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「ハプログループD (Y染色体)」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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see:Chiaroni, J.; Underhill, P. A.; Cavalli-Sforza, L. L. (2009). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2787129
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2018年6月18日 (月) 16:29時点における版

D (Y染色体) 系統
ハプログループDの分布図
系統祖 {{{major-haplo}}}
発生時期 60,000年前[1]
発生地(推定) 東アジア[2]
親階層 DE
分岐指標 M174/Page30, IMS-JST021355
子階層 D1(D1aD1b)、D2
高頻度民族・地域 チベットチベット民族)、日本列島大和民族琉球民族アイヌ)、インド北東部(アルナーチャル人

ハプログループD (Y染色体)(ハプログループD (Yせんしょくたい)、: Haplogroup D (Y-DNA))とは、分子人類学で用いられる、人類Y染色体ハプログループ(型集団)の分類で、YAPと呼ばれる変異の型を持つもののうちの「M174」に定義されるものである。

起源

北方経由説によるハプログループDの移動想定経路

ハプログループDは、今より約6万年前[1]にアフリカ-イラン-中央アジアのいずれかにおいてハプログループDEから分岐し、内陸ルートを通って東アジアへ向かったと考えられている[3]。現在、このハプログループDは、日本列島南西諸島アンダマン諸島チベット高原で高頻度に観察されるほかはアジアの極めて限られた地域でしか見つかっていない。チベットではD1a、日本ではD1b、アンダマン諸島ではD*(D-Z3660, subclade-Y34637)が高頻度である[4][5][6]。これらのハプログループは、同じハプログループD1に属していても、サブグループが異なるため、分岐してから3.5~4万年の年月が経ていることを示している[1] 。(「*」は同じ変異を持つ人が見つかっていないという意味であり、まとまりを意味するものではない)

ハプログループDは、現在の日本中国朝鮮東南アジアにおいて多数派的なハプログループO系統や、その他E系統以外のユーラシア系統(C,I,J,N,Rなど)とは分岐から7万年以上の隔たりがあり、非常に孤立的な系統となっている。
D系統は東アジアにおける最古層のタイプと想定できるが[1]、一つの説として東アジア及び東南アジアにO系統が広く流入した為、島国日本や山岳チベットにのみD系統が残ったと考えられている。そのため形質人類学的には古モンゴロイドアイノイド)の分布と相関しているようである。

なお、同じくハプログループDEから分かれたハプログループEは、アフリカ大陸で高頻度、中東地中海地域で中~低頻度に見られる。またDEの子型でD系統にもE系統にも属さないDE*がチベット人ナイジェリアなど西アフリカでごくわずかに発見されている[7][8]

分岐系統の概略

YAP
DE(M203)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
D(M174)E(M96)[9]
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
D1(CTS11577)[10]D2(L1378)[11]
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
D1a(Z27276)[12]D1b(Z3660)[13]
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
D1a1(M15)[14]D1a2(P99)[15]D1b1(M64.1)[16]D1b2(Y34637)[17]
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
D1b1a(Z1622)[18]D1b1b(Z1516)[19]

source:
Y Full Haplogroup YTree (v6.02) at 02 April 2018
ISOGG Haplogroup YTree (v13.107) at 5 May 2018

分布

チベット人

チベットでは、D1a1が16%、D1a2が33%、とD1a系統だけで約半数の49%を占めている。またインド北東部のチベット系民族の一部ではD*が0-65%観察される[20][21][22][23]

チベット以外の中国

2001年に発表された論文では寧夏回族自治区の回族男性54人のうち、3人(5.6%)がD-M174(xM15)に、2人(3.7%)がD-M15に、合計5人(9.3%)がD-M174に属している[24]

2006年に発表された論文の補足データによれば、D-M15に属するY染色体が中国南部に居住する複数の民族の男性から見つかっている: 四川省涼山彝族自治州布拖県彝族 7/43 = 16.3% D-M15、苗族 5/58 = 8.6% D-M15、湖南省土家族 1/49 = 2.0% D-M15、広西省ヤオ族 1/60 = 1.7% D-M15、台湾漢族 1/84 = 1.2% D-M15。なお、新疆ウイグル自治区のウイグル族男性67人中3人(4.5%)からD-P47に属するY染色体が見つかったという[25]

