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利用者:ニトロウォリアー/sandbox

開心術に追加

経食道心エコー[編集]

経食道心臓超音波検査(TEE: transesophageal echocardiography)。TEEではプローブ心臓に近いため、より良好な画像が得られる。右室左室の局所的、および全体的機能を評価する。虚血の発症を鋭敏に検出でき、また、機能障害の評価ができる。

オンポンプ冠動脈手術の際、人工心肺(CPB: cardiopulmonary bypass)前にTEEを行い、局所と全体の心室機能を術前評価する。

また、オフポンプ手術の際、術前には経胸壁心エコーで心機能を評価しているが、その評価よりもTEEでの評価が悪ければ、術式がオフポンプからオンポンプに変更になることもある。

プローブは全身麻酔導入後、ヘパリン化の前に挿入する。 CPB離脱後に、TEEで心室機能評価、心腔内気泡の確認、弁形成や弁置換の効果判定ができる。[1]

禁忌[編集]

プローブを挿入する前に、食道穿孔などの重篤な合併症を引き起こす可能性が高いTEEの禁忌について確認する。 禁忌には、

  • 食道の手術歴
  • 食道狭窄
  • Schatzki下部食道粘膜輪
  • 食道静脈瘤

などの食道疾患がある。


動脈ラインに追加

適応[編集]

  • 連続血圧測定が必要な場合。
  • 頻回の動脈血採血が必要な場合:肺疾患患者や代謝疾患患者の管理や、出血が予想される患者など。
  • 非侵襲的血圧測定が難しい場合。
  • 心臓血管手術。
  • 侵襲の大きな手術症例、血行動態の不安定な症例。
  • 重度の心疾患患者における非心臓手術症例。

など。[2]

観血的動脈圧波形[編集]

全身性の動脈圧波形は、収縮期における左室から大動脈への血液の駆出と、拡張期における血液の末梢動脈への流出により生じる。

  1. anacrotic limb: 心電図のR波に続く収縮期部分で、圧波形が急峻に立ち上がる。
  2. systolic peak pressure: 最高点に達する。
  3. down slope: その後、下降する。
  4. dicrotic notch: 下降部分は収縮末期に大動脈弁閉鎖ノッチを形成する。
  5. dicrotic limb: 拡張期部分において、圧波形はさらに下行し続ける。
  6. end-diastolic pressure: 最下点に到達する。

①anacrotic limbは左心室の収縮による圧力であり、その傾きは心臓の収縮性を反映する。④dicrotic notchは大動脈弁の閉鎖による血液の逆流から形成される波形であり、測定する部位が心臓から遠ざかるほど小さくなる。

観血的動脈圧波形から、心拍数とリズム、脈圧、呼吸性の脈圧変動と循環血液量の状態、心拍出量など、様々な情報が得られる。[2]


~ 筋弛緩モニター ~項目追加。

概要[編集]

筋弛緩薬を使用する症例では、その効果を確かめるために筋弛緩のモニタリングを必要に応じて行う。特に、気管挿管などの深い筋弛緩状態を維持する必要があるときや、抜管時の回復状態の判定時に使う。[3]

種類[編集]

客観的モニターと主観的モニターがある。

客観的モニター[編集]

末梢神経刺激下に支配筋の活動電位、あるいは筋収縮の張力や速度をトランスデューサーで計測し、筋弛緩効果と筋弛緩からの回復を数値として客観的に評価できるモニター。[2]

  1. 筋張力モニター:筋収縮力を計測するモニター。
  2. 筋電図モニター:筋複合活動電位を測定するモニター。
  3. 筋加速度モニター:測定筋上に貼付した加速度トランスデューサーにかかる加速度の変化率から筋収縮力を測定する。トランスデューサーは小型であり、多くの筋に対応できる。加速度感知の感受性も高く、顔面筋の小さな動きもデータとして表示可能である。TOF(train-of-four)ウォッチは小型で操作性が良い。
  4. 圧電気モニター:母指内転筋収縮を測定する、設置が簡便なモニター。

主観的モニター[編集]

主に術中に、簡易的末梢刺激装置で四連(TOF)刺激に対する反応数(TOFカウント)を観察し、筋弛緩薬投与のタイミングを計るのに用いられる。TOFカウントが1~2以下になるように筋弛緩薬と投与すれば、開腹手術時の至適筋弛緩が維持される。

筋の動きを主観的に見たり、感じたりするのみであるため、評価に確実性がなく、特に筋弛緩からの至適回復を評価することはできない。[2]

