コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

「境界性パーソナリティ障害」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
編集の要約なし
Margarita (会話 | 投稿記録)
m編集の要約なし
(2人の利用者による、間の11版が非表示)
17行目: 17行目:
}}
}}


'''境界性パーソナリティ障害'''(きょうかいせいパーソナリティしょうがい、Borderline Personality Disorder,'''BPD''')は、境界型パーソナリティ障害とも呼ばれ、[[思春期]]または成人期に多く生じる、不安定な自己-他者のイメージ、[[感情]][[思考]]の制御の障害、衝動的な自己破壊行為など特徴とするパーソナリティの障害である。自殺率が非常に高く、通院患者の10%にも及ぶというデータもある<ref name="NHK">[http://cgi4.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail.cgi?content_id=3012 2011年3月3日 NHKクローズアップ現代 「境界性パーソナリティ障害」]</ref>。[[DSM-IV-TR]]日本語版2003年8月新訂版より、邦訳が境界性人格障害から'''境界性パーソナリティ障害'''と変更され、また日本精神神経学会2008年5月に境界性パーソナリティ障害に用語改定をすることを発表ている。一般では'''ボーダーライン'''と呼称される事もある。
'''境界性パーソナリティ障害'''(きょうかいせいパーソナリティしょうがい、Borderline Personality Disorder,'''BPD''')は、境界型パーソナリティ障害とも呼ばれ、[[思春期]]または成人期に多く生じる、不安定な自己-他者のイメージ、感情・思考の制御の障害、衝動的な自己破壊行為など特徴とするパーソナリティの障害である。自殺率が非常に高く、通院患者の10%にも及ぶというデータもある<ref name="NHK">[http://cgi4.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail.cgi?content_id=3012 2011年3月3日 NHKクローズアップ現代 「境界性パーソナリティ障害」]</ref>。[[DSM-IV-TR]]日本語版2003年8月新訂版より、邦訳が境界性人格障害から'''境界性パーソナリティ障害'''と変更され、また日本精神神経学会2008年5月に境界性パーソナリティ障害に用語改定をし。一般では'''ボーダーライン'''と呼称される事もある。


旧来の疾患概念である'''[[境界例]]'''と混同されやすく、一般的に境界例と呼称される場合、境界性パーソナリティ障害を指すことが多い。
旧来の疾患概念である'''[[境界例]]'''と混同されやすく、一般的に境界例と呼称される場合、境界性パーソナリティ障害を指すことが多い。


==概説==
== 概説 ==
年患者数が増加しているともいわれ、医療費への影響や自己破壊的な行動による生産性の低下などから経済へ与える影響も大きい。主に力動的精神医学からの研究がなされているが、生物学的な研究は未だ少ない。治療法は[[精神療法]]を主体とし、薬物療法を併用することが多い。なお「境界性」の「境界」は現在は特別な意味を持たない。
[[1970代]]頃から患者数が増加しており、医療費への影響や自己破壊的な行動による生産性の低下などから経済へ与える影響も大きい。主に力動的精神医学からの研究がなされているが、生物学的な研究は未だ少ない。治療法は[[精神療法]]を主体とし、[[薬物治療|薬物療法]]を併用することが多い。なお「境界性」の「境界」は現在は特別な意味を持たない<ref group="注">名称を大幅に変更しようという動きもある。( [[#林直樹 (2007/11)|林直樹 (2007/11)]] )</ref>


=== 歴史 ===
境界(Borderline)という言葉は、[[神経症]]と[[統合失調症|精神病]]の境界領域という意味の力動精神医学用語である「[[境界例]] (Borderline Case)」を派生としている。[[1906年]]頃、[[ジークムント・フロイト|フロイト]]の弟子である精神分析医のフェダーンは、[[神経症]]だとみなされていた患者に古典的精神分析を施すと、精神病症状が出現する者がいることを観察した。当初は[[統合失調症|精神分裂病]]の一表現型と捉えられており、境界例、潜在性分裂病、偽神経症性分裂病などと呼ばれた。
境界(Borderline)という言葉は、[[神経症]]と[[統合失調症|精神病]]<ref group="注">神経症は心因性の病気を指す。現在では○○障害と呼ばれることが多い。精神病は内因性の病気を指し、ここでは主に統合失調症(当時の精神分裂病)を指す。</ref>の境界領域という意味の力動精神医学用語である「[[境界例]] (Borderline Case)」を派生としている。[[1906年]]頃、[[ジークムント・フロイト|フロイト]]の弟子である精神分析医のフェダーンは、[[神経症]]だとみなされていた患者に古典的精神分析を施すと、精神病症状が出現する者がいることを観察した。当初は[[統合失調症|精神分裂病]]の一表現型と捉えられており、境界例、潜在性分裂病、偽神経症性分裂病などと呼ばれた<ref name="agari">[[#上里一郎、織田尚生 (2005) |上里一郎、織田尚生 (2005) ]]</ref>。


[[1950年代]]に入ると、それらの病態はナイトらにより、神経症から分裂病、あるいはその逆へ移行しうる状態であると考えられるようになった。
[[1950年代]]に入ると、それらの病態はナイトらにより、神経症から分裂病、あるいはその逆へ移行しうる状態であると考えられるようになった。
ナイトは[[統合失調症|精神病]]と神経症は区別されるべきという伝統的精神医学の前提を否定し、両者の境界領域の病態が存在するとした。ナイトは本質的には[[統合失調症|精神分裂病]]とみていたが、シュミデベルグはむしろ、移行することなく不安定さの中に安定している独立した一臨床単位であると説き、本質には[[人格|パーソナリティ]]の重篤な障害があると言及した。
ナイトは精神病と神経症は区別されるべきという伝統的精神医学の前提を否定し、両者の境界領域の病態が存在するとした。ナイトは本質的には[[統合失調症|精神分裂病]]とみていたが、シュミデベルグはむしろ、移行することなく不安定さの中に安定している独立した一臨床単位であると説き、本質には[[人格|パーソナリティ]]の重篤な障害があると言及した<ref name="agari"/>


[[1950年代]]後半から[[1960年代]]にかけて境界例研究はさらに加熱し、各国で様々な議論が交わされた。[[精神分析学]]の立場からはカーンバーグの、安定的で特異な人格構造を有する「境界型人格構造 (Borderline personality organization - BPO) 」の概念が、記述精神医学の立場からはグリンカーによって「境界症候群 (Borderline syndrome) 」として統計的・操作的な診断基準が提出され、さらにケティらは遺伝学的研究から精神分裂病との違いを明確にしていった。これら流れを受け、ガソンは具体的な症状などを用いた独自診断基準を完成させた。こガンダーソンの診断基準は、[[1980年]]に発表された[[精神障害診断と統計手引き|DSM-III]] に記載された「境界性パーソナリティ障害」の診断基準を作る際に参照さ、現在使用れている[[精神障害の診断統計手引き|DSM-IV-TR]]も受け継がれてい<ref>[[#上里一郎、織田尚生 (2005) |上里一郎、織田尚生 (2005) ]]</ref>。また[[疾病及び関連保健問題の国際統計分類|ICD-10]]では情緒不安定性パーソナリティ障害の下位カテゴリ「境界型」として存在する
[[1950年代]]後半から[[1960年代]]にかけて境界例研究はさらに加熱し、各国で様々な議論が交わされた。[[精神分析学]]の立場からはカーンバーグの、安定的で特異な人格構造を有する「境界型人格構造 (Borderline personality organization - BPO) 」の概念が、記述精神医学の立場からはグリンカーによって「境界症候群 (Borderline syndrome) 」として統計的・操作的な診断基準が提出された。このカー境界型人格構造概念は、いわゆる今日の[[パーソナリティ障害]]全般概念であり、そ下位分類の一つが境界性パーソナリティ障害へと受け継がた。らにケティらは遺伝学的研究から精神分裂病との違いを明確ていった<ref name="agari"/>。


これらの流れを受け、ガンダーソンは具体的な症状を用いた独自の診断基準を完成させた。このガンダーソンの診断基準は、[[1980年]]に発表された[[精神障害の診断と統計の手引き|DSM-III]] に記載された「境界性パーソナリティ障害」の診断基準を作る際に参照され、現在使用されている[[精神障害の診断と統計の手引き|DSM-IV-TR]]にも受け継がれている<ref name="agari"/>。また[[疾病及び関連保健問題の国際統計分類|ICD-10]]では情緒不安定性パーソナリティ障害の下位カテゴリ「境界型」として存在する。
[[1970年代]]頃より、境界性パーソナリティ障害と[[うつ病]]などの[[気分障害]]との関連性に関する研究が進められており、長期予後を含め、現在でも様々な議論を呼んでいる<ref>Klein,D.(1975):Psychopharmacology and the borderline patient.In:Mark,J.E.(ed):Borderline states in psychuatry.p75-92,Grune&Stratton,</ref>。Koenigsbergらが[[1999年]]に発表した論文によると、他のパーソナリティ障害に比べると境界性パーソナリティ障害と[[気分障害]]の関連は特別なものではないとされている。またガンダーソンらも[[気分障害]]の併存率は有意に高いが、それぞれ独立して存在しており関連性は低いとした<ref>{{cite journal |author=Gunderson, J. G., Weinberg, I., Daversa, M.T.''et al.'' |title=Descriptive and longitudinal observations on the relationship of borderline personality disorder and bipolar disorder |journal=Am J Psychiatry. |volume=163 |pages=1173–1178 |year=2006 |doi= |url=http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?articleID=96790&atab=7

=== 現在 ===
境界性パーソナリティ障害の研究は、[[パーソナリティ障害]]の類型の中で最も進んでいる。

[[1970年代]]頃より、境界性パーソナリティ障害と[[うつ病]]などの[[気分障害]]との関連性に関する研究が進められており、長期予後を含め、現在でも様々な議論を呼んでいる<ref>Klein,D.(1975):Psychopharmacology and the borderline patient.In:Mark,J.E.(ed):Borderline states in psychuatry.p75-92,Grune&Stratton,</ref>。Koenigsbergらが1999年に発表した論文によると、他のパーソナリティ障害に比べると境界性パーソナリティ障害と[[気分障害]]の関連は特別なものではなく、またガンダーソンらも[[気分障害]]の併存率は有意に高いが、それぞれ独立して存在しており関連性は低いとした<ref>{{cite journal |author=Gunderson, J. G., Weinberg, I., Daversa, M.T.''et al.'' |title=Descriptive and longitudinal observations on the relationship of borderline personality disorder and bipolar disorder |journal=Am J Psychiatry. |volume=163 |pages=1173–1178 |year=2006 |doi= |url=http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?articleID=96790&atab=7
}}</ref>。また遺伝学的研究や、生物学的研究も行われている。
}}</ref>。また遺伝学的研究や、生物学的研究も行われている。


[[2000年代]]に突入した頃より、啓発本や[[インターネット]]などにより、一般社会でもこの障害の存在が広く認知されるようになった。しかし病名が普及するにしたがって、意図せぬところで境界性パーソナリティ障害に対するネガティブなイメージも高まっていった傾向があり、患者自身あるいは周囲の人間も、この病名にある種の嫌悪感を持つことが多い。自分の周りにいる厄介な人間へのレッテル付けとして使用される場合もある。この傾向は[[医師]]や[[カウンセラー]]などの治療者にも存在し、不必要に忌避的になることもあという。これは明確な治療法がないという誤った認識や、それにより治療に費やす労力が予想されること、感情的になった患者から怒りをぶつけられる恐れなどの結果である<ref>[[#小羽俊士 (2009) |小羽俊士 (2009) ]] p199</ref>。しかし[[1990年代]]以降、様々なアプローチでの治療法が生み出され、境界性パーソナリティ障害は医療現場でもまた一般社会でも特別な存在ではなくなった。
[[2000年代]]に突入した頃より、啓発本や[[インターネット]]などにより、一般社会でもこの障害の存在が広く認知されるようになった。しかし病名が普及するにしたがって、意図せぬところで境界性パーソナリティ障害に対するネガティブなイメージも高まっていった傾向があり、患者自身あるいは周囲の人間も、この病名にある種の嫌悪感を持つことが多い。自分の周りにいる厄介な人間へのレッテル付けとして使用される場合もある。この傾向は[[医師]]や[[カウンセラー]]などの治療者にも存在し、不必要に忌避的になることもあったという。これは明確な治療法がないという誤った認識や、それにより治療に費やす労力が予想されること、感情的になった患者から怒りをぶつけられる恐れの結果である<ref>[[#小羽俊士 (2009) |小羽俊士 (2009) ]] p199</ref>。しかし[[1990年代]]以降、様々なアプローチでの治療法が生み出され、境界性パーソナリティ障害は医療現場でもまた一般社会でも特別な存在ではなくなった。


また一般社会での名称の普及からも考察するに、[[対人関係]]において危機的状況に晒された時、人はみな自身の存在価値に悩み、理性的判断を失い、他者に対し特異的に振舞うといえる。このような病的な要素は正常な人間が誰しも持ちうる心的な反応である、との意見もまた正論であるといえよう<ref>[[#岡野憲一郎 (2006) |岡野憲一郎 (2006) ]]</ref>。
また一般社会での名称の普及からも考察するに、[[対人関係]]において危機的状況に晒された時、人はみな自身の存在価値に悩み、理性的判断を失い、他者に対し特異的に振舞うといえる。このような病的な要素は正常な人間が誰しも持ちうる心的な反応である、との意見もまた正論であるといえよう<ref>[[#岡野憲一郎 (2006) |岡野憲一郎 (2006) ]]</ref>。

=== 統計 ===
調査では、人口の0.7 - 2.0%程度に存在すると言われている<ref>Cold(2003),Widigerとrogers(1989)</ref>。女性が男性の2 - 4倍であり、出現率の高い年齢は19 - 34歳である<ref>American Psychiatric Accociation.(1987).Diagnostic and statistical manual of mental disorders (3rd ed.,rev.ed).Washington,DC:Author.</ref><ref>{{Cite journal |author=Swarts,M.,Blanzer,D.,George,L,&Winfield,I |title=Estimating the prevalence of borderline personality disorder in the community |journal=Journal of Personality Disorders |volume=4 |issue=3 |year=1990 |pages=257-272 }}</ref>。男性より女性のほうが多いとされるのは、実際数である可能性もあるが、男性の場合、[[反社会性パーソナリティ障害]]、[[自己愛性パーソナリティ障害]]と診断されることが多い為ではないかとする意見もある<ref>[[#メラニー・A・ディーン (2005) |メラニー・A・ディーン (2005)]] p4</ref>。

外来通院患者では約10%ほどとみられており<ref name="NHK"/><ref>{{Cite journal |author=American psychiatric Association |title=Diagnostic and statistical manual of mental disorder.(4th ed.) |volume= |issue= |year=1994 |month= |publisher=Washington,D.C Amrican Psychiatric Association }}</ref>、入院患者では15 - 20%というデータがある<ref>{{Cite journal |author=Kroll,Carey,Sines,and Rothe |title=Are thereborderlines in Britain? A cross-validation of U.S. findings. |volume=5 |issue=3 |year=1982 |month= |publisher=Journal of Personality disorders. |pages=225-232 }}</ref>。しかし患者数を正確に把握することを難しくしている問題がある。ひとつは、[[医師]]特有の高圧的な態度により[[患者]]に抵抗感や反発が生まれ「医原性のBPD(境界性パーソナリティ障害)」が造られている可能性である。医師側に患者のささいな反論をも受け入れられない[[自己愛]]が存在した場合や、「操作されるのではないか」という不安感がある場合など、治療者の態度を通して患者に怒りや恐れの反応が生まれることになり、境界性パーソナリティ障害が「造られる」こととなる<ref>[[#岡野憲一郎 (2010)|岡野憲一郎 (2010)]]</ref>。もうひとつとしては、治療による患者の退行が挙げられる。例えば[[大うつ病性障害|単極性うつ病]]の併病としての[[パーソナリティ障害]]は、[[回避性パーソナリティ障害|回避性]]、[[依存性パーソナリティ障害|依存性]]、強迫性が多く境界性は少ないのだが、入院患者に関しては53%が境界性パーソナリティ障害と診断されたデータもある<ref>Doyle TJ, Tsuang MT, Lyons MJ.(1999)Comorbidity of depressive illnesses and personality disorders. In: Tohen M, editor. Comorbidity of Affective Disorders. New York: Marcel Dekker,</ref>。これは手厚い入院治療により患者が退行したことで、あたかも境界性パーソナリティ障害のようにふるまうようになった可能性がうかがい知れる結果である<ref>{{Cite journal|和書 |author=広瀬徹也 |title=境界性人格障害と双極 II 型障害をどう見極めるか |volume=5 |issue=2 |year=2007 |month=9 |publisher=Bulletin of Depression and Anxiety Disorders |pages=4-7 }}</ref>。このような諸事情が境界性パーソナリティ障害の正確な患者数を掴むことを困難にしている。

患者の年代は20代が最も多いが、30代半ば以降では改善に向かうことが多い。またアメリカの調査では、外来患者の治療を始めてから1年後には41%が境界性パーソナリティ障害と診断されなくなっている。入院患者に関しても2年後には35%、4年後には49%、6年後には70%が診断されなくなっており、[[自傷行為]]や[[薬物乱用]]、対人障害などは一旦改善しはじめると比較的早く治癒することが報告されている<ref>[[#林直樹 (2011) |林直樹 (2011) ]] p48 - 49</ref>。しかしこれら「陽性症状」ともいえる目立った症状がなくなることで診断基準に当てはまらなくなるだけとの見方もあり、思春期から青年期にかけての重要な時期を、社会的機能が著しく低下したまま過ごすことによる本人の損失は大きく、また慢性的な[[孤独]]感や空虚感、[[アイデンティティ]]の拡散、依存や対人関係障害などの目立たない「陰性症状」は長期的に続くことが示唆されており<ref>[[#小羽俊士 (2009) |小羽俊士 (2009) ]]</ref>、早期の治療はやはり有用であるとされる<ref>{{Cite journal |author=Mary C. Zanarini; Frances R. Frankenburg; D. Bradford Reich; Kenneth R. Silk; James I. Hudson; Lauren B. McSweeney |title=The Subsyndromal Phenomenology of Borderline Personality Disorder: A 10-Year Follow-Up Study |journal=Am J Psychiatry |volume=164 |issue= |year=2007 |pages=929-935|url=http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?articleid=98510#AJP1646BGBJHCCH }}</ref>。


== 症状 ==
== 症状 ==
=== 認知・感情・行動の障害===
症状の機軸となるものは、不安定な思考や感情、行動およびコミュニュケーションである。
症状の機軸となるものは、不安定な思考や感情、行動およびそれに伴うコミュニュケーションの障害である。


具体的には、衝動的行動、白か黒かの二極思考、対人関係の障害、慢性的な空虚感、自己同一性障害、薬物や[[アルコール依存]]、自傷行為や自殺企図などの自己破壊行動が挙げられる。また怒り、空しさや寂しさ、見捨てられ感や自己否定感など、感情がめまぐるしく変化し、なおかつ混在する感情の調節が困難である。
具体的には、衝動的行動、白か黒かの二極思考、対人関係の障害、慢性的な空虚感、[[自己同一性]]障害、薬物や[[アルコール依存]]、[[自傷行為]]や自殺企図などの自己破壊行動が挙げられる。また怒り、空しさや寂しさ、見捨てられ感や自己否定感など、感情がめまぐるしく変化し、なおかつ混在する感情の調節が困難である。


激しい感情は対人関係の摩擦や社会的機能の低下を生む。衝動的行為としては、性的放縦、ギャンブルや買い物などでの多額の浪費、より顕著な行為としては[[アルコール]]や薬物の乱用がある。さらに自己破壊的な性質を帯びたものとして、過食嘔吐や不食などの[[摂食障害]]がある。自己破壊的行為で最も重いものは自殺であるが、そのほかにも[[リストカット]]などの[[自傷行為]]、自殺企図(薬物の[[オーバードーズ|過量服薬]]等)など、自分自身を窮地立たせることとなり危険である。
激しい感情は対人関係の摩擦や社会的機能の低下を生む。衝動的行為としては、性的放縦、[[ギャンブル]]や買い物などでの多額の浪費、より顕著な行為としては[[アルコール]]や[[薬物乱用|薬物の乱用]]がある。さらに自己破壊的な性質を帯びたものとして、過食嘔吐や不食などの[[摂食障害]]がある。自己破壊的行為で最も重いものは[[自殺]]であるが、そのほかにも[[リストカット]]などの[[自傷行為]]、自殺企図(薬物の[[オーバードーズ|過量服薬]]等)により実際に死に至ることある。


境界性パーソナリティ障害では他者との分離不安があり、依存できる関係を求めたり、相手を過度に理想化する傾向にあるが、繊細で他者の感情に敏感であるがために、失望するととたんに相手の価値下げをすることがある。依存は自覚がなく無意識的なものであるが、追い払ったり引き戻したりすることで対人関係が激しく短期的なものになりやすい。周囲の人間はこれらの行動を 『操作的(manipulative)』<ref group="注">操作的というのはあくまで一方側からみた側面であり、操作される対象があってはじめて成り立つ。岡野は操作される側にも問題があるとし、余裕のない人間ほど操作されやすく、また、操作されていると感じやすいと述べている。( [[#岡野憲一郎 (2010)|岡野憲一郎 (2010)]] )</ref>と否定的に受け取ることもある<ref>[[#メラニー・A・ディーン (2005) |メラニー・A・ディーン (2005) ]] p10</ref>。
また自己破壊的行為のほとんどは抑うつ状態で起こっていることが種々の調査で明らかになっており、パーソナリティの問題が改善するとうつ状態が良くなることがある一方、[[うつ病]]の治療をすることで衝動的行動が改善することもあるなど、互いに密接にかかわっている<ref>[[#林直樹 (2011) |林直樹 (2011) ]] p40 - 41</ref>。またこれらの行為中は[[解離 (心理学)|解離]]を伴うことがある<ref>{{Cite journal |author=Kemperman |title=Self-injurious behavior and mood regulation in berderline patients. |journal=Jornal of Personality Disorder |volume=11 |issue=2 |year=1997 |pages=146-157 }}</ref>。


また自己破壊的行為のほとんどは抑うつ状態で起こっていることが種々の調査で明らかになっており、[[気分障害]]との関連についての研究が各国で行われている。[[人格|パーソナリティ]]の問題が改善するとうつ状態が良くなることがある一方、[[うつ病]]の治療をすることで衝動的行動が改善することもあるなど、互いに密接にかかわっている<ref>[[#林直樹 (2011) |林直樹 (2011) ]] p40 - 41</ref>。
境界性パーソナリティ障害では他者との分離不安があり、依存できる関係を求めたり、相手を過度に理想化する傾向にあるが、繊細で他者の感情に敏感であるがために、失望するととたんに相手の価値下げをすることがある。依存は自覚がなく無意識的なものであるが、追い払ったり引き戻したりすることで対人関係が激しく短期的なものになりやすい。周囲の人間はこれらの行動を『操作的(コントロール)』と否定的に受け取ることもある<ref>[[#メラニー・A・ディーン (2005) |メラニー・A・ディーン (2005) ]] p10</ref>。


なお同じ境界性パーソナリティ障害でも、患者によって非常に違って見える<ref group="注">そのほかにもマスターソンが発達停止論を元に、低機能型、高機能型という分け方をしている。( [[#ジェームス・F・マスターソン、アン・R・リーバーマン (2007)|ジェームス・F・マスターソン、アン・R・リーバーマン (2007)]] )</ref>。概ね抑うつ、衝動性、精神病症状のどれかが目立つとしている。また[[気分障害]]、他の[[パーソナリティ障害]]、器質性障害、[[非定型精神病|非定型性精神病]]など他の疾患の併存もそれぞれの差となって現れる<ref>[[#メラニー・A・ディーン (2005) |メラニー・A・ディーン (2005) ]] p11 - 12</ref>。
同一の対象に肯定的、否定的な感情を同時に抱けないという分裂(スプリッティング)思考は、原始的な[[防衛機制]]の一種であるが、この極端な分裂思考は対人関係の障害だけでなく、自分に対しても[[自己同一性|自己同一性障害]]などという形となって現れ、自己像の不安定さや、慢性的な虚無感、それに伴う社会的機能の低下の原因となりうる。投影同一化、他者の理想化、出来事の否認などの[[防衛機制]]についても、人生で起こりうる様々な問題に対する適応力の発達を妨げ、漠然とした不安感や抑うつ、衝動統制の困難さや一過性の精神病症状などを招くとされる<ref>Kernberg,O.(1975).Borderline conditions and pathological narcissism. New York:Aronson.</ref>。この精神病症状は強い[[ストレス]]下においてより顕著になり、[[解離 (心理学)|解離]]や非現実感、離人感、[[パラノイア]](根拠の無い疑惑・信念等)の出現などにより、現実検討力が著しく低下する事態を生むこともある。


=== 精神病症状 ===
なお同じ境界性パーソナリティ障害でも、患者によって非常に違って見えることがある。概ね抑うつ、衝動性、精神病症状のどれかが目立つとしている。また[[気分障害]]、他の[[パーソナリティ障害]]、器質性障害、[[非定型精神病|非定型性精神病]]など他の疾患の併存もそれぞれの差となって現れる<ref>[[#メラニー・A・ディーン (2005) |メラニー・A・ディーン (2005) ]] p11 - 12</ref>。
境界性パーソナリティ障害の症状として、一過性の精神病症状がある。この精神病症状は強い[[ストレス]]下においてより顕著になり、[[解離 (心理学)|解離]](健忘など)や非現実感、離人感<ref group="注">自己や自分の身体に現実感がなく夢のよう、他人のように感じる、遊離している、離れた所から傍観している、声が奇妙に聞こえるなどの感覚。転換性障害、てんかんの部分発作、正常人でもストレスによって起こることがある。( [[#下山晴彦 (2009)|下山晴彦 (2009)]] )</ref>、[[パラノイア]]<ref group="注">パラノイド。理路整然とした妄想を抱き続けるなど、複雑で論理だった系統のもの。( 稲富正治 (2005) )</ref>などが出現したり、現実検討力が著しく低下する事態を生むこともある。[[失声症|失声]]症状が現れたという報告もある<ref>[[#町沢静男 (2005) |町沢静男 (2005) ]]</ref>。


[[精神障害の診断と統計の手引き|DSM-IV]]の境界性パーソナリティ障害の診断基準の中に「一過性の解離症状」<ref group="注">「解離」とは記憶、思考、感情、行動といった体験の統合が失われた状態。( [[#下山晴彦 (2009)|下山晴彦 (2009)]] )</ref>というものがある。日本でも治療の経過中に解離症状が出現した患者は全体の26%あったという報告があり、患者にしばしば解離症状が出現することが認められている<ref name="hayashi200711">[[#林直樹 (2007/11) |林直樹 (2007/11) ]]</ref>。また自傷の行為中に[[解離 (心理学)|解離]]を伴うことがある<ref>{{Cite journal |author=Kemperman |title=Self-injurious behavior and mood regulation in berderline patients. |journal=Jornal of Personality Disorder |volume=11 |issue=2 |year=1997 |pages=146-157 |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9203109 }}</ref>。

