利用者:Eugene Ormandy/sandbox89 ニュールック (ディオール)
ニュールック (New Look)とは、1947年2月12日にクリスチャン・ディオールが発表した女性向けファッションである[1][2][3][4][5]。
特徴
[編集]各種特徴
[編集]なで肩など[6]。
ニュールックは50年代半ばまで、様々に変化しながら続いていった[9]
また、1950年代にはニュールックの理念に基づく下着も登場し、胸を強調するブラジャーや、スカートを膨らませるペティコート、ウエストニッパー、ガードル、オールインワンなどが制作された[10]。これらは「19世紀に戻ったかのよう」と評されたが、ナイロンや伸縮性に富んだ新しい素材が使われた[10]。
代表的なコスチューム
[編集]ニュールックを代表するコスチュームは、クリーム色のシルクのテーラードジャケットと、黒いウールのロングスカートからなる「バースーツ」であるとされる[2]。肩からパッドを外されたジャケットはなで肩のラインを作り、コルセットがウエストを細く締め上げた[2]。また、ヒップのカーブが強調され、ロングスカートにはプリーツが施された[2]。バースーツは大輪の花のようなシルエットを形成したとされる[2][11]。
名称
[編集]クリスチャン・ディオールはこのコレクションを「カローラライン(カローラは花冠の意)」と名付けたが、『ハーパースバザー』編集長のカーメル・スノーが「あなたのドレスは本当に革新的だ (Your dresses have such a new look) 」と述べたことから「ニュールック」と呼ばれるようになった[2]。
他にもアメリカでは、「どきっとさせるシルエット」を意味する「ブレス・テーキング・シルエット (breath taking sil)」という名前でも呼ばれた[12]。
ディオールはフランス語で「リーニュ・コロル linge corolle」として発表し、英訳して「カローラライン」と呼ばれたが[13][14]
背景
[編集]受容
[編集]熱狂的な受容
[編集]ニュールックは世界的なブームとなった[7]。
日本での受容
[編集]発表後すぐに日本で紹介され、ニュールックを真似た裾広がりのロングスカートやドレスが流行した[7]。また、ニュールック以後にディオールが発表したHライン、Aライン、Sラインについても、『装苑』や『ドレスメーキング』といったファッション誌、『週刊女性』『女性自身』といった週刊誌を通して紹介され、50年代のクラスファッションの主流となった[15][7]。特に1953年にディオールが発表したチューリップ・ラインを取り入れて、ペチコートで膨らませたスカートが大流行し「落下傘スタイル」と呼ばれた[7]。
批判
[編集]ニュールックへの批判は主に3つの立場からなされた[11]。
経済的・愛国的な観点からの批判
[編集]第二次世界大戦後もなお物資は不足しており、女性ファッションも怒り肩と膝丈スカートという、戦時中の実用性重視のスタイルが主流であった[11][16][17]。そのため、多くの布地を使用するニュールックは「まだ多くの国民が空腹であるのに不謹慎ではないか」という批判にさらされた[11]。
アメリカ、イギリス、フランスでは女性たちによる抗議運動が生じ、ロングスカートをハサミで切り落とすパフォーマンスが行われたり、ニュールックをまとったモデルの襲撃事件が発生したりした[11]。また、イギリスでは通産大臣がスカート丈を長くしないようデザイナーに要請したり、アメリカのジョージア州ではロングスカート禁止法の立法が目論まれるなど、政治問題に発展する可能性もあったとされる[11]。
また、ディオールのメゾンは怒った女性たちによって杭が張り巡らされたが、それがかえって宣伝になったとされる[9]
フェミニズムの観点からの批判
[編集]ニュールックは日常生活に必要な機能性を兼ね備えていないだけでなく、女性を美しいだけのオブジェにしてしまうため、戦時中に進んだ女性の社会進出を後退させるものであるという批判にもさらされた[11]。
また、日置久子はニュールック発表後の50年代のオートクチュールについて、「圧倒的に『男性主導』の方向で、服飾を美術的創作の対象と考え、芸術品になる女性服を実現するためには、女性の生活や行動を束縛するのもいとわない態度を見せていた」と指摘しており、この傾向が変化するきっかけを作ったのは1950年代の半ばに復帰したココ・シャネルだったと述べている[18]
モラルの観点からの批判
[編集]女性の身体を扇情的に強調するのは相応しくないという、道徳的・保守的な観点からの批判も生じた[19]。
のちのシーズンへの影響
[編集]ニュールックが発表された1947年の春夏シーズン以後も、ニュールックは大きな影響力を有した[12]。
1947年春夏シーズン
[編集]ニュールックが発表された1947年の春夏シーズンには、同じく8ラインを意識した作品がスキャパレリやバルマンからも発表された[20]。
1947年秋冬シーズン
[編集]このシーズンのシルエットは前シーズンから全く変化せず、部分的なデザインの変化が試みられた[20]。
