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前照灯

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前照灯(ぜんしょうとう)とは、輸送機械などに搭載し、操縦者の視認性と外部からの被視認性を向上させるために使われる照明装置である。ヘッドランプ (headlamp)、ヘッドライト (headlight) とも言う。

大抵は機械の前面に透明(色が付いていてもなどで、薄い色)のレンズを持つランプ(灯体)が付けられている。用途としては自動車鉄道車両自転車など地上の車両の他、航空機船舶にも付いている場合がある。機械にではなく、作業者自身の頭部や帽子などに装着する種類もある。

自動車

自動車の前照灯 (SAAB)
ロービーム用のプロジェクター式(中央)とハイビーム用のマルチリフレクター式(左)
ダブルリフレクター式
トヨタ・カローラレビン・TE27型)
通常の反射鏡の前に照射範囲の狭いドライビングランプが備わる
コンセプトカーであるホンダ・インサイトのライト部分
前照灯には砲弾型のLEDを採用し、ポジションランプには導光板を用いることで光源を均一にしている

自動車・オートバイ(自動二輪車、原動機付自転車)用の場合、前面の左右にそれぞれ1個ないしは2個が運転者の視点より低い位置に左右対称に取り付けられる。

通常、ハイビーム「走行用前照灯」(上向き(正確には水平)・遠目)とロービーム「すれ違い用前照灯」(下向き・すれ違いビーム)を切り替えることができる。ハイビームは正面を遠く(最低前方100m)まで照らすため、夜間の対向車や前方の車が存在しない場合に用い、ロービームはやや下方(前方40m)を照らすため、対向車や前方の車への眩惑防止や、などに光が反射する場合に使用する。車検の際の前照灯の照度や光軸などの検査は、2015年9月以降、従前は原則としてハイビームで行っていたものを、原則としてロービームで行うものと改められた(1998年8月31日以前の製作車はハイビームによる)[1]

前照灯の光色は、かつて白または淡黄色とされていたが、平成18年1月以降に登録された車両にあっては白色と決められている[2]。これ以外の色や、極端に高い、あるいは低い色温度の物を使用してはならない。また、一対もしくは二対がそれぞれ同じ色でなければならない。

主に前照灯は夜間に点灯。また、薄暮時に人身事故が多発することから、早目の点灯を呼びかける運動(トワイライト運動)も盛んに行われている。また原動機付自転車および自動二輪車においては道路運送車両法により前照灯を消灯できない構造であることが定められ、1996年以降製造の車両は全て消灯できない構造となっている。常時消灯できるように改造されたものは違反となる。2020年4月以降に発売される新型車からは暗くなると自動的・強制的に前照灯が点灯する「オートライト」機能の搭載が義務付けられる方針になった。(2016年10月に道路運送車両法に基づく車の保安基準改正が予定されている。)

国際連合欧州経済委員会 (UNECE) による自動車基準調和世界フォーラムWorld Forum for Harmonization of Vehicle Regulations: 欧州諸国を中心に、日本、韓国、オーストラリアなども加盟)では、ロービームで2000ルーメン以上の光束を持つヘッドランプに対して洗浄装置を装備することを義務付けている。基本的に全てのHIDランプと、一部のハロゲンランプが該当する。

歴史

自動車初期のヘッドランプは、石油アセチレンガスを燃料として使用しており、アセチレンランプが主に使用された。1908年に発売されたフォード・モデルTでもアセチレンまたは石油ランプが採用されていた。電灯を利用したヘッドライトは1898年のElectric Vehicle Companyによるコロンビア電気自動車にオプション設定されていた。しかしながら、当初の電気式ヘッドライトはフィラメントの寿命の短さや、十分な電流を供給できる小型のダイナモの生産が困難なこともあり、すぐには普及しなかった[3][4]。1912年にキャデラックが、デルコ・エレクトロニクスのバッテリー式点火装置と電気式照明装置を統合した。1915年にはロービーム機能を持つヘッドライトが登場したが、外から操作しなければならず、車の中から操作できるタイプは1917年にキャデラックが初搭載した。1924年に登場したBilux bulbにより1つのバルブでハイとローが切り替えられるようになった。1927年には足で操作するタイプのディマースイッチが登場し標準となっていった。

北米では1984年まで統一規格の前照灯が採用され、デザインに制約を受けていた。これは当時バルブとレンズが一体型になっており、どの地方のガソリンスタンドに行っても交換しやすいよう規格を絞り込んだためとされる[5]

