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利用者:つのふえ/Standard Music Font Layout

Standard Music Font Layoutは、音楽記号をレパートリとする符号化文字集合標準である。略称はSMuFL[注 1]

概要[編集]

現代的なフォントフォーマットに適合し、かつ様々なソフトウェアベンダーやフォントデザイナーから受容される、音楽記号のための新たなグリフマッピングの標準を確立し、もってすべての楽譜作成ソフトウェアユーザーの便宜を図ることを目的とし、W3CのMusic Notation Community Groupによって開発されている。

中世から現代までの西欧クラシック音楽をはじめ、いわゆる五線譜の体系[注 2]で表記されるあらゆる音楽の記譜で用いられ、あるいはそれに付随する各種の記号を対象とし、文字コードの割り当てをはじめ、フォントのメトリックやメタデータに関する仕様などを定めている。

2019年5月現在、2700個を超えるキャラクタがUnicode基本多言語面私用領域に割り当てられている。

歴史[編集]

SMuFLが策定される前の音楽記号フォントは、そのほとんどが、1985年にアドビ社が発表したフォントSonataのフォーマットを踏襲し、あるいは拡張することで制作されていた。Sonataは、200個に満たない基本的な音楽記号をISO 8859-1のデータ形式で収めたパイフォントの一種といえるもので、楽譜作成ソフトウェアやフォントの制作者はこの形式を踏襲しつつ、不要なキャラクタを別のものに置き換えたり、キャラクタが割り当てられていない領域に新しいキャラクタを追加するなどして、拡張していった。

しかし、それらの拡張は、制作を行う各企業独自の場当たり的なものだったため、文字化けが発生しやすいなど、互換性において重大な欠陥が生じていた。また、この仕組みでは1つのフォントで使用可能なキャラクタは256個に限られ、それ以上の新たなキャラクタを導入するためには新しいフォントファイルを別に追加しなければならなかった。OpenTypeとUnicodeを用いれば最大で65536個のグリフを1つのフォントで扱うことができるが、その技術は全く活用されていなかったのである。

一方、1998年に音楽記号をUnicodeの標準に加える提案がなされ、その後2001年から2015年にかけて、Unicodeの追加多言語面に231個の音楽記号が登録された。しかし、これらが開発者やユーザーの間で定着するには至っていない。[注 3]

2013年、スタインバーグ社は楽譜作成ソフトウェアドリコの開発の一環として、こうした問題に対応した新たな音楽記号フォントのレイアウト設計と、それに基づくフォントの制作を行っていた。それはこのSMuFLとフォントBravuraという形で結実し、発表後も同社によって引き続き開発が続けられた。

MusicXMLとの関係[編集]

XML形式による楽譜表記フォーマットであるMusicXMLは、各社の楽譜作成・音楽制作ソフトウェアの間で楽譜データを受け渡すためのデファクト・スタンダードとして用いられているが、これは先発の楽譜作成ソフトウェアFinaleと同じMakeMusic社によって開発されていた。同じ楽譜に関するオープン規格が競合関係にある私企業によってバラバラに所有、開発されているという状況は、発展性などの観点から必ずしも望ましくないものであった。

2015年7月、W3Cに新たにMusic Notation Community Groupが設けられ、MakeMusic社からMusicXMLの開発が、スタインバーグ社からSMuFLの開発がそれぞれ移管された[2]。2017年12月に発表されたMusicXML 3.1はSMuFLのサポートを強化したものであり、両者を包括的に開発し更に利便性を高めていく試みが行われている。

キャラクタの概要とグループの一覧[編集]

SMuFL 1.3においては、Unicode基本多言語面私用領域のうち、U+E000からU+EE4Fまでの領域に2787個のキャラクタが割り当てられている。この他に、推奨されるデザインのバリエーション (stylistic alternates) が299個、推奨される合字が201個定義されており[注 4]、合計3287のグリフを定義していることになる。

また、SMuFLはUnicode音楽記号ブロックの上位集合であるため、Unicodeに登録されている音楽記号をすべて含んでいる。一部の例外を除き、双方のコードポイントがどのように対応するかも定義されている。例えばト音記号はSMuFLでU+E050に割り当てられ、UnicodeのU+1D11Eと対応している旨が記されている。

これらのキャラクタおよびグリフは、記号の種類ごとにグループ分けされて定義されている。以下に、それぞれのグループの名称と、そこに割り当てられたキャラクタやグリフの数を列挙する。

