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2023年全米脚本家組合ストライキ（2023ねんぜんべいきゃくほんかくみあいストライキ、2023 Writers Guild of America strike）は、アメリカ合衆国で2023年5月2日から9月27日まで決行されたストライキ。1万1500人の脚本家が加入する全米脚本家組合（WGA）が全米映画テレビ製作者協会（AMPTP）との間で待遇改善を目的に行った[1][2][3]。ストライキ期間は148日間におよび、これはCOVID-19パンデミック以来のアメリカ映画・テレビ業界として最長の製作停止期間であり、WGAのストライキとしては1988年決行のストライキ（153日間）に次ぐ史上2番目の規模となった[4][5]。また、11月8日まで続いたSAG-AFTRAによるストライキと合わせ、ハリウッド・ダブルストライキの一因となった。
長期間にわたり映画・テレビ番組の製作が中断されたことで、複数のスタジオが閉鎖・人員削減に追い込まれた[6][7][8]。一方、大手スタジオは不可抗力条項に基づいて脚本家との契約を打ち切り、数百万ドル単位の費用を節約したという[9][10]。また、脚本家以外にもVFX・小道具の製作会社など多くの関係者がストライキの影響を受けている[11][12][13]。長期間のストライキを経て暫定合意が交わされた後[14]、9月27日に組合指導部はストライキの終結を宣言し[15]、10月9日に組合員の投票が行われ、99%の賛成票を得て契約を批准した。ダブルストライキの結果、ハリウッドでは4万5000人が失業し[16]、南カリフォルニアでは「65億ドルの経済的損失」が発生した[16]。
争点[編集]
ストライキの目的の一つはストリーミング・メディアからの報酬であり[17]、WGAはストリーミング・メディアが台頭した過去10年間で脚本家の平均収入が大幅に下落したと主張している[18][19]。また、ChatGPTのようなAIを脚本家に代わる存在として活用することにも反対しており、脚本執筆のサポート目的のみの活用を求めている[20][21][22]。さらにCOVID-19パンデミックの影響を受け、大手スタジオでは契約料と音楽権利料の節約のために多くの映画・テレビドラマが打ち切りとなった。こうした結果、「ピークTV」の衰退により、俳優だけではなく脚本家にとっても経済状況の悪化を招くことになった[23]。
2020年5月2日に新たなミニマム・ベーシック契約（MBA）が締結され、同契約がWGA会員の主要な労働契約となった[24][25]。これは映画・テレビ業界で働く脚本家の最低賃金を定めた契約だが、テレビ業界においてはテレビ作品に対してのみ適用され、ストリーミング作品には適用されなかった。これにより、CBSの深夜番組『ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア』ではMBAで規定された報酬を受け取れるが、Apple TV+配信作品『The Problem with Jon Stewart』ではMBAが適用されないため脚本家は個別に配信会社と賃金交渉する必要があり、その結果、同じ仕事量であっても『The Problem with Jon Stewart』の脚本家は『ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア』の脚本家よりも低額な報酬しか受け取れない事例が発生した。こうした賃金格差は他の番組でも発生しており[2]、2023年5月1日にMBAは失効している[4][26]。WGAはストリーミング作品の報酬について年間4億2900万ドルの増額を主張しており、これに対してAMPTPは8600万ドルの増額を提案している[27][28]。
もう一つの目的は人員配置・契約期間の問題であり、WGAは「1作品を製作するに際して最低限起用するべき脚本家の人数をエピソード数に応じて6人から12人とすること」及び「脚本執筆からポストプロダクション終了までの10週間から52週間の最低雇用期間を確保すること」を主張している。この他に脚本家の年金・医療費の支払いも求めているが、AMPTPはこれらの提案を拒否している[29][30]。
タイムライン[編集]
4月[編集]
4月18日、WGAは会員の97.85%の賛同を得て、ハリウッドのメジャー映画スタジオ・テレビ・スタジオを代表するAMPTPとの交渉で満足できる合意に達しなかった際にはストライキを決行することを決定した[31]。AMPTPはAmazon MGMスタジオ（MGMホールディングス）、Appleスタジオ、ライオンズゲート、NBCユニバーサル、Netflix、パラマウント・グローバル、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、ウォルト・ディズニー・カンパニー、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーを代表して交渉に臨んでいたが[32]、両者は期限までに合意にいたることができなかった。
5月[編集]