神経刺激法[編集]

  1. 四連(TOF)刺激: 2Hzの4連続刺激を1サイクルとし、12~15秒ごとに繰り返す方法。作用発現から、維持、回復までを通じて用いることができる。四つの収縮反応を最初から順番にT1、T2、T3、T4と呼ぶ(Tはtwitchの略)。[2]
  2. ダブルバースト刺激: 筋弛緩からの回復期に、750msec間隔の二つのバースト刺激による反応間に減衰が触知できるかを評価する方法。[2]
  3. テタヌス刺激: 50~100Hzの高頻度刺激を5秒間維持し、筋収縮中の減衰の有無から、筋弛緩からの回復を判定する方法。テタヌス刺激後には一時的な筋収縮高の増大(PTP: posttetanic potentiation)が認められる。[3] 刺激による痛みを伴うため、覚醒時には応用しにくい。[2]
  4. ポストテタニックカウント(PTC: post-tetanic count): 単収縮刺激やTOF刺激では、全く筋収縮反応が認められない非常に深い筋弛緩状態から、何分後にTOF刺激に対する筋収縮が回復してくるかを予測する方法。50Hz、5秒間のテタヌス刺激後の1Hz刺激に対して、何回筋収縮が認められるかがPTCである。[2]

四連反応比(TOF比: train-of-four ratio)[編集]

TOF比=T4収縮高/T1収縮高。

筋弛緩薬投与前はT1からT4の収縮力は同じであり、TOF比=1である。

非脱分極性筋弛緩薬による部分遮断時には減衰(fade)反応を観察できるが、脱分極性遮断時には基本的に減衰は認められない。TOF比>0.9が非脱分極性遮断からの至適回復の客観的指標とされる。[2]

神経と筋の選択[編集]

尺骨神経-母指内転筋顔面神経-皺眉筋眼輪筋脛骨神経-母趾屈筋群、咬筋神経-咬筋、などの組み合わせが利用され、モニタリングする筋によって筋弛緩薬への反応が異なる。

皺眉筋でのモニタリングは横隔膜喉頭筋の筋弛緩状態をよく反映するため、より早い気管挿管のタイミングを推定したり、バッキング吃逆予防のために深い筋弛緩を維持したりすることに適する。

母指内転筋は回復が最も遅いため、筋弛緩からの十分な回復を評価することに適する。[2]

関連項目[編集]

  • 全身麻酔
  • 筋弛緩薬

脚注[編集]

  1. ^ 心臓手術の周術期管理 第1版第2刷, ロバート・M・ボージャー(著者), 株式会社 メディカル・サイエンス・インターナショナル(発行), 2010年3月6日発行
  2. ^ a b c d e f g h i j 周術期管理チームテキスト 第3版, 公益社団法人 日本麻酔科学会(発行), 2016年8月10日発行
  3. ^ a b 標準麻酔科学 第7版, 稲田 英一・森崎 浩・西脇 公俊(編集), 株式会社 医学書院(発行), 2018年3月1日発行

術後悪心・嘔吐(PONV)[編集]

 術後悪心・嘔吐(PONV: postoperative nausea and vomiting)は、術後患者全体の30%、高リスク群では80%に発症する。発症すれば、患者満足度を著しく低下させ、術後のリカバリー時間、入院期間を延長させる可能性があり、予防・対策が必要である。

メカニズム[編集]

 延髄外側網様体背側にある嘔吐中枢(VC: vomiting center)が刺激を受けて引き起こされる、と考えられている。その求心路としては、第四脳室の最後野に存在する化学受容器引き金帯(CTZ: chemoreceptor trigger zone)を直接刺激してVCへ刺激伝達される経路、消化管からのセロトニン分泌などによる上行性にCTZを刺激する経路、情動刺激によって大脳皮質からVCへ刺激が伝導される経路、などが考えられている。

 さらに、CTZやVCには様々な内因性物質の受容体が存在する。

リスク因子[編集]

 成人リスク因子の評価にApfelスコアがある。小児では悪心の評価が困難であるため、術後嘔吐(POV)のリスクが評価されており、Ebertスコアがある。

 1. Apfelスコア[編集]

  ①女性、②非喫煙者、③PONVや乗り物酔いの既往、④術後のオピオイド使用、の四大因子がある。PONVの発症リスクは合計数が0なら15%、1つなら20%、2つなら40%、3つなら60%、4つなら80%とされている。合計数0~1を低リスク群、2~3を中リスク群、4を高リスク群と分類する。