2006年に発表された別の研究では、DE-YAP(xE-SRY4064)に属するY染色体が羌族6/33 = 18.2%、回族4/35 = 11.4%、甘粛省蘭州市漢族2/30 = 6.7%、新疆ウイグル自治区イリの漢族1/32 = 3.1%、満州族 1/35 = 2.9%、広西省河池市巴馬ヤオ族自治県ヤオ族1/35 = 2.9%、新疆ウイグル自治区イリのウイグル族1/39 = 2.6%、シボ族1/41 = 2.4%から見つかっている[26]

2010年に発表された論文では、中国大陸南部の広西、雲南、貴州の山岳部に住むヤオ族の一派であるブヌ族(布努族)10人から採取したY染色体ハプログループの構成は、O1b1a1a*(O-M95)4人、DYAP)3人、C(C-M130)2人、O2*(O-M122)1人となっている[27]。同じ論文では江西省の漢族21人中1人、チワン族28人中1人、モン族49人中1人からもDE-YAPに属すY-DNAが見つかっている。

復旦大学の研究チームの手による2011年の論文では、華北出身者129人、華東出身者167人、華南出身者65人、合わせて361人の漢族男性のうち、7人(1.9%)のY-DNAがD-M174に属している[28]

フィリピン・マクタン島

フィリピンセブ州マクタン島ラプ=ラプ市において、D1a,D1bに属さない、ハプログループD2の人物が複数見つかっている[29]

グアム島

グアム島ではD1a,D1bに属さない「D*」が6人のサンプルから1人見つかった例がある[30] 

日本

日本列島で見られる「ハプログループD1b」は、ハプログループDの中でも、M64.1/Page44.1, M55, M57, M179/Page31, M359.1/P41.1, P37.1, P190, 12f2.2など少なくとも8つの特徴的なSNP(一塩基多型)によって、4万年以上前に分岐しているが、世界中でハプログループD1bに定義されるSNPを持つのは日本人のみである[4][5][6]

アイヌ

アイヌにおいては「D1b」が16人に14人の割合に当たる87.5%の高頻度で見られた。アイヌに見られるD1bの内訳はD1b*(81.25%)、D1b1a(6.25%)である[31]

本島

日本本土(九州本州四国)は、中国地方四国など西日本にやや少なく、関東地方東北地方など東日本にやや多い傾向などの地域差もあるが、おおよそ32%[32]~39%[33]のハプログループが「D1b」であり、これは古代の縄文人の末裔である可能性が高い。下記にあげる「D1b*」から「D1b2b」まで様々なグループが見られる。

なお、チベットなど中国南西部に多いD1a1-M15も本土日本人のサンプルで散見される(日本 1/23 D-M15[34]、 宮城県 1/7 D-M15[33]、大阪市の成人男性 1/241 D-M15[32]、川崎市の大学生 1/321 D-M15[32]、札幌市の大学生 1/302 D-M15)[32]

沖縄

沖縄本島では、糸満市で採集されたサンプル80人のうち、38人(47.5%)がYAP+のハプロタイプIIaを有しており、その他には具志頭村(7/19 = 36.8%), 読谷村 (10/32 = 31.3%), 勝連町 (8/29 = 27.6%)といった結果が1999年の論文で発表されている。しかし、八重山諸島西表島のサンプルではYAP+のハプロタイプが1/20 (5.0%)の低頻度で、波照間島のサンプルでは検出されなかった(0/7 = 0%)[35]

2006年の論文で発表された研究結果では、沖縄県のサンプルでは45人中25人(55.6%)がD-M55に属しており、その内訳はD-M55(xM116) 2/45 = 4.4%, D-M116(xM125) 14/45 = 31.1%, D-M125(xP42) 7/45 = 15.6%, D-P42 2/45 = 4.4%と、日本全国の平均よりはやや濃い分布を示しているが、その内訳には大差は無い: D-M55(xM116) 10/259 = 3.9%, D-M116(xM125) 43/259 = 16.6%, D-M125(xP42) 31/259 = 12.0%, D-P42 6/259 = 2.3%[25]

