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汎インド映画

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

汎インド映画(はんインドえいが、Pan-Indian film)は、インド映画の用語で、テルグ語映画におけるムーヴメント[1]。2015年の『バーフバリ 伝説誕生』以降に見られるようになった製作形式で、1本の映画をテルグ語タミル語マラヤーラム語カンナダ語ヒンディー語で同時公開することにより、観客動員数と収益を増加させることを意図している[2]

歴史

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インド映画は国内の様々な言語を主体とする地域映画産業によって構成されている。ある言語で製作された映画は他の言語でリメイク版が製作されることが多く、2005年公開のテルグ語映画『Nuvvostanante Nenoddantana』は9言語でリメイク版が製作されている。インド映画では吹き替えの文化は一般的ではなく、『シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦』『ロボット』など少数の作品がテルグ語、タミル語、ヒンディー語に吹き替えられたのみである。歴史上初の汎インド映画は、1959年に公開されたラージクマール英語版主演のカンナダ語映画Mahishasura Mardini』と言われている[3]。同作は7言語に吹き替えられて公開されたが、これ以降に4言語以上の吹替版が製作された作品は現れなかった。

2010年代に入り、南インド映画(テルグ語映画、タミル語映画)のヒンディー語吹替版がテレビ放送される機会が増え、インド全域でテルグ語映画、タミル語映画の人気が高まった。これらの作品は劇場公開から数週間から数か月後には吹替版が製作された[4]。南インド映画と同様にヒンディー語映画もテルグ語吹替版、タミル語吹替版が製作されたが、『ダンガル きっと、つよくなる』『M.S.ドーニー 〜語られざる物語〜英語版』などの例外を除き、南インド映画とは対照的に全国的な人気を集めることはできなかった[5]。その後、カンナダ語映画とマラヤーラム語映画も吹替版が製作されるようになった。

汎インド映画とは、異なる言語映画の俳優が共演することを意味するのではありません。それは全体の中の一部でしかありません。汎インド映画とは、言語に関係なく誰にでも伝わる物語と感情のことです。物語を創造する中で、私は「この部分の台詞を削っても、観客は私の映画に共感してくれるだろうか?」と考えるのです。大抵の場合、その答えは「イエス」でした。
S・S・ラージャマウリ[6][7]

2010年代後半に入り、S・S・ラージャマウリが製作した『バーフバリシリーズ』のヒットにより転機が訪れた[8]。『バーフバリ 伝説誕生』『バーフバリ 王の凱旋』は様々な言語に吹き替えられて世界市場で公開され、インドの映画製作者たちは「一つの映画を他言語でリメイクする」という従来の製作形式から「一つの映画を他言語に吹き替えする」という製作形式にシフトするようになった[9]。2018年にプラシャーント・ニールが製作した『K.G.F: CHAPTER 1』がこの動きを加速させ[10]、『ロボット2.0』『サーホー』『サイラー ナラシムハー・レッディ 偉大なる反逆者英語版』の成功によって、汎インド映画は主要なインド言語映画産業に広まった[11][12]。カンナダ語映画では『K.G.F: CHAPTER 1』がメジャー作品としては初の汎インド映画となり[13]、マラヤーラム語映画では『Marakkar: Lion of the Arabian Sea』がメジャー作品としては初の汎インド映画となった[14]

汎インド映画は知名度向上と普遍的な魅力を付与するため、製作地域とは異なる言語映画産業の俳優を起用する傾向がある[15]

評価

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N・T・ラーマ・ラオ・ジュニアDeadline Hollywoodからの取材の中で汎インド映画について言及し、「私はパン・インディアンという呼び方が、まるでフライパンのように聞こえるので嫌いなんです。インドのあらゆる言語に対応する映画と言っているだけですよね」とコメントしている[16]ドゥルカル・サルマーン英語版プレス・トラスト・オブ・インディア英語版からの取材の中で、「汎インドという言葉には、本当にウンザリさせられます。聞きたくもありません。映画界では多くの才能の交流が行われていますし、それは素晴らしいことですが、私たちは一つの国なのです。汎アメリカという言葉を使う人はいないと思うのです」と批判しており[17]、『バーフバリシリーズ』の主演俳優であるプラバースも「映画界が作るべきなのは"汎インド映画"ではなく、"インド映画"であるべき」と語っている[18]シッダールト英語版もプラバースと同様の意見を持っており、「汎インド映画」という言葉は非ヒンディー語映画のみに限定して使用されていることから、「非常に失礼な言葉」と語っている[19]アディヴィ・セッシュは「この言葉は、どうにも濫用され過ぎており、吹替映画の婉曲表現のように感じる」と語っている[20]

