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利用者:Delphinidae/スタンド・アローン・コンプレックス

スタンド・アローン・コンプレックス(統合予定) 「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」(SAC),「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」(2ndGIG),「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society」(SSS)に登場・言及.

関連キーワード:消滅する媒介者・繋がりの社会性・シミュラクル

SAC第26話「公安9課,再び STAND ALONE COMPLEX」において,草薙素子は「笑い男事件」を巡る諸事件を「スタンドアローンコンプレックス」と称した.これは,アオイの「あなただったら,あの現象をどう名付けますか」という問いに答えてのもの.直訳すれば,「孤立コンプレックス(複合感情)」あるいは「スタンドアローンの複合体」といった意味に解釈できる.作中に登場したのは後者であるが,前者の場合はised(情報社会の倫理と設計についての学際的研究)倫理研委員の北田暁大が、ニクラス・ルーマン社会システム理論におけるコミュニケーション概念に基づき提唱した「繋がりの社会性」を思わせる.また,フレドリック・ジェイムソンの「消滅する媒介者(Vanishing Mediator)」との関連を連想させる.

「笑い男事件」では,真の意味での「笑い男のオリジナル」はセラノゲノミクス社に脅迫メールを送付した人物であるが,アオイが「笑い男のオリジナル」と目されていた.また,警視総監連続暗殺未遂事件では,暗殺未遂を起こした者全員ならびにナナオ・Aが意識的にあるいは無意識的に「笑い男」を自称し,最終的には草薙素子も「笑い男」を演じた.なお,アオイが直接関与した(と思われる)のは,「アーネスト瀬良野氏の誘拐」と「インターセプター不正使用についての記者会見中でのハッキング」のみであり,そのほかの件については関与していない.ナナオ・Aは意識して「笑い男」を演じ,警視総監暗殺を引き起こすためのウイルス配布を行っていた.

アオイはこの現象について,以下の発言を行っている.

  • 「全ての情報は共有し並列化した時点で単一性を喪失し,動機なき他者の無意識に,或いは動機ある他者の意思に内包される」
  • 「僕は,僕だけがたまたま知りえた情報の確認と伝播を僕自身の使命と錯覚し奔走した」
  • 「そして僕は消滅する媒介者となった.あたかも新作を発表しないことで,その存在を誇張されてしまう作家のように.つまり,それは,消滅することによって社会システムの動態を規定する媒体であり,最終的にはシステムの内側にも外側にも,その痕跡をとどめない」(フレデリック・ジェイムスンと大澤真幸からの引用)
  • 「言葉では知っていても,実際に目の当たりにするまでは信じられなかった.オリジナルの不在がオリジナルなきコピーを作り出してしまうなんて」

(いずれも第26話)

2ndGIGでは,中国大使館で「個別の11人」なるテログループが引き起こした人質事件の後,内閣情報庁戦略影響調査会代表補佐官,合田一人(ごうだ・かずんと)がパトリック・シルベストルの『初期革命評論集』に偽装したウイルスを作成・配布し,「個別の11人」を名乗る者たちによるテロが発生した.これは,合田一人が難民と国民との間の対立感情を激化させ,米帝に有利な社会状況を日本国内で発生させようとしたため.

中国大使館事件以降の「個別の11人」による事件は全て合田のウイルスに感染した結果であり,発症者は全員自決した(クゼ・ヒデオは感染したものの発症しなかった).「笑い男事件」の構図に当てはめると,これらの一連のテロ事件は,中国大使館(アーネスト瀬良野氏誘拐)と「個別の11人」(アオイ)をオリジナルとするスタンドアローンコンプレックス(ただし,人為的に引き起こされたため擬似的)といえるが,中国大使館の事件も,日本社会で高まっていた難民政策に対する反発や難民への排斥感情等に起因する無意識(セラノゲノミクスに送られた脅迫メール)をオリジナルとするスタンドアローンコンプレックスとも言えるだろう.

合田一人は,学生時代に『電脳は社会性を営む上で個性と協調性のどちらを尊重するか~プロデューサーとしての立ち位置からみた英雄論~』なる論文を発表しており,その内容は「タイトルにもあるように今の社会構造には電脳が個の消失と共に無意識下での協調性を望む傾向にある事を示唆しているんだが、そいつを応用して大衆の無意識を意識的にコントロールするリーダーをシステムの一部として創造する」(イシカワ)という内容であり,「笑い男事件を構造解析したようなもの」(草薙素子)であった.

また,難民のリーダーとなったクゼ・ヒデオ(消滅する媒介者)に影響された難民たちの中には少なからずクゼ同様,完全義体となることを目指す者,英雄的死を望む者(模倣者)がおり,スタンドアローンコンプレックスといえるだろう(ただし,これはクゼ個人の強力なカリスマ性によるものとみなすほうが自然かもしれない).

SSSでは,一連の事件を引き起こしたコシキタテアキ(のリモート義体を使っていた者)が「我々は消滅する媒介者となって、次のソサエティに介入して行こう」という言葉を残した.

また,原作『攻殻機動隊2 MANMACHINE INTERFACE』では,9課を去った草薙素子は多数の同位体を残しており,映画『Ghost in the shell/攻殻機動隊』では,人形遣いが「融合後の新しい君は、ことあるごとに私の変種をネットに流すだろう」と語っている.

参考文献[編集]

  1. Alain Badiou,Théorie du sujet,1982.
  2. Fredric Jameson,"The Vanishing mediator; or, Max Weber as Storyteller",The Ideologies of Theory Vol.2:The Syntax of History,Routledge,1988.
  3. 大澤真幸,『性愛と資本主義』,青土社,1996: ISBN 978-4791761388
  4. 「特集*攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」,『ユリイカ』,青土社,2005: ISBN 978-4791701391
  5. 士郎正宗,『攻殻機動隊2 MANMACHINE INTERFACE』,2001: ISBN 978-4063344417
  6. 押井守,『Ghost in the shell/攻殻機動隊』,1995.