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パーキンソン病治療薬(-びょうちりょうやく、Antiparkinson)とはパーキンソン病の治療に用いられる薬物の総称である。
パーキンソン病は中高年に好発する神経変性疾患であり、安静時振戦・固縮・無動および姿勢反射障害の四徴を伴う。.病理学的には黒質線条体ドパミン性神経細胞の変性脱落ならびにレビー小体の生成を特徴しており、その結果としてドパミンニューロンの機能低下およびアセチルコリンニューロンの活動亢進が生じ、錐体外路系の機能異常が見られる。パーキンソン病治療薬はこれらの神経活動異常を是正する作用を有している。とはいえ、パーキンソン病の治療薬が揃ってきたのは治療の歴史の中ではごく最近のことであり、1960年以前にはレボドパすらない状態での治療が行われていた。その後、1961年に抗コリン薬であるトリへキシフェニジル、1972年にレボドパ(L-DOPA)、1985年にはドパミンアゴニストであるブロモクリプチンが開発されるなど、治療の選択肢は徐々に増えていった。
治療の目標
[編集]パーキンソン病治療薬各論
[編集]レボドパ
[編集]パーキンソン病ではドパミン神経投射部位である線条体のドパミン量が低下しているので[1]、それを補う目的で投与される。ドパミンは血液脳関門を通過することができないので、そのまま末梢から投与しても中枢神経へ移行させることができない。そこで開発されたのがドパミン前駆体であるレボドパ(L-Dihydroxy phenylalanine, L-DOPA)であり、中枢神経に移行した後に脱炭酸(脱CO2)してドパミンとなる、いわゆるプロドラッグである。L-DOPAの脱炭酸反応はL-アミノ酸脱炭酸酵素と呼ばれる酵素によって行われることが知られているが、この酵素による脱炭酸反応が末梢で生じてしまい、せっかくL-DOPAとして生体に投与しても結局中枢には少しのドパミンしか入らない上、末梢組織での副作用(特に悪心、嘔吐などの消化器症状)が高率に生じるということがL-DOPAの欠点である。特に経口的に投与した場合にはL-DOPAの消化管吸収率が悪いこともあり、中枢に移行するのは投与量の1%以下である。この脱炭酸酵素を薬物を用いて阻害することにより末梢での脱炭酸反応を防ぐことが可能であり、L-DOPAとの併用が行われる。Dopa脱炭酸酵素阻害薬(DCI)としてカルビドパ及びベンセラシドが挙げられ、L-DOPAの薬効増強や末梢での副作用の軽減を期待して補助的に投与される。また、DCIの併用によりL-DOPAの投与量節減もできる。DCIは血液脳関門を通過しないため、中枢におけるL-DOPAの脱炭酸反応を阻害することはない。日本ではL-DOPA:カルビドパ=10:1、L-DOPA:ベンセラシド=4:1の比率で投与が行われている。DCIのうち、カルビドパとベンセラシドのどちらが優れているかということに関してはエビデンスが少ない。
L-DOPAは安価であり、パーキンソン病の運動機能障害に有効性が高いが、長期投与を行うと問題点として以下のようなものが現れることがある。これらはL-Dopaを投与開始して5年程度で約50%の患者に現れ患者の生活の質(QOL)低下につながるため、特に若い患者ではL-Dopaを導入するのはなるべく遅いほうが望ましく、早期のパーキンソン病に対しては後述のドパミンアゴニストを使用するのがよいとされている。
- Wearing-off現象(擦り切れ現象)
- Wearing-off現象とは薬効の持続時間が短くなり、次の服薬前になるとパーキンソン病の症状が強くなる現象である。
- No-on/Delayed-on現象
- On-off現象
- 薬剤の服薬時間に関係なく症状の増悪(off)と軽快(on)を繰り返す現象であり、on-offを一日に数回繰り返すこともある。
- ジスキネジア(不随意運動)
- L-DOPAを長期にわたって投与されている患者では突然に薬効がなくなり、ジスキネジアを引き起こすことがある。
ドパミンアゴニスト
[編集]名称 | D1 | D2 | D3 | D4 | D5 | 5-HT2 |
---|---|---|---|---|---|---|
ブロモクリプチン | ± | 2+ | + | + | + | + |
ペルゴリド | + | 3+ | 4+ | + | + | - |
タリペキソール | - | 2+ | 2+ | 2+ | - | 2+ |
カベルゴリン | ± | 3+ | no data | no data | no data | - |
プラミペキソール | - | 2+ | 3+ | 2+ | no data | - |
ロピニロール | - | 2+ | 4+ | + | - | - |
ドパミン受容体は少なくとも5種類の遺伝子がクローニングされている。これらの受容体タンパク質は大きくD1様受容体とD2様受容体に分類され、前者にはD1およびD5、後者にはD2,D3およびD4が含まれる。ドパミンアゴニストとしては数種類の薬剤が存在するがいずれもD2受容体に対する作動薬である。下記にドパミンアゴニストの各受容体に対する親和性を示すが、上述の通りD2様受容体に対する親和性が高いことが見て取れる。
- ブロモクリプチン(Bromocriptine)
- 麦角アルカロイドの誘導体である。ドパミンD2受容体に対してアゴニストとして作用する一方で、D1受容体を軽度に阻害する。パーキンソン病に対する有効性は認められているが、副作用として精神症状が現れやすいのが欠点である。
- ペルゴりド(Pergolide)
- カベルゴリン(Cabergoline)
- タリペキソール(Talipexole)
- プラミペキソール(Pramipexole)
- ロピニロール(Ropinirole)
アマンタジン
[編集]アマンタジンはもともとA型インフルエンザに対する治療薬として開発されたという経緯があるが1969年に高パーキンソン病作用を有することが分かり、現在ではパーキンソン病治療薬として使用されている。
抗コリン薬
[編集]MAO-B阻害薬
[編集]L-DOPAはB型モノアミンオキシダーゼ(MAO-B)によって分解され、体内から消失することが知られている。MAO-Bは神経のシナプス間隙に存在する遊離ドパミンを分解するが、MAO-B阻害薬であるセレギリン(Selegiline)はその酵素活性を不可逆的に阻害することで線条体におけるドパミン量を増加させ、ドパミン神経の機能低下を防ぐ。L-DOPA含有製剤と併用することでL-DOPAの治療効果を延長する。
ドロキシドパ
[編集]ノルアドレナリン前駆物質
COMT阻害薬
[編集]カテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)は
パーキンソン病の薬物治療
[編集]出典
[編集]- 日本神経学会『パーキンソン病治療ガイドライン2002』
- PD Today編集委員会 編『トップエキスパート パーキンソン病を語る』アルタ出版 2006年
- 近藤 智善ら著『パーキンソン病治療ハンドブック』医学書院 2001年 ISBN 9784260118576
- 水野 美邦編『パーキンソン病治療薬の選び方と使い方』南江堂 2004年 ISBN 9784524236398
参考文献
[編集]- ^ EHRINGER H and HORNYKIEWICZ O. (1960)"Distribution of noradrenaline and dopamine (3-hydroxytyramine) in the human brain and their behavior in diseases of the extrapyramidal system."Klin Wochenschr 38, 1236-9. PMID 13726012