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ニワトコ

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接骨木から転送)
ニワトコ
ニワトコ
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : キク類 asterids
階級なし : キキョウ類 campanulids
: マツムシソウ目 Dipsacales
: ガマズミ科 Viburnaceae
: ニワトコ属 Sambucus
: S. racemosa
亜種 : ニワトコ
S. r. subsp. sieboldiana
学名
Sambucus racemosa L. subsp. sieboldiana (Miq.) H.Hara (1956)[1]
シノニム
和名
ニワトコ(接骨木)
英名
Japanese red elder

ニワトコ(接骨木[3]、庭常、学名: Sambucus racemosa subsp. sieboldiana)はガマズミ科[注 1]ニワトコ属落葉低木または小高木。別名セッコツボク[4]。山菜や民間薬に利用される。

名称

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日本の漢字表記である「接骨木」(ニワトコ/せっこつぼく)は、枝や幹を煎じて水あめ状になったものを、骨折の治療の際の湿布剤に用いたためといわれる。中国植物名は、「無梗接骨木(むこうせっこつぼく)」といい、ニワトコは中国で薬用に使われる接骨木の仲間であり[5]、中国名(漢名)で接骨木といえばトウニワトコを指す[6]

地方により、ヤマダズ(山たづ)[5]、タズノキ[5](タヅノキ[7])、ダイノコンゴウ(関東地方[8]などの方言名がある。「山たづ」は、日本最古の歌集『万葉集』にも詠まれた呼び名で、対生羽状複葉ツルの羽を広げた姿に見立てたもので、ツルの古名「たづ」からきているとする説がいわれている[7]

日本での古名はミヤツコギ(造木)と称されており、平安時代の本草書『本草和名』に「接骨木、和名美也都古木」とあり、平安時代後期の歌人源俊頼の自撰歌集『散木奇歌集』には「春たてば 芽ぐむ垣根の みやつこ木 我こそ先に 思ひそめしか」と詠まれている[9]。ミヤツコギの名は「宮仕う木」に由来し、紙を切って木に挟み神前に捧げた幣帛御幣)が、大昔は木を削って作られた木幣だったものと推定され、その材料に主にニワトコが用いられたとの説がいわれている[8]。 また古事記「允恭天皇記」が伝える衣通王の歌に「山たづ」が歌われ、「山たづは今の造木なり」との注釈がある。

分布と生育環境

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日本では、北海道本州四国九州対馬甑島種子島奄美大島を含む)に分布し、日本国外では、朝鮮半島中国に分布する[10][4]。暖地の丘陵山麓谷間などの、原野や山野の林縁などいたるところにみられ[11][4]、湿気があって日当たりのよい所に多い。古来より栽培もされていて庭にも植えられる[12][11]

特徴

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落葉広葉樹低木[12]。樹形は下部からよく分枝し、は独特な弧形を描き、高さは2 - 6メートル (m) になる[11][10][4]の古い樹皮は黒褐色で厚いコルク質があり、目の粗い深いひび割れが入る[3]。枝は太めで毛はなく、樹皮は褐灰色で皮目があり、若い枝は緑色から灰褐色で、生長とともに厚いコルク質層が発達し、縦にひび割れが生じる[3]。枝に太くて白いがある[12][4]。早春に花序と葉が同時に芽吹く[3]

対生し、奇数羽状複葉[10]長さ8 - 30センチメートル (cm)、花のつかない枝の葉は長さ8 cmの葉柄を含めて45 cmになる。小葉は長さ5 - 12 cm、幅1 - 3.5 cmの先のとがった長楕円形から広楕円形で[11][4]、基部は円形か円いくさび形になり、短い小葉柄があり、縁には細鋸歯がある。花のつく枝の小葉は2 - 3対、つかない枝のものは3 - 6対となる。

花期は春(3 - 5月)[3]。若葉が開くとすぐに、今年枝の先端に長さ幅とも3 - 10 cmになる円錐花序をだし、淡黄白色の小さなを多数つける[12][10][4]花冠は径4 - 5ミリメートル (mm) で[4]5深裂し、かすかに匂いがある。雄蘂は5個で花弁より短い。子房は鐘状で3室からなる。

果期は6 - 7月[4]果実は長さ3 - 5 mmになる球卵形の核果となり、梅雨のころに赤色から暗赤色に熟す[12][10][4]。中に3個の種子が入る。果実が黄色に熟す種がまれにあり、キミノニワトコという[10]。果実の中には3個の種子があるが、成熟するのは1 - 2個で、残りは不稔となる。

冬は枝先が枯れることが多いことから、冬芽の頂芽は発達せず、側芽は枝に対生する[3]。頂芽は副芽を伴い、6 - 8枚の芽鱗に覆われる[3]。花芽は大きく、広楕円形で丸みを帯び、葉芽は長卵形である[3]。冬芽のわきにある葉痕は大きく、半円形で維管束痕が3 - 5個つく[3]

栽培

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実生または、挿し木で繁殖させる[12]。定植後に、根元から側芽が多数生えるので、2 - 3本を残して旧枝を剪定する[12]

利用など

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若葉を山菜にして食用としたり、その葉と若い茎を利尿剤に用いたり、また材を細工物にするなど、多くの効用があるため、昔から庭の周辺にも植えられた[6]。魔除けにするところも多く、日本でも小正月の飾りや、アイヌイナウ(御幣)などの材料にされた[8]。樹皮や木部を風呂に入れ、入浴剤にしたり、花を黒焼にしたものや、全草を煎じて飲む伝統風習が日本や世界各地にある[13]