 2. Ebertスコア[編集]

  ①手術時間30分以上、②3歳以上、③斜視手術、④POVの既往・家族にPONVの既往、の四大因子がある。POVの発症リスクは合計数が0なら9%、1つなら10%、2つなら30%、3つなら55%、4つなら70%とされている。

予防法[編集]

 基本的に低リスク群では予防の適応はなく、中リスク群以上で一つか二つの介入を行う。

予防の薬物としては5-HT₃拮抗薬、H₁拮抗薬、トランキライザー(精神安定剤)、メトクロプラミド(ドパミン受容体拮抗薬)、スポコラミン(ムスカリン受容体拮抗薬)、デキサメタゾン(ステロイド系抗炎症薬)、などがある。

この中でも5-HT₃拮抗薬のオンダンセトロンがgold standardとされるが、現時点(2016年)の日本では、PONVに対して保険適応外である。

 具体例として、中リスク群にはプロポフォール麻酔とデキサメタゾンまたはドロペリドール(ドパミン受容体拮抗薬)、高リスク群にはプロポフォール麻酔+デキサメタゾン+ドロペリドールなどが推奨されている。ドロペリドールにはQT延長の危険性があることに留意する。

治療法[編集]

 予防を行っていない患者の場合、日本ではドロペリドール1.25mgを使用する。予防を行っている患者にPONVが発生した場合、予防投与で使用されていない異なる機序の薬物で治療することが推奨されている。

こっから気管挿管に追加

適切な頭頸位[編集]

 喉頭鏡を用いて気管挿管をする場合、口の外から声門が見えるように喉頭展開をする必要がある。頭を枕の上において後屈(進展)させた状態のことである。この頭頸部の姿勢が空気を吸い込んでいるときの姿勢に似ているので、スニッフィングポジション(スニッフィング位・嗅ぐ姿勢)と呼ばれる。口から声門までが一直線に近づくので、気管挿管およびフェイスマスクを用いた換気の際には最適とされている。

cormack分類[編集]

喉頭展開後の声門の見え方の分類であり、4段階に区分される。グレードⅢ、Ⅳではチューブを気管に挿入することが困難(挿管困難)と判断される。一方、グレードⅠ、Ⅱでもチューブをスムーズに挿管できないこともある。  ・グレードⅠ:声門のほぼ全体が観察できる。  ・グレードⅡ:声門の一部が観察できる。  ・グレードⅢ:披裂軟骨部や声門は見えないが、喉頭蓋は観察できる。  ・グレードⅣ:声門も喉頭蓋も観察できない。

気管支ファイバースコープ[編集]

 柔軟な気道確保器具。気道確保困難が予測される症例での気管挿管、予期せぬ挿管不能・マスク換気不能時の気管挿管に使用する。それ以外に頸椎が不安定な症例にも使用される。目で確認しながら挿管できるので、安全かつ確実な方法と考えられているが、気道閉塞や食道挿管などの重篤な合併症も起こることがある。 利点としては、気道の変形や病変を目で確認しながらスコープ先端の角度を調節することで、気管内に進めることができる点である。 欠点としては、技術が必要な点と、チューブをファイバースコープ越しに進める際、チューブが披裂軟骨などに当たり、挿入が困難となりうる点がある。対策として、太い気管支ファイバースコープを用いること、細い挿管チューブを用いること、スパイラルチューブを用いることで成功率を上げることができる。

さらに追加(2018/5/10)

術前の気道評価[編集]

気道確保困難には、マスク換気が困難な場合、気管挿管が困難な場合、どちらも困難な場合、マスク換気が不能な場合がある。換気不能・挿管不能(CVCI: cannot ventilate, cannot intubate)が同時に発生すると、致死的になる。CVCIの発生する原因に12の危険因子があり、多いほどCVCIの発生する危険性が高くなる。[1]

  1. Mallampati分類のクラスⅢあるいはⅣ
  2. 頚部放射線後、頚部腫瘤
  3. 男性
  4. 短い甲状頤間距離
  5. 歯牙の存在
  6. body mass index≧30kg/m²の肥満
  7. 46歳以上
  8. アゴひげの存在
  9. 太い首
  10. 睡眠時無呼吸症候群の診断
  11. 頸椎の不安定性や可動制限
  12. 下顎の前方移動制限

Mallampati分類[編集]

