化石燃料ロビー
化石燃料ロビー(かせきねんりょうロビー)は、化石燃料(石炭・石油・天然ガス)、化学工業、プラスチック、(航空をはじめとする)輸送などの産業に関係する企業とその支持者(保守系財団やシンクタンクなど)により行われるロビー活動である。これらの産業は、地域、国家、経済にとっての重要性が高いことから、潤沢な資金を費やして政府の気候変動対策、環境保護や環境衛生の政策を妨害している[1]。
化石燃料ロビーは民主政と化石燃料集約型経済が発展した世界中の国で活発であり、特にアメリカ、オーストラリア、カナダ、ヨーロッパ諸国で最も多い。エクソンモービル、シェル、BP、トタルエナジーズ、シェブロン、コノコフィリップスなど大手石油産業による化石燃料ロビーが最大手である[2]。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)、パリ協定、気候変動に関する国際連合枠組条約締約国会議(COP)などの国際フォーラムへの化石燃料ロビーの参加は批判されている[3][4][5]。
化石燃料ロビーはまた、COVID-19の世界的流行[6]、2022年ロシアのウクライナ侵攻[7]などの国際的な危機を口実に規制を撤回させ、化石燃料の新規開発、化石燃料への補助金[8]を正当化している。
影響
[編集]化石燃料ロビーはグローバル・ガバナンスの利益と衝突してきた。
世相に合わせて、化石燃料ロビーは発信する地球温暖化に対する懐疑論の種類を変化させ、化石燃料の利用の継続を助長している[11][12]。化石燃料産業は、表向きには2100年までに温暖化を2℃未満に抑えるパリ協定を支持すると述べている一方で、2050年に3℃を超えた場合の事業計画を立てている[13]。
化石燃料ロビーの資金は、環境保護団体や再生可能エネルギー産業の支出を上回っている[14]。
アメリカ
[編集]アメリカ石油協会(API)は連邦政府に対して大きな影響力を持っている。特にブッシュ政権やトランプ政権下で、化石燃料ロビーが盛んに行われた。2000年から2016年にかけて化石燃料産業は化石燃料ロビーに20億ドルを費やした[14][15][16]。2010年代後半には、国民の目を気候変動から逸らすために、10憶ドルが偽情報の発信に費やされている[16]。
パリ協定調印以降、アメリカの銀行60社は化石燃料産業に6兆9000億ドル融資している[17]。そのうちJPモルガン・チェース、シティバンク、ウェルズ・ファーゴ、バンク・オブ・アメリカの4社は1兆5000億ドル融資している[17]。
Vox Mediaは2021年に化石燃料産業の広告を禁止した[18]。
オーストラリア
[編集]オーストラリア最大のメディア企業であるニューズ・コープは石炭産業の利益のため、気候科学を攻撃し、オーストラリアの気候政策を推進する政治家を失脚させている[19]。
ヨーロッパ
[編集]シェルによる化石燃料ロビーは欧州連合(EU)の再生可能エネルギー目標を弱体化させている[20]。
化石燃料ロビーが政治家と関わることの法的禁止をEUは検討している[21]。
イギリスの地球温暖化政策財団は日本の地球温暖化懐疑論にも影響を与えている[22][23]。
ダーゲンスETC[24]、ガーディアン、ダーゲンス・ニュヘテル[25]、RTBF[26]、ル・モンドなどは化石燃料産業の広告を禁止している[18]。
日本
[編集]イギリスの気候変動シンクタンクであるインフルエンス・マップによると、日本経済団体連合会(経団連)に所属するごく一部(日本のGDPの10%)の電力、鉄鋼、自動車、セメント、電気機械、化石燃料産業による火力発電の増強を求める強力なロビー活動が反映されているため、日本の気候政策はIPCCやパリ協定の目標と一致していない[27]。医療・小売・金融・物流・建設、不動産産業の多数の企業(日本のGDPの70%)は100%再生可能エネルギー目標を掲げており、また日本政府に温室効果ガス排出削減目標の引き上げを求めているが、それらの業種は日本の気候政策にさほど関与できていないという[27]。
国境なき記者団によると、企業からの圧力により、日本のメディアでは健康問題や汚染などのトピックで自己検閲がなされている[28]。
脚注
[編集]- ^ Niranjan, Ajit (2021年11月5日). “Lobbying threat to global climate action” (英語). グラスゴー: ドイチェ・ヴェレ 2024年10月4日閲覧。
- ^ Laville, Sandra (2019年3月22日). “Top oil firms spending millions lobbying to block climate change policies, says report”. ガーディアン 2024年10月4日閲覧。
- ^ Westervelt, Amy (2022年4月5日). “IPCC: We can tackle climate change if big oil gets out of the way”. ガーディアン 2024年10月4日閲覧。
- ^ MOUNIER, Jean-Luc (2024年7月1日). “'Pushes us closer to the abyss': Former Azerbaijani oil executive to head COP29”. France 24 2024年10月4日閲覧。
- ^ Simon, Julia (2023年12月7日). “A record number of fossil fuel representatives are at this year's COP28 climate talks”. NPR 2024年10月4日閲覧。
- ^ Niranjan, Ajit (2020年4月16日). “Big Oil exploits coronavirus pandemic: report”. ドイチェ・ヴェレ 2024年10月4日閲覧。
- ^ Milman, Oliver (2022年2月26日). “US fossil fuel industry leaps on Russia’s invasion of Ukraine to argue for more drilling” (英語). ガーディアン (ニューヨーク) 2024年10月4日閲覧。
