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有機体論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

有機体論(ゆうきたいろん、英:organicism [注 1])とは、生命現象の基本を、部分過程がorganize(組織・編成)され、その系(システム)に固有の平衡または発展的変化を可能にする点に認める立場[1]である。

有機体論は、生命現象とは、有機体の構成物質と過程が特定の結合状態・秩序にあるときに(のみ)可能なものであること、すなわちSystemeigenschaften(そのに具わる特性)である、ということに力点を置く[1][注 2]

20世紀前半では、L.ベルタランフィーウッジャーJoseph Henry Woodger)、W.E.リッターWilliam Emerson Ritter)、Edna.W.Baileyらによって論じられた[1]。その後も現在にいたるまで、多くの賛同者がいる。

歴史

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もともと生命をどのように見るのかについては、古代からいくつかの見方があった。(なお、生命に限らず、そもそも、人間のものの考え方は様々である。)

ギリシアでは、イオニア自然学(自然哲学)に見られる世界観自然観)では、自然の変化をプシュケーによるものとして説明した。それに対して、アナクサゴラスやデモクリトスは「atom アトム」という、「分割不可能な要素」を思い描いて、それに基づいた世界観を主張した(原子論[注 3]。その後、デモクリトスたちの世界観は顧みられることなく、思い出されたのは近代になってからである。

近世になると、ヨーロッパでデカルトが、延長という概念を用いて、もっぱら要素的な物体の領域に着目する機械論的な世界観を主張した。同様に、ライプニッツは、モナド論を展開しつつ、だが、個体が有機的発展活動を営んでいることを説いた。カントは、有機的な自然には合目的性が働いている、とした。そして全体と部分とは相互に制約しあう統一体である、とした(『判断力批判』)。

近現代では、ホワイトヘッド(1861-1947)は、有機体の創発性や過程性について考察し、環境とともに生成しつつ秩序を形成する組織体としてとらえた[2]。そして『過程と実在』において、全宇宙の生命が有機体的に自己創造することを壮大なコスモロジーとして説いた[2]

L.ベルタランフィーLudwig von Bertalanffy)が説いた有機体論では、Fliessgleichgewicht 流動平衡(内容的に動的平衡とほぼ同じもの)とhierarchy 階層構造の概念が中心的な役割を果たしている[2]

有機体論は、今日の人間科学の基礎理論としても位置づけられている。例えば化学者プリゴジン自己組織化理論、あるいは神経生理学マトゥラーナ社会学者ルーマンオートポイエーシス・システム理論などで、基礎理論として用いられているのである。[2]

参考文献

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  • 岩波生物学辞典 第4版【有機体論】
  • 岩波 哲学思想事典【有機体(論)】新田義弘 執筆

出典

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出典

  1. ^ a b c 岩波生物学事典第四版
  2. ^ a b c d 岩波 哲学思想事典【有機体(論)】

脚注

  1. ^ 他言語では、:organicisme、:Organizismus
  2. ^ 説いているテーマは生命論ではあるが、実際のところ、反還元主義者の観点からの主張による「人間の思考パターン自体の問題点の指摘」である。例えば、<<家>>にはその下位要素として確かにドアや窓や屋根があるが、だからといって、家を一旦バラバラにして、ドアや窓や屋根などの要素を、たとえ全てであっても、空き地に乱雑に山のように積み上げても、それはもはや <<家>> では全然なく、ただのガレキにすぎない、 <<家>>と呼べるのはあくまでドア・窓・屋根などが特定の位置関係で、特定の結合状態で、特定の秩序にあるときである、といったことである。つまり「初学者が陥りがちな、また学者ですらしばしば陥ってしまうことがある、思慮の足らない還元主義という思考パターンの問題点」という反還元主義者の観点からの主張である。
  3. ^ 「atom」とは古代ギリシア語で「分割できない」という意味の言葉。なお、反還元主義者らは『根本の定義が「分割できない」なのである。ちなみに、当時電子顕微鏡などはなく、そのようなものは誰も見たこともなかった。あくまで、デモクリトスらによる空想である。また、現代の物理・化学におけるatomとは異なっている概念。現代の「atom」は「分割可能」とされる。つまり、全然 別概念である。』などと主張するが、技術の進歩によって原子の内部構造まで検討されるようになったことを、デモクリトスらの概念の敗北のように彼らが誇るのは意味がわからない。また、「理想気体」などの現代の物理・化学における便利な概念は、原子論にもとづき気体分子運動論などを通して精緻化されたものであり、反還元主義者らとは異なり物理学者や化学者は原子論を正当に評価している。

関連文献

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書籍類
  • William Emerson Ritter, The unity of the organism; or, The organismal conception of life, R.G. Badger, 1919
  • ルートヴィヒ・フォン・ベルタランフィ『生 命―有機体論の考察』みすず書房、1974、ISBN 4622016753
  • ホワイトヘッド『過程と実在』 (平林康之訳、上・下 みすず書房、1981~83 ISBN 4622017601,ISBN 462201761X
  • ホワイトヘッド『過程と実在 ―生命の躍動的前進を描く「有機体の哲学」』(山本誠作訳、晃洋書房 2011 ISBN 4771022356
  • 西川富雄『自然とその根源力 』(叢書ドイツ観念論との対話)、ミネルヴァ書房 1993 ISBN 4623023656
  • 野尻英一『意識と生命――ヘーゲル『精神現象学』における有機体と「地」のエレメントをめぐる考察』社会評論社、2010、ISBN 4784508996
論文類
  • 望月俊孝カントの有機体論 : 「生命」の概念をめぐって」『文芸と思想』第62巻、77-114頁、CRID 1050002212667807360ISSN 05217873 
  • 野尻英一「カントとヘーゲルにおける有機体論の差異について-社会科学の起源を探る-」『ソシオサイエンス』第12巻、早稲田大学大学院社会科学研究科、2006年3月、77-92頁、CRID 1050001202508536448hdl:2065/9488ISSN 1345-8116 
  • 飯野和夫「シャルル・ボネの有機体論」『人文学報. フランス文学』第151号、東京都立大学人文学部、1982年2月、147-173頁、CRID 1050001338908684416hdl:10748/4767ISSN 03868729 
  • 伊坂青司「ヘーゲルの<有機体>論:ドイツ観念論における自然哲学の一断面」『人文学研究所報』第19号、神奈川大学人文学研究所、1985年12月、3-18頁、CRID 1520853835345438464ISSN 02877082 

関連項目

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