Standard Music Font Layoutのグループ分類
グループの名称 グループの範囲 符号位置の数 割当済キャラクタの数 推奨されるヴァリエーションの数 推奨される合字の数 備考
譜表括弧・ディバイダー
Staff brackets and dividers
U+E000..U+E00F 16 14 4
譜表
Staves
U+E010..U+E02F 32 21
縦線
Barlines
U+E030..U+E03F 16 10
反復
Repeats
U+E040..U+E04F 16 14 3
音部記号
Clefs
U+E050..U+E07F 48 48 13 62
拍子記号
Time signatures
U+E080..U+E09F 32 32 70 33
符頭
Noteheads
U+E0A0..U+E0FF 96 93 10 4
スラッシュ符頭
Slash noteheads
U+E100..U+E10F 16 11 11
円形・四角形符頭
Round and square noteheads
U+E110..U+E11F 16 14
トーンクラスター
Note clusters
U+E120..U+E14F 48 40
音名付き符頭
Note name noteheads
U+E150..U+E1AF 96 96
シェイプノート用符頭
Shape note noteheads
U+E1B0..U+E1CF 32 28
独立した音符
Individual notes
U+E1D0..U+E1EF 32 24 1
連結された音符
Beamed groups of notes
U+E1F0..U+E20F 32 20
符幹
Stems
U+E210..U+E21F 16 16
トレモロ
Tremolos
U+E220..U+E23F 32 21
符鈎
Flags
U+E240..U+E25F 32 18 40
標準的な変化記号 (12平均律
Standard accidentals (12-EDO)
U+E260..U+E26F 16 14 5 5
グールド式四分音用変化記号(24平均律)
Gould arrow quartertone accidentals (24-EDO)
U+E270..U+E27F 16 12
シュタイン=ツィンマーマン式変化記号(24平均律)
Stein-Zimmermann accidentals (24-EDO)
U+E280..U+E28F 16 6
拡張されたシュタイン=ツィンマーマン式変化記号
Extended Stein-Zimmermann accidentals
U+E290..U+E29F 16 13
シムズ式変化記号(72平均律)
Sims accidentals (72-EDO)
U+E2A0..U+E2AF 16 6
ジョンストン式変化記号(純正律)
Johnston accidentals (just intonation)
U+E2B0..U+E2BF 16 8 20
拡張されたヘルムホルツエリス式変化記号(純正律)
Extended Helmholtz-Ellis accidentals (just intonation)
U+E2C0..U+E2FF 64 60
サジタル変化記号:スパルタセット、シングルシャフト
Spartan Sagittal single-shaft accidentals
U+E300..U+E30F 16 16
サジタル変化記号:スパルタセット、マルチシャフト
Spartan Sagittal multi-shaft accidentals
U+E310..U+E33F 48 36 U+E31A, U+E31Bは未使用(unused)として明示的に定義
サジタル変化記号:アテナイ拡張セット(中精度)
Athenian Sagittal extension (medium precision) accidentals
U+E340..U+E36F 48 40
サジタル変化記号:トロイア拡張セット(12平均律相対)
Trojan Sagittal extension (12-EDO relative) accidentals
U+E370..U+E38F 32 24
サジタル変化記号:プロメテウス拡張セット(高精度)、シングルシャフト
Promethean Sagittal extension (high precision) single-shaft accidentals
U+E390..U+E3AF 32 30
サジタル変化記号:プロメテウス拡張セット(高精度)、マルチシャフト
Promethean Sagittal extension (high precision) multi-shaft accidentals
U+E3B0..U+E3EF 64 62 U+E3DE, U+E3DFは未使用(unused)として明示的に定義
サジタル変化記号:ヘラクレス拡張セット(超高精度)
Herculean Sagittal extension (very high precision) accidental diacritics
U+E3F0..U+E3F3 4 4
サジタル変化記号:オリンピア拡張セット(極超高精度)用ダイアクリティカル
Olympian Sagittal extension (extreme precision) accidental diacritics
U+E3F4..U+E3F7 4 0 将来的な割当のために予約
サジタル変化記号:マグラシア拡張セット(究極的高精度)用ダイアクリティカル
Magrathean Sagittal extension (insane precision) accidental diacritics
U+E3F8..U+E41F 40 0 将来的な割当のために予約
ヴィシネグラツキー式変化記号(72平均律)
Wyschnegradsky accidentals (72-EDO)
U+E420..U+E43F 32 22
アレル=エズギ=ウズディレク式(AEU)変化記号
Arel-Ezgi-Uzdilek (AEU) accidentals