=== 自傷・自殺関連行動===
[[自傷行為]]の多くは心理的苦しみを軽減する為に行われることが多いが、自傷行為が発展し実際に[[自殺]]を招くこともある。[[東京都立松沢病院]]の調査では、入院していた患者の退院後2年以内の自殺率は、[[うつ病]]や[[統合失調症]]の人が35%なのに対し、境界性パーソナリティ障害では67%と約2倍高いという結果が出た<ref name="NHK"/>。アメリカの調査でも、境界性パーソナリティ障害全体での自殺完遂率は9%と極めて高いものとなっている<ref>
[[自傷行為]]の多くは心理的苦しみを軽減する為に行われることが多いが、自傷行為が発展し実際に[[自殺]]を招くこともある。[[東京都立松沢病院]]の調査では、入院していた患者の退院後2年以内の自殺率は、[[うつ病]]や[[統合失調症]]の人が35%なのに対し、境界性パーソナリティ障害では67%と約2倍高いという結果が出た<ref name="NHK"/>。アメリカの調査でも、境界性パーソナリティ障害全体での自殺完遂率は9%と極めて高いものとなっている<ref>
{{Cite journal |author=Paris,Joel |title=Completed suicide in borderline personality disorder. |journal=Psychiatric Annals |volume=20 |issue=1 |year=1990 |pages=19-20}}</ref><ref>{{Cite journal |author=Stone,M.,Hurt,S.W.,&Stone |title=The PL 500:Lomg-term follow-up of borderline inpatients meetimg DSM-III criteria.I.Global outcome. |journal=Journal of Personality Disorders |volume=1 |issue=4 |year=1978 |pages=291-298}}</ref>。
{{Cite journal |author=Paris,Joel |title=Completed suicide in borderline personality disorder. |journal=Psychiatric Annals |volume=20 |issue=1 |year=1990 |pages=19-20}}</ref><ref>{{Cite journal |author=Stone,M.,Hurt,S.W.,&Stone |title=The PL 500:Lomg-term follow-up of borderline inpatients meetimg DSM-III criteria.I.Global outcome. |journal=Journal of Personality Disorders |volume=1 |issue=4 |year=1978 |pages=291-298}}</ref>。


またリストカットなどの[[自傷行為]]を行う者が全て境界性パーソナリティ障害というわけではない<ref>[[#渡辺雅幸 (2007) |渡辺雅幸 (2007) ]]</ref>。[[DSM-IV-TR]]では、数ある診断名の中で自傷行為を取り扱ってるものは、境界性パーソナリティ障害のみであるが、A.R.ファヴァッツらの調査では、自傷行為を行う者の中で、境界性パーソナリティ障害の診断に該当した者は全体の半数にも満たなかった<ref>[[#松本俊彦 (2009) |松本俊彦 (2009) ]]</ref>。日本での報告としては、自殺関連行動で入院した患者の53.8%が境界性パーソナリティ障害と診断されており、また一度でも[[自傷行為]]を行ったことがある患者については75%に達しており、[[パーソナリティ障害]]の中では最も自傷行為と関連性があるといだろう<ref>[[#林直樹 (2007) |林直樹 (2007) ]]</ref>。
[[DSM-IV-TR]]では、数ある診断名の中で自傷行為を取り扱っているものは境界性パーソナリティ障害のみであるが、[[リストカット]]などの[[自傷行為]]を行う者が全て境界性パーソナリティ障害というわけではない<ref>[[#渡辺雅幸 (2007) |渡辺雅幸 (2007) ]]</ref>。自傷行為をやすい他[[精神疾患]]としては、[[うつ病]]などの[[気分障害]]、[[統合失調症]]、[[解離障害]]、他の[[パーソナリティ障害]]、アルコールや薬物依存など物質関連障害がある<ref>[[#林直樹 (2008)|林直樹 (2008)]]</ref>。
A.R.ファヴァッツらの調査では、自傷行為を行う者の中で、境界性パーソナリティ障害の診断に該当した者は全体の半数にも満たなかった<ref>[[#松本俊彦 (2009) |松本俊彦 (2009) ]]</ref>。日本での報告としては、自殺関連行動で入院した患者の53.8%が境界性パーソナリティ障害と診断されている(重複診断を含む)。なお一度でも自傷行為を行ったことがある患者については75%に達しており、パーソナリティ障害の中では最も自傷行為と関連性が深いみられている<ref>[[#林直樹 (2007/10) |林直樹 (2007/10) ]]</ref>。

=== 防衛機制との関連 ===
[[防衛機制]]とは、心の安定を図るために不快な体験を弱めたり避けたりしようとする心理的機能であり、人が誰しも持つものである。不安が強くなるとこの防衛機制は強く働く<ref>[[#杉原一昭、渡辺映子、勝倉孝治 (2003)|杉原一昭、渡辺映子、勝倉孝治 (2003)]]</ref>。境界性パーソナリティ障害ではこれらの防衛機制が様々な症状と関わりを持っていると考えられている。中でも重要であり中心にある防衛機制は「分裂(splitting)」である。分裂は原始的な[[防衛機制]]の中心的な存在であるが、同一の対象に肯定的、否定的な感情を同時に抱けないというような極端な分裂思考は、対人関係の障害だけでなく、自分に対しても[[自己同一性|自己同一性障害]]という形となって現れ、自己像の不安定さや、慢性的な虚無感、それに伴う社会的機能の低下の原因となる。

カーンバーグは、[[パーソナリティ障害]](全般)の人のよく用いる防衛機制として、分裂、投影、投影同一視、否認、原始的理想化、万能感、脱価値化を挙げている<ref name="fukushima1990">[[#福島章、村瀬孝雄、山中康裕 (1990)|福島章、村瀬孝雄、山中康裕 (1990)]]</ref>。これらの[[防衛機制]]の極端な表れは、人生で起こりうる様々な問題に対する適応力の発達を妨げ、漠然とした不安感や抑うつ、衝動統制の困難さ、あるいは一過性の精神病症状をも招く<ref>Kernberg,O.(1975).Borderline conditions and pathological narcissism. New York:Aronson.</ref>。

{{see also|防衛機制}}


== DSMによる診断基準 ==
== DSMによる診断基準 ==
[[DSM-IV-TR]]の診断基準では、以下9項目のうち5つ以上を満たすこととなっている。『DSM-IV-TR 精神疾患の分類と診断の手引』(著者:American Psychiatric Association、翻訳:高橋三郎、大野裕、染矢俊幸、出版社:医学書院、ISBN 4260118862) より引用。
[[DSM-IV-TR]]の診断基準では、以下9項目のうち5つ以上を満たすこととなっている。『DSM-IV-TR 精神疾患の分類と診断の手引』(著者:American Psychiatric Association、翻訳:高橋三郎、大野裕、染矢俊幸、出版社:医学書院、ISBN 4260118862) より引用。多軸評判定のうち、パーソナリティ障害として第 II 軸に記載される


対人関係、自己像、感情の不安定および著しい衝動性の広範な様式で成人期早期に始まり、さまざまな状況で明らかになる。
対人関係、自己像、感情の不安定および著しい衝動性の広範な様式で成人期早期に始まり、さまざまな状況で明らかになる。
74行目: 87行目:
# 同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像や自己観
# 同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像や自己観
# 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(例:浪費、性行為、物質濫用、無謀な運転、むちゃ食い)
# 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(例:浪費、性行為、物質濫用、無謀な運転、むちゃ食い)
# [[自殺]]の行為、そぶり、脅し、または自傷行為のくり返し
# 自殺の行為、そぶり、脅し、または自傷行為のくり返し
# 顕著な気分反応性による感情不安定性(例:通常は2 - 3時間持続し、2 - 3日以上持続することはまれな強い気分変調、いらいら、または不安)
# 顕著な気分反応性による感情不安定性(例:通常は2 - 3時間持続し、2 - 3日以上持続することはまれな強い気分変調、いらいら、または不安)
# 慢性的な空虚感
# 慢性的な空虚感
# 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いのけんかをくり返す)
# 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いのけんかをくり返す)
# 一過性のストレス関連性の妄想様観念、または重篤な解離性症状
# 一過性のストレス関連性の妄想様観念、または重篤な解離性症状

== 統計 ==
=== 概要 ===
調査では、人口の0.7 - 4.0%程度に存在すると言われている<ref>Cold(2003),Widigerとrogers(1989),Vita.Aら(2011)</ref>。女性が男性の2 - 4倍であり、出現率の高い年齢は19 - 34歳である<ref>American Psychiatric Accociation.(1987).Diagnostic and statistical manual of mental disorders (3rd ed.,rev.ed).Washington,DC:Author.</ref><ref>{{Cite journal |author=Swarts,M.,Blanzer,D.,George,L,&Winfield,I |title=Estimating the prevalence of borderline personality disorder in the community |journal=Journal of Personality Disorders |volume=4 |issue=3 |year=1990 |pages=257-272 }}</ref>。男性より女性のほうが多いとされるのは、実際数である可能性もあるが、男性の場合、[[反社会性パーソナリティ障害]]、[[自己愛性パーソナリティ障害]]と診断されることが多い為ではないかとする意見もある<ref>[[#メラニー・A・ディーン (2005) |メラニー・A・ディーン (2005)]] p4</ref><ref>[[#阿保順子、犬飼直子 (2007) |阿保順子、犬飼直子 (2007) ]]</ref><ref group="注">そのほか、アメリカの統計では白人より非白人に有意に多い。( Swartz,M., et al (1990) )</ref>。

外来通院患者では約10%ほどとみられており<ref name="NHK"/><ref>{{Cite journal |author=American psychiatric Association | journal=Washington,D.C Amrican Psychiatric Association |title=Diagnostic and statistical manual of mental disorder.(4th ed.) |volume= |issue= |year=1994 |month= }}</ref>、入院患者では15 - 20%というデータがある<ref>{{cite journal |author=Kroll,Carey,Sines,and Rothe |title=Are thereborderlines in Britain? A cross-validation of U.S. findings. |journal=Journal of Personality disorders. |volume=5 |issue=3 |pages=225-232 |year=1982 |url= }}</ref>。しかし対人障害が一症状として存在する境界性パーソナリティ障害には、治療者との関係性の悪化により、治療者側の主観で診断される「医原性のBPD」が存在する可能性もあり、正確な患者数は掴みにくい<ref>[[#岡野憲一郎 (2010)|岡野憲一郎 (2010)]]</ref><ref group="注">精神科医の笠原は 「医師という仕事は少し経験を積むと、診察室の癖が身について、相手を少々見下す姿勢になりやすい」 と述べている。治療者の高圧的な態度により「BPD的な反応」を引き出している可能性がある。( [[#笠原嘉 (2007)|笠原嘉 (2007)]] )</ref>。

=== 予後 ===
患者の年代は20代が最も多いが、30代半ば以降では改善に向かうことが多い。またザナリーニらの調査では、治療を開始してから4年後には49%の患者が、6年後には73%の患者が診断基準を満たさない状態になっており、[[自傷行為]]や[[薬物乱用]]、対人障害などは一旦改善しはじめると比較的早く治癒することが報告されている<ref group="注">1990年代からアメリカの[[マサチューセッツ州]]にある{{仮リンク|マクリーン・ホスピタル|en|McLean Hospital|label=マクリーン・ホスピタル}}で Maclean Study for Adult Developmnet と呼ばれる多大な費用を投じた大規模なBPD研究が行われており、現在も続けられている。この長期予後はその研究の中からの報告である。( 藤内栄太 (2010) ) </ref><ref name="Zanarini-176026">{{cite journal |author=Zanarini,M.C., Frankenburg,F.R.,Hennen,J. et al |title=The longitudinal course of borderline psychopathology: 6-year prospective follow-up of the phenomenology of borderline personality disorder. |journal=Am J Psychiatry |volume=160 |issue= |pages=274-283 |year=2003 |month= |url=http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?articleID=176026 }}</ref><ref>[[#林直樹 (2011) |林直樹 (2011) ]] p48 - 49</ref>。しかしこれら「陽性症状」ともいえる目立った症状がなくなることで診断基準に当てはまらなくなるだけと見ることもでき、また慢性的な孤独感や空虚感、[[アイデンティティ]]の拡散、依存などの目立たない「陰性症状」は長期的に続くことが示唆されている<ref>[[#小羽俊士 (2009) |小羽俊士 (2009) ]]</ref>。特に改善しにくい症状は、見捨てられ不安、依存、抑うつ感、空虚感、不機嫌さであり、治療開始から6年後でも7割の患者にこのような症状が残存しており、情緒不安定性などの感情の障害に関しては長期的に続きやすいという結果であった<ref name="Zanarini-176026"/>。これはパリスの27年間の追跡調査で、調査期間の後期に自殺率が高くなっていたことでも理解できる結果である<ref>{{cite journal |author=Paris,J |title=Implications of long-term outcome research for management of with borderline personality disorder. |journal=Harv Rev Psychiatry |volume=10 |issue= |pages=315-323 |year=2002 |month= |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12485978 }}</ref>。またザナリーニらの前述の患者の10年後の追跡調査でも、93%の患者が症状が改善し、50%は社会適応も良好であったが、そのうちの34%が再発を経験している<ref>{{cite journal |author=Zanarini,M.C., Frankenburg.F.R.,Reichi,D.B. et al |title=Time to attainment of recovery from borderline personality disorder and stability of recovery: a 10-years prospective follow-up study. |journal=Am J Psychiatry |volume=167 |issue= |pages=663-667 |year=2010 |month= |url=http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?Volume=167&page=663&journalID=13 }}</ref>。

最も予後が良好な群は10年後には症状が消失し寛解していたが、最も不良な群は10年後でも症状が変わっておらず、改善の仕方も患者により個人差があることがわかっている<ref>{{cite journal|和書 |author=藤内栄太 |title=長期予後と治療可能性 |journal=こころの科学 |volume=154 |issue= |pages=63-67 |year=2010 |month=11 |url=http://ci.nii.ac.jp/naid/40017364011 }}</ref>。

思春期から青年期にかけての重要な時期を、社会的機能が著しく低下したまま過ごすことによる本人の損失は大きい。寛解しやすい因子の一つとして「年齢が若いこと」が挙げられており<ref>{{cite journal |author=Zanarini,M.C., Frankenburg,F.R.,Hennen,J. et al |title=Prediction of the 10-year course of borderline personality disorder. |journal=Am J Psychiatry |volume=163 |issue= |pages=827-832 |year=2006 |month= |url= }}</ref>、早期の治療はやはり有用である<ref group="注">ザナリーニは、その他の寛解しやすい人の傾向として、性的虐待の既往がない、物質依存の家族歴がない、適切な職務経験がある、回避性・依存性・強迫性パーソナリティ障害を併発していない、低い神経症傾向、愛想の良さ、などを上げている。( Zanarini,M.C.,(2006) )</ref>。


== 他の障害との関連 ==
== 他の障害との関連 ==
=== 概要 ===
境界性パーソナリティ障害と診断された人の約60%が他の障害を併存しているという。他のパーソナリティ障害や、[[不安障害]]、[[うつ病]]などの[[気分障害]]、薬物の依存症や[[摂食障害]]などが多い<ref>{{Cite journal|author=Clarkin,J.E,Widiger,T.A.,Frances,A.,Hurt,S.W.,& Gilmore,M.|title=Prototypic typology and the borderline personality disorder.|journal=Journal of Abnormal Psychology |volume=93 |issue= |year=1983 |publisher=|pages=263-275}}</ref><ref>{{Cite journal|author=Gunderson,J.G.,Zanarini,M.C.,&Kisiel,C.L.|title=Borderline personality disorder: A review of data on DSM-III-R descriptions.|journal=Journal Personality Disorders|volume=5 |issue= |year=1991 |publisher=|pages=340-352}}</ref>。
境界性パーソナリティ障害と診断された人の約60%以上が他の障害を併存している。他のパーソナリティ障害や、[[不安障害]]、[[うつ病]]などの[[気分障害]]、薬物の依存症や[[摂食障害]]などが多い<ref>{{Cite journal|author=Clarkin,J.E,Widiger,T.A.,Frances,A.,Hurt,S.W.,& Gilmore,M.|title=Prototypic typology and the borderline personality disorder.|journal=Journal of Abnormal Psychology |volume=93 |issue= |year=1983 |publisher=|pages=263-275}}</ref><ref>{{Cite journal|author=Gunderson,J.G.,Zanarini,M.C.,&Kisiel,C.L.|title=Borderline personality disorder: A review of data on DSM-III-R descriptions.|journal=Journal Personality Disorders|volume=5 |issue= |year=1991 |publisher=|pages=340-352}}</ref>。


[[アメリカ]]の統計では、合併症として多かったのは[[身体表現性障害]]が約10%、[[不安障害]]が80%以上うつ病などの[[気分障害]]が90%以上、[[アルコール依存]]が男性74%・女46%、[[薬物乱用]]が男性65%・女41%、[[拒食症]]が男性7%・女性25%、[[過食症]]が男性10%・女性30%、[[心的外傷後ストレス障害]]([[PTSD]])男性31%・女性61%であった<ref>{{cite journal |author=Zanarini MC, Frankenburg FR, Dubo ED, ''et al.'' |title=Axis I comorbidity of borderline personality disorder |journal=Am J Psychiatry. |volume=155 |issue=12 |pages=1733–9 |year=1998 |month=December |pmid=9842784 |doi= |url=http://ajp.psychiatryonline.org/cgi/content/full/155/12/1733}}</ref>。
2009年に行われた[[アメリカ]]の調査では、合併症として多かったのは[[アルコール依存症|アルコール依存]]が約49%、[[PTSD]]が39%、[[自己愛性パーソナリティ障害]]が39%、[[うつ病]]が32%、[[双極障害]](躁うつ病)が32%、[[パニック障害]]が30%、強迫パーソナリティ障害が23%、[[妄想性パーソナリティ障害]]が21%、[[薬物依存]]が18%、[[反社会性パーソナリティ障害]]が14%であった<ref>Grantらによる米国における一般人口に対する大規模な疫学調査の所見(2009)</ref>。


また別の統計では、[[身体表現性障害]]が約10%、[[不安障害]]が80%以上、うつ病などの[[気分障害]]が90%以上、[[アルコール依存]]が男性74%・女性46%、[[薬物乱用]]が男性65%・女性41%、[[拒食症]]が男性7%・女性25%、[[過食症]]が男性10%・女性30%、[[心的外傷後ストレス障害]]([[PTSD]])が男性31%・女性61%であった<ref>{{cite journal |author=Zanarini MC, Frankenburg FR, Dubo ED, ''et al.'' |title=Axis I comorbidity of borderline personality disorder |journal=Am J Psychiatry. |volume=155 |issue=12 |pages=1733–9 |year=1998 |month=December |pmid=9842784 |doi= |url=http://ajp.psychiatryonline.org/cgi/content/full/155/12/1733}}</ref>。
また[[2009年]]に行われた別の調査では、[[アルコール依存症|アルコール依存]]が約49%、[[PTSD]]が39%、[[自己愛性パーソナリティ障害]]が39%、[[うつ病]]が32%、[[双極性障害]](躁うつ病)が32%、[[パニック障害]]が30%、強迫性パーソナリティ障害が23%、[[妄想性パーソナリティ障害]]が21%、[[薬物依存]]が18%、反社会性パーソナリティ障害が14%であった<ref>Grantらによる米国における一般人口に対する大規模な疫学調査の所見(2009)</ref>。


このように実際に他の障害などど合併することも多いが、診断基準においても他の障害と重複する部分が多く判別がつきにくい。以下に相違点の一例を挙げる<ref>[[#メラニー・A・ディーン (2005) |メラニー・A・ディーン (2005) ]] p18</ref>。
このように実際に他の障害合併することも多いが、診断基準においても他の障害と重複する部分が多く判別がつきにくい。統合失調症症状にも似た、過性の精神病症状が現れことは前述した通りだが、初期の[[統合失調症]]や統合失調感情障害も誤診されやすい所見を持つ<ref>[[#小羽俊士 (2009) |小羽俊士 (2009) ]] p59,p73</ref>。


=== 気分障害 ===
=== 気分障害 ===
[[気分障害]]でも情緒の不安定さがみられる。しかし不安定さが最小のサポートで機能できる人は境界性パーソナリティ障害の基準にそぐわない。通常境界性パーソナリティでの抑うつ症状は、[[大うつ病性障害]]の抑うつ症状とは異なるとされるが、対象飢餓、対人依存、傷つきやすい自己評価、無価値感・絶望感など共通点も多い<ref>[[#G・O・ギャバード (1997) |G・O・ギャバード (1997) ]]</ref>。一方、境界性パーソナリティ障害は情緒障害スペクトラムであるとする研究もある。また双極性障害(躁うつ病)の軽躁ないし躁状態時は行動化いなど症状類似する。近年、境界性パーソナリティ障害との鑑別が困難な非定型の双極性障害が増加傾向にあり、その鑑別方法については議論される処となっている<ref>{{Cite journal |author=Akiskal HS. |title=Subaffective disorders:dysthymic, cyclothymic and bipolar II disorders in the "borderline" realm. |journal=Psychiatr Clin North Am |volume=4 |issue= |year=1981 |pages=25-46}}</ref><ref>{{Cite journal |author=Akiskal HS. |title=The bipolar spectrum: new concepts in classification and diagnosis. In: Grinspoon L, editor. |journal=Psychiatry Update. Volume 2. Washington DC: American Psychiatric Press |volume= |issue= |year=1983 |pages=}}</ref>。ま[[アメリカ]]の双極性障害研究・臨床家達の間では、境界性パーソナリティ障害を人格の問題とらえ[[精神療法]]のみを行うべきではなく、[[気分障害]]ととらえ、精神療法と合わせ[[抗躁薬|気分安定薬]]を使うべきという意見が大半をしめている<ref>[[#秋山剛、酒井佳永、松本聡子 (2007) |秋山剛、酒井佳永、松本聡子 (2007) ]]</ref>。統合失調感情障害や、初期の[[統合失調症]]なども誤診されやす所見を持つ<ref>[[#小羽俊士 (2009) |小羽俊士 (2009) ]] p59,p73</ref>
[[気分障害]]でも情緒の不安定さがみられる。しかし不安定さが最小のサポートで機能できる人は境界性パーソナリティ障害の基準にそぐわない。通常境界性パーソナリティ障害での抑うつ症状は、[[大うつ病性障害]]の抑うつ症状とは異なるとされるが、対象飢餓、対人依存、傷つきやすい自己評価、無価値感・絶望感など共通点も多い<ref>[[#G・O・ギャバード (1997) |G・O・ギャバード (1997) ]]</ref>。[[大うつ病障害|単極性うつ病]]の併病としての[[パーソナリティ障害]]、[[回避性パーソナリティ障害|回避性]][[依存パーソナリティ障害|依存性]]、強迫性が多く境界性は少ないの、入院患者に関ては53%が境界性パーソナリティ障害と診断されたデータもある<ref>Doyle TJ, Tsuang MT, Lyons MJ.(1999)Comorbidity of depressive illnesses and personality disorders. In: Tohen M, editor. Comorbidity of Affective Disorders. New York: Marcel Dekker,</ref>。これは手厚い入院治療により患者が退行し、性格が変容した可能性がうかがい知れる結果であり<ref>{{Cite journal|和書 |author=広瀬徹也 |title=境界性人格障害と双極 II 型障害をどう見極めるか |volume=5 |issue=2 |year=2007 |month=9 |publisher=Bulletin of Depression and Anxiety Disorders |pages=4-7 }}</ref>、治療により退行し境界性パーソナリティ障害と誤診されるケースもあるだろう


境界性パーソナリティ障害は情緒障害スペクトラムであるとする研究もある。また、[[双極性障害]](躁うつ病)の軽躁ないし躁状態の時は行動化が激しく症状が類似する。近年、境界性パーソナリティ障害との鑑別が困難な非定型の双極性障害が増加傾向にあり、その鑑別方法については議論される処となっている<ref>{{Cite journal |author=Akiskal HS. |title=Subaffective disorders:dysthymic, cyclothymic and bipolar II disorders in the "borderline" realm. |journal=Psychiatr Clin North Am |volume=4 |issue= |year=1981 |pages=25-46 |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7232236 }}</ref><ref>{{Cite journal |author=Akiskal HS. |title=The bipolar spectrum: new concepts in classification and diagnosis. In: Grinspoon L, editor. |journal=Psychiatry Update. Volume 2. Washington DC: American Psychiatric Press |volume= |issue= |year=1983 |pages=}}</ref>。またアメリカの双極性障害研究者・臨床家達の間では、境界性パーソナリティ障害を[[人格]]の問題ととらえ[[精神療法]]のみを行うべきではなく、[[気分障害]]ととらえ、精神療法と合わせ[[抗躁薬|気分安定薬]]を使うべきという意見が大半をしめている<ref>[[#秋山剛、酒井佳永、松本聡子 (2007) |秋山剛、酒井佳永、松本聡子 (2007) ]]</ref>。
=== 広汎性発達障害 ===

[[広汎性発達障害|高機能広汎性発達障害]]の成人が境界性パーソナリティ障害を併存することは稀だとみられているが<ref>{{Cite journal|和書 |author=岡田俊 |title=青年期の広汎性発達障害における併存障害とその介入 |journal=日本精神神経学会学術総会 特別号 |volume=106 |issue= |year=2011 |pages= |url=http://www.jspn.or.jp/journal/symposium/jspn106/pdf/ss222_225_bgsdng40.pdf }}</ref>、未だ研究段階である。傷つきやすい自己や被害妄想、対人関係の未熟さ・執拗さ、[[リストカット]]や大量服薬などの衝動行為を繰りかえす例もあり、発達障害が見逃されているケースでは、境界性パーソナリティ障害と診断されてしまうことがあるという<ref>{{Cite journal|和書 |author=中村由美子 |title=[http://ci.nii.ac.jp/naid/40017298992 広汎性発達障害と境界性パーソナリティ障害 (特集 再びアスペルガー症候群をめぐって--成人の症例を中心に)] |journal=臨床精神医学 |volume=39 |issue=9 |year=2010 |pages=1231-1236}}</ref>。また[[ADHD]]と合併したと思われる例に、[[ADHD]]に対する薬物治療を開始したところ、敵意や猜疑心などの症状が治まったとの報告もあり、鑑別には慎重を要するだろう<ref>[[#岡野高明、高梨靖子、宮下伯容 他 (2007) |岡野高明、高梨靖子、宮下伯容 他 (2007) ]]</ref>。
=== 広汎性発達障害(PDD) ===
[[広汎性発達障害|高機能広汎性発達障害]]の成人が境界性パーソナリティ障害を併存することは稀だとみられている<ref>{{Cite journal|和書 |author=岡田俊 |title=青年期の広汎性発達障害における併存障害とその介入 |journal=日本精神神経学会学術総会 特別号 |volume=106 |issue= |year=2011 |pages= |url=http://www.jspn.or.jp/journal/symposium/jspn106/pdf/ss222_225_bgsdng40.pdf }}</ref>。[[広汎性発達障害]]に臨床的に併存すると思われるパーソナリティ障害の種類については未だ研究段階であるが<ref>{{Cite journal |author=Henrik Anckarsäter et al |title=The Impact of ADHD and Autism Spectrum Disorders on Temperament, Character, and Personality Development |journal=Am J Psychiatry |volume=163 |issue= |year=2006 |month=7 |pages=1239-1244 |url=http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?Volume=163&page=1239&journalID=13 }}</ref>、現在の[[精神障害の診断と統計の手引き|DSM]]や[[疾病及び関連保健問題の国際統計分類|ICD-10]]などの国際的な操作的診断基準では、[[広汎性発達障害]]と[[パーソナリティ障害]]は相互に除外規定が設けられており、重複診断は認められていない。

