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「エアバスA320」の版間の差分

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{{Infobox 航空機
{{Infobox 航空機
| 名称=エアバスA320<br/>{{lang|en|Airbus A320}}
| 名称=エアバスA320
| 画像=File:Jetstar Airbus A320 in flight (cropped 3x2).jpg
| 画像=ファイル:OE-LBN Austrian Airlines Airbus A320-214 - cn 768 takeoff from Schiphol (AMS - EHAM), The Netherlands, 16may2014, pic-2.JPG
| キャプション=[[オースリア航空]]のA320-200
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| 運用者 more=<span style="font-size:95%;">(2018年7月現在の運用数上位10位)</span>{{r|WAC2018}}
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**[[エールフラ]]
** [[IndiGo|イディゴ]]
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** [[中国東方航空]]
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** [[中国南方航空]]
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**[[フィランド航空]]
** [[ブエリ航空]]
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{{Indent|など}}
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| ユニットコスト=<span style="font-size:95%;">2018年時点の平均価格。仕様により実価格は異なる</span><ref>{{Cite press release |title=Airbus 2018 Price List Press Release |publisher=Airbus |date=2018-01-15 |url=https://www.airbus.com/newsroom/press-releases/en/2018/01/airbus-2018-price-list-press-release.html |accessdate=20109-11-12}}</ref>
| ユニットコスト=
** A318: 7,740万[[アメリカ合衆国ドル|USドル]]
** A319: 9,230万USドル
** A320: 1億100万USドル
** A321: 1億1830万USドル
** A319neo: 1億150万USドル
** A320neo: 1億1,060万USドル
** A321neo: 1億2,950万USドル
}}
}}
'''エアバスA320''' (Airbus A320) は、[[欧州]]の[[エアバス]]社が開発・製造している[[ナローボディ機|単通路]]の双発[[ジェット機|ジェット]][[旅客機]]である。
'''エアバスA320'''({{lang|en|'''Airbus A320'''}})は、欧州[[エアバス]]社が製造した近・中距離向け商業[[旅客機]]である。[[民間機]]として初めてデジタル式[[フライ・バイ・ワイヤ]]制御システムを採用したハイテク旅客機であり、[[操縦桿#コクピットと操縦桿|サイドスティック]]による操縦を採用しているのが特徴である。座席数は標準2クラス仕様で150席程度。バリエーション(A320 ファミリー)として、長胴型の[[エアバスA321]]、短胴型の[[エアバスA319]]、[[エアバスA318]]、新エンジンを採用した[[エアバスA320neo]]があり、エアバスのベストセラーになった。


A320を基本型として長胴型の[[エアバスA321]]および短胴型の[[エアバスA319]]と[[エアバスA318]]が開発され、'''エアバスA320ファミリー'''を構成している。A320ファミリーは二世代に分けることができ、当初型は'''A320ceo'''ファミリー、エンジンを刷新した第二世代は'''A320neo'''ファミリーと呼ばれる。A320ceoは1988年に[[エールフランス]]により路線就航を開始し、A320neoは2016年に[[ルフトハンザ・ドイツ航空]]により初就航した。
== 歴史 ==
[[File:British Airways A320-100 G-BUSB.jpg|thumb|left|200px|ブリティッシュ・エアウェイズのA320-100]]
[[ファイル:春秋航空 A320-200.jpg|左|サムネイル|[[春秋航空]]のA320-200]]
[[エアバスA300]]の成功を受けて、次の計画としてエアバス社は150席程度の小規模な旅客機に需要があると見込んだ。


A320は旅客機として世界で初めてデジタル式[[フライ・バイ・ワイヤ]]操縦システムや[[操縦桿#コクピットと操縦桿|サイドスティック]]を採用し、エアバス機の新時代を切り開いた。米国メーカーの単通路機と世界で競合しながらシェアを拡大し、エアバスが[[ボーイング]]と肩を並べるまでに成長する立役者となった。
[[1970年代]]における同規模の旅客機としては、ライバルメーカーの[[ボーイング]]が製造していた[[ボーイング727]]があった。ボーイング727は初就航が[[1964年]]であり、これの更新需要も見込むものとした。開発当初はボーイング727規模の旅客機にする予定であったのだが、開発中に[[オイルショック]]により[[原油価格]]の値上がりがあったため、ボーイング727よりも低燃費の旅客機を開発する必要があり、[[ボーイング737]]規模の旅客機となった。


A320は低翼配置の主翼下に左右1発ずつ[[ターボファンエンジン]]を装備し、[[尾翼]]は低翼配置、[[降着装置]]は前輪配置である。全長は37.57メートル、全高は11.76メートル、全幅は最大で35.80メートルである。[[最大離陸重量]]は66トンから77トンで最大巡航速度は[[マッハ数|マッハ]]0.82である。
[[1980年]]にSA-1(120から150席)およびSA-2(150から180席)の開発計画が公表された。SAは客室の通路が1本の[[ナローボディ機]]であることを意味する。後に両者の計画は統合され、150から179席の計画となり、A320として[[1984年]]から本格開発が開始された。


2018年末までの総納入数は、A320単体で5,213機、A320ファミリー全体で8,525機である。2019年10月現在、A320ファミリーの関係した機体損失事故および事件は、[[航空事故]]が30件、テロ等の事件が7件、その他駐機中の火災等によるものが7件発生している。30件の事故により951人、7件の事件により441人、1件のハイジャックにより犯人が死亡している。A320単体では、航空事故は25件、テロ等の事件が5件、その他駐機中の火災等によるものが6件である。11件の事故により計816人、2件の事件により計216人死亡しているほか、ハイジャック1件で犯人1人が死亡している。
A320シリーズで、最初に登場したA320-100は、[[1987年]][[2月22日]]に初飛行している。[[1988年]][[3月28日]]に[[エールフランス]]により初就航されている。その後、[[主翼]]中央に燃料タンクを増備し、空力性能向上のための[[ウィングレット|ウィングチップフェンス]]を翼端に取り付けたA320-200に注文が集中したため、A320-100型機は初期に生産された僅か21機に留まっている。


以下、本項ではジェット旅客機については、一部社名を省略して英数字のみで表記する。例えば「エアバスA300」であれば「A300」、「[[ボーイング737]]」であれば「737」、「[[マクドネル・ダグラス DC-9|ダグラスDC-9]]」はDC-9とする。
現在エンジンを換装するモデルのA320neoの開発が進められており、30機を発注した[[ヴァージン・アメリカ]]が[[ローンチカスタマー]]となった。また、後継機として[[エアバスNSR]]計画がある。


== 沿革 ==
A320neoが開発されたことにより、現行型のA320は'''A320ceo(current engine option)'''と呼ばれるようになった。
=== 開発の背景 ===
[[アメリカ合衆国|米国]]の航空機メーカーに対抗するため、[[ヨーロッパ|欧州]]の航空機メーカーは[[1970年]]12月に[[コンソーシアム|企業連合]]「[[エアバス|エアバス・インダストリー]]」(以下、エアバス)を設立し、世界初の双通路([[ワイドボディ機|ワイドボディ]])双発ジェット旅客機となる[[エアバスA300|A300]]を開発した{{sfn|青木|2010|p=123}}{{sfn|山崎|2009a|pp=90–91}}。A300は1972年10月に初飛行し、1974年5月に路線就航を開始した<ref>{{Citation |first1=Max |last1=Kingsley-Jones |first2=Julian |last2=Moxon |first3=Kevin |last3=OToole |first4=Paul |last4=Lewis |first5=David |last5=Learmount |first6=Peter |last6=Henley |title=Airbus history |year=1997 |journal=Airbus Industrie -- 25 Flying Years (Flight International supplement) |pages=7–11 |format=PDF |url=http://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1997/1997%20-%202895.html |accessdate=2019-09-28}}</ref>。続けて1980年代前半にかけてエアバスは、A300の発展型となる[[エアバスA310|A310]]や[[エアバスA300-600|A300-600]]を開発した{{sfn|青木|2010|pp=71–79}}{{sfn|青木|2018|pp=127–130}}。A310やA300-600は、いわゆる[[グラスコックピット]]を採用するとともにシステムにコンピュータを導入して自動化することで、操縦士2人のみで運航可能なワイドボディ機の先駆けとなった{{sfn|青木|2010|pp=71–79}}{{sfn|青木|2018|pp=127–130}}。こうしてエアバスは一定の成功を収めたものの、既に米国の[[ボーイング]]や[[マクドネル・ダグラス]]は、単通路機([[ナローボディ機]])からワイドボディの長距離機まで圧倒的な製品群を展開していた{{sfn|谷川|2016|loc=位置No. 1207}}。これまで双発ワイドボディ機という独自路線で他社との競合を避けてきたエアバスだが、旅客機メーカーとしての確固たる地位を確立するためには、米国メーカーが独占する市場に参入して積極的にシェアを獲得する必要があった{{sfn|山崎|2009a|pp=90–91}}{{sfn|谷川|2009|p=93}}。

一方そのころ、単通路機市場では150席級の新型旅客機が求められつつあった{{sfn|帆足|2003|pp=43–45}}{{sfn|山崎|2009a|pp=90–91}}。[[ボーイング727|727]]や[[ボーイング737|737-200]]、[[ダグラス DC-9|DC-9]]、[[BAC 1-11]]、[[シュド・カラベル]]といった中近距離用の中小型機を更新する時期に差し掛かりつつあった{{sfn|帆足|2003|pp=43–45}}{{sfn|山崎|2009a|pp=90–91}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=16}}。それに加えて航空旅客需要が順調に伸びており、150席級の旅客機は今後20年で3,000機の需要があると見込まれた{{sfn|青木|2003a|p=54}}{{sfn|粂|1984|p=146}}{{sfn|帆足|2003|pp=43–45}}。各国の航空機メーカーはこの市場を狙って熱心に新型機の研究を行った{{sfn|帆足|2003|pp=43–45}}{{sfn|山崎|2009a|pp=92–93}}。欧州のメーカー間でも単独あるいは共同事業にる開発構想が複数立ち上がった{{sfn|山崎|2009a|pp=92–93}}{{sfn|帆足|2003|pp=43–45}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=16}}。また、米国の航空機メーカーはエアバス・コンソーシアムの切り崩しを図り、欧州の航空機メーカーに接近して共同開発を提案した{{sfn|山崎|2009a|pp=92–93}}。

米国メーカーによる切り崩し戦術の効果は限定的で、開発構想が実現することはなかった{{sfn|山崎|2009a|pp=92–93}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=16}}。むしろ、米国に対抗する機会を逃すまいと欧州のメーカーは新たな共同開発プロジェクトを1977年に立ち上げた{{sfn|山崎|2009a|pp=92–93}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=16}}。このプロジェクトは JET (Joint European Transport) と名付けられ、参加メンバーは[[アエロスパシアル]]、[[メッサーシュミット・ベルコウ・ブローム|MBB]]、{{仮リンク|VFW-フォッカー|en|VFW-Fokker}}、そして[[ブリティッシュ・エアロスペース]] (BAe) であった{{sfn|山崎|2009a|pp=92–93}}。JET計画はエアバスと別のプロジェクトとして進行していたが、参加メンバーの大半はエアバス構成メンバーであり、唯一エアバスに不参加だったBAe社も1979年にエアバスに加盟した{{sfn|山崎|2009a|pp=92–93}}<ref>{{Cite book|last=Aris|first=Stephen|title=Close to the Sun|location=London, UK|publisher=Aurum Press Ltd|year=2002|isbn=978-1-85410-830-2|page=119}}</ref>{{sfn|Gavaghan|1987|p=40}}。これによりJET計画はエアバス・コンソーシアムに継承され、単通路 (Single Aisle) を意味するSA計画と名付けられた{{sfn|山崎|2009a|pp=92–93}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=16}}。SA計画ではSA1からSA3まで3種類の機体案が作られ、座席数はそれぞれ125席、150席、180席とされた{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=16}}。

航空会社の反応を踏まえ、エアバスは150席級のSA2に注力することとし、1981年2月に機体名をA320と定めた{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=16}}{{sfn|帆足|2003|pp=43–45}}{{sfn|山崎|2009a|pp=92–93}}。この頃1979年の[[オイルショック|第二次石油危機]]により燃料価格が高騰し、航空会社は燃費対策に追われていた{{sfn|久世|2006|p=171}}。米国の[[デルタ航空]]や[[ユナイテッド航空]]は、燃費性能に優れた150席級旅客機の要求仕様をそれぞれ策定した{{sfn|久世|2006|p=171}}{{sfn|山崎|2009a|p=93}}。これらの要求にまさに合致するようA320の仕様がまとまった{{sfn|山崎|2009a|p=93}}{{sfn|久世|2006|p=171}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=16}}{{efn|group="注釈"|しかし、デルタ航空がA320を採用するのは20年以上先になる<ref>{{Cite web |title=Aircraft By Type |work=Delta Flight Museum |url=http://www.deltamuseum.org/exhibits/delta-history/aircraft-by-type/jet/airbus-a320 |accessdate=2019-09-09}}</ref>{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=16}}。}}。