U+E440..U+E44F 16 8
トルコ民俗音楽の変化記号
Turkish folk music accidentals
U+E450..U+E45F 16 8
ペルシャ音楽の変化記号
Persian accidentals
U+E460..U+E46F 16 2
その他の変化記号
Other accidentals
U+E470..U+E49F 48 32
アーティキュレーション
Articulation
U+E4A0..U+E4BF 32 30 24
持続・休止
Holds and pauses
U+E4C0..U+E4DF 32 23 1
休符
Rests
U+E4E0..U+E4FF 32 23
小節の反復
Bar repeats
U+E500..U+E50F 16 6
オクターヴ
Octaves
U+E510..U+E51F 16 16 8
強弱
Dynamics
U+E520..U+E54F 48 42 7
歌詞
Lyrics
U+E550..U+E55F 16 6
一般的な装飾音
Common ornaments
U+E560..U+E56F 16 16 11
その他のバロック式装飾音
Other baroque ornaments
U+E570..U+E58F 32 26
トリル・モルデント用のストローク(合成可能)
Combining strokes for trills and mordents
U+E590..U+E5AF 32 25
トリル・モルデント(合成済み)
Precomposed trills and mordents
U+E5B0..U+E5CF 32 25
金管楽器の奏法
Brass techniques
U+E5D0..U+E5EF 32 32
管楽器の奏法
Wind techniques
U+E5F0..U+E60F 32 28 4
弦楽器の奏法
String techniques
U+E610..U+E62F 32 27 2
撥弦楽器の奏法
Plucked techniques
U+E630..U+E63F 16 12 2
声楽の奏法
Vocal techniques
U+E640..U+E64F 16 12
鍵盤楽器の奏法
Keyboard techniques
U+E650..U+E67F 48 40 2
ハープの奏法
Harp techniques
U+E680..U+E69F 32 30 2
鍵盤打楽器ピクトグラム
Tuned mallet percussion pictograms
U+E6A0..U+E6BF 32 19 9
チャイムのピクトグラム
Chimes pictograms
U+E6C0..U+E6CF 16 9
太鼓のピクトグラム
Drums pictograms
U+E6D0..U+E6EF 32 21 8
木質打楽器のピクトグラム
Wooden struck or scraped percussion pictograms
U+E6F0..U+E6FF 16 13 3
金属打楽器のピクトグラム
Metallic struck percussion pictograms
U+E700..U+E70F 16 2
のピクトグラム
Bells pictograms
U+E710..U+E71F 16 11 2
シンバルのピクトグラム
Cymbals pictograms
U+E720..U+E72F 16 11
銅鑼のピクトグラム
Gongs pictograms
U+E730..U+E73F 16 5
シェイカーラトルのピクトグラム
Shakers or rattles pictograms
U+E740..U+E74F 16 9 2
気鳴楽器のピクトグラム
Whistles and aerophones pictograms
U+E750..U+E75F 16 11 1
その他の打楽器のピクトグラム
Miscellaneous percussion instrument pictograms
U+E760..U+E76F 16 8 1
バチのピクトグラム
Beaters pictograms
U+E770..U+E7EF 128 128
打楽器の奏法
Percussion playing technique pictograms
U+E7F0..U+E80F 32 31
ハンドベル
Handbells
U+E810..U+E82F 32 18
ギター
Guitar
U+E830..U+E84F 32 26 2
コード・ダイアグラム
Chord diagrams
U+E850..U+E85F 16 11
楽曲分析
Analytics
U+E860..U+E86F 16 12 1
コードネーム
Chord symbols
U+E870..U+E87F 16 13 5
連符
Tuplets
U+E880..U+E88F 16 11 11
指揮者用記号
Conductor symbols
U+E890..U+E89F 16 11
アコーディオン
Accordion
U+E8A0..U+E8DF 64 55 1
連桁・スラー
Beams and slurs
U+E8E0..U+E8EF 16 8
中世ルネサンス:譜表
Medieval and Renaissance staves
U+E8F0..U+E8FF 16 9
中世・ルネサンス:音部記号
Medieval and Renaissance clefs
U+E900..U+E90F 16 12 4
中世・ルネサンス:メンスーラ記号
Medieval and Renaissance prolations
U+E910..U+E92F 32 32 1
中世・ルネサンス:符頭と符幹
Medieval and Renaissance noteheads and stems
U+E930..U+E94F 32 29 66
中世・ルネサンス:独立した音符
Medieval and Renaissance individual notes
U+E950..U+E96F 32 18
中世・ルネサンス:斜形
Medieval and Renaissance oblique forms
