来大学 『函館の水族館』 2004年
- 茂木治 『資料 函館西部地区Ⅰ 海側部』 2010年
- 参議院事務局企画調整室編 『立法と調査 No.375』 2016年