食用

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若葉は山菜として有名で、天ぷらにして食べられる[5]。採取時期は3 - 4月ごろが適期で、すんぐりとしたはかまの間から出る若芽を摘み取る[11]。はかまを取り除いて天ぷらにするほか、よく茹でて水にさらし、おひたしにしたり、ごま・酢味噌・からしなどで和えた和え物にする[11]。食味は独特の味と舌ざわりがあり、滋養強壮によいとされる[11]。ニワトコの若葉の天ぷらは「おいしい」と評されるが[5]青酸配糖体を含むため多食は危険である[4]。体質や摂取量によっては下痢嘔吐を起こす中毒例が報告されている[14]

果実は焼酎に漬け、果実酒の材料にされる。

薬用

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春から夏に採取した葉を細かく切って天日乾燥させたものは生薬になり、「ニワトコ」もしくは「接骨木葉」と称して民間薬として使われる[12]水腫利尿発汗、筋骨挫傷について薬効があり、便秘、水種、浮腫を目的に、葉1日量5 - 10グラムを水400 - 600 で半量になるまで煎じ、3回に分けて服用する用法が知られている[5][12]。挫傷には茎葉の10グラムを300 ccの水で煎じて、患部を温罨法する[12]。葉や枝の黒焼きを打撲の民間薬にもした[4]。また、古代エジプトでは糖尿病の症状である多尿の治療のために、ニワトコの実や新鮮なミルクを混ぜたものが飲まれていたという記録が残されている[15]

枝は夏に採取して細かく刻み天日乾燥させたものが利用される[5]打撲捻挫あせも湿疹神経痛に、枝の乾燥品1回量5 - 10グラムを布袋に入れて、浴湯料として風呂に入れて使用する方法が知られている[5]

実験材料

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枝のは太く発達し、若い枝から抜き出した髄を乾燥させたものは、顕微鏡観察の標本用に、生物組織から徒手にて薄い切片を切り出すときの支持材(ピス)の材料として利用され[10][3]、今日でもキノコの同定などで簡易に組織切片を得るときなどに重用されている。

下位分類

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  • オオニワトコ Sambucus racemosa L. subsp. sieboldiana (Miq.) H.Hara var. major (Nakai) Murata - 日本海側の多雪地帯に分布する。
  • エゾニワトコ Sambucus racemosa L. subsp. kamtschatica (E.L.Wolf) Hultén - 北海道、本州の関東地方北部以北に分布し、標高の高い場所(北海道で200 - 500 m、本州で1,750 m以上)に生育する。外国では、朝鮮中北部、中国東北部、南千島、樺太、カムチャツカに分布する。花序に毛状の突起がある[12]
  • セイヨウニワトコ Sambucus nigra L. - 花に良い香りがあり、赤実と黒実がある[16]

ニワトコは小葉の数、形、大きさや果実の色などに変異が多く、この他に多くの品種(form)がある。

脚注

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注釈

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  1. ^ 最新のAPG体系ではガマズミ科 (Viburnaceae) に分類される。古いAPG体系ではレンプクソウ科 (Adoxaceae) 、クロンキスト体系新エングラー体系ではスイカズラ科 (Caprifoliaceae) に分類されることもある[1]

出典

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  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Sambucus racemosa L. subsp. sieboldiana (Miq.) H.Hara ニワトコ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月24日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Sambucus sieboldiana (Miq.) Blume ex Graebn. ニワトコ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月24日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 31.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l 西田尚道監修 学習研究社編 2009, p. 40.
  5. ^ a b c d e f g h 貝津好孝 1995, p. 54.
  6. ^ a b 深津正 2000, p. 155.
  7. ^ a b 深津正 2000, pp. 156–157.
  8. ^ a b c 深津正 2000, p. 156.
  9. ^ 深津正 2000, pp. 155–156.
  10. ^ a b c d e f g 菱山忠三郎 2003, p. 241.
  11. ^ a b c d e f g 高橋秀男監修 2003, p. 100.
  12. ^ a b c d e f g h i j k 馬場篤 1996, p. 85.
  13. ^ G.M.シュラインコーファ、人間の全人的癒し: セパスチャン・クナイプの教えたこと (PDF) 人間・植物関係学会誌 第7巻 第1号 (2007年9月30日)
  14. ^ 羽根田治『新装版・野外毒本:被害実例から知る日本の危険生物』山と渓谷社、2014年、ISBN 9784635500357 p. 168.
  15. ^ 堀田饒 (2013年8月29日). “糖尿病の歴史 切手が語る”. 日経電子版. 日本経済新聞. 2013年9月22日閲覧。
  16. ^ 馬場篤 1996, p. 84.

参考文献

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  • 貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、54頁。ISBN 4-09-208016-6 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、31頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  • 高橋秀男監修 田中つとむ・松原渓著『日本の山菜』学習研究社〈フィールドベスト図鑑13〉、2003年4月1日、100頁。ISBN 4-05-401881-5 
  • 西田尚道監修 学習研究社編『日本の樹木』 5巻、学習研究社〈増補改訂 ベストフィールド図鑑〉、2009年8月4日、40頁。ISBN 978-4-05-403844-8 
  • 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、85頁。ISBN 4-416-49618-4 
  • 菱山忠三郎『ポケット判 身近な樹木』主婦の友社、2003年6月1日、241頁。ISBN 4-07-238428-3 
  • 深津正『植物和名の語源探究』八坂書房、2000年4月25日、155 - 157頁。ISBN 4-89694-452-6 
  • 佐竹義輔ほか編『日本の野生植物 木本II』平凡社、1989年。
  • 茂木透・城川四郎ほか『樹に咲く花(合弁花・単子葉・裸子植物)』〈山溪ハンディ図鑑〉5巻、山と溪谷社、2001年。

関連項目

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