大同江ビール
大同江ビール(テドンガンビール) | |
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北朝鮮で飲用される。(写真は羊角島国際ホテル) | |
各種表記 | |
チョソングル: | 대동강맥주 |
漢字: | 大同江麥酒 |
発音: |
テドンガンメッチュ (テドンガンメクチュ) |
日本語読み: | だいどうこうばくしゅ |
文化観光部式転写: MR式転写: 英語表記: |
Daedong-gang maekju Taetong-kang maekchu Taedonggang beer |
大同江ビール(テドンガンビール、大同江麦酒、대동강맥주)は、朝鮮半島のビール。北側(朝鮮民主主義人民共和国)だけでなく南側(大韓民国)でも愛飲されていた[1]が、2010年の5.24制裁措置によって輸出が中止された[2]。朝鮮半島北部最大級の川である大同江が流れる平壌市に、大同江ビールの工場がある。大同江ビールは、平壌市に200店舗(2005年)ある「大同江ビアホール」(大同江ビール工場直営)に置いている他、平壌高麗ホテル[3]、玉流館、ソウル市の飲食店[4]などに置いている。市民に上質のビールをという、金正日総書記の思い入れがある、別名「『アツい』ビール」[5]。
概要
[編集]工場設備買収
[編集]2000年、イギリスのアッシャーズビール工場(en:Ushers of Trowbridge)は、不採算性を理由としてオーナーにより閉鎖され、設備がマーケットに売り出されていた。一方で朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は、金正日総書記の意向により、買収可能なビール工場の設備をドイツのエージェントに相談。 エージェントはアッシャーズビール工場のオーナーに話を持ちかけた。同年、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)はアッシャーズビール工場の設備を買収。[6]工場建設には、資金管理をしている張成沢第1副部長の指示があった[7]。
工場建設
[編集]2001年1月15日、平壌市の寺洞区域(사동구역 サドン=グヨク en:Sadong-guyŏk)で、大同江ビール工場着工[8]。
2001年3月、朝鮮中央放送は、大同江ビール工場の建設が順調と報道[9]。
2001年7月、洪成南(홍성남 ホン・ソンナム en:Hong Song-nam)総理参加の平壌市民大会(於: 金日成広場)で、翌年の金日成主席生誕90周年を迎えるにあたり、大同江ビール工場建設に力を入れる呼びかけがあった[10]。
2001年8月、金正日総書記は、ロシア最大手のビール会社のバルチカ(バルティカ)ビール社(ru:ОАО ≪Пивоваренная компания Балтика≫; en:≪Baltika Breweries≫)の工場を視察。それを端緒に、大同江ビール工場の技術者たちは、バルチカビール社と2度の技術交流を持った[11]。
2001年10月、大同江ビール工場建設が最終段階に入り、それに伴い平壌市内に約200店舗の飲料店開設を予定する[12]。
生産開始
[編集]2002年4月、大同江ビール工場は本格的生産を開始、設備はオーストラリア製[13]。醸造所は、イギリスから移築したアッシャーズビール工場[14]。国内産の麦から麦芽を作る設備は施工中で、暫定的にオーストラリア産の麦芽を輸入[15]。
金正日総書記による大同江ビール工場視察後
[編集]2002年6月、金正日総書記が大同江ビール工場を視察、朝鮮式ビール生産の先進技術導入を指示[16]、金正日総書記の指導を受けた大同江ビール工場の副技師長は、青島ビール(中国)、ドイツ、イギリス、スウェーデンなどに研修に行く[1]。同月、平壌市内を中心として数百カ所のビアホールがオープンしており、大同江ビール工場が生ビールを供給[17]。
2004年4月、ドイツ製の最先端コンピューター醸造システムの使用が明らかに。ビール醸造の技術者は、全職員が国際基準の品質への努力をしていると話す。[18]
2005年3月、平壌で大同江ビールの直営店「大同江ビアホール」約150店舗が運営され、平日は15時から19時、日曜日は12時から営業し、勤労者や市民達で混雑している[19]。同月、テレビ朝日が入手した映像によると、大同江ビール工場のビールサーバーは日本製を使用(中身は大同江ビール)[20]。
