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適応障害

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適応障害
概要
診療科 精神医学, 臨床心理学
分類および外部参照情報
ICD-10 F43.2
ICD-9-CM 309
DiseasesDB 33765
MedlinePlus 000932
eMedicine med/3348
MeSH D000275

適応障害(てきおうしょうがい、: adjustment disorder:AD)とは、はっきりと確認できるストレス因子により、著しい苦痛や機能の障害が生じており、そのストレス因子が除去されれば症状が消失する特徴を持つ精神障害である。『精神障害の診断と統計マニュアル』(DSM)の『第4版』(DSM-IV)では適応障害として独立していたが、『第5版』(DSM-5)ではストレス関連障害群に含められ、他に急性ストレス障害心的外傷後ストレス障害(PTSD)が含まれる。

ストレスへの正常な反応は、著しい苦痛を呈さない[1]。また死別は適応障害ではない[1]。他の精神障害に当てはまるときはそれが優先される[1]うつ病との判別がつきにくい場合がある[2]。また適応障害が、正当な臨床単位であることを確立するデータは不足している[3]。ストレスが原因で発生する身体的な異常は心身症である。

適応障害は自然軽快することも多い[3][1]。治療には心理療法が推奨され、薬物療法は証拠の不足により避けるべきである[3]。治療法については、「適応障害#治療」を参照。

定義

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精神医学的障害の一種である。

症状

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  • ストレスが原因で、情緒的な障害が発生し、それは抑うつ気分や不安などを伴うことが多い[4]。また青年期や小児期では、社会規範を犯すなど素行の問題が現れることがある[4]
  • 社会生活や職業・学業などにも支障をきたし、生活機能の低下や、業績・学力の低下、場合によっては就業・就学そのものが不可能になる場合がある。
  • 行動的な障害を伴う患者は、ストレスが原因で普段とはかけ離れた著しい行動に出ることがある。それらの行動の具体例としては、年相応の規則をやぶり、怠学、喧嘩、法律に背くことなどが挙げられる[4]。社会的ルールを無視するような行為、破壊や暴走、また暴飲などもある[5]
  • 軽度の行動的な障害としては、電話やメール、手紙に応答せず、人との接触を避けて引きこもることも挙げられる。

診断基準

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適応障害は、DSM-IV[4]ICD-10でも若干診断基準が異なる。

  • はっきりと確認できる大きなストレス、及び継続的、反復的にかかり続けるストレスが発症の原因であり、そのストレスを受けてから3か月以内(ICD10では1か月以内)に情緒面、行動面で症状が発生すること。
  • ストレス因子と接した時に起きる予測を超えた苦痛の反応もしくは、社会生活、職業・学業的機能において著しい障害が起きること。
  • 不安障害や気分障害、うつ病など他の精神障害が原因ではなく、ストレスが死別反応などによるものではないこと。
  • ストレス因子が排除された場合、半年以内に症状がなくなること。
  • ストレス因子がなくなった後も半年以上症状が続く場合は、他のストレス障害(PTSDや分類不能の重度のストレス障害)や特定不能の不安障害などを考慮する必要がある。ただし、ICD10の場合は、遷延性抑うつ反応の場合は最長2年間持続するとされている。
  • また、症状の持続時間が6か月以内のものを急性、6か月以上のものを慢性と呼ぶ。慢性の場合は継続的なストレスが続いている場合に適用される(たとえば、周りに犯罪が多発する場所に住んでいる。裁判に巻き込まれるなど)。

またDSMの下位の診断コードの分類として、抑うつ気分を伴う、不安を伴う、素行の障害を伴う、特定不能の適応障害がある[4]

鑑別診断

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DSMIVとDSM-5について挙げる。

ストレスへの正常な反応は、著しい苦痛や機能の障害を呈さない[1]。経済破綻、災害や重篤な病気などへの反応も、理解可能な正常な反応である場合もある[6]。診断には外的なストレスが必要である[1]

うつ病や気分変調症との鑑別が特に難しいときがある[2]。ストレス因子に反応し、大うつ病エピソードの診断基準を満たしていれば、適応障害ではない[7]パーソナリティ障害はストレスによって悪化しやすいので、通常は適応障害の追加の診断は不要である[7]

死別への反応は精神障害ではなく[1]、通常は死別反応(診断コードV62.82)である[7]。DSM-5においては、死別反応といった強いストレスに伴う抑うつは、治療なく回復する可能性があるため、うつ病の診断基準に死別反応に関する注釈が加えられた[8]。DSM-5のうつ病の診断基準の注釈によれば、死別による抑うつ症状は、1-2年続く理解可能な正常な反応である場合もある[6]

ICD-10について挙げる。

児童の分離不安障害(ICD F93.0)である場合、適応障害の診断は下されないとされる[9]

不明確な臨床単位

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臨床現場では一般的な診断名であるが、正当な臨床単位であることを確立するデータは不足している[3]。適応障害とうつ病とを区別できるような、生物学的データによる証拠は存在しない[3]

治療

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一般に適応障害は長く続かず、時間経過と共に消失する[3]。自然に軽快することも多い[1]。そうした事実は、治療に関する研究の不足を示唆している[3]

2009年の適応障害に関するシステマティック・レビューは以下のように結論づけている。

心理療法

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心理療法の有用性は、臨床的な証拠に強く裏付けられている[3]対人関係療法や問題解決療法、他にも個々の心理療法の有効性は報告されているが、そうした心理療法同士で比較した研究はない[3]。一方、抑うつや不安を伴う適応障害に対する、抗うつ薬などの医薬品の使用は適切なエビデンスがないため避けるべきである[3]

