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利用者:LiterateGiggle/自律神経失調症/調査報告

2024年9月:申し訳ありませんが,しばらく当方は編集に十分関わる時間をとれなさそうです.以下の内容については有用なものがもしあれば,適宜 wikipedia 内で流用いただいて差し支えありません.(たとえば,attribution がなく,いわゆる履歴継承などがなされていなくても,そのことを理由に削除の手続きをとっていただく必要はありません.).万一この表明より前の時点で行われたコピー・流用があっても同様です. 特別:差分/101739051 もご参照ください. -- LiterateGiggle会話) 2024年9月6日 (金) 06:06 (UTC)


調べた私見など

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  • なるべく色々な文献に当たりましたが,一応当方のバックグラウンドは精神医学系ですので,そのバイアスは若干あるかもしれません.
  • 以下については,概ね争いがなさそうです.
    • 自律神経失調症は,(1) 色々な身体の症状の訴えがあるが,それに関連する器質的な異常は見つからないものについて,これを自律神経系に関連した症状とみなして呼ぶ呼び名で[1][2][3][4][5][6][7],(2) 症候群として理解され[1][5],(3) 定義は漠然としていて,いわゆる正式な病名(とは?)であるとか,明確な定義があるとかいうわけではない[5][7][8].定義の多くでは,(重篤な)精神疾患がある場合は除外する.
      • 上に挙げたような書籍に比べると出典としての強度は下がりますが,比較的親和性のありそうなジャーナル「心身医学」でも『これほど曖昧な用いられ方をしている「病名」も珍しいのではないだろうか』[9]とか,「一疾患単位として認めることができる病態が存在するか否かに関しては,いまだ一定の見解が得られているわけではない 」[10]と記載があり,分野によっては混同されるといったわけでもないように思います.
    • 症状としては,全身倦怠感,頭重感,動悸,などなどがある.
    • 「不定愁訴症候群」,あるいはfunctional somatic syndromeといわれるものと概念的には近い(か明確な差がない).
    • 自律神経障害,という場合は基本的に自律神経系の器質的な障害,たとえば多系統萎縮症でみられるようなもの,を指し,使い分けがある(少なくとも辞書的には).
  • 診断として曖昧で適切な鑑別を伴わないことから,暫定的な診断[11]であるとか,「便宜的な“診断名”」[12],「病名のくずかご」[13],「ゴミ箱的診断」で「医学的に正しいものとは言いがたい」[14],であるとか,安易な使用が「精神疾患の鑑別をなおざりにし,時に身体疾患の厳密な鑑別さえ失わせてきた」という批判[15]があります.
  • あるいは,「診断書病名として敢えて言い換えて」[3]用いるともされ,これは(記事本文で用いるには難のある文献で,かつ本文の考察は別のところに寄っているのですが)[16]の報告で受ける印象とも合致します(患者宛診断書で用いられる割に行政に提出する系統の診断書でほとんど用いられない).
  • 2009年の時点で「かつて内科医は…という病名をよく用いていた」[15]とされ,たまたま同じ年の別の論文で『最近では用いられなくなってきたがいわゆる「自律神経失調症」と呼ばれるカテゴリーに相当する』[17],2011年に「かつて『不定愁訴症候群」や「自律神経失調症」という言葉を用いていた病態』[18],といった言及があるほか,自律神経失調症と概ね同義とされやすい「不定愁訴症候群」に関連して,和雑誌における研究論文において,DSM-IVの登場以降は『「不定愁訴」という表現は減少し,「身体表現性障害」がMUSを代表する表現となっていたように思われる』[19] (MUS: medically unexplained symptoms)ともあります.私見では,現在この病名は積極的に用いられることはない,と考えてよいのではと思うのですが,逆に最近の(概ね過去10年以内の)言及がなさすぎて明示的にそのような記載のある文献は見つかりませんでした.