[[アスペルガー症候群]]などの[[広汎性発達障害]]では、傷つきやすい自己、攻撃性や被害妄想、対人関係の未熟さ・執拗さを持ち、[[リストカット]]や大量服薬などの衝動行為を繰りかえす例も一部にあり、発達障害が見逃されているケースでは、境界性パーソナリティ障害と診断されてしまうこともある<ref>{{Cite journal|和書 |author=中村由美子 |title=[http://ci.nii.ac.jp/naid/40017298992 広汎性発達障害と境界性パーソナリティ障害 (特集 再びアスペルガー症候群をめぐって--成人の症例を中心に)] |journal=臨床精神医学 |volume=39 |issue=9 |year=2010 |pages=1231-1236}}</ref><ref>{{Cite journal|和書 |author=常包知秀、岡田俊、高橋涼子、西井真希 |title=境界性パーソナリティ障害と診断されていた特定不能の広汎性発達障害 |volume=51 |issue=1 |year=2008 |month=10 |journal=病院・地域精神医学 |pages=34-36 |url=http://ci.nii.ac.jp/naid/10025620951 }}</ref>。また[[ADHD]]と合併したと思われる例に、[[ADHD]]に対する薬物治療を開始したところ、敵意や猜疑心などの症状が治まったとの報告もある<ref name="okanotakaaki">{{Cite journal|和書 |author=[[#岡野高明、高梨靖子、宮下伯容 他|岡野高明、高梨靖子、宮下伯容 他]] |title=成人におけるADHD,高機能広汎性発達障害など発達障害のパーソナリティ形成への影響 ― 成人パーソナリティ障害との関連 ― |volume=19 |issue=4 |year=2004 |month=4 |journal=精神科治療学 |pages=433-442 |url=http://ci.nii.ac.jp/naid/50000462975 }}</ref>。

このように、本来[[広汎性発達障害]]なのだがあたかも[[パーソナリティ障害]]のようにみえる「偽性パーソナリティ障害」が存在する一方、発達障害の二次障害として[[パーソナリティ障害]]の診断基準を満たすような状態となる可能性もあり、その場合通常の[[パーソナリティ障害]]とは治療方針や支援の方向性が異なるとされ<ref name="okanotakaaki"/>、鑑別には慎重を要するだろう。


=== 心的外傷後ストレス障害(PTSD)===
=== 心的外傷後ストレス障害(PTSD)===
境界性パーソナリティ障害のはしばしば顕著な外傷体験を持っている。しかし[[PTSD]]に見られるような過剰な警戒心、刺激への過敏反応、フラッシュバックなどはないことが多い。[[PTSD]]の[[解離 (心理学)|解離]]は[[トラウマ]]に関連した直接的な刺激で起こるが、境界性パーソナリティ障害の解離状態は一般的なストレス下で起こる。[[PTSD]]の研究で知られる[[アメリカ]]の[[精神科医]][[ジュディス・ハーマン]]はその著書の中で、境界性パーソナリティ障害は[[複雑性PTSD]]であると述べている<ref>[[#ジュディス・L・ハーマン (1999) |ジュディス・L・ハーマン (1999) ]]</ref>。なお[[精神障害の診断と統計の手引き|DSM-IV]]には[[複雑性PTSD]]に該当する診断項目はない
[[心的外傷後ストレス障害]]([[PTSD]])とは症候学的な類似が指摘されている。境界性パーソナリティ障害の患者はしばしば顕著な外傷体験を持っており、1/3の患者は[[PTSD]]の診断基準を満たすとも言われている<ref>{{Cite journal |author=Swartz M,Blazer D,George L et al |title=Estimating the Prevalence of Borderline Personality Disorder in the Community. |journal=Journal of Personality Disorder |volume=4 |issue= |year=1990 |month= |pages=257-272 }}</ref>。しかし[[PTSD]]に見られるような過剰な警戒心、刺激への過敏反応、フラッシュバックなどはないことが多い。[[PTSD]]の[[解離 (心理学)|解離]]は[[トラウマ]]に関連した直接的な刺激で起こるが、境界性パーソナリティ障害の解離状態は一般的なストレス下で起こる。


一方で過去の外傷体験が主要な病因になっている一群も存在するとし、外傷性精神障害として捉えようという動きもある。[[PTSD]]の研究で知られるアメリカの[[精神科医]][[ジュディス・ハーマン]]はその著書の中で、境界性パーソナリティ障害は[[複雑性PTSD]]であると述べている<ref>[[#ジュディス・L・ハーマン (1999) |ジュディス・L・ハーマン (1999) ]]</ref>。なお[[精神障害の診断と統計の手引き|DSM-IV]]には[[複雑性PTSD]]に該当する診断項目はない。
=== 解離性同一性障害(DID)===

自己同一性の拡散、不安定な情動統制、自己破壊的行動、対人関係の障害など、一見して境界性パーソナリティ障害と似た点も多い[[解離性同一性障害]]<ref>{{cite journal |author=Marmer SS, Fink D.|title=Rethinking the comparison of borderline personality disorder and multiple personality disorder.|journal=Psychiatr Clin North Am |volume=17 |pages=743-771|year=1994 |doi= |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7877901}}</ref>だが、解離の表れには相違がある。境界性パーソナリティ障害では解離は、ストレス下において出現する防衛規制の一部であるが、[[解離性同一性障害]]では主軸にある症状である。またアメリカでは解離性同一性障害の35 - 71%が、境界性パーソナリティ障害の診断基準を満たすというデータがあり<ref>
患者の現在の症状と[[心的外傷]]を早期に結びつけることが、治療上の陰性反応を避けられるかは結論が得られておらず、慎重な取り扱いが要求される<ref>[[#河合隼雄、空井健三、山中康裕 (2000)|河合隼雄、空井健三、山中康裕 (2000)]]</ref>。
{{Cite journal |author=Gleaves,D.H.|title=The socio-cognitive model of dissociative identity disorder: a reexamination of the evidence.|journal=Psychol Bull |volume=120 |issue= |year=1996 |pages=42-59}}</ref>、併存も多いとみられている。

=== 解離性障害(DD)・解離性同一性障害(DID)===
境界性パーソナリティ障害の患者で[[解離性障害]](DD)の診断基準を満たす者は73%といわれており<ref>{{cite journal |author=Sar V,Akyuz G,kugu N et al |title=Axis I Dissociative Disorder Comorbidity in BorderlinePersonality disorder and Reports of Childhood Trauma. |journal=Journal of Clinical Psychiatry |volume=67 |pages=1583-1590 |year=2006 |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17107251 }}</ref>、境界性パーソナリティ障害の患者で解離性障害と診断することが可能な患者は多い。また[[解離 (心理学)|解離]]、離人、分割投影(投影同一視)は類似概念であるが、境界性パーソナリティ障害に離人症性障害がみられることもある<ref>{{cite journal |author=Chopra,H.D. and Beatson,J.A |title=Psychotic Symptoms in borderline personality disorder. |journal=American Journal of Psychiatly. |volume=143 |issue= |year=1986|pages=1605-1607 }}</ref><ref name="fukushima1990"/>。しかし[[解離性障害]]の患者のパーソナリティの傾向としては、[[回避性パーソナリティ障害|回避性]]、自虐性、[[妄想性パーソナリティ障害|妄想性]]、[[スキゾイドパーソナリティ障害|スキゾイド]]、[[統合失調型パーソナリティ障害|失調型]]、受動攻撃性、または境界性など、多様で複合的であり、解離性障害と境界性パーソナリティ障害を同一疾患とするには無理がある<ref name="hosozawa2008">[[#細澤仁 (2008) |細澤仁 (2008) ]] p67 - 68、p72 - 73、p78</ref>。

解離の表れにも相違がある。境界性パーソナリティ障害では解離は、ストレス下において出現する[[防衛機制]]の一部であり一過性であるが、解離性障害では主軸にある症状であり持続的・反復的である<ref group="注">カーンバーグは人格構造論の分類では、解離性障害では神経症性人格構造を有し、境界性パーソナリティ障害では境界性人格構造を持つとした。また境界性パーソナリティ障害で中心にある[[防衛機制]]は分裂(splitting)、[[解離性障害]]は抑圧(repression)である。( [[#ジェームス・F・マスターソン、アン・R・リーバーマン (2007)|ジェームス・F・マスターソン、アン・R・リーバーマン (2007)]] )</ref>。また解離性障害では見捨てられ不安もない<ref>[[#牛島定信 (2011)|牛島定信 (2011)]]</ref>。

[[解離性同一性障害]](DID)は以前は多重人格障害といわれていたもので、解離性障害の中で最も症状が重いものである。[[アメリカ]]では解離性同一性障害の35 - 71%が境界性パーソナリティ障害の診断基準を満たすというデータがある<ref>{{Cite journal |author=Gleaves,D.H.|title=The socio-cognitive model of dissociative identity disorder: a reexamination of the evidence.|journal=Psychol Bull |volume=120 |issue= |year=1996 |pages=42-59}}</ref>。反対に、境界性パーソナリティ障害の解離性同一性障害の罹患率に関する報告はほとんどない。[[解離性同一性障害]]は症状が複雑であり診断には困難を伴うためである<ref name="hayashi200711"/>。

解離性同一性障害は、[[自己同一性]]の拡散、不安定な情動統制、[[リストカット]]などの自己破壊的行為、対人関係の障害等があり<ref>{{cite journal |author=Marmer SS, Fink D.|title=Rethinking the comparison of borderline personality disorder and multiple personality disorder.|journal=Psychiatr Clin North Am |volume=17 |pages=743-771|year=1994 |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7877901}}</ref>、一見して境界性パーソナリティ障害と似ているため誤診されることがあるが、その他にも[[統合失調症]]、神経症性うつ病と診断されることもあり、概ね診断がくだるまでは数年かかることが多い<ref name="okanokenichiro2009">[[#岡野憲一郎 (2009)|岡野憲一郎 (2009)]] p54、p94</ref>。正しい診断がなされるまで発症後平均6 - 7年の歳月を要したとする報告もある<ref>[[#柴山雅俊 (2006)|柴山雅俊 (2006)]] p30 - 42</ref>。

解離性障害と境界性パーソナリティ障害では、女性の罹患者が多い、[[心的外傷]]体験の既往率が高いことが共通している<ref name="okanokenichiro2009"/>。クラリーは解離性障害は境界性パーソナリティ障害の特殊な一形態であるとし<ref>{{cite journal |author=Clary WF, Burstin KJ,Carpenter JS |title=Multiple Personality and BOrderline Personarity Disorder. |journal=Psychiatric Clinics of North America |volume=7 |pages=89-99 |year=1984 |url= }}</ref>、ハーマンは外傷性精神障害として同じカテゴリーに分類するなど、ほぼ同一の障害とみなす研究者もいる。解離性障害と境界性パーソナリティ障害の合併例は、片方のみ症例に比べ治療はさらに困難となる<ref name="hayashi200711"/>。


=== その他のパーソナリティ障害 ===
=== その他のパーソナリティ障害 ===
;'''自己愛性パーソナリティ障害'''
* '''自己愛性パーソナリティ障害''' - 境界性パーソナリティ障害では、対人関係において支持への要求を顕著にあらわすが、自己愛性パーソナリティ障害の場合はそれよりも巧妙な手段を用いることが多い。自身を否定された時に対する過敏性は共通している。境界性パーソナリティ障害は情緒が極端で、対人関係の安定性が低いのに対し、自己愛性パーソナリティ障害はより安定し持続した関係を持つことができ、尊大であり自己評価も高い<ref>{{Cite journal |author=Elsa Ronningstam and John Gunderson |title=Differentiating Borderline Personality Disorder from Narcissistic Personality Disorder. |journal=Journal of Personality Disorders |volume=5 |issue=3 |year=1991 |pages=225-232}}</ref>。
:境界性パーソナリティ障害では、対人関係において支持への要求を顕著にあらわすが、[[自己愛性パーソナリティ障害]]の場合はそれよりも巧妙な手段を用いることが多い。自身を否定された時に対する過敏性は共通している。境界性パーソナリティ障害は情緒が極端で、対人関係の安定性が低いのに対し、自己愛性パーソナリティ障害はより安定し持続した関係を持つことができ、尊大であり自己評価も高い<ref>{{Cite journal |author=Elsa Ronningstam and John Gunderson |title=Differentiating Borderline Personality Disorder from Narcissistic Personality Disorder. |journal=Journal of Personality Disorders |volume=5 |issue=3 |year=1991 |pages=225-232}}</ref>。
* '''反社会性パーソナリティ障害''' - 境界性パーソナリティ障害が反社会的行動をとった場合は恥や呵責、不安を感じることが多い。一方、反社会性パーソナリティ障害の人が後悔する場合は、自分自身にもたらされた結果においてのみであり、不安も感じない。
;'''反社会性パーソナリティ障害'''
* '''統合失調質パーソナリティ障害''' - 境界性パーソナリティ障害の感情の平坦さは抑うつとともに現れる状態様であるが、統合失調質パーソナリティ障害の感情の平坦さは性格的なもので恒常性がある<ref>{{Cite journal |author=Antonis Kotsaftis,John M. Neale. |title=Schizotypal personality disorder I |journal=The clinical syndrome. Clinical Psychology Review |volume=13 |issue=5 |year=1993 |pages=451-472}}</ref>。薬物の乱用率も低い。
:境界性パーソナリティ障害が反社会的行動をとった場合は恥や呵責、不安を感じることが多い。一方、[[反社会性パーソナリティ障害]]の人が後悔する場合は、自分自身にもたらされた結果においてのみであり、不安も感じない。
* '''演技性パーソナリティ障害''' - 演技性パーソナリティ障害の方が、全体的な機能水準が高く、対人関係や自己像などの安定性が高い。自己破壊的な行為はないとされる<ref>Ballack,A.s.,&Herson,M.(1990).Handbook of comparative treatment for adult Disorders.New York;John Wiley&sons.</ref>。
;'''統合失調質パーソナリティ障害'''
:境界性パーソナリティ障害の感情の平坦さは抑うつとともに現れる状態様であるが、[[統合失調質パーソナリティ障害]]の感情の平坦さは性格的なもので恒常性がある<ref>{{Cite journal |author=Antonis Kotsaftis,John M. Neale. |title=Schizotypal personality disorder I |journal=The clinical syndrome. Clinical Psychology Review |volume=13 |issue=5 |year=1993 |pages=451-472}}</ref>。薬物の乱用率も低い。
;'''演技性パーソナリティ障害'''
:[[演技性パーソナリティ障害]]の方が、全体的な機能水準が高く、対人関係や自己像の安定性が高い。自己破壊的な行為はあまりない<ref>Ballack,A.s.,&Herson,M.(1990).Handbook of comparative treatment for adult Disorders.New York;John Wiley&sons.</ref>。


== 原因 ==
== 原因 ==
=== 概要 ===
[[File:View on umeda area from umeda sky building osaka japan.jpg|thumb|160px|left|先進国や都市部に多い]]


近年の研究結果から、次のものが原因として考えられている。
近年の研究結果から、次のものが原因として考えられている。
[[File:Amygdala.png|thumbnail|240px|左画像、向かって左側が前頭前野(脳の前部分) 2つある赤い部分は扁桃体]]
*先天的異常-生理学的な脳の脆弱性
*先天的異常-生理学的な脳の脆弱性
*幼少期の体験-[[身体的虐待]]、[[性的虐待]]、[[過干渉]]、[[機能不全家族]]などの経験
*幼少期の体験-[[身体的虐待]]、[[性的虐待]]、[[過干渉]]、[[機能不全家族]]の経験
*社会文化的な要素 - 都市型生活など、ライフスタイルの影響<ref name="NHK"/>
{{-}}


[[File:Coronal hippocampe.png|thumbnail|235px|脳の縦の断面図。下側に見える濃い灰色部分が扁桃体、紫部分が海馬]]
=== 生物学的要因 ===
=== 生物学的要因 ===
いくつかの生物学的研究では、発生的、神経学的、生物学的な可能性を示唆している。ある研究では一親等が境界性パーソナリティ障害である場合が、一般母集団より5倍高かった。環境の関与も否定できないが、発生的要因ともとらえることが出来る。[[1980年代]]の研究では、境界性パーソナリティ障害の親は[[統合失調症]]が少なく、[[気分障害]]の頻度が高いとしている<ref>{{Cite journal |author=Soloff,P.H.,& Millward,J.W. |title=Developmental histories of borderline patients. |journal=Comprehensive Psychiatry |volume=24 |issue= |year=1983 |pages=547-588}}</ref>。
いくつかの生物学的研究では、発生的、神経学的、生物学的な可能性を示唆している。ある研究では一親等が境界性パーソナリティ障害である場合が、一般母集団より5倍高かった。環境の関与も否定できないが、発生的要因ともとらえることが出来る。[[1980年代]]の研究では、境界性パーソナリティ障害の親は[[統合失調症]]が少なく、[[気分障害]]の頻度が高いとしている<ref>{{Cite journal |author=Soloff,P.H.,& Millward,J.W. |title=Developmental histories of borderline patients. |journal=Comprehensive Psychiatry |volume=24 |issue= |year=1983 |pages=547-588}}</ref>。


境界性パーソナリティ障害の際立った症状は、基底に生物学的基質を有するとされる<ref>{{Cite journal |author=Hirschfeld,R.M |title=Pharmacotherapy of borderline personality disorder |journal=Journal of Clinical Psychiatry |volume=58 |issue=suppl 14 |year=1997 |pages=48-52 |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9418746 }}</ref>。情緒の不安定性、抑うつは脳の[[アドレナリン]]や[[アセチルコリン|コリン]]作動性の異常に関連し、一過性の精神病性エピソードは[[ドパミン]]、自傷や自殺企図などの衝動的攻撃的行動は[[セロトニン]]の異常であるとされる研究がある<ref>{{Cite journal |author=Coccaro,E.F.&Kavoussi,R.J. |title=Biological and pharmacological aspects of borderline personality disorder |journal=Hospital and Community Psychiatry |volume=42 |issue=10 |year=1991 |pages=1029-1034 |url=http://ps.psychiatryonline.org/article.aspx?articleid=75424 }}</ref><ref>{{Cite journal |author=Steinberg,B.J.,Trestman,R.,Mitropoulou,V.,Serby,M.,Silverman,J.,Coccaro,E.,Weston,S.,De Vegvar,M.,&Siever,L.J. |title=Depressive response to physostigmine challenge in borderline personality disorder patients. |journal=Neuropsychopharmacology |volume=17 |issue=4 |year=1997 |pages=264-273 |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9326751}}</ref><ref>{{Cite journal |author=Hirschfeld,R.M |title=Pharmacotherapy of borderline personality disorder |journal=Journal of Clinical Psychiatry |volume=58 |issue=suppl 14 |year=1997 |pages=48-52 |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9418746 }}</ref><ref>{{Cite journal |author=Coccaro,E.F. |title=Clinical outcome of psychopharmacologic treatment of borderline and schizotypal personality disorder subjects. |journal=Journal of Clinical Psychiatry |volume=59 |issue=1 |year=1998 |pages= |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9448667 }}</ref>。
さらに多くの神経心理学的研究や脳機能画像研究によって、境界性パーソナリティ障害における[[大脳皮質]]の[[前頭前野]]機能の低さが指摘されている。[[核磁気共鳴画像法|MRI]]による脳画像では、[[海馬]]や[[扁桃体]]が一般の人よりも小さかったという報告がある<ref>{{Cite journal |author=Driessen M, Herrmann J, Stahl K et al. |title=Magnetic Resonance Imaging Volumes of the Hippocampus and the Amygdala in Women With Borderline Personality Disorder and Early Traumatization |journal=Arch Gen Psychiatry |volume=57 |issue=12 |year=2000 |pages=1155-1122 |url=http://archpsyc.ama-assn.org/cgi/content/full/57/12/1115 }}</ref>。前頭前野の機能の低さは、不安や攻撃性などの情動のコントロール、思考の柔軟性、共感性に関係しているとみられている<ref>[[#小羽俊士 (2009)|小羽俊士 (2009)]]</ref>。さらに境界性パーソナリティ障害の患者が自傷行為を習慣的、嗜癖的に行う際、不安や痛みなどの不快反応を感じにくいことが知られているが、脳機能のレベルでも痛みに対する体性感覚野の反応が低いこと、自傷行為により、不安を生み出す[[扁桃体|扁桃核]]の反応が一時的に抑制されることが示されている<ref>{{Cite journal |author=Schmahl.D.J. |title=Neural correlates of antinociception in borderline personality disorder |journal=Arch Gen Psychiatry. |volume=63 |issue= |year=2006 |pages=659-667}}</ref>。


また[[うつ病]]のなどの[[気分障害]]の患者では、モノアミンの分解された代謝産物が[[血液]]や[[髄液]]で異常高値を示すという所見があるが、境界性パーソナリティの障害の患者でも同様に、5-HIAA([[セロトニン]]の代謝物)、HVA([[ドパミン]]の代謝物)が高値を示したという研究がある<ref>{{cite journal |author=Chotai,J.,Kullgren,G & Asberg,M |title=CSF monoamine metabolites in relation to the diagnostic interview for borderline patients (DIB) |journal=Neuropsychobiology |volume=38 |issue=4 |pages=207-212 |year=1998 |month=11 |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9813458 }}</ref>。
また境界性パーソナリティ障害の際立った症状は、基底に生物学的基質を有するとされる。情動不安定性、抑うつは脳の[[アドレナリン]]や[[セロトニン]]作動性の異常に関連し、一過性の精神病性エピソードは[[ドパミン]]、自傷や自殺企図などの衝動的攻撃的行動は[[セロトニン]]の異常であるとされる研究がある<ref>{{Cite journal |author=Coccaro,E.F.&Kavoussi,R.J. |title=Biological and pharmacological aspects of borderline personality disorder |journal=Hospital and Community Psychiatry |volume=42 |issue=10 |year=1991 |pages=1029-1034}}</ref><ref>{{Cite journal |author=Hirschfeld,R.M |title=Pharmacotherapy of borderline personality disorder |journal=Journal of Clinical Psychiatry |volume=58 |issue=suppl 14 |year=1997 |pages=48-52}}</ref><ref>{{Cite journal |author=Coccaro,E.F. |title=Clinical outcome of psychopharmacologic treatment of borderline and schizotypal personality disorder subjects. |journal=Journal of Clinical Psychiatry |volume=17 |issue=4 |year=1998 |pages=264-273}}</ref><ref>{{Cite journal |author=Steinberg,B.J.,Trestman,R.,Mitropoulou,V.,Serby,M.,Silverman,J.,Coccaro,E.,Weston,S.,De Vegvar,M.,&Siever,L.J. |title=Depressive response to physositigmine challenge in borderline personality disorder patients. |journal=Neuropsychopharmacology |volume=17 |issue=4 |year=1997 |pages=264-273}}</ref>。


さらに多くの神経心理学的研究や脳機能画像研究によって、境界性パーソナリティ障害における[[大脳皮質]]の[[前頭前野]]機能の低さが指摘されている。前頭前野の機能の低さは、不安や攻撃性などの情動コントロール、思考の柔軟性、共感性に関係しているとみられている<ref>[[#小羽俊士 (2009)|小羽俊士 (2009)]]</ref>。[[核磁気共鳴画像法|MRI]]による脳画像では、[[海馬]]や[[扁桃体]]が一般の人よりも小さかったという報告もある<ref>{{Cite journal |author=Driessen M, Herrmann J, Stahl K et al. |title=Magnetic Resonance Imaging Volumes of the Hippocampus and the Amygdala in Women With Borderline Personality Disorder and Early Traumatization |journal=Arch Gen Psychiatry |volume=57 |issue=12 |year=2000 |pages=1155-1122 |url=http://archpsyc.ama-assn.org/cgi/content/full/57/12/1115 }}</ref>。
さらに40%において[[脳波|脳波上]]、非局在性の機能不全を示す異常な広汎性徐波がみられるという研究がある<ref>{{Cite journal |author=De la fuente,J.M.,Tugendhaft,P.,&Mavroudakis,N. |title=Electoroencephalographic abnormalities in borderline personality disorder. |journal=Psychiatry Researchi |volume=77 |issue=2 |year=1998 |pages=131-138}}</ref>。

扁桃体には不安感や恐怖心を生み出す機能がある。[[fMRI|機能的磁気共鳴画像法]]([[fMRI]])を用いた研究では、患者の[[扁桃体]]の過敏性が示され、人の顔の表情を用いた検査では、表情の出現に対し左扁桃体の過活動がみられた。また正常群に比べ、感情を表していない中立の顔を「脅すような表情である」と認識していた<ref>{{cite journal | author =Donegan et al. |title = Amygdala hyperreactivity in borderline personality disorder: implications for emotional dysregulation.|journal =Biological Psychiatry |volume =54 |issue=11 |year =2003 |pages =1284-1293|url=http://www.biologicalpsychiatryjournal.com/article/S0006-3223(03)00636-X/abstract }}</ref>。

境界性パーソナリティ障害の患者は[[自傷行為]]を習慣的、嗜癖的に行う際、不安や痛みなどの不快反応を感じにくいことが知られているが、脳機能のレベルでも痛みに対する体性感覚野の反応が低いこと、自傷行為により、不安を生み出す性質を持つ扁桃体の反応が一時的に抑制されることが示されている<ref>{{Cite journal |author=Schmahl.D.J. |title=Neural correlates of antinociception in borderline personality disorder |journal=Arch Gen Psychiatry. |volume=63 |issue= |year=2006 |pages=659-667 |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16754839 }}</ref>。

また40%において[[脳波|脳波上]]、非局在性の機能不全を示す異常な広汎性徐波がみられるという研究もある<ref>{{Cite journal |author=De la fuente,J.M.,Tugendhaft,P.,& Mavroudakis,N. |title=Electoroencephalographic abnormalities in borderline personality disorder. |journal=Psychiatry Researchi |volume=77 |issue=2 |year=1998 |pages=131-138}}</ref>。


=== 環境的要因 ===
=== 環境的要因 ===
アメリカの統計では、境界性パーソナリティ障害のの91%が小児期の外傷体験を持っているとされる<ref>{{Cite journal |author=Perry,J.C.,Herman,J.L.,van der Kolk,B.A.,& Hoke,L.A. |title=Psychotherapy and psychological trauma in borderline personality disorder |journal=Psychiatric Annals |volume=20 |issue= |year=1990 |pages=33-43}}</ref>。小児期における養育者からの早期の分離や、[[ネグレクト]]などの虐待経験が多いとされる研究もある<ref>{{Cite journal |author=Zanarini,M.C.,J.G.Gunderson,M.F.Marino,E.O.Schwartz,and F.R. Frankenburg. |title=Childhood experiences of borderline patients. |journal=Comprehensive Psychiatry |volume=30 |issue= |year=1989 |pages=18-25}}</ref>。成人の場合はパートナーからの性的暴力などの[[ドメスティックバイオレンス]]を受けている人に有意に多かった<ref>{{Cite journal |author=Zanarini,M C.,A.A.Williams,R.E.Lewis,R.B.Reich,S.C.Vera,M.F.Marino,et al. |title=Reported pathological childhood experiences associated with the development of borderline personality disorder. |journal=American Journal of Psychiatry |volume=154 |issue= |year=1998 |pages=1101-1106 |url=http://ajp.psychiatryonline.org/data/Journals/AJP/3679/1101.pdf }}</ref>。また、日本での調査でも小児期の虐待は多くみられ、ある調査では身体的虐待33%、性的虐待51%、情緒的虐待68%であった。他のエピソードとしては養育者の過保護などもあった<ref>[[#町沢静男 (2005) |町沢静男 (2005) ]] p112 - 114</ref>。
アメリカの調査では、境界性パーソナリティ障害の患者の91%が小児期の外傷体験を持ってい<ref>{{Cite journal |author=Perry,J.C.,Herman,J.L.,van der Kolk,B.A.,& Hoke,L.A. |title=Psychotherapy and psychological trauma in borderline personality disorder |journal=Psychiatric Annals |volume=20 |issue= |year=1990 |pages=33-43}}</ref>。小児期における養育者からの早期の分離や、[[ネグレクト]]<ref group="注">「neglect(無視をするの意)」。子供に身体面、医療面、教育面、情緒面で必要不可欠なものを与えないこと。心理的ネグレクトは心理的虐待の一種である。( [http://merckmanual.jp/mmhe2j/sec23/ch288/ch288a.html メルクマニュアル 家庭版,228章 児童虐待とネグレクト] )</ref>などの虐待経験が多いとる研究もある<ref>{{Cite journal |author=Zanarini,M.C.,J.G.Gunderson,M.F.Marino,E.O.Schwartz,and F.R. Frankenburg. |title=Childhood experiences of borderline patients. |journal=Comprehensive Psychiatry |volume=30 |issue= |year=1989 |pages=18-25}}</ref>。成人の場合はパートナーからの性的暴力などの[[ドメスティックバイオレンス]]を受けている人に有意に多かった<ref>{{Cite journal |author=Zanarini,M C.,A.A.Williams,R.E.Lewis,R.B.Reich,S.C.Vera,M.F.Marino,et al. |title=Reported pathological childhood experiences associated with the development of borderline personality disorder. |journal=American Journal of Psychiatry |volume=154 |issue= |year=1998 |pages=1101-1106 |url=http://ajp.psychiatryonline.org/data/Journals/AJP/3679/1101.pdf }}</ref>。また、日本での調査でも小児期の虐待は多くみられ、ある調査では身体的虐待33%、性的虐待51%、情緒的虐待68%であった。他のエピソードとしては養育者の[[過保護]]もあった<ref>[[#町沢静男 (2005) |町沢静男 (2005) ]] p112 - 114</ref>。

