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利用者:Yamanosora/神の国

神の国(かみのくに、ギリシア語: βασιλεία τοῦ θεοῦ, 英語: Kingdom of God, ロシア語: Царство Божие[1])は、『旧約聖書[* 1]に由来する宗教的概念[2][* 2]神の王国とも言う[* 3]。本来は「の支配」「神の支配の及ぶ所」という意味である[3][4][* 4][* 5]ユダヤ教[5]キリスト教イスラム教[* 6]バハイ教[6]などで使われる概念で、各宗教間で内容・解釈が異なり、同一宗教内でも差異がある。キリスト教では天国あるいは天の国とも言い[7][* 7]イエス宣教における最重要用語で『福音書』に頻出する。

旧約聖書[編集]

旧約聖書[* 1]には「神の国」という表現そのものはないものの[8]、『出エジプト記』に「[9]は代々限りなく統べ治められる。」[10]とあり、神の永遠の統治という観念が見られる。さらに例えば『詩編』では「王権は主にあり、主は国々を治められます。」[11]また「あなたの主権はとこしえの主権/あなたの統治は代々に。」[12]とあり、王としての神の支配が国々を収め、その統治は永遠だと言っていて「神が王として支配する」という観念が見られる。すなわち神の国にかかる概念は、『出エジプト記』では「神の支配」「神の支配の及ぶ所」であり[3][4]、後年の『詩編』では「神が王として支配する」という観念が加わった「神の王的支配」「神の王的支配の及ぶ所」となっている[2]

ユダヤ教[編集]

キリスト教[編集]

新約聖書[編集]

天の国(『マタイによる福音書』)[編集]

St Peter's Clapham のステンドグラス Reginald Hallward 作

『旧約聖書』『新約聖書』を通じて天の国という言葉は『マタイによる福音書』(以下『マタイ』と略)だけに現れる。この天の国は[* 7][* 8]神の国と同じ意味で[7][13]、『マタイ』のユダヤ教[14][15][16]性格による言い方である。すなわち神の国と言わずに天の国と言うのは「モーセの十戒」の第三戒「主の名をみだりに唱えてはならない。」[17]に由来するユダヤ教の習慣を継承しているためである[13][18]。また『マタイ』で例外的に神の国と言っている数か所については、その用法について研究者間で議論がある。

イエス[編集]

なお当時のギリシャ語で書かれている『新約聖書』では『マタイ』を除いて「神の国」と表現されているが、イエスはユダヤ人であり、ふだんの説教では庶民を相手にしていたので「神の国」とは言わずアラム語ヘブライ語の「天の国」に相当する表現を使っていたであろうと推測する説がある。

初代教会[編集]

パウロ[編集]

概念史[編集]

正教[編集]

西欧[編集]

教会と「神の国」[編集]

現代[編集]

イスラム教[編集]

バハイ教[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ a b 『旧約聖書』は本来キリスト教の用語で、ユダヤ教ではほぼ同じものを『タナハ』または『ミクラー』と呼ぶ。関根清三「旧約聖書」『岩波キリスト教辞典』岩波書店、2002年を参照。
  2. ^ 歴代誌』上 29章11節、『詩篇』22編28節(『新共同訳聖書』では22編29節)、145編13節。「神の国」『聖書辞典』いのちのことば社、1961年を参照。
  3. ^ 佐藤研ほか訳『新約聖書』(岩波書店、1995年)で訳語として採用している。『新約聖書 I』「補注 用語解説」pp. 2-3を参照。
  4. ^ 厳密には多少議論がある。秋元徹「神の国」『聖書事典』日本基督教団出版局、1961年を参照。
  5. ^ 「王としての神の支配」を指すのが本来という見解もある。川島貞雄「神の国」『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館を参照。
  6. ^ 中村廣治郎「天国」『世界大百科事典 第2版』平凡社を参照。
  7. ^ a b 「天の国」は『新共同訳聖書』などの訳語。従来の『口語訳聖書』などによって広く知られている訳語は「天国」。
  8. ^ 『マタイによる福音書』3章2節、4章17節、5章3節…20節、7章21節、8章11節、10章7節、11章11-12節、13章11節…52節、16章19節。

出典[編集]

  1. ^ Царство Божие (Небесное) Словарь – Православная энциклопедия.
  2. ^ a b 佐藤研「神の国」『岩波キリスト教辞典』岩波書店、2002年。
  3. ^ a b 「神の国」 デジタル大辞泉プラス。
  4. ^ a b 「神の国」『聖書辞典』いのちのことば社、1961年。
  5. ^ KINGDOM OF GOD ("Malkuta de-Adonai": Jewish Encyclopedia, 1901-1906年。
  6. ^ 「バハイについて」バハイとは、「バハイとして生きる」バハイを読む バハイ共同体
  7. ^ a b 秋元徹「神の国」『聖書事典』日本基督教団出版局、1961年。
  8. ^ 「神の国」『聖書辞典』新教出版社、1968年。
  9. ^ 関根正雄訳『出エジプト記』岩波文庫、岩波書店、1969年、48ページ。
  10. ^ 新共同訳聖書『出エジプト記』15章18節
  11. ^ 新共同訳聖書『詩編』22編29節(口語訳聖書では28節)
  12. ^ 新共同訳聖書『詩編』145編13節
  13. ^ a b 小河陽「天の国」『岩波キリスト教辞典』岩波書店、2002年。
  14. ^ 小河陽「マタイによる福音書」『岩波キリスト教辞典』岩波書店、2002年。
  15. ^ 山我哲雄『一神教の起源』筑摩選書、筑摩書房、2013年、13ページ。
  16. ^ エルヴェ・ルソー『キリスト教思想』文庫クセジュ、白水社、1975年、10ページ。
  17. ^ 新共同訳聖書『出エジプト記』20章7節
  18. ^ 山我哲雄「神名」『岩波キリスト教辞典』岩波書店、2002年。

参考文献[編集]

関連文献[編集]

  • 泉治郎「神の国」『世界大百科事典 第2版』第6巻、平凡社、1988年初版、2004年版。
  • 荻野弘之「ギリシア語」『岩波キリスト教辞典』岩波書店、2002年。
  • 塚本虎二 訳『福音書』岩波文庫、岩波書店、1963年。
  • 山谷省吾「新約聖書思想」『聖書事典』、日本基督教団出版局、1961年、171-201ページ。(I 神の国、II イエス・キリスト、III 新約のキリスト論、 IV キリストによる救い、V キリスト者の生活・教会、VI 終末観)
  • (無署名)「神の国」『新共同訳聖書辞典』木田献一和田幹男監修、キリスト新聞社、1997年
  • (無署名)「マタイによる福音書」『聖書辞典』常葉隆興ほか責任編集、いのちのことば社、1961年。
  • 口語訳聖書』日本聖書協会。