謝肉祭
謝肉祭(しゃにくさい、カーニバル)は、もともとカトリックなど西方教会の文化圏で見られる通俗的な節期で、四旬節の前に行われる。仮装したパレードが行なわれたり、菓子を投げる行事などが行なわれてきたことから、現代では宗教的な背景のない単なる祝祭をもカーニバルと称することが少なくない。
名称と起源
謝肉祭は、各国で次のように呼ばれる。
- 英語ではカーニヴァル(Carnival)
- ドイツ語ではカーネヴァル(Karneval)、ファシング(Fasching)、ファストナハト(Fastnacht)
- オランダ語ではカーナヴァル(carnaval)、ヴァステンアーヴォンド(vastenavond)
- スペイン語ではカルナバル(carnaval)
- イタリア語ではカルネヴァーレ(carnevale)
- フランス語ではカルナヴァル(carnaval)
- ポルトガル語ではカルナヴァウ(carnaval)
- ハンガリー語ではファルシャング(farsang)
- ポーランド語ではカルナヴァウ(Karnawał)
- アイスランド語ではキョトクエズユハウティド(kjötkveðjuhátíð)
日本語でも「カーニバル」が使われることはあるが、多くは謝肉祭ではなく華やかなパレードの方のみを指して用いる。
カーニバルの語源は、俗ラテン語carnem(肉を)levare(取り除く)に由来する。元々は四旬節が始まる灰の水曜日の前夜に開かれた、肉に別れを告げる宴のことを指した[1]。ドイツ語のファストナハトなどもここに由来し、「断食の前夜」の意で、四旬節の断食(大斎)の前に行われる祭りであることを意味する[2]。
別の説には、謝肉祭は古いゲルマン人の春の到来を喜ぶ祭りに由来し、キリスト教の中に入って、一週間教会の内外で羽目を外した祝祭を繰り返し、その最後に自分たちの狼藉ぶりの責任を大きな藁人形に転嫁して、それを火あぶりにして祭りは閉幕するというのがその原初的なかたちであったという[3]。カーニバルの語源は、この農耕祭で船を仮装した山車carrus navalis(車・船の意)を由来とする説もあるが、断食の前という意味の方が古いという研究者もいる。
長さは地域により異なるが、多くは1週間である。最終日はほとんどの場合火曜日(灰の水曜日の前日)であり、一部の地域では、この火曜日をマルディグラ(肥沃な火曜日)、シュロブ・チューズデー(告悔火曜日)、パンケーキ・デイなどといい、パンケーキを食べる習慣がある。これは、四旬節に入る前に卵を残さないために生じた習慣でもある。シュロブ・チューズデーの名は、かつて謝肉祭最終日すなわち灰の水曜日前日に、みなが告悔を行う習慣があったことに由来する。
現在はその起源である宗教的な姿を留めず単なる年中行事や観光行事になっている地域も多い。とくに、リオデジャネイロのカーニバル(リオのカーニバル)におけるサンバ・パレードからの連想で、ロンドンのノッティング・ヒル・カーニバルのように、四旬節とは全くことなる時期に開催される単なるサンバ・パレードをカーニバルと称することも少なくない。
謝肉祭に関する考察
謝肉祭に関して、各界の研究者から以下の様な論が表されている。
- ジェームズ・フレイザーは『金枝篇』の中で、懺悔の火曜日や灰の水曜日に謝肉祭人形が焚殺される理由について、古代イタリアで行われた樹木の精霊の受肉者であるネーミの司祭殺害の儀式と同じく、春の始まりに謝肉祭の擬似人格である人形を殺し、復活・再生後の豊穣を約束してもらう儀礼的意味があると考えた[4]。
- エドマンド・リーチはエミール・デュルケームの『聖俗論』を下敷きに、都市部の謝肉祭における仮面舞踏会のような乱痴気騒ぎは、正常な社会生活に対する社会的役割を転倒させたパフォーマンスであるとし、俗から聖への移行を象徴的に表現したものと考えた[4]。
- ヴィクター・ターナーはリーチの論を承け、謝肉祭を「地位転倒の儀礼」と呼んだ。謝肉祭は集団や社会が自らを見つめなおす時であり、社会全体で反省する作用を持っていたが、その効力は資本主義の発達とともに薄れていったと説いた[4]。
世界各地のカーニバル