1980年代以降、自動車用にはハロゲンランプが多く使われているが、2000年頃から、フィラメントのないHIDランプメタルハライドランプ)を用いたものが増えている。この時期になると徐々にポジションランプのLED化が進められていたが、2007年5月に発売されたレクサス・LS600hを皮切りにLEDを使用した前照灯も採用されるようになった。その後、LEDのハイビームライトに比べ照射距離約2倍、光度約3倍の性能を持つレーザーヘッドライトが開発され、2014年にはアウディ米国ラスベガスCESにコンセプトカーを出展[6]、更にル・マン24時間レース向けのAudi R18 e-tron クワトロ[7]や市販車のBMW・i8[8]に搭載されている。

使用方法

点灯のタイミング

日本では自動車のヘッドライトは日没後から点灯させることが義務となっているが、それ以前のうす暗くなり始める時間帯から点灯させることが推奨される[9]2015年、夜間に歩行者が車にはねられた死亡事故は625件であったが、このうち約96%に相当する527件では、ロービーム使用であったことがが警察庁の調査で判明。ハイビームの使用で防止できた事例もあるとみられる[10]

日没前後の高齢者が歩行中に死亡事故に巻き込まれる例が多発していることから、国土交通省2020年4月以降、暗くなると自動的にヘッドライトが点灯する「オートライト」を新型の乗用車への搭載のメーカーへの義務付けを決めた。明るさが1000ルクス未満になると、自動的にライトが点灯し、走行中は運転者が消すことはできない[10]

ロービームとハイビーム

自動車のヘッドランプには、通常、ロービームハイビームが備えられており、正式名称は、ローが「すれ違い用前照灯」、ハイが「走行用前照灯」である。照射距離は、ロービームは前方40 m、ハイビームは前方100 m先まで届く。夜間走行時には、基本はハイビームを使用し、すれ違い時のみロービームを使用することが法令で定められている(街灯や建物の明かりが多く安全が確保されている市街地のみ、常時ロービームでの走行が認められている)[11] [12]、対向車、先行車がいるときだけロービームにするのが基本である[13][14]

ロービーム、ハイビームの切り替えについては、煩わしさや切り替え忘れの問題があるため、メーカーによりハイビームを自動的に調整して夜間の視界を最大限に確保できる次世代型ヘッドランプ、明るさセンサー光学式カメラなどを連動させ車両と周囲の状況を検知することで、常時ハイビームのままでも他車を眩惑せずに走行できる技術や、カメラで対向車や前走車のほか歩行者なども検知し、複数の配光の組み合わで眩惑する部分の光だけをカットした上で、その周囲をハイビームで照射する技術も開発されている[11]

なお「信号待ちで停止中の間も、前照灯を消すのは違法である。」と誤解されることがあるが、夜間に幅員5.5メートル以上の道路において駐車、停車や(法令の規定もしくは警察官の命令により、または危険を防止するための)一時停止をする場合は、非常点滅表示灯尾灯駐車灯(車幅灯)のいずれかを点灯すれば良く、よって信号待ち停止中の前照灯の点灯義務はない。この消灯は、横断歩道上の歩行者など、強い光源のそばにあるものが対向車から見えなくなる「蒸発現象」を防ぐ利点もある。

高速道路

高速道路では常時、ハイビームを使用しなければならない。これはロービームの照射距離が前方40 mしかないため、100 ㎞/h近くで走行する高速道路では、危険を察知しても避けることが困難であるためである。「前の車のドライバーに迷惑」になるのは車間距離不保持が原因である。ロービームのまま走行中に、前方で起こった事故の存在に気づくのが遅れ、二次衝突を起こし第二当事者となった場合は刑事責任は問われないことはあっても、民事損害賠償責任は免れない。判例では高速道路をロービームで走行していた責任を問われ、第二当事者が3億4千万円の賠償が命じられた例がある[15]

車幅灯

車幅灯(スモール、ポジションとも)は、前照灯ではなく、また駐車灯の保安基準を必ず満たすとは限らない。車幅灯は単に車両の幅を示すためのものとして、前照灯とは別の灯火として定義されている[16]

鉄道車両

超高輝度LED前照灯
JR東海313系電車
HIDプロジェクター前照灯
JR東日本205系
北海道地区では国鉄時代から多灯化が進んでいた。
写真はJR北海道キハ283系気動車

鉄道車両の前照灯は、日本では法律的には前部標識という扱いであり、正式には「前灯」と称する。夜間および長大トンネル区間では点灯が義務付けられている。なお自動車と異なり車両の進行方向が一定であることから、あくまで「標識」としての位置づけてあり、光量については暗部において遠方より車両の存在が確認できる程度であれば問題ないことになっている。ただし近年は前照灯としての役割を強化するため光量を増やすだけでなく、車外からの視認性向上および自動車・歩行者への注意喚起のため、昼間であっても常時点灯することが多くなっている(昼間点灯の項を参照)。