=== 正式開発の決定まで ===
エアバス参加国でもイギリスの[[ブリティッシュ・エアウェイズ]]やドイツの[[ルフトハンザドイツ航空|ルフトハンザ航空]]はA320に消極的だった{{sfn|帆足|2003|pp=45–46}}。ブリティッシュ・エアウェイズは保有機の入れ替えが急務となっており、これから開発するA320では間に合わないと判断してボーイング機を発注した{{sfn|粂|1984|pp=146–148}}。ルフトハンザは150席級ナローボディ機よりも、長距離路線向けワイドボディ機の開発を優先するよう求めた{{sfn|帆足|2003|pp=45–46}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=16}}。一方で、[[エールフランス]]はA320計画を歓迎し、1981年6月の[[パリ航空ショー]]においてオプションを含め50機を発注すると発表した{{sfn|山崎|2009a|pp=92–93}}{{sfn|帆足|2003|p=47}}。フランス政府もA320の開発費の負担を約束した{{sfn|粂|1984|pp=146–148}}。

エールフランスが早々に発注を決め潜在需要も確実視されていたにもかかわらず、A320の正式開発が決定するまでここから3年を要した{{sfn|粂|1984|pp=146–148}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=16}}。苦しい財政状況にあったドイツ政府とイギリス政府が開発費負担に難色を示したためである{{sfn|粂|1984|pp=146–148}}{{sfn|帆足|2003|pp=45–46}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=16}}。特にイギリスの状況は複雑であった{{sfn|粂|1984|pp=146–148}}。航空機エンジンメーカーの[[ロールス・ロイス・ホールディングス|ロールス・ロイス]](以下 R-R)が参画しイギリス政府も出資していた英日共同開発エンジンの先行きが不透明となり、新しい開発計画に転換するための追加出資を求められていた{{sfn|粂|1984|pp=146–148}}。新たな計画は日本とイギリスを含む5か国の国際共同事業で、[[インターナショナル・エアロ・エンジンズ]] (IAE) 社を設立し[[V2500 (エンジン)|V2500]]を開発するというものだった{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|pp=17–18}}{{sfn|粂|1984|pp=146–148}}<ref>{{Citation |title=平成19年度版 世界の航空宇宙工業 |year=2007 |editor=日本航空宇宙工業会 |publisher=日本航空宇宙工業会 |issn=09101535 |page=116}}</ref>。V2500エンジンはA320の搭載エンジンとして有望視されており、エンジンを商業的に成功させるためにイギリス政府はA320へも出資を迫られた{{sfn|帆足|2003|pp=45–46}}。

やむをえずエアバスは日本やカナダにも参加を呼びかけたが、日本は当時ボーイングとの共同開発構想があったため断り、カナダも採算が見合わないとしてギリギリのところで参加を見送った{{sfn|粂|1984|pp=146–148}}。このような状況下で、1984年の初めにフランスの[[フランソワ・ミッテラン|ミッテラン大統領]]、イギリスの[[マーガレット・サッチャー|サッチャー首相]]、ドイツの[[ヘルムート・コール|コール首相]]が会談し、A320への直接・間接の金融支援を行うことが確認された{{sfn|山崎|2009a|pp=90–91}}。それを受けて同年2月にドイツ政府は必要経費の90パーセントに相当する15億マルク(約1352億円)の支出を決定した{{sfn|粂|1984|pp=146–148}}{{sfn|帆足|2003|pp=45–46}}。イギリス政府も苦慮の末、エンジンと機体の双方への出資を決めた{{sfn|帆足|2003|pp=45–46}}。ただしA320については4億3,700万ポンドの当初要求に対して2億5,000万ポンド(約875億円)の出資とし、不足分はBAe社が自己調達することとなった{{sfn|粂|1984|pp=146–148}}{{sfn|帆足|2003|pp=45–46}}。

ようやく資金の目処がついたことで1984年3月2日、エアバスはA320の正式開発・製造を決定した{{sfn|粂|1984|p=146}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=17}}。この時点までに、エールフランスに加えて[[エールアンテール]]、[[ブリティッシュ・カレドニアン航空]]、[[アドリア航空]]、[[キプロス航空]]の5社からオプション含めて96機の受注を獲得していた{{sfn|粂|1984|pp=146–148}}。

=== 設計の過程 ===
==== フライ・バイ・ワイヤ ====
営業活動と並行して機体の設計も進められた{{sfn|粂|1984|p=148}}。A320の操縦システムには、旅客機として世界初となる[[フライ・バイ・ワイヤ]]技術が本格導入された{{sfn|Obert|2009|p=448}}{{sfn|山崎|2009a|p=93}}。フライ・バイ・ワイヤ方式では、パイロットの操縦操作は電気信号に変換されコンピュータに入力される{{sfn|青木|2003c|p=49}}。そしてコンピュータで計算処理された結果が電気信号として各操縦翼面のアクチュエータに伝達される{{sfn|青木|2003c|p=49}}。これにより、従来の操縦装置でコクピットから操縦翼面までを繋いでいたケーブル(索)やロッド、プーリーといった機械部品を削減でき、機体重量や整備負荷を軽減できる利点がある{{sfn|山崎|2009a|p=93}}{{sfn|青木|2003c|p=49}}。

旅客機のような機体サイズで機械式の操縦装置を用いる場合、操舵力を適切な範囲に収めるためには大型の[[操縦桿|操縦輪]]を正面に配置する方式が適している{{sfn|青木|2003c|p=52}}。これに対してフライ・バイ・ワイヤの場合は、操縦入力を電気信号に変換することから、操縦桿の形態や配置の自由度が高くなる{{sfn|青木|2003c|p=52}}。そこでA320では操縦輪に代わりサイドスティックが採用された{{sfn|青木|2003c|p=52}}。サイドスティックは操縦室の左右に配置され、機長は左手で、副操縦士は右手で操作することとなった{{sfn|青木|2003c|p=52}}。操縦室はいわゆる[[グラスコックピット]]化され、計器類は6面の[[ブラウン管|CRT]]ディスプレイに集約された{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=17}}。

フライ・バイ・ワイヤやサイドスティックの全面採用はA320の商品力向上にとどまらず、エアバスにとって戦略上の重要な意味を持っていた{{sfn|青木|2003c|p=49}}。エアバスは今後開発する全ての旅客機にA320と同様のシステムを搭載し、小型機から大型長距離機に至るまで操縦性を共通化する方針を立てていた{{sfn|青木|2003c|p=49}}{{sfn|山崎|2009a|p=93}}。従来の機械式の操縦系統では、機種ごとに異なる取り扱い特性を統一するのは困難であった{{sfn|青木|2003c|p=49}}。そこでエアバスは、コンピュータ制御の本格的なフライ・バイ・ワイヤ技術を導入することで、全機種の操縦操作や操縦感覚を揃えることにした{{sfn|青木|2003c|p=49}}。これにより、後に開発されるA320ファミリー機(派生型)の操縦資格は共通化され、さらに開発構想があったワイドボディ機の[[エアバスA340|A340]]や[[エアバスA330|A330]]への資格移行訓練も短時間で済むと見込まれる{{sfn|谷川|2016|loc=位置No. 1288}}{{sfn|青木|2003c|p=49}}{{sfn|山崎|2009a|p=93}}。小型機から大型機までをエアバス機で揃えれば航空会社は運航を大幅に合理化できるようになるため、エアバスの強力な強みとなる{{sfn|谷川|2016|loc=位置No. 1290}}。そして、フライ・バイ・ワイヤなどの革新技術を実用化する最初の機種として、A320は適していた{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=16}}。短距離機のA320は整備拠点の近郊で運航されることから、重大な不具合が見つかった場合に対処しやすいとエアバスは考えたのである{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=16}}。

コックピットの設計はフランスのアエロスパシアル社が担当した{{sfn|粂|1984|p=148}}。同社をはじめとするエアバス参加企業は、これまでに[[コンコルド]]でアナログ式フライ・バイ・ワイヤを実用化し、A310ではデジタルコンピュータの導入を実現しているほか、軍用機開発でも経験を蓄積していた{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=17}}{{sfn|Briere|Favre|Traverse|2001|loc=§12.1}}。さらにアエロスパシアル社はA320の開発が決まる前から、次世代コックピットの研究開発に取り組んでいた{{sfn|粂|1984|p=148}}。これらの経験や研究成果がA320のシステム開発に活かされた{{sfn|粂|1984|p=148}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=17}}{{sfn|Briere|Favre|Traverse|2001|loc=§12.1}}。エアバスはA300の3号機を試験機として、フライ・バイ・ワイヤ操縦システムの開発を行なった{{sfn|青木|2010|pp=52–53}}。サイドスティックについてもA300の試験機に実装され、航空会社のパイロットも含む多くの操縦士により延べ136時間の飛行試験が行われた{{sfn|青木|2010|pp=52–53}}{{sfn|青木|2018|pp=119–120}}{{sfn|Learmount|1983|pp=1987–1989}}。これらの評価の結果、問題がないとの結論が得られてA320への導入が決定した{{sfn|青木|2010|pp=52–53}}。

==== 構造・空力設計 ====
[[File:Swiss A320 front view.jpg|thumb|正面からみたA320。胴体断面の設計はA320ファミリーで共通である。]]
A320の機体構成は典型的な旅客機と同じく、低翼の主翼下に[[ターボファンエンジン]]を1発ずつ配置し、尾翼も通常配置となった{{sfn|青木|2003a|pp=55–56}}。A320の機体構造は、A300およびA310の開発を通じて得られたデータやノウハウを活用して設計された{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|p=12}}。そして、中短距離の運航に適した構造強度とし、腐食防止、構造品質の長期保証、整備性の向上、部品点数の削減が図られた{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|p=12}}。部材には改良型の[[アルミニウム合金]]や[[チタン合金]]が採用されたほか、[[複合材料]]の使用範囲も拡大された{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|p=12}}。

主翼の設計はイギリスのBAe社が担当した{{sfn|粂|1984|p=148}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=17}}。A320の設計上の巡航速度は、A300やA310より若干低く[[マッハ数|マッハ]]0.79から0.8に設定された{{sfn|Obert|2009|pp=259–260}}。航続距離は3,000[[海里]](約5,556キロメートル)と設定され、このサイズの旅客機としては短くない値だった{{sfn|Warwick|1986|p=90}}。

[[File:Iberia a320-200 planform ec-hyc arp.jpg|thumb|ウイング・チップ・フェンス装備のA320-200を下面からみる。]]
主翼の厚みは空力的には薄い方がよく、一方で翼内燃料タンク容量と構造強度を十分確保するためには厚い方が良い{{sfn|Warwick|1986|p=90}}{{sfn|Gavaghan|1987|pp=40–41}}。エアバスがA300で実用化したリア・ローディング翼型は様々な利点があったものの、翼の後方が薄いことから、A320の機体サイズでは[[高揚力装置|フラップ]]を取り付ける空間をいかに確保するかが課題となった{{sfn|Warwick|1986|p=90}}<ref>{{Citation |last1=徳永 |first1=進 |title=今だからこそ分かるA300の革新性 (特集 We Love エアバス) |journal=航空情報 |year=2009 |volume=59 |number=5 |publisher=酣燈社 |pages=86–89 |issn=04506669 |ref=harv}}</ref>。これらの要求を満たすよう、コンピュータによる三次元解析を活用して主翼が設計された{{sfn|Gavaghan|1987|pp=40–41}}。出来上がったA320の主翼は、翼厚比{{efn|name="wing_thickness"|翼の厚みを翼弦長(翼の前後の長さ)で割った値{{sfn|久世|2006|p=37}}。空力特性、強度と重量、翼内の燃料タンク容量などを踏まえて決定される{{sfn|李家|2011|p=135}}。}}こそA310と近い値だったものの、[[翼型]]は大きく異なり後縁側の厚みが確保された{{sfn|Warwick|1986|p=90}}。主翼の[[翼平面形|平面形]]は浅い後退角と大きなアスペクト比を持つこととなった{{sfn|青木|2018|p=116}}{{sfn|Obert|2009|pp=259–260}}。フラップはシンプルな1段のファウラー・フラップとし{{sfn|久世|2006|p=172}}{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=14–15}}、動翼には複合材料を多用することで軽量化が図られた{{sfn|青木|2018|p=116}}。

胴体断面は2つの円構造を結合した「ダブル・バブル構造」とし、単通路機として最も太い胴体幅とされた{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=15–17}}{{sfn|山崎|2009a|p=93}}。これにより機体重量が増えるものの、競合機より余裕のある客室と貨物室が実現した{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=16}}{{sfn|青木|2003a|p=57}}。さらに貨物室の扉を大型の外開きとして航空貨物コンテナを搭載可能にしたことで、貨物輸送の面でも競合機と差別化が図られた{{sfn|青木|2003a|p=58}}{{sfn|谷川|2016|loc=位置No. 1255}}。

