「恒常性」の版間の差分
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'''恒常性'''(こうじょうせい)ないしは'''ホメオスターシス'''({{lang-el-short|ὅμοιοστάσις}}、{{lang-en-short|homeostasis}})とは、生物において、その内部環境を一定の状態に保ち続けようとする傾向のことである。 |
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== 概説 == |
== 概説 == |
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恒常性は |
恒常性は生物のもつ重要な性質の一つで、生体の内部や外部の環境因子の変化に関わらず生体の状態が一定に保たれるという性質、あるいはその状態を指す。生物が生物である要件の一つであるほか、[[健康]]を定義する重要な要素でもある。生体恒常性(/生体恒常化作用)とも言われる。 |
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恒常性の保たれる範囲は体温や[[血圧]]、体液の[[浸透圧]]や[[水素イオン指数 |
恒常性の保たれる範囲は体温や[[血圧]]、体液の[[浸透圧]]や[[水素イオン指数]]などをはじめ病原[[微生物]]や[[ウイルス]]といった異物(非自己)の排除、[[創傷]]の修復など生体機能全般に及ぶ。 |
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恒常性が保たれるためにはこれらが変化したとき、それを元に戻そうとする作用、すなわち生じた変化を打ち消す向きの変化を生む働きが存在しなければならない。これは、'''負の |
恒常性が保たれるためにはこれらが変化したとき、それを元に戻そうとする作用、すなわち生じた変化を打ち消す向きの変化を生む働きが存在しなければならない。これは、'''負のフィードバック作用'''と呼ばれる。この作用を主に司っているのが[[間脳]][[視床下部]]であり、その指令の伝達網の役割を[[自律神経]]系や内分泌系([[ホルモン]]分泌)が担っている。 |
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== 経緯 == |
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1859年頃、 |
1859年頃、生理学者[[クロード・ベルナール]]は、生体の内部環境は組織液の循環等の要因によって外部から独立している(内部環境の固定性)と提唱した。これを1920年代後半から30年代前半頃に生理学者[[ウォルター・B・キャノン]]が古典ギリシア語で同一の<ref group="注">{{ISO639言語名|el}}: <ruby lang="el">ὅμοιο<rp>(</rp><rt lang="el-Kana">ホモイオ</rt><rp>)</rp></ruby></ref>状態<ref group="注">{{ISO639言語名|el}}: <ruby lang="el">στάσις<rp>(</rp><rt lang="el-Kana">スタシス</rt><rp>)</rp></ruby></ref>を意味する「ホメオスタシス」と命名した。 |
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==「全身状態」== |
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明確な定義はないが、[[城西国際大学|城西国際大]]学薬学部 臨床医学研究室教授の[[佐仲雅樹]]は以下のように述べている<ref name=":0">{{Cite web|和書|title=全身状態とは何だろう? |url=https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/di/digital/201406/536806.html |website=DI Online |access-date=2022-07-25 |language=ja |first=D. I. |last=Online}}</ref>。医学的に使われる「全身状態」とは「ホメオスタシス(恒常性)の安定性」を意味し、ホメオスタシスを乱す可能性のある強い刺激や身体的負荷を「[[侵襲]]」と表現する<ref name=":0" />。「侵襲」は特定の傷病を指すものではなく、内科的な重症疾患や[[外傷]]・手術による出血・壊死・炎症といった「生体組織の大きな損傷」だけでなく、高温環境下の飲水不足による脱水・異物の誤嚥による[[上気道閉塞]]、薬物副作用による致死的不整脈といった「組織損傷を伴わない急性の臓器機能不全」なども意味する<ref name=":0" />。 |
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これを1920年代後半から30年代前半頃に[[アメリカ合衆国]]の生理学者[[ウォルター・B・キャノン]]が[[古典ギリシア語]]に由来する「ホメオスタシス」(古典ギリシア語で同一の({{lang|grc|ὅμοιο}}、ホモイオ)状態({{lang|grc|στάσις}}、スタシス)を意味する)と命名した。 |
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== 調整メカニズム == |
== 調整メカニズム == |
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=== フィードバック機構 === |
=== フィードバック機構 === |
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視床下部-下垂体を中心とした[[内分泌器系]]は、体内のさまざまな恒常性を保つためにフィードバック機構により調整されている |
視床下部-下垂体を中心とした[[内分泌器系]]は、体内のさまざまな恒常性を保つためにフィードバック機構により調整されている{{sfn|Handbook of Neuroendocrinology|p=11, Fig 1.5}}。 |
