ICD-10 第5章:精神と行動の障害
『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』(しっぺい および かんれんほけんもんだいの こくさいとうけい ぶんるい)第10版(ICD-10)の第5章「精神及び行動の障害」(せいしん および こうどうの しょうがい)の一覧である。
派生物
[編集]「臨床記述と診断ガイドライン」(CDDG、ブルーブック[1])がこのICD-10第5章の最初のものである[2]。「研究用診断基準」(DCR, Diagnostic critria for research、グリーンブック[1])は、その注意事項にあるように、臨床概念や合併の多い症状が記述されず、単独で使用できないため「臨床記述と診断ガイドライン」の習熟が先に必要になるが、患者群の選別のために他の障害といかなる点が類似しているといった詳細が含まれる[3]。
用語集
[編集]1994年の世界保健機関(WHO)の用語集『精神医学と精神保健の用語集』(Lexicon of psychiatric and mental health terms)第2版は、ICD-10第5章で使用される用語の定義を収載している[4]。さらに、世界保健機関の『アルコールと薬物の用語集』(Lexicon of alchol and drug term)は、用語を定義し、またICD-10に対応した診断コードが載せられている[5]。これは、例としてF1x.70フラッシュバックが、幻覚剤に関したものであるといった定義がなされており[6]、定義関係の把握に重要である。
障害定義
[編集]ICD-10の序論にある「用語上の問題点」では、「疾患(disease)」のような用語は本質的で重大な問題が生じるため、「障害(disorder)」という曖昧な用語を採用するとしている[7]。また、「障害」について、臨床的に有意な症状や行動、個人的な機能不全の両方が存在する状態と定義している[7]。社会的な逸脱や葛藤も、苦痛や個人的な機能不全がなければ精神障害と見なすべきではない[7]。
なおICD-10日本語版ではMental Disorderを精神障害[7]と訳しているが、DSM日本語版ではDSM-IV以降、精神疾患[8]と訳している。
F00-F99 - 精神および行動の障害
[編集](F00-F09) 症状性を含む器質性精神障害
[編集]- (F00) アルツハイマー病の認知症
- (F01) 血管性認知症
- (F02) 他に分類されるその他の疾患の認知症
- (F03) 詳細不明の認知症
- (F04) 器質性健忘症候群,アルコールその他の精神作用物質によらないもの
- (F05) せん妄,アルコールその他の精神作用物質によらないもの
- (F06) 脳の損傷及び機能不全並びに身体疾患によるその他の精神障害
- (F07) 脳の疾患,損傷及び機能不全による人格及び行動の障害
- (F09) 詳細不明の器質性又は症状性精神障害
(F10-F19) 精神作用物質使用による精神及び行動の障害
[編集]
- 注記:以下の症状は、F10-19のそれぞれのコードの下位型である。
物質 | F1x.0 | F1x.1 | F1x.2 | F1x.3 | F1x.4 | F1x.5 | F1x.6 | F1x.7 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
(F10) アルコール使用<飲酒>による精神及び行動の障害 | 急性アルコール中毒 | アルコールの有害な使用 | アルコール依存症 | アルコール離脱症候群 | 振戦せん妄 | アルコール幻覚症 | コルサコフ症候群 | |
(F11) アヘン類使用による精神及び行動の障害 | オピオイド過剰摂取 | オピオイド依存症 | ||||||
(F12) 大麻類使用による精神及び行動の障害 | 大麻の急性中毒 | 大麻依存症 | ||||||
(F13) 鎮静薬又は催眠薬使用による精神及び行動の障害 | ベンゾジアゼピン過剰摂取 | ベンゾジアゼピン薬物乱用 | ベンゾジアゼピン依存症 | ベンゾジアゼピン離脱症候群 | 振戦せん妄 | |||
(F14) コカイン使用による精神及び行動の障害 | コカイン中毒 | コカイン依存症 | ||||||
(F15) カフェインを含むその他の精神刺激薬使用による精神及び行動の障害 | カフェインによる精神及び行動の障害 | アンフェタミンによる精神及び行動の障害 | その他の精神刺激薬使用による精神及び行動の障害 | |||||
(F16) 幻覚薬使用による精神及び行動の障害 | フラッシュバック | |||||||
(F17) タバコ使用<喫煙>による精神及び行動の障害 | ニコチン離脱 | |||||||
(F18) 揮発性溶剤使用による精神及び行動の障害 | ||||||||
(F19) 多剤使用及びその他の精神作用物質使用による精神及び行動の障害 |
(F20-F29) 統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害
[編集]- (F21) 統合失調症型障害 Schizotypal disorder
- (F22) 持続性妄想性障害
- (F23) 急性一過性精神病性障害
- (F24) 感応性妄想性障害
- (F25) 統合失調感情障害 Schizoaffective disorders
- (F28) その他の非器質性精神病性障害
- (F29) 詳細不明の非器質性精神病
- (F30) 躁病エピソード
- (F31) 双極性感情障害〈躁うつ病〉
- (F31.0) 双極性感情障害,現在軽躁病エピソード
- (F31.1) 双極性感情障害,現在精神病症状を伴わない躁病エピソード
- (F31.2) 双極性感情障害,現在精神病症状を伴う躁病エピソード
- (F31.3) 双極性感情障害,現在軽症又は中等症のうつ病エピソード
- (F31.4) 双極性感情障害,現在精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード
- (F31.5) 双極性感情障害,現在精神病症状を伴う重症うつ病エピソード
- (F31.6) 双極性感情障害,現在混合性エピソード
- (F31.7) 双極性感情障害,現在寛解中のもの
- (F31.8) その他の双極性感情障害
- 双極性II型障害
- 反復性躁病エピソード NOS
- (F31.9) 双極性感情障害,詳細不明
- (F32) うつ病エピソード
- (F33) 反復性うつ病性障害
- (F34) 持続性気分[感情]障害
- (F38) その他の気分[感情]障害
- (F39) 詳細不明の気分[感情]障害
(F40-F48) 神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害
[編集]- (F40) 恐怖症性不安障害
- (F41) その他の不安障害
- (F42) 強迫性障害〈強迫神経症〉
- (F43) 重度ストレスへの反応及び適応障害
- (F44) 解離性[転換性]障害