2005年9月、METI所管法人ERINAによる市場での価格交渉では、大同江ビールの原麦汁濃度11°のボトルは850から950ウォン(2004年8月は660ウォン)。ただし、平壌の市民間での価格とは違う可能性があるという。[21]
2005年10月、オープンから3年が経った大同江ビール工場と、200店舗の直営店が、既に運営されている。工場は敷地10万ha、建坪2万ha。設備はオートメーション化されている。アルコール度数5.6%の生ビールの年産は7万kl(1時間に1万本、1日に8万本)。直営店「大同江ビアホール」では生ビール1Lで50ウォン。ホップの原料は両江道、麦は両江道と黄海道のものを使用。[1]
2008年3月、大同江ビール工場は、品質向上のために著名ビールと比較、分析し、よりよいビール造りに努めている。鮮度保持のために生産ラインは24時間体制である。同時節、金日成主席生誕祝いの「太陽節(ko:태양절)」に向けての「大同江黒ビール」(黒生ビール)生産に注力。「大同江黒ビール」は、国民的祝日だけの限定生産で、前年(2007年)の生産は1回のみ。[5]
2008年5月、アメリカ合衆国・ニューヨークの、「平壌焼酎(평양소주 Pyongyang Soju)」のアメリカへの輸入を手がけている「米州朝鮮平壌貿易会社(KPT USA)」(アメリカでの販売は「タンス・リカー(Tang's Liquor Wholesale)」による)は大同江ビールの輸入推進を明言した[22]。
2008年11月、ソウルで開催されたソウル国際食品産業展「FOOD WEEK 2008」で、北側(朝鮮民主主義人民共和国)の民族経済協力連合会は、大同江ビールを出品した[23]。
2009年7月、以前に大同江ビール工場建設の進捗状況を報道した朝鮮中央放送により、白米を原料に使用[脚注 1]しているとして大同江ビールの本格的なTVコマーシャルが放送されている。朝鮮中央放送は、7月2日20時のニュース後に大同江ビールのコマーシャル[24]を放送した。簡単な静止画によるコマーシャルでない、動画のコマーシャル放送は異例で、初の試みという[25]。7月2日以降も大同江ビールのTVコマーシャルを断続的に放送している[26]。同時期の大同江ビールの相場は、平壌のホテルで外国人向け販売価格が1本約1.5ドル[14]。
2009年8月、大同江ビールに始まった各TVコマーシャル(他に、高麗人参、ヘアピン、玉流館のウズラ料理)は中止され、大同江ビールは7月の初放送以来、計3回の放送で中止している[27]。
味覚および風味のデータ
[編集]- 朝鮮新報は、少しツーンとするホップが、「南側(大韓民国)ではとても受けている」(大同江ビール工場の副技師長の話)とし、また、「アサヒスーパードライなどにも遜色ない味に向上」(同副技師長)していると報じている[1]。
- 韓国食文化研究所の所長は、十分なボリュームの泡立ちがある、少し強いホップがはっきり出ていて、好みである、と叙述している[3]。
- 公益財団法人環日本海経済研究所(ERINA)は、味に特色があって楽しめると報告している[28]。
- ロイター通信は、「非常に優れた味」という品評をしている[29]。
- FNNクアラルンプール支局は、「けっこうコクがあってなかなかの味。日本人好みかも」と分析している[4]。
- 藤本健二は、金正日総書記が後味のすっきりしない感じを気にしていたことをFNNの取材で回想している[30]。
- 2009年、朝鮮中央放送は「クリアですっきりした味」と、TVコマーシャルの中でPRしている[31]。
- 新発売(2003年当時)の大同江黒ビールに関して、「あっさりして飲みやすかった」と、日本在住の朝鮮大学校学部生による祖国朝鮮民主主義人民共和国(北側)滞在時の体験談として、朝鮮新報の紹介がある[32]。
- 朝鮮新報が独自にミックスした大同江ビール(生)と大同江黒ビール(黒生)の「ハーフ&ハーフ」に関して、同紙は平壌の景観を例に、青空を想起するさわやかさでいっぱいと表現している[1]。
商品構成
[編集]- 大同江ビールは、アルコール度数の違う複数の商品がある。
- 3.5% - 『ネナラ』ニュース調べ
- 4% - 『ネナラ』ニュース調べ
- 5% - 『ネナラ』ニュース調べ
- 5.6% - 朝鮮新報調べ
- 黒ビール(흑맥주) - ハングルは朝鮮中央通信による表記[33]
- ※ 限定生産。
- 白米ビール(흰쌀맥주) - ハングルは朝鮮中央通信による表記[33]
- ※ 2009年、朝鮮中央放送により、白米の使用がテレビで宣伝された。
販売商品
[編集]大同江ビールは7種類あると言われる[34]。
- 大同江ビール①