認知行動療法

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適応障害への認知行動療法は有効であり、ストレスを感じる出来事や問題に対し、心理的苦痛が軽減する解釈・思考方法(認知)と対処行動(行動)を習得できるよう、支援が行われる[10][11]

治療者は、心理教育や認知再構成法、リフレーミングやマインドエクササイズ、リハーサルやロールプレイングコーチングやガイダンス、リラクセーション法や活動スケジュール表、問題解決法などの認知行動療法の諸技法を用いて、患者をサポートする。これらを通して、ストレスが軽減される思考方法や対処行動を患者と治療者が協同で模索・練習していき、機能的な思考方法(「現状や他者の行動を肯定的にとらえる[12]」・「自分自身を責めずに認める[12]」・「自分が考えているほど、周りは自分のことを何とも思っていないことを把握する[13]」など)や対処行動(「抱え込まずに相談する[13]」など)を身につけられるようサポートする[14][15]

また、人間関係における適応をサポートするため、人とうまく接するための社会的スキルを育成するソーシャルスキルトレーニング (SST) [16]アサーショントレーニング[17]を用いた支援も行われる。

なお、適切なストレス管理を支援していくことも治療目標の一つであり[18]、気分転換法(「ストレス管理#技法」を参照)の発見なども症状緩和の一助になるとされる[17]

環境調整

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適応障害はその診断基準にある通りストレスが原因であるため、それが除去されれば症状は改善される可能性がある。例えば、人事異動で部署を変えたり、引っ越したりするなど、現在の環境を変えることで病状が改善される可能性がある。

現実的なストレス因子そのものを低減したり(例:配置転換)、ソーシャルサポートを強化したり(例:家族や上司の理解・援助を促すためのコンサルテーション)、患者を取り巻くストレスフルな環境を調整していくこと、つまり環境調整によるサポートも重要である[19]

出典

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  1. ^ a b c d e f g h アレン・フランセス『精神疾患診断のエッセンス―DSM-5の上手な使い方』金剛出版、2014年3月、117-118頁。ISBN 978-4772413527 
  2. ^ a b 日本うつ病学会; 気分障害のガイドライン作成委員会 (26 July 2012). 日本うつ病学会治療ガイドライン (pdf) (Report) (2012 Ver.1 ed.). p. 3.
  3. ^ a b c d e f g h i j Adjustment Disorder: epidemiology, diagnosis and treatment 2009.
  4. ^ a b c d e DSM-IV-TR邦訳書 2004, §適応障害.
  5. ^ 齋藤英二監修『心の病気』p.70.
  6. ^ a b アメリカ精神医学会『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』日本精神神経学会日本語版用語監修・高橋三郎・大野裕監訳・染矢俊幸・神庭重信・尾崎紀夫・三村將・村井俊哉訳、医学書院、2014年6月30日、20、161、801頁。ISBN 978-4260019071 
  7. ^ a b c DSM-IV-TR邦訳書 2004, §適応障害-鑑別診断.
  8. ^ 大野裕『精神医療・診断の手引き―DSM-IIIはなぜ作られ、DSM-5はなぜ批判されたか』金剛出版、2014年、39-40頁。ISBN 978-4772413862 
  9. ^ ICD-10 : F43, 世界保健機関, (2009), http://apps.who.int/classifications/icd10/browse/2015/en#/F43 
  10. ^ アローズ, D. L., & キャレッセ, M. A. 大前泰彦・清水佳苗(訳) (1999). 適応障害の解決――解決志向ブリーフセラピーによるアプローチ―― 金剛出版, 79-80・84・86頁.
  11. ^ 伊藤 絵美 (2011). 適応障害の心理臨床 原田誠一(編) 適応障害 (pp.122-123) 日本出版社
  12. ^ a b 高井祐子、木内千暁 (2010). 認知療法を通して認知過程および行動変容の相互作用が認められた適応障害例. 女性心身医学 2011年 15巻 3号 p.321-326, doi:10.18977/jspog.15.3_321
  13. ^ a b 森下克也、高橋歩美 (2011). 漢方薬と認知療法の併用により改善した適応障害の1例. 心身医学, 2011年 51巻 9号 p.831-837, doi:10.15064/jjpm.51.9_831
  14. ^ アローズ, D. L., & キャレッセ, M. A. 大前泰彦、清水佳苗(訳) (1999). 適応障害の解決 -解決志向ブリーフセラピーによるアプローチ- 金剛出版, 86-87, 89頁.
  15. ^ 伊藤絵美 (2011). 適応障害の心理臨床 原田誠一(編) 適応障害 (pp.122-126) 日本出版社
  16. ^ 谷口弘一、福岡欣治 (2006). 対人関係と適応の心理学――ストレス対処の理論と実践―― 北大路書房, 83-95頁.
  17. ^ a b 阿部麻衣、遠藤由香、野田智子 ほか(2014). 認知行動療法が奏功した抑うつを伴う適応障害の一例(一般演題,第74回日本心身医学会東北地方会演題抄録). 心身医学, 2014年 54巻 12号 p.1149-, doi:10.15064/jjpm.54.12_1149_1
  18. ^ 伊藤絵美 (2011). 適応障害の心理臨床 原田誠一(編) 適応障害 (p.122) 日本出版社
  19. ^ 伊藤絵美 (2011). 適応障害の心理臨床 原田誠一(編) 適応障害 (p.127) 日本出版社

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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