[[File:Wingtip Fence Airbus A320.JPG|thumb|主翼端のウイング・チップ・フェンスは抗力を減らす効果がある。]]
A320の原型型は[[最大離陸重量]]が66トンで、乗客164人が搭乗した場合の航続距離は1,750海里(約3240キロメートル)という仕様であった{{sfn|Warwick|1986|p=87}}。これに対して、航空会社はもう少し航続距離を延ばすよう求めた{{sfn|帆足|2003|p=47}}。そこで、最大離陸重量を72トンに引きあげて主翼中央翼内に燃料タンクを追加するとともに主翼端に[[ウイングレット|ウイング・チップ・フェンス]]を装備して、航続距離を3,200海里(約5,930キロメートル)に延長するタイプが計画された{{sfn|Warwick|1986|p=87}}{{sfn|帆足|2003|p=47}}。原型型はA320-100、重量増加型がA320-200と名付けられた{{sfn|青木|2003a|p=55}}。

==== エンジン ====
エンジン選定はA320の開発初期における大きな課題だった{{sfn|青木|2003a|p=55}}{{sfn|帆足|2003|p=46}}。当初は150席級旅客機に相応しいエンジンが存在せず、[[CFMインターナショナル]](以下CFMI)社の[[CFMインターナショナル CFM56|CFM56-2]]エンジンをひとまず主候補とし、そのほか開発中のエンジン数種が候補に挙げられた{{sfn|帆足|2003|p=46}}{{sfn|粂|1984|p=148}}。その後CFM56の改良型となるCFM56-4の開発が決定したことで、1983年に同エンジンの採用が決まった{{sfn|粂|1984|p=148}}。先に述べたIAE社のV2500エンジンも1984年に開発が決定し、A320に採用されることになった{{sfn|Norris|1999|pp=22–23}}。ライバルとなるV2500が登場したことでCFMI社はCFM56-4では性能が不十分と判断し、推力を増強したCFM56-5に改めた{{sfn|Norris|1999|pp=22–23}}。これにより、A320の装備エンジンはCFM56-5とV2500の2種からの選択式となった{{sfn|青木|2010|pp=52–53}}。ボーイングやマクドネル・ダグラスの競合機は、エンジンが1種類のみの設定であり、この機体サイズではエンジンを選択できるのはA320のみであった{{sfn|青木|2018|p=116}}。

=== 生産と試験 ===
これまでのエアバス機と同じく参加国が一定の仕事を確保できるように、A320の生産でも国際分業体制が採られた{{sfn|青木|2014|p=154}}。A320の主要コンポーネントの生産分担は表1とおりとなった。このほか、BAe社の担当する主翼部品の一部はオーストラリアの企業が下請けで受注した{{sfn|粂|1984|p=152}}。生産の拠点となる最終組立地については、エアバス参加国間で駆け引きがあったものの、結局は従来通りフランスの[[トゥールーズ]]に決まった{{sfn|粂|1984|pp=146–148}}{{sfn|山崎|2009a|pp=93–94}}。ただし機体内装の組み付けはドイツの[[ハンブルク]]で行うこととなった{{sfn|青木|2010|p=133}}。

{| class="wikitable" style="font-size:91%; float:right;"
|+ {{nowrap|表1: 2010年頃におけるA320の主要コンポーネントの生産分担}}
|-
! 国名
! 企業名
! {{nowrap|生産分担部位}}
|-
|style="text-align:center;"| {{nowrap|フランス}}
|style="text-align:center;"| {{nowrap|[[アエロスパシアル]] }}
| 機首部および前部胴体(主翼前縁より前方)、中央翼、エンジンパイロン、客室扉、
|-
|style="text-align:center;"| {{nowrap|ドイツ<sup>†</sup>}}
|style="text-align:center;"| [[メッサーシュミット・ベルコウ・ブローム|MBB]]
| 中央および後部胴体、テイルコーン、主翼フラップ、垂直尾翼
|-
|style="text-align:center;"| {{nowrap|イギリス}}
|style="text-align:center;"| [[ブリティッシュ・エアロスペース|BAe]]
| 主翼本体(エルロンとスポイラー含む)、主脚フェアリング
|-
|style="text-align:center;"| {{nowrap|スペイン}}
|style="text-align:center;"| {{仮リンク|コンストルクシオネス・アエロナウティカス|label=CASA|en|Construcciones Aeronáuticas SA}}
| 水平尾翼、主脚フェアリング
|-
|style="text-align:center;"| {{nowrap|ベルギー}}
|style="text-align:center;"| ベルエアバス
| 主翼前縁スラット
|-
| colspan=3 style="text-align:left; font-size:90%;"|
* 出典:{{harvtxt|Warwick|1986|p=94}}、{{harvtxt|青木|2010|p=131}}
* †: 1990年の[[ドイツ再統一]]までは西ドイツ。
|}

[[File:F-GSTB - 2 Airbus A300B4-608ST Beluga Airbus (8634655670).jpg|thumb|[[エアバス ベルーガ|ベルーガ]]がA320の胴体前部を下ろしている様子。ベルーガはスーパーグッピー輸送機の後継として開発され、欧州の生産拠点感を結んでいる。]]
各国の工場で生産されたコンポーネントは、これまでのエアバス機同様に[[スーパーグッピー]]輸送機でトゥールーズまで空輸され組み立てられた{{sfn|青木|2010|pp=131–133}}<ref>{{Citation |title='It's quicker by rail' for A320 parts |date=1990-07-04 |journal=Flight International |page=14 |url=https://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1990/1990%20-%201876.html |accessdate=2019-09-30}}</ref>。ただしA320では、トゥールーズでの作業が完了すると機体は飛行可能になり、初飛行を行い通常はそのままハンブルクに移動する{{sfn|青木|2010|p=133}}。ハンブルクで内装作業を終えた機体は再びトゥールーズに飛行し、そこで顧客に引き渡されるという流れとなった{{sfn|青木|2010|p=133}}。

A320の初号機はCFM56エンジン装備型のA320-100で、1986年4月に最終組立が開始された{{sfn|青木|2010|pp=53–54}}{{sfn|帆足|2003|p=47}}。翌年2月14日にロールアウト式典が盛大に執り行われ、その5日後の1987年2月22日に初飛行に成功した{{sfn|山崎|2009a|pp=92–93}}{{sfn|青木|2010|pp=53–54}}。その後、[[型式証明]]取得のために4機体制で試験飛行が行われた{{sfn|青木|2010|pp=53–54}}。

飛行制御システムのソフトウェア開発においては、試験飛行の前に複数のシミュレータが用いられ、そのためにコックピットおよび油圧・電源系統を完全に再現したシミュレータも開発された{{sfn|Briere|Favre|Traverse|2001|loc=§12.6.2.3}}。そして最終的に飛行試験によりソフトウェアやシステム全体の検証が行われた{{sfn|Briere|Favre|Traverse|2001|loc=§12.6.2.3}}。飛行試験においてコンピュータの内部パラメータを記録したり、試験のための条件設定を行うため、専用の試験システムも開発され用いられた{{sfn|Briere|Favre|Traverse|2001|loc=§12.6.2.3}}。また、電子制御化されたことで心配された電磁干渉 (EMI) の試験も行われ、エアバスによると軍用艦の電波妨害を受けるような状況にでもない限りシステムに支障がないことが確認された{{sfn|青木|2003c|p=52}}。

これらの飛行試験を終えて1988年2月26日、A320のCFM56エンジン装備型に対して、欧州の合同航空当局 (Joint Aviation Authorities; JAA) から交付された{{sfn|青木|2010|pp=53–54}}。

=== 就航開始 ===
[[File:Airbus A320-100 Air France (AFR) F-GFKQ - MSN 002 (10655931213).jpg|thumb|エールフランスにより路線就航したA320-100。A320-100の生産は21機のみで、以降はA320-200となった。]]
1988年3月26日、A320の初引き渡しがエールフランスに対して行われた{{sfn|青木|2018|p=117}}<ref>{{Cite web |title=A320 family embarks on approach to 10,000 deliveries |date=2019-09-17 |work=Flightglobal |url=https://www.flightglobal.com/news/articles/a320-family-embarks-on-approach-to-10000-deliveries-460900/ |accessdate=2019-11-09 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20190921045532/https://www.flightglobal.com/news/articles/a320-family-embarks-on-approach-to-10000-deliveries-460900/ |archivedate=2019-09-21}}</ref>。同年4月18日、エールフランスはA320の商業運航を開始した{{sfn|Learmount|1988|p=133}}。次に予定されていた納入先はブリティッシュ・カレドニアン航空だったものの、A320の受領前に同社はブリティッシュ・エアウェイズに吸収合併されることになった{{r|fg-207006}}<ref>{{Citation |title=World Airline Directory |journal=Flight International |pages=39–131 |date=1991-03-27/04-02 |url=https://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1991/1991%20-%200721.html |accessdate=2019-10-04}}</ref>。これによりブリティッシュ・カレドニアンの発注分はブリティッシュ・エアウェイズに継承され、同社は1988年3月31に最初の機体を受領し、翌月に路線投入した{{r|fg-207006}}{{sfn|Learmount|1988|p=133}}。これまで、ブリティッシュ・エアウェイズは、エアバス参加国の[[フラッグ・キャリア]]で唯一エアバス機を導入していなかったが、こうしてエアバス運航者に加わった{{sfn|青木|2018|p=117}}。続いてエールアンテールへの納入も始まった{{sfn|Learmount|1988|p=133}}。競合機よりも広いA320の機内は乗客に好評だった{{sfn|Learmount|1989|p=57}}。

A320-100の納入と並行して重量増加型のA320-200は、1988年6月27日に初飛行している{{sfn|青木|2010|pp=53–54}}。CFM56エンジン装備型のA320-200は、1988年11月9日に型式証明を取得した{{sfn|EASA|2019|p=173}}。実際の注文はA3200-200に集中し、A320-100の生産は最初の21機のみで終わり、その後は全てA320-200となった{{sfn|青木|2018|p=116}}。これによりA320-200がA320の実質的な標準モデルとなり、その後も同モデルに対して改良が加えられることになる{{sfn|青木|2018|p=116}}。またV2500装備型はA320-200のみの生産となった{{sfn|青木|2010|pp=53–54}}。

A320の初号機は、最初の型式証明取得後にエンジンをV2500に換装し、1988年7月28日に同エンジンでの初飛行を行いそのまま試験飛行に従事した{{sfn|青木|2010|pp=53–54}}。1989年4月20日にV2500装備型もJAAの型式証明を取得した{{sfn|青木|2010|pp=53–54}}。V2500エンジン仕様の初納入は[[アドリア航空]]に対して行われ、間を置かずしてキプロス航空への納入も開始された<ref name=FI-1989-1620>{{Citation |title=V2500-powered A320 enters service |date=1989-06-03 |journal=Flight International |page=14 |url=https://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1989/1989%20-%201620.html |accessdate=2019-09-11}}</ref>。同年6月までに両航空会社によって、V2500仕様のA320も路線就航を開始した{{r|FI-1989-1620}}。

型式証明の取得直前に細かい修正が重なったため、納入初期には機体納期が遅延したり保守部品の供給が遅れたりといったトラブルも見られた{{sfn|Learmount|1988|p=133}}。それでも最初の約3か月間の運航信頼度は97パーセントを記録した{{sfn|Learmount|1988|p=133}}。形式証明の取得後に、エアバスは細かいものを含めて800件の改良を行った{{sfn|Learmount|1989|p=56}}。その中で1件のみ、強制力のある[[耐空証明|耐空性改善命令]]に至った{{sfn|Learmount|1989|p=56}}。その内容は飛行システムの電源系統に関する問題で、電源供給ユニットの交換が行われた{{sfn|Learmount|1989|p=56}}。そのほかにはCFM56エンジン装備型では離陸時に客室前方で不快な騒音が響くことが問題視され、エアバスは対処に追われた{{sfn|Learmount|1989|p=57}}。

=== 好調な受注 ===
1986年4月のロールアウト時点において、A320には15社から450機を超える受注が集まっていた{{sfn|山崎|2009a|pp=92–93}}。そして同年10月には、[[ノースウエスト航空]]から100機のA320を受注した{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=17}}{{sfn|山崎|2009b|p=95}}。米国の主要な航空会社がエアバス機を大量発注したことに、米国の航空機メーカーは衝撃を受けた{{sfn|山崎|2009b|pp=95–97}}。慌てたボーイングは金額を空白にした737の注文書をノースウエスト社長に送付したとも言われるが、ノースウエストを翻意させることはできなかった{{sfn|山崎|2009b|pp=95–97}}。