古くは油灯やカーバイドランプが使われており、電灯となってからもシングルフィラメントの時代が長かったため、光軸の切り替えが不可能であり、すれ違い時には減光で対応していた。ダブルフィラメントとなってからは、ハイビームとロービームを切り替えることが可能になった。HID式のように放電式灯の場合は輝点の切り替えができないため、電磁石などで機械的に光源か反射板を動かし、光軸を切り替えるようになっている。

1960年代以前に製造された車両の多くはランプ交換式の暗い白熱灯式の前照灯(当初は150W、後に250W)であったが、1970年代以降は後にシールドビーム[17]化が進み光量のアップと長寿命化、交換の容易化[18]が図られた。1990年代からプロジェクター式、2000年頃からHID式、2006年からは高輝度LEDを用いたものなどが出現するなど、バリエーションが増えている。

取り付け位置は車体の上部(運転者の視点より高い)にある場合と、下部(運転者の視点より低い)にある場合があり、各車種によってさまざまで、同じ鉄道事業者でも統一はされていない。運輸省令で「夜間の前部標識として前灯を上部に1個掲出する」と定められていたため、かつては上部に1個のみ取り付けられていた。私鉄では1957年10月、名古屋鉄道5200系電車が固定式前照灯三灯で登場。国鉄では東海道本線の電車特急「こだま」を運転するにあたり、新造された151系電車が前灯を腰部にも2灯増設して3個取り付けることになり、運輸大臣の特認を得た。その後前灯の2個以上の取り付けは標準的なものとなり、省令も改正された[19]関西の鉄道会社では上部にランプを配するスタイルが好まれる。また、特急のように高速度を出す列車に用いられる車両には、照射性及び被視認性を高めるために、3個以上のランプを装備する車両も存在する。

通過標識灯も参照。

ドイツの鉄道車両の前照灯

ドイツ語Dreilicht-Spitzensignal(三前照灯)と称される。ドイツ列車の最前部の鉄道車両が掲出する、列車標識の一種であり、その夜間方式である。ドイツの「鉄道の建設と運行に関する省令」 (EBO) 第14章の規定に準拠している。列車の先頭車が機関車制御車である場合には、夜間にはその最前部にアルファベットのAの形に3個の白色灯を掲出しなければならないと規定されている。これにより夜間でも道路交通の車両から、列車の接近を明瞭に判別することができる。ドイツの軌道法 (BOStrab) のもとで運行される路面電車LRTでも同様の基準が適用される。しかしその場合はしばしば、方向幕灯が三番目の灯火として用いられることがある。

イギリスの鉄道車両の前照灯

イギリス鉄道規格(Railway Group Standards)では、「列車の可視性のための要件(Visibility Requirements for Trains)」として光度・設置位置など前照灯の要件を定めている[20]

航空機

タクシー灯(F-4戦闘機

航空機に「前照灯」と呼ぶものはないが、前方を照射する灯火類としては以下の2種類があげられる。

着陸灯

大型機では両の前縁部に埋め込み式あるいはリトラクタブル式で取り付けられている場合が多い。 "Landing Light" からこの名称があるが、着陸時だけでなく低空飛行時(1万フィート以下)や夜間離陸時等でも日常的に点灯する。通常灯火類のなかで最も明るく、前方からの視認性に優れるので、無線故障時や無線を持っていない相手に対して、点灯 / 点滅等を行って簡単な合図に使用されることもある。

タクシー灯

地上走行(タクシング)に際して前方を照らすために用いられる。前脚部分に取り付けられていることが多く、脚を格納しての使用はできない。

自転車

自転車の前照灯とリムダイナモ

電源として、リムハブダイナモや電池が使用される。

従来使われてきたリムダイナモの場合、点灯時は消灯時に比べ肉体的負担が増す。負担を軽減するため、前輪のハブに発電機(ハブダイナモ)を組み込み、夜間走行時に自動点灯することでつけ忘れを防ぐものもタウン車を中心に増えている。また、負荷がほとんどない非接触式発電ライトも販売されている。リムダイナモは1.2 - 3W程、ハブダイナモは2.4W - 3W程の出力がある。

一方乾電池二次電池(充電式電池)及び最近は太陽電池を使用するものもある。電池式のものは古くは夜間のスポーツ目的に装備されることが多かった。点灯時の肉体的負担は皆無だが、 白熱電球使用で電池の消耗が早く不便で、経済的負担にもなった。現在は電球に代わり低消費電力で寿命の長い白色発光ダイオード (LED) を使用したものが低価格でも発売されるようになり、一般にも普及しつつある。