- ^ Hodgson, Camilla (2022年2月17日). “Fossil fuel and agriculture handouts climb to $1.8tn a year, study says”. フィナンシャル・タイムズ 2024年10月4日閲覧。
- ^ Bousso, Ron (2023年2月8日). “Big Oil doubles profits in blockbuster 2022”. ロイター 2024年10月4日閲覧。
- ^ King, Ben (2023年2月12日). “Why are BP, Shell, and other oil giants making so much money right now?”. BBCニュース 2024年10月4日閲覧。
- ^ Artsy, Avishay (2023年9月23日). “A climate scientist on how to recognize the new climate change denial”. Vox (Vox Media) 2024年10月4日閲覧。
- ^ Guenther, Genevieve (2024年6月24日). “The New Climate Denial Is Based on These Six Terms”. The New Republic 2024年10月15日閲覧。
- ^ Chapman, Ben (2017年10月27日). “BP and Shell planning for catastrophic 5°C global warming despite publicly backing Paris climate agreement” (英語). インデペンデント 2024年10月4日閲覧。
- ^ a b Brulle, R.J. (2018). “The climate lobby: a sectoral analysis of lobbying spending on climate change in the USA, 2000 to 2016”. Climatic Change 149: 289–303. doi:10.1007/s10584-018-2241-z.
- ^ Streeter, April (2015年11月23日). “Lobbying: Climate change - Beware hot air”. ロイター 2024年10月4日閲覧。
- ^ a b Fukuda, Kohei (2022年8月10日). “気候危機はウソだという人たち”. Quartz (日本) 2024年10月4日閲覧。
- ^ a b Illing, Sean (2024年9月29日). “The climate crisis is here. We can still have a better world.”. Vox (Vox Media) 2024年10月4日閲覧。
- ^ a b Noor, Dharna (2024年6月7日). “News and tech media mostly quiet after UN chief calls for ban on ads for oil and gas”. ガーディアン 2024年10月9日閲覧。
- ^ Mocatta, Gabi (2021年10月18日). “What’s behind News Corp’s new spin on climate change?”. The Conversation 2024年10月4日閲覧。
- ^ Neslen, Arthur (2015年4月27日). “Shell lobbied to undermine EU renewables targets, documents reveal”. ガーディアン (ブリュッセル) 2024年10月4日閲覧。
- ^ Dinan, Will (2024年2月13日). “Oil and gas lobbyists have deep pockets and access to politicians, but an EU ban could be in the pipeline”. The Conversation 2024年10月4日閲覧。
- ^ Readfearn, Graham (2022年2月27日). “Thinktank linked to tech giant Canon under pressure to remove ‘dangerous’ climate articles” (英語). ガーディアン 2024年10月4日閲覧。
- ^ 江守正多 (2020年3月24日). “組織的な温暖化懐疑論・否定論にご用心”. Yahoo!ニュース エキスパート 2024年10月4日閲覧。
- ^ Laville, Sandra (2019年9月26日). “Swedish newspaper stops taking adverts from fossil fuel firms”. ガーディアン 2024年10月9日閲覧。
- ^ “2nd Swedish newspaper restricts fossil ads: Dagens Nyheter”. World without fossil ads. 2024年10月9日閲覧。
- ^ “First public broadcaster to ban fossil ads in Belgium”. World without fossil ads. 2024年10月9日閲覧。
- ^ a b “Japanese Industry Groups and Climate Policy”. InfluenceMap (2020年8月). 2024年10月4日閲覧。
- ^ “Japan”. 国境なき記者団 2024年10月4日閲覧。
関連項目
[編集]- 地球温暖化に関する論争
- 地球温暖化に対する懐疑論
- 世界を騙しつづける科学者たち
- 地球温暖化への対応の動き
- 日本気候リーダーズ・パートナーシップ
- たばこ産業による偽情報 - たばこ産業による偽情報の戦術は化石燃料ロビーにも利用されている
- DeSmog - 化石燃料ロビーを含む地球温暖化懐疑論者・組織を調査するブログ
外部リンク
[編集]- “Oil & Gas Lobbying Profile”. OpenSecrets. 2024年10月4日閲覧。