術前に気管挿管が困難かどうかを推測するための診察所見の一つ。Mallampatiという人によって報告されたので、Mallampati分類と呼ばれる。

患者を立位か坐位で診察して、自発的に口を開けてもらい、可能な限り舌を突出させた状態で咽頭を観察する。その見える程度を4段階に分けた分類法であり、開口時の口蓋弓、軟口蓋口蓋垂が見えにくいほど挿管困難になる確率が高い。[1]

  • クラスⅠ: 口蓋弓、軟口蓋口蓋垂が見える。
  • クラスⅡ: 口蓋弓、軟口蓋は見えるが、口蓋垂は舌根に隠れて見えない。
  • クラスⅢ: 軟口蓋のみが見える。
  • クラスⅣ: 上記の全てが見えない。


ここからでっかいので覚醒遅延項目作る。  手術終了後に麻酔薬・鎮静薬の投与が中止されて、薬物の脳内濃度が意識を失う濃度以下になると、通常は意識が回復する。これを麻酔からの覚醒という。予想される濃度や時間で麻酔から覚醒することが多いが、これらを超えて意識や反応が回復しない状態を覚醒遅延という。

要因[編集]

 大きく患者要因、麻酔要因、手術要因、の3つに分ける。

患者要因[編集]

  1. 高齢者: 身体所見や検査から予想される以上に、身体機能や脳神経の活動が低下している可能性があるため。
  2. 全身状態
  3. 基礎疾患、薬剤治療: 中枢神経系そのものに基礎疾患がある場合は影響を受けやすい。脳に外傷や梗塞、萎縮などの器質的疾患かある場合や、神経科・精神科受診などの機能的疾患がある場合で、さらに向精神薬・抗不安薬・鎮痛薬などの、麻酔薬と相互作用かある薬物治療を受けている場合は、特に影響を受けやすい。
  4. 代謝機能低下、排泄機能低下: 心機能・甲状腺機能低下による基礎代謝低下、肝機能低下による薬剤の代謝機能低下、腎機能低下による薬剤排泄機能低下、呼吸機能低下による吸入麻酔薬の排泄機能低下、など。
  5. 肥満: レミフェンタニルやロクロニウムなど、脂肪分布の少ない薬剤が、標準体重ではなく実体重に従って投与された場合、過量投与となり覚醒遅延を引き起こす可能性がある。

麻酔要因[編集]

  1. 前投薬
  2. 薬理学的要素: 全身麻酔中は意識を消失させる種々の薬剤を用いるため、原因の同定が難しい場合がある。相互作用による効果の増強、個人差もある。体内での分布は時間や濃度、体格などの影響を受ける。特に吸入麻酔薬では、一度覚醒したと思われても、換気量の低下があると体内に溶け込んだ薬物が血液中に再分布し、作用が再び増強することがある。
  3. 生理学的要素: 周術期に発生した全身の状態により、薬剤の作用そのもの、代謝や排泄に影響が生じて覚醒遅延となる場合がある。血糖値の異常や、低体温、酸塩基異常、電解質異常、低換気・過換気、脳神経障害、など。

手術要因[編集]

  1. 高度侵襲
  2. 長時間: 薬剤の投与量が増えると共に、薬物の移行に時間がかかる臓器に徐々に薬物が蓄積される。蓄積された薬物は投与中止後も血液中に移行し、作用が遷延する。
  3. 大量出血: 潜在的に各種臓器が低灌流状態となっている場合はが多い。
  4. 脳神経手術

増やす。

対応[編集]

  • 基本的には、遷延薬剤の自然消失を待つ。
  • 遷延している薬剤に対する拮抗薬の使用もある。ベンゾジアゼピン系薬に対するフルマゼニルや、オピオイドに対するナロキソン、非脱分極性筋弛緩薬に対するスガマデクス、などがある。
  • ただし、拮抗薬は投与後速やかに効果を発揮するが、作用時間が遷延薬剤の効果消失時間より短い場合、拮抗された薬剤が再び作用発現することがある。よって、覚醒遅延での拮抗薬投与は慎重でなければならず、使用後の厳重な経過の観察が必要である。
  • 拮抗薬は診断的投与にとどめることが望ましい。

覚醒時の興奮[編集]

覚醒時の興奮は点滴ライン、カテーテル、ドレーンの自己抜去や転落など、安全確保上の問題となる。

患者要因[編集]

