利用者:Syako syako/FLiBe
FLiBeはフッ化リチウムとフッ化ベリリウムの混合物から作られる溶融塩です。
これは、冷却材であると同時に核燃料物質の溶媒でもあります。オークリッジ国立研究所による溶融塩炉実験(MSRE)(英語版)では両方の目的で使用されました。
モル比2:1で混合すると Li
2[BeF
4] (四フッ化ベリル酸リチウム)を生成します。この化合物の融点は459℃で沸点は1430℃、密度は1.94 g/cm3です。
容積比熱は4,540 kJ/(m3·K)と水と同程度で、ナトリウムの4倍以上、一般的な原子炉条件下でのヘリウムの200倍以上です。[1]比熱容量は2,414.17 J/(kg·K)と、水の6割程度です。[2]
白から透明の固体で、結晶粒が存在します。融解すると完全な透明になります。しかし、UF4やNiF2などの可溶性フッ化物は固体と液体の両方で塩の色を劇的に変化させることがあります。このため、分光測色法は溶質の分析によく用いられ、MSREでは運用中広範に使用されました。[3][4][5]
BeF2が50%をわずかに上回る混合比で共融混合物となり、融点は360℃です。[6]この共融混合物はBeF2が加えられたことにより粘度が非常に大きかったために実際には使われませんでした。BeF2がガラスのようにふるまうのはルイス塩基を十分に含んだ溶融塩混合物であるためです。アルカリフッ化物のようなルイス塩基はフッ化物イオンをベリリウムに供与し、ガラス状結合を切断することで粘度が大きくなります。FLiBeでは二つのフッ化リチウムからフッ化物イオンがベリリウムに供与され四フッ化ベリル酸イオンをつくります。[7]
化学
[編集]FLiBeをはじめとした多くのフッ化物塩は、さまざまな可逆反応を起こすことで特異な性質を示します。
まず基本的な性質として錯体を生成し自らを溶解させます。
- 2 LiF(s) + BeF
2(s) → 2 Li+
(l) + [BeF
4]2−(l).
この反応は最初の溶融時におこります。しかし空気にさらされると水分を吸収し、高温でBeF2と程度は低いもののLiFが酸化物や水酸化物に変換されることで悪影響を及ぼします。
- BeF
2(l) + 2 H
2O(g) ⇌ Be(OH)
2(d) + 2 HF(d).
- BeF
2(l) + H
2O(g) ⇌ BeO(d) + 2 HF(d).
BeF2は非常に安定した物質ですが、酸化物や水酸化物、フッ化水素が生成されることで塩の安定性が低下し、腐食を引き起こします。フッ化水素だけでなく上記の2つの反応によって生じる全ての化学種が腐食を引き起こすことに注意してください。これは溶解した全ての成分が酸化還元電位を変えるためです。酸化還元電位は塩に固有の測定可能な電圧であり、塩の腐食電位の主な指標です。
通常、
- 2 HF(g) + 2 e−
→ 2 F−
+ H
2(g).
という反応の際の電位を0Vと設定します。この反応は実験室環境では便利で、塩にフッ化水素と水素の1:1混合物を吹き込むことで塩の酸化還元電位を0Vに調整できます。
場合によっては、
- NiF
2(d) + 2 e−
→ Ni(c) + 2 F−
.
という反応における電位を基準にする場合もあります。
0Vをどこに設定した場合でも塩で発生する全ての反応は既知の電圧で発生します。よって塩の酸化還元電位が特定の反応の電圧に近い場合、その反応が主な反応であると推測できます。したがって、塩の酸化還元電位を望ましくない反応から遠ざけることが重要です。たとえば容器に使われる、ニッケル、鉄、クロムからなる合金で懸念される反応はこれらの金属のフッ素化とフッ化物の溶解です。金属フッ化物の溶解によって酸化還元電位が変化し、平衡に達するまでこの反応は続きます。過度の腐食を防ぐには酸化還元電位をフッ素化反応からできるだけ遠ざけ、塩と接触する金属を塩の酸化還元電位からできるだけ遠ざけることが重要です。
望ましくない反応を防ぐ最も簡単な方法は、反応電位が塩の最悪の場合の酸化還元電位から遠い材料を選択することです。タングステン、炭素、モリブデン、白金、イリジウム、ニッケルなどがありますが、このうち手頃な価格で溶接が可能な材料はニッケルとモリブデンだけです。この2つの元素はMSREにも使われたHastelloy-Nの主要な元素として採用されました。
FLiBeの酸化還元電位を変える方法は2つあります。1つ目は不活性電極を使用して塩に物理的に電圧を印加する方法です。2つ目は塩内で必要な電圧を化学反応で起こす方法で、こちらのほうがより一般的に用いられます。例えば、塩に水素とフッ化水素を吹き込んだり、金属を塩に浸したりといった方法で酸化還元電位を変えることができます。
冷却材
[編集]高温でも蒸気圧が上がりにくい冷却材として使用できる溶融塩です。また、高い光学的透明性を有しているため不純物の目視検査が容易であるという特性もあります。更にFLiBeの他に高温冷却材として使用される金属ナトリウムや金属リチウムとは異なり、空気や水と激しい反応を起こしません。そしてFLiBeは吸湿性が低く水への溶解度も低いです。[8]
核特性
[編集]リチウムとベリリウム、そしてそこまでではないがフッ素の原子量が小さいため、FLiBeは効果的な中性子減速材となります。天然のリチウムの約7.5%はリチウム6ですが、これは中性子を吸収してアルファ粒子とトリチウムに崩壊するため、FLiBeの中性子の吸収を抑えるためにほぼ純粋なリチウム7が使用されます。[9]例えば、MSREの二次冷却材に使われたFLiBeのリチウムは99.993%リチウム7でした。[10]リチウム7が中性子を吸収するとベータ崩壊とアルファ崩壊を経てベータ粒子とアルファ粒子に崩壊します。
