北陸鉄道8000系電車
北陸鉄道8000系電車 | |
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基本情報 | |
運用者 | 北陸鉄道 |
種車 | 京王電鉄3000系 |
改造所 | 京王重機整備 |
改造数 | 10両 |
運用開始 | 1996年 |
主要諸元 | |
編成 | 2両編成 (2M) |
軌間 | 1,067 mm |
電気方式 | 直流 1,500 V |
最高運転速度 | 60 km/h |
車両定員 |
120人(座席44人、8800番台) 125人(座席46人、8900番台) |
車両重量 |
34.0 t(8800形) 32.5 t(8810形) 35.0 t(8900形) 33.5 t(8910形) |
全長 |
18,180 mm(8800番台) 18,500 mm(8900番台) |
全幅 |
2,800 mm(8800番台) 2,872 mm(8900番台) |
全高 |
4,300 mm(8800形・8900形) 4,025 mm(8810形) 4,055 mm(8910形) |
車体 | ステンレス |
主電動機 | 直巻電動機TDK806/3-C |
主電動機出力 | 100 kW[注釈 1] |
駆動方式 | 中空軸平行カルダン駆動方式 |
歯車比 | 15:84=1:5.60 |
編成出力 | 800 kW |
制御方式 | 抵抗制御 |
制御装置 | 電動カム軸式抵抗制御ES573A |
制動装置 | HSC-D発電ブレーキ併用電磁直通ブレーキ |
保安装置 | ATS |
北陸鉄道8000系電車(ほくりくてつどう8000けいでんしゃ)は、北陸鉄道(北鉄)に在籍する通勤形電車である。京王電鉄3000系を1996年(平成8年)12月と1998年(平成10年)10月の二度にわたって譲り受けたもので、浅野川線で運用されている。
本項では、2006年(平成18年)11月に同じく京王3000系を譲り受けて石川線向けに投入した7700系についても記述する。
導入に至る経緯
[編集]1990年代に金沢市の都市開発計画の一環として、浅野川線北鉄金沢駅の地下移転が決定した。この路線ではそれまで、各線由来の車両10形式の旧型車両が使用されていたが、これらはすべて半鋼製車体であったことから、路線の地下化に伴い必須となる火災対策・不燃化基準に対応させることが不可能であった。そのため、北鉄では基準に適合する中古車両の購入を検討していたところ、京王重機整備より京王3000系譲渡の打診があり、これらを購入して従来車を代替することとした。
こうして8000系の導入が決定した。なお、本項で扱う両系列の購入に際して、北鉄では近代化助成制度に基く助成金の交付を受けている。
8000系導入に伴い、架線電圧の1500V昇圧も同時に施工されることとなり、1996年(平成8年)12月19日をもって従来型吊り掛け駆動車を全て置き換えた[注釈 2]。なお、浅野川線では同日よりワンマン運転を開始し、8000系も当初よりそれに対応した仕様とされている。
その後、石川線に残存していた旧型車の代替と、夏季の実質的な冷房化率100%達成のために[注釈 3]、2006年(平成18年)11月に7700系モハ7701-クハ7711の2両が石川線に投入された[注釈 4]。外観上における基本的な仕様は8000系に準じているものの、石川線の主力形式である7000系(元東京急行電鉄7000系)と互換性を持たせるため、主要機器については大幅な設計変更が加えられているが、詳細は後述する。
各系列概説
[編集]8000系
[編集]もとは京王3000系第1 - 5編成の両端クハで、いずれも分散型冷房装置を搭載する。第1・2編成は全長18,180mmで裾絞りのない車体幅2,700mmの片開扉車、第3編成以降は全長18,500mmで裾絞りを有した車体幅2,800mmの両開扉車と、種車によって車体の仕様が大きく異なり、北鉄では前者は8800番台(モハ8800形-モハ8810形)、後者は8900番台(モハ8900形-モハ8910形)にそれぞれ区分された。
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8800番台と8900番台の車体断面の違い
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モハ8800形(モハ8801)
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モハ8810形(モハ8811)
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モハ8910形(モハ8912)
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モハ8900形(モハ8902)
いずれもクハを由来としていることから、浅野川線での使用に当たっては廃車解体された京王3000系中間電動車デハ3000形・3050形の発生品[注釈 5]を流用して電装化・2M編成化が施工されているが、主抵抗器のみは元が強制通風式であったのに対し、豪雪地帯での使用を考慮し自然通風式のものを新製して搭載した。制御器は東洋電機製造製電動カム軸式ES573A、主電動機は同TDK806/3-C[注釈 1]、台車はペデスタル式空気ばね台車の東急車輛製造製TS801Aである。パンタグラフはモハ8800形・8900形の連結面寄りに1基搭載しているが、当該部分の冷房装置を1基撤去し、そのスペースにパンタグラフ台座およびパンタグラフを新設するかたちを採っている。その台座は積雪時のパンタグラフ下部と屋根間の空間確保のため背高形状となっていることが特徴である。
車体は前述のパンタグラフ新設を除きほぼ原形を保っているが、先頭部FRPが北鉄のコーポレートカラーであるオレンジ色のものに新品交換された他、正面運転台側窓上に列車無線アンテナが設置され、1998年(平成10年)に入線した8903編成[注釈 6]では正面窓下の通風口が廃止された。前面の行先表示器は列車種別と行先を併記するタイプのものを備えているが、8801編成のみは「北鉄金沢-内灘」固定表示のアクリル板に交換されている[注釈 7]。また、側面行先表示幕非装備の第1・2編成から改造された8800番台の編成は、運転室直後の側窓内側に側面行先表示幕を新設している[注釈 8]。