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[[Image: EndocrineFeedback.png|center|thumb|300px|内分泌器系のフィードバック機構<br>(単純化したイメージ)]] |
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=== 緩衝系 === |
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化学[[緩衝液|緩衝系]]を構成することにより体液のpHなどを安定化させる機構がある |
化学[[緩衝液|緩衝系]]を構成することにより体液のpHなどを安定化させる機構がある<ref> |
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[[感染症]]の際に体温が上がるのは、[[炎症]]物質によって調節の目標温度が高まるからである。これは、病原体が[[熱]]に弱いという性質を利用した抵抗活動である。[[解熱鎮痛薬]]はこの目標温度を下げることで解熱させる。{{For2|感染症の際に体温が上がる詳細なメカニズム|進化医学}} |
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=== 血糖の恒常性 === |
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=== 免疫の恒常性 === |
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免疫機構は、外部病原体から自己を守るために免疫を亢進させる系と、過剰な免疫亢進を防ぐ免疫抑制系とがある一定のバランスをとって機能しており、これを免疫恒常性という。 |
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生体は外部からの病原体から自己を守る防御機構としての免疫機構を備えているが、その[[免疫系]]は自己と非自己とを完全に区別することは |
生体は外部からの病原体から自己を守る防御機構としての免疫機構を備えているが、その[[免疫系]]は自己と非自己とを完全に区別することは出来ない。免疫機能が亢進しすぎた場合、過剰な炎症反応は本来は病原体あるいは異物としてみなす必要のない物質や有用な[[共生]]微生物・真菌までをも過剰に攻撃してしまう。最悪の場合は生体自身が産生する物質や生体自身そのものを抗原とみなして攻撃してしまい、これらは結果としてアレルギー性疾患や自己免疫疾患を発症してしまう。一方で免疫が弱すぎれば、外部からの病原体により生体自身が侵されてしまうことになる。免疫恒常性はこのようなことがないように、ある一定のレベルの免疫レベルを維持するものである{{sfn|Regulation of Immune Responses by T Cells|2006|p=1166}}{{sfn|Immunity to fungal infections|2011|Figure 3}}。 |
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=== 血中カルシウム平衡 === |
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血中カルシウム濃度は、[[甲状腺]]の働きにより[[ビタミンD]]や[[カルシトニン]]が関与することで平衡を保っている |
血中カルシウム濃度は、[[甲状腺]]の働きにより[[ビタミンD]]や[[カルシトニン]]が関与することで平衡を保っている<ref>{{Cite |
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ビタミンDは血中カルシウム濃度が低い状態で関与しカルシウム濃度の低下を阻止する方向に働く。すなわち、 |
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* [[ストレス (生体)]] |
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* [[内分泌系]] |
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* [[免疫系]] - [[免疫寛容]] |
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== 外部リンク == |
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* [https://archive.ph/20110101000000/http://100.yahoo.co.jp/detail/%E3%83%9B%E3%83%A1%E3%82%AA%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%B7%E3%82%B9/ ホメオスタシス] - [[Yahoo!百科事典]] |
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2025年1月2日 (木) 04:27時点における最新版
恒常性(こうじょうせい)ないしはホメオスターシス(希: ὅμοιοστάσις、英: homeostasis)とは、生物において、その内部環境を一定の状態に保ち続けようとする傾向のことである。
概説
[編集]恒常性は生物のもつ重要な性質の一つで、生体の内部や外部の環境因子の変化に関わらず生体の状態が一定に保たれるという性質、あるいはその状態を指す。生物が生物である要件の一つであるほか、健康を定義する重要な要素でもある。生体恒常性(/生体恒常化作用)とも言われる。
恒常性の保たれる範囲は体温や血圧、体液の浸透圧や水素イオン指数などをはじめ病原微生物やウイルスといった異物(非自己)の排除、創傷の修復など生体機能全般に及ぶ。
恒常性が保たれるためにはこれらが変化したとき、それを元に戻そうとする作用、すなわち生じた変化を打ち消す向きの変化を生む働きが存在しなければならない。これは、負のフィードバック作用と呼ばれる。この作用を主に司っているのが間脳視床下部であり、その指令の伝達網の役割を自律神経系や内分泌系(ホルモン分泌)が担っている。
経緯
[編集]1859年頃、生理学者クロード・ベルナールは、生体の内部環境は組織液の循環等の要因によって外部から独立している(内部環境の固定性)と提唱した。これを1920年代後半から30年代前半頃に生理学者ウォルター・B・キャノンが古典ギリシア語で同一の[注 1]状態[注 2]を意味する「ホメオスタシス」と命名した。
「全身状態」
[編集]明確な定義はないが、城西国際大学薬学部 臨床医学研究室教授の佐仲雅樹は以下のように述べている[1]。医学的に使われる「全身状態」とは「ホメオスタシス(恒常性)の安定性」を意味し、ホメオスタシスを乱す可能性のある強い刺激や身体的負荷を「侵襲」と表現する[1]。「侵襲」は特定の傷病を指すものではなく、内科的な重症疾患や外傷・手術による出血・壊死・炎症といった「生体組織の大きな損傷」だけでなく、高温環境下の飲水不足による脱水・異物の誤嚥による上気道閉塞、薬物副作用による致死的不整脈といった「組織損傷を伴わない急性の臓器機能不全」なども意味する[1]。
調整メカニズム
[編集]生体全体の恒常性は、何重もの調整メカニズムによって保たれている。
フィードバック機構
[編集]視床下部-下垂体を中心とした内分泌器系は、体内のさまざまな恒常性を保つためにフィードバック機構により調整されている[2]。
緩衝系
[編集]化学緩衝系を構成することにより体液のpHなどを安定化させる機構がある[3]。
例
[編集]体温の恒常性
[編集]例えば、鳥類や哺乳類の体温調節機能は、生体恒常性のひとつである。鳥類や哺乳動物は活動時の最適温は40℃付近(種や生理状態でこの温度は異なる)である。これより体温が高い場合は自律神経系や内分泌器系などにより発汗、皮膚血管の拡張で体温を下げようとし体温が低い場合はふるえ(悪寒戦慄)や非ふるえ熱産生(代謝の亢進による発熱)によって体温を上げようとする[4]。反射ではない。
感染症の際に体温が上がるのは、炎症物質によって調節の目標温度が高まるからである。これは、病原体が熱に弱いという性質を利用した抵抗活動である。解熱鎮痛薬はこの目標温度を下げることで解熱させる。
血糖の恒常性
[編集]また、人体における血糖値の調整作用のしくみ(血糖調節メカニズム)血糖も恒常性をもつ。だが、その血糖調整メカニズム自体、体温調節機能に関係している[5] 。
免疫の恒常性
[編集]免疫機構は、外部病原体から自己を守るために免疫を亢進させる系と、過剰な免疫亢進を防ぐ免疫抑制系とがある一定のバランスをとって機能しており、これを免疫恒常性という。 生体は外部からの病原体から自己を守る防御機構としての免疫機構を備えているが、その免疫系は自己と非自己とを完全に区別することは出来ない。免疫機能が亢進しすぎた場合、過剰な炎症反応は本来は病原体あるいは異物としてみなす必要のない物質や有用な共生微生物・真菌までをも過剰に攻撃してしまう。最悪の場合は生体自身が産生する物質や生体自身そのものを抗原とみなして攻撃してしまい、これらは結果としてアレルギー性疾患や自己免疫疾患を発症してしまう。一方で免疫が弱すぎれば、外部からの病原体により生体自身が侵されてしまうことになる。免疫恒常性はこのようなことがないように、ある一定のレベルの免疫レベルを維持するものである[6][7]。
色の恒常性
[編集]さまざまな照明条件下でも物体の知覚される色が比較的一定に保たれる。これを色の恒常性という。
血中カルシウム平衡
[編集]血中カルシウム濃度は、甲状腺の働きによりビタミンDやカルシトニンが関与することで平衡を保っている[8]。
ビタミンDは血中カルシウム濃度が低い状態で関与しカルシウム濃度の低下を阻止する方向に働く。すなわち、
- 腸からのカルシウム吸収促進
- 骨からのカルシウム溶出促進
- 腎臓でのカルシウム排出抑制
カルシトニンは血中カルシウム濃度が高い状態で関与しカルシウム濃度のこれ以上の上昇に歯止めをかける方向に働く。すなわち、
- 腸からのカルシウム吸収抑制
- 骨からのカルシウム溶出抑制
- 腎臓でのカルシウム排出促進
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c Online, D. I.. “全身状態とは何だろう?”. DI Online. 2022年7月25日閲覧。
- ^ Handbook of Neuroendocrinology, p. 11, Fig 1.5.
- ^ 福田満 (2003/04). 生化学. 化学同人. pp. 164. ISBN 978-4759804782
- ^ 解剖生理学 2004, pp. 195–196.
- ^ 低血糖症は発達障害(自閉症)の危険因子 http://www.s-kubota.net/kanri/index_4.htm
- ^ Regulation of Immune Responses by T Cells 2006, p. 1166.
- ^ Immunity to fungal infections, 2011 & Figure 3.
- ^ Sharon Rady Rolfes, Kathryn Pinna, Ellie Whitney (Jul 11, 2008), Understanding Normal and Clinical Nutrition, Cengage Learning, pp. 417-418, Figure 12-12, ISBN 978-0-495-828792
参考文献
[編集]- George Fink, Donald W. Pfaff, Jon Levine (Dec 13, 2011). Handbook of Neuroendocrinology (first edition 2012 ed.). Elsevier Inc.. pp. 894. ISBN 978-0-12-375097-6
- 高野康夫 編 (2004). 解剖生理学 (第1版 ed.). 化学同人. pp. 245
- Hong Jiang, M.D., Ph.D., and Leonard Chess, M.D. (march 16, 2006). “Regulation of Immune Responses by T Cells”. The new england journal of medicine 354 (11): 1166-1176 2012年6月5日閲覧。.
- Luigina Romani (April 2011). “Immunity to fungal infections”. Nature Reviews Immunology: 275-288. doi:10.1038/nri2939 2012年6月5日閲覧。.