近年、夜間の無灯火自転車による交通事故は重く見られる傾向があり、裁判により多額の賠償金を命ぜられるケースがある。また前照灯は白色または淡黄色でなくてはならないため、赤などを用いるのは道路交通法施行細則(都道府県条例)違反である。しかし、ダイナモ式ライトはペダルが重くなる、条例を知らない又は無視、100円ショップのLEDライトですら面倒、スポーツ車に余計な物 (?) を付けるのはカッコ悪い、などといった自転車使用者の意識の低さにより、無灯火自転車による危険走行は後を絶たない。

ヘッドランプを取り付けたヘルメットの例

人が使う前照灯は、頭部につけて使うものをヘッドランプ、手に持って使うものを懐中電灯(ハンドランプ)と呼ぶが、照らすという目的としては同じである。

ヘッドランプは、リング状にした平紐やゴム紐のベルトで頭部に直接巻きつけるか、固定具でヘルメットに固定して使用する。帽子のつばに装着して用いるものもある。体の一部に固定して使うことにより、両手を自由に使うことができるため、暗所での作業や、登山釣りなどのアウトドアレジャーのほか潜水にも使用される。電源に乾電池を、光源には消費電力の少ない発光ダイオード(LED) を使用したものが一般的であり、従来の電球を光源とした製品は姿を消しつつある。

雨中での使用を考慮した防滴仕様のものや、潜水用に水中で使用できるものもある。

脚注

  1. ^ 自動車検査法人平成27年1月「前照灯試験機の選択について」[1](PDF) 2016年1月15日閲覧
  2. ^ HALOGEN BULB SUPER J BEAM DEEP YELLOW 2400K(IPF):交換用イエローバルブ。製品に関する注意として、2006年式以降の車両のヘッドランプには使用できないと明言されている。
  3. ^ Georgano, G. N. (2002). Cars: Early and Vintage, 1886–1930 (A World of Wheels Series). Mason Crest. ISBN 978-1-59084-491-5 
  4. ^ Walker, Richard (1999). The Eventful Century. Reader's Digest. ISBN 0-276-42259-7 
  5. ^ ヘッドライトは“機能”それとも“装飾”? 前編【CAR STYLING VIEWS 02】”. clicccar (2011年5月7日). 2013年8月6日閲覧。
  6. ^ "World premiere at 2014 CES in Las Vegas: The Audi Sport quattro laserlight concept car" (Press release). Audi of America, Inc. 30 January 2014.
  7. ^ "Audi、ル・マン24時間レース出場マシンにレーザーライトを搭載" (Press release). アウディ ジャパン 株式会社. 30 January 2014.
  8. ^ デザイン:i8”. ビー・エム・ダブリュー株式会社. 2014年1月30日閲覧。
  9. ^ 前照灯(ヘッドライト)の点灯タイミングについて教えてJAF クルマ何でも質問箱
  10. ^ a b 日テレニュース - 「ハイビームは…」その遠慮が死亡事故に 2016年9月28日 20:06
  11. ^ a b [JAF クルマ何でも質問箱 - 夜間走行時のヘッドライトはハイビームが基本?]
  12. ^ 奈良県警 ハイビーム走行の励行 (PDF)
  13. ^ JAF Mate 2007年11月号「ロービームだけで走る危険」より
  14. ^ なお、この場合、ロービームを点灯させるのではなく、法令上フォグランプ(前部霧灯)を点灯しての走行も可能であるが(道路交通法施行令第20条第1項第2号)、フォグランプの照射範囲は左右には広いが、照射距離はロービームよりも短いので、通常は推奨されない
  15. ^ [高速道路での前照灯はハイビームが基本 シンク出版]
  16. ^ 自動車教習所でも、トンネルの中などで車幅灯だけでなく、前照灯を点灯するように指導するのはこのため。フォグランプは2005年までは補助前照灯として前照灯と同時に点灯することを求められたが、現在は前部霧灯として前照灯同様に単独で点灯することができる
  17. ^ 灯体自体が電球となるよう、レンズ・反射鏡・フィラメントを一体化し、不活性ガスを封入し、シールされたランプ
  18. ^ 白熱灯式の前照灯は、電球交換の後に必ず焦点調整をする必要があった
  19. ^ 福原俊一『ビジネス特急〈こだま〉を走らせた男たち』(初版)JTB、2003年11月1日、p.67頁。ISBN 4-533-05011-5 
  20. ^ Visibility Requirements for Trains” (PDF) (2004年6月). 2014年5月16日閲覧。

関連項目