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利用者:StaggeredFermion/場の量子論 改稿案

場の量子化[編集]

場の演算子[編集]

古典的な場を自由度とするラグランジアンまたはハミルトニアンが与えられたとき、これに最小作用の原理を要請すると、変分法により運動方程式が得られる。電磁場に対するマクスウェル方程式、重力場に対するアインシュタイン方程式などが、この方法で得られる。(場の古典論)

一方で、最小作用の原理に代わって正準交換関係を用いるのが正準量子化である。

自由なスカラー場を例にとると、下記のような振動数pによるモード展開

に対し、ハミルトニアンは各モードに対して調和振動子形となる。

これに生成消滅演算子としての交換関係

を課すと、物理的自由度としての場に正準量子化を行う事ができる。[1]

座標表示で見ると、この操作は場に対し以下の同時刻交換関係を課す事に等しい。

いずれにせよ、量子化されたハミルトニアンが得られているため、任意の演算子Oに対するハイゼンベルクの運動方程式で、系の時間発展を記述する事ができる。

状態空間[編集]

場の演算子を導入した後で、「全ての消滅演算子によって消滅される(零ベクトルになる)状態」として真空状態を導入する。この真空状態および、それに生成演算子を作用させた状態が張るベクトル空間として、多粒子系の状態空間(フォック空間)が得られる。

例として、運動量pの生成演算子を一つ作用させたは、運動量pを持つ一粒子状態|p>である。同様に、[]は位置の固有状態に相当する。これらの内積は以下の通り。

これは量子力学における<x|p>と同様、運動量の固有状態にある一粒子の波動関数として解釈する事が可能である。[2]

以上の手法は第二量子化と呼ばれる事がある。この呼称は最初のφ(x)を一粒子の波動関数として解釈していた頃の名残であるが、場の量子論での一粒子波動関数の定義はここで述べた通りである。


摂動論[編集]

前節の方法で、量子化によって状態空間やその時間発展を厳密に求める事ができるのは、自由場の他には2次元時空におけるシリング模型共形場理論など、ごく限られる。標準模型を含む多くの系では、その理解を以下に述べる摂動論に頼っている。

場の演算子による散乱問題の記述[編集]

一つの現実的な問題設定として、散乱の場合を考える。散乱問題の種々の結果は以下のような、始状態から終状態への確率振幅から求められる。[3]

Sは始状態と終状態を結びつける散乱行列である。これが無限の過去から未来への時間発展演算子、すなわちハミルトニアンの指数関数で記述できるのは、量子力学における散乱理論の場合と同様である。

我々は自由場についてしか、演算子や真空に関する知識を持たないので、これを場の演算子を用いて表すには以下のような変更が必要である。

上式で注意すべき点は、Iの下付き添字で表される相互作用描像を取った事と、Tで表される時間順序積を導入した事、無限の未来および過去で相互作用の影響を排除するために付け加えた微小な虚部iεである。状態に対する0の添字は、自由場の状態空間の状態を表す。このように始状態と終状態をうまく定義する漸近場の方法は、ハリー・レーマンらにより一般的な議論が行われ、LSZの簡約公式にまとめられている。

相互作用ハミルトニアンも場の演算子で記述する事が可能であるため、これにより散乱問題は場の演算子の問題に帰着された。相互作用ハミルトニアンが何らかの結合定数に比例し、それが十分に小さい(相互作用が弱い)とするなら、最終式の級数展開のうち、初めの数項を計算すれば十分である。これが場の量子論における摂動展開である。

ウィックの定理[編集]

時間発展演算子の表式には演算子の積が現れる。演算子積は、交換関係からのように変形する事ができるが、その過程で確率振幅に寄与しない項が多く現れる事が分かる。なぜならば、消滅演算子が右端に達すると、真空の定義より状態が零ベクトルになるからである(生成演算子が左端に達した場合も共役の関係なので同様)。すなわち、ゼロでない寄与をする項は、生成消滅演算子が全て縮約された項である。