ただし、燃料価格は1980年代初頭の予測ほどは上昇しなかったことから、A320の直接運航費は期待したほど有利とはならず、機体価格の安い既存機を選択する航空会社も多かった{{sfn|久世|2006|p=172}}。A320の仕様策定に影響を与えたデルタ航空は[[マクドネル・ダグラス MD-80|MD-80]]を、ユナイテッド航空は737を選択していた{{sfn|久世|2006|p=172}}。それでも1992年には、3年越しの交渉の末にユナイテッド航空から大量受注を獲得し、エアバスは米国市場に本格進出を果たした{{sfn|山崎|2009b|pp=95–97}}。

A320が北米で受け入れられたのは、機体そのものが魅力的だったこともあるが、エアバスが戦略的な価格を提示したためだとの指摘もある{{sfn|山崎|2009b|pp=96–97}}。提示価格はカタログ価格の4割引とも言われ、エアバスに金融支援していたイギリス政府から苦情が出るほどだった{{sfn|山崎|2009b|pp=96–97}}。しかしこれは単なる安売りではなく、開発計画が進行していた双通路機のA340やA330の商談に繋げるためのエアバスの戦略であった{{sfn|山崎|2009b|pp=96–97}}。

=== ファミリー機の開発 ===
エアバスは1987年にはA320の派生型開発の検討に着手していた{{sfn|山崎|2009a|pp=93–94}}。A320を基準として胴体を延長するタイプと短縮するタイプが研究された{{sfn|山崎|2009a|pp=93–94}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=16}}。すでにA340とA330の同時開発が始まっていたことから、A320の派生型開発には最小限のエンジニアが投入された{{sfn|山崎|2009a|pp=93–94}}。

==== A321 ====
[[File:D-AIRN (7065101303).jpg|thumb|A320に続いて開発された長胴型のA321。]]
{{see also|エアバスA321#沿革}}
まず長胴型の開発を進めることになり、1988年5月に正式な受注活動を開始した{{sfn|山崎|2009a|pp=93–94}}<ref name=FI-1989-1628>{{Citation |last=Sedbon |first=Gilbert |title=Airbus offers A320 stretch |journal=Flight International |volume=135 |number=4157 |date=1989-06-03 |page=22 |url=https://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1989/1989%20-%201628.html |accessdate=2019-06-12}}</ref>。1989年6月に[[航空機リース]]を手がける[[インターナショナル・リース・ファイナンス]] (ILFC) が16機の発注を決め、これが最初の受注となった{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=18}}。続いて同年9月22日には[[ルフトハンザドイツ航空]]がオプションを含めて42機を発注<ref>{{Citation |title=Lufthansa Technik The History |publisher=Lufthansa Technik AG |year=2015 |pages=38–39 |url=https://www.lufthansa-technik.com/c/document_library/get_file?uuid=75513294-31c9-47d2-9456-456bdec90f22 |accessdate=2019-06-25}}</ref>したことで、11月24日に長胴型をA321と命名して正式開発が決定した{{sfn|青木|2010|pp=54–55}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=18}}。

A321では胴体が4.27メートル延長され、2クラス構成の標準座席数は185席とされた{{sfn|Moxon|1993|pp=37, 40}}{{sfn|青木|2018|pp=119–120}}。胴体延長と機体重量の増加に伴い[[揚力]]を強化するため、主翼の[[高揚力装置|フラップ]]が新規設計され、ダブル・スロッテッド・フラップ(二重隙間フラップ)に置き替えられた{{sfn|Moxon|1993|pp=37, 40}}{{sfn|Rudolph|1996|pp=72–74}}。エンジンはA320と同様にCFMI社のCFM56とIAE社のV2500の選択式となり、機体の大型化に合わせて両エンジンとも推力増強型が設定された{{sfn|青木|2003a|pp=60–61}}。その他は、A320からの変更点を最小にするよう設計され、主翼の大半、尾部、胴体断面はA320と共通化された{{sfn|Moxon|1993|pp=36–40}}。飛行システムはA320のものを基本とし、空力特性に合わせて若干の修正が加えられた{{sfn|Moxon|1993|p=40}}。

A321の最終組立地は、エアバス機として初めてフランスを離れ、ドイツのハンブルクに決まった{{r|FI-1990-0274}}<ref name=FI-1990-0274>{{Citation |title=A321 victory for West Germany |journal=Flight International |volume=137 |number=4202 |date=1990-02-07/13 |page=14 |url=https://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1990/1990%20-%200274.html |ref=harv}}</ref>。また、A321は各国政府の資金援助を受けずに開発された初のエアバス機となった{{sfn|Moxon|1993|p=36}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=18}}。

A321の初飛行は1993年3月11日に行われ、同年12月17日に最初の型式証明がJAAから交付された{{sfn|青木|2010|pp=54–55}}。A321は翌年1月に顧客引き渡しが開始され、同年3月にルフトハンザ航空と[[アリタリア航空]]によって路線就航を開始した{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=18}}<ref name=FI-1994-0252>{{Citation |title=Airbus delivers first production A321 |date=1994-02-02/08 |volume=145 |number=4406 |journal=Flight International |page=6 |url=https://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1994/1994%20-%200252.html |accessdate=2019-06-11}}</ref><ref name=WAD2003>{{Citation |last1=Kingsley-Jones |first1=Max |title=Speed Limit |date=2003-10-21/27 |journal=Flight International |pages=47–57 |url=https://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/2003/2003%20-%202373.html |accessdate=2019-07-01 }}</ref>。続いてA321には貨物コンテナ型の燃料タンクを増備することで航続力を強化した派生型が開発され、当初仕様はA321-100、航続距離延長型はA321-200と名付けられた{{sfn|青木|2003a|p=61}}{{sfn|青木|2010|pp=54–55}}。

==== A319 ====
[[File:SX-EMB Airbus A319-100 Ellinair.JPG|thumb|ファミリー3機種目となった短胴型のA319。]]
{{see also|エアバスA319#沿革}}
短胴型についても並行して研究が進み、1992年5月1日にエアバスの取締役会で販売活動を開始することが承認された{{sfn|青木|2003a|p=62}}<ref>{{Citation |title=A319 receives go-ahead |date=1992-05-06 |journal=Flight International |url=https://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1992/1992%20-%201148.html |accessdate=2019-07-31}}</ref>。しかし、エアバスを構成する各国政府・企業間で最終組立地をどこにするか合意に手間取り、正式開発の決定は1993年6月10日にずれ込んだ{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=18}}{{sfn|青木|2010|pp=54–55}}。結局、A319の最終組立地はハンブルクとなり、A320の組立地は引き続きトゥールーズとなった{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=18}}{{sfn|山崎|2009a|p=94}}。

胴体は3.73メートル短縮され、標準座席数は2クラス構成で124席とされた{{sfn|Moxon|1995|pp=55–58}}{{sfn|青木|2003a|p=62}}。胴体長や収容力の減少に合わせて、貨物扉や緊急脱出口の配置が変更された{{sfn|Moxon|1995|pp=55–58}}。エンジンはCFM56とV2500から選択でき、小型化された機体に合わせて両エンジンとも推力抑制型が設定された{{sfn|青木|2003a|p=62}}。そのほかの構造やシステムは、可能な限りA320と共通化された{{sfn|Moxon|1995|pp=55–58}}。

A319は1995年8月25日に初飛行し、約650時間の飛行試験を経て1996年4月10日にJAAから最初の型式証明を取得した{{sfn|青木|2018|p=121}}。A319の最初の引き渡しは同月中にスイス航空に対して行われ、翌5月に路線就航を開始した{{sfn|青木|2018|p=121}}<ref name=FI-1996-1106>{{Citation |title=Eurowings boosts charter business with A319 order |date=1996-05-08 |journal=Flight International |page=10 |url=https://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1996/1996%20-%201106.html |accessdate=2019-07-06 }}</ref>。

==== ACJ319 ====
1996年6月のパリ航空ショーにおいて、エアバスはA319をベースとした[[ ビジネスジェット]]を開発すると発表した{{sfn|青木|2003a|pp=62–63}}。旅客機ベースの余裕のある客室を活かして長距離ビジネス機市場に進出することにしたのである{{sfn|青木|2003a|pp=62–63}}{{sfn|山崎|2009a|p=94}}。エアバスは、同社のビジネスジェット機を「[[エアバス コーポレートジェット|エアバス・コーポレート・ジェット]]」と名付け、A319ベースの機体はA319CJあるいはACJ319と呼ばれた<ref>{{Citation |last=Moxon |first=Julian |title=Uncharted territory |date=2000-10-10/16 |volume= |number= |pages=42–44 |journal=Flight International |url=https://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/2000/2000-1%20-%201324.html |accessdate=2019-04-12 |ref=harv}}</ref>{{sfn|青木|2003a|pp=62–63}}。ACJ319の初号機は1998年11月12日に初飛行し、翌年1月に顧客に初引き渡しされた{{sfn|青木|2003a|pp=62–63}}。のちにACJはA320ファミリー全体に展開され、A320とA321をそれぞれベースにACJ320、ACJ321が開発されたほか、この後開発されるA318をベースとしたACJ318も登場した<ref>{{Cite web |title=DUBAI: Airbus secures order for first ACJ321 |date=2011-11-15 |work=Flightglobal |url=https://www.flightglobal.com/news/articles/dubai-airbus-secures-order-for-first-acj321-364858/ |accessdate=2019-11-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20120204104425/https://www.flightglobal.com/news/articles/dubai-airbus-secures-order-for-first-acj321-364858/ |archivedate=2012-02-04}}</ref>。

==== A318 ====
[[File:B-6188 - China Sonangol International - Airbus A318-112(CJ) Elite - PEK (17016095436).jpg|thumb|A319をさらに胴体短縮して開発されたA318。]]
{{see also|エアバスA318#沿革}}
A319より小型の旅客機については、エアバスは当初は独自開発しない方針を立てていた{{sfn|青木|2003a|p=64}}。1990年代前半に、座席数100席程度の旅客機を国際共同開発する構想がいくつか立ち上がり、その中で欧州とアジアの企業が共同で「エイジアン・エクスプレス」を開発する計画がまとまった{{sfn|青木|2003a|p=64}}{{sfn|Kingsley-Jones|1999|p=150}}。この「エイジアン・エクスプレス」計画にエアバスも参画し、操縦システムや操縦資格はA320と共通化することとなった{{sfn|青木|2003a|p=64}}。しかしエイジアン・エクスプレスは機体を完全に新規設計する計画であり、それに伴う事業リスクの高さが表面化したことで事業として行き詰まってしまった{{sfn|Kingsley-Jones|1999|pp=150, 153}}{{sfn|青木|2003a|p=64}}<ref name=FI-1998-1808>{{Citation |last1=Moxon |first1=Julian |last2=Lewis |first2=Paul |title=Airbus Industrie and AVIC abandon AE31X |date=1998-07-08/14 |magazine=Flight International |url=https://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1998/1998%20-%201808.html |accessdate=2019-04-12}}</ref>。結局エアバスはA319の胴体をさらに短縮して100席級の旅客機を独自開発することにした{{sfn|青木|2003a|p=64}}。

新たな短胴型はA318と命名され、1999年4月26日に正式に開発が決まった{{sfn|Kingsley-Jones|2003|pp=79–80}}。A318はA319よりも2.39メートル胴体が短縮され、それに伴い方向安定性を維持するため[[垂直尾翼]]が延長された{{sfn|青木|2010|pp=55–56}}。合わせて貨物扉が小型化され、貨物コンテナは搭載できなくなった{{sfn|青木|2010|pp=55–56}}。エンジンはCFM56の推力抑制型と、[[プラット・アンド・ホイットニー]] (P&W) 社が新規開発した[[プラット・アンド・ホイットニー PW6000|PW6000]]が設定された{{sfn|青木|2010|pp=55–56}}{{sfn|青木|2003a|p=65}}。

A318は2002年1月15日に初飛行し、2003年5月23日に最初の型式証明をJAAから取得した{{sfn|青木|2018|p=122}}。同年7月に[[フロンティア航空]]が初受領して路線就航を開始した{{sfn|青木|2018|p=122}}。

=== 双通路機との共通化 ===
[[File:Cyprus Airways Airbus A320-232; 5B-DCH@ZRH;30.09.2011 619eb (6206539801).jpg|thumb|A380(奥)とA320(手前)。A320ファミリーとA380の開発により、エアバスは100席級から500席超級までの旅客機ラインナップを実現した。]]
A320ファミリーの拡充と並行して双通路機のA340とA330も完成し、1993年に航空会社への引き渡しが始まっていた{{sfn|青木|2018|pp=100–108}}。さらにエアバスは、2000年代前半にA340の第2世代となるA340-500/-600を完成させたほか、客室を総2階建てとした巨人機[[エアバスA380|A380]]を開発して2007年に路線就航させた{{sfn|青木|2010|pp=26–57}}{{sfn|青木|2018|pp=100–108}}{{sfn|谷川|2016|loc=位置No. 1836}}。A320以降に開発されたこれらの機種には、高い共通性を持つフライ・バイ・ワイヤ・システムが実装された{{sfn|van Dijk|Vadrot|2016|pp=4–5}}{{sfn|谷川|2009|p=94}}。そして操作装置や表示装置の配置や表示、操作方法を可能な限り同一化させ、基本的に同一の操縦席仕様を実現した{{sfn|青木|2003b|pp=102–103}}。これによりA320ファミリー各機は同一の乗務資格となった{{sfn|van Dijk|Vadrot|2016|pp=5–6}}。加えて[[相互乗員資格]] (Cross Crew Qualification; CCQ) と呼ばれる資格制度がつくられたことで、エアバス機は100席級のA318から500席超級のA380まで、数日から2週間程度の短期間の訓練で操縦資格の移行が可能となった{{sfn|van Dijk|Vadrot|2016|pp=5–11}}{{sfn|山崎|2009a|p=93}}。そして2007年までにはA300とA310の生産が終了したことで、エアバスが生産する旅客機は全てCCQの対象となった{{sfn|谷川|2009|p=94}}。