浅野川線では1500V昇圧と同時にワンマン運転の開始を予定していたことから、本系列は当初からデッドマン装置・運賃箱・車内運賃表示器等ワンマン運転関連の機器を搭載して登場した他、モハ8810形・8910形の運転台直後の扉に半自動扉扱い用車外スイッチが設置されている。その他、全編成とも正面床下に大型の排雪器(スノープラウ)を装備[注釈 9]し、運転台からの操作によりレール面からの高さ調整を行う機能を備えている。
8800番台2編成・8900番台3編成の計10両が浅野川線に所属し、番台ごとの区別なく運用されている。
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8800番台の運転台(モハ8811)
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8800番台の乗務員室(モハ8802)
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狭幅の8800番台の車内(モハ8802)
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広幅の8900番台の車内(モハ8912)
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TS801A台車(モハ8801)
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大型のスノープラウ(モハ8811)
7700系
[編集]北陸鉄道7700系電車 | |
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基本情報 | |
運用者 | 北陸鉄道 |
種車 | 京王3000系電車 |
改造所 | 京王重機整備 |
改造数 | 2両 |
運用開始 | 2007年 |
主要諸元 | |
編成 | 2両編成 (1M1T) |
軌間 | 1,067 mm |
電気方式 | 直流 600 V |
最高運転速度 | 70 km/h |
全長 | 18,500 mm |
全幅 | 2,872 mm |
全高 | 4,100 mm |
車体 | ステンレス |
主電動機 | 直巻電動機HS-836-Frb |
主電動機出力 | 96 kW |
駆動方式 | 中空軸平行カルダン駆動方式 |
歯車比 | 15:84=1:5.60 |
編成出力 | 384 kW |
制御方式 | 抵抗制御 |
制御装置 | 電動カム軸式抵抗制御CS20A |
制動装置 | HSC-D発電ブレーキ併用電磁直通ブレーキ |
保安装置 | ATS |
もとは京王3000系第11編成の両端クハで、車体外観は8900番台とほぼ同一である。また、分散型冷房装置を搭載する車両であること、電動車化に際しては連結面寄りの冷房装置を1基撤去し、空いたスペースにパンタグラフを新設したこと、ワンマン運転関連の機器を新規搭載したこと等も8000系と同様であった。
石川線の架線電圧は600Vであることから、主要機器をそのまま移設搭載した8000系とは異なり、電装品はそのほとんどが換装され、7000系と同様1M1T編成化された。制御器はCS20A型、主電動機は日立製作所製HS836Frb(MT54)型、台車はモハ7700形が住友金属工業製FS342型、クハ7710形はDT21T型といずれも西武鉄道および東日本旅客鉄道(JR東日本)からの廃車発生品で揃えられ、7000系との仕様の統一が図られた。ただし補助電源は静止形インバータが新製され、クハ7710形に搭載されている。また、新設されたパンタグラフ台座は通常形状のものとされ、8000系のような背高形状にはなっていない。
車体関連では8000系8903編成と同様に正面窓下通風口が廃止されたことに加え、8000系では前照灯周りがクリーム色に塗りわけられていたが、本系列ではオレンジ一色とされたこと、正面排雪器が7000系と同一形状のものとされたこと[注釈 10]が主な相違点である。なお時期は不明だが前照灯周りの塗りわけは浅野川線8000系同様のクリーム色に塗り直されている。その他、種車の製造年次の相違から、客用扉窓の支持方法が8900番台のHゴムタイプに対し、本系列では押さえ金タイプとなっている。なお、半自動扉扱い用車外スイッチは本系列では各車の運転室直後の扉に設置されている。
本系列は2007年(平成19年)2月より営業運転を開始し、7000系と共通運用で使用されている。
2019年(平成31年)2月6日より、シングルアームパンタグラフに更新されている。
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7700系の運転台(クハ7711)
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7700系の乗務員室(クハ7711)
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7700系の車内(クハ7711)
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シングルアームパンタグラフ
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7701のFS342台車
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7711のDT21T台車
車歴
[編集]- 8000系
車番 | 竣工年月 | 京王時代の旧番 | 製造年 | 最終運行年 |
モハ8801-モハ8811 | 1996年(平成8年)12月 | クハ3751, クハ3701 | 1962年(昭和37年) | 運用中 |