例えば演算子2つの時間順序積は以下のようになる。

Nで表される演算子積は正規順序積といい、縮約が起こらないような順番で(すなわち生成演算子が左、消滅演算子が右になるように)積を取る事を意味する。縮約項[]は同時刻交換関係と時間発展により計算でき、以下のようになる。

この表式はファインマンの伝播関数と呼ばれる。

3つ以上の演算子についても成り立つ一般的な関係は、以下に示すウィックの定理である。

contractionで示した縮約の項は、例えばに対してはや、のように、演算子2つごとに選び出す全ての組み合わせを取る。

ファインマン・ダイアグラム[編集]

以上のように、縮約項を列挙して足し合わせる操作が、場の理論における計算には多く現れる。これを見通しよく扱うツールとして、ファインマンが考案したファインマン・ダイアグラムがある。

HIとしてφ4理論の形、を取り、例としてλの2次の項を見る。[4]

第3式においては計算の大幅な飛躍がある。実際には縮約する演算子の組み合わせを考慮する過程で、重複した項が多数現れ、それらを整理する必要がある。また、散乱断面積に寄与しない項も現れ[5]、それらは...として省略した。これらの考慮を上手く行うために、図を使った方法が考案された。例えば、上記λの二次の項の最終式は以下のように表される。

{{{1}}}

このような図をファインマン・ダイアグラムと呼ぶ。

上式では、内線が縮約によって現れる伝播関数、頂点が位置表示の積分の積分変数に当たる相互作用点、外線が始状態および終状態に相当する。各頂点では運動量保存が成立している。これらの、ダイアグラムの要素を積分の式に置き換えるルールをファインマンルールと呼ぶ。計算を行う際に、ある適当な範囲のダイアグラムを全て書き出し、それをファインマンルールによって積分に置き換えるのがファインマン・ダイアグラムの方法である。

ダイアグラムは外線の種類や数によって分類され、一部は真空偏極自己エネルギー頂点関数といった名前を持つ。またループの数によって更に細分化され、ループが多いほど摂動の次数が高い場合が多い。

各線はそれぞれ、何らかの粒子状態に対応しているので、粒子が時空間を飛ぶ様子としてファインマン・ダイアグラムを解釈することも、厳密性を抜きにすれば可能である。ただし内線の粒子は∫d4kで積分されるエネルギーと運動量を持っており、特殊相対論によるの関係に従っていない。場の量子論に特有のこのような粒子状態を仮想粒子の状態と呼ぶ。場の量子論における摂動論は、仮想粒子による確率振幅への寄与を、次々に足し合わせていく操作であるともいえる。

繰り込み[編集]

上記λの二次の項は、ウィック回転およびファインマン・パラメータ法と呼ばれる手法を使う事で、容易ではないが解析的に積分を行う事ができる。しかし、その結果は無限大に発散してしまい、散乱問題の解として意味のある値を与えない。これが場の量子論において頻繁に出現する、発散の問題である。この問題に対処するには、最初のラグランジアンを修正する必要がある。ラグランジアンに無限大の項を含めておき、ダイアグラム計算の段階で無限大が相殺されるようにするのである。この手法を繰り込みと呼ぶ。

非摂動論的な手法[編集]

前節で示した摂動論以外にも、場の量子論の問題を扱う手法はいくつか存在する。詳細はリンク先を参照。

参考文献[編集]

  • M. E. Peskin, D.V. Schroeder (1995). An Introduction to Quantum Field Theory. Westview Press. ISBN 978-0-201-50397-5 

注釈[編集]

  1. ^ Peskin 1995, Section 2.3
  2. ^ Peskin 1995, Section 2.4
  3. ^ Peskin 1995, Section 4.5
  4. ^ Peskin 1995, p. 326
  5. ^ 2粒子ずつに分かれたダイアグラムや、外線と繋がらない部分(泡)を含むダイアグラムが考えられるが、これらは散乱行列のうち実際に散乱された部分を現す遷移行列には寄与しない。