地震学をつくった男・大森房吉
地震学をつくった男・大森房吉 | ||
---|---|---|
著者 | 上山明博 | |
発行日 | 2018年7月20日 | |
発行元 | 青土社 | |
ジャンル | ノンフィクション、記録文学 | |
国 | 日本 | |
言語 | 日本語 | |
形態 | ソフトカバー | |
ページ数 | 272 | |
公式サイト | 公式ホームページ | |
コード | ISBN 978-4791770816 | |
ウィキポータル 文学 | ||
|
『地震学をつくった男・大森房吉』(じしんがくをつくったおとこ・おおもりふさきち)は、ノンフィクション作家上山明博が5年の歳月をかけて取材執筆を行い、大森房吉生誕150周年、関東大震災95周年にあたる2018年に青土社より刊行。吉村昭が先導した記録文学の新たな可能性を追求するノンフィクション作品として、上山の代表作のひとつに挙げられる。[1]
関東大震災100周年にあたる2023年、本書はNHK BSプレミアム「英雄たちの選択:幻の地震予知─大森房吉と関東大震災」の情報源として用いられ、著者の上山明博は、鷺谷威(名古屋大学地震学教授)、関谷直也(東京大学社会心理学准教授)とともにスタジオ出演し、大森房吉が再評価される契機となった。
概要
[編集]かつて国民の多くから敬愛された大森房吉博士は、世界の人びとから「地震学の父」と称揚され、1916年には日本人初のノーベル賞候補にノミネートされた。その大森博士が今なぜ忘れ去られようとしているのか。その疑問を解くために著者は本格的に調査を開始する。するとすぐにその原因が、関東大震災にあることがわかった。「地震の生き神さん」と国民から褒めそやされた大森博士は、日本史上最悪の大惨事をもたらした関東大地震が起きた際、「大震災を予知できなかった無能な地震学者」と罵られ、その責任と非難を一身に背負ったまま、地震発生の2カ月後に急逝したのだった。
大森房吉は世界に誇るべき偉大な地震学者なのか、それとも大震災を予知できなかった無能な地震学者だったのか。それを確かめるために国立国会図書館や東京大学地震研究所に通い、大森の言動を伝える当時の新聞や雑誌、また大森が発表した研究論文に片っ端から目を通していく。調査にあたって、近代日本の震災史の原点ともいえる関東大震災の地震の深層に分け入り、歷史の闇から真実の断片を掬い上げ、光を当てることに心がけた。もとよりその目的は、大森の死を歷史に埋もれさせないことにあった。調査を進めるなかでさまざまな発見があり、先人が残した業績の偉大さを改めて認識した。かねてより敬愛する作家吉村昭の『関東大震災』を遠くに仰ぎ見ながら、吉村氏の跡を追うように取材執筆をつづけた。
ある日、国立国会図書館で調査を進めるなかで思いがけず、『朝日新聞』(1953年9月1日第6面)の寄稿記事に目を留めた。その記事には、寄稿者の大島正満理学博士が、関東大震災が起きる1カ月半前の1923年7月に大森と歓談した際、大森は「次に起るべき大地震はここですよ」と言いながら、地図で東京湾湾頭を指差したことが証言されていた。大森が指摘する「次に起るべき大地震」とは、相模湾沖を震源とする関東大地震にほかならない。大島の証言によって大森が地震を予知していた事実を知った著者は、「次に起るべき大地震(関東大地震)」の震源域を正しく予見するに至った大森の、科学的な根拠を探るために、さらに調査を進めた。そしてある学術雑誌に、大森が東京に大地震が起ることを予知していたと考えられる研究論文を発見する。しかもそこには、次に起るべき大地震の震源域が相模湾沖であることを示唆する地図が含まれていた。──大森房吉は、じつは次にどこで大地震が起るかを科学的に正確に予見していたのである。