中央アジア

チュルク系アルタイ人にD*が5.1%観察される[25]。またタジキスタン中央アジア南部の他の何ヶ所かで「ハプログループD1a2」が総計1%ほどいる。中央アジアのチュルク系民族モンゴル系民族の中に少数だけ見られる。

アンダマン諸島

アンダマン諸島オンゲ族ジャラワ族では、D*が大多数を占める[4][5][6]

その他地域

中国の少数民族であるミャオ・ヤオ語族と同様に、チベットビルマ語系の言語を話し、チベットに近い四川省雲南省のいくつかの少数民族の中にD系統が低頻度で見られる。朝鮮半島では、ハプログループD系統が見られるが、これは近世にチベットからモンゴル経由で入ってきたD1a1や、弥生時代日本列島から朝鮮半島へ北上したD1bの系統であろうと推測されている。また、近年の研究では、タイ人の間で見つかったハプログループのうち「D*」(恐らくハプログループDの別の単一系の分枝)は10%ほどはいると思われる。ハプログループCと異なり、ハプログループDは、南北アメリカ大陸(ネイティブ・アメリカン)の中では全く見つかっていない。

言語

ウイルス学専門の崎谷満は「ハプログループDに属する人々は、日本語文法の特徴である、SOV型語順の言語を話していた」とする説を唱えている。

系統樹

ハプログループDの分岐については2017年9月7日改訂のISOGGの系統樹(ver.12.241)による[36]

