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基本母音

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

基本母音(きほんぼいん、英語: cardinal vowels)とは、イギリスの音声学者ダニエル・ジョーンズによって定められた言語音を記述する基準となる基本的な母音のことである。母音が形成される領域内で最も外側に位置する18の母音が設定された。

基本母音は人工的に定義されたもので、既存の特定の言語の母音に合わせたものではない。

目的

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基本母音を定義するのは、母音図上に定点を与えることを目的とする。基本母音に熟達することにより、音声学者は特別な機械を使わなくてもある母音を聞いた時に「[e][ɛ] の中間の音」というようにその母音を比較的正確に記述できるようになる。

第一次基本母音

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18の基本母音のうち最初の8つを第一次基本母音と呼ぶ。第一次基本母音のうち純粋に調音音声学的に定義されているのは [i](1) と [ɑ](5) の 2つだけである[1]

  • [i](1): 有声硬口蓋摩擦音 [ʝ] にならない限界において舌が最も前で最も硬口蓋に近づいて調音される音である。唇は横に引く(張唇)。
  • [ɑ](5): 有声咽頭摩擦音 [ʕ] にならない限界においてなるべく舌を下・奥の位置に置く。唇は横に引かず、丸めもしない。

それ以外の [e](2)・[ɛ](3)・[a](4) は、(1) と (5) の中間の前舌母音で、フォルマント F1 の周波数が等間隔に高くなっていくように配置される。張唇の度合いも徐々に下げていく。

[ɔ](6)・[o](7)・[u](8) は奥舌母音で、やはり F1 が等間隔に低くなっていくように配置される。唇は徐々に円唇度をあげていき、[u] は可能な限りもっとも狭くかつもっとも突き出した円唇奥舌母音になる。

上記のように基本母音の定義には調音と音響の両方がかかわっている。しばしば基本母音の「高さ」(F1 の周波数)が舌の最高点の位置に対応するように記述されることがあるが、これは現実の口の動きと一致しない[2]。前舌・奥舌というのも実際には音響的に定義される(F1 と F2 の周波数の差が大きいのが前舌、小さいのが奥舌)。

第二次基本母音

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上記の8つの第一次基本母音に対して、円唇性・張唇性を逆にした母音を基本母音9から16までとする。すなわち [y](9) は [i] と同じ舌の位置で、[u] と同じ円唇母音になる。

さらに [i][u] の中間の位置にある中舌狭母音 [ɨ](17、非円唇)・[ʉ](18、円唇) の2つを加える。基本母音9から18までを第二次基本母音と称する。

一覧

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母音
前舌 前舌め 中舌 後舌め 後舌
i • y
ɨ • ʉ
ɯ • u
ɪ • ʏ
ɪ̈ • ʊ̈
ɯ̽ • ʊ
e • ø
ɘ • ɵ
ɤ • o
 • ø̞
ə • ɵ̞
ɤ̞ • 
ɛ • œ
ɜ • ɞ
ʌ • ɔ
æ • 
ɐ • ɞ̞
a • ɶ
ɑ • ɒ
広めの狭
半狭
中央
半広
狭めの広
記号が二つ並んでいるものは、左が非円唇、右が円唇
国際音声記号 - 母音
No. IPA 記述
1 [i] 非円唇前舌狭母音
2 [e] 非円唇前舌半狭母音
3 [ɛ] 非円唇前舌半広母音
4 [a] 非円唇前舌広母音
5 [ɑ] 非円唇後舌広母音
6 [ɔ] 円唇後舌半広母音
7 [o] 円唇後舌半狭母音
8 [u] 円唇後舌狭母音
9 [y] 円唇前舌狭母音
10 [ø] 円唇前舌半狭母音
11 [œ] 円唇前舌半広母音
12 [ɶ] 円唇前舌広母音
13 [ɒ] 円唇後舌広母音
14 [ʌ] 非円唇後舌半広母音
15 [ɤ] 非円唇後舌半狭母音
16 [ɯ] 非円唇後舌狭母音
17 [ɨ] 非円唇中舌狭母音
18 [ʉ] 円唇中舌狭母音

脚注

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  1. ^ Ladefoged (2001) p.201
  2. ^ Ladefoged (2001) pp.202-203

参考文献

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  • Ladefoged, Peter (2001). A Course in Phonetics (Fourth ed.). Heinle & Heinle. ISBN 0155073192 
  • Ladefoged, Peter and Sandra F. Disner (2012) Vowels and Consonants, Wily-Blackwell, 『母音と子音:音声学の世界に踏み出そう』田村幸誠・貞光宮城訳、開拓社、2021年. ISBN 978-4-7589-2286-9

外部リンク

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