  • 小児は麻酔からの覚醒時に興奮状態となる割合が高く、覚醒時せん妄と表現されることもある。
  • セボフルランは排泄と覚醒が速い吸入麻酔薬だが、急速な覚醒によって覚醒時興奮が起こる場合がある。
  • 小児は自己の置かれた環境を理解して理性的に対処することが困難なため、周術期は保護者の協力が重要になることが多い。
  • 強い緊張状態や精神疾患、認知症など、周囲の状況把握やコミュニケーションが困難な場合も覚醒時の興奮を引き起こす可能性がある。

麻酔/手術要因[編集]

  • 高度侵襲手術、脳外科手術は覚醒時の興奮を引き起こすことがある。
  • 鎮静薬は抗不安作用や意識を低下させる作用を持つが、場合によっては理性的なコントロールを失わせる脱抑制の状態となり、逆に興奮を引き起こす場合がある。
  • 鎮静薬や鎮痛薬の拮抗薬投与による急速な覚醒・痛みの出現によっても興奮状態となることがある。

隠れた重大な身体異常[編集]

興奮は薬剤や精神的な影響以外に、身体異常を伴っていることがある。中枢神経系異常、呼吸器系異常、循環器系異常、血液・代謝異常などである。特に上気道閉塞・狭窄、低酸素血症、高二酸化炭素血症は重篤な後遺症を残す事態に繋がるため、迅速な診断と対応が求められる。

全身麻酔に追加

体温[編集]

麻酔中は熱喪失の増大と熱産生の低下、および体温調節機構の閾値低下により低体温症になりやすい。周術期における低体温はよくみられる症状であるが、36℃以下になると、出血量・輸液量増加、止血凝固系の異常、術創部感染率増加(免疫能低下)、心筋虚血発生率の有意な増加などをもたらす。例外として、急激な血圧低下時などでの低体温は保護的に作用するが、極めて限定的である。

また、体温をモニターすることで、悪性高熱症を発症した場合、迅速に処置できる。[1]

体温管理法[編集]

  • 室温の維持:30℃以上にすると、体温低下予防に効果的だが、術者の不快感が増大するため、限界がある。
  • 輸液・輸血の加温:大量かつ急速に投与する必要がある場合に有効。
  • 温水ブランケット
  • 温風ブランケット
  • 送気の加温と加湿
  • 体外循環:体温を急速に変化させることができる。
  • 体表のクーリング
  • アミノ酸輸液:異化の亢進を防ぎ、熱産生を促す。

測定部位[編集]

中枢神経や重要臓器の温度(中枢温)は、体の中心部から血液を導体として運ばれ、様々な部位でモニターできる。いずれの部位も臓器の温度以外に様々な影響がある。

  • 血液温:正確で感度がよいが、肺動脈カテーテルの挿入が必要。
  • 食道温:食道下部1/3に留置することで、心臓の温度(血液温)と極めて高い相関を示す。
  • 鼓膜温:非接触型のプローブにより非侵襲的かつ衛生的に、連続測定が可能であるが、プローブと装着部位に隙間があると、低く測定されてしまう。
  • 膀胱温:サーミスタ付き膀胱カテーテルで測定する。
  • 直腸温:排便の影響で中枢温よりも低く測定される場合がある。
  • 気管温:吸気の影響で中枢温よりも低く測定される場合がある。
  • 口腔温:唾液の影響で中枢温よりも低く測定される場合がある。
  • 深部温:特殊なモニター機器が必要だが、血流が豊富な頭部で衛生的に測定できる。
  • 腋窩温:腋窩を3分以上閉鎖腔として測定する必要がある。

麻酔における脳波[編集]

  • 脳細胞の電気活動を頭皮に設置した電極を通して記録する。
  • 脳波は覚醒度に応じて様々な変化をきたすため、麻酔中の鎮静度のモニターとして使われている。
  • 麻酔中は筋弛緩薬が投与されていることが多く、顔面筋の筋電図の混入が少ないことや、振幅が麻酔薬の影響で大きくなる、などにより比較的波形を読みやすい。

部位[編集]

前頭部から導出された脳波を利用することが多い。その理由としては、前頭部から導出された脳波は麻酔によってダイナミックに変化し、髪の毛がなく電極を配置しやすいから、などがあげられる。

脳波変化[編集]