その他具体的なところ

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英語名

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  • 自律神経失調症に当たる概念は日本独自のもの,という主張は,おそらくそうだとは思うのですが,「国外に自律神経失調症にちょうど相当する概念はない」という明示的な言及は見つけられませんでした.[20]に,「一次性の自律神経的でない症状に“自律神経機能異常”という不適切な名称がつけられることが多く」,という箇所があって,この訳注で「本邦ではよく自律神経失調症という用語が用いられる」と記載があるくらいです.
  • 日本の外でも使用例があって,概念的に本当に近いのはおそらく vegetative dystonia です.
    • これは一方が片方に対応しているというより,元々 vegetative dystonia という概念があって,それが日本に流れ着いて育ってきたのが自律神経失調症,ということらしいです.親戚関係のような雰囲気です.
    • Eppinger とHessが交感神経・副交感神経に着目し,さらに Bergmann が自律神経機能異常症としてまとめたことが,[6][2]などの自律神経失調症の項に記載されていますが,おそらくこの流れ.
    • [21]がこの文脈で,「今日このような病態を自律神経失調症 (vegetative Dystonie) とか,自律神経不安定症 (vegetative Labilität) と呼んでいる」と記載していますが,こういった見解がどの程度一般に支持されていたのかはわかりません.
    • いずれにせよ,自律神経を植物神経と呼ぶ名称なので,医学史的な考察で触れるには適切とは思いますが,訳語として対応を当てるには私見では抵抗があります.
  • これに類似した autonomic dystonia が,和文献で比較的人気があり,訳語を一つ採用するならこれだと思います.
  • autonomic imbalance も推します.(1) 国外で autonomic imbalance がこのような病態を指している様子はないが,逆に他の意味で使われている様子もあまりない,(2) 私見では意味的にそこそこそぐわしい, (3) 複数の和文献で採用されている,ことが理由です.
  • autonomic dysfunction は英語圏でも典型的にパーキンソン病レビー小体型認知症との関連での言及が見られるので,あまり適切ではなさそうです.Dysautonomia も同様で,en:dysautonomia が妙にこの点曖昧にも読めるのが気になりますが,例えば (https://www.ninds.nih.gov/health-information/disorders/dysautonomia) などを参照するとここで言う自律神経不全に相当する内容になっていると言えそうです.和文献の項目名としては,下記の通り自律神経失調症系にも,自律神経のほんとの機能不全の項目にも人気があります. Dysautonomia が自律神経失調症に相当する意味で使われることがないかはわからないが,単に dysautonomia と英語圏の人が聴いてイメージする病態とはずれるかも,と見做すのが安全と思います.
  • 自律神経失調症と不定愁訴症候群が類義語で,この辺と近い概念であってかつ英語の用例があるものとしては,en:Functional somatic syndrome とか,en:Medically Unexplained Symptoms とかがあって,これは和文献でも言及がある[22]のですが,これらは類義語ではあるものの訳語とは言えないと思います.

以上をまとめて言語間リンクはなし,冒頭では「自律神経失調症 (autonomic dystonia, autonomic imbalance, vegetative dystonia)」くらいの併記が穏当と言うのが個人的意見です.


自律神経失調症
書籍→ 医学大辞典[1] 医歯薬出版最新医学大辞典[4] 現代精神医学事典[3] 南山堂医学大辞典[2] 和英医学用語大辞典[23] ストレス科学辞典[24]
項目名 自律神経失調症 自律神経失調〔症〕 自律神経失調症 自律神経失調症 自律神経失調〔症〕 自律神経失調症
autonomic dystonia
dysautonomia
vegetative dystonia 新版で消えている
autonomic imbalance
自律神経の器質的な問題が生じる系
title 医学大辞典[25] 医歯薬出版最新医学大辞典[4] 現代精神医学事典[26] 和英医学用語大辞典[23] 臨床神経学事典[27] ドーラント図説医学大辞典
項目名 自律神経不全症 自律神経異常 自律神経機能異常 自律神経不全 自律神経異常症 自律神経異常症
autonomic failure
dysautonomia
disorders of the autonomic nervous system


現在でいう診断名

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つまりICD-11 とか DSM-5(-TR) の何に相当するのか?という話.上のとおり元々の自律神経失調症概念が曖昧なうえ,そもそも最近の文献になかなか出てこないので,これを明示的に示した文献はありませんでした.