- 原材料:大麦麦芽(100%)、ホップ
- アルコール分:4%
- 大同江ビール②
- 原材料:大麦麦芽、米(30%)、ホップ
- アルコール分:4.5%
- 「大同江ビール」と言ったら②のことを指すことが多い。真贋のほどは定かではないが、北朝鮮以外でも販売されている[35]。なお、日本への輸入は外為法で禁止されるため、密輸された本品はインターネットオークションなどで「幻のビール」として高値で取引されている[36]。
- ③以下のものは旅行者向けの売店では販売されていない。およそ北朝鮮国籍若しくは永住権を取得しないと味わえない、よりプレミアムなものになる。
- 大同江ビール③ (麦芽50%、米50%)
- 大同江ビール④ (麦芽30%、米70%)
- 大同江ビール⑤ (米100%)
- 大同江ビール⑥ 黒ビール、コーヒーのような味。
- 大同江ビール⑦ 黒ビール、チョコレートのような味。
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大同江ビール、2019年9月撮影
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大同江ビール
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大同江ビール
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大同江ビール
大同江ビール祭り
[編集]2016年8月、大同江ビール工場による第1回ビールフェスティバルが平壌市内で開催。約1カ月間で平壌市民や外国人観光客など約45,000人が訪れたと伝えられている。2017年も、旅行社などを通じて7月28日からビール祭りが開催されることがアナウンスされていたが、直前になって中止された[37]。
関連項目
[編集]- 北朝鮮のビール
- 大同江区域
- 寺洞区域
- 大同郡
- zh:大同門(ko:대동문 テドンムン en:Taedongmun)
- 平壌ビール(평양맥주)
- 金剛ビール(금강맥주 クムガンビール Kumgang-beer)
- 鳳鶴ビール(봉학맥주 ポンハクビール Ponghak-beer)
- 龍城ビール(룡성맥주 リョンソンビール Ryongsong-beer)
脚注
[編集]- ^ コメのビールに関して
- 北側(朝鮮民主主義人民共和国)の龍城ビール(リョンソンビール)も白米を使用している。
- 南側(大韓民国)では「米ビール(コメビール)」を開発しており、2007年、国税庁技術研究所が開発した「米ビール」を、中央日報は報道した[ext]。
※ アメリカのビールも「米ビール(ベイビール)」と表現されるが、意味が異なる。 - スイスではCOOPが「FINE FOOD」シリーズとしてBIRRA DI RISO TICINESE(イタリア語。読み方はビーラ・ディ・リーゾ・ティチネーゼ。直訳すると「コメのビール、ティチーノの」)というコメのビールを販売している。
- イタリアではRISO SCOTTI S.p.A.(リーゾ・スコッティ株式会社)がBIRRA AL RISO(ビーラ・アル・リーゾ。直訳は「コメによるビール」)を特別品として生産している。
- 台湾では台湾菸酒公司が蓬萊米を使った台湾ビールを作っている。
- 日本では
参考文献
[編集]- ^ a b c d e 市民に愛される大同江ビール Archived 2014年12月26日, at the Wayback Machine. 朝鮮新報 2005年10月28日
- ^ 朝鮮語版本記事を参照
- ^ a b 平壌、開城、朝鮮の食事情 朝鮮の人々と食品に関する意見交換 Archived 2006年10月19日, at the Wayback Machine. 朝鮮新報 2005年10月21日
- ^ a b ソウルフードと北朝鮮ビール Archived 2009年12月27日, at the Wayback Machine. FNNクアラルンプール支局
- ^ a b 「太陽節」に向けて 朝鮮新報 2008年3月26日
- ^ 北朝鮮はけっこうマメに色々やってる gooニュース 2009年7月6日
- ^ 「ポスト金正日」の行方(下) 韓国国家安保戦略研究所専任研究委員 金光進氏に聞く 世界日報 2008年9月30日
- ^ ニュースPICK-UP 大同江ビール工場着工式 朝鮮新報 2001年1月22日
- ^ 平壌に近代ビール工場 アジアの経済ビジネス情報 NNA.ASIA 2001年3月7日