  • 麻酔薬の種類によって異なる。
  • 揮発性麻酔薬のセボフルランやイソフルラン、および静脈麻酔薬のプロポフォールなどによる脳波変化の概要は類似している。これらは麻酔薬濃度を上昇させていくと、脳波の振幅は大きくなるとともに周波数は低くなる。つまり、ゆっくりした波が主体となる。さらに上昇させると、平坦な脳波と大きな振幅で速い波が交互に出現する特異的なパターン(burst and supression)となる。さらに上昇させると、平坦な脳波の部分が増加していき、やがて完全に平坦な脳波となる。
  • 揮発性麻酔薬およびプロポフォール以外の麻酔薬として亜酸化窒素ケタミンがあげられる。亜酸化窒素は麻酔作用が弱いため単独で用いられることは少ないが、単独で用いると、振幅が小さく通常のベータ波よりも周波数の速い波が見られる。さらに高い濃度では、振幅が大きく周波数も非常に遅いデルタ波なども出現する。
  • 現在、麻酔中のモニターとしで用いられている脳波モニターで麻酔薬の効果判定が可能なのは前者のセボフルラン、イソフルランプロポフォールなどを用いた場合である。亜酸化窒素ケタミンによる麻酔の場合には効果判定が難しい。

脳波モニター[編集]

  1. BISモニター(BIS: bispectral index): BIS値を見るモニター。BIS値は平坦な脳波の場合に0、最も覚醒している状態を100として表示する。一般的に、80以上の場合には「覚醒」、60∼80の場合には「浅い鎮静」、40∼60の場合には「手術麻酔に適したレベル」、そして40未満は「深麻酔」とされている。
  2. aepEXモニター(aep: auditory evoked potential): 耳にイヤホンを通してクリック音を発生させ、頭部に数個の電極を貼付することによりモニタリングし、麻酔深度を評価する機器。aepEXは144msecまでのAEP波形を基本情報として算出した数値を表示する。AEPが完全に平坦な時に0、覚醒時には100に近い数値を示す。

BIS値やAEP値は推定値であり、現在の鎮静度の評価の一つである。実際の鎮静度と乖離することもある。

鎮静度の乖離の原因[編集]

  • ノイズの混入:BISモニターは心臓からの電流を除去するフィルターを備えているが、しばしば起電力の大きい心筋電位の混入が問題となる。特に、新生児や心肥大患者で著明となる。また、筋弛緩薬を投与していないときは、筋電図の混入にも注意が必要である。
  • 年齢:新生児は、覚醒時から徐波が主体である。小児では振幅が大きく、基本周波数が高い傾向にあるため、BIS値は本来の鎮静度よりも高く表示される。
  • paradoxical arousal: 麻酔深度が不十分な時に、疼痛などの刺激が加わると、巨大デルタ波が観察されるため、BIS値が低下する現象。
  • β activation: 麻酔薬は浅い鎮静レベルではむしろ速波が増える(β activationする)ため、BIS値が覚醒時よりも高い傾向を認める。
  • 虚血、心停止、脳血流の低下では、脳波が徐波化する。鎮静レベルが一定にもかかわらずBIS値が急激な低下を認めた場合には、これらを疑う。

硬膜外麻酔に追加  硬膜外腔に局所麻酔薬を投与することにより、鎮痛を得るものである。単独あるいは脊髄くも膜下麻酔全身麻酔と併用される。手術中の鎮痛の他、カテーテルを留置して術後鎮痛に使用される。[2]

禁忌[3][編集]

絶対的禁忌[編集]

  • 患者の協力が得られない場合
  • 穿刺部位の皮膚に感染がある場合
  • 頭蓋内圧が亢進している場合

相対的禁忌[編集]

  • 感染症、敗血症がある場合
  • 出血や脱水で循環血液量が減少している場合
  • 出血傾向がある場合、あるいは抗凝固薬・抗血小板薬が投与されている場合: 血小板数が8万/mm3以上あれば穿刺可能であるが、5万~8万/mm3の時は十分な検討が必要である。5万/mm3以下では硬膜外麻酔を行わない。プロトロンビン時間はINRが1.5以下、活性化部分トロンボプラスチン時間は正常範囲内が穿刺可能の目安である。

硬膜外腔の確認法[編集]

いくつかあるが、代表的なのは抵抗消失法、懸滴法、触感法である。 (生理食塩水または局所麻酔薬)

  • 触感法: 針先が黄色靭帯を抜けて硬膜外腔に入った時の、貫通感を手に感じることで確認する方法。通常、抵抗消失法と併用される。[4]

テストドース[編集]

