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死後勃起

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

死後勃起(しごぼっき、: Death erection)は、人の死後に生じる勃起のこと。絞首刑に処された囚人の死体において、顕著にみられる[1]

英語では天使の欲望 (angel lust) や勃起硬直 (rigor erectus) 、終末勃起 (terminal erection) とも呼ばれる[2]

概要

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頸部に巻き付いたロープが、小脳を圧迫することで生じるとされる[3]持続勃起症も、脊髄の損傷が原因となることが知られており[4]、小脳や脊髄の損傷が勃起の持続と関連することは生体においても確認されている[1]

刑死・自死を問わず、縊死は男性器・女性器に影響をおよぼすことが観察されている。女性の場合、大陰唇小陰唇クリトリスの充血やからの出血がみられることがある[5]。男性の場合は「程度の差はあるものの、陰茎の完全な勃起状態、尿や粘液、前立腺液の流出がしばしば生じる。3例に1例の割合である」[5]。また、頭部への致命的な銃創や主要な血管の損傷、服毒など、ほかの死因でもみられる場合がある。

死後勃起と文化

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  • 歴史家で批評家のレオ・シュタインバーグは著書 The Sexuality of Christ in Renaissance Art and in Modern Oblivion のなかで、多くのルネサンス期の芸術家が磔刑に処されたイエス・キリストを死後勃起の状態で描いていると指摘した上で、このモチーフを「オステンタティオ・ゲニタリウム」(Ostentatio genitalium、性器の誇示という意味)と名付けた[6]。しかし、こうした美術作品は数世紀のあいだ、カトリック教会の抑圧を受けた。
  • ジェイムズ・ジョイスの小説『ユリシーズ』の第十二挿話「キュクロプス」では、複数の箇所で終末勃起がモチーフとして使われている[7]
  • エドワード・ギボンは著書『ローマ帝国衰亡史』のなかで、ムハンマドの死後にアリーが「預言者よ、汝のペニスは空を衝かんとするようだ」と叫んだという小話を紹介し、これをアブ・アル=フィダの作と比定している[8]。しかし、これはアブ・アル=フィダの「ムハンマドの生涯」をジョン・ギャグナーがアラビア語からラテン語に翻訳する過程で誤って訳したことに基づく誤解である[9]
  • ウィリアム・S・バロウズは、『裸のランチ』や『シティーズ・オブ・ザ・レッド・ナイト』など、多くの作品でこの現象を取り上げている[10]
  • 1994年公開のアメリカ映画クラークス』は、この現象を暗く、風刺的な手法で描いている。問題のシーンでは、成人向け雑誌を読んだばかりの男性客が店のトイレで心臓発作を起こし亡くなるが、その彼女は彼氏が自分をおどろかせるためにトイレにこもっていると信じているのである。
  • Apple TV+のシリーズ番組 Bad Sisters は、死後勃起した男性が棺桶のなかで目覚め、その妻が弔問客が来る前に必死になって棺桶を開けようとする場面ではじまる。
  • HBOのシリーズ番組 In Treatment で、臨死体験をしたという男性アレックスは、勃起していることに恐怖を感じた、実際死んでいることになるからと話している。
  • サミュエル・ベケットの戯曲『ゴドーを待ちながら』で、登場人物のヴラジーミルとエストラゴンは首吊り自殺を画策するが、勃起するからという理由で最終的に断念している。

脚注

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  1. ^ a b Willis Webster Grube (1897). A Compendium of practical medicine for the use of students and practitioners of medicine. Hadley Co.. p. 455. https://archive.org/details/acompendiumprac00grubgoog 2007年1月26日閲覧。 
  2. ^ Helen Singer Kaplan; Melvin Horwith (1983). The Evaluation of Sexual Disorders: Psychological and Medical Aspects. United Kingdom: Brunner Routledge. ISBN 9780876303290. https://books.google.com/books?id=WCqMzcAka54C&pg=PA167 2007年1月26日閲覧。  "Men subjected to capital punishment by hanging and laboratory animals sacrificed with cervical dislocation have terminal erections. The implication is that either central inhibition of erection is released and erection created or that a sudden massive spinal cord stimulus generates an erectile response. There is ample experimental and clinical evidence to support the former supposition."
  3. ^ George M. Gould; Walter L. Pyle (1900). Anomalies and Curiosities of Medicine. W. B. Saunders. p. 683. https://archive.org/details/bub_gb_VeoIAAAAIAAJ 2007年1月26日閲覧。  「勃起の持続は、しばしば脊髄損傷の興味深い症状としてみられる。そのような勃起は、官能的な感覚とはまったく無関係に、運動麻痺によって生じる。脊椎に関係する事故の直後、同時発生的にみられる場合もあり、その場合は脳からの支持系統が断たれた部分の脊椎が異常に興奮して生じる。処刑や自死による縊死体においてみられる勃起は、小脳の圧迫によって説明される。頸部を圧迫することで性的興奮を感じるという事例も報告されている。」
  4. ^ David Levy, DO. “Neck trauma”. eMedicine.com. 2007年1月26日閲覧。
  5. ^ a b William Augustus Guy (1861). Principles of Forensic Medicine. London: Henry Renshaw. p. 245. https://archive.org/details/principlesforen01guygoog 2007年1月26日閲覧。 
  6. ^ Steinberg, Leo『The Sexuality of Christ in Renaissance Art and in Modern OblivionUniversity of Chicago Press、January 1996、3,46,94,104,154,215,222頁。ISBN 978-0-226-77187-8https://books.google.com/books?id=btzpiI2JkHUC 
  7. ^ Tholoniat, Yann. Joyce's Cyclops. https://www.academia.edu/7660807.  Yann Tholoniat is a professor at the University of Lorraine.
  8. ^ Gibbon, Edward; Milman, Henry Hart (2008-06-07). Widger, David. ed (英語). The History of the Decline and Fall of the Roman EmpireTable of Contents with links in the HTML file to the two Project Gutenberg editions (12 volumes). IX. http://www.gutenberg.org/ebooks/25717 
  9. ^ Ismael Abu'l--Feda, De vita, et rebus gestis Mohammedis, Moslemicæ religionis auctoris, et Imperii Saracenici fundatoris. Ex codice MSto Pocockiano Bibliothecæ Bodleianæ textum Arabicum primus edidit, Latinè vertit, præfatione, & notis illustravit Joannes Gagnier, A.M.. Oxford, 1723, p. 140, note. c. Retrieved 25-06-2014.
  10. ^ Pleasures of Hanging”. 2023年8月29日閲覧。

関連項目

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