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口遊

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

口遊』(くちずさみ)とは、平安時代中期に編纂された児童向けの学習教養書。全一巻。源為憲の作。ただし書名は「くちすさび」と読んだかともいう。

解説

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本書はその序文によれば、藤原為光の子である当時7歳の松雄君(のちの藤原誠信)のために編纂されたもので、内容を「門」と称して19の分野に分け、さらに「門」の中の各記事を「曲」と称して数え、総勢378曲を収録したという。序文の最後に「天禄元年冬十二月二十七日」(971年1月26日)と記す。本文は漢文で記され、和歌等は借字で表記される。その「門」の内容は、現存する唯一の伝本である真福寺本によれば以下の通りである。

  • 乾象門六曲
  • 時節門九曲
  • 年代門三曲
  • 坤儀門五曲
  • 諸国門三曲
  • 田舎門九曲
  • 宮城門十三曲
  • 居処門三曲
  • 内典門四十一曲
  • 人倫門十七曲
  • 官職門五十五曲
  • 陰陽門四十三曲
  • 薬方門九曲
  • 飲食門六曲
  • 書籍門二十六曲
  • 音楽門十六曲
  • 技芸門五曲
  • 禽獣門九曲
  • 雑事門十一曲

しかし上でも見られるように実際の「曲」の数は序文に示すものより少なく異なっており、本文を見ても「略之」(これを略す)と記したところがあることから、現存の真福寺本は本来の内容そのままではない「略本」、すなわち抄出本ではないかともいわれている。また巻末には「人事篇」と「竹束篇」という他書からの引用と見られる記事が加えられている。

「曲」の内容は上であげた「門」の様々な知識を、歌うように暗誦して覚えられる形にまとめたものである。たとえば「乾象門」(乾象とは天文のこと)の冒頭には、

というように、覚える物の名をあらわして最後に「これを何々と謂ふ」と但し書きを付け、さらに記事によってはそのあとに「今案ずるに…」と注釈を1字分ほど下げて書き加えるという体裁になっている。ほかに所収の記事としては、いろは歌に先行するとされる仮名を重複させない誦文「大為爾の歌」や、掛け算の暗唱句である「九九」、また十二支(子・丑・寅・卯…)なども収録し、さらに「夜道で死人に出会った時唱える歌」や当時において巨大とされた「三大建築物」、また「三大橋」など興味深いものがある。本書は当時広く流布し『江談抄』などにその書名が見え、のちに類書である『二中歴』・『簾中抄』・『拾芥抄』の内容にも大きな影響を与えた。

『口遊』は弘長3年(1263年)の奥書を持つ大須観音(真福寺)所蔵の「真福寺本」が現存唯一の伝本であり、重要文化財に指定されている。江戸時代には文化4年(1807年)に真福寺本を模写した木板本が京都で刊行されており、のちに『続群書類従』にその本文を底本として収録する。平成9年(1997年)に勉誠社(現勉誠出版)から『口遊注解』が出ているが、現在は品切れとなっている。

参考文献

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  • 『口遊』〈『続群書類従』第三十二輯上 雑部〉 続群書類従完成会、1958年
  • 『群書解題』(第八巻雑部) 続群書類従完成会、1986年 ※「口遊」の項(472頁)

外部リンク

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  • 口遊 ※真福寺本(模刻)、文化4年刊。