硬麻針から局所麻酔薬を注入する時、あるいはカテーテルを留置した後は、まず少量の局所麻酔薬を試験的に注入する。これにより、カテーテルがくも膜下腔、あるいは血管内に迷入していないか確認できる。注入前には吸引して脳脊髄液や血液の逆流がないことを確認する。テストドースには20万倍希釈アドレナリン入りの1.5~2%リドカイン、あるいはメピバカインを用いる。2分以内に心拍数が20bpm以上増加し、血圧が上昇すれば血管内留置を疑う。速やかに感覚および運動麻痺が出現したら、くも膜下腔への注入を疑う。[1]

薬剤に+  などの局所麻酔薬

  • また、硬膜外麻酔には局所麻酔薬のほか、オピオイドを投与することもできる。手術後の硬膜外鎮痛に局所麻酔薬と併用される。モルヒネは効果の発現は40分後と遅いが、持続は12~20時間と長い。フェンタニルは投与後5分で効果が発現するが、持続は約2時間と短い。どちらも副作用として、呼吸抑制、悪心・嘔吐、掻痒感がある。

さらに追加。(5/17,18)

穿刺法[編集]

棘間の中心部から刺入する正中法と、正中より側方から刺入する傍正中法がある。

棘突起間のスペースの広い腰部などでは正中法が、スペースの狭い上胸部などでは傍正中法が用いられることが多い。[5]

正中法[編集]

穿刺部位を決定したら、左手の示指中指(もしくは示指母指)で棘上靭帯を固定する。その後、棘上靭帯上の中央で、棘間の中心に局所浸潤麻酔を行う。麻酔が効いてきたら右手で硬膜外針を把持し、硬膜外針のベーベルを患者の頭側に向け、皮膚にほぼ垂直に硬膜外針を刺入する。

傍正中法[編集]

高齢者、脊椎変形のある患者、胸椎中部での硬膜外麻酔を行う場合など、棘突起が重なり合い、正中からの硬膜外針の進行が困難な場合には良い適応である。目的の棘間の下部棘突起を確認し、棘突起の上部側方で、正中線の1~1.5cm側方を刺入点とする。脊柱管の中心に向け、やや頭側に針を進める。

硬膜外術後鎮痛法[編集]

硬膜外術後鎮痛法は、硬膜外腔に挿入されたカテーテルから薬物を投与することによって、疼痛管理を行う方法である。

局所麻酔薬オピオイドを単独で用いることもできるが、併用することが一般的である。両者の混合投与は相乗的な鎮痛効果を発揮し、また副作用の発現を少なくすることも期待できる。

薬物の投与方法には持続注入法と間欠投与法があるが、これら2つを組み合わせて用いられることが多い。特に、患者自身が痛みに応じて自ら注入ポンプのボタンを押し、鎮痛薬を投与できる患者自己調節鎮痛法(PCA: patient-controlled analgesia)は、患者自身が積極的に疼痛対策に参加でき、鎮痛に対する満足度も高い。PCAポンプを硬膜外カテーテルに接続して、局所麻酔薬麻薬の投与を行うPCEA(patient-controlled epidural analgesia)も広く用いられ、術後疼痛管理やがん性疼痛管理に有用である。[5]

PCAの設定[編集]

  1. バックグラウンド投与:ベースとなる一定量の持続投与。
  2. ボーラス投与:患者が痛みを感じた時に、患者自身の判断でボタンを押して投与する。副作用発現の危険性を考慮して、投与量は少なめに設定されている。[5]



静脈路確保に追加

Seldinger法[1][編集]

ガイドワイヤーに沿って中心静脈カテーテルを前進させ、血管内に留置する方法。考案者の名前をとってSeldinger法と呼ばれる。

  1. 目標とする静脈内に20G以上の針を穿刺する。
  2. 針が血管内に入ったら、外筒と内筒の両方で逆血(静脈血の逆流)を確認し、先端の柔らかい長いワイヤーを内筒に通して血管内に挿入する。
  3. ダイレーターをワイヤーに通し、血管内に前進させ、カテーテル用の通路を作る。
  4. ダイレーターを抜き、カテーテルをワイヤーに通して血管内に前進させる。この時、ワイヤーの端がカテーテルの後ろから出てきているのを確認し、保持することで、カテーテルの血管内への迷入を防ぐ。カテーテルが入ったらワイヤーを抜き、カテーテルの逆血を確認する。
  5. カテーテルを固定する。

合併症[編集]

気胸、血胸、動脈穿刺、血腫、縦隔炎、不整脈、カテーテルの位置異常、カテーテルの感染、血栓症など。[1]

静脈麻酔薬に追加

全静脈麻酔(TIVA)[編集]