- (F45) 身体表現性障害
- (F48) その他の神経症性障害
(F50-F59) 生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群
[編集]- (F50) 摂食障害
- (F51) 非器質性睡眠障害
- (F52) 性機能不全,器質性の障害又は疾患によらないもの
- (F53) 産じょく〈褥〉に関連した精神及び行動の障害,他に分類されないもの
- (F54) 他に分類される障害又は疾病に関連する心理的又は行動的要因
- (F55) 依存を生じない物質の乱用
- (F59) 生理的障害及び身体的要因に関連した詳細不明の行動症候群
(F60-F69) 成人の人格及び行動の障害
[編集]- (F60) 特定の人格障害
- (F61) 混合性及びその他の人格障害
- (F62) 持続的人格変化,脳損傷及び脳疾患によらないもの
- (F63) 習慣及び衝動の障害
- (F64) 性同一性障害
- (F65) 性嗜好の障害
- (F66) 性発達及び方向づけに関連する心理及び行動の障害
- (F68) その他の成人の人格及び行動の障害
- (F69) 詳細不明の成人の人格及び行動の障害
(F70-F79)知的障害〈精神遅滞〉
[編集]- (F70) 軽度知的障害〈精神遅滞〉
- (F71) 中等度知的障害〈精神遅滞〉
- (F72) 重度知的障害〈精神遅滞〉
- (F73) 最重度知的障害〈精神遅滞〉
- (F78) その他の知的障害〈精神遅滞〉
- (F79) 詳細不明の知的障害〈精神遅滞〉
(F80-F89)心理的発達の障害
[編集]- (F80) 会話及び言語の特異的発達障害
- (F81) 学習能力の特異的発達障害
- (F82) 運動機能の特異的発達障害
- (F83) 混合性特異的発達障害
- (F84) 広汎性発達障害
- (F88) その他の心理的発達の障害
- (F89) 詳細不明の心理的発達障害
(F90-F98)小児〈児童〉期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害
[編集]- (F90) 多動性障害
- (F91) 行為障害
- (F92) 行為及び情緒の混合性障害
- (F93) 小児〈児童〉期に特異的に発症する情緒障害
- (F94) 小児〈児童〉期及び青年期に特異的に発症する社会的機能の障害
- (F95) チック障害
- (F98) 小児〈児童〉期及び青年期に通常発症するその他の行動及び情緒の障害
(F99)詳細不明の精神障害
[編集]脚注
[編集]- ^ a b 世界保健機関 2008, p. 3.
- ^ 世界保健機関 2005, p. 11.
- ^ 世界保健機関 2008, p. 1.
- ^ World Health Organization 1994a, Introduction.
- ^ World Health Organization 1994b, p. 1.
- ^ World Health Organization 1994b, p. 38.
- ^ a b c d World Health Organization 1992, p. 11 (翻訳書は 世界保健機関 2005, p. 5)
- ^ American Psychiatric Association 1987 (翻訳書は アメリカ精神医学会 1988); American Psychiatric Association 1994 (翻訳書は アメリカ精神医学会 1996)
- ^ 世界保健機関 2005, p. 133.
- ^ a b 世界保健機関 2005, p. 285.
参考文献
[編集]ICD-10第5章
- World Health Organization (1992). The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders: Clinical descriptions and diagnostic guidelines (blue book). World Health Organization. ISBN 978-9241544221(翻訳書は 世界保健機関『ICD‐10 精神障害および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン』融道男・中根允文・小見山実・岡崎祐士・大久保善朗監訳(新訂)、医学書院、2005年11月。ISBN 978-4260001335。)
- World Health Organization (1993) (pdf). The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders:Diagnostic criteria for research (green book). World Health Organization、世界保健機関、(翻訳)中根允文、岡崎祐士、藤原妙子、中根秀之、針間博彦『ICD-10精神および行動の障害-DCR研究用診断基準』(新訂)新訂版、2008年。ISBN 978-4-260-00529-6。
- World Health Organization (1994a). Lexicon of psychiatric and mental health terms (2nd ed.). World Health Organization. ISBN 92-4-154466-X
- World Health Organization (1994b) (pdf). Lexicon of alchol and drug term. World Health Organization. ISBN 92-4-154468-6 (HTML版 introductionが省略されている)
その他
- American Psychiatric Association (1987), Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Third Edition-Revised (DSM-III-R), ISBN 978-0890420188.(翻訳書は アメリカ精神医学会『DSM-III-R 精神障害の診断・統計マニュアル』高橋三郎訳、医学書院、1988年。ISBN 978-4260117388。)
- American Psychiatric Association (1994), Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition (DSM-IV), ISBN 978-0890420614.(翻訳書は アメリカ精神医学会『DSM-IV 精神疾患の診断・統計マニュアル』高橋三郎・大野裕・染矢俊幸訳、医学書院、1996年。ISBN 978-4260118040。)
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 標準病名マスター作業班
- 「疾病、傷害及び死因の統計分類」 - 厚生労働省