また、ロングスカートに合わせた丈長のオーバーコートが登場し、ビッグコートと呼ばれた[20]。これにより全体的に量感が増大したため、コートの襟やポケットは大きめに作られた[20]。また、ドロップした袖付も特徴とされる[20]。
1948年春夏シーズン
[編集]このシーズンも基本ラインは8ラインで、「優雅でロマンティックなファッション」が志向された[21]。その一方で、ジャケットのぺプラムに飾りをつけたり、ダブル・エプロンのオーバースカートを重ねたりしてアシンメトリーな効果を狙った、ディオールの「ジグ・ザグ」が登場した[21]。また、ディオール、スキャパレリもともに、ロング・スカートに組み合わせたショート・コートを発表した[21]。
1948年秋冬シーズン
[編集]評価
[編集]過去のファッションとの共通点
[編集]1939年までにバレンシアガ、バルマン、ファットなどが似た傾向の作品を発表していたが、戦争で中断した[9]
パリの優位性の確立
[編集]ニュールックが発表されたことで、女性向けファッションはパリ・モードの影響下におかれたとされる[22]。
ニュールックの発表以後、1952年にピエール・ガルタンが発表した「オリエンタルルック」、1959年にガブリエル・シャネルの「シャネルルック」、1960年にピエール・ガルタンが発表した「ナチュラルルック」、1963年にマルク・ボワンが発表した「ボーイッシュルック」など、パリのオートクチュールが発表する作品の様式、テーマは英語で表現されることが多くなった[13][14]
脚注
[編集]- ^ 成実 2007, p. 146.
- ^ a b c d e f 成実 2007, p. 147.
- ^ キャラシベッタ 1992, p. 388.
- ^ 杉野 1993, p. 27.
- ^ 田中 1969, p. 422.
- ^ 山口、今井、藤井 2000, p. 158.
- ^ a b c d e 城、渡辺、渡辺 2014, p. 291.
- ^ バンタンコミュニケーションズ 2001, p. 66.
- ^ a b c オハラ 1988, p. 137.
- ^ a b 深井 2010, p. 167.
- ^ a b c d e f g 成実 2007, p. 148.
- ^ a b 千村 2001, p. 60.
- ^ a b 小川 2013, p. 745.
- ^ a b 小川 2013, p. 746.
- ^ 城、渡辺、渡辺 2014, p. 290.
- ^ 大沼、荻村、深井 1999, p. 211.
- ^ 柳 1988, p. 141.
- ^ 日置 2006, p. 214.
- ^ 成実 2007, p. 149.
- ^ a b c d e 千村 2001, p. 61.
- ^ a b c 千村 2001, p. 62.
- ^ 深井 2010, p. 162.
参考文献
[編集]- 大沼淳、荻村昭典、深井晃子『ファッション辞典』文化出版局、1999年。ISBN 4579501586。
- 小川龍夫『新版 ファッション/アパレル辞典』繊研新聞社、2013年。ISBN 9784881242803。
- ジョージナ・オハラ 著、深井晃子 訳『ファッション事典』平凡社、1988年。ISBN 4582129064。
- C. M. キャラシベッタ『新版 フェアチャイルドファッション辞典』鎌倉書房、1992年。ISBN 4308005418。
- 城一夫、渡辺明日香、渡辺直樹『新装改訂版 日本のファッション 明治・大正・昭和・平成』青幻社、2014年。ISBN 9784861524271。
- 杉野芳子『図解服飾用語事典 改訂第4版』鎌倉書房、1993年。ISBN 4308005469。
- 田中千代『服飾事典』婦人画報社、1967年。
- 千村典生『新訂増補 ファッションの歴史』平凡社、2001年。ISBN 4582620264。
- 成実弘至『20世紀ファッションの文化史 時代をつくった10人』河出書房新社、2007年。ISBN 9784309244280。
- 林邦雄『そのとき僕は、そこにいた 戦後ファッション盛衰史』源流社、1987年。ISBN 477398712X。
- バンタンコミュニケーションズ 編『新ファッションビジネス基礎用語辞典 増補改訂版』チャネラー、2001年。ISBN 4885081742。
- 日置久子『女性の服飾文化史 新しい美と機能性を追い求めて』西村書店、2006年。ISBN 4890136061。
- 深井晃子『増補新版カラー版 世界服飾史』美術出版社、2010年。ISBN 9784568400779。
- 深井晃子『パリ・コレクション モードの生成・モードの費消』講談社、1993年。ISBN 406149144X。
- 柳洋子『キーワードでみる ファッション化社会史』ぎょうせい、1989年。ISBN 4324019711。
- 山口好文、今井啓子、藤井郁子『新・実用服飾用語辞典』文化出版局、2000年。ISBN 4579501608。