カラン・ジョーハルはフィルム・コンパニオンの取材の中で、「汎インド映画は、もはや私たちの手で数を減らしたり希薄化させることができない存在になった」と語っている[21]ザ・ウィーク英語版のラーフル・デーヴラパッリは、汎インド映画(=テルグ語映画)が台頭した要因として「コンテンツ、マーケティング、海外市場の観客の心を掴んだこと」を挙げている[22]ザ・タイムズ・オブ・インディアのバールティ・ドゥベーとヘマチャンドラ・エダムカーラーは、汎インド映画の大半はアクション映画が占めているとして、暴力的表現が中心になっている点を批判している[23]。また、Box Office Indiaは汎インド映画について、「汎インド」という用語はヒンディー語映画の配給圏英語版では意味を持たず、インド全域に対応する映画はハリウッド映画だけであると指摘している[24]

代表的な汎インド映画

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公開年 作品 監督 製作言語 出典
2015 バーフバリ 伝説誕生 S・S・ラージャマウリ テルグ語、タミル語 [25]
2017 バーフバリ 王の凱旋 [26]
2018 ロボット2.0 シャンカール タミル語 [27]
K.G.F: CHAPTER 1 プラシャーント・ニール カンナダ語 [28]
2019 サーホー スジート ヒンディー語、タミル語、テルグ語 [29]
サイラー ナラシムハー・レッディ 偉大なる反逆者英語版 スレンダル・レッディ テルグ語 [30]
2021 Marakkar: Lion of the Arabian Sea プリヤダルシャン英語版 マラヤーラム語 [31]
プシュパ 覚醒 スクマール英語版 テルグ語 [29]
2022 RRR S・S・ラージャマウリ [31]
Radhe Shyam ラーダ・クリシュナ・クマール英語版 テルグ語、ヒンディー語 [32]
Vikrant Rona アヌープ・バンダリ英語版 カンナダ語 [33]
K.G.F: CHAPTER 2 プラシャーント・ニール [31]
SALAAR/サラール テルグ語、カンナダ語 [32]
Adipurush オーム・ラウト英語版 テルグ語、ヒンディー語 [32]
Liger プリ・ジャガンナード英語版 [34]