患者の意識を消失させ、その状態を維持するためにプロポフォールを持続投与し、強力なオピオイドによって術中の鎮痛をはかる方法を全静脈麻酔といい、TIVA(total intravenous anesthesia)と略称される。

静脈麻酔薬は、過量投与したときに取り出せないという短所があるが、プロポフォールの濃度を理論的に予測しながら投与する方法(TCI)によって、患者の状態に応じて細かく目標濃度を調節することが可能である。[標的濃度調節持続静注(TCI:target controlled infusion)]

TIVAの鎮痛薬には、レミフェンタニルが用いられる。レミフェンタニルは肝機能、腎機能に依存せずに血液や組織中で分解されるため、投与中止後の濃度減少が極めて速いからである。

プロポフォールの代わりにミダゾラム、[レミフェンタニル]]の代わりにフェンタニルを用いてTIVAを行うこともできる。[1]

標的濃度調節持続静注(TCI)[編集]

まず、プロポフォール投与後の血中濃度の時間的変化を説明するために人体を3つの区画に分けたモデルを想定する。

次に、各区画内の濃度を目標値に維持するためのプロポフォールの投与速度を計算する。この計算のためのソフトウェアをインフュージョンポンプに組み込み、持続投与する方法がTCIである。[1]

体位に追加

== 麻酔中の体位 ==(5/21) 不適切な体位をとると、患者の体重や様々な圧迫によって、末梢神経障害、組織障害、呼吸抑制、循環抑制などが生じる危険がある。通常の覚醒時には、しびれや痛みを感じ、体を動かすことで障害を回避することができるが、全身麻酔中は、無理のある体位に対して苦痛を訴えることができないため、重篤な合併症に進展する可能性がある。[1]

呼吸器系への影響[編集]

全身麻酔下では、麻酔薬麻薬による呼吸中枢の抑制と、筋弛緩薬による全身の筋肉の弛緩があるため、体位が換気状態に大きく影響する。さらに、重力方向への内臓の移動、および体位保持のための固定具や抑制帯により、胸郭運動が制限され、横隔膜運動が妨げられる。

特に腹臥位では、自重や支持台により胸腹部が機械的に圧迫され、低換気に伴う二酸化炭素蓄積や無気肺発生のリスクが高くなる。

また、仰臥位や砕石位では、腹腔内臓器によって横隔膜が頭側に押し上げられ、機能的残気量が低下する。

側臥位では、肺内血流が下側にシフトして、換気血流比不均等が生じる。

循環器系への影響[編集]

全身麻酔では、末梢血管抵抗が低下することが多く、通常の覚醒時に認められるような交感神経を介した代償機能が働かないため、重力の影響で身体の下方に静脈血がうっ滞しやすくなる。そのため、静脈還流が減少し、心拍出量の低下が生じて血圧低下につながる。

さらに、腹臥位や右下腎摘位では腹部の圧迫により、直接下大静脈が圧排され、静脈還流が障害される。特殊な例では、仰臥位時に妊娠末期の子宮や腹腔内の巨大腫瘍が下大静脈を上から圧迫して、重篤な血圧低下をまねく「仰臥位低血圧症候群」が知られている。通常、下大静脈は腹腔内の正中やや右寄りを走行しているので、血圧低下時には腹部を左側に徒手圧排したり、左半側臥位にするなどの対処が有効である。

側臥位では自重により、下側の腋窩動脈の閉塞、腋窩静脈のうっ滞が生じる。

砕石位では股関節膝関節が屈曲するため、下肢のうっ血による静脈血栓形成を助長しやすい。

参考図書[編集]

・周術期管理チームテキスト 第3版, 公益社団法人 日本麻酔科学会(発行), 2016年8月10日発行

  1. ^ a b c d e f g h i 周術期管理チームテキスト 第3版, 公益社団法人 日本麻酔科学会(発行), 2016年8月10日発行
  2. ^ 周術期管理チームテキスト 第3版, 公益社団法人 日本麻酔科学会(発行), 2016年8月10日発行
  3. ^ 周術期管理チームテキスト 第3版, 公益社団法人 日本麻酔科学会(発行), 2016年8月10日発行
  4. ^ 周術期管理チームテキスト 第3版, 公益社団法人 日本麻酔科学会(発行), 2016年8月10日発行
  5. ^ a b c 標準麻酔科学 第7版, 稲田 英一・森崎 浩・西脇 公俊(編集), 株式会社 医学書院(発行), 2018年3月1日発行