  • 私見1: そもそも概念的に曖昧なので,何に当たるとかどうとか議論する意義が少ない
  • 私見2: 基本的には身体症状症 (en:somatic symptom disorder)の周辺になると思うのですが,これらは症状への囚われとかそういったところを重視する概念であって,シンプルに身体症状を拾う自律神経失調症とちょっと軸はちがうかなと感じています.いわゆる自律神経失調症とされた範疇で,こうした診断がつかない例はそれなりにありそうに思います.
  • 一応,ICD-10 には F45.3 Somatoform autonomic dysfunction (身体表現性自律神経機能不全)なるものがあり(初耳),これに相当するというだけの言及は見つかります[3][5]
    • ただ,診断ガイドライン(いわゆる青本)では,
      • (a) 動悸,発汗,振戦,顔面紅潮 (flushing) のような autonomic arousal による症状が続いて支障となっていて,
      • (b) ほか特定の臓器や系について主観的に症状があって,
      • (c) なにかしら重大な病気じゃないかという心配に囚われ苦痛が大きく,これが医師による説明や保証を繰り返しても解消しない,
      • (d) 症状のあるところに明らかな構造や機能の問題がない
    • ことが基準となっています.C基準がやはりポイントで,症状への心配・苦悩が中核的に必要という点で若干異なりはします.
  • 以前不定愁訴と広く言われたものが,のちに身体表現性障害,ついで身体症状症に吸収されていったことは[19]に記載があります.
  • ちなみに,(特に不安・囚われのない)身体症状に関連して,[28]には「「身体症状症」はじつは「身体化障害」よりも「心気症」を中心とした概念であり,「身体化障害」の多くは「原因不明の身体症状」としてDSM分類から排除されているのかもしれない」と記載があります.そういう雰囲気で間違ってないみたいですね(という感想).

症状

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「倦怠感,めまい,頭重・頭痛,動悸など」でいいのではないかという気がします.

各書籍の「自律神経失調症」の項で症状に何が挙がっているか
書籍↓/症状→ 倦怠感 めまい 頭重 頭痛 動悸 息切れ 胸部不快感 腹部違和感 その他
医学書院 医学大辞典[25] 「多臓器にわたる不安定で消長しやすい自律神経系身体的愁訴」
医歯薬出版最新医学大辞典[4] 「臨床的には種々の自律神経系の愁訴」
同「不定愁訴症候群」[29] 疲労感・しびれ感
現代精神医学事典[3]
南山堂医学大辞典[2] のぼせ,冷え性,発汗,下痢,不眠
ストレス科学辞典[24]
新版精神医学事典[6]
現代臨床精神医学[5]
朝倉内科學[30] 腹痛,下痢,しびれ,いたみ


阿部達夫氏との関連付けは無理があること

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阿部達夫氏が提唱者であるといった言及が記事に記載されていましたが,可能な限りの調査では,この関連付けには無理があります.彼がこの概念に興味を持っていたことは確からしいのですが,彼はむしろ「不定愁訴症候群」の呼称を推していた気配で,自律神経失調症も彼が言い出したわけではなさそうです.

  • 探した中で唯一関連付けて述べているのが[24]で,「…「植物神経機能異常」をもとに,1961年に阿部達夫が日本内科学会誌で提唱した概念である」.としています.
    • しかし,この年の日本内科学会誌をざっと見ても該当の論文が見つかりません.
    • 唯一あるのは,彼を指導教官とした[21]ですが,これは,いろんな愁訴を持っている人に調べてみたら自律神経の機能に異常があるひとがいそうだよ,というふわっとした論文で,自律神経失調症は明らかにすでにある概念として扱っているもの(上で引いた,「今日このような病態を自律神経失調症…と呼んでいる」)ですから,これを持って提唱とは言い難いです.
  • むしろ,1965年に彼自身がこう記載しています[31]
    • 「…その訴えが自律神経を介しておこるものが多いところから,いわゆる自律神経失調症などとよばれている場合もある.しかしこれら患者の多くは脚気とは全く無関係であることや,一部は自律神経失調とも関係のないところから,わたくしは不定愁訴症候群として一括しておくのがよいかと考えている」
  • 「不定愁訴症候群」(症候群,まで含めて)との関連はいくつか見つかります. [32]「不定愁訴」の項: 「阿部らにより1965年命名された呼称で,…いわゆる自律神経失調症とほぼ同義語である.一方,婦人科領域でも同様な名称が九嶋らにより……」,[6]「自律神経失調症」の項「…これは阿部達夫の提唱した不定愁訴症候群とほぼ同義語として用いられている」.

結論:彼はこの疾病概念に興味を持っていたし,(自律神経失調症と同義とされる)不定愁訴症候群という概念の提唱者である可能性はあるが,自律神経失調症は提唱していない.


その他細かいこと

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  • 家族性自律神経失調症は明らかに自律神経失調症概念からは外れて,自律神経不全寄りなのですが,このことを明示している文献は見つかりませんでした.混同しそうなところではあるので,ここは{{要出典}]つけて一言記載しても許されるかもという気がしています.