境界性パーソナリティ障害の患者の家庭にはいくつかの特徴がみられる<ref name="hosozawa2008"/>。多くの患者は18歳までにどちらか(または両方)の親との一定期間あるいは長期の分離体験をしている<ref>{{Cite journal |author=Walsh F |title=the Family of the borderline Patient.In Grinker RR Werble B(eds) |journal=The Borderline Patient.Jason Aronson,New York. |volume= |issue= |year=1977 |pages= }}</ref><ref>{{Cite journal |author=Bradley SJ |title=The Relationship of Early Maternal Separation to Borderline Personality Disorder in Children and Adolescents : a Pilot Study. |journal=American Journal of Psychiatry |volume=136 |issue= |year=1979 |month= |pages=424-426 }}</ref><ref>{{Cite journal |author=Zanarini MC, Gunderson JG, Marino MF et al |title=Childhood Experiences of Borderline Patients. |journal=Comprehensive Psychiatry |volume=30 |issue= |year=1989 |month= |pages=18-25 }}</ref>、父親が不在または家族に対し関心が薄い<ref>{{Cite journal |author=Franck H and Paris J |title=Recollections of Family Experience in Borderline Patients. |journal=Archives of General Psychiatry |volume=38 |issue= |year=1981 |pages=1031-1034 }}</ref>、親の[[ネグレクト]]的または支配的・過干渉、過刺激的であり共感的でない養育態度である<ref>{{Cite journal |author=Soloff PH and Milward JW |title=Developmental Histories of Borderline Patients. |journal=comprehensive Psychiatry|volume=24 |issue= |year=1983 |pages=574-588 |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6653098 }}</ref><ref>{{Cite journal |author=Gunderson JG,Kerr J,Englund DW |title=The Families of borderlines : A Comparative Study. |journal=Archuves of General Psychiatry |volume=37 |issue= |year=1980 |pages=27 - 33 |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7352837 }}</ref><ref>{{Cite journal |author=Zweig-Frank H and Paris J |title=Parents'Emotional Neglect and Overprotection according to the Recollection of Patients with borderline Parsonarty Disorder. |journal=American Journal of Psychiatry |volume=148 |issue= |year=1991 |pages=648-651 |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2018169 }}</ref>。

小児期の[[虐待]]が患者の精神病理形成に関与しているかどうかは様々な見解がある。患者の[[性的虐待]]の既往率が高いのは特異的であるが、境界性パーソナリティ障害が女子に多く発症することを考えても、性的外傷との関連性は想像に難くない。ザナリーニの調査では、性的虐待の既往がある患者は約半数ほどであり、虐待の外傷体験が主要な要因となっている一群があるとし、また虐待が生まれやすい複雑な家庭環境の影響も指摘した<ref>{{Cite journal |author=Zanarini,M.C.,E.D.,Lewis,R.E.& Williams, A. A. |title=Childhood factors associated with the development of borderline personality disorder. |journal=Role of sexual abuse in the etiology of borderline personality disorder Washington, DC: American Psychiatric Press|volume= |issue= |year=1997 |pages=29-44 }}</ref>。一方ガンダーソンは虐待が症状を生み出すのは、ネグレクトなど両親との持続する過度の葛藤があった場合のみとし、そのようなケースでは、環境に対する適応として症状が現れていると述べた<ref>{{Cite journal |author=Gunderson JG and Sabo AN |title=The Ohenomenological and Conceptual interface between Borderline Personality Disorder and PTSD. |journal=American Journal of Psychiatry|volume=150 |issue= |year=1993 |pages=19-27 |url=http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?Volume=150&page=19&journalID=13 }}</ref>。その他の研究者も虐待などの小児期の環境要因のみが病因にはならないとみている<ref name="hosozawa2008"/>。これは虐待を受けた者の全てが境界性パーソナリティ障害を発症するわけではない点からも明らかであり、過去の心的外傷との関連に関しては、慎重な解釈が要求されるだろう。


== 対処 ==
== 対処 ==
=== 概要 ===
アメリカでは境界性パーソナリティ障害の治療の中断率が高いとされる。ガンダーソンの調査では、半年間での中断率は患者の50%、一年では75%だとし、他の障害と比べ初期から終結まで一貫して治療する例は少なく、10%程度だった。日本での統計は少ないが、中断率14.9%、治癒率は18.4%、不変ないし悪化が33.3%との報告があり、精神科通院患者の中でも特別に中断率が多いというわけではない。この違いは[[アメリカ]]と[[日本]]の医療システムの差異による部分もあるが、日本の患者の場合、発症の環境要因として[[虐待]]よりも[[過保護]]などのケースが多く、より依存的な性質をもつためとの説もあり、治療の継続のしやすさの面では有利であるが、一方では日本独自の精神療法を考慮する必要性もでてくる<ref>[[#町沢静男 (2005) |町沢静男 (2005) ]] p85,p87,p115</ref>。
[[アメリカ]]の境界性パーソナリティ障害の治療では中断率が高い。ガンダーソンの調査では、半年間での中断率は患者の50%、一年では75%だとし、他の障害と比べ初期から終結まで一貫して治療する例は少なく、10%程度だった。日本での統計は少ないが、中断率14.9%、治癒率は18.4%、不変ないし悪化が33.3%との報告があり、精神科通院患者の中でも特別に中断率が高いというわけではない。この違いは[[アメリカ]]と[[日本]]の医療システムの差異による部分もあるが、日本の患者の場合、発症の環境要因として[[虐待]]よりも[[過保護]]のケースが多く、より依存的な性質をもつためとの説もあり、治療の継続のしやすさの面では有利であるが、一方では日本独自の精神療法を考慮する必要性もでてくる<ref>[[#町沢静男 (2005) |町沢静男 (2005) ]] p85,p87,p115</ref>。また、より中断率が高いのは性的外傷を持つ患者に多いとする報告もある<ref>{{Cite journal|和書 |author=細澤仁 |title=外傷性精神障害という視点から |volume=154 |issue= |year=2010 |month=11 |journal=こころの科学 |pages=19-24 }}</ref>。

治療は精神療法と薬物療法を併用することが多い。なお、日本に80ある大学医学部のうち精神療法を得意としている大学はわずか数件しかなく、ほとんどが生物学的な研究を主体としている<ref>{{Cite journal|和書 |author=和田秀樹 |title=精神分裂病と人格障害 |journal=日本損害保険協会 総合安全防災誌「予防時報」 |volume=209 |issue= |year=2002 |pages=}}</ref>。

深刻な自殺企図などの衝動的行動、他害の危険、精神病症状や他の合併症(うつなど)が重篤な場合、外来治療に反応しない例では短期入院の適用となる<ref>[[#米国精神医学会治療ガイドライン (2006) |米国精神医学会治療ガイドライン (2006) ]]</ref>。

=== 薬物療法 ===
[[Image:DepakenR_200mg.jpg|thumb|175px|気分安定薬。写真はデパケンR(デパケンの徐放剤)]]
[[Image:Zyprexa-Zydis JPN.jpg|thumb|175px|非定型抗精神病薬。ジプレキサ ザイディス(口内崩壊錠)]]
現在境界性パーソナリティ障害に対して[[医療保険|保険適応]]のある薬剤はない。薬物は主に付随する症状の緩和の為に使われる。薬物は自殺関連行動、自傷や他害などの急性症状には最も有効であるが、維持的に使った場合は限定的な効果しかないとする意見もある<ref>{{Cite journal |author=Soloff,P.H |title=Is there any drug treatment of choice for the borderline patient? |journal=Acta Psychiatrica Scandinavica |volume=89 |issue=Suppl,379 |year=1994 |pages=50-55}}</ref>。

[[英国国立医療技術評価機構]]では2009年のガイドラインにて、エビデンスが弱くかつ薬物治療による副作用が深刻であるため、BPDの治療では「BPD・個人の疾患・行動の疾患に対して薬物治療はすべきではない(should not)」しかし「併存疾患の全体的治療という点では薬物治療も考慮することができる」とし、
「精神的・肉体的に併存疾患のないBPD患者と現在薬を処方されている患者に対しては、投薬量を削減し不必要な薬物治療を打ち切る方向で見直すべきである」と定めている<ref>{{Harvnb|英国国立医療技術評価機構|2009|Ref=NICECG78}}</ref>。

米国精神医学会では、副作用の少なさなどの観点から、第一選択は[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]](SSRI)を推奨している。SSRIは主に抑うつや情緒不安定性の症状に有効である。[[モノアミン酸化酵素阻害薬]](MAO)もそれらの症状に効果的だが重篤な副作用がある<ref group="注">[[モノアミン酸化酵素阻害薬]]は現在日本ではうつの治療には使われない。SSRI は飲み始めの[[アクチベーション・シンドローム]]に注意したい。( 平島奈津子、野口堅吾 (2010) )</ref>。著功しない場合は他の[[抗うつ薬]]への切り替えが考えられるが、[[三環系抗うつ薬]]は衝動性にはマイナスになる場合がある。[[リチウム塩|炭酸リチウム]](商品名 リーマス)での強化も考慮される。低容量の[[抗精神病薬]]の使用は、怒りや認知・知覚症状などの精神病症状に有効である。場合により抑うつへの効果も期待できる。[[バルプロ酸]](デパケン)などの[[抗てんかん薬]]類も第二選択である。解離には[[ナルトレキソン]](本邦未発売)、不安の症状には[[クロナゼパム]](リボトリール)の追加も考えられる<ref>[[#米国精神医学会治療ガイドライン (2006)|米国精神医学会治療ガイドライン (2006)]]</ref><ref group="注">クロナゼパムはベンゾジアゼピン系薬剤だが抗てんかん薬である。[[ベンゾジアゼピン]]は不眠の治療や、不安などの症状に使用される。( [http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/PDF/450045_1139003C1044_1_06.pdf 中外製薬,2010] )</ref>。

[[1966年]]から[[2010年]]までの[[メタアナリシス]](研究結果を分析したもの)では、[[抗てんかん薬]]などの[[抗躁薬|気分安定薬]]と[[抗精神病薬]]に衝動性制御効果、情緒不安定性への効果が示され、また[[抗精神病薬]]に関しては認知・知覚症状への有効性も認められた。[[抗うつ薬]]はそれらの症状に効果は無く、情緒不安定性にのみ有効という結果になった<ref>{{cite journal |author=Vita A, De Peri L, Sacchetti E. |title=Antipsychotics, antidepressants, anticonvulsants, and placebo on the symptom dimensions of borderline personality disorder: a meta-analysis of randomized controlled and open-label trials. |journal=J Clin Psychopharmacol |volume=31 |issue=5 |pages=613-24 |year=2011 |month=10 |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21869691 }}</ref><ref>{{cite journal|和書 |author=Vita A, De Peri L, Sacchetti E.(山澤涼子訳)|journal=Psychoabstract |title=境界性パーソナリティ障害の症状に対する抗精神病薬,抗うつ薬,抗痙攣薬とプラセボ:無作為化対照試験とオープンラベル試験のメタ解析 |publisher=大日本住友製薬 |volume=6 |year=2011 |month=11 |url=https://ds-pharma.jp/literature/psychoabstract/article/2011/12_06_26.html }}</ref><ref group="注">ここでは「affective」を「情緒」と訳した。類似の表現としては「情緒・感情(emotion)」「気分(mood)」などがある。</ref>。また、[[ω-3脂肪酸]]による衝動性や抑うつ改善効果についても研究されている<ref>{{cite journal |author=Mary C. Zanarini, Ed.D.; Frances R. Frankenburg, M.D. |title=Omega-3 Fatty Acid Treatment of Women With Borderline Personality Disorder: A Double-Blind, Placebo-Controlled Pilot Study |journal=Am J Psychiatry |volume=160 |issue=1 |pages=167-169 |year=2003 |month=1 |url=http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?articleid=175972 }}</ref><ref>{{cite journal |author=Stoffers J, Völlm BA, Rücker G, Timmer A, Huband N, Lieb K |title=Drug treatment for borderline personality disorder |journal=Cochrane Database of Systematic Reviews (Online) |volume=6 |issue= |pages= |year=2010 |month=6 |url=http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD005653.pub2/abstract }}</ref><ref group="注">ω-3(オメガ3)脂肪酸。サバ、ニシン、イワシなどの青魚、キャノーラ油、クルミ、亜麻の実などに多く含まれる。[http://allabout.co.jp/gm/gc/300523/2/ All about 健康・医療 「オメガ-3脂肪酸は魚と野菜から」]</ref>。


これらの薬物療法は、抑うつや感情抑制、認知・知覚の障害や妄想様観念には一定の効果があるが、慢性的な空虚感、見捨てられ不安などには効果がないとされ、患者により治療法は一律ではない。[[オーバードーズ|過量服薬]]の危険性を考慮すると、より安全性が高く依存性が少ない薬剤の選択、および少量で最大の効果が望める薬物療法が薦められる。なお[[抗精神病薬]]に関しては専門家の間でも、[[統合失調症]]と同じ容量ではなくごく少量を投与するべき、という意見の合意が得られている。副作用や安全性の観点からは[[抗精神病薬|定型抗精神病薬]]よりも[[非定型抗精神病薬]]の使用が適している。副作用に対し敏感な患者も多いため、事前に詳細な説明をすることは不安に軽減に繋がる<ref name="hirashima">{{Cite journal|和書 |author=平島奈津子、野口堅吾 |title=[http://ci.nii.ac.jp/naid/40017364013 薬物療法的アプローチ (境界性パーソナリティ障害 境界性パーソナリティ障害と治療)]|journal=こころの科学 |volume=154 |issue= |year=2010 |pages=75 - 79 }}</ref>。
なお、日本に80ある大学医学部のうち精神療法を得意としている大学はわずか数件しかない。ほとんどが生物学的な研究を主体としているため、精神科医がカウンセリングのトレーニングを受ける機会は稀である<ref>{{Cite journal|和書 |author=和田秀樹 |title=精神分裂病と人格障害 |journal=日本損害保険協会 総合安全防災誌「予防時報」 |volume=209 |issue= |year=2002 |pages=}}</ref>。


また境界性パーソナリティ障害の薬物療法は、症状の緩和作用以上の深い意味を持つとの見解もある。薬物への意識または無意識的な「[[投影]]」である。それは患者が[[オーバードーズ|過量服薬]]する際、大半は他者から与えられる処方薬によって行われることにも表現されている。重要な他者(医師を含む)の存在の拒絶や受け入れ、一体感の切望または敵意による過量服薬など、意識・無意識的な他者への「投影」が投薬治療に様々な意味を持たせているという。治療者も自身の能力に対する不安感を、患者に薬を与えることで解消しようとしていないか省みる必要があるだろう<ref name="hirashima"/>。
深刻な自殺企図などの衝動的行動、他害の危険、一過性の精神病症状、他の合併症(うつなど)が重篤な場合、外来治療に反応しない例などでは短期入院の適用となる<ref>[[#米国精神医学会治療ガイドライン (2006) |米国精神医学会治療ガイドライン (2006) ]]</ref>。


=== 精神療法 ===
=== 精神療法 ===
主な治療法精神療法である。精神療法は、精神力動的精神療法(支持的精神療法など)や、その一派である精神分析的精神療法、認知療法、対人関係療法、家族療法など様々なものがある。精神療法の効果が出るに一年以上などの長期間がかかるとされている。[[アメリカ]]で[[1991年]]に自殺行為の治療の為に開発され、境界性パーソナリティ障害の治療に応用されている認知行動療法の一種、弁証法的行動療法(DBT - Dialectical Behavior Therapy)は新しいアプローチとして[[日本]]でも関心が高まってきている<ref>[[#マーシャ・M・リネハン(2007) 「弁証法的行動療法実践マニュアル ― 境界性パーソナリティ障害への新しいアプローチ」 |マーシャ・M・リネハン(2007) 「弁証法的行動療法実践マニュアル ― 境界性パーソナリティ障害への新しいアプローチ」 ]]</ref>。また[[イギリス]]で[[1999年]]にベイトマン、フォナギーにより開発されたメンタライゼーション療法(Mentalisation Based Treatment - MBT)<ref>[[#Aベイトマン、P.フォナギー (2008) |Aベイトマン、P.フォナギー (2008) ]]</ref>は弁証論的行動療法と共に、現在最もエビデンスのある精神療法である。
主な治療法となるのが精神療法である。精神療法は、精神力動的精神療法(支持的精神療法など)や、その一派である精神分析的精神療法、認知療法、対人関係療法、家族療法など様々なものがある。精神療法の効果が出るに概ね一年以上の長期間がかかる。[[アメリカ]]で[[1991年]]に自殺行為の治療の為に開発され、境界性パーソナリティ障害の治療に応用されている認知行動療法の一種、弁証法的行動療法(DBT - Dialectical Behavior Therapy)は新しいアプローチとして[[日本]]でも関心が高まってきている<ref>[[#マーシャ・M・リネハン(2007) 「弁証法的行動療法実践マニュアル ― 境界性パーソナリティ障害への新しいアプローチ」 |マーシャ・M・リネハン(2007) 「弁証法的行動療法実践マニュアル ― 境界性パーソナリティ障害への新しいアプローチ」 ]]</ref>。また[[イギリス]]で[[1999年]]にベイトマン、フォナギーにより開発されたメンタライゼーション療法(Mentalisation Based Treatment - MBT)<ref>[[#Aベイトマン、P.フォナギー (2008) |Aベイトマン、P.フォナギー (2008) ]]</ref>は弁証論的行動療法と共に、現在最もエビデンスのある精神療法である。


伝統的な力動的精神療法、支持的精神療法などの精神力動的治療では、治療開始から18週後には、対人関係の改善、[[自尊心]]や人生への満足などが生まれ、8ヵ月後にも治療成果が維持された<ref>{{Cite journal |author=Piper,W.E.,Rosie,J.S.,Azim,H.F.A.,&Joyce,A.S. |title=A randomized trial of psychiatric day treatment for patients with affective and personality disorders |journal=Hospital and Community Psychiatry |volume=44 |issue= |year=1993 |pages=757-763}}</ref>。精神分析的精神療法についても、12か月 - 18か月の治療で、自傷行為や自殺企図、入院期間の長さ、不安、抑うつ、全体の適応性が有意に改善したという結果が出ている<ref>
伝統的な力動的精神療法、支持的精神療法などの精神力動的治療では、治療開始から18週後には、対人関係の改善、[[自尊心]]や人生への満足などが生まれ、8ヵ月後にも治療成果が維持された<ref>{{Cite journal |author=Piper,W.E.,Rosie,J.S.,Azim,H.F.A.,&Joyce,A.S. |title=A randomized trial of psychiatric day treatment for patients with affective and personality disorders |journal=Hospital and Community Psychiatry |volume=44 |issue= |year=1993 |pages=757-763}}</ref>。精神分析的精神療法についても、12か月 - 18か月の治療で、自傷行為や自殺企図、入院期間の長さ、不安、抑うつ、全体の適応性が有意に改善したという結果が出ている<ref>
{{Cite journal |author=Bateman, A.W.&Fonagy,P. |title=Effectiveness of partial hospitalisation in the treatment of borderline personality disorder:A randomised controlled trial.|journal=American Journal of Psychiatry. |volume=156 |issue= |year=1999 |pages=1563-1569 |url=http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?volume=156&page=1563 }}</ref><ref>{{Cite journal |author=Stevenson J, Meares R. |title=An outcome study of psychotherapy for patients with borderline personality disorder |journal=Am J Psychiatry |volume=149 |issue=3 |year=1992 |pages=358-362}}</ref>。[[認知療法]]に関するデータは少ないが、[[アメリカ国立衛生研究所]]のデータでは16週間の治療後の比較では、対人関係療法に優るとの結果が出ている<ref>{{Cite journal |author=Shea et al. |title=National institute of mental health multicenter trial of treatment for affective disorder |journal=American Journal of psychiatry |volume=147 |issue= |year=1990 |pages=711-718}}</ref>。弁証法的行動療法でも短期での改善は得にくいが、治療開始後1年以上の経過では、社会適応や仕事の実績の向上、怒りまたは不安や動揺の減少などが見られた<ref>Linehan,M.M.,Heard,H.L.,&Armstrong,H.E.(1993).Naturalistic follow-up of a behavioral treatment for chronically parasuicidal borderline patients.Unpublished manuscript, University of Washington,Seattle,WA.</ref>。また弁証法的行動療法は他の治療法に比べ継続率も高いという<ref name="newyorktimes">{{Cite web |date=2011-06-23 |url=http://www.nytimes.com/2011/06/23/health/23lives.html?pagewanted=1&_r=2&partner=rssnyt&emc=rss |title=Expert on Mental Illness Reveals Her Own Fight |publisher=The Newyork times.com |accessdate=2012-03-13}}</ref>。
{{Cite journal |author=Bateman, A.W.&Fonagy,P. |title=Effectiveness of partial hospitalisation in the treatment of borderline personality disorder:A randomised controlled trial.|journal=American Journal of Psychiatry. |volume=156 |issue= |year=1999 |pages=1563-1569 |url=http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?volume=156&page=1563 }}</ref><ref>{{Cite journal |author=Stevenson J, Meares R. |title=An outcome study of psychotherapy for patients with borderline personality disorder |journal=Am J Psychiatry |volume=149 |issue=3 |year=1992 |pages=358-362}}</ref>。[[認知療法]]に関するデータは少ないが、[[アメリカ国立衛生研究所]]のデータでは16週間の治療後の比較では、対人関係療法に優るとの結果が出ている<ref>{{Cite journal |author=Shea et al. |title=National institute of mental health multicenter trial of treatment for affective disorder |journal=American Journal of psychiatry |volume=147 |issue= |year=1990 |pages=711-718}}</ref>。弁証法的行動療法でも短期での改善は得にくいが、治療開始後1年以上の経過では、社会適応や仕事の実績の向上、怒りまたは不安や動揺の減少が見られた<ref>Linehan,M.M.,Heard,H.L.,&Armstrong,H.E.(1993).Naturalistic follow-up of a behavioral treatment for chronically parasuicidal borderline patients.Unpublished manuscript, University of Washington,Seattle,WA.</ref>。また弁証法的行動療法は他の治療法に比べ継続率も高いという<ref name="newyorktimes">{{Cite web |date=2011-06-23 |url=http://www.nytimes.com/2011/06/23/health/23lives.html?pagewanted=1&_r=2&partner=rssnyt&emc=rss |title=Expert on Mental Illness Reveals Her Own Fight |publisher=The Newyork times.com |accessdate=2012-03-13 }}</ref>。


これらの精神療法は、通常1時間ほどの面接を週1 - 2回、弁証法的行動療法では1回50分から90分の面接を週1 - 2回、150分のスキルトレーニングが1回、さらに電話によるコンサルテーションなどの手厚い治療体制であり、日本においては保険診療内に収まらず広く普及することは困難との見方もある。しかし[[イギリス]]で開発されたメンタライゼーション療法(MBT)は週2回の外来治療や[[デイケア]]、集団療法などで行うことが出来、導入のしやすさと確実な効果で注目を集めている<ref>{{Cite journal |author=Bateman A, Fonagy P. |title=Randomized Controlled Trial of Outpatient Mentalization-Based Treatment Versus Structured Clinical Management for Borderline Personality Disorder |journal=Am J Psychiatry |volume=166 |year=2009 |pages=1355-1364 |url=http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?articleid=101399 }}</ref><ref>{{Cite journal |author=林直樹 |title=[http://ci.nii.ac.jp/naid/40017364017 緊急提言!境界性パーソナリティ障害治療に変革を!] |journal=こころの科学 |volume=154 |issue= |year=2010 |pages=102 -104 }}</ref>。
これらの精神療法は、1時間ほどの面接を週1 - 2回、弁証法的行動療法では1回50分から90分の面接を週1 - 2回、150分のスキルトレーニングが1回、さらに電話によるコンサルテーションなどの手厚い治療体制であり、日本においては保険診療内に収まらず広く普及することは困難との見方もある。しかし[[イギリス]]で開発されたメンタライゼーション療法(MBT)は週2回の外来治療や[[デイケア]]、集団療法で行うことが出来、導入のしやすさと確実な効果で注目を集めている<ref>{{Cite journal |author=Bateman A, Fonagy P. |title=Randomized Controlled Trial of Outpatient Mentalization-Based Treatment Versus Structured Clinical Management for Borderline Personality Disorder |journal=Am J Psychiatry |volume=166 |year=2009 |pages=1355-1364 |url=http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?articleid=101399 }}</ref><ref>{{Cite journal|和書 |author=林直樹 |title=[http://ci.nii.ac.jp/naid/40017364017 緊急提言!境界性パーソナリティ障害治療に変革を!] |journal=こころの科学 |volume=154 |issue= |year=2010 |pages=102-104 }}</ref>。


精神分析的精神療法は一定の効果が示されているが、一部では精神分析的な関わり、境界性パーソナリティ障害の治療に有益でないとの声る。メンタライゼーション療法を開発した精神分析家フォナギーは、[[メタファー]]の解釈などの従来の精神分析的な関わり合いは、かえって他者の心情を理解しにくい境界性パーソナリティ障害の患者を混乱に陥れ、病理を助長させると苦言した。弁証法的行動療法の創始者であるリネハンも、患者を中傷する可能性を持ち、辛い[[トラウマ]]の再現となりうる解釈については批判しており、症状を悪化させると述べている<ref>[[#マーシャ・M・リネハン (2007) 境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法 ― DBTによるBPDの治療 |マーシャ・M・リネハン (2007) 境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法 ― DBTによるBPDの治療 ]]</ref><ref>[[#岡野憲一郎 (2010)|岡野憲一郎 (2010)]]</ref>。
精神分析的精神療法は一定の効果が示されているが、一部では古典的な精神分析己否定感を強めるとして、境界性パーソナリティ障害の治療に有益でないとする意見存在する。メンタライゼーション療法を開発した精神分析家フォナギーは、[[メタファー]]の解釈などの従来の精神分析的な関わり合いは、かえって他者の心情を理解しにくい境界性パーソナリティ障害の患者を混乱に陥れ、病理を助長させると苦言した。弁証法的行動療法の創始者であるリネハンも、患者を中傷する可能性を持ち、辛い[[トラウマ]]の再現となりうる解釈については批判しており、症状を悪化させると述べている<ref>[[#マーシャ・M・リネハン (2007) 境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法 ― DBTによるBPDの治療 |マーシャ・M・リネハン (2007) 境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法 ― DBTによるBPDの治療 ]]</ref><ref>[[#岡野憲一郎 (2010)|岡野憲一郎 (2010)]]</ref>。