出典

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  1. ^ Mehrotra, Suchin (2019年9月19日). “What Does It Take To Make A Pan-India Movie?”. Film Companion. 2022年1月1日閲覧。
  2. ^ 'Pan-India' films make a comeback”. Telangana Today (2021年4月17日). 2022年1月1日閲覧。
  3. ^ Did you know? The very first pan-Indian Kannada film is this 1959 classic starring Dr. Rajkumar”. timesofindia.indiatimes.com (3 February 2021). 2022年1月1日閲覧。
  4. ^ Prem. “Top 30 South Indian Movies Dubbed in Hindi” (英語). FilmTimes. 2021年6月21日閲覧。
  5. ^ MS Dhoni biopic to release in 4,500 screens across 60 countries”. indianexpress.com (25 September 2016). 2022年1月1日閲覧。
  6. ^ When pan India movies, stars and shows ruled”. The Hans India. 14 May 2022閲覧。
  7. ^ Inside the mind of SS Rajamouli: Decoding how the RRR director lends scale to his storytelling”. Firstpost. 1 July 2022閲覧。
  8. ^ How Baahubali changed the face of Telugu cinema worldwide” (英語). India Today. 2021年6月21日閲覧。
  9. ^ Baahubali turns 5: How SS Rajamouli's film changed Indian cinema forever” (英語). The Indian Express (2020年7月11日). 2021年10月17日閲覧。
  10. ^ KGF to be amultilingual, will release in five languages - Times of India” (英語). The Times of India. 2021年6月21日閲覧。
  11. ^ Nanisetti, Serish (2019年10月2日). “Chiranjeevi's 'Sye Raa Narasimha Reddy' hits screens amid noisy welcome by fans” (英語). The Hindu. ISSN 0971-751X. https://www.thehindu.com/news/national/telangana/chirus-movie-hits-screens-amid-noisy-welcome-by-fans/article29577285.ece 2021年6月21日閲覧。 
  12. ^ 2.0 All India Update - Crosses 400 Crore NETT - Box Office India”. www.boxofficeindia.com. 2021年6月21日閲覧。
  13. ^ Hooli, Shekhar H. (2018年12月21日). “KGF movie review: This is what Hindi, Telugu, Tamil, Malayalam audience say about Yash starrer” (英語). www.ibtimes.co.in. 2021年6月21日閲覧。
  14. ^ To be history, the Maraikas; Released in more than 50 countries : Cinema News”. www.deepika.com. 2021年6月21日閲覧。
  15. ^ Pecheti, Prakash (2021年6月17日). “New mantra for pan-India stories”. Telangana Today. 2022年1月1日閲覧。
  16. ^ Grater, Tom (2021年5月12日). “'RRR' Star Jr NTR Gives First Interview About Mega-Budget Action Pic From 'Baahubali' Director S.S. Rajamouli”. Deadline Hollywood. 2022年1月1日閲覧。
  17. ^ “Dulquer Salmaan: You can't engineer a pan-India film”. The Times of India. PTI. (19 March 2022). オリジナルの12 April 2022時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220412060624/https://timesofindia.indiatimes.com/entertainment/malayalam/movies/news/dulquer-salmaan-you-cant-engineer-a-pan-india-film/articleshow/90322592.cms 12 April 2022閲覧。 
  18. ^ Rajaraman, Kaushik (7 March 2022). “How about making Indian films rather than pan-Indian ones?”. DT Next. 26 March 2022時点のオリジナルよりアーカイブ。12 April 2022閲覧。
  19. ^ Drop use of ‘pan Indian,’ just call it an Indian film: Actor Siddharth”. The News Minute (1 May 2022). 1 May 2022時点のオリジナルよりアーカイブ1 May 2022閲覧。
  20. ^ Major actor Adivi Sesh on pan-India movies: The word is somewhat abused, sounds like an euphemism for dubbed film”. The Indian Express (2022年6月2日). 2022年7月31日閲覧。
  21. ^ Allu Arjun’s Pushpa shows Telugu films have pan-India audience. Step aside, Bollywood”. ThePrint (16 January 2022). 8 February 2022時点のオリジナルよりアーカイブ8 February 2022閲覧。
  22. ^ Here's Telugu cinema's formula for pan-India success”. The Week (5 June 2022). 2022年7月31日閲覧。
  23. ^ #BigStory: Are pan-India films promoting too much violence?”. The Times of India (23 April 2022). 23 April 2022時点のオリジナルよりアーカイブ23 April 2022閲覧。
  24. ^ Pushpa (Hindi) Shows Growth On The Second Day - Box Office India”. Box Office India (2021年12月19日). 2022年1月1日閲覧。
  25. ^ Staff, News9 (2021年10月20日). “Rise of the pan-Indian film, from Rajamouli's RRR to Vijay Devarakonda's Liger” (英語). NEWS9LIVE. 2021年11月14日閲覧。
  26. ^ Cornelious, Deborah (2017年5月4日). “How to make a pan-India film” (英語). The Hindu. ISSN 0971-751X. https://www.thehindu.com/entertainment/movies/how-to-make-a-pan-india-film/article18384729.ece 2021年11月14日閲覧。 
  27. ^ Indian 2 and 2.0 director Shankar to collaborate with THIS Tollywood star for his next pan-India project?” (英語). Bollywood Life (2021年2月12日). 2021年11月14日閲覧。
  28. ^ Otv, News Desk. “KGF Chapter 1 Revisit: Yash Took KGF Pan India, Was Treated As Salesman” (英語). KGF Chapter 1 Revisit: Yash Took KGF Pan India, Was Treated As Salesman. 2021年11月14日閲覧。
  29. ^ a b RRR, Pushpa, Liger, Radhe Shyam, Adipurush: Are pan India films the way forward?” (英語). Hindustan Times (2021年4月23日). 2021年11月14日閲覧。
  30. ^ Making of Sye Raa Narasimha Reddy: How the Chiranjeevi, Tamannaah-starrer became a pan-Indian film-Entertainment News , Firstpost” (英語). Firstpost (2019年10月2日). 2021年11月14日閲覧。
  31. ^ a b c ‘RRR’, ‘Radhe Shyam’, 'KGF: Chapter 2': Pan-India multilingual movies to look forward to” (英語). The Times of India (2021年5月5日). 2021年11月14日閲覧。
  32. ^ a b c 5 Gigantic & sensational upcoming Pan-Indian films of Prabhas!” (英語). The Times of India (2021年10月4日). 2021年11月14日閲覧。
  33. ^ Kichcha Sudeep's Vikrant Rona to release on Feb 24, 2022. Get ready to meet a new hero”. indiatoday.in (7 December 2021). 2022年1月1日閲覧。
  34. ^ Vijay Deverakonda, Puri Jagannadh, Karan Johar, Charmme Kaur’s Pan India Film LIGER (Saala Crossbreed) First Glimpse Date And Time Locked?” (2021年12月29日). 2022年1月1日閲覧。

関連項目

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