脚註

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参考文献

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  • 伊藤 正男、井村 裕夫、高久 史麿 編『医学書院 医学大辞典』(2版)医学書院、2009年。ISBN 978-4-260-00582-1 
  • 『南山堂医学大辞典』(20版)南山堂、2015年。ISBN 978-4-525-01080-5 
  • 『最新医学大辞典 第3版』(3版)医歯薬出版、2005年。ISBN 978-4-263-20563-1 
  • 『現代精神医学事典』弘文堂、2011年。ISBN 978-4-335-65143-4 
  • 『新版精神医学事典』弘文堂、1993年。ISBN 4-335-65080-9 
  • 『現代臨床精神医学』(12版)金原出版、2013年。ISBN 978-4-307-15067-5 
  • 日本ストレス学会、財団法人パブリックヘルスリサーチセンター『ストレス科学事典』実務教育出版、2011年。ISBN 9784788960848 
  • 『内科學』(9版)朝倉書店、2007年。ISBN 978-4-254-32230-9 
  • 永田 勝太郎『心身症の診断と治療 : 心療内科新ガイドラインの読み方』診断と治療社、2007年。ISBN 9784787815637 
  • 日本女性心身医学会 編『最新女性心身医学』ぱーそん書房、2015年。ISBN 9784907095246 
  • 『ステッドマン医学大辞典 改訂第6版』(6版)メジカルビュー社、2008年。ISBN 978-4-7583-0021-6 
  • 『和英医学用語大辞典』日外アソシエーツ、1990年。ISBN 978-4-8169-0915-3 
  • David Robertson『ロバートソン自律神経学』(3版)エルゼビア・ジャパン、2015年。ISBN 9784860343040 
  • 野間 俊一「DSM-5 によって失われた身体症状症に関連する歴史的概念」『精神科治療学』第32巻第8号、2017年8月、997-1002頁。 
  • 岡田 宏基「医学的に説明困難な身体症状 ─ MUS (medically unexplained symptoms) および FSS (functional somatic syndrome) ─」『精神科治療学』第32巻第8号、2017年8月。 
  • 田中 聡「神経衰弱」『精神科治療学』第26巻増刊号 神経症性障害の治療ガイドライン、2011年10月、209頁。 
  • 宮岡 等、宮地 英雄「機能性身体症候群 (FSS)」『精神科治療学』第26巻増刊号 神経症性障害の治療ガイドライン、2011年10月、261頁。 
  • 田中 英高「起立性調節障害」『精神科治療学』第22巻第7号、2007年7月、791-800頁。 
  • 熊野 宏昭「うつ病,自律神経失調症,心身症の鑑別」『日本医師会雑誌』第139巻第9号、2010年12月、1845-1849頁。 
  • 宮岡 等「精神科診療とFSS」『日本臨牀』第67巻第9号、2009年9月。 
  • 渡邉 義文「身体愁訴とうつ近縁疾患」『綜合臨牀』第54巻第12号、2005年12月、3092-3096頁。 
  • 井口 登美子「婦人科と自律神経失調症」『日本産科婦人科学会雑誌』第45巻第5号、1993年5月。 
  • 天野 雄一「身体症状の訴えが持続する患者への対応」『心身医学』第49巻第3号、2009年、255-259頁、doi:10.15064/jjpm.49.3_255 
  • 瀧井 正人「不定愁訴症候群(いわゆる自律神経失調症)の臨床像に関する検討 : 当科心身症外来患者における知見に基づいて」『心身医学』第34巻第7号、1994年10月、573-580頁、doi:10.15064/jjpm.34.7_573 
  • 片山 義郎「自律神経失調症と精神神経科臨床」『心身医学』第29巻第1号、1989年1月、63-69頁、doi:10.15064/jjpm.29.1_63 
  • 阿部 達夫「ビタミンと臨床」『日本内科学会雑誌』第54巻第9号、1965年、989-1006頁、doi:10.2169/naika.54.989 
  • 安部井 瑠美子「自律神経失調症の臨床的および機能的研究」『日本内科学会雑誌』第50巻第5号、1961年、369-381頁、doi:10.2169/naika.50.369 
  • 角田 美穂「精神科外来における病名記載の実態に関する検討」『信州医学雑誌』第54巻第6号、2006年、387-393頁、doi:10.11441/shinshumedj.54.387