=== 薬物療法 ===
==== 精神療法の種類 ====
[[Image:Grouptherapy.jpg|thumb|245px|グループセラピー(集団精神療法)をする人達]]
現在境界性パーソナリティ障害に対して[[医療保険|保険適応]]のある薬剤はない。薬物療法は根治的治療にはならないが、付随する症状の緩和の為に使われる。薬物は、自殺関連行動、自傷や他害などの急性症状には最も有効であるが、維持的に使った場合は限定的な効果しかないとする意見もある<ref>{{Cite journal |author=Soloff,P.H |title=Is there any drug treatment of choice for the borderline patient? |journal=Acta Psychiatrica Scandinavica |volume=89 |issue=Suppl,379 |year=1994 |pages=50-55}}</ref>。
精神療法では患者を「[[クライエント]](client)」と呼ぶ。<br/>境界性パーソナリティ障害の個々のクライエントにどのような精神療法が合っているかは個人により違いがある<ref>{{cite journal |author=Spinhoven P, Giesen-Bloo J, van Dyck R, Arntz A. |title=Can assessors and therapists predict the outcome of long-term psychotherapy in borderline personality disorder? |journal=J Clin Psychol |volume=64 |issue=6 |pages=667-686 |year=2008 |month= |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18384120 }}</ref>。


* 精神力動的療法 - 精神分析的精神療法、支持的精神療法など
[[英国国立医療技術評価機構]]では2009年のガイドラインにて、エビデンスが弱くかつ薬物治療による副作用が深刻であるため、BPDの治療では「BPD・個人の疾患・行動の疾患に対して薬物治療はすべきではない(should not)」しかし「併存疾患の全体的治療という点では薬物治療も考慮することができる」とし、
* 認知療法、認知行動療法(CBT) 
「精神的・肉体的に併存疾患のないBPD患者と現在薬を処方されている患者に対しては、投薬量を削減し不必要な薬物治療を打ち切る方向で見直すべきである」と定めている<ref>{{Harvnb|英国国立医療技術評価機構|2009|Ref=NICECG78}}</ref>。
* 認知分析療法(CAT) - 認知療法と精神分析を統合したもの
* 家族療法
* 対人関係療法(IPT)
* 集団精神療法
* その他 - デイケアなど
* それらを組み合わせたもの - メンタライゼーション療法(MBT)、弁証法的行動療法(DBT)など

===== 精神力動的療法 =====
[[ジークムント・フロイト|フロイト]]を開祖とする[[精神分析学|精神分析]]では、カウンセラーとクライエントの関係を利用し、クライエントが自身がまだ認識できていない無意識の葛藤を認識させる。境界性パーソナリティ障害では発達早期に外傷を経験をしていると考え、カウンセラーの解釈によりクライエントの自己洞察を促し、本来の自我状態を取り戻すことを目的とする。時代を重ね、フロイトの理論への批判や修正を伴い、[[精神分析学|精神分析]]も少しづつ様相を変えてきており、現在では「精神分析的精神(心理)療法」は精神分析の基本的概念を取り入れたカウンセリング全般を指すことが多い。

幼少時や過去の問題に焦点を当てた古典的精神分析と違い、力動精神療法では「here and now(今・ここ)」に焦点を当て、現在のストレスを問題にする。カーンバーグの手法「表現的心理療法(expressive psychotherapy)」は最も精神分析に近い。カーンバーグは境界性パーソナリティ障害の病理は、分裂(splitting)が一番の問題であると考え、分裂や怒りの感情の分析をすることで[[認知]](考え方のパターン)を修正していく。またマスターソンは、境界性パーソナリティ障害の環境要因に焦点をあて、発達停止が根本に存在するとし「見捨てられ感」を分析して成熟を促し、個人の[[人格|パーソナリティ]]を再構築することを目的とした「再構築療法(reconstuctive psychotherapy)」を提案している。

支持的精神療法では、解釈や直面化はせず、クライエント自身の治癒力を支持し問題解決と現実適応を重視する。ガンダーソンの手法でも古典的な精神分析は退け、自身の不安定さ、否定的な自己感や自我違和感、衝動的な感情や低い達成能力などを、探求療法という形で支持的、時に分析的療法を用いて臨機応変に対応していく<ref name="baba">[[#馬場禮子、福島章、水島恵一 (2000)|馬場禮子、福島章、水島恵一 (2000)]]</ref>。

===== 認知療法・認知行動療法 =====
[[認知療法]]は[[1970年代]]に誕生して以来改善が積み重ねられ、現在では行動療法的な技法と組み合わせて用いられることが多く、広義には[[認知行動療法]]と同義語となっている<ref>[[#松原達哉 (2010)|松原達哉 (2010)]]</ref><ref name="ishiguchi">[[#石口彰、池田まさみ (2008)|石口彰、池田まさみ (2008)]]</ref>。

[[アーロン・ベック]]や[[アルバート・エリス]]により提唱された[[認知療法]]は、元々は[[うつ病]]に適応されたものであったが、その後[[不安障害]]など他の[[精神疾患]]にも広く施されるようになり、[[パーソナリティ障害]]にも大きな成果を上げることとなった。[[認知療法]]は、境界性パーソナリティ障害のクライエントが、二分法的思考法から中間的あるいは多角的に物事を捕らえられるようにする[[認知]]を獲得することを目的にしている。詳細な治療目標を設定しつつ、クライエントが感情や行動を自身で冷静かつ客観的に評価し、適切な思考が出来るようなるのが目標である。

[[マーシャ・リネハン|リネハン]]の弁証法的行動療法(DBT)でも、感情制御技術の獲得、欲求不満耐性の強化、スムーズな対人関係の構築能力の向上などを目標とする。境界性パーソナリティ障害は元来感情不全などの生物学的な特性を基盤に持つとし、置かれている環境的因子を念頭に置き治療に取り組んでいく。行動を起こす前にその行動を起こした際にどのような結果になるかを十分に考え行動の選択を決定できるようにする、不全感の解消、外傷体験の癒しの手助けなど、クライエントが自身で危機を乗り切って行くための全体のスキルの向上を目指していく<ref name="baba"/><ref>[[#メラニー・A・ディーン (2005) |メラニー・A・ディーン (2005) ]] p48</ref>。


===== 家族療法 =====
米国精神医学会では、副作用の少なさなどの観点から、第一選択は[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]](SSRI)を推奨している。SSRIは主に衝動性や情動不安定性、抑うつの症状に有効である。[[モノアミン酸化酵素阻害薬]](MAO)もそれらの症状に効果的だが重篤な副作用がある。著功しない場合は他の[[抗うつ薬]]への切り替えが考えられるが、[[三環系抗うつ薬]]は衝動性にはマイナスになる場合がある。[[リチウム塩|炭酸リチウム]](商品名 リーマス)での強化も考慮される。[[ペルフェナジン]](ピーゼットシー)、[[トリフロペラジン]]、[[オランザピン]](ジプレキサ)、[[リスペリドン]](リスパダール)、[[ハロペリドール]](セレネース)など、低容量の[[抗精神病薬]]の使用は、怒りや認知・知覚症状などの精神病症状に有効である。[[バルプロ酸]](デパケン)などの[[抗てんかん薬]]類も第二選択である。解離には[[ナルトレキソン]](本邦未発売)、不安などの症状には[[クロナゼパム]](リボトリール)などの追加も考えられる<ref>[[#米国精神医学会治療ガイドライン (2006)|米国精神医学会治療ガイドライン (2006)]]</ref>。
[[家族療法]]の起源は[[1940年代]] - [[1950年代]]にかけて、[[アメリカ]]のベル(Bell.J)が行った合同面接が起源とされている。その後全米各地で様々な形で発展していった。[[日本]]でも[[1960年代]]から導入されている<ref name="simoyama">[[#下山晴彦 (2009)|下山晴彦 (2009)]]</ref>。


[[家族療法]]では、個人の問題を家族システム全体の問題としてとらえる。家族療法ではクライエントはIP(Identified Patient - 患者とみなされる人)と呼ばれる。IPは家族の代表として、問題を症状という形で表出しているとし、家族という集合体のシステムに変化を起こすことで改善を促すことを目的としている。したがって家族療法では、IPの人格変容を目標とはせず、家族の機能の健全さの回復を目指し、その結果としての症状消失を目指す<ref name="simoyama"/><ref name="ishiguchi"/><ref>[[#稲富正治 (2005)|稲富正治 (2005)]]</ref>。
これらの薬物療法は、抑うつや感情抑制、知覚・認知の障害や妄想様観念などには一定の効果があるが、慢性的な空虚感、見捨てられ不安などには効果がないとされ、患者により治療法は一律ではない。[[オーバードーズ|過量服薬]]の危険性を考慮すると、より安全性が高く依存性が少ない薬剤の選択、および少量で最大の効果が望める薬物療法が薦められるのは当然といえよう。なお[[抗精神病薬]]に関しては専門家の間でも、[[統合失調症]]と同じ容量ではなくごく少量を投与するべき、という意見の合意が得られている。副作用や安全性の観点からは[[抗精神病薬|定型抗精神病薬]]よりも[[非定型抗精神病薬]]の使用が適している。副作用に対し敏感な患者も多いため、事前に詳細な説明をすることは不安に軽減に繋がる<ref name="hirashima">{{Cite journal |author=平島奈津子、野口堅吾 |title=[http://ci.nii.ac.jp/naid/40017364013 薬物療法的アプローチ (境界性パーソナリティ障害 境界性パーソナリティ障害と治療)]|journal=こころの科学 |volume=154 |issue= |year=2010 |pages=75 - 79 }}</ref>。


===== 集団精神療法 =====
また境界性パーソナリティ障害の薬物療法は、症状の緩和作用以上の深い意味を持つとの見解もある。薬物への意識または無意識的な「[[投影]]」である。それは患者が[[オーバードーズ|過量服薬]]する際、大半は他者から与えられる処方薬によって行われることにも表現されている。重要な他者(医師を含む)の存在の拒絶や受け入れ、一体感の切望または敵意による過量服薬、不安や疑心暗鬼から副作用に過敏になるなど、意識・無意識的な他者への「投影」が投薬治療に様々な意味を持たせているという。治療者も自身の能力に対する不安感を、患者に薬を与えることで解消しようとしていないか省みる必要があるだろう<ref name="hirashima"/>。
いわゆるグループセラピーである。複数のクライエントとセラピストとが共同で行う。[[臨床心理士|心理療法家]]などの権威者よりも仲間からのアドバイスのほうが容易に受け入れやすい、恐怖を感じにくいなどの良い側面があり、また複数の人間がかかわることで転移反応などを軽減させるメリットもある。行動パターンが硬直化しているクライエント、他者に反抗的、万能感の強いクライエントには向かない<ref>{{cite journal |author=Yalom,I.D. |title=The theory and practice of group psychotherapy |journal=New York: Basic Books |year=1985 }}</ref>。


== 境界性パーソナリティ障害の有名人 ==
== 境界性パーソナリティ障害の有名人 ==
[[File:Osamu Dazai at home.jpg|thumb|200px|太宰治(1909 - 1948)]]
[[File:Osamu Dazai at home.jpg|thumb|190px|太宰治(1909 - 1948)]]
過去(または現在)境界性パーソナリティ障害だったとされる有名人は、[[ヘルマン・ヘッセ]]、[[太宰治]]、[[ダイアナ (プリンセス・オブ・ウェールズ)|ダイアナ妃]]、[[マリリン・モンロー]]、[[ウィノナ・ライダー]]<ref>{{Cite web |date=2011-02-23 |url=http://blog.movie.nifty.com/blog/2011/02/post-4f07.html|title=元清純派女優ウィノナ・ライダーが凄い!『ブラック・スワン』で一皮剥けた感 |publisher=Hottrash.com |accessdate=2012-03-13}}</ref>、[[ブリトニー・スピアーズ]]<ref>[http://www.excite.co.jp/News/world_ent/20110320/Cyzowoman_201103_post_3316.html 誕生日に自分のDVDをプレゼント? ドン引きさせるナルシストエピソード 『サイゾーウーマン』 2011年3月20日]</ref>、弁証法的行動療法を開発した、[[心理学者]]の[[マーシャ・リネハン]]などがいる。
過去(または現在)境界性パーソナリティ障害だったとされる有名人は、[[ヘルマン・ヘッセ]]、[[太宰治]]、[[ダイアナ (プリンセス・オブ・ウェールズ)|ダイアナ妃]]、[[マリリン・モンロー]]、[[ウィノナ・ライダー]]<ref>{{Cite web |date=2011-02-23 |url=http://blog.movie.nifty.com/blog/2011/02/post-4f07.html|title=元清純派女優ウィノナ・ライダーが凄い!『ブラック・スワン』で一皮剥けた感 |publisher=Hottrash.com |accessdate=2012-03-13}}</ref>、[[ブリトニー・スピアーズ]]<ref>[http://www.excite.co.jp/News/world_ent/20110320/Cyzowoman_201103_post_3316.html 誕生日に自分のDVDをプレゼント? ドン引きさせるナルシストエピソード 『サイゾーウーマン』 2011年3月20日]</ref>、弁証法的行動療法を開発した、[[心理学者]]の[[マーシャ・リネハン]]がいる。


[[太宰治]]は慢性的な虚無感や疎外感を抱えていた。安定している時期は自己愛的性格だったが、不安定時は感情統制が困難であったとされ、芥川賞を逃した時の怒りは常軌を脱していたという。感受性が強く、なおかつ高い知能を持っていた太宰が[[オキシコドン|パビナール]]依存に陥ったのは成り行きだったのかもしれない。また離人感や希死念慮も有しており、[[自殺]](心中)未遂を繰り返し5回目で自殺完遂に至った。28歳の時には[[精神科|精神科病院である]]、江古田の[[東京武蔵野病院]]へ入院している<ref>[[#町沢静男 (2005) |町沢静男 (2005) ]] p151 - 175</ref>。
[[太宰治]]は慢性的な虚無感や疎外感を抱えていた。安定している時期は自己愛的性格だったが、不安定時は感情統制が困難であったとされ、芥川賞を逃した時の怒りは常軌を脱していたという。感受性が強く、なおかつ高い知能を持っていた太宰が[[オキシコドン|パビナール]]依存に陥ったのはごく自成り行きだったのかもしれない。また離人感や自殺念慮も有しており、[[自殺]](心中)未遂を繰り返し5回目で自殺完遂に至った。28歳の時には[[精神科|精神科病院である]]、江古田の[[東京武蔵野病院]]へ入院している<ref>[[#町沢静男 (2005) |町沢静男 (2005) ]] p151 - 175</ref>。


[[マリリン・モンロー]]も、7回に及ぶ自殺未遂を繰り返し、薬物の過量服薬で死去した。[[母子家庭]]であったが、母親は[[うつ病]]で何度も[[精神科病院]]に入院しており、[[孤児]]として育てられたモンローは、愛情に飢えていたが他者との親密な関係を保ちにくかったといわれる。[[睡眠薬]]と[[アルコール]]の依存症になり、[[1954年]]から精神分析医による治療を受けている。主治医はモンローについて「いつも自分を価値のないつまらない人間だと思っていた」と振り返る。死の数日前のインタビューでは、女優としてのこれからの抱負を語り、「世界が必要としているのは本当の意味での親近感です。どうぞ私を冗談扱いにしないで下さい」と述べている<ref>動機ないモンロー「自殺」=肉声メモ発見、将来に抱負・レズ体験も 『時事通信』 2005年8月7日</ref><ref>[[#町沢静男 (2005)|町沢静男 (2005)]] p49 - 52</ref>。
[[マリリン・モンロー]]も、7回に及ぶ自殺未遂を繰り返し、薬物の過量服薬で死去した。[[母子家庭]]であったが、母親は[[うつ病]]で何度も[[精神科病院]]に入院しており、[[孤児]]として育てられたモンローは、愛情に飢えていたが他者との親密な関係を保ちにくかったといわれる。[[睡眠薬]]と[[アルコール]]の依存症になり、[[1954年]]から精神分析医による治療を受けている。主治医はモンローについて「いつも自分を価値のないつまらない人間だと思っていた」と振り返る。死の数日前のインタビューでは、女優としてのこれからの抱負を語り、「世界が必要としているのは本当の意味での親近感です。どうぞ私を冗談扱いにしないで下さい」と述べている<ref>動機ないモンロー「自殺」=肉声メモ発見、将来に抱負・レズ体験も 『時事通信』 2005年8月7日</ref><ref>[[#町沢静男 (2005)|町沢静男 (2005)]] p49 - 52</ref>。
166行目: 272行目:
なお、ウィノナ・ライダーは「バカに見える」という理由で元来[[金髪|ブロンド]]である髪を黒く染めており、女優業については長い間、軽薄で恥ずかしい仕事だと思っていたという<ref>{{Cite web |date=2006-08-14|url=http://www.oricon.co.jp/news/entertainment/31473/ |title=「ウィノナ・ライダー、女優業はきらい…」 |publisher=ORICON STYLE |accessdate=2012-03-13}}</ref>。
なお、ウィノナ・ライダーは「バカに見える」という理由で元来[[金髪|ブロンド]]である髪を黒く染めており、女優業については長い間、軽薄で恥ずかしい仕事だと思っていたという<ref>{{Cite web |date=2006-08-14|url=http://www.oricon.co.jp/news/entertainment/31473/ |title=「ウィノナ・ライダー、女優業はきらい…」 |publisher=ORICON STYLE |accessdate=2012-03-13}}</ref>。


[[ダイアナ (プリンセス・オブ・ウェールズ)|ダイアナ妃]]もリストカットなどの[[自傷行為]]、過食嘔吐などの[[摂食障害]]を克服した人物として知られている。特に王妃として公人生活を送るようになってからは、衆人の目に晒されるストレス、夫婦間の諍いにより[[摂食障害]]が悪化し、剃刀やレモンスライサーで体を切ったり、夫の[[チャールズ (プリンス・オブ・ウェールズ)|チャールズ]]と口論中にテーブル上にあったペンナイフで自分の胸や腿を刺すなど衝動的な行動を取る事もあった。慢性的なうつ状態もあり、大勢の[[心理療法士]]や[[心理学者]]、精神分析医にかかっていた。後年のダイアナは[[チャリティー]]活動に生きがいを見出し、対人地雷の廃絶、[[ホームレス]]や[[エイズ]]患者、暴力被害や薬物依存症などの女性問題に取り組むなど、既存の枠に捕らわれない奉仕活動を行い、「病んでいる人、苦しんでいる人、虐げられた人とともに歩んでいる」と称えられ、世界中で愛された<ref>[[#アンドリュー・モートン (1997) |アンドリュー・モートン (1997) ]]</ref>。
[[ダイアナ (プリンセス・オブ・ウェールズ)|ダイアナ妃]]もリストカットなどの[[自傷行為]]、過食嘔吐の[[摂食障害]]を克服した人物として知られている。特に王妃として公人生活を送るようになってからは、衆人の目に晒されるストレス、夫婦間の諍いにより摂食障害が悪化し、剃刀やレモンスライサーで体を切ったり<ref group="注">[[イギリス]]でよくあるLemon slicerは、放射線状の歯が設置されており、レモンをくし型に切るものである。なお実際にどのような形状であったかは不明である。</ref>、夫の[[チャールズ (プリンス・オブ・ウェールズ)|チャールズ]]と口論中にテーブル上にあったペンナイフで自分の胸や腿を刺すなど衝動的な行動を取る事もあった。慢性的なうつ状態もあり、大勢の[[心理療法士]]や[[心理学者]]、精神分析医にかかっていた。後年のダイアナは[[チャリティー]]活動に生きがいを見出し、対人地雷の廃絶、[[ホームレス]]や[[エイズ]]患者、暴力被害や薬物依存症の女性問題に取り組むなど、既存の枠に捕らわれない奉仕活動を行い、「病んでいる人、苦しんでいる人、虐げられた人とともに歩んでいる」と称えられ、世界中で愛された<ref>[[#アンドリュー・モートン (1997) |アンドリュー・モートン (1997) ]]</ref>。


弁証法的行動療法を開発した[[ワシントン大学]][[博士]]の[[マーシャ・リネハン]]は、17歳の時に[[ひきこもり]]となり[[精神科|精神科病院]]に入院した。当初の診断名は[[統合失調症]]であった。[[薬物療法]]を受け始め、その後何時間もの[[精神分析学|フロイト式精神分析]]や30回に及ぶ[[電気けいれん療法]]も行ったが症状は改善せず、[[自傷行為]]の激しさの為に2年以上も入院生活を送り、退院後も自殺未遂を起こしたが、退院後は[[保険会社]]の[[事務員]]として働きながら、ロヨラ大学の夜間部に通い[[心理学]]を勉強した。[[1971年]]に[[博士号]]を取得。現在でも[[心理学者]]として第一線で活躍している<ref name="newyorktimes"/>。
弁証法的行動療法を開発した[[ワシントン大学]][[博士]]の[[マーシャ・リネハン]]は、17歳の時に[[ひきこもり]]となり[[精神科|精神科病院]]に入院した。当初の診断名は[[統合失調症]]であった。[[薬物療法]]を受け始め、その後何時間もの[[精神分析学|フロイト式精神分析]]や30回に及ぶ[[電気けいれん療法]]も行ったが症状は改善せず、[[自傷行為]]の激しさの為に2年以上も入院生活を送り、退院後も自殺未遂を起こした<ref group="注">リネハン博士はこの時の経験からトラウマになりうる分析についての批判をしている。博士入院していた[[1960年代]]前半はまだ[[ロボトミー]]手術が行われていた時代でもある。( The Newyork times,2011-06 )</ref>。退院後は[[保険会社]]の[[事務員]]として働きながら、ロヨラ大学<ref group="注">{{仮リンク|ロヨラ大学|en|Loyola University|label=ロヨラ大学}}は[[米国]][[イリノイ州]]の[[シカゴ]]、[[ルイジアナ州]][[ニューオーリンズ]]、[[メリーランド州]]にあるカトリック系大学。フィクション作品では、[[プリズン・ブレイク]]の主人公マイケルが「ロヨラ大学出の秀才」という設定である。</ref>の夜間部に通い[[心理学]]を勉強し[[1971年]]に[[博士号]]を取得。現在でも[[心理学者]]として第一線で活躍している<ref name="newyorktimes"/>。


== 注 ==
== 注 ==
{{Reflist|group=注}}

== 出典 ==
<references/>
<references/>


==参考文献==
==参考文献==
*{{Cite book |和書 |author=福島章、村瀬孝雄、山中康裕 |year=1990 |mounth=7 |title=[http://www.kanekoshobo.co.jp/np/isbn/9784760893317/ 臨床心理学大系 第11巻「精神障害・心身症の心理臨床」]|publisher=金子書房 |isbn=97847608-93317 |ref=福島章、村瀬孝雄、山中康裕 (1990) }}
* {{cite report |last=英国国立医療技術評価機構 |authorlink=英国国立医療技術評価機構 |url=http://www.nice.org.uk/CG78 | title=CG78 : Borderline personality disorder (BPD) |date=2009-01 |ref=NICECG78 }}


*{{Cite book|和書 |author=スザンナ・ケイセン、吉田利子 訳 |year=1994 |month=6 |title=[http://www.soshisha.com/book_search/detail/1_0556.html 思春期病棟の少女たち] |publisher=草思社 |isbn=9784794205568 |ref=スザンナ・ケイセン (1994)}}
*{{Cite book|和書 |author=スザンナ・ケイセン、吉田利子 訳 |year=1994 |month=6 |title=[http://www.soshisha.com/book_search/detail/1_0556.html 思春期病棟の少女たち] |publisher=草思社 |isbn=9784794205568 |ref=スザンナ・ケイセン (1994)}}
184行目: 293行目:
*{{Cite book|和書 |author=アンドリュー・モートン、入江真佐子訳 |year=1997 |month=12 |title=完全版 ダイアナ妃の真実 ― 彼女自身の言葉による |publisher=早川書房 |isbn=9784152081315 |ref=アンドリュー・モートン (1997)}}
*{{Cite book|和書 |author=アンドリュー・モートン、入江真佐子訳 |year=1997 |month=12 |title=完全版 ダイアナ妃の真実 ― 彼女自身の言葉による |publisher=早川書房 |isbn=9784152081315 |ref=アンドリュー・モートン (1997)}}


*{{Cite book |和書 |author=河合隼雄、空井健三、山中康裕 |year=2000 |mounth=8 |title=[http://www.kanekoshobo.co.jp/np/isbn/9784760893379/ 臨床心理学大系 第17巻「心的外傷の臨床」] |publisher=金子書房 |isbn=97847608-93379 |ref=河合隼雄、空井健三、山中康裕 (2000) }}
*{{Cite book|和書 |last=町沢静男 |title=ボーダーラインの心の病理―自己不確実に悩む人々 |year=2005 |month=8 |publisher=創元社 |isbn=9784422113395 |ref=町沢静男 (2005)}}

*{{Cite book |和書 |author=馬場禮子、福島章、水島恵一 |year=2000 |mounth=11 |title=[http://www.kanekoshobo.co.jp/np/isbn/9784760893393/ 臨床心理学大系 第19巻「人格障害の心理療法」]|publisher=金子書房 |isbn=9784760893393 |ref=馬場禮子、福島章、水島恵一 (2000) }}

*{{Cite book |和書 |author=杉原一昭、渡辺映子、勝倉孝治 |year=2003 |mounth=4 |title=はじめて学ぶ人の臨床心理学 |publisher=中央法規出版 |isbn=9784805823477 |ref=杉原一昭、渡辺映子、勝倉孝治 (2003) }}

*{{Cite book |和書 |author=稲富正治 |year=2005 |mounth=2 |title=[http://www.nihonbungeisha.co.jp/books/pages/ISBN978-4-537-25258-3.html 面白いほどよくわかる臨床心理学 ― ストレス社会が引き起こす心の病をケアする手がかり] |publisher=日本文芸社 |isbn=9784537252583 |ref=稲富正治 (2005) }}

*{{Cite book|和書 |last=町沢静男 |title=[http://www.sogensha.co.jp/booklist.php?act=details&ISBN_5=11339 ボーダーラインの心の病理 ― 自己不確実に悩む人々] |year=2005 |month=8 |publisher=創元社 |isbn=9784422113395 |ref=町沢静男 (2005)}}


*{{Cite book|和書 |author=メラニー・A・ディーン著、中村伸一、信國恵子訳 |year=2005 |month=11 |title=[http://www.kanekoshobo.co.jp/np/isbn/9784760832361/ BPD - 境界性人格障害のアセスメントと治療] |publisher=金子書房 |isbn=9784760832361 |ref=メラニー・A・ディーン (2005)}}
*{{Cite book|和書 |author=メラニー・A・ディーン著、中村伸一、信國恵子訳 |year=2005 |month=11 |title=[http://www.kanekoshobo.co.jp/np/isbn/9784760832361/ BPD - 境界性人格障害のアセスメントと治療] |publisher=金子書房 |isbn=9784760832361 |ref=メラニー・A・ディーン (2005)}}
191行目: 308行目:


*{{Cite journal |和書|author=岡野憲一郎 |title=ボーダーライン反応で仕事を失う |journal=[http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo01/bo0104/bn/25/01index.html こころの臨床 à la carte] |volume=25 |issue= |year= 2006 |month=3 |pages= |ref=岡野憲一郎 (2006)}}
*{{Cite journal |和書|author=岡野憲一郎 |title=ボーダーライン反応で仕事を失う |journal=[http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo01/bo0104/bn/25/01index.html こころの臨床 à la carte] |volume=25 |issue= |year= 2006 |month=3 |pages= |ref=岡野憲一郎 (2006)}}

*{{Cite journal |和書|author=柴山雅俊 |title=現代における解離の症候学 |journal=[http://www.hihyosya.co.jp/isbn978-4-8265-0440-9.html 精神医療] |volume=42 |issue= |year=2006 |month=4 |publisher=批評社 |isbn=9784826504409 |ref=柴山雅俊 (2006)}}


*{{Cite book|和書 |author=佐藤光源 監修 |year=2006 |title=[http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=15932 米国精神医学会治療ガイドラインクイックリファレンス] |publisher=医学書院 |isbn=9784260002462 |ref=米国精神医学会治療ガイドライン (2006)}}
*{{Cite book|和書 |author=佐藤光源 監修 |year=2006 |title=[http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=15932 米国精神医学会治療ガイドラインクイックリファレンス] |publisher=医学書院 |isbn=9784260002462 |ref=米国精神医学会治療ガイドライン (2006)}}


*{{Cite journal |和書|author=秋山剛、酒井佳永、松本聡子 |title=双極スペクトラムと気質 |journal=[http://www.nippyo.co.jp/magazine/3802.html こころの科学] |volume=131 |issue= |year=2007 |month=1 |pages= |ref=秋山剛、酒井佳永、松本聡子 (2007)}}
*{{Cite journal |和書|author=秋山剛、酒井佳永、松本聡子 |title=双極スペクトラムと気質 |journal=[http://www.nippyo.co.jp/magazine/3802.html こころの科学] |volume=131 |issue= |year=2007 |month=1 |pages= |ref=秋山剛、酒井佳永、松本聡子 (2007)}}

*{{Cite book |和書 |author=笠原嘉 |year=2007 |mounth=2 |title=[http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo05/bn572.html 精神科における予診・初診・初期治療] |publisher=星和書店 |isbn=9784791106219 |ref=笠原嘉 (2007) }}

*{{Cite book |和書 |author=阿保順子、犬飼直子 |year=2007 |mounth=2 |title=[http://www.hihyosya.co.jp/isbn978-4-8265-0459-1.html 人格障害のカルテ 実践編] |publisher=批評社 |isbn=9784826504591 |ref=阿保順子、犬飼直子 (2007) }}


*{{Cite book|和書 |author=マーシャ・M・リネハン |year=2007 |month=6 |title=[http://www.seishinshobo.co.jp/book/b87923.html 境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法 ― DBTによるBPDの治療] |publisher=誠信書房 |isbn=9784414414240 |ref=マーシャ・M・リネハン (2007) 境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法 ― DBTによるBPDの治療}}
*{{Cite book|和書 |author=マーシャ・M・リネハン |year=2007 |month=6 |title=[http://www.seishinshobo.co.jp/book/b87923.html 境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法 ― DBTによるBPDの治療] |publisher=誠信書房 |isbn=9784414414240 |ref=マーシャ・M・リネハン (2007) 境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法 ― DBTによるBPDの治療}}
202行目: 325行目:
*{{Cite book|和書 |author=渡辺雅幸 |year=2007 |month=9 |title=[http://www.nakayamashoten.co.jp/cgi-bin/menu.cgi?ISBN=978-4-521-67971-6 専門医がやさしく語るはじめての精神医学] |publisher=中山書店 |isbn=9784521679716 |ref=渡辺雅幸 (2007) }}
*{{Cite book|和書 |author=渡辺雅幸 |year=2007 |month=9 |title=[http://www.nakayamashoten.co.jp/cgi-bin/menu.cgi?ISBN=978-4-521-67971-6 専門医がやさしく語るはじめての精神医学] |publisher=中山書店 |isbn=9784521679716 |ref=渡辺雅幸 (2007) }}


*{{Cite book|和書 |author=林直樹 |year=2007 |month=10 |title=リストカット ― 自傷行為をりこえる |publisher=講談社 |isbn=9784062879125 |ref=林直樹 (2007) }}
*{{Cite book |和書 |author=ジェームス・F・マスターソン, アン・R・リーバーマン、神谷栄治 訳 |year=2007 |mounth=9 |title=[http://kongoshuppan.co.jp/dm/0996.html パーソナティ障害治療ガイド己」成長を支えるアプローチ] |publisher=金剛出版 |isbn=9784772409964 |ref=ジェームス・F・マスターソン、アン・R・リーバーマン (2007) }}


*{{Cite book|和書 |author=岡野高明、高梨靖子、宮下伯容 他 |year=2007 |title=[http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo05/bn596.html 成人におけるADHD,高機能広汎性発達障害など発達障害のパーソナティ形成への影響 成人パーソナリティ障害と関連「〈ADHD(注意欠陥/多動性障害)関連〉論文集」] |publisher=星和書店 |isbn=9784791106455 |ref=岡野高明、高梨靖子、宮下伯容 他 (2007) }}
*{{Cite book|和書 |author=林直樹 |year=2007 |month=10 |title=[http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2879123ストカット 自傷行為をりこえる] |publisher=講談社 |isbn=9784062879125 |ref=林直樹 (2007/10) }}

*{{cite journal |和書|author=林直樹 |title=境界性パーソナリティ障害と解離性障害 |journal=[http://www.nippyo.co.jp/magazine/3797.html こころの科学] |volume=136 |issue= |year=2007 |month=11 |pages |publisher=日本評論社 |ISBN=9784535140363 |ref=林直樹 (2007/11) }}

*{{Cite book|和書 |author=岡野高明、高梨靖子、宮下伯容 他 |year=2007 |title=[http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo05/bn596.html 成人におけるADHD,高機能広汎性発達障害など発達障害のパーソナリティ形成への影響 — 成人パーソナリティ障害との関連「〈ADHD(注意欠陥/多動性障害)関連〉論文集」] |publisher=星和書店 |isbn=9784791106455 |ref=岡野高明、高梨靖子、宮下伯容 他 }}


*{{Cite book|和書 |author=A.ベイトマン、P.フォナギー |year=2008 |month=3 |title=[http://www.iwasaki-ap.co.jp/2008/03/post_211.html メンタライゼーションと境界パーソナリティ障害 ― MBTが拓く精神分析的精神療法の新たな展開] |publisher=岩崎学術出版社 |isbn=9784753308033 |ref=Aベイトマン、P.フォナギー (2008) }}
*{{Cite book|和書 |author=A.ベイトマン、P.フォナギー |year=2008 |month=3 |title=[http://www.iwasaki-ap.co.jp/2008/03/post_211.html メンタライゼーションと境界パーソナリティ障害 ― MBTが拓く精神分析的精神療法の新たな展開] |publisher=岩崎学術出版社 |isbn=9784753308033 |ref=Aベイトマン、P.フォナギー (2008) }}

*{{Cite book |和書 |author=細澤仁 |year=2008 |mounth=7 |title=[http://www.msz.co.jp/book/detail/07398.html 解離性障害の治療技法] |publisher=星和書店 |isbn=9784622073987 |ref=細澤仁 (2008) }}

*{{Cite book |和書 |author=石口彰、池田まさみ |year=2008 |mounth=9 |title=[http://ssl.ohmsha.co.jp/cgi-bin/menu.cgi?ISBN=978-4-274-20596-5 臨床心理学用語辞典] |publisher=オーム社 |isbn=9784274205965 |ref=石口彰、池田まさみ (2008) }}

*{{Cite book |和書 |author=林直樹 |year=2008 |mounth=12 |title=[http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2594315 リストカット・自傷行為のことがよくわかる本] |publisher=講談社 |isbn=9784062594318 |ref=林直樹 (2008) }}

* {{cite report |last=英国国立医療技術評価機構 |authorlink=英国国立医療技術評価機構 |url=http://www.nice.org.uk/CG78 | title=CG78 : Borderline personality disorder (BPD) |date=2009-01 |ref=NICECG78 }}


* {{Cite book|和書 |last=小羽俊士 |title=[http://www.msz.co.jp/book/detail/07445.html 境界性パーソナリティ障害―疾患の全体像と精神療法の基礎知識] |year=2009 |month=1 |publisher=みすず書房 |ISBN=9784622074458 |ref=小羽俊士 (2009) }}
* {{Cite book|和書 |last=小羽俊士 |title=[http://www.msz.co.jp/book/detail/07445.html 境界性パーソナリティ障害―疾患の全体像と精神療法の基礎知識] |year=2009 |month=1 |publisher=みすず書房 |ISBN=9784622074458 |ref=小羽俊士 (2009) }}

*{{Cite book |和書 |author=岡野憲一郎 |year=2009 |mounth=2 |title=[http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2789585 多重人格者 あの人の二面性は病気か、ただの性格か] |publisher=講談社 |isbn=9784062789585
|ref=岡野憲一郎 (2009) }}

*{{Cite book |和書 |author=下山晴彦 |year=2009 |mounth=8 |title=[http://www.minervashobo.co.jp/book/b49970.html よくわかる臨床心理学(やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)] |publisher=ミネルヴァ書房 |isbn=9784623054350
|ref=下山晴彦 (2009) }}


*{{Cite book|和書 |author=松本俊彦 |year=2009 |month=8 |title=[http://www.nippyo.co.jp/book/5097.html 自傷行為の理解と援助 ―「故意に自分の健康を害する」若者たち] |publisher=日本評論社 |isbn=9784535562806 |ref=松本俊彦 (2009) }}
*{{Cite book|和書 |author=松本俊彦 |year=2009 |month=8 |title=[http://www.nippyo.co.jp/book/5097.html 自傷行為の理解と援助 ―「故意に自分の健康を害する」若者たち] |publisher=日本評論社 |isbn=9784535562806 |ref=松本俊彦 (2009) }}


*{{cite journal |和書|author=岡野憲一郎 |title=医原性という視点から |journal=[http://www.nippyo.co.jp/magazine/5451.html こころの科学] |volume=154 |issue= |year=2010 |month=11 |pages=30-35 |ref=岡野憲一郎 (2010) }}
*{{cite journal |和書|author=岡野憲一郎 |title=医原性という視点から |journal=[http://www.nippyo.co.jp/magazine/5451.html こころの科学] |volume=154 |issue= |year=2010 |month=11 |pages=30-35 |ref=岡野憲一郎 (2010) }}

*{{Cite book |和書 |author=松原達哉 |year=2010 |mounth=11 |title=[http://www.natsume.co.jp/book/index.php?action=show&code=004982 史上最強カラー図解 臨床心理学のすべてがわかる本] |publisher=ナツメ社 |isbn=9784816349829 |ref=松原達哉 (2010) }}


*{{Cite book|和書 |last=林直樹 |title=[https://www2.shufunotomo.co.jp/webmado/detail/978-4-07-278965-0 よくわかる境界性パーソナリティ障害] |year=2011 |month=7 |publisher=主婦の友社 |isbn=9784072789650 |ref=林直樹 (2011) }}
*{{Cite book|和書 |last=林直樹 |title=[https://www2.shufunotomo.co.jp/webmado/detail/978-4-07-278965-0 よくわかる境界性パーソナリティ障害] |year=2011 |month=7 |publisher=主婦の友社 |isbn=9784072789650 |ref=林直樹 (2011) }}

*{{Cite book |和書 |author=牛島定信 |year=2011 |mounth=11 |title=[http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2789671 境界性パーソナリティ障害の人の気持ちがわかる本] |publisher=講談社 |isbn=9784062789677 |ref=牛島定信 (2011) }}


==関連項目==
==関連項目==
225行目: 370行目:
*[[自傷行為]]
*[[自傷行為]]
**[[リストカット]]
**[[リストカット]]
*[[共依存]]
*[[機能不全家族]]
*[[機能不全家族]]
*[[アダルトチルドレン]]
**[[アダルトチルドレン]]
*[[精神障害の診断と統計の手引き]] (DSM)
*[[精神障害の診断と統計の手引き]](DSM)
*[[疾病及び関連保健問題の国際統計分類]](ICD-10)
*[[疾病及び関連保健問題の国際統計分類]](ICD-10)
*[[心的外傷後ストレス障害]](PTSD)
*[[心的外傷後ストレス障害]](PTSD)
*[[複雑性PTSD]]
*[[うつ病]]
*[[うつ病]]
*[[双極性障害]]
*[[双極性障害]]
242行目: 387行目:
[[Category:パーソナリティ障害]]
[[Category:パーソナリティ障害]]
{{Medical-stub}}
{{Medical-stub}}
{{nobots}}


[[ar:اضطراب الشخصية الحدي]]
[[ar:اضطراب الشخصية الحدي]]
265行目: 411行目:
[[nl:Borderline-persoonlijkheidsstoornis]]
[[nl:Borderline-persoonlijkheidsstoornis]]
[[no:Borderline personlighetsforstyrrelse]]
[[no:Borderline personlighetsforstyrrelse]]
[[pl:Osobowość borderline]]
[[pl:Osobowoœو borderline]]
[[pt:Transtorno de personalidade limítrofe]]
[[pt:Transtorno de personalidade limيtrofe]]
[[ru:دîمًàيè÷يîه ًàًٌٌٍîéٌٍâî ëè÷يîٌٍè]]
[[ru:Пограничное расстройство личности]]
[[sr:أًàيè÷يè ïîًهىه‍༠ëè÷يîٌٍè]]
[[sr:Гранични поремећај личности]]
[[sv:Borderline]]
[[sv:Borderline]]
[[tl:Diperensiya ng alanganing pagkatao]]
[[tl:Diperensiya ng alanganing pagkatao]]
[[uk:جهوîâèé ًîçëàن îٌîلèٌٍîٌٍ³]]
[[uk:Межовий розлад особистості]]
[[zh:±كشµذشبث¸ٌصد°­]]
[[zh:边缘性人格障碍]]

2012年5月23日 (水) 21:26時点における版

境界性パーソナリティ障害
概要
診療科 精神医学, 臨床心理学
分類および外部参照情報
ICD-10 F60.3
ICD-9-CM 301.83
MedlinePlus 000935
eMedicine article/913575
Patient UK 境界性パーソナリティ障害
MeSH D001883

境界性パーソナリティ障害(きょうかいせいパーソナリティしょうがい、Borderline Personality Disorder,BPD)は、境界型パーソナリティ障害とも呼ばれ、思春期または成人期に多く生じる、不安定な自己-他者のイメージ、感情・思考の制御の障害、衝動的な自己破壊行為などを特徴とするパーソナリティの障害である。自殺率が非常に高く、通院患者の10%にも及ぶというデータもある[1]DSM-IV-TR日本語版2003年8月新訂版より、邦訳が境界性人格障害から境界性パーソナリティ障害と変更され、また日本精神神経学会も2008年5月に境界性パーソナリティ障害に用語改定をした。一般ではボーダーラインと呼称される事もある。

旧来の疾患概念である境界例と混同されやすく、一般的に境界例と呼称される場合、境界性パーソナリティ障害を指すことが多い。

概説

1970年代頃から患者数が増加しており、医療費への影響や自己破壊的な行動による生産性の低下などから経済へ与える影響も大きい。主に力動的精神医学からの研究がなされているが、生物学的な研究は未だ少ない。治療法は精神療法を主体とし、薬物療法を併用することが多い。なお「境界性」の「境界」は現在では特別な意味を持たない[注 1]

歴史

境界(Borderline)という言葉は、神経症精神病[注 2]の境界領域という意味の力動精神医学用語である「境界例 (Borderline Case)」を派生としている。1906年頃、フロイトの弟子である精神分析医のフェダーンは、神経症だとみなされていた患者に古典的精神分析を施すと、精神病症状が出現する者がいることを観察した。当初は精神分裂病の一表現型と捉えられており、境界例、潜在性分裂病、偽神経症性分裂病などと呼ばれた[2]

1950年代に入ると、それらの病態はナイトらにより、神経症から分裂病、あるいはその逆へ移行しうる状態であると考えられるようになった。 ナイトは精神病と神経症は区別されるべきという伝統的精神医学の前提を否定し、両者の境界領域の病態が存在するとした。ナイトは本質的には精神分裂病とみていたが、シュミデベルグはむしろ、移行することなく不安定さの中に安定している独立した一臨床単位であると説き、本質にはパーソナリティの重篤な障害があると言及した[2]

1950年代後半から1960年代にかけて境界例研究はさらに加熱し、各国で様々な議論が交わされた。精神分析学の立場からはカーンバーグの、安定的で特異な人格構造を有する「境界型人格構造 (Borderline personality organization - BPO) 」の概念が、記述精神医学の立場からはグリンカーによって「境界症候群 (Borderline syndrome) 」として統計的・操作的な診断基準が提出された。このカーンバーグの境界型人格構造の概念は、いわゆる今日のパーソナリティ障害全般の概念であり、その下位分類の一つが境界性パーソナリティ障害へと受け継がれた。さらにケティらは遺伝学的研究から精神分裂病との違いを明確にしていった[2]

これらの流れを受け、ガンダーソンは具体的な症状を用いた独自の診断基準を完成させた。このガンダーソンの診断基準は、1980年に発表されたDSM-III に記載された「境界性パーソナリティ障害」の診断基準を作る際に参照され、現在使用されているDSM-IV-TRにも受け継がれている[2]。またICD-10では情緒不安定性パーソナリティ障害の下位カテゴリ「境界型」として存在する。

現在

境界性パーソナリティ障害の研究は、パーソナリティ障害の類型の中で最も進んでいる。

1970年代頃より、境界性パーソナリティ障害とうつ病などの気分障害との関連性に関する研究が進められており、長期予後を含め、現在でも様々な議論を呼んでいる[3]。Koenigsbergらが1999年に発表した論文によると、他のパーソナリティ障害に比べると境界性パーソナリティ障害と気分障害の関連は特別なものではなく、またガンダーソンらも気分障害の併存率は有意に高いが、それぞれ独立して存在しており関連性は低いとした[4]。また遺伝学的研究や、生物学的研究も行われている。

2000年代に突入した頃より、啓発本やインターネットなどにより、一般社会でもこの障害の存在が広く認知されるようになった。しかし病名が普及するにしたがって、意図せぬところで境界性パーソナリティ障害に対するネガティブなイメージも高まっていった傾向があり、患者自身あるいは周囲の人間も、この病名にある種の嫌悪感を持つことが多い。自分の周りにいる厄介な人間へのレッテル付けとして使用される場合もある。この傾向は医師カウンセラーなどの治療者にも存在し、不必要に忌避的になることもあったという。これは明確な治療法がないという誤った認識や、それにより治療に費やす労力が予想されること、感情的になった患者から怒りをぶつけられる恐れの結果である[5]。しかし1990年代以降、様々なアプローチでの治療法が生み出され、境界性パーソナリティ障害は医療現場でもまた一般社会でも特別な存在ではなくなった。

また一般社会での名称の普及からも考察するに、対人関係において危機的状況に晒された時、人はみな自身の存在価値に悩み、理性的判断を失い、他者に対し特異的に振舞うといえる。このような病的な要素は正常な人間が誰しも持ちうる心的な反応である、との意見もまた正論であるといえよう[6]

症状

認知・感情・行動の障害

症状の機軸となるものは、不安定な思考や感情、行動およびそれに伴うコミュニュケーションの障害である。

具体的には、衝動的行動、白か黒かの二極思考、対人関係の障害、慢性的な空虚感、自己同一性障害、薬物やアルコール依存自傷行為や自殺企図などの自己破壊行動が挙げられる。また怒り、空しさや寂しさ、見捨てられ感や自己否定感など、感情がめまぐるしく変化し、なおかつ混在する感情の調節が困難である。

激しい感情は対人関係の摩擦や社会的機能の低下を生む。衝動的行為としては、性的放縦、ギャンブルや買い物などでの多額の浪費、より顕著な行為としてはアルコール薬物の乱用がある。さらに自己破壊的な性質を帯びたものとして、過食嘔吐や不食などの摂食障害がある。自己破壊的行為で最も重いものは自殺であるが、そのほかにもリストカットなどの自傷行為、自殺企図(薬物の過量服薬等)により実際に死に至ることもある。

境界性パーソナリティ障害では他者との分離不安があり、依存できる関係を求めたり、相手を過度に理想化する傾向にあるが、繊細で他者の感情に敏感であるがために、失望するととたんに相手の価値下げをすることがある。依存は自覚がなく無意識的なものであるが、追い払ったり引き戻したりすることで対人関係が激しく短期的なものになりやすい。周囲の人間はこれらの行動を 『操作的(manipulative)』[注 3]と否定的に受け取ることもある[7]

また自己破壊的行為のほとんどは抑うつ状態で起こっていることが種々の調査で明らかになっており、気分障害との関連についての研究が各国で行われている。パーソナリティの問題が改善するとうつ状態が良くなることがある一方、うつ病の治療をすることで衝動的行動が改善することもあるなど、互いに密接にかかわっている[8]

なお同じ境界性パーソナリティ障害でも、患者によって非常に違って見える[注 4]。概ね抑うつ、衝動性、精神病症状のどれかが目立つとしている。また気分障害、他のパーソナリティ障害、器質性障害、非定型性精神病など他の疾患の併存もそれぞれの差となって現れる[9]

精神病症状

境界性パーソナリティ障害の症状として、一過性の精神病症状がある。この精神病症状は強いストレス下においてより顕著になり、解離(健忘など)や非現実感、離人感[注 5]パラノイア[注 6]などが出現したり、現実検討力が著しく低下する事態を生むこともある。失声症状が現れたという報告もある[10]

DSM-IVの境界性パーソナリティ障害の診断基準の中に「一過性の解離症状」[注 7]というものがある。日本でも治療の経過中に解離症状が出現した患者は全体の26%あったという報告があり、患者にしばしば解離症状が出現することが認められている[11]。また自傷の行為中に解離を伴うことがある[12]

自傷・自殺関連行動

自傷行為の多くは心理的苦しみを軽減する為に行われることが多いが、自傷行為が発展し実際に自殺を招くこともある。東京都立松沢病院の調査では、入院していた患者の退院後2年以内の自殺率は、うつ病統合失調症の人が35%なのに対し、境界性パーソナリティ障害では67%と約2倍高いという結果が出た[1]。アメリカの調査でも、境界性パーソナリティ障害全体での自殺完遂率は9%と極めて高いものとなっている[13][14]

DSM-IV-TRでは、数ある診断名の中で自傷行為を取り扱っているものは境界性パーソナリティ障害のみであるが、リストカットなどの自傷行為を行う者が全て境界性パーソナリティ障害というわけではない[15]。自傷行為を伴いやすい他の精神疾患としては、うつ病などの気分障害統合失調症解離性障害、他のパーソナリティ障害、アルコールや薬物依存などの物質関連障害がある[16]

A.R.ファヴァッツらの調査では、自傷行為を行う者の中で、境界性パーソナリティ障害の診断に該当した者は全体の半数にも満たなかった[17]。日本での報告としては、自殺関連行動で入院した患者の53.8%が境界性パーソナリティ障害と診断されている(重複診断を含む)。なお一度でも自傷行為を行ったことがある患者については75%に達しており、パーソナリティ障害の中では最も自傷行為と関連性が深いとみられている[18]

防衛機制との関連

防衛機制とは、心の安定を図るために不快な体験を弱めたり避けたりしようとする心理的機能であり、人が誰しも持つものである。不安が強くなるとこの防衛機制は強く働く[19]。境界性パーソナリティ障害ではこれらの防衛機制が様々な症状と関わりを持っていると考えられている。中でも重要であり中心にある防衛機制は「分裂(splitting)」である。分裂は原始的な防衛機制の中心的な存在であるが、同一の対象に肯定的、否定的な感情を同時に抱けないというような極端な分裂思考は、対人関係の障害だけでなく、自分に対しても自己同一性障害という形となって現れ、自己像の不安定さや、慢性的な虚無感、それに伴う社会的機能の低下の原因となる。

カーンバーグは、パーソナリティ障害(全般)の人のよく用いる防衛機制として、分裂、投影、投影同一視、否認、原始的理想化、万能感、脱価値化を挙げている[20]。これらの防衛機制の極端な表れは、人生で起こりうる様々な問題に対する適応力の発達を妨げ、漠然とした不安感や抑うつ、衝動統制の困難さ、あるいは一過性の精神病症状をも招く[21]

DSMによる診断基準

DSM-IV-TRの診断基準では、以下9項目のうち5つ以上を満たすこととなっている。『DSM-IV-TR 精神疾患の分類と診断の手引』(著者:American Psychiatric Association、翻訳:高橋三郎、大野裕、染矢俊幸、出版社:医学書院、ISBN 4260118862) より引用。多軸評判定のうち、パーソナリティ障害として第 II 軸に記載される。

対人関係、自己像、感情の不安定および著しい衝動性の広範な様式で成人期早期に始まり、さまざまな状況で明らかになる。

  1. 現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとする気も狂わんばかりの努力(注:5.の自殺行為または自傷行為は含めないこと )
  2. 理想化と脱価値化との両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる不安定で激しい対人関係様式
  3. 同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像や自己観
  4. 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(例:浪費、性行為、物質濫用、無謀な運転、むちゃ食い)
  5. 自殺の行為、そぶり、脅し、または自傷行為のくり返し
  6. 顕著な気分反応性による感情不安定性(例:通常は2 - 3時間持続し、2 - 3日以上持続することはまれな強い気分変調、いらいら、または不安)
  7. 慢性的な空虚感
  8. 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いのけんかをくり返す)
  9. 一過性のストレス関連性の妄想様観念、または重篤な解離性症状

統計

概要

調査では、人口の0.7 - 4.0%程度に存在すると言われている[22]。女性が男性の2 - 4倍であり、出現率の高い年齢は19 - 34歳である[23][24]。男性より女性のほうが多いとされるのは、実際数である可能性もあるが、男性の場合、反社会性パーソナリティ障害自己愛性パーソナリティ障害と診断されることが多い為ではないかとする意見もある[25][26][注 8]

外来通院患者では約10%ほどとみられており[1][27]、入院患者では15 - 20%というデータがある[28]。しかし対人障害が一症状として存在する境界性パーソナリティ障害には、治療者との関係性の悪化により、治療者側の主観で診断される「医原性のBPD」が存在する可能性もあり、正確な患者数は掴みにくい[29][注 9]

予後

患者の年代は20代が最も多いが、30代半ば以降では改善に向かうことが多い。またザナリーニらの調査では、治療を開始してから4年後には49%の患者が、6年後には73%の患者が診断基準を満たさない状態になっており、自傷行為薬物乱用、対人障害などは一旦改善しはじめると比較的早く治癒することが報告されている[注 10][30][31]。しかしこれら「陽性症状」ともいえる目立った症状がなくなることで診断基準に当てはまらなくなるだけと見ることもでき、また慢性的な孤独感や空虚感、アイデンティティの拡散、依存などの目立たない「陰性症状」は長期的に続くことが示唆されている[32]。特に改善しにくい症状は、見捨てられ不安、依存、抑うつ感、空虚感、不機嫌さであり、治療開始から6年後でも7割の患者にこのような症状が残存しており、情緒不安定性などの感情の障害に関しては長期的に続きやすいという結果であった[30]。これはパリスの27年間の追跡調査で、調査期間の後期に自殺率が高くなっていたことでも理解できる結果である[33]。またザナリーニらの前述の患者の10年後の追跡調査でも、93%の患者が症状が改善し、50%は社会適応も良好であったが、そのうちの34%が再発を経験している[34]