=== 競合機との競争とLCCへの広がり ===
[[File:UnitedandVA 32315 (16735062459).jpg|thumb|737-800(手前)と並んで飛行するA320(奥)。A320ファミリーと737シリーズは単通路機市場で直接対決している。]]
1990年代の後半にかけて、米国の航空機メーカーも相次いで単通路機の次世代化を行いA320に対抗した{{sfn|久世|2006|pp=128–129}}。マクドネル・ダグラスは[[マクドネル・ダグラス MD-80|MD-80]]をベースにV2500エンジンを搭載して近代化した[[マクドネル・ダグラス MD-90|MD-90]]を開発した{{sfn|久世|2006|p=128}}。ボーイングも737のエンジン更新した[[ボーイング737 ネクストジェネレーション|737NG]] (Next Generation) を開発した{{sfn|久世|2006|p=129}}。小型の単通路機は双通路機よりも利幅が小さいことから、ボーイングもマクドネル・ダグラスも完全新規開発をためらい、既存機の改良の道を選んだ{{sfn|山崎|2009b|pp=96–99}}{{sfn|久世|2006|pp=128–129}}。これに対してエアバスは、A330やA340とシステムを共通化して開発費を分散させたことで、A320のような単通路機にも最新鋭のシステムを実装することに成功した{{sfn|青木|2010|pp=36–37, 52}}。

A320ファミリーの納入数は、1991年と1992年に年間100機を超え、それ以降も毎年50機以上を記録した{{sfn|日本航空機開発協会|2019|p=II-8}}。そして1999年にはA320ファミリーの総納入数が1,000機を超え、4月15日に1,000号機と1,001号機の引き渡しセレモニーが行われた<ref>{{Citation |title=年間展望 (1999) —航空関係・宇宙関係— |journal=日本航空宇宙学会誌 |year=2000 |volume=48 |number=554 |pages=207–225 |doi=10.14822/kjsass.48.554_207 |ref=harv}}</ref>。1999年以降の毎年の納入数は、A320単体で100機、ファミリー全体で200機を上回るようになった{{sfn|日本航空機開発協会|2019|p=II-8}}。

1990年代には、ノースウエスト航空やユナイテッド航空をはじめとして米国の大手・中堅航空会社が相次いでA320ファミリーを導入した{{sfn|古庄|2003|p=112}}。次第に米国でもA320の乗務資格を有するパイロットやA320の整備経験を積んだ整備士が育ち、2000年代に入る頃には、新興のいわゆる[[格安航空会社]] (LCC) でもA320ファミリーの運航体制を整えパイロットや整備士を確保できる環境ができつつあった{{sfn|古庄|2003|p=112}}。また、A320は中古機市場でも人気があり、[[航空機リース]]を行う上で有利な機材となったことで、資金が限られる新興航空会社でもリースでA320を導入しやすい状況であった{{sfn|古庄|2003|pp=110–112}}。このような状況下で、2000年2月に運航開始した米国の[[ジェットブルー航空]]は、A320を採用し3年間で40機にまで運用数を拡大した{{sfn|古庄|2003|pp=110–112}}。続いて[[フロンティア航空]]も2001年にA319を導入し、ファミリー機の採用を拡大していく{{sfn|古庄|2003|p=112}}。欧州の格安航空会社でもA320ファミリーが選ばれるようになった{{sfn|山崎|2009b|pp=98–99}}。

[[File:N414NV Allegiant Air 1989 McDonnell Douglas MD-88 - cn 49766 - ln 1657 - XA-VOM Volaris 2008 Airbus A320-233 - cn 3624 (15328493965).jpg|thumb|A320(飛行中)とMD-80(地上)。2002年に、A320ファミリーとマクドネル・ダグラスの単通路機シリーズの運航数が逆転した。]]
この頃、これまでコンソーシアム(共同事業体)の形態とっていたエアバス・インダストリーは、2001年1月1日付で統合企業に改められ社名も単に「エアバス」となった{{sfn|青木|2010|p=127}}{{sfn|谷川|2016|loc=位置No. 1752}}。同年、A320単体の累計納入数が1,000機を超えた{{sfn|日本航空機開発協会|2019|p=II-8}}。そして翌2002年には年間納入数でA320ファミリーは737シリーズを上回り{{sfn|日本航空機開発協会|2019|pp=II-7, II-8}}、運航機数においては、A320ファミリーはマクドネル・ダグラスの単通路機シリーズ ([[マクドネル・ダグラス DC-9|DC-9]]/[[マクドネル・ダグラス MD-80|MD-80]]/[[マクドネル・ダグラス MD-90|MD-90]]) を抜いた{{sfn|日本航空機開発協会|2019|pp=II-15–II-18}}。2003年に、A320ファミリーの累計納入数は2,000機に到達した{{sfn|日本航空機開発協会|2019|p=II-8}}。

=== 中国での生産開始 ===
エアバスは生産力の増強を図りつつ中国市場へも攻勢をかけるため、欧州以外で初となる最終組立拠点を中国の[[天津市|天津]]に開設することを決めた{{sfn|山崎|2009b|p=99}}{{r|aw-8125}}。2005年12月にエアバスと中国政府が工場建設の覚書を締結し{{r|aw-8125}}、工場は2007年5月に着工、2008年8月に稼働を開始して、9月に正式オープンした{{sfn|青木|2010|p=133}}{{r|aw-8125}}。天津工場製の初号機は2009年5月18日に初飛行し、同年6月23日に顧客へ納入された{{sfn|青木|2010|p=133}}。天津で完成した機体は、当初は中国の航空会社向けであったが、後に一部アジアの航空会社へも納入されるようになった{{sfn|青木|2010|p=133}}{{r|aw-8125}}。

2009年3月時点で、A320ファミリー全体の累計受注数は6,313機で、納入数は3,764機であった{{sfn|山崎|2009a|pp=90–91}}。発注者の地域別内訳は北米が1,988機、欧州が1,763機、アジアが1,595機であり、地域間の大きな偏りがなく販売された{{sfn|山崎|2009a|pp=90–91}}。

=== 様々な改良 ===
A320-200の登場時に72トンであった最大離陸重量は、その後段階的に引き上げられ、73.5トンや77トン、78トンといった仕様が設定された{{sfn|青木|2010|pp=53–54}}。離陸重量の増加分は燃料搭載量の増加にあてられ、それに伴い標準航続距離が延長された{{sfn|青木|2010|pp=53–54}}。エンジンも改良が加えられ、燃費や環境性能の向上が進められた{{sfn|青木|2018|pp=117–118}}。[[数値流体力学|計算流体力学]]の技術を用いて空力面の改良も加えられ、翼と胴体をつなぐフェアリングやエンジン・パイロンの形状などが変更された{{sfn|青木|2018|pp=117–118}}。飛行システムも改良され、継続降下進入 (CDA) 方式{{efn|name="CDA"|継続降下進入や広域航法(エリア・ナビゲーション)は、燃料消費や騒音の低減に繋がるとされる新しい運航方式である<ref>{{Citation |last1=Hogenhuis |first1=RH |last2=Heblij |first2=SJ |last3=Visser |first3=HG |title=Optimization of RNAV noise abatement arrival trajectories |year=2008 |publisher=National Aerospace Laboratory NLR |ref=harv}}</ref><ref>{{Citation|last1=Ozlem |first1=Sahin |last2=Onder |first2=Turan |title=Evaluation of Aircraft Descent Profile |journal=Energy Procedia |year=2016 |volume=95 |pages=308–313 |issn=1876-6102 |doi=10.1016/j.egypro.2016.09.011 |ref=harv}}</ref>。}}や[[広域航法]]に対応する機能が追加され、より効率的な運航の実現が図られている{{sfn|青木|2010|pp=56–57}}{{sfn|青木|2018|pp=117–118}}。客室についても頭上の手荷物収容スペースが改良され容積効率が改善されたほか、内装の更新により室内空間が拡大された{{sfn|青木|2010|pp=56–57}}。客室の照明・空調を管理したりメッセージ放送を行ったりする客室乗務員向けの業務システムも導入された{{sfn|青木|2018|p=117}}。

代替飛行場から離れた経路を飛行可能となる[[ETOPS]]要件の適用範囲も順次拡大され、2004年3月に[[欧州航空安全機関]](以下、EASA)から、2006年5月には米国[[連邦航空局]](以下、FAA)からA319、A320、A321に対して180分のETOPSが認められた{{r|fg-206544}}{{sfn|EASA|2019|pp=52, 102, 145}}。続いて2006年11月には、A318についてもEASAより180分のETOPSが認められた{{r|fg-206544}}{{sfn|EASA|2019|p=164}}。

[[File:Máy bay Airbus A320 thế hệ mới Sharklet của Jetstar Pacific.jpg|thumb|シャークレットを装備したA320。]]
その後もさらなる燃費低減を進め、2009年11月にはウイング・チップ・フェンスに替えて新しい[[ウイングレット|翼端装置]]を採用することが発表された{{sfn|青木|2018|p=118}}。この翼端装置は、主翼端が上方に折り曲げられて大型のフィン状をしており「シャークレット」と名付けられた{{sfn|青木|2018|p=118}}{{sfn|青木|2010|pp=56–57}}。エアバスは、飛行距離が2,000海里(3,704キロメートル)程度の場合に、シャークレットを装備することで燃料消費を3.5パーセント低減できるとした{{sfn|青木|2018|p=118}}。2010年から2011年にかけてシャークレットの開発や試作が進められた{{sfn|青木|2018|p=118}}。そしてA320の初号機にシャークレットが装着され、2011年11月30日に飛行試験を開始した{{sfn|青木|2018|p=118}}。シャークレット装備仕様は、2012年11月30日にEASAから最初の型式証明を取得し、翌月21日に[[エアアジア]]に初納入された{{sfn|青木|2018|p=118}}{{sfn|EASA|2019|p=10}}<ref>{{Cite web |title=エアアジア、シャークレット付きA320初号機を受領 |date=2012-12-26 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/13511 |accessdate=2019-10-17 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20130612024858/https://www.aviationwire.jp/archives/13511 |archivedate=2013-06-12}}</ref>。シャークレットはA318を除くA320ファミリー機に設定され、2014年の納入機から原則としてシャークレットが標準仕様となった{{sfn|青木|2018|p=118}}。

=== 後継機の検討 ===
A320の改良と並行して、エアバスはA320の後継機をどうするか研究を進めていた{{sfn|青木|2011|p=38}}{{sfn|青木|2013|p=36}}。後継機の考え方は大きく分けて2つあり、一方は完全な新設計機を開発する案、もう一方はA320に新エンジンを搭載し新世代化を図る案であった{{sfn|青木|2011|p=38}}{{sfn|青木|2013|p=36}}。

新設計する案は[[エアバスNSR|NSR]] (New Short Range) と名付けられ、主翼や胴体構造への複合材料の採用、最新の空力設計、[[エンハンスト・ビジョン・システム]]といった最新のアビオニクスの導入などが検討された{{r|fg-204506}}。この頃、A320や737のサイズの旅客機向けに次世代エンジンの研究がいくつか進んでいた{{sfn|青木|2011|pp=38–39}}{{sfn|青木|2013|p=36}}。これらの次世代エンジンは、[[プロップファン|オープンローター]]あるいは大直径ファンを有することから、新たな機体設計を要した{{sfn|青木|2011|pp=38–39}}{{sfn|青木|2013|p=36}}。次世代エンジンの実用化時期は早くて2025年ごろと見積もられたが、これでは2010年代の就航を目指していたNSR計画には間に合わず、かといって既存エンジンでNSRを開発した場合は次世代エンジンの登場によりNSRがすぐに旧式化してしまうことが懸念された{{r|WAD2008}}{{sfn|青木|2011|pp=38–39}}{{sfn|青木|2013|p=36}}。

