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陰謀論の哲学(いんぼうろんのてつがく、英語: philosophy of conspiracy theories)は、陰謀論の現象や歴史を学術的に研究する哲学の一分野である。 陰謀論とは、悪意があり権力を有するグループが、しばしば政治的な動機[1][2]による陰謀――より狭義には他の説明がより妥当であるような陰謀[3][4]を引き起こすような出来事や状況を説明するものと定義される。 この言葉には否定的な意味合いがあり、陰謀のアピールが偏見や不十分な証拠に基づいている、という含意がある[5]

心理学者は、陰謀がないところに陰謀を見つけることが、「幻想的パターン知覚」と呼ばれる精神疾患に起因するとしている[6][7]

歴史

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陰謀論に関する分析哲学の議論は、1990年代半ばにチャールズ・ピグデンがカール・ポパーの立場に異議を唱えたことから始まった[8]。 影響力のある科学哲学者であったポパーは、彼が「社会の陰謀論」と呼ぶものについて、歴史はある個人やグループによって意図された陰謀の産物であると説明したうえで、すべてが意図されているわけではないので、この見解は間違っているはずだと主張した[9][10]。 ポパーの批判は影響力を持ち続けているが[11]、ピグデンは、ほとんどの陰謀論は出来事の完全なコントロールを仮定していないので、ポパーの議論は当てはまらないと主張している[12][13]。 また、ピグデンは、陰謀が何らかの形で失敗した場合でも、その陰謀に関する理論は陰謀論であり、説明の役割を果たす可能性があると指摘している[14]

1999年にThe Journal of Philosophyに掲載されたブライアン・キーリーのエッセイ“Of Conspiracy Theories(陰謀論について)”は、この議論に新たな局面をもたらした。キーリーは「根拠のない陰謀論」(unwarranted conspiracy theories; UCT)と呼ばれる陰謀論のなかの一種に注目していた。 デービッド・コーディによれば、キーリーは、陰謀論に関するある種の一般化が「陰謀論を信じることに反対する一応確からしい(prima facie)根拠となる」と主張した(Coady 2006, p.6)。 リー・バシャムはより同情的な見方をしており、「研究された不可知論」の態度をとるべきだと提案している(Coady 2006, p.7)。 スティーブ・クラークは、陰謀論が性格的説明を過大評価しているので、それらに対して一応の懐疑的態度をとることが妥当であると主張している。

2007年には、Episteme: A Journal of Social Epistemology誌の特集で、さらにいくつかの論考が掲載され、議論が続けられた。そのうち、ニール・レヴィは、“Radically Socialized Knowledge”の中で、公式に承認された説と対立すると考えられる陰謀論は、関連する認識論的権威(epistemic authorities)の見解と対立するため、「一応の(prima facie)懐疑心を持って扱われるべきである」と主張している[15][16]。 チャールズ・ピグデンは、「信念の倫理」という観点からこの問題を検討している。ピグデンは陰謀論についての従来の常識である「信じるべきでも調査すべきでもない」ということが、「陰謀論」という言葉の様々な解釈のいずれにおいても危険な誤りであると主張している[17]。 より最近では、哲学者と社会科学者が、陰謀論の性質や、主義、資金提供に対する蔑視的な意味合いをめぐって議論しており、この議論は「学際的な意見の不一致」として分類されるまでになっている[18]

侮蔑的な意味合い

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哲学者のM・デンティスとブライアン・キーリーは、陰謀論を一応(prima facie)ありえないものとして定義することは、陰謀を仮定した理論を早まって否定することになるかもしれないと主張していた[19]。 デンティス、キーリー、バシャムはミニマリスト的な定義を支持しており、重要な原因として陰謀を含む理論を「陰謀論」と定義していた[20]。 これはコーディによって、例えば9.11の公式アカウントを含むあまりにも多くの偽陽性を捉えていると批判されている[21]。 コーディは陰謀論の特徴は何らかの公式アカウントに反対することであると示唆している[21][22]

「陰謀論」という用語は、一般的に抑圧的な態度や悪意を含意している[23]。 以下の哲学者たちはそのような言葉がケースを誇張していると主張している[24][25][26]