これは、大森房吉生誕150周年、関東大震災95周年にあたる2018年に、関東大震災に至る地震予知の実相を多くの確かな証言と新資料をもとに初めて明らかにした評伝ノンフィクションである。[2]
目次
[編集]- プロローグ
- 「地震の生き神さん」との対面
- 地震学の父の信念と苦悩
- 第一章 地震学の黎明
- 地震学への道
- 近代地震学の祖ジョン・ミルン
- 世界で最初の地震学会
- 第二章 姿なき研究機関
- 濃尾地震の衝撃
- 震災予防調査会
- 地震学の白亜の殿堂
- 第三章 東京大地震襲来論争
- 今村博士の「丙午東京大地震襲来説」
- 二人の帝大博士による大地震論争
- 六十年目の前触れ
- 大震災の予知をめざして
- 第四章 関東大震災
- 運命の大正十二年九月一日
- 被服廠跡の震災記念堂をゆく
- 関東大地震の実相
- 地震周期をめぐる論争の顛末
- 第五章 地震学の父の死
- 民心鎮静の犠牲
- 吉村昭の『関東大震災』
- 震源地争い
- 地下でいまも動きつづける大森式地震計
- 第六章 関東大震災の真実
- 次に起るべき大地震はここですよ
- 大森博士の幻の地震予知を追って
- 地震学者の使命と責任
- エピローグ
- 大森家の戸籍
- 大森氏之墓
- あとがき
- 大森房吉と地震年表
- 主な参考文献[3]
書誌事項
[編集]参考文献
[編集]- 新聞社会面記事「大森房吉の偉業に光─上山さんが新著」福井新聞社会部記者/近藤洋平 記『福井新聞』社会面2018年6月24日
- 新聞書評「生誕150年に初の伝記」評者=科学史研究家・元朝日新聞編集委員/泊次郎『東京新聞』読書面2018年8月5日
- 新聞書評「ふたりの博士のくやしい思い」評者=東京工業大学社会理工学研究科教授/山室恭子『朝日新聞』読書面2018年9月1日
- 雑誌記事「関東大震災発生を予知していた天才地震学者は、なぜ日本人に忘れられたか」浅羽登志也『DIAMOND online』ダイヤモンド社,2018年9月1日
- 学術誌書評『地震学をつくった男・大森房吉─幻の地震予知と関東大震災の真実』評者=東京大学名誉教授・地震学者/ロバート・ゲラー『地學雑誌』東京地学協会,2020年129巻1号
- 雑誌記事「大森房吉と今村明恒─二人の地震学者が成そうとしたこと」上山明博『歴史街道:関東大震災100周年特集』PHP研究所,2023年10月・通巻426号[5][6]
関連資料
[編集]- 「地震学をつくった男・大森房吉─幻の地震予知と関東大震災の真実」出版記念講演.講師=上山明博/開催日時=2018年10月9日(火)17:30~19:00/会場=日本文藝家協会(千代田区紀尾井町3-23文藝春秋ビル新館5F)/主催=脱原発社会をめざす文学者の会(会長=加賀乙彦)
- 「地震学をつくった男・大森房吉─生誕150年を迎えて」ふくい中央みらいカレッジ市民公開講座.講師=上山明博/開催日時=2019年3月9日(土)14:00~16:00/会場=JR福井駅前アオッサ601大会議室(福井市手寄1-4-1)/主催=福井市中央公民館+旭公民館
- NHK BSプレミアム関東大震災100周年企画「英雄たちの選択:幻の地震予知─大森房吉と関東大震災」司会=磯田道史(歴史学者)、杉浦友紀(NHKアナウンサー)/ゲスト出演=上山明博(ノンフィクション作家)、鷺谷威(地震学者)、関谷直也(社会心理学者)/放送日時=2023年3月8日(水)20:00~21:00
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ 上山明博著者紹介
- ^ 電子書籍情報2021年9月15日参照。
- ^ 『地震学をつくった男・大森房吉』青土社著書紹介
- ^ 『地震学をつくった男・大森房吉』奥付より
- ^ 歴史街道2023年10月・通巻426号.目次|PHP研究所参照。
- ^ 雑誌記事「大森房吉と今村明恒」(テキスト)上山明博note参照。