このような状況で、エアバスは多額の開発費を要する新規開発は行わず、A320を新世代化改良することを決めた{{sfn|青木|2011|pp=38–39}}{{sfn|青木|2013|p=36}}。具体的にはA320の機体設計はそのまま活用し、当時最新の高効率エンジンに刷新することとなった{{sfn|青木|2011|pp=38–39}}。エアバスはこの改良型をA320neoと名付け、2010年12月1日に正式開発の決定を発表された{{sfn|青木|2018|p=123}}。「neo」は「'''N'''ew '''E'''ngine '''O'''ption」(新エンジン選択型の意)の[[頭字語]]と「新しい」という意味の[[ギリシア語]]「neo」をかけたものである{{sfn|青木|2018|p=123}}。そしてneoの登場に伴い、従来型のA320ファミリーはA320ceo('''C'''urrent '''E'''ngine '''O'''ption; 現行エンジン選択型の意)と呼ばれ区別されることとなった{{sfn|青木|2018|p=123}}。

A320と競合する737についても同様の後継機問題を抱えていた{{sfn|青木|2011|pp=38–39}}。ボーイングは新設計の単通路機を研究していたものの最終的には既存機の改良を選び、2011年8月30日に[[ボーイング737MAX|737MAX]]の開発を決定した{{r|fg-204506}}<ref>{{Cite web |title=Boeing firms up 737 replacement studies by appointing team |date=2006-03-03 |work=Flightglobal |url=https://www.flightglobal.com/news/articles/boeing-firms-up-737-replacement-studies-by-appointing-205223/ |accessdate=2019-10-17 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20190729053722/https://www.flightglobal.com/news/articles/boeing-firms-up-737-replacement-studies-by-appointing-205223/ |archivedate=2019-07-29}}</ref>{{sfn|青木|2011|pp=38–39}}。こうして単通路機の市場競争は新たな段階に入ったが、9か月先行する形となったA320neoは、737MAXの発表までにリース会社を含む14社から900機を超える大量受注を獲得していた{{sfn|青木|2011|pp=38–40}}。

=== A320neoの開発 ===
[[File:Airbus A320neo landing 01 crop.jpg|thumb|初飛行で撮影されたA320neo。]]
[[File:D-AINU Lufthansa A320neo FRA (46842880205).jpg|thumb|PW1100G装備型のA320neo。エンジン直径が大きくなったが、地上とのクリアランスが確保されており降着装置は従来と同様である。]]
A320neoは名前の通り装備エンジンが最新のターボファンエンジンに一新された{{sfn|青木|2013|pp=37–39}}{{sfn|青木|2018|pp=123–124}}。設定されたエンジンは、[[プラット・アンド・ホイットニー]] (P&W) 社の[[プラット・アンド・ホイットニー PW1000G|ピュアパワーPW1100G]]シリーズと、CFMI社の[[CFMインターナショナル LEAP|LEAP-1A]]シリーズの2種類である{{sfn|青木|2013|pp=37–39}}。両エンジンとも直径が大きなファンを備えてバイパス比{{r|group="注釈"|bypass}}を上げることで、燃費性能の向上が図られた{{sfn|Hensey|Magdalina|2018|p=2}}。

PW1100Gは、ピュアパワーPW1000Gシリーズの中の1タイプである{{sfn|青木|2018|pp=123–124}}。PW1100Gはファンの回転数を最適化するため減速機を備えており[[ギヤードターボファンエンジン]]とも呼ばれる{{sfn|青木|2013|pp=37–39}}{{sfn|青木|2018|pp=123–124}}。これにより12:1という非常に高いバイパス比{{r|group="注釈"|bypass}}を実現した{{sfn|青木|2018|pp=123–124}}。エアバスは、2008年10月に開発中のPW1000エンジンをエアバス社有のA340-600に装備して飛行試験を行い、P&W社の開発作業を支援していた{{sfn|青木|2018|pp=123–124}}<ref>{{Cite web |title=Airbus-owned A340 flies P&W geared turbofan engine |date=2008-10-14 |work=Flightglobal |url=https://www.flightglobal.com/news/articles/airbus-owned-a340-flies-pw-geared-turbofan-engine-317447/ |accessdate=2019-10-23 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20190112001910/https://www.flightglobal.com/news/articles/airbus-owned-a340-flies-pw-geared-turbofan-engine-317447/ |archivedate=2019-01-12}}</ref>。この時点でエアバスはPW1000エンジンの導入は未定だとしていたが、結果的にA320neoに採用されることになった{{sfn|青木|2018|pp=123–124}}。

LEAP-1Aは、CFM56の後継エンジンとして、2008年7月に正式開発が開始された{{sfn|青木|2018|pp=123–124}}{{sfn|Hensey|Magdalina|2018|p=2}}。こちらはファンの減速機を持たないものの、最新の材料技術や空力設計技術により、エンジンコア{{efn|name="core"|コアとは、ターボファンエンジンのエンジン駆動力を発生させる内燃機関部のこと{{r|encyclopedia-31}}。詳細は[[ターボファンエンジン]]を参照。}}を小型化・高効率化したりファンを最適化したほか、システムにも改良を加えることで燃費性能の向上が図られた{{sfn|青木|2018|pp=123–124}}{{sfn|青木|2013|pp=37–39}}<ref>{{Citation |author=European Aviation Safety Agency (EASA) |title=EASA Type-Certificate Data Sheet No. E.110 |date=2019 |version=Issue 08 |publisher=EASA |url=https://www.easa.europa.eu/documents/type-certificates/engine-cs-e/easae110 |accessdate=2019-06-21}}</ref>{{sfn|Hensey|Magdalina|2018|p=2}}。

A320neoの両エンジンは、A320ceoのエンジンと比べてファンの直径が数十センチメートルほど拡大しているが、エアバスはカウリング下端と地面の間には必要な距離が確保できるとして、[[降着装置]]の延長などは行われなかった{{sfn|青木|2018|p=124}}{{sfn|青木|2013|pp=37–39}}。限られた期間で開発するため、新エンジンの[[カウル]]の設計には3次元モデルによるデジタル・モックアップが積極的に用いられた{{r|procedia}}。

エンジン以外の基本的な機体設計はA320ceoファミリーのものが踏襲され、設計の95パーセントが共通とされた{{sfn|青木|2018|p=123}}{{r|WAD2015}}。A320neoでは、主翼のシャークレットが標準装備となった{{sfn|青木|2018|p=123}}。

エアバスはA320neoの開発と合わせてA320ceoのさらなる改良も行なっていた。
neoとceoの双方に適用された改良として、スペースフレックス (Space-Flex) と名付けられた新客室レイアウトや、客室照明の完全LED化、コックピットへの[[ヘッドアップディスプレイ]] (HUD) 導入があげられる{{sfn|青木|2018|pp=117–120}}{{sfn|Hensey|Magdalina|2018|p=2}}。スペースフレックスでは、機体後部の[[ギャレー]]とトイレのスペースを圧縮することで、座席数を6席増やすことが可能になった<ref>{{Cite web |title=INTERIORS: Airbus gains traction with Space-Flex concept |date=2015-04-13 |work=Flightglobal |url=https://www.flightglobal.com/news/articles/interiors-airbus-gains-traction-with-space-flex-concept-410192/ |accessdate=2019-10-23 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20150810222756/http://www.flightglobal.com/news/articles/interiors-airbus-gains-traction-with-space-flex-concept-410192/ |archivedate=2015-08-10}}</ref>{{sfn|Hensey|Magdalina|2018|p=2}}。ヘッドアップディスプレイは機長席と副操縦席にそれぞれ装着でき、新造機にオプション設定されたほか、既存機への装着改修も可能とされた{{sfn|青木|2018|pp=119–120}}。

A320neoの初号機はPW1100Gエンジン装備型で、2014年9月25日にトゥールーズで初飛行した{{r|WAD2015}}<ref>{{Cite web |title=エアバス、A320neoの初飛行成功 |date=2014-09-26 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/46398 |accessdate=2019-09-16}}</ref>。翌2015年5月19日には、LEAP-1A装備型も初飛行した<ref>{{Cite web |title=A320neo、LEAP-1A搭載機が初飛行 CFMの新エンジン |date=2015-05-20 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/61618 |accessdate=2019-09-16}}</ref>。同年11月24日、まずPW1100G仕様に対してA320neoの最初となる型式証明がEASAとFAAより交付された{{r|aw-75516}}{{sfn|FAA|2019|p=27}}{{sfn|EASA|2019|p=10}}。

当初は2015年中に[[カタール航空]]が最初のA320neoを受領する計画であったが、PW1100Gエンジンの性能上の問題により延期された{{r|aw-91130}}。その結果、翌年1月20日ルフトハンザ・ドイツ航空に対してA320neoの初引き渡しが行われた{{r|aw-79995}}。ルフトハンザは1月のうちにドイツ国内線でA320neoの路線就航を開始し、同年4月にはロンドンとフランクフルトを結ぶ国際線にも投入した{{r|fg-424138}}{{r|aw-80506}}{{r|WAD2016}}。

2016年5月31日には、LEAP-1A装備仕様についてもEASAとFAAから型式証明が交付され{{sfn|FAA|2019|p=27}}{{sfn|EASA|2019|p=10}}、7月19日にトルコの[[ペガサス航空]]に対して初引き渡しが行われた{{r|aw-91130}}{{r|aw-95363}}。

PW1100Gの初期バージョンでは、エンジン始動に時間を要する問題があり、P&W社は改良に追われた{{sfn|Hensey|Magdalina|2018|pp=8–11}}<ref>{{Cite web |last=Norris |first=Guy |title=New P&W President Has ‘Nothing To Hide' On GTF Starting Issue | Commercial Aviation content from Aviation Week |date=2016-02-16 |work=Aviation Week & Space Technology |url=https://aviationweek.com/commercial-aviation/new-pw-president-has-nothing-hide-gtf-starting-issue |accessdate=2019-11-05 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20181017173936/https://aviationweek.com/commercial-aviation/new-pw-president-has-nothing-hide-gtf-starting-issue |archivedate=2018-10-17}}</ref>。それ以外にも、A320neoの運航開始後の初期にはPW1100GエンジンとLEAP-1Aエンジン共にいくつかの問題が見つかり、それぞれのメーカーによる改良や対策が行われた{{sfn|Hensey|Magdalina|2018|pp=8–11}}。

=== ファミリー機のneo化 ===
[[File:JA132A (aircraft) Ukishima-cho Park.jpg|thumb|全日本空輸はPW1100G装備型のA321neoの納入初号機を受領した{{r|aw-128868}}。]]
2010年12月のA320neo開発決定時に、ファミリー機のA321とA319についてもneoを開発することが決まっていた{{sfn|青木|2018|p=123}}。ファミリー最小のA318については、2003年から2010年までの累計納入数が74機にとどまっており、将来需要が見込めないとしてneoの開発は見送られた{{sfn|日本航空機開発協会|2019|p=II-8}}{{sfn|青木|2018|p=123}}。A321とA319は共にPW1100GエンジンとLEAP-1Aエンジンを装備可能とされ、機体サイズに応じて各エンジンには推力増強型と抑制型が用意された{{sfn|青木|2018|pp=123–126}}{{sfn|EASA|2019|pp=45, 95, 140–141}}。2015年5月19日には、A320neoファミリーをベースとしたエアバス・コーポレート・ジェットの開発も決定し、ACJ320neoファミリーと名付けられた<ref>{{Cite web |title=A320neoビジネスジェット、6月生産開始 |date=2018-05-24 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/148237 |accessdate=2019-08-28 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20180627143924/http://www.aviationwire.jp/archives/148237 |archivedate=2018-06-27}}</ref><ref>{{Cite web |title=エアバス、A320neoのビジネスジェット投入 英社から受注 |date=2015-05-20 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/61605 |accessdate=2019-09-16 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20190420071337/https://www.aviationwire.jp/archives/61605 |archivedate=2019-04-20}}</ref>。

A321neoの初号機はLEAP-1Aエンジン装備型で2016年2月9日に初飛行した{{r|aw-81975}}{{r|awst-20160216}}。翌月にはPW1100Gを装備したA321neoも初飛行を行なった{{r|WAD2016}}{{r|wuerfel}}。その後A321neoは試験飛行を行い、2016年12月15日にPW1100G仕様型、翌年3月1日にはLEAP-1A仕様型に対してそれぞれ型式証明が交付された{{r|aw-107064}}{{r|aw-113348}}。2017年4月20日にLEAP-1A仕様のA321neoが[[ヴァージン・アメリカ]]に対して初引き渡しされ、同年9月5日にはPW1100Gエンジン装備機も[[全日本空輸]]に対して初納入された{{r|aw-118118}}{{r|aw-128591}}{{r|fg-440914}}。