  • スティーブ・クラーク(陰謀論に対する否定的な態度は一般的に正当化されると主張している)は、エルヴィス・プレスリーが自身の死を偽装しているという陰謀論は、邪悪な意図によるものではなく、その陰謀論の普及者はエルヴィスを同情的に描いている、と指摘している[27]
  • ダニエル・コーニッツは、ポール死亡説という陰謀論がほとんどの場合、残ったビートルズのメンバーとその共謀者たちは集団的な悲しみから世界を救おうとするという悪意のない動機を持っていたと主張し、ケムトレイル陰謀論の信奉者の中には有益な目的のために化学物質を撒いているかもしれないと言う者もいると述べている。したがって、コーニッツは、悪意のある意図を、陰謀論を定義する際の必要な要素としてとらえるべきではないとしている[28]
  • ピグデンは陰謀論を「道徳的に疑わしい」事業を仮定していると特徴づけている[29]

スーザン・フェルドマンは、陰謀論とよばれる信念は、起こった出来事や広く知られている事実ではなく、「隠された事実」を説明することを目的としている可能性があると指摘している[30]

コーディは「陰謀論」という言葉を使うべきではないと提案しているが、デンティスとキーリーは使い続け、議論されるべきだと主張している[31]

関連項目

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脚注

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  1. ^ Goertzel, T (December 1994). “Belief in conspiracy theories”. Political Psychology 15 (4): 731–742. doi:10.2307/3791630. JSTOR 3791630.  「権力を持つ悪意のあるグループによってなされた、秘密の陰謀を含む重要な出来事についての説明」
  2. ^ "conspiracy theory". Oxford English Dictionary (3rd ed.). Oxford University Press. September 2005. (要購読、またはイギリス公立図書館への会員加入。) 「ある出来事や現象が利害関係者の陰謀の結果として起こるという理論。spec. ある秘密ではあるが影響力のある機関(典型的には動機が政治的で意図が抑圧的)が説明のつかない出来事に責任があるという信念」
  3. ^ Brotherton, Robert; French, Christopher C.; Pickering, Alan D. (2013). “Measuring Belief in Conspiracy Theories: The Generic Conspiracist Beliefs Scale”. Frontiers in Psychology 4: 279. doi:10.3389/fpsyg.2013.00279. ISSN 1664-1078. PMC 3659314. PMID 23734136. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3659314/. "陰謀論的な信念とは、「他の説明の方が可能性が高いのに、陰謀を不必要に仮定すること」と表現できる。" 
  4. ^ 補足資料:
    • Aaronovitch, David (2009) (英語). Voodoo Histories: The Role of the Conspiracy Theory in Shaping Modern History. Jonathan Cape. p. 253. ISBN 9780224074704. https://books.google.com/books?id=icxkMJK-WmgC 17 August 2019閲覧. "本書の主張は、陰謀論者がオッカムのカミソリの原理を自分の議論に適用していないということである。" 
    • Brotherton, Robert; French, Christopher C. (2014). “Belief in Conspiracy Theories and Susceptibility to the Conjunction Fallacy”. Applied Cognitive Psychology 28 (2): 238–248. doi:10.1002/acp.2995. ISSN 08884080. "陰謀論とは、検証されておらず、比較的ありえない陰謀の主張であり、重要な事件が、前代未聞の悪意があり権力を有するグループによって実行された秘密の陰謀の結果であると主張するものと定義できる。" 
  5. ^ Byford, Jovan (2011). Conspiracy theories : a critical introduction. Houndmills, Basingstoke, Hampshire: Palgrave Macmillan. ISBN 9780230349216. OCLC 802867724 
  6. ^ Dean, Signe (October 23, 2017). “Conspiracy Theorists Really Do See The World Differently, New Study Shows”. Science Alert. June 17, 2020閲覧。
  7. ^ Sloat, Sarah (October 17, 2017). “Conspiracy Theorists Have a Fundamental Cognitive Problem, Say Scientists”. Inverse. June 17, 2020閲覧。
  8. ^ Butter, Michael; Knight, Peter (2019), “The History of Conspiracy Theory Research”, Conspiracy Theories and the People Who Believe Them (Oxford University Press): pp. 39, doi:10.1093/oso/9780190844073.003.0002, ISBN 978-0-19-084407-3 
  9. ^ Dentith, Matthew (2014). The Philosophy of Conspiracy Theories. New York: Palgrave Macmillan. pp. 15–16 
  10. ^ Popper, Karl (1972). Conjectures and Refutations, 4th ed. Routledge Kegan Paul. pp. 123–125  邦訳: ポパー, カール (1980). 推測と反駁: 科学的知識の発展. 法政大学出版局 
  11. ^ Coady, David (2006). Conspiracy theories : the philosophical debate. Burlington, VT: Ashgate. pp. 5. ISBN 0-7546-5250-5. OCLC 60697068 
  12. ^ Dentith, Matthew (2014). The Philosophy of Conspiracy Theories. New York: Palgrave Macmillan. pp. 16–17 