最も予後が良好な群は10年後には症状が消失し寛解していたが、最も不良な群は10年後でも症状が変わっておらず、改善の仕方も患者により個人差があることがわかっている[35]

思春期から青年期にかけての重要な時期を、社会的機能が著しく低下したまま過ごすことによる本人の損失は大きい。寛解しやすい因子の一つとして「年齢が若いこと」が挙げられており[36]、早期の治療はやはり有用である[注 11]

他の障害との関連

概要

境界性パーソナリティ障害と診断された人の約60%以上が他の障害を併存している。他のパーソナリティ障害や、不安障害うつ病などの気分障害、薬物の依存症や摂食障害などが多い[37][38]

2009年に行われたアメリカの調査では、合併症として多かったのはアルコール依存が約49%、PTSDが39%、自己愛性パーソナリティ障害が39%、うつ病が32%、双極性障害(躁うつ病)が32%、パニック障害が30%、強迫性パーソナリティ障害が23%、妄想性パーソナリティ障害が21%、薬物依存が18%、反社会性パーソナリティ障害が14%であった[39]

また別の統計では、身体表現性障害が約10%、不安障害が80%以上、うつ病などの気分障害が90%以上、アルコール依存が男性74%・女性46%、薬物乱用が男性65%・女性41%、拒食症が男性7%・女性25%、過食症が男性10%・女性30%、心的外傷後ストレス障害PTSD)が男性31%・女性61%であった[40]

このように実際に他の障害と合併することも多いが、診断基準においても他の障害と重複する部分が多く判別がつきにくい。統合失調症の症状にも似た、一過性の精神病症状が現れることは前述した通りだが、初期の統合失調症や統合失調感情障害も誤診されやすい所見を持つ[41]

気分障害

気分障害でも情緒の不安定さがみられる。しかし不安定さが最小のサポートで機能できる人は境界性パーソナリティ障害の基準にそぐわない。通常境界性パーソナリティ障害での抑うつ症状は、大うつ病性障害の抑うつ症状とは異なるとされるが、対象飢餓、対人依存、傷つきやすい自己評価、無価値感・絶望感など共通点も多い[42]単極性うつ病の併病としてのパーソナリティ障害は、回避性依存性、強迫性が多く境界性は少ないのだが、入院患者に関しては53%が境界性パーソナリティ障害と診断されたデータもある[43]。これは手厚い入院治療により患者が退行し、性格が変容した可能性がうかがい知れる結果であり[44]、治療により退行した患者が境界性パーソナリティ障害と誤診されているケースもあるだろう。

境界性パーソナリティ障害は情緒障害スペクトラムであるとする研究もある。また、双極性障害(躁うつ病)の軽躁ないし躁状態の時は行動化が激しく症状が類似する。近年、境界性パーソナリティ障害との鑑別が困難な非定型の双極性障害が増加傾向にあり、その鑑別方法については議論される処となっている[45][46]。またアメリカの双極性障害研究者・臨床家達の間では、境界性パーソナリティ障害を人格の問題ととらえ精神療法のみを行うべきではなく、気分障害ととらえ、精神療法と合わせ気分安定薬を使うべきという意見が大半をしめている[47]

広汎性発達障害(PDD)

高機能広汎性発達障害の成人が境界性パーソナリティ障害を併存することは稀だとみられている[48]広汎性発達障害に臨床的に併存すると思われるパーソナリティ障害の種類については未だ研究段階であるが[49]、現在のDSMICD-10などの国際的な操作的診断基準では、広汎性発達障害パーソナリティ障害は相互に除外規定が設けられており、重複診断は認められていない。

アスペルガー症候群などの広汎性発達障害では、傷つきやすい自己、攻撃性や被害妄想、対人関係の未熟さ・執拗さを持ち、リストカットや大量服薬などの衝動行為を繰りかえす例も一部にあり、発達障害が見逃されているケースでは、境界性パーソナリティ障害と診断されてしまうこともある[50][51]。またADHDと合併したと思われる例に、ADHDに対する薬物治療を開始したところ、敵意や猜疑心などの症状が治まったとの報告もある[52]

このように、本来広汎性発達障害なのだがあたかもパーソナリティ障害のようにみえる「偽性パーソナリティ障害」が存在する一方、発達障害の二次障害としてパーソナリティ障害の診断基準を満たすような状態となる可能性もあり、その場合通常のパーソナリティ障害とは治療方針や支援の方向性が異なるとされ[52]、鑑別には慎重を要するだろう。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)

心的外傷後ストレス障害PTSD)とは症候学的な類似が指摘されている。境界性パーソナリティ障害の患者はしばしば顕著な外傷体験を持っており、1/3の患者はPTSDの診断基準を満たすとも言われている[53]。しかしPTSDに見られるような過剰な警戒心、刺激への過敏反応、フラッシュバックなどはないことが多い。PTSD解離トラウマに関連した直接的な刺激で起こるが、境界性パーソナリティ障害の解離状態は一般的なストレス下で起こる。

一方で過去の外傷体験が主要な病因になっている一群も存在するとし、外傷性精神障害として捉えようという動きもある。PTSDの研究で知られるアメリカの精神科医ジュディス・ハーマンはその著書の中で、境界性パーソナリティ障害は複雑性PTSDであると述べている[54]。なおDSM-IVには複雑性PTSDに該当する診断項目はない。

患者の現在の症状と心的外傷を早期に結びつけることが、治療上の陰性反応を避けられるかは結論が得られておらず、慎重な取り扱いが要求される[55]

解離性障害(DD)・解離性同一性障害(DID)

境界性パーソナリティ障害の患者で解離性障害(DD)の診断基準を満たす者は73%といわれており[56]、境界性パーソナリティ障害の患者で解離性障害と診断することが可能な患者は多い。また解離、離人、分割投影(投影同一視)は類似概念であるが、境界性パーソナリティ障害に離人症性障害がみられることもある[57][20]。しかし解離性障害の患者のパーソナリティの傾向としては、回避性、自虐性、妄想性スキゾイド失調型、受動攻撃性、または境界性など、多様で複合的であり、解離性障害と境界性パーソナリティ障害を同一疾患とするには無理がある[58]

解離の表れにも相違がある。境界性パーソナリティ障害では解離は、ストレス下において出現する防衛機制の一部であり一過性であるが、解離性障害では主軸にある症状であり持続的・反復的である[注 12]。また解離性障害では見捨てられ不安もない[59]

解離性同一性障害(DID)は以前は多重人格障害といわれていたもので、解離性障害の中で最も症状が重いものである。アメリカでは解離性同一性障害の35 - 71%が境界性パーソナリティ障害の診断基準を満たすというデータがある[60]。反対に、境界性パーソナリティ障害の解離性同一性障害の罹患率に関する報告はほとんどない。解離性同一性障害は症状が複雑であり診断には困難を伴うためである[11]

解離性同一性障害は、自己同一性の拡散、不安定な情動統制、リストカットなどの自己破壊的行為、対人関係の障害等があり[61]、一見して境界性パーソナリティ障害と似ているため誤診されることがあるが、その他にも統合失調症、神経症性うつ病と診断されることもあり、概ね診断がくだるまでは数年かかることが多い[62]。正しい診断がなされるまで発症後平均6 - 7年の歳月を要したとする報告もある[63]

解離性障害と境界性パーソナリティ障害では、女性の罹患者が多い、心的外傷体験の既往率が高いことが共通している[62]。クラリーは解離性障害は境界性パーソナリティ障害の特殊な一形態であるとし[64]、ハーマンは外傷性精神障害として同じカテゴリーに分類するなど、ほぼ同一の障害とみなす研究者もいる。解離性障害と境界性パーソナリティ障害の合併例は、片方のみ症例に比べ治療はさらに困難となる[11]

その他のパーソナリティ障害

自己愛性パーソナリティ障害
境界性パーソナリティ障害では、対人関係において支持への要求を顕著にあらわすが、自己愛性パーソナリティ障害の場合はそれよりも巧妙な手段を用いることが多い。自身を否定された時に対する過敏性は共通している。境界性パーソナリティ障害は情緒が極端で、対人関係の安定性が低いのに対し、自己愛性パーソナリティ障害はより安定し持続した関係を持つことができ、尊大であり自己評価も高い[65]
反社会性パーソナリティ障害
境界性パーソナリティ障害が反社会的行動をとった場合は恥や呵責、不安を感じることが多い。一方、反社会性パーソナリティ障害の人が後悔する場合は、自分自身にもたらされた結果においてのみであり、不安も感じない。
統合失調質パーソナリティ障害
境界性パーソナリティ障害の感情の平坦さは抑うつとともに現れる状態様であるが、統合失調質パーソナリティ障害の感情の平坦さは性格的なもので恒常性がある[66]。薬物の乱用率も低い。
演技性パーソナリティ障害
演技性パーソナリティ障害の方が、全体的な機能水準が高く、対人関係や自己像の安定性が高い。自己破壊的な行為はあまりない[67]

原因

概要

先進国や都市部に多い


近年の研究結果から、次のものが原因として考えられている。

左画像、向かって左側が前頭前野(脳の前部分) 2つある赤い部分は扁桃体
脳の縦の断面図。下側に見える濃い灰色部分が扁桃体、紫部分が海馬

生物学的要因

いくつかの生物学的研究では、発生的、神経学的、生物学的な可能性を示唆している。ある研究では一親等が境界性パーソナリティ障害である場合が、一般母集団より5倍高かった。環境の関与も否定できないが、発生的要因ともとらえることが出来る。1980年代の研究では、境界性パーソナリティ障害の親は統合失調症が少なく、気分障害の頻度が高いとしている[68]

境界性パーソナリティ障害の際立った症状は、基底に生物学的基質を有するとされる[69]。情緒の不安定性、抑うつは脳のアドレナリンコリン作動性の異常に関連し、一過性の精神病性エピソードはドパミン、自傷や自殺企図などの衝動的攻撃的行動はセロトニンの異常であるとされる研究がある[70][71][72][73]

またうつ病のなどの気分障害の患者では、モノアミンの分解された代謝産物が血液髄液で異常高値を示すという所見があるが、境界性パーソナリティの障害の患者でも同様に、5-HIAA(セロトニンの代謝物)、HVA(ドパミンの代謝物)が高値を示したという研究がある[74]

さらに多くの神経心理学的研究や脳機能画像研究によって、境界性パーソナリティ障害における大脳皮質前頭前野機能の低さが指摘されている。前頭前野の機能の低さは、不安や攻撃性などの情動コントロール、思考の柔軟性、共感性に関係しているとみられている[75]MRIによる脳画像では、海馬扁桃体が一般の人よりも小さかったという報告もある[76]

扁桃体には不安感や恐怖心を生み出す機能がある。機能的磁気共鳴画像法fMRI)を用いた研究では、患者の扁桃体の過敏性が示され、人の顔の表情を用いた検査では、表情の出現に対し左扁桃体の過活動がみられた。また正常群に比べ、感情を表していない中立の顔を「脅すような表情である」と認識していた[77]

境界性パーソナリティ障害の患者は自傷行為を習慣的、嗜癖的に行う際、不安や痛みなどの不快反応を感じにくいことが知られているが、脳機能のレベルでも痛みに対する体性感覚野の反応が低いこと、自傷行為により、不安を生み出す性質を持つ扁桃体の反応が一時的に抑制されることが示されている[78]

また40%において脳波上、非局在性の機能不全を示す異常な広汎性徐波がみられるという研究もある[79]

環境的要因

アメリカの調査では、境界性パーソナリティ障害の患者の91%が小児期の外傷体験を持っていた[80]。小児期における養育者からの早期の分離や、ネグレクト[注 13]などの虐待経験が多いとする研究もある[81]。成人の場合はパートナーからの性的暴力などのドメスティックバイオレンスを受けている人に有意に多かった[82]。また、日本での調査でも小児期の虐待は多くみられ、ある調査では身体的虐待33%、性的虐待51%、情緒的虐待68%であった。他のエピソードとしては養育者の過保護もあった[83]

境界性パーソナリティ障害の患者の家庭にはいくつかの特徴がみられる[58]。多くの患者は18歳までにどちらか(または両方)の親との一定期間あるいは長期の分離体験をしている[84][85][86]、父親が不在または家族に対し関心が薄い[87]、親のネグレクト的または支配的・過干渉、過刺激的であり共感的でない養育態度である[88][89][90]

小児期の虐待が患者の精神病理形成に関与しているかどうかは様々な見解がある。患者の性的虐待の既往率が高いのは特異的であるが、境界性パーソナリティ障害が女子に多く発症することを考えても、性的外傷との関連性は想像に難くない。ザナリーニの調査では、性的虐待の既往がある患者は約半数ほどであり、虐待の外傷体験が主要な要因となっている一群があるとし、また虐待が生まれやすい複雑な家庭環境の影響も指摘した[91]。一方ガンダーソンは虐待が症状を生み出すのは、ネグレクトなど両親との持続する過度の葛藤があった場合のみとし、そのようなケースでは、環境に対する適応として症状が現れていると述べた[92]。その他の研究者も虐待などの小児期の環境要因のみが病因にはならないとみている[58]。これは虐待を受けた者の全てが境界性パーソナリティ障害を発症するわけではない点からも明らかであり、過去の心的外傷との関連に関しては、慎重な解釈が要求されるだろう。

対処

概要

アメリカの境界性パーソナリティ障害の治療では中断率が高い。ガンダーソンの調査では、半年間での中断率は患者の50%、一年では75%だとし、他の障害と比べ初期から終結まで一貫して治療する例は少なく、10%程度だった。日本での統計は少ないが、中断率14.9%、治癒率は18.4%、不変ないし悪化が33.3%との報告があり、精神科通院患者の中でも特別に中断率が高いというわけではない。この違いはアメリカ日本の医療システムの差異による部分もあるが、日本の患者の場合、発症の環境要因として虐待よりも過保護のケースが多く、より依存的な性質をもつためとの説もあり、治療の継続のしやすさの面では有利であるが、一方では日本独自の精神療法を考慮する必要性もでてくる[93]。また、より中断率が高いのは性的外傷を持つ患者に多いとする報告もある[94]

治療は精神療法と薬物療法を併用することが多い。なお、日本に80ある大学医学部のうち精神療法を得意としている大学はわずか数件しかなく、ほとんどが生物学的な研究を主体としている[95]

深刻な自殺企図などの衝動的行動、他害の危険、精神病症状や他の合併症(うつなど)が重篤な場合、外来治療に反応しない例では短期入院の適用となる[96]

薬物療法

気分安定薬。写真はデパケンR(デパケンの徐放剤)
非定型抗精神病薬。ジプレキサ ザイディス(口内崩壊錠)

現在境界性パーソナリティ障害に対して保険適応のある薬剤はない。薬物は主に付随する症状の緩和の為に使われる。薬物は自殺関連行動、自傷や他害などの急性症状には最も有効であるが、維持的に使った場合は限定的な効果しかないとする意見もある[97]

英国国立医療技術評価機構では2009年のガイドラインにて、エビデンスが弱くかつ薬物治療による副作用が深刻であるため、BPDの治療では「BPD・個人の疾患・行動の疾患に対して薬物治療はすべきではない(should not)」しかし「併存疾患の全体的治療という点では薬物治療も考慮することができる」とし、 「精神的・肉体的に併存疾患のないBPD患者と現在薬を処方されている患者に対しては、投薬量を削減し不必要な薬物治療を打ち切る方向で見直すべきである」と定めている[98]

米国精神医学会では、副作用の少なさなどの観点から、第一選択は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を推奨している。SSRIは主に抑うつや情緒不安定性の症状に有効である。モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO)もそれらの症状に効果的だが重篤な副作用がある[注 14]。著功しない場合は他の抗うつ薬への切り替えが考えられるが、三環系抗うつ薬は衝動性にはマイナスになる場合がある。炭酸リチウム(商品名 リーマス)での強化も考慮される。低容量の抗精神病薬の使用は、怒りや認知・知覚症状などの精神病症状に有効である。場合により抑うつへの効果も期待できる。バルプロ酸(デパケン)などの抗てんかん薬類も第二選択である。解離にはナルトレキソン(本邦未発売)、不安の症状にはクロナゼパム(リボトリール)の追加も考えられる[99][注 15]

1966年から2010年までのメタアナリシス(研究結果を分析したもの)では、抗てんかん薬などの気分安定薬抗精神病薬に衝動性制御効果、情緒不安定性への効果が示され、また抗精神病薬に関しては認知・知覚症状への有効性も認められた。抗うつ薬はそれらの症状に効果は無く、情緒不安定性にのみ有効という結果になった[100][101][注 16]。また、ω-3脂肪酸による衝動性や抑うつ改善効果についても研究されている[102][103][注 17]

これらの薬物療法は、抑うつや感情抑制、認知・知覚の障害や妄想様観念には一定の効果があるが、慢性的な空虚感、見捨てられ不安などには効果がないとされ、患者により治療法は一律ではない。過量服薬の危険性を考慮すると、より安全性が高く依存性が少ない薬剤の選択、および少量で最大の効果が望める薬物療法が薦められる。なお抗精神病薬に関しては専門家の間でも、統合失調症と同じ容量ではなくごく少量を投与するべき、という意見の合意が得られている。副作用や安全性の観点からは定型抗精神病薬よりも非定型抗精神病薬の使用が適している。副作用に対し敏感な患者も多いため、事前に詳細な説明をすることは不安に軽減に繋がる[104]

また境界性パーソナリティ障害の薬物療法は、症状の緩和作用以上の深い意味を持つとの見解もある。薬物への意識または無意識的な「投影」である。それは患者が過量服薬する際、大半は他者から与えられる処方薬によって行われることにも表現されている。重要な他者(医師を含む)の存在の拒絶や受け入れ、一体感の切望または敵意による過量服薬など、意識・無意識的な他者への「投影」が投薬治療に様々な意味を持たせているという。治療者も自身の能力に対する不安感を、患者に薬を与えることで解消しようとしていないか省みる必要があるだろう[104]

精神療法

主な治療法となるのが精神療法である。精神療法は、精神力動的精神療法(支持的精神療法など)や、その一派である精神分析的精神療法、認知療法、対人関係療法、家族療法など様々なものがある。精神療法の効果が出るに概ね一年以上の長期間がかかる。アメリカ1991年に自殺行為の治療の為に開発され、境界性パーソナリティ障害の治療に応用されている認知行動療法の一種、弁証法的行動療法(DBT - Dialectical Behavior Therapy)は新しいアプローチとして日本でも関心が高まってきている[105]。またイギリス1999年にベイトマン、フォナギーにより開発されたメンタライゼーション療法(Mentalisation Based Treatment - MBT)[106]は弁証論的行動療法と共に、現在最もエビデンスのある精神療法である。

伝統的な力動的精神療法、支持的精神療法などの精神力動的治療では、治療開始から18週後には、対人関係の改善、自尊心や人生への満足などが生まれ、8ヵ月後にも治療成果が維持された[107]。精神分析的精神療法についても、12か月 - 18か月の治療で、自傷行為や自殺企図、入院期間の長さ、不安、抑うつ、全体の適応性が有意に改善したという結果が出ている[108][109]認知療法に関するデータは少ないが、アメリカ国立衛生研究所のデータでは16週間の治療後の比較では、対人関係療法に優るとの結果が出ている[110]。弁証法的行動療法でも短期での改善は得にくいが、治療開始後1年以上の経過では、社会適応や仕事の実績の向上、怒りまたは不安や動揺の減少が見られた[111]。また弁証法的行動療法は他の治療法に比べ継続率も高いという[112]

これらの精神療法は、1時間ほどの面接を週1 - 2回、弁証法的行動療法では1回50分から90分の面接を週1 - 2回、150分のスキルトレーニングが1回、さらに電話によるコンサルテーションなどの手厚い治療体制であり、日本においては保険診療内に収まらず広く普及することは困難との見方もある。しかしイギリスで開発されたメンタライゼーション療法(MBT)は週2回の外来治療やデイケア、集団療法で行うことが出来、導入のしやすさと確実な効果で注目を集めている[113][114]

精神分析的精神療法は一定の効果が示されているが、一部では古典的な精神分析は自己否定感を強めるとして、境界性パーソナリティ障害の治療に有益でないとする意見も存在する。メンタライゼーション療法を開発した精神分析家フォナギーは、メタファーの解釈などの従来の精神分析的な関わり合いは、かえって他者の心情を理解しにくい境界性パーソナリティ障害の患者を混乱に陥れ、病理を助長させると苦言した。弁証法的行動療法の創始者であるリネハンも、患者を中傷する可能性を持ち、辛いトラウマの再現となりうる解釈については批判しており、症状を悪化させると述べている[115][116]

精神療法の種類

ファイル:Grouptherapy.jpg
グループセラピー(集団精神療法)をする人達

精神療法では患者を「クライエント(client)」と呼ぶ。
境界性パーソナリティ障害の個々のクライエントにどのような精神療法が合っているかは個人により違いがある[117]

  • 精神力動的療法 - 精神分析的精神療法、支持的精神療法など
  • 認知療法、認知行動療法(CBT) 
  • 認知分析療法(CAT) - 認知療法と精神分析を統合したもの
  • 家族療法
  • 対人関係療法(IPT)
  • 集団精神療法
  • その他 - デイケアなど
  • それらを組み合わせたもの - メンタライゼーション療法(MBT)、弁証法的行動療法(DBT)など
精神力動的療法

フロイトを開祖とする精神分析では、カウンセラーとクライエントの関係を利用し、クライエントが自身がまだ認識できていない無意識の葛藤を認識させる。境界性パーソナリティ障害では発達早期に外傷を経験をしていると考え、カウンセラーの解釈によりクライエントの自己洞察を促し、本来の自我状態を取り戻すことを目的とする。時代を重ね、フロイトの理論への批判や修正を伴い、精神分析も少しづつ様相を変えてきており、現在では「精神分析的精神(心理)療法」は精神分析の基本的概念を取り入れたカウンセリング全般を指すことが多い。

幼少時や過去の問題に焦点を当てた古典的精神分析と違い、力動精神療法では「here and now(今・ここ)」に焦点を当て、現在のストレスを問題にする。カーンバーグの手法「表現的心理療法(expressive psychotherapy)」は最も精神分析に近い。カーンバーグは境界性パーソナリティ障害の病理は、分裂(splitting)が一番の問題であると考え、分裂や怒りの感情の分析をすることで認知(考え方のパターン)を修正していく。またマスターソンは、境界性パーソナリティ障害の環境要因に焦点をあて、発達停止が根本に存在するとし「見捨てられ感」を分析して成熟を促し、個人のパーソナリティを再構築することを目的とした「再構築療法(reconstuctive psychotherapy)」を提案している。

支持的精神療法では、解釈や直面化はせず、クライエント自身の治癒力を支持し問題解決と現実適応を重視する。ガンダーソンの手法でも古典的な精神分析は退け、自身の不安定さ、否定的な自己感や自我違和感、衝動的な感情や低い達成能力などを、探求療法という形で支持的、時に分析的療法を用いて臨機応変に対応していく[118]

認知療法・認知行動療法

認知療法1970年代に誕生して以来改善が積み重ねられ、現在では行動療法的な技法と組み合わせて用いられることが多く、広義には認知行動療法と同義語となっている[119][120]

アーロン・ベックアルバート・エリスにより提唱された認知療法は、元々はうつ病に適応されたものであったが、その後不安障害など他の精神疾患にも広く施されるようになり、パーソナリティ障害にも大きな成果を上げることとなった。認知療法は、境界性パーソナリティ障害のクライエントが、二分法的思考法から中間的あるいは多角的に物事を捕らえられるようにする認知を獲得することを目的にしている。詳細な治療目標を設定しつつ、クライエントが感情や行動を自身で冷静かつ客観的に評価し、適切な思考が出来るようなるのが目標である。

リネハンの弁証法的行動療法(DBT)でも、感情制御技術の獲得、欲求不満耐性の強化、スムーズな対人関係の構築能力の向上などを目標とする。境界性パーソナリティ障害は元来感情不全などの生物学的な特性を基盤に持つとし、置かれている環境的因子を念頭に置き治療に取り組んでいく。行動を起こす前にその行動を起こした際にどのような結果になるかを十分に考え行動の選択を決定できるようにする、不全感の解消、外傷体験の癒しの手助けなど、クライエントが自身で危機を乗り切って行くための全体のスキルの向上を目指していく[118][121]

家族療法

家族療法の起源は1940年代 - 1950年代にかけて、アメリカのベル(Bell.J)が行った合同面接が起源とされている。その後全米各地で様々な形で発展していった。日本でも1960年代から導入されている[122]

家族療法では、個人の問題を家族システム全体の問題としてとらえる。家族療法ではクライエントはIP(Identified Patient - 患者とみなされる人)と呼ばれる。IPは家族の代表として、問題を症状という形で表出しているとし、家族という集合体のシステムに変化を起こすことで改善を促すことを目的としている。したがって家族療法では、IPの人格変容を目標とはせず、家族の機能の健全さの回復を目指し、その結果としての症状消失を目指す[122][120][123]

集団精神療法

いわゆるグループセラピーである。複数のクライエントとセラピストとが共同で行う。心理療法家などの権威者よりも仲間からのアドバイスのほうが容易に受け入れやすい、恐怖を感じにくいなどの良い側面があり、また複数の人間がかかわることで転移反応などを軽減させるメリットもある。行動パターンが硬直化しているクライエント、他者に反抗的、万能感の強いクライエントには向かない[124]

境界性パーソナリティ障害の有名人

太宰治(1909 - 1948)

過去(または現在)境界性パーソナリティ障害だったとされる有名人は、ヘルマン・ヘッセ太宰治ダイアナ妃マリリン・モンローウィノナ・ライダー[125]ブリトニー・スピアーズ[126]、弁証法的行動療法を開発した、心理学者マーシャ・リネハンがいる。

太宰治は慢性的な虚無感や疎外感を抱えていた。安定している時期は自己愛的性格だったが、不安定時は感情統制が困難であったとされ、芥川賞を逃した時の怒りは常軌を脱していたという。感受性が強く、なおかつ高い知能を持っていた太宰がパビナール依存に陥ったのはごく自然な成り行きだったのかもしれない。また離人感や自殺念慮も有しており、自殺(心中)未遂を繰り返し5回目で自殺完遂に至った。28歳の時には精神科病院である、江古田の東京武蔵野病院へ入院している[127]

マリリン・モンローも、7回に及ぶ自殺未遂を繰り返し、薬物の過量服薬で死去した。母子家庭であったが、母親はうつ病で何度も精神科病院に入院しており、孤児として育てられたモンローは、愛情に飢えていたが他者との親密な関係を保ちにくかったといわれる。睡眠薬アルコールの依存症になり、1954年から精神分析医による治療を受けている。主治医はモンローについて「いつも自分を価値のないつまらない人間だと思っていた」と振り返る。死の数日前のインタビューでは、女優としてのこれからの抱負を語り、「世界が必要としているのは本当の意味での親近感です。どうぞ私を冗談扱いにしないで下さい」と述べている[128][129]

境界性パーソナリティ障害で入院歴もあるウィノナ・ライダーは、主演・制作総指揮をした映画「17歳のカルテ」で、境界性パーソナリティ障害の主人公スザンナ役を演じている。映画の原書となったノンフィクション小説 「思春期病棟の少女たち」 に惚れ込んだ彼女は、映画化権を買い取り制作にも参加した。原作者のスザンナ・ケイセンは、10代の頃に境界性パーソナリティ障害と診断されたが、治癒した後に作家になり同自伝的小説を書いた[130]。スザンナは現在でも小説家として活動を続けている。