長胴型のA321は[[ボーイング757]]の後継機市場にも進出しつつあったが、本格的に757を代替するためには、航続力の強化が必要だった{{r|awst-20150126}}{{r|fg-405070}}。そこでエアバスは2015年1月13日に、A321neoの航続距離延長型となるA321LR('''L'''ong '''R'''ange、長距離の意味)の開発を決定した{{r|aw-53410}}{{r|aw-175852}}。A321LRは2018年1月31日に初飛行し、10月2日に型式証明を取得、11月14日に初引き渡しが[[アルキア・イスラエル航空]]に対して行われた{{r|aw-140324}}{{r|aw-157022}}{{r|aw-160244}}。2019年6月17日には、A321の航続力をさらに強化したA321XLR ('''X'''tra '''L'''ong '''R'''ange) を開発するとエアバスが発表した{{r|aw-175852}}。A321XLRは、[[アメリカン航空]]や[[カンタス航空]]、[[イベリア航空]]や[[エアリンガス]]を傘下に持つ[[インターナショナル・エアラインズ・グループ]]などから受注を獲得し、2023年納入の計画で開発が進んでいる<ref>{{Cite web |title=エアバス、パリ航空ショーで363機受注 A321XLRやA220好調 |date=2019-06-21 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/176183 |accessdate=2019-06-29}}</ref><ref>{{Cite web |title=英IAG、A321XLRを14機発注 イベリア航空とエアリンガス向け |date=2019-06-25 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/176456 |accessdate=2019-06-29}}</ref>{{r|aw-175852}}。

この間にA319neoの初号機もLEAP-1Aエンジン仕様で製造され、2017年3月31日に初飛行した{{r|aw-116314}}。同様に試験飛行を経て、2018年12月にLEAP-1A仕様のA319neoへの型式証明が交付された{{r|aw-116314}}{{r|fg-454630}}。その後、A319neoの初号機はエンジンをPW1100Gに換装し、2019年4月25日に同エンジンでの初飛行を行なった{{r|aw-116314}}{{r|fg-454630}}。2019年現在においてPW1100G仕様のA319neoは、型式証明取得に向けた試験飛行を行なっている{{r|fg-457697}}。A319neoの納入初号機は2019年7月16日に個人客に引き渡された{{r|aw-186372}}。

=== さらなる販売の伸びと生産強化 ===
A320ファミリーの年間納入数は概ね増加を続け、2006年には300機を上回り2009年には400機を超えた{{sfn|日本航空機開発協会|2019|p=II-8}}。A320単体の年間納入数も同様で、2008年に200機を超え2011年には300機を超えた{{sfn|日本航空機開発協会|2019|p=II-8}}。A320ファミリーの累計納入数は伸び続け、2012年2月に5,000機、2014年3月には6,000機に達した{{sfn|日本航空機開発協会|2019|p=II-8}}<ref>{{Cite press release |title=エアバス、5,000 機目の A320 をミドル・イースト航空に引き渡し |date=2012-01-24 |publisher=エアバス・ジャパン |url=http://www.marinavi.com/images/プレスリリース/2012/0124Airbus_MiddleEastt.pdf |accessdate=2019-11-02}}</ref><ref>{{Cite press release |titleThe A320 Family: 6,000 deliveries and counting |publisher=Airbus |date=2014-03-10 |url=https://www.airbus.com/newsroom/news/en/2014/03/the-a320-family-6-000-deliveries-and-counting.html |accessdate=2019-11-02}}</ref>。

この間、A320ファミリー内の需要の中心が大型機に移っている{{r|aw-63036}}。A320、A321、A319が揃った1996年以来、A320、A319、A321の順に納入数が多かったが、2000年代の後半から徐々に売れ筋が大型化してきた{{r|aw-63036}}。2006年のファミリー内の納入数シェアは、A321が10パーセント弱でA320が43パーセント、A319が73パーセントであった{{r|aw-63036}}。2010年を境にA319とA321の納入数が逆転し、2016年にはA321が44パーセント、A320が53パーセント、A319は3パーセントとなった{{r|aw-63036}}{{sfn|日本航空機開発協会|2019|p=II-8}}。

A320neoファミリーの開発と並行して段階的に生産体制が強化されてきた{{r|aw-149470}}。エアバスは、2012年7月にA320ファミリーの最終組立を米国でも行うことを決め、[[アラバマ州]][[モービル (アラバマ州)|モビール]]に工場を建設した{{r|aw-70085}}。アラバマ工場は2013年4月に着工し、2015年9月から本稼働している{{r|aw-70085}}。米国製の初号機は2016年3月に初飛行し、4月に顧客へ引き渡された{{r|aw-70085}}{{r|aw-88235}}。

2008年2月1日にはA320ファミリー全体での納入数が8,000機に達し<ref>{{Cite web |title=Airbus completes 8,000th A320 family delivery |date=2018-02-23 |work=Flightglobal |url=https://www.flightglobal.com/news/articles/airbus-completes-8000th-a320-family-delivery-446191/ |accessdate=2019-11-09 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20180329054054/https://www.flightglobal.com/news/articles/airbus-completes-8000th-a320-family-delivery-446191/ |archivedate=2018-03-29}}</ref>、2019年10月11日には、A320"neo"ファミリーの納入数が1,000機に達した{{r|aw-186372}}{{r|fg-461404}}。

2019年現在、A320の最終組立が行われているのはフランスのトゥールーズ、ドイツのハンブルク、中国の天津、アメリカのモビールの4か所である{{sfn|Airbus|2019e|p=5}}。A319はハンブルク、天津、モビールの3か所、A321はハンブルクとモビールの2か所で最終組立されている{{sfn|日本航空機開発協会|2019|p=II-8}}。A318については2015年を最後に生産が途絶えている{{sfn|日本航空機開発協会|2019|p=II-8}}。


== 機体 ==
== 機体 ==
=== ファミリー構成 ===
[[File:Airbus A320-232, Turkish Airlines AN1622955.jpg|thumb|250px|[[ターキッシュ エアラインズ|トルコ航空]]のA320コックピット。正面に操縦棹がなく、脇に操縦用のサイドスティックがある。正面には書類などが置けるテーブルが装備されている。]]
A320ファミリーは世代により、当初型のA320ceoファミリーと新世代エンジンに刷新したA320neoファミリーに分けられる。A320ceoファミリーは、基本型のA320、長胴型のA321、短胴型のA319とA318の4機種で構成される。A320neoファミリーは、A319neo、A320neo、A321neoで構成される。
[[File:Swiss Airbus A320-214 (sharklets); HB-JLT@ZRH;23.03.2013 696bl (8582619382).jpg|thumb|250px|シャークレット装備機([[スイス インターナショナル エアラインズ]])]]
機体としては、旅客機として一般的なものであり、低翼配置の主翼で後退角は25度である。[[ターボファンエンジン]]をパイロンを介して二基搭載した。そのエンジンは[[CFMインターナショナル]][[CFMインターナショナル CFM56|CFM56]]と[[インターナショナル・エアロ・エンジンズ]] [[V2500 (エンジン)|V2500]]のいずれかを選択可能であり、[[日本]]で同型機を運航する航空会社のうち[[全日本空輸]]・[[スターフライヤー]]・[[Peach Aviation]]・[[バニラ・エア]]の各社はCFM56エンジン、[[ジェットスター・ジャパン]]はV2500エンジンを採用している(全日本空輸が以前使用していた長胴型のA321についてはV2500エンジンが採用されていた)。


以下本節では、主に基本型のA320について説明する。ファミリー各機種については、個別ページ([[エアバスA321#機体|A321#機体]]、[[エアバスA319#機体|A319#機体]]、[[エアバスA318#機体|A318#機体]])を参照のこと。A320neoについての詳細は[[エアバスA320neo|A320neo]]も参照。またコーポレートジェット仕様については[[エアバス コーポレートジェット|エアバス・コーポレート・ジェット]]も参照されたい。
本機の主な特徴は、以下の通り。


=== 形状・構造 ===
* 民間機初のデジタルフライ・バイ・ワイヤ飛行制御システムと[[タイヤ|ラジアルタイヤ]]を採用。
==== 基本構成 ====
* [[操縦桿]]に代わりサイドステックを採用した初めての民間航空機([[フライ・バイ・ワイヤ]]導入により可能となった)。
[[File:Airbus A320 (Iberworld) (3442646586).jpg|thumb|ウイング・チップ・フェンス仕様のA320を右側面から見る。]]
* [[グラスコックピット]]
[[File:Airbus A320-214(w) ‘G-EZPH’ Easyjet (41871591092).jpg|thumb|シャークレット仕様のA320を右側面から見る。]]
* [[航空機関士]]が不要のコクピットクルー2人制(ボーイング727型機のコクピットクルー3人制と比較して)
[[File:SE-DOX 21052017LHR (34709383972).jpg|thumb|A320neoを同じく右側面から見る。]]
* [[ナローボディ機]]として唯一、[[ワイドボディ機]]に搭載できるLD3-46/46W(LD-3の低型)[[:en:Unit Load Device|コンテナ]]を搭載可能
A320の機体構成は一般的な旅客機のものである{{sfn|青木|2003a|p=56}}。片持ち翼の主翼を[[低翼機|低翼]]に配置した[[単葉機]]であり、左右の主翼下に1発ずつ[[ターボファンエンジン]]を備える{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-2-0}}{{sfn|青木|2003a|p=55}}{{sfn|青木|2018|p=123}}。[[尾翼]]は通常配置で、[[垂直尾翼]]と[[水平尾翼]]はともに胴体尾部に直接取り付けられている{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-2-0}}。[[降着装置]]は前輪式配置で機首部に前脚、左右の主翼の付け根に主脚がある{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=20–22}}。全長は37.57メートル、全高は11.76メートル、全幅はウイング・チップ・フェンス装備型が34.10メートルでシャークレット装備型が35.80メートルである{{sfn|EASA|2019|p=34}}。


機体構造の材料は、[[アルミニウム合金]]や[[チタン合金]]といった金属が中心だが、構造重量の15パーセントは複合材料が用いられている{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=12–14}}{{sfn|中沢|伊原木|2014}}。使用されている複合材は、[[炭素繊維強化プラスチック]] (CFRP)、アラミド繊維強化プラスチック (AFRP)、ガラス繊維強化プラスチック (GFRP) であり、AFRPとGFRPは二次構造部材、CFRPは二次構造部材のほか主構造材にも用いられている{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=12–14}}{{efn|name="structure"|航空機の構造部材は一次構造部材(主構造部材)と二次構造部材に分かれている。一次構造部材は飛行荷重・地上荷重・与圧加重の伝達を主要に受持つ構造部材であり<ref>{{Citation |last1=中田 |first1=守 |last2=北原 |first2=靖久 |last3=畑口 |first3=宏之 |title=航空機用アルミニウム鋳物の動向 |journal=R&D神戸製鋼技報 |publisher=神戸製鋼所 |date=2005-12 |volume=55 |number=3 |pages=87–90}}</ref>、主翼の桁間構造の部材などが相当し{{r|encyclopedia-346}}、構造材の中でも最も安全上の信頼性が要求される<ref>{{Citation |last=前田 |first=豊 |title=炭素繊維の応用と市場 |publisher=シーエムシー出版 |series=CMCテクニカルライブラリー |date=2008-06 |isbn=978-4-7813-0006-1 |page=103}}</ref>。一方、二次構造部材は、空力機能を発揮し風圧などの局部荷重を一次構造部分に伝える主翼の前縁および後縁などが相当する{{r|encyclopedia-346}}。}}
コンテナ化したことで、スペース効率の向上、濡損・破損可能性の低下、貨物の取扱時間の短縮、およびターンアラウンドの短縮化が長所となる一方、地上支援機材の必要性(これを新規に導入する場合は新たな設備投資が必要になる)、LD-3-46/46Wのワイドボディー機でのスペース効率の悪さなどが短所となっている。A318ではコンテナシステムは採用せず、従来のバラ積み対応のみとなる。また、オプションでスライディングカーペットを採用できる。