5月に入り、WGAを構成する西部全米脚本家組合と東部全米脚本家組合の指導部は全会一致でストライキ決行を承認し、これにより2007年から2008年にかけて行われたストライキ以来15年ぶりのストライキが決行されることになった[17]。『ハリウッド・リポーター』によると、WGAはストライキ決行に際して「WGA会員の脚本家は、AMPTP加入会社との間で脚本の執筆・修正・売り込み・将来の企画について打ち合わせすることを禁止する」「アニメーション組合 IATSEローカル839の脚本家の仕事がストライキに反する活動に該当するかどうか事前にWGAに助言を求め、該当する場合はアニメーション組合の脚本家も仕事を中断するように要請する」「WGA未加入の脚本家がストライキの相手企業の作品に参加した場合は、将来的なWGA加入を禁止する」など複数のルールを設定している[33]。
WGAは会員に対し、2023年5月2日午後1時からピケッティングを実行するように指示を出した[17]。ピケッティングの対象となった企業・スタジオはAMCネットワークス、Amazonカルヴァー・スタジオ、MGM、CBSラッドフォード、CBSテレビジョンシティ、ウォルト・ディズニー・スタジオ、20世紀スタジオ、ライオンズゲート・フィルムズ、Starz Inc.、Netflix、パラマウント・ピクチャーズ、MTVエンターテインメント・スタジオ、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、ユニバーサル・ピクチャーズ、ワーナー・ブラザース（バーバンク・スタジオ含む）、NBCスタジオ、ブロードウェイ・ステージ、HBO、シルヴァーカップ・スタジオ、スタイナー・スタジオ、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーである[34]。
また、脚本家がストライキ期間中に経済的に困窮した場合、WGAはエンターテインメント・コミュニティ基金に救済を求めるように指示している。同基金はエンターテインメント業界に従事する人々が経済的に困窮した際、低家賃の住居の斡旋や医療・高齢者保険の維持をサポートしており、5月10日に複数の脚本家が合計で170万ドルの寄付を申し出たことが報じられた。主な寄付者にはJ・J・エイブラムス、グレッグ・バーランティ、アダム・マッケイ、ライアン・マーフィー、ションダ・ライムズ、マイケル・シュア、ジョン・ウェルズがいる[35][36]。
10月[編集]
10月9日、WGAは会員の99%の賛同を得て契約を批准した[37]。
WGA交渉委員会[編集]
2022年11月に交渉委員会が発足し、デヴィッド・ヤングが交渉責任者に就任した[38]。2023年2月からはエレン・スタッツマンが交渉責任者を務めている[39]。
- デヴィッド・A・グッドマン（共同委員長）
- クリストファー・ケイザー（共同委員長）
- ジョン・オーガスト
- アンジェリーナ・バーネット
- ケイ・キャノン
- ヤーリン・チャン
- ロブ・チャヴィス
- アダム・コノヴァー
- トラヴィス・ドネリー
- アシュリー・ゲイブル
- ハリー・ハグルンド
- エリック・ヘイウッド
- エリック・ハイセラー
- グレッグ・イヴィンスキー
- ルヴ・ラーケ
- エリカ・サレー
- ダニエル・サンチェス＝ヴィツェル
- ジェームズ・シェイマス
- トム・シュルマン
- マイケル・シュア
- デイヴィッド・ショア
- デヴィッド・サイモン
- パトリック・ヴェローン
- ニコール・ヨーキン
ストライキの影響[編集]
多くの映画・テレビ番組・ポッドキャストが影響を受けており、脚本家が不参加の状態で製作を続ける作品もあるが、多くの作品は製作の一時中断や製作停止に追い込まれた。影響を受けなかった企画もあるが、このケースはストライキ決行日（5月2日）以前に脚本が完成していた作品、脚本がほとんど存在しない内容の作品、WGA未加入の脚本家を起用していた作品に限定された[40][41]。また、脚本が完成している作品についてもWGA会員がピケット・ラインを構築して製作を妨害したため、製作が延期・中断に追い込まれている[42]。
各界の反応[編集]
政治家[編集]
コンスタンティン・アンソニー（バーバンク市長、俳優、SAG-AFTRA会員）、ローラ・フリードマン（カリフォルニア州下院議員）、アダム・シフ（カリフォルニア州選出アメリカ下院議員）がストライキへの支持を表明しており[43]、ロサンゼルス市長カレン・バスとカリフォルニア州知事ギャビン・ニューサムがストライキ終結に向けた仲介を申し出ていた[44][45]。また、ストライキの終結に際してアメリカ合衆国大統領ジョー・バイデンが、「歴史的な合意」を称賛する声明を発表している[46]。
出典[編集]
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関連項目[編集]
外部リンク[編集]
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- Media coverage from Deadline, (May 23, 2023)
- Media coverage from The Hollywood Reporter;
- Media coverage from Variety, (April 24, 2023)
- Writers Guild of America West. “WGA Negotiations—Status as of May 1, 2023”. wga.org. 2023年5月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年5月3日閲覧。
- McPherson, Molly (2023年9月27日). “The Writers Guild Of America's Tactical Win Over Hollywood Studios”. Forbes. 2023年9月27日閲覧。