ベリリウムは高速中性子が当たると2つのアルファ粒子と2つの中性子に分裂することがあります。フッ素は(α,n)反応に対して無視できない断面積を有しているため、中性子工学を計算する際にはこれを考慮する必要があります。[11]
応用
[編集]トリウム溶融フッ化物塩炉(英語版)では、核燃料物質の溶媒及び減速材並びに冷却材として利用されます。
ほかのいくつか設計のの溶融塩原子炉ではFLiBeを冷却材として利用しますが、溶媒としての利用はせず従来の固体核燃料を使用します。
液体FLiBe塩はMITによるトカマク型ARC核融合炉(英語版)でのトリチウム製造および冷却用の液体ブランケットとしても提案されました。[12]
関連項目
[編集]出典
[編集]- ^ http://www.ornl.gov/~webworks/cppr/y2001/pres/122842.pdf Archived 2010-01-13 at the Wayback Machine. CORE PHYSICS CHARACTERISTICS AND ISSUES FOR THE ADVANCED HIGH-TEMPERATURE REACTOR (AHTR), Ingersoll, Parma, Forsberg, and Renier, ORNL and Sandia National Laboratory
- ^ https://inldigitallibrary.inl.gov/sites/STI/STI/5698704.pdf Engineering Database of Liquid Salt Thermophysical and Thermochemical Properties
- ^ Toth, L. M. (1967). Containers for Molten Fluoride Spectroscopy.
- ^ Phillip Young, Jack; Mamantov, Gleb; Whiting, F. L. (1967). “Simultaneous voltammetric generation of uranium(III) and spectrophotometric observation of the uranium(III)-uranium(IV) system in molten lithium fluoride-beryllum fluoride-zirconium fluoride”. The Journal of Physical Chemistry 71 (3): 782–783. doi:10.1021/j100862a055.
- ^ Young, J. P.; White, J. C. (1960). “Absorption Spectra of Molten Fluoride Salts. Solutions of Several Metal Ions in Molten Lithium Fluoride-Sodium Fluoride-Potassium Fluoride”. Analytical Chemistry 32 (7): 799–802. doi:10.1021/ac60163a020.
- ^ Williams, D. F., Toth, L. M., & Clarno, K. T. (2006). Assessment of Candidate Molten Salt Coolants for the Advanced High-Temperature Reactor (AHTR). Tech. Rep. ORNL/TM-2006/12, Oak Ridge National Laboratory.
- ^ Toth, L. M.; Bates, J. B.; Boyd, G. E. (1973). “Raman spectra of Be2F73- and higher polymers of beryllium fluorides in the crystalline and molten state”. The Journal of Physical Chemistry 77 (2): 216–221. doi:10.1021/j100621a014.
- ^ “Engineering Database of Liquid Salt Thermophysical and Thermochemical Properties”. 2014年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月12日閲覧。
- ^ “The Pea and the Beach-Ball – Energy From Thorium”. 2024年9月12日閲覧。
- ^ “In Czech: ORNL part of nuclear R&D pact”. 2012年4月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月12日閲覧。
- ^ https://www.oecd-nea.org/janisweb/book/alphas/F19/MT4/renderer/226%5B%5D
- ^ Sorbom, B.N. (2015). “ARC: A compact, high-field, fusion nuclear science facility and demonstration power plant with demountable magnets”. Fusion Engineering and Design 100: 378–405. arXiv:1409.3540. doi:10.1016/j.fusengdes.2015.07.008.
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