リオデジャネイロを始め、世界各地に以下の通りカーニバルで有名な町が存在する。
- バンシュ (ベルギー、ユネスコの世界遺産に登録されたカーニバル)
- マーストリヒト (オランダ)
- デン・ボス (オランダ、オランダで最古)
- サンタ・クルス・デ・テネリフェ (スペイン)
- ランツ (スペイン) - ミエル・オチンを参照
- ケルン (ドイツ)
- ヴェネツィア (イタリア) - ヴェネツィア・カーニバルを参照
- ニース (フランス)
- バーゼル (スイス)
- ノッティング・ヒル (イギリス)
- リオデジャネイロ (ブラジル) - リオのカーニバルを参照
- サルバドール (ブラジル)
- オルロ (ボリビア)
- ウマウアカ (アルゼンチン、ウマウアケーニョで有名)
- モンテビデオ (ウルグアイ、南米で一番期間が長い) - ウルグアイ・カーニバルを参照
- ポートオブスペイン(トリニダード・トバゴ)- トリニダード・カーニバルを参照
- ニューオーリンズ (アメリカ合衆国) - ニューオーリンズ・マルディグラを参照
- ケベック (カナダ)
ドイツのカーニバル
ドイツでは、主にラインラントからバイエルン、アウガウなどカトリックの多い地域で行われ、「アラーフ!」(ケルン)、「ヘラウ!」(デュッセルドルフ)等独特の挨拶を交わし、仮装して祝う。地方により、謝肉祭は、ファシング、ファスナハトなど呼び方が異なる。薔薇の月曜日(Rosenmontag)には、ケルン・デュッセルドルフ・マインツ・アーヘン・ボンで薔薇の月曜日の行列(Rosenmontagsumzug)が繰り出し、「カメレ」という叫び声をあげる人々に向けて菓子を投げる。
謝肉祭が題名及び歌詞にある楽曲
- 動物の謝肉祭 - カミーユ・サン=サーンスの組曲。
- 謝肉祭 、ウィーンの謝肉祭の道化 - ロベルト・シューマンのピアノ曲集。
- 序曲『謝肉祭』 - アントニン・ドヴォルザークの演奏会用序曲。三部作『自然と人生と愛』の第2曲。
- 序曲『ローマの謝肉祭』 - エクトル・ベルリオーズの演奏会用序曲。
- 『子供の謝肉祭』 - ジャン・ルイ・ゴバールツ(1835-1886)の曲。
- Life Is A Carnival - ザ・バンドの1971年のアルバム「カフーツ」収録曲
- Take Me To The Mardi Gras - ポール・サイモンの1973年のシングル曲
- 謝肉祭 - 山口百恵のシングル曲。
- めざめのカーニバル - 榊原郁恵のシングル曲
- CARNAVAL - 大貫妙子のシングル曲
- ミ・アモーレ - 中森明菜のシングル曲。
- 氷の謝肉祭 - 水越恵子のシングル曲。
- 夜桜謝肉祭 - 音楽ゲーム『太鼓の達人』に収録されている曲。
- 哀愁のカルナバル - 河合その子のシングル曲。
- 謝肉祭-カーニバル- - BUCK-TICK - 極東 I LOVE YOUアルバムの第4曲。
- 想い出のカルナバル - 石原裕次郎の楽曲。
- バラの謝肉祭-ジョセフ・オリヴァドーティの吹奏楽の古典的名曲。
- スペースカーニバル - コナミの音楽ゲーム『jubeat』に収録されているshooting star名義のアーティストたち(泉陸奥彦ほか)による楽曲。
脚注
- ^ Manlio Cortelazzo e Paolo Zolli : "Dizionario etimologico della lingua italiana 1/A-C", Zanichelli, 1998, p.208
- ^ Oswald A.Erich & Richard Beitl : "Woerterbuch der Deutschen Volkskunde" 43.Aufl. Stuttgart 1974. "Fasnacht"の記事、p.201
- ^ Wilhelm Kutter : "Schwaebisch alemannische Fasnacht" Salzburg 1976, p.8-19
- ^ a b c 黒田悦子『スペインの民俗文化』<平凡社選書> 平凡社 1992年 第2刷、ISBN 4582841406 pp.203-204.