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人類の共同遺産(じんるいのきょうどういさん)または人類の共同財産(じんるいのきょうどうざいさん)は、特定の領域や文化的・自然的遺産を将来の世代に引き継ぐべきものとして、国家や企業による開発から守ろうとする考え方をあらわした国際法上の原則である。
各条約上の「人類の共同遺産」
[編集]「人類の共同遺産」という考え方は、1967年にマルタ政府国連代表のアルヴィド・パルドが、国連総会第1委員会において深海底が軍事利用されることを懸念して[1]、平和のため、そして人類全体の利益のためにこれを開発すべきとして、深海底を「人類の共同遺産」として規律する提案を行ったことが最初である[2][3]。
1970年、国連総会では「深海底を律する原則宣言」が決議され、深海底が平和目的のために留保されることなどとともに、深海底が「人類の共同遺産」であることが明記された[4][5]。1982年に採択された国連海洋法条約第136条でも「人類の共同遺産」の考え方は引き継がれた[4]。同136条を以下に引用する。
深海底及びその資源は、人類の共同の財産である。
宇宙法の分野でも「人類の共同遺産」概念が登場した。1966年の宇宙条約では「人類の共同遺産」という文言は登場しなかったが、第1条で宇宙空間が「全人類に認められる活動分野」と規定され、同条約の第2条では国家による宇宙空間の領有を禁止している[6]。そして1979年の月協定では「人類の共同遺産」概念が以下のように明示的に規定された[7]。
1. 月及びその天然資源は人類の共同財産であり、この協定の規定、とりわけ本条5の規定に表現される。
5. この協定の締約国は、月の天然資源の開発が実行可能となったときには適当な手続を含め、月の天然資源の開発を律する国際レジームを設立することをここに約束する。この規定は、この協定第18条に従って実施されるものとする。
概要
[編集]「人類の共同遺産」の主な特徴として以下の5点が挙げられる[8]。
- 「人類の共同遺産」は私的にも公的にも占有することはできず、法的には何人の所有の対象ともならない。
- 「人類の共同遺産」はあらゆる人々のためのものであるため、すべての国々の代表者によって管理される。実際には特別な機関が国際的な管理を運営することになる。
- 「人類の共同遺産」より得られる利益は他者と分配されるものであり、私的企業のような営利団体の活動は制限される。この点は地球公共財の考え方に結び付く。
- 「人類の共同遺産」となる領域に軍事施設を建造してはならない。
- 「人類の共同遺産」は将来の世代のために保存されるべきである。コモンズの悲劇のような事態は避けなければならない。
学術的には国際的管理制度の創設よりも先に「人類の共同遺産」に対する探査を停止するモラトリアムを実施すべきだと主張されることがある[9][10]。しかしこうした考え方は条約起草交渉を見る限りでは各国の賛同を得られているとは言い難い[11]。
出典
[編集]- ^ 古賀衛「海底資源開発の国際制度」(PDF)『国際問題』第398号、日本国際問題研究所、1993年5月、38頁、ISSN 1881-0500。
- ^ 筒井(2002)、200頁。
- ^ 筒井(2002)、284頁。
- ^ a b 筒井(2002)、193頁。
- ^ G.A. Res. 2749 (XXV), ¶ 1, U.N. Doc. A/RES/25/2749 (Dec. 12, 1970).
- ^ 筒井(2002)、17-18頁。
- ^ 杉原(2008)、187-189頁。
- ^ Frakes, Jennifer (2003). “The Common Heritage of Mankind Principle and the Deep Seabed, Outer Space, and Antarctica: Will Developed and Developing Nations Reach a Compromise?”. Wisconsin International Law Journal 21: 409.
- ^ Narayana RK (1981). “Common Heritage of Mankind and the Moon Treaty”. Indian Journal of International Law 21: 275.
- ^ Sehgal N (1986). “The Concept of the Common Heritage of Mankind and the Moon Treaty”. Indian Journal of International Law 26: 112.
- ^ Danilenko GM (1988). “The Concept of the "Common Heritage of Mankind" in International Law”. Annals of Air and Space Law XIII: 247–63 at p 259.
参考文献
[編集]- 小寺彰、岩沢雄司、森田章夫『講義国際法』有斐閣、2006年。ISBN 4-641-04620-4。
- 杉原高嶺、水上千之、臼杵知史、吉井淳、加藤信行、高田映『現代国際法講義』有斐閣、2008年。ISBN 978-4-641-04640-5。
- 筒井若水『国際法辞典』有斐閣、2002年。ISBN 4-641-00012-3。
- 山本草二『国際法【新版】』有斐閣、2003年。ISBN 4-641-04593-3。
外部リンク
[編集]- “月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約、通称:宇宙条約” (PDF) (日本語公定訳、英語正文). 外務省. 2013年6月9日閲覧。
- “月その他の天体における国家活動を律する協定、通称:月協定” (日本語公定訳). JAXA. 2013年6月9日閲覧。および“英語正文”. United Nations Office of Outer Space Affairs. 2013年6月9日閲覧。
- “南極条約” (PDF) (日本語公定訳、英語正文). 外務省. 2013年6月9日閲覧。
- “深海底を律する原則宣言” (英語). 国際連合総会決議2749(XXV). United Nations Dag Hammarskjöld Library. 2013年6月9日閲覧。
- “海洋法に関する国際連合条約” (日本語公定訳). 東京大学東洋文化研究所. 2013年6月9日閲覧。
- “ヒトゲノムと人権に関する世界宣言” (PDF) (日本語仮訳). 文部科学省. 2013年6月9日閲覧。および“英語原文”. UNESCO. 2013年6月9日閲覧。
- “将来に向けての現代の責任に関する宣言” (英語原文). UNESCO. 2013年6月9日閲覧。