- ^ 平壌で市民大会 朝鮮新報 2001年7月20日
- ^ 「今後も関係深めたい」中国駐在バルチカ・ビール社代表 オレグ・アリョーヒンさん Archived 2016年3月5日, at the Wayback Machine. 朝鮮新報 2009年5月18日
- ^ 大同江ビール工場建設が最終段階に 朝鮮新報 2001年10月17日
- ^ 生ビール専門の大同江ビール工場 朝鮮日報 2002年9月13日
- ^ a b 北朝鮮が国産ビール発売開始 「平壌の誇り」とテレビ宣伝 47NEWS(コマーシャル動画) 2009年7月6日
- ^ 豪州産の麦芽でビール生産[リンク切れ] アジアの経済ビジネス情報 NNA.ASIA 2002年7月24日
- ^ 共和国日誌 総書記動静 私設 朝鮮民主主義人民共和国研究室 2002年6月17日
- ^ 平壌市内、ビアホールがブーム 中央日報 2002年6月28日
- ^ 国産ビールが人気[リンク切れ] アジアの経済ビジネス情報 NNA.ASIA 2004年4月28日
- ^ 大同江 ビアホール 北朝鮮問題研究會 NK FOCUS North korea News And Reports 2005年3月8日
- ^ 北朝鮮W杯応援 3泊4日ツアーのすべて 報道ステーション 2005年3月28日
- ^ 統一通り市場の商品価格(朝鮮民主主義人民共和国平壌市) 1.統一通り市場の商品価格(ERINAによる調査) METI所管法人ERINA 2005年9月
- ^ 「平壌焼酎」、米国で販売開始 朝鮮新報2008年5月12日
- ^ ソウルで朝鮮物産展 食品、民芸品など紹介 朝鮮新報 2008年11月28日
- ^ 北朝鮮初の資本主義的商業広告CMが配信、「大同江ビール」 インターネット韓日民間交流団体 KJ CLUB(コマーシャル動画) 2009年7月6日
- ^ 北朝鮮 国営TV局、資本主義色濃いCMを異例放送=ビールを3分弱 - 中国紙 レコードチャイナ 2009年7月4日
- ^ 「ストレス解消、利尿作用」 北朝鮮が国産ビールCM 朝日新聞 2009年7月15日
- ^ 大同江ビールのテレビCMに金総書記が激怒? 朝鮮日報 2009年11月9日
- ^ 朝鮮における軽工業の現代化と人民消費品の生産 2.軽工業の現代化状況 1.食品加工工業(21ページ) ERINA REPORT Vol.83 特集: 朝鮮民主主義人民共和国の経済 2008年9月
- ^ 「北韓の大同江ビールは最高級」ロイター通信 KBS WORLD Radio 2008年3月11日
North Korean beer: great taste, low proliferation risk ロイター通信 2008年3月9日(英語サイト) - ^ FNNスーパーニュース フジテレビ 2009年7月3日
- ^ 北朝鮮でテレビCM放映 ビールをPR 日テレNEWS24(コマーシャル動画) 2009年7月3日
- ^ バーガーショップ、大同江黒ビール体験 朝鮮新報 2003年10月18日
- ^ a b 인기있는 대동강맥주(人気のある大同江ビール) 朝鮮中央通信 2009年6月25日(ハングルサイト。英語サイトに切り替え可。【英語サイト】 Archived 2013年10月13日, at the Wayback Machine.)
- ^ “北, "여름에는 대동강맥주가 최곱네다" - 중앙일보” [北朝鮮「夏には大同江ビールが最高に合う」] (朝鮮語). 中央日報 (2017年6月9日). 2017年8月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年12月2日閲覧。
- ^ “淘宝網の検索ページ” [淘宝網の検索ページ] (中国語) (動的ページ). 2019年12月2日閲覧。
- ^ “北朝鮮ビール不正輸入容疑で少年書類送検 高値で転売”. 朝日新聞. (2019年7月11日) 2019年12月2日閲覧。
- ^ 北朝鮮のビール祭り、突如中止に 干ばつ深刻化が原因か CNN(2017年7月25日)2017年7月26日閲覧
extra. ^ 世界初「米ビール」国税庁が作る 「苦味がなくておいしい」 中央日報 2007年6月6日
外部リンク
[編集]- 朝鮮6.17貿易会社(平壌市寺洞区域所在。大同江ビール関連の会社) 朝鮮民主主義人民共和国 『ネナラ』ニュース
- 淘宝網 (大同江ビール販売ショップ一覧) 『淘宝網』中国語
- コリアツアーズ(日本人向けに中国国内で大同江ビールを提携販売している)『朝鮮旅行』ツアー会社(中国・大連)