U+E970..U+E98F 32 32
中世・ルネサンス:単音ネウマ
Medieval and Renaissance plainchant single-note forms
U+E990..U+E9AF 32 18
中世・ルネサンス:複数音ネウマ
Medieval and Renaissance plainchant multiple-note forms
U+E9B0..U+E9CF 32 22
中世・ルネサンス:ネウマのアーティキュレーション
Medieval and Renaissance plainchant articulations
U+E9D0..U+E9DF 16 10
中世・ルネサンス:変化記号
Medieval and Renaissance accidentals
U+E9E0..U+E9EF 16 6 2
中世・ルネサンス:休符
Medieval and Renaissance rests
U+E9F0..U+E9FF 16 9
中世・ルネサンス:その他
Medieval and Renaissance miscellany
U+EA00..U+EA1F 32 17
一般的な記譜法で用いられる中世・ルネサンスの記号
Medieval and Renaissance symbols in CMN
U+EA20..U+EA2F 16 11
ダジアン記譜法
Daseian notation
U+EA30..U+EA4F 32 18
数字付き低音
Figured bass
U+EA50..U+EA6F 32 32
機能理論用記号
Function theory symbols
U+EA70..U+EA9F 48 48
線素片
Multi-segment lines
U+EAA0..U+EB0F 112 100 2
電子音楽用ピクトグラム
Electronic music pictograms
U+EB10..U+EB5F 80 65
矢印・アローヘッド
Arrows and arrowheads
U+EB60..U+EB8F 48 48
譜表位置(合成可能)
Combining staff positions
U+EB90..U+EB9F 16 16
ルネサンスリュートタブラチュア
Renaissance lute tablature
U+EBA0..U+EBBF 32 17 1
フランスイギリス式ルネサンスリュート・タブラチュア
French and English Renaissance lute tablature
U+EBC0..U+EBDF 32 22 13
イタリアスペイン式ルネサンスリュート・タブラチュア
Italian and Spanish Renaissance lute tablature
U+EBE0..U+EBFF 32 23
ドイツ式ルネサンスリュート・タブラチュア
German Renaissance lute tablature
U+EC00..U+EC2F 48 36
キエフ記譜法
Kievan square notation
U+EC30..U+EC3F 16 15
コダーイのハンドサイン
Kodály hand signs
U+EC40..U+EC4F 16 7
単純化された記譜法
Simplified Music Notation
U+EC50..U+EC5F 16 11
その他の記号
Miscellaneous symbols
U+EC60..U+EC7F 32 5
拍子記号補助
Time signatures supplement
U+EC80..U+EC8F 16 7 14
オクターヴ補助
Octaves supplement
U+EC90..U+EC9F 16 9
メトロノーム標示
Metronome marks
U+ECA0..U+ECBF 32 24
数字付き低音補助
Figured bass supplement
U+ECC0..U+ECCF 16 1
シェイプノート用符頭補助
Shape note noteheads supplement
U+ECD0..U+ECDF 16 14
逆転した拍子記号
Turned time signatures
U+ECE0..U+ECEF 16 12
反転した拍子記号
Reversed time signatures
U+ECF0..U+ECFF 16 12
機能理論用記号補助
Function theory symbols supplement
U+ED00..U+ED0F 16 4
運指
Fingering
U+ED10..U+ED2F 32 31
アラブ音楽の変化記号
Arabic accidentals
U+ED30..U+ED3F 16 9
アーティキュレーション補助
Articulation supplement
U+ED40..U+ED4F 16 8
シュトックハウゼン式変化記号(24平均律)
Stockhausen accidentals (24-EDO)
U+ED50..U+ED5F 16 15
コードネーム用標準的変化記号
Standard accidentals for chord symbols
U+ED60..U+ED6F 16 7 7
音部記号補助
Clefs supplement
U+ED70..U+ED7F 16 1
運指補助
Fingering supplement
U+ED80..U+ED9F 32 14
カーノーテーション
Kahnotation
U+EDA0..U+EDFF 96 82
ドイツ式オルガン・タブラチュア
German organ tablature
U+EE00..U+EE4F 80 64

脚注[編集]

  1. ^ 日本語訳が定まっていないため、本稿の文中では略称を用いる。
  2. ^ 五線譜の前身であるネウマ譜や、線数の異なるタブ譜などを含む。
  3. ^ 本節の以上の記述は規格書前文[1]による。
  4. ^ これらのオプショナル・グリフはU+F400からU+F8FFまでの領域に収録し、メタデータを用いてバリエーションや合字として関連付けるようになっている。

参考文献[編集]