モハ8802-モハ8812 | 1996年(平成8年)12月 | クハ3752, クハ3702 | 1963年(昭和38年) | 2022年(令和4年) |
モハ8901-モハ8911 | 1996年(平成8年)12月 | クハ3753, クハ3703 | 1963年(昭和38年) | 2021年(令和3年) |
モハ8902-モハ8912 | 1996年(平成8年)12月 | クハ3754, クハ3704 | 1964年(昭和39年) | 2023年(令和5年) |
モハ8903-モハ8913 | 1998年(平成10年)10月 | クハ3755, クハ3705 | 1964年(昭和39年) | 2020年(令和2年) |
- 7700系
車番 | 竣工年月 | 京王時代の旧番 | 製造年 |
モハ7701-クハ7711 | 2006年(平成18年)11月 | クハ3761, クハ3711 | 1967年(昭和42年) |
今後の予定
[編集]種車の製造から60年近く経過しており老朽化が顕著であることから、東京地下鉄より譲受した03系電車を浅野川線に導入し、今後8000系を順次置き換える予定となっている[1]。2020年(令和2年)12月18日をもって8903編成[2][3]、2021年(令和3年)5月31日をもって8901編成[4]が営業運転を終了した。8802編成は2022年(令和4年)7月9日より、先頭部FRPと側面帯を京王時代のアイボリーホワイトに変更した「復刻塗装車」[5]となったのち、同年9月24日をもって運行を終了[6]。その3ヶ月後の12月、銚子電鉄2000形(元京王2010系→伊予鉄道800系)の客用ドアが、沿線の潮風による塩害で使用不能になったことを知り、北陸鉄道側から当該編成の客用ドア12枚と乗務員室扉4枚全てを銚子電鉄に譲渡した[7]。2023年(令和5年)4月29日からは創立80周年記念企画として、8801編成が同様の「復刻塗装車」(先頭部FRPと側面帯はブルーグリーン)となって運行されている[8]。同年7月15日[注釈 11]をもって8902編成が運行を終了した[9]。
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引退記念ヘッドマークを装着した8901編成(8901)
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同(8911)
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京王時代のアイボリーホワイトに塗装した「復刻塗装車」8802編成
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京王時代のブルーグリーンに塗装した「復刻塗装車」8801編成
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ a b 端子電圧375V時定格出力100kW
- ^ 従来車の内モハ3301・3563の2両は昇圧後も残存したが、これは近代化助成制度の車両代替規定に基く代替廃車用車両確保の目的で残存したものであった。その後この2両は1998年(平成10年)に入線した8903編成の代替で廃車となっている。
- ^ 7000系第1編成(7000形)は非冷房車であり、夏季には予備車扱いとされていたが、検査入場等で車両不足をきたした際には運用に入ることがあった。
- ^ 近代化助成制度の車両代替規定に基く従来車の廃車は、本系列入線直前の2006年(平成18年)10月に行われた。
- ^ 抵抗制御方式で直巻電動機を搭載した第1 - 9編成のいずれかより流用されている。
- ^ 京王での廃車時期の関係で入線が遅れたものである。
- ^ そのため急行運転を行っていた当時は、この編成のみ正面窓内側に設置された種別板による種別表示を行っていた。
- ^ 前面行先表示幕連動の電動幕であるが、前述8801編成は「北鉄金沢-内灘」を掲出した状態で固定している。
- ^ 8802編成は深夜の除雪運転時に優先的に使用するため、排雪器を先端形状が尖ったものに交換されている。
- ^ 運転台からの高さ調整機能は持っていない。
- ^ 公式発表では7月16日となっているが、実際の運行はこの日終了[9]。
出典
[編集]- ^ “浅野川線、21日に新車両 北鉄”. 北國新聞. (2020年12月2日). オリジナルの2020年12月1日時点におけるアーカイブ。 2020年12月1日閲覧。
- ^ “浅野川線引退車両8903+8913号車ラストランについて”. 北陸鉄道. 2020年11月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年12月2日閲覧。
- ^ 『浅野川線新型車両03系の営業運転開始に関するイベントについて』(PDF)(プレスリリース)北陸鉄道、2020年11月30日。オリジナルの2020年11月30日時点におけるアーカイブ 。2020年12月2日閲覧。
- ^ 『浅野川線8901+8911号車引退を記念した通信販売限定グッズの発売について』(PDF)(プレスリリース)北陸鉄道 。2021年6月9日閲覧。
- ^ 『浅野川線でなつかしの京王電鉄井の頭線カラーを再現した車両を運行します』(PDF)(プレスリリース)北陸鉄道 。2022年7月18日閲覧。
- ^ 『浅野川線8802+8812号引退記念企画の実施について』(PDF)(プレスリリース)北陸鉄道、2022年8月22日 。2022年8月25日閲覧。
- ^ “銚子電鉄“再びピンチ” 救ったのはローカル鉄道“同士の絆”…開業100周年コラボも”. テレ朝news. テレビ朝日 (2022年12月23日). 2024年12月10日閲覧。
- ^ 『北陸鉄道創立80周年記念企画 浅野川線でなつかしの京王電鉄井の頭線カラーを再現した車両を運行します』(PDF)(プレスリリース)北陸鉄道 。2023年4月10日閲覧。
- ^ a b “浅野川線8000系の運用予定表について(7月)”. 北陸鉄道 (2023年7月6日). 2023年7月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年7月16日閲覧。