=== 改良 ===
==== 主翼 ====
主翼は[[テーパー]]がついた後退翼で、翼面積は122.6平方メートルである{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-2-0}}{{sfn|青木|2003a|pp=55, 65}}。25パーセント翼弦での後退角は25度、アスペクト比{{efn|name=aspect_ratio|アスペクト比とは翼幅の2乗を面積で割った値で翼の細長比を示す値である{{r|encyclopedia-314}}。アスペクト比が大きい方が[[誘導抵抗]](揚力発生に伴う抵抗)が小さくなり、効率的な飛行に有利となる{{r|encyclopedia-314}}{{sfn|李家|2011|pp=314–316}}{{sfn|久世|2006|pp=13-14}}。}}
* A320の寿命を延ばすべくESG1とESG2があり、ESG2に適合すれば1.5倍に延びるとされる。
は約9.5と、後退角が浅く翼幅の大きい翼である{{sfn|青木|2003a|p=56}}{{sfn|Obert|2009|pp=259–260}}。翼厚比{{r|group="注釈"|wing_thickness}}は10.8パーセントでA310と近い値であるが、断面形状はかなり異なりA320の翼は後半部が比較的厚い{{sfn|Obert|2009|pp=259–260}}{{sfn|Warwick|1986|p=90}}。主翼構造は、胴体と一体化している中央翼構造および左右の片持ち翼構造から構成される{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=14–15}}。左右の主翼は箱型応力外皮構造(ボックス構造)であり、前桁、後桁、リブ(小骨)、ストリンガ(縦通材)、そして上下の外板らで構成される{{sfn|李家|2011|pp=229–230}}{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=14–15}}。中央翼構造は[[トラス]]で補強されたボックス構造で、翼にかかる[[揚力]]などを胴体に伝える働きを担う{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=14–15}}。
* ウィングチップフェンスの代わりに「シャークレット」という大型の[[ウィングレット]]を装備し、燃費を改善し航続距離を増やす(A318には非対応)<ref>ウィングチップフェンスの場合、片方が破損していても運用許容基準(CDL)上は問題なく運航できるが、シャークレットの場合は片方が破損している状況では運航できない。</ref>。
* フライ・バイ・ワイヤをさらに進化させ、信号の伝達に銅線ではなく電磁波の影響を受けにくい[[光ファイバー]]を使用(フライ・バイ・ライト)。
* 旅客型を貨物機へ改修<ref>[http://pacavi.com/?page_id=1106 PACAVI Group Announces Airbus A320 and A321 Freighter Conversion Program]</ref>。
* 客室内装仕様としてギャレーユニットとラバトリーユニットを一体省スペース化して、旅客座席数を横一列分増加するかシートピッチを7インチ広げることが可能な「スペースフレックス」仕様をV1とV2のオプション選択可能<ref>[https://services.airbus.com/upgrade/cabin/layout-optimisation/space-flex airbus offical space-flex]</ref><ref>[https://flyteam.jp/news/article/40593 エアバスとゾディアック、行動能力障がい者対応のA320最新設備を発表]</ref>
;開発中
* [[補助動力装置|APU]]の電力を利用した自走タキシングシステム<ref>[http://www.aviationwire.jp/archives/30108 エアバス、A320向け自走タキシング装置開発へ] - Aviation Wire (2013年12月20日付) 2013年12月21日閲覧</ref>。地上におけるエンジンの使用時間を削減することで二酸化炭素排出量を減少させることが可能である。


主翼には[[高揚力装置]]として前縁にスラット、後縁にファウラー・フラップを備える{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=14–15}}{{sfn|青木|2003a|p=56}}。スラットは片翼あたり6枚で、ほぼ全幅にわたり配置されている{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=14–15}}{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-2-0}}。エンジン・パイロンの付け根を境にフラップは内翼と外翼に2分割されており、その外側に[[エルロン|補助翼]]がある{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=14–15}}。主翼上面には片翼あたり5枚の[[スポイラー]]がある{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=14–15}}。スポイラーは[[ローリング|ロール操縦]]にも用いられる{{sfn|青木|2003a|p=56}}。動翼には複合材料を多用することで軽量化が図られている{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=14–15}}。
== 派生型 ==
[[ファイル:Flughafen_München_Franz_Josef_Strauß_–_Vorfeld_2_(Airbus-A320-Familienmitglieder_der_Lufthansa).JPG|サムネイル|ルフトハンザ航空のA320・A319・A321]]


[[ウィングレット|翼端装置]]として[[抗力|誘導抵抗]]を減らす効果のあるウィング・チップ・フェンスまたはシャークレットを備える{{sfn|青木|2003a|p=56}}{{sfn|青木|2018|pp=118, 123}}。ウイング・チップ・フェンスは鏃状の整流板で、シャークレットはウイングレットのように翼端を上に曲げた形状を有する{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=14–15}}{{sfn|青木|2003a|p=56}}。開発当初はウイング・チップ・フェンスが標準装備であったが、のちにシャークレット仕様が開発され、A320neoではシャークレットが標準装備となった{{sfn|青木|2003a|p=56}}{{sfn|青木|2018|pp=118, 123}}。また、既存の機体にシャークレットを後付けすることも可能である<ref>{{Cite web |title=エアバス、タイガーエアのA320にシャークレット後付け アジア初の改修 |date=2013-11-07 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/28204 |accessdate=2019-09-17}}</ref>。
=== A321 ===
{{See also|エアバスA321}}
A320を市場投入時、エアバスは顧客のさらなる細やかな要望に応えるため、A320の派生型の開発を検討していた。特にA320と[[エアバスA310|A310]]との間では座席数の差があるため、A320の胴体延長を計画、[[1989年]]にA321として開発を発表した。
* 胴体を主翼前後二カ所で延長(前方は4.27m、後方は2.64m、合計6.91m延長)
* エンジンを推力増加型へ変更
* 緊急脱出用口の再配置([[連邦航空局|FAA]]の90秒ルールに則り)
* [[降着装置]]、機体構造の一部を強化
* システム追加、主翼後縁改修


主翼のボックス構造内は燃料タンクである{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=14–15}}。タンクは左右が各2分割され中央1区画と合わせて5区画に別れており、両端は[[サージタンク]]となっている{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009c}}。
=== A319 ===
{{See also|エアバスA319}}
エアバスは続いてA320の胴体短縮を計画、[[1993年]]にA319として開発を発表した。
* 胴体を主翼前後二カ所で短縮(前方は1.60m、後方は2.13m、合計3.73m短縮)
* エンジンを推力減少型へ変更
* 主翼上面前方緊急脱出用口の廃止
* システムの最適化
* 後方貨物室とバルク(バラ積み)貨物室の変更


=== A318 ===
==== 胴体 ====
A320の胴体断面は直径が異なる2つの円構造を結合した「ダブル・バブル構造」である{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=15–17}}。断面の外寸は幅3.95メートル、高さ4.14メートルである {{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-2-0}}。胴体長は全長に等しく37.57メートルである{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-2-0}}。客室部分をできるだけ一定幅で保ちつつ、尾部の平面形のくびれを工夫するなどして抵抗を低減している{{sfn|久世|2006|p=172}}。胴体構造はセミモノコック構造であり、フレーム(円周方向の構造材)、ストリンガ(前後方向に延びる縦通材)、外板、ビーム(左右方向の補強部材)、[[圧力隔壁]]などで構成される{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=15–17}}{{sfn|李家|2011|pp=229–231}}。胴体最下端から1.679メートル上に[[はり部材|ビーム]]構造があり、客室の床を支持する{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=15–17}}。胴体は尾部を除き[[与圧]]構造である {{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=15–17}}。
{{See also|エアバスA318}}
エアバスはA319の成功で製品群の最小機となったが、それより座席数の少ない100席クラスの機体への市場が見込まれていて、[[1997年]]に[[中国]]・[[シンガポール]]・[[イタリア]]のメーカとの共同作業について概要で合意した。機体名称はAE316となっていたがその後このフレームワークをたたき台としていくつかの変遷を受けて[[1999年]]にA318として開発を発表した。
* AE316当初は新設計の胴体・主翼・尾翼が考えられていたが、胴体径が居住性で利点が見込めるため、A320の胴体径を採用
* エンジンに関して新たに[[プラット・アンド・ホイットニー]]社製[[プラット・アンド・ホイットニー PW6000|PW6000]]エンジンを採用、他に選択エンジンとして[[GE・アビエーション|CFMインターナショナル]]社製CFM56エンジンも採用
* 貨物室はLD-3-46/46Wのコンテナ使用はやめてバラ積みのみ対応となるが胴体径がA320と同じためオプションでスライディングカーペット(床面をパネル状にして取り扱いを容易にする方法)を選択可能
* A318はEASA([[欧州航空安全機関]])より急勾配進入証明を取得しているため、騒音規制や地形上進入規制の設定されている[[ロンドン・シティ空港]]などで優位に使用可能


=== A320neo ===
==== 尾翼 ====
水平尾翼の翼幅は12.45メートル、垂直尾翼の高さは5.87メートルである{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-2-0}}。水平・垂直尾翼ともに前桁と後桁、外板、リブで構成されたボックス構造であり、ほとんどは複合材料製である{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=17–18}}。
{{See also|エアバスA320neo}}
A320neo(neoは'''N'''ew '''E'''ngine '''O'''ptionの略)はより経済的な運行を企画して320ファミリーのエンジンを変更したモデルで、2010年12月にローンチされ、2016年にファーストデリバリーされた。


水平尾翼は水平安定板と[[昇降舵]]で構成される{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=17–18}}。水平尾翼は在来機のような中央翼構造は持たず、左右の翼が胴体内で金具により結合されている{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=17–18}}。この結合部の前方にジェッキ・スクリューが取り付けられており、水平安定板の角度を変えてトリム{{efn|name="trim"|トリムとは、パイロットが操縦装置に力を加えることなく、そのままの姿勢で飛行できるよう釣合いをとること{{r|encyclopedia-160}}。}}を調整できる{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=17–20}}。水平尾翼と胴体との結合は、後桁に左右一か所ずつ設けられた金具とベアリングにより行われる{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=17–18}}。左右の昇降舵はアクチュエータを2か所ずつ備え、左右独立して駆動される{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=17–18}}。
<ref name="エアバスジャパン">[http://www.airbusjapan.com/press-release-details/detail/a320-30/ A320ファミリーに新エンジンを装備] 2010年12月1日 2011年1月10日閲覧</ref>使用されるエンジンは[[CFMインターナショナル]]の[[CFMインターナショナル LEAP|LEAP-X]]エンジン、または[[プラット・アンド・ホイットニー]]の[[プラット・アンド・ホイットニー PW1000G|PW1100G]] エンジンで、エアラインはこのうちのどちらかを選択することになる。<ref name="エアバスジャパン" />又変更されるモデルはA318を除くA319,A320,A321で<ref name="エアバスジャパン" />、新エンジンモデルと平行して現行エンジンモデルの生産も行われる予定である。<ref name="エアバスジャパン" />新エンジンは直径が拡大するが320ファミリーの場合主翼と地上のクリアランスが十分に確保されているため、エアバスは現行の320ファミリーからの変更点は最小限にとどまるとコメントしている。<ref name="エアバスジャパン" /> 2011年1月、[[インド]]の[[格安航空会社]]、[[IndiGo]]より150機、2011年に開かれたル・ブルジェの航空ショーでエアアジアXから航空史上最大規模である200機の発注を受けた。<ref>[http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-18971020110112 エアバス、インドのインディゴーから商用機市場最大の受注] - Reuters 2010.1.12</ref>2011年にはそれまでほとんどボーイング(吸収合併された[[マクドネル・ダグラス]]を含む)一辺倒だった<ref>[http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920012&sid=a9TYPV8W.7uo アメリカン航空:過去最高の計460機、エアバスとボーイングに発注] - [[ブルームバーグ]] 2011年7月20日</ref>アメリカの大手航空会社[[アメリカン航空]]から130機の発注を受けている(その他にアメリカン航空からは従来型のA320シリーズも130機受注している)、日本の[[ANA]]もA320neoファミリーを多数導入し、次期主要小型機として路線投入するとしている。<ref>[http://www.airbusjapan.com/press-release-details/detail/a320260/ アメリカン航空、A320ファミリーを260機購入] - エアバスジャパン 2011年7月20日</ref>
なお、A321およびA319についてもneo化が行われる事になっていて、A321neoには航続距離4,000nm(7,400km)に燃料搭載量を増やしたLR(Long Renge)型も開発することになっている<ref>[http://www.airbusjapan.com/single-jp/detail/97a321neo/ 最大離陸重量97トンのA321neoをローンチ]</ref>。


垂直尾翼は垂直安定板と[[方向舵]]で構成される{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=17–18}}。垂直尾翼の最下部で胴体に結合されている{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=17–18}}。方向舵は水平安定板の後桁にベアリングで結合されており、アクチュエータにより駆動される{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=17–18}}。
== 生産拠点 ==
生産レートを2016年の月産42機を2019年に60機へ引き上げる<ref>[http://www.aviationwire.jp/archives/73894 エアバス、A320月産60機に引き上げへ 19年中盤]</ref>。


==== 降着装置 ====
* 最終組立工場
[[File:Airbus A320 (EasyJet) (5946062430).jpg|thumb|A320の主翼の付け根部分。主脚等を格納するため「バスタブ」状に底面が張り出している。]]
:{{FRA}} [[トゥールーズ]]
左右の主脚および前脚はそれぞれ2輪式である{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=20–22}}。前脚・主脚とも引き込み式で、昇降は通常時は油圧により行われ、非常用の脚下げ機構のみ他機種と同様にケーブルが用いられる{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=20–22}}。ホイールはアルミニウム合金製、タイヤは[[ラジアルタイヤ]]である{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=20–22}}。ブレーキは多板式の[[ディスクブレーキ]]で、ディスクにはカーボンが用いられる{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=20–22}}。ブレーキは油圧で作動し、[[アンチロック・ブレーキ・システム|アンチスキッド]]や自動ブレーキシステムを備える{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=20–22}}。前脚は油圧駆動のステアリング機構を有し、地上にいるときのみ旋回が可能である{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=20–22}}。
:{{DEU}} [[ハンブルク]] - 2017年中頃に第4ライン新設し、トゥールーズでの製造工程を見直し、増産対応予定<ref>[http://www.aviationwire.jp/archives/91018 