なお、ウィノナ・ライダーは「バカに見える」という理由で元来ブロンドである髪を黒く染めており、女優業については長い間、軽薄で恥ずかしい仕事だと思っていたという[131]

ダイアナ妃もリストカットなどの自傷行為、過食嘔吐の摂食障害を克服した人物として知られている。特に王妃として公人生活を送るようになってからは、衆人の目に晒されるストレス、夫婦間の諍いにより摂食障害が悪化し、剃刀やレモンスライサーで体を切ったり[注 18]、夫のチャールズと口論中にテーブル上にあったペンナイフで自分の胸や腿を刺すなど衝動的な行動を取る事もあった。慢性的なうつ状態もあり、大勢の心理療法士心理学者、精神分析医にかかっていた。後年のダイアナはチャリティー活動に生きがいを見出し、対人地雷の廃絶、ホームレスエイズ患者、暴力被害や薬物依存症の女性問題に取り組むなど、既存の枠に捕らわれない奉仕活動を行い、「病んでいる人、苦しんでいる人、虐げられた人とともに歩んでいる」と称えられ、世界中で愛された[132]

弁証法的行動療法を開発したワシントン大学博士マーシャ・リネハンは、17歳の時にひきこもりとなり精神科病院に入院した。当初の診断名は統合失調症であった。薬物療法を受け始め、その後何時間ものフロイト式精神分析や30回に及ぶ電気けいれん療法も行ったが症状は改善せず、自傷行為の激しさの為に2年以上も入院生活を送り、退院後も自殺未遂を起こした[注 19]。退院後は保険会社事務員として働きながら、ロヨラ大学[注 20]の夜間部に通い心理学を勉強し、1971年博士号を取得。現在でも心理学者として第一線で活躍している[112]

注釈

  1. ^ 名称を大幅に変更しようという動きもある。( 林直樹 (2007/11)
  2. ^ 神経症は心因性の病気を指す。現在では○○障害と呼ばれることが多い。精神病は内因性の病気を指し、ここでは主に統合失調症(当時の精神分裂病)を指す。
  3. ^ 操作的というのはあくまで一方側からみた側面であり、操作される対象があってはじめて成り立つ。岡野は操作される側にも問題があるとし、余裕のない人間ほど操作されやすく、また、操作されていると感じやすいと述べている。( 岡野憲一郎 (2010)
  4. ^ そのほかにもマスターソンが発達停止論を元に、低機能型、高機能型という分け方をしている。( ジェームス・F・マスターソン、アン・R・リーバーマン (2007)
  5. ^ 自己や自分の身体に現実感がなく夢のよう、他人のように感じる、遊離している、離れた所から傍観している、声が奇妙に聞こえるなどの感覚。転換性障害、てんかんの部分発作、正常人でもストレスによって起こることがある。( 下山晴彦 (2009)
  6. ^ パラノイド。理路整然とした妄想を抱き続けるなど、複雑で論理だった系統のもの。( 稲富正治 (2005) )
  7. ^ 「解離」とは記憶、思考、感情、行動といった体験の統合が失われた状態。( 下山晴彦 (2009)
  8. ^ そのほか、アメリカの統計では白人より非白人に有意に多い。( Swartz,M., et al (1990) )
  9. ^ 精神科医の笠原は 「医師という仕事は少し経験を積むと、診察室の癖が身について、相手を少々見下す姿勢になりやすい」 と述べている。治療者の高圧的な態度により「BPD的な反応」を引き出している可能性がある。( 笠原嘉 (2007)
  10. ^ 1990年代からアメリカのマサチューセッツ州にあるマクリーン・ホスピタル英語版で Maclean Study for Adult Developmnet と呼ばれる多大な費用を投じた大規模なBPD研究が行われており、現在も続けられている。この長期予後はその研究の中からの報告である。( 藤内栄太 (2010) )
  11. ^ ザナリーニは、その他の寛解しやすい人の傾向として、性的虐待の既往がない、物質依存の家族歴がない、適切な職務経験がある、回避性・依存性・強迫性パーソナリティ障害を併発していない、低い神経症傾向、愛想の良さ、などを上げている。( Zanarini,M.C.,(2006) )
  12. ^ カーンバーグは人格構造論の分類では、解離性障害では神経症性人格構造を有し、境界性パーソナリティ障害では境界性人格構造を持つとした。また境界性パーソナリティ障害で中心にある防衛機制は分裂(splitting)、解離性障害は抑圧(repression)である。( ジェームス・F・マスターソン、アン・R・リーバーマン (2007)
  13. ^ 「neglect(無視をするの意)」。子供に身体面、医療面、教育面、情緒面で必要不可欠なものを与えないこと。心理的ネグレクトは心理的虐待の一種である。( メルクマニュアル 家庭版,228章 児童虐待とネグレクト )
  14. ^ モノアミン酸化酵素阻害薬は現在日本ではうつの治療には使われない。SSRI は飲み始めのアクチベーション・シンドロームに注意したい。( 平島奈津子、野口堅吾 (2010) )
  15. ^ クロナゼパムはベンゾジアゼピン系薬剤だが抗てんかん薬である。ベンゾジアゼピンは不眠の治療や、不安などの症状に使用される。( 中外製薬,2010
  16. ^ ここでは「affective」を「情緒」と訳した。類似の表現としては「情緒・感情(emotion)」「気分(mood)」などがある。
  17. ^ ω-3(オメガ3)脂肪酸。サバ、ニシン、イワシなどの青魚、キャノーラ油、クルミ、亜麻の実などに多く含まれる。All about 健康・医療 「オメガ-3脂肪酸は魚と野菜から」
  18. ^ イギリスでよくあるLemon slicerは、放射線状の歯が設置されており、レモンをくし型に切るものである。なお実際にどのような形状であったかは不明である。
  19. ^ リネハン博士はこの時の経験からトラウマになりうる分析についての批判をしている。博士が入院していた1960年代前半は、まだロボトミー手術が行われていた時代でもある。( The Newyork times,2011-06 )
  20. ^ ロヨラ大学米国イリノイ州シカゴルイジアナ州ニューオーリンズメリーランド州にあるカトリック系大学。フィクション作品では、プリズン・ブレイクの主人公マイケルが「ロヨラ大学出の秀才」という設定である。

出典

  1. ^ a b c d 2011年3月3日 NHKクローズアップ現代 「境界性パーソナリティ障害」
  2. ^ a b c d 上里一郎、織田尚生 (2005)
  3. ^ Klein,D.(1975):Psychopharmacology and the borderline patient.In:Mark,J.E.(ed):Borderline states in psychuatry.p75-92,Grune&Stratton,
  4. ^ Gunderson, J. G., Weinberg, I., Daversa, M.T.et al. (2006). “Descriptive and longitudinal observations on the relationship of borderline personality disorder and bipolar disorder”. Am J Psychiatry. 163: 1173–1178. http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?articleID=96790&atab=7. 
  5. ^ 小羽俊士 (2009) p199
  6. ^ 岡野憲一郎 (2006)
  7. ^ メラニー・A・ディーン (2005) p10
  8. ^ 林直樹 (2011) p40 - 41
  9. ^ メラニー・A・ディーン (2005) p11 - 12
  10. ^ 町沢静男 (2005)
  11. ^ a b c 林直樹 (2007/11)
  12. ^ Kemperman (1997). “Self-injurious behavior and mood regulation in berderline patients.”. Jornal of Personality Disorder 11 (2): 146-157. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9203109. 
  13. ^ Paris,Joel (1990). “Completed suicide in borderline personality disorder.”. Psychiatric Annals 20 (1): 19-20. 
  14. ^ Stone,M.,Hurt,S.W.,&Stone (1978). “The PL 500:Lomg-term follow-up of borderline inpatients meetimg DSM-III criteria.I.Global outcome.”. Journal of Personality Disorders 1 (4): 291-298. 
  15. ^ 渡辺雅幸 (2007)
  16. ^ 林直樹 (2008)
  17. ^ 松本俊彦 (2009)
  18. ^ 林直樹 (2007/10)
  19. ^ 杉原一昭、渡辺映子、勝倉孝治 (2003)
  20. ^ a b 福島章、村瀬孝雄、山中康裕 (1990)
  21. ^ Kernberg,O.(1975).Borderline conditions and pathological narcissism. New York:Aronson.
  22. ^ Cold(2003),Widigerとrogers(1989),Vita.Aら(2011)
  23. ^ American Psychiatric Accociation.(1987).Diagnostic and statistical manual of mental disorders (3rd ed.,rev.ed).Washington,DC:Author.
  24. ^ Swarts,M.,Blanzer,D.,George,L,&Winfield,I (1990). “Estimating the prevalence of borderline personality disorder in the community”. Journal of Personality Disorders 4 (3): 257-272. 
  25. ^ メラニー・A・ディーン (2005) p4
  26. ^ 阿保順子、犬飼直子 (2007)
  27. ^ American psychiatric Association (1994). “Diagnostic and statistical manual of mental disorder.(4th ed.)”. Washington,D.C Amrican Psychiatric Association. 
  28. ^ Kroll,Carey,Sines,and Rothe (1982). “Are thereborderlines in Britain? A cross-validation of U.S. findings.”. Journal of Personality disorders. 5 (3): 225-232. 
  29. ^ 岡野憲一郎 (2010)
  30. ^ a b Zanarini,M.C., Frankenburg,F.R.,Hennen,J. et al (2003). “The longitudinal course of borderline psychopathology: 6-year prospective follow-up of the phenomenology of borderline personality disorder.”. Am J Psychiatry 160: 274-283. http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?articleID=176026. 
  31. ^ 林直樹 (2011) p48 - 49
  32. ^ 小羽俊士 (2009)
  33. ^ Paris,J (2002). “Implications of long-term outcome research for management of with borderline personality disorder.”. Harv Rev Psychiatry 10: 315-323. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12485978. 
  34. ^ Zanarini,M.C., Frankenburg.F.R.,Reichi,D.B. et al (2010). “Time to attainment of recovery from borderline personality disorder and stability of recovery: a 10-years prospective follow-up study.”. Am J Psychiatry 167: 663-667. http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?Volume=167&page=663&journalID=13. 
  35. ^ 藤内栄太「長期予後と治療可能性」『こころの科学』第154巻、2010年11月、63-67頁。 
  36. ^ Zanarini,M.C., Frankenburg,F.R.,Hennen,J. et al (2006). “Prediction of the 10-year course of borderline personality disorder.”. Am J Psychiatry 163: 827-832. 
  37. ^ Clarkin,J.E,Widiger,T.A.,Frances,A.,Hurt,S.W.,& Gilmore,M. (1983). “Prototypic typology and the borderline personality disorder.”. Journal of Abnormal Psychology 93: 263-275. 
  38. ^ Gunderson,J.G.,Zanarini,M.C.,&Kisiel,C.L. (1991). “Borderline personality disorder: A review of data on DSM-III-R descriptions.”. Journal Personality Disorders 5: 340-352. 
  39. ^ Grantらによる米国における一般人口に対する大規模な疫学調査の所見(2009)
  40. ^ Zanarini MC, Frankenburg FR, Dubo ED, et al. (December 1998). “Axis I comorbidity of borderline personality disorder”. Am J Psychiatry. 155 (12): 1733–9. PMID 9842784. http://ajp.psychiatryonline.org/cgi/content/full/155/12/1733. 
  41. ^ 小羽俊士 (2009) p59,p73
  42. ^ G・O・ギャバード (1997)
  43. ^ Doyle TJ, Tsuang MT, Lyons MJ.(1999)Comorbidity of depressive illnesses and personality disorders. In: Tohen M, editor. Comorbidity of Affective Disorders. New York: Marcel Dekker,
  44. ^ 広瀬徹也「境界性人格障害と双極 II 型障害をどう見極めるか」第5巻第2号、Bulletin of Depression and Anxiety Disorders、2007年9月。 
  45. ^ Akiskal HS. (1981). “Subaffective disorders:dysthymic, cyclothymic and bipolar II disorders in the "borderline" realm.”. Psychiatr Clin North Am 4: 25-46. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7232236. 
  46. ^ Akiskal HS. (1983). “The bipolar spectrum: new concepts in classification and diagnosis. In: Grinspoon L, editor.”. Psychiatry Update. Volume 2. Washington DC: American Psychiatric Press. 
  47. ^ 秋山剛、酒井佳永、松本聡子 (2007)
  48. ^ 岡田俊「青年期の広汎性発達障害における併存障害とその介入」『日本精神神経学会学術総会 特別号』第106巻、2011年。 
  49. ^ Henrik Anckarsäter et al (7 2006). “The Impact of ADHD and Autism Spectrum Disorders on Temperament, Character, and Personality Development”. Am J Psychiatry 163: 1239-1244. http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?Volume=163&page=1239&journalID=13. 
  50. ^ 中村由美子「広汎性発達障害と境界性パーソナリティ障害 (特集 再びアスペルガー症候群をめぐって--成人の症例を中心に)」『臨床精神医学』第39巻第9号、2010年、1231-1236頁。 
  51. ^ 常包知秀、岡田俊、高橋涼子、西井真希「境界性パーソナリティ障害と診断されていた特定不能の広汎性発達障害」『病院・地域精神医学』第51巻第1号、2008年10月、34-36頁。 
  52. ^ a b 岡野高明、高梨靖子、宮下伯容 他成人におけるADHD,高機能広汎性発達障害など発達障害のパーソナリティ形成への影響 ― 成人パーソナリティ障害との関連 ―」『精神科治療学』第19巻第4号、2004年4月、433-442頁。 
  53. ^ Swartz M,Blazer D,George L et al (1990). “Estimating the Prevalence of Borderline Personality Disorder in the Community.”. Journal of Personality Disorder 4: 257-272. 
  54. ^ ジュディス・L・ハーマン (1999)
  55. ^ 河合隼雄、空井健三、山中康裕 (2000)
  56. ^ Sar V,Akyuz G,kugu N et al (2006). “Axis I Dissociative Disorder Comorbidity in BorderlinePersonality disorder and Reports of Childhood Trauma.”. Journal of Clinical Psychiatry 67: 1583-1590. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17107251. 
  57. ^ Chopra,H.D. and Beatson,J.A (1986). “Psychotic Symptoms in borderline personality disorder.”. American Journal of Psychiatly. 143: 1605-1607. 
  58. ^ a b c 細澤仁 (2008) p67 - 68、p72 - 73、p78
  59. ^ 牛島定信 (2011)
  60. ^ Gleaves,D.H. (1996). “The socio-cognitive model of dissociative identity disorder: a reexamination of the evidence.”. Psychol Bull 120: 42-59. 
  61. ^ Marmer SS, Fink D. (1994). “Rethinking the comparison of borderline personality disorder and multiple personality disorder.”. Psychiatr Clin North Am 17: 743-771. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7877901. 
  62. ^ a b 岡野憲一郎 (2009) p54、p94
  63. ^ 柴山雅俊 (2006) p30 - 42
  64. ^ Clary WF, Burstin KJ,Carpenter JS (1984). “Multiple Personality and BOrderline Personarity Disorder.”. Psychiatric Clinics of North America 7: 89-99. 
  65. ^ Elsa Ronningstam and John Gunderson (1991). “Differentiating Borderline Personality Disorder from Narcissistic Personality Disorder.”. Journal of Personality Disorders 5 (3): 225-232. 
  66. ^ Antonis Kotsaftis,John M. Neale. (1993). “Schizotypal personality disorder I”. The clinical syndrome. Clinical Psychology Review 13 (5): 451-472. 
  67. ^ Ballack,A.s.,&Herson,M.(1990).Handbook of comparative treatment for adult Disorders.New York;John Wiley&sons.
  68. ^ Soloff,P.H.,& Millward,J.W. (1983). “Developmental histories of borderline patients.”. Comprehensive Psychiatry 24: 547-588. 
  69. ^ Hirschfeld,R.M (1997). “Pharmacotherapy of borderline personality disorder”. Journal of Clinical Psychiatry 58 (suppl 14): 48-52. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9418746. 
  70. ^ Coccaro,E.F.&Kavoussi,R.J. (1991). “Biological and pharmacological aspects of borderline personality disorder”. Hospital and Community Psychiatry 42 (10): 1029-1034. http://ps.psychiatryonline.org/article.aspx?articleid=75424. 
  71. ^ Steinberg,B.J.,Trestman,R.,Mitropoulou,V.,Serby,M.,Silverman,J.,Coccaro,E.,Weston,S.,De Vegvar,M.,&Siever,L.J. (1997). “Depressive response to physostigmine challenge in borderline personality disorder patients.”. Neuropsychopharmacology 17 (4): 264-273. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9326751. 
  72. ^ Hirschfeld,R.M (1997). “Pharmacotherapy of borderline personality disorder”. Journal of Clinical Psychiatry 58 (suppl 14): 48-52. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9418746. 
  73. ^ Coccaro,E.F. (1998). “Clinical outcome of psychopharmacologic treatment of borderline and schizotypal personality disorder subjects.”. Journal of Clinical Psychiatry 59 (1). http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9448667. 
  74. ^ Chotai,J.,Kullgren,G & Asberg,M (11 1998). “CSF monoamine metabolites in relation to the diagnostic interview for borderline patients (DIB)”. Neuropsychobiology 38 (4): 207-212. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9813458. 
  75. ^ 小羽俊士 (2009)
  76. ^ Driessen M, Herrmann J, Stahl K et al. (2000). “Magnetic Resonance Imaging Volumes of the Hippocampus and the Amygdala in Women With Borderline Personality Disorder and Early Traumatization”. Arch Gen Psychiatry 57 (12): 1155-1122. http://archpsyc.ama-assn.org/cgi/content/full/57/12/1115. 
  77. ^ Donegan et al. (2003). “Amygdala hyperreactivity in borderline personality disorder: implications for emotional dysregulation.”. Biological Psychiatry 54 (11): 1284-1293. http://www.biologicalpsychiatryjournal.com/article/S0006-3223(03)00636-X/abstract. 
  78. ^ Schmahl.D.J. (2006). “Neural correlates of antinociception in borderline personality disorder”. Arch Gen Psychiatry. 63: 659-667. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16754839. 
  79. ^ De la fuente,J.M.,Tugendhaft,P.,& Mavroudakis,N. (1998). “Electoroencephalographic abnormalities in borderline personality disorder.”. Psychiatry Researchi 77 (2): 131-138. 
  80. ^ Perry,J.C.,Herman,J.L.,van der Kolk,B.A.,& Hoke,L.A. (1990). “Psychotherapy and psychological trauma in borderline personality disorder”. Psychiatric Annals 20: 33-43. 
  81. ^ Zanarini,M.C.,J.G.Gunderson,M.F.Marino,E.O.Schwartz,and F.R. Frankenburg. (1989). “Childhood experiences of borderline patients.”. Comprehensive Psychiatry 30: 18-25. 
  82. ^ Zanarini,M C.,A.A.Williams,R.E.Lewis,R.B.Reich,S.C.Vera,M.F.Marino,et al. (1998). “Reported pathological childhood experiences associated with the development of borderline personality disorder.”. American Journal of Psychiatry 154: 1101-1106. http://ajp.psychiatryonline.org/data/Journals/AJP/3679/1101.pdf. 
  83. ^ 町沢静男 (2005) p112 - 114
  84. ^ Walsh F (1977). “the Family of the borderline Patient.In Grinker RR Werble B(eds)”. The Borderline Patient.Jason Aronson,New York.. 
  85. ^ Bradley SJ (1979). “The Relationship of Early Maternal Separation to Borderline Personality Disorder in Children and Adolescents : a Pilot Study.”. American Journal of Psychiatry 136: 424-426. 
  86. ^ Zanarini MC, Gunderson JG, Marino MF et al (1989). “Childhood Experiences of Borderline Patients.”. Comprehensive Psychiatry 30: 18-25. 
  87. ^ Franck H and Paris J (1981). “Recollections of Family Experience in Borderline Patients.”. Archives of General Psychiatry 38: 1031-1034. 
  88. ^ Soloff PH and Milward JW (1983). “Developmental Histories of Borderline Patients.”. comprehensive Psychiatry 24: 574-588. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6653098. 
  89. ^ Gunderson JG,Kerr J,Englund DW (1980). “The Families of borderlines : A Comparative Study.”. Archuves of General Psychiatry 37: 27 - 33. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7352837. 
  90. ^ Zweig-Frank H and Paris J (1991). “Parents'Emotional Neglect and Overprotection according to the Recollection of Patients with borderline Parsonarty Disorder.”. American Journal of Psychiatry 148: 648-651. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2018169. 
  91. ^ Zanarini,M.C.,E.D.,Lewis,R.E.& Williams, A. A. (1997). “Childhood factors associated with the development of borderline personality disorder.”. Role of sexual abuse in the etiology of borderline personality disorder Washington, DC: American Psychiatric Press: 29-44. 
  92. ^ Gunderson JG and Sabo AN (1993). “The Ohenomenological and Conceptual interface between Borderline Personality Disorder and PTSD.”. American Journal of Psychiatry 150: 19-27. http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?Volume=150&page=19&journalID=13. 
  93. ^ 町沢静男 (2005) p85,p87,p115
  94. ^ 細澤仁「外傷性精神障害という視点から」『こころの科学』第154巻、2010年11月、19-24頁。 
  95. ^ 和田秀樹「精神分裂病と人格障害」『日本損害保険協会 総合安全防災誌「予防時報」』第209巻、2002年。 
  96. ^ 米国精神医学会治療ガイドライン (2006)
  97. ^ Soloff,P.H (1994). “Is there any drug treatment of choice for the borderline patient?”. Acta Psychiatrica Scandinavica 89 (Suppl,379): 50-55. 
  98. ^ 英国国立医療技術評価機構 2009
  99. ^ 米国精神医学会治療ガイドライン (2006)
  100. ^ Vita A, De Peri L, Sacchetti E. (10 2011). “Antipsychotics, antidepressants, anticonvulsants, and placebo on the symptom dimensions of borderline personality disorder: a meta-analysis of randomized controlled and open-label trials.”. J Clin Psychopharmacol 31 (5): 613-24. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21869691. 
  101. ^ Vita A, De Peri L, Sacchetti E.(山澤涼子訳)「境界性パーソナリティ障害の症状に対する抗精神病薬,抗うつ薬,抗痙攣薬とプラセボ:無作為化対照試験とオープンラベル試験のメタ解析」『Psychoabstract』第6巻、大日本住友製薬、2011年11月。 
  102. ^ Mary C. Zanarini, Ed.D.; Frances R. Frankenburg, M.D. (1 2003). “Omega-3 Fatty Acid Treatment of Women With Borderline Personality Disorder: A Double-Blind, Placebo-Controlled Pilot Study”. Am J Psychiatry 160 (1): 167-169. http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?articleid=175972. 
  103. ^ Stoffers J, Völlm BA, Rücker G, Timmer A, Huband N, Lieb K (6 2010). “Drug treatment for borderline personality disorder”. Cochrane Database of Systematic Reviews (Online) 6. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD005653.pub2/abstract. 
  104. ^ a b 平島奈津子、野口堅吾「薬物療法的アプローチ (境界性パーソナリティ障害 境界性パーソナリティ障害と治療)」『こころの科学』第154巻、2010年、75 - 79頁。 
  105. ^ マーシャ・M・リネハン(2007) 「弁証法的行動療法実践マニュアル ― 境界性パーソナリティ障害への新しいアプローチ」
  106. ^ Aベイトマン、P.フォナギー (2008)
  107. ^ Piper,W.E.,Rosie,J.S.,Azim,H.F.A.,&Joyce,A.S. (1993). “A randomized trial of psychiatric day treatment for patients with affective and personality disorders”. Hospital and Community Psychiatry 44: 757-763. 
  108. ^ Bateman, A.W.&Fonagy,P. (1999). “Effectiveness of partial hospitalisation in the treatment of borderline personality disorder:A randomised controlled trial.”. American Journal of Psychiatry. 156: 1563-1569. http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?volume=156&page=1563. 
  109. ^ Stevenson J, Meares R. (1992). “An outcome study of psychotherapy for patients with borderline personality disorder”. Am J Psychiatry 149 (3): 358-362. 
  110. ^ Shea et al. (1990). “National institute of mental health multicenter trial of treatment for affective disorder”. American Journal of psychiatry 147: 711-718. 
  111. ^ Linehan,M.M.,Heard,H.L.,&Armstrong,H.E.(1993).Naturalistic follow-up of a behavioral treatment for chronically parasuicidal borderline patients.Unpublished manuscript, University of Washington,Seattle,WA.
  112. ^ a b Expert on Mental Illness Reveals Her Own Fight”. The Newyork times.com (2011年6月23日). 2012年3月13日閲覧。
  113. ^ Bateman A, Fonagy P. (2009). “Randomized Controlled Trial of Outpatient Mentalization-Based Treatment Versus Structured Clinical Management for Borderline Personality Disorder”. Am J Psychiatry 166: 1355-1364. http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?articleid=101399. 
  114. ^ 林直樹「緊急提言!境界性パーソナリティ障害治療に変革を!」『こころの科学』第154巻、2010年、102-104頁。 
  115. ^ マーシャ・M・リネハン (2007) 境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法 ― DBTによるBPDの治療
  116. ^ 岡野憲一郎 (2010)
  117. ^ Spinhoven P, Giesen-Bloo J, van Dyck R, Arntz A. (2008). “Can assessors and therapists predict the outcome of long-term psychotherapy in borderline personality disorder?”. J Clin Psychol 64 (6): 667-686. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18384120. 
  118. ^ a b 馬場禮子、福島章、水島恵一 (2000)
  119. ^ 松原達哉 (2010)
  120. ^ a b 石口彰、池田まさみ (2008)
  121. ^ メラニー・A・ディーン (2005) p48
  122. ^ a b 下山晴彦 (2009)
  123. ^ 稲富正治 (2005)
  124. ^ Yalom,I.D. (1985). “The theory and practice of group psychotherapy”. New York: Basic Books. 
  125. ^ 元清純派女優ウィノナ・ライダーが凄い!『ブラック・スワン』で一皮剥けた感”. Hottrash.com (2011年2月23日). 2012年3月13日閲覧。
  126. ^ 誕生日に自分のDVDをプレゼント? ドン引きさせるナルシストエピソード 『サイゾーウーマン』 2011年3月20日
  127. ^ 町沢静男 (2005) p151 - 175
  128. ^ 動機ないモンロー「自殺」=肉声メモ発見、将来に抱負・レズ体験も 『時事通信』 2005年8月7日
  129. ^ 町沢静男 (2005) p49 - 52
  130. ^ スザンナ・ケイセン (1994)
  131. ^ 「ウィノナ・ライダー、女優業はきらい…」”. ORICON STYLE  (2006年8月14日). 2012年3月13日閲覧。
  132. ^ アンドリュー・モートン (1997)

参考文献

  • アンドリュー・モートン、入江真佐子訳『完全版 ダイアナ妃の真実 ― 彼女自身の言葉による』早川書房、1997年12月。ISBN 9784152081315 
  • 杉原一昭、渡辺映子、勝倉孝治『はじめて学ぶ人の臨床心理学』中央法規出版、2003年。ISBN 9784805823477 
  • 秋山剛、酒井佳永、松本聡子「双極スペクトラムと気質」『こころの科学』第131巻、2007年1月。 
  • 岡野憲一郎「医原性という視点から」『こころの科学』第154巻、2010年11月、30-35頁。 

関連項目

外部リンク

Template:Link FA