  13. ^ Pigden, Charles (1995). “Popper Revisited, or What is Wrong with Conspiracy Theories?”. Philosophy of the Social Sciences 25 (1): 3–34. doi:10.1177/004839319502500101. 
  14. ^ Coady, David (2006). The Philosophy of Conspiracy Theories. pp. 5 
  15. ^ Coady, David (2007). “Introduction: Conspiracy Theories”. Episteme: A Journal of Social Epistemology 4 (2): 132. 
  16. ^ Dentith, M R. X. (2018). "When Inferring to a Conspiracy Might Be the Best Explanation", p. 4. In Dentith (ed). Taking Conspiracy Theories Seriously. New York: Rowman & Littlefield.
  17. ^ Coady, David (2007). "Introduction: Conspiracy Theories". Episteme: A Journal of Social Epistemology. 4.2: 133.
  18. ^ Freiman, Ori (2019). “The Philosophy of Taking Conspiracy Theories Seriously”. Social Epistemology Review and Reply Collective 8 (9): 51–61. https://social-epistemology.com/2019/09/23/the-philosophy-of-taking-conspiracy-theories-seriously-ori-freiman/. 
  19. ^ Dentith, M R.X. and Brian L. Keeley (2019). "The Applied Epistemology of Conspiracy Theories: An Overview", p. 291, in David Coady & James Chase (eds.), Routledge Handbook on Applied Epistemology. New York: Routledge (284-294).
  20. ^ Dentith, M R. X. (2019). "Conspiracy theories on the basis of the evidence". Synthese 196, p. 2244; doi:10.1007/s11229-017-1532-7.
  21. ^ a b Coady, David. (2003). "Conspiracy Theories and Official Stories". International Journal of Applied Philosophy 17.2, pp. 200-201.
  22. ^ Coady, David. (2006). "An Introduction to the Philosophical Debate about Conspiracy Theories", pp. 2-3. In Conspiracy Theories: The Philosophical Debate, edited by David Coady. Hampshire, UK: Ashgate: 1-11.
  23. ^ "conspiracy theory". Oxford English Dictionary (3rd ed.). Oxford University Press. September 2005. (要購読、またはイギリス公立図書館への会員加入。)(前掲)
  24. ^ Coady, David (2006). "An Introduction to the Philosophical Debate about Conspiracy Theories", p. 1. In Conspiracy Theories: The Philosophical Debate, edited by David Coady. Hampshire, UK: Ashgate: 1-11.
  25. ^ Keeley, Brian L. (2007). "God as the Ultimate Conspiracy Theory", Episteme: A Journal of Social Epistemology 4.2, p. 141.
  26. ^ Hagen, Kurtis (2018). "Conspiracy Theories and the Paranoid Style: Do Conspiracy Theories Posit Implausibly Vast and Evil Conspiracies?" Social Epistemology 32.1, pp. 30-32.
  27. ^ Clarke, Steve (2002). “Conspiracy Theories and Conspiracy Theorizing”. Philosophy of the Social Sciences 32 (2): 131–150. doi:10.1177/004931032002001. 
  28. ^ Cohnitz, Daniel. “Critical Citizens or Paranoid Nutcases? On the Epistemology of Conspiracy Theories”. November 3, 2019閲覧。
  29. ^ Pigden, Charles (2006). "Complots of Mischief", p. 157. In David Coady (ed.), Conspiracy Theories: The Philosophical Debate. Burlington, VT: Ashgate Publishing.
  30. ^ Feldman, Susan (2011). “Counterfact Conspiracy Theories”. International Journal of Applied Philosophy 25 (1): 15–24. doi:10.5840/ijap20112512. 
  31. ^ Dentith, M R.X. and Brian L. Keeley (2019). "The Applied Epistemology of Conspiracy Theories: An Overview", p. 29w, in David Coady & James Chase (eds.), Routledge Handbook on Applied Epistemology. New York: Routledge (284-294).