  • DE
    • D (M174/Page30, IMS-JST021355)
      • D* - グアム島アルタイ人アンダマン諸島
      • D1 (CTS11577)
        • D1a (Z27276)
          • D1a1 (M15) - チベット
            • D1a1a (F849)
              • D1a1a1 (N1)
                • D1a1a1a (Z27269)
                  • D1a1a1a1 (PH4979) - 日本(宮城)[37]
                    • D1a1a1a1a (FGC41743.2)
                      • D1a1a1a1a1 (Z31585)
                      • D1a1a1a1a2 (F729)
                    • D1a1a1a1b (Y7820)
                  • D1a1a1a2 (Z31591)
                    • D1a1a1a2a (Z31625)
                    • D1a1a1a3b (Z31584)
                  • D1a1a1a3 (Z40603)
              • D1a1a2 (F1070)
                • D1a1a2a (A6345)
                  • D1a1a2a1 (Z40598)
                    • D1a1a2a1a (Z40600)
                    • D1a1a2a1b (Z41246)
                  • D1a1a2a2 (Z41068)
                • D1a1a2b (CTS5502)
          • D1a2 (P99) - チベット
        • D1b (M55, M57, M64.1/Page44.1, M179/Page31, M359.1/P41.1, P37.1, P190, 12f2.2, Z3660) - 日本(大和民族アイヌ琉球民族)
        • D1b* (Y34637)
          • D1b1 (M116.1)
            • D1b1a (M125)
              • D1b1a1 (P42)
                • D1b1a1a (P12_1, P12_2, P12_3)
              • D1b1a2 (IMS-JST022457)
                • D1b1a2a (P53.2)
                • D1b1a2b (IMS-JST006841/Page3)
                  • D1b1a2b1 (CTS3397)
                    • D1b1a2b1a (Z1500)
                      • D1b1a2b1a1 (Z1504, CTS8093) - 日本(愛知)[38]
                        • D1b1a2b1a1a (FGC6373) - 日本(広島)[38]
                          • D1b1a2b1a1a1 (L137.3) - 日本(静岡)[38]
                            • D1b1a2b1a1a1a (Z40625)
                            • D1b1a2b1a1a1b (CTS217)
                            • D1b1a2b1a1a1c (Z38475)
                          • D1b1a2b1a1a2 (FGC6372)
                          • D1b1a2b1a1a3 (CTS10649)
                          • D1b1a2b1a1a4 (Z40609)
                        • D1b1a2b1a1b (Z40614)
                        • D1b1a2b1a1c (Z31543)
                        • D1b1a2b1a1d (FGC30021)
                        • D1b1a2b1a1e (Z31548)
                        • D1b1a2b1a1f (Z31553)
                        • D1b1a2b1a1g (CTS6223)
                        • D1b1a2b1a1h (CTS4093)
                        • D1b1a2b1a1i (Z40687)
                          • D1b1a2b1a1i1 (Z35641)
                          • D1b1a2b1a1i2 (Z40688)
                        • D1b1a2b1a1j (CTS5058)
                        • D1b1a2b1a1k (FGC34008)
                      • D1b1a2b1a2 (CTS266)
                      • D1b1a2b1a3 (Z40672)
                    • D1b1a2b1b (CTS1372)
                  • D1b1a2b2 (CTS5581)
              • D1b1a3 (CTS10972)
                • D1b1a3a (Z31538)
                • D1b1a3b (CTS232)
            • D1b1b (P120)
            • D1b1c (CTS6609)
              • D1b1c1 (CTS1897/Z1574)
                • D1b1c1a (CTS11032) - 日本(愛知)[38]
                  • D1b1c1a1 (CTS218/V1105/Z1527)
                    • D1b1c1a1a (CTS6909)
                      • D1b1c1a1a1 (CTS6969)
                      • D1b1c1a1a2 (CTS9770)
                    • D1b1c1a1b (CTS3033)
                      • D1b1c1a1b1 (M2176)
                      • D1b1c1a1b2 (CTS2472)
                    • D1b1c1a1c (M151)
                  • D1b1c1a2 (F8521.3)
                • D1b1c1b (CTS1964)
                  • D1b1c1b1 (CTS974)
                  • D1b1c1b2 (CTS722)
                • D1b1c1c (Z30644) - 日本(福島)[38]
                  • D1b1c1c1 (CTS4292)
                    • D1b1c1c1a (Z31517)
                    • D1b1c1c1b (CTS1798)
                  • D1b1c1c2 (Z31512)
                • D1b1c1d (CTS5641) - 日本(京都)[38]
                • D1b1c1e (CTS429)
              • D1b1c2 (CTS103)
                • D1b1c2a (Z42462)
          • D1b2 (CTS131)
            • D1b2a (CTS220) - 日本(礼文島縄文人)[39]
              • D1b2a1 (CTS10495)
                • D1b2a1a (Z31507)
                • D1b2a1b (CTS624)
              • D1b2a2 (CTS11285) - 日本(大阪熊本)[38][40]
                • D1b2a2a (PH2316) - 日本(岩手)[38]
                  • D1b2a2a1 (Z38287)
                    • D1b2a2a1a (Z38284)
                  • D1b2a2a2 (Z38289) - 日本(兵庫)[38]
                • D1b2a2b (CTS288)
                  • D1b2a2b1 (CTS1815)
                  • D1b2a2b2 (Z40665)
            • D1b2b (CTS68)
      • D2 (L1366, L1378, M226.2) - フィリピン(マクタン島ルソン島)[41]
        • D2a (FGC8848)
        • D2b (FGC8940)
ヒトY染色体ハプログループ系統樹
Y染色体アダム (Y-MRCA)
A0 A1
A1a A1b
A1b1 BT
B CT
DE CF
D E C F
G H IJK
IJ K
I J K1 K2
L T MS NO P K2*
N O Q R

脚注

  1. ^ a b c d Shi, Hong; Zhong, Hua; Peng, Yi; Dong, Yong-li; Qi, Xue-bin; Zhang, Feng; Liu, Lu-Fang; Tan, Si-jie et al. (October 29, 2008). “Y chromosome evidence of earliest modern human settlement in East Asia and multiple origins of Tibetan and Japanese populations”. BMC Biology (BioMed Central) 6: 45. doi:10.1186/1741-7007-6-45. PMC 2605740. PMID 18959782. http://www.biomedcentral.com/1741-7007/6/45 November 21, 2010閲覧。.  オープンアクセス
  2. ^ Chiaroni, J.; Underhill, P. A.; Cavalli-Sforza, L. L. (2009). "Y chromosome diversity, human expansion, drift, and cultural evolution". Proceedings of the National Academy of Sciences. 106 (48): 20174–9.
  3. ^ 崎谷満『DNA・考古・言語の学際研究が示す新・日本列島史』(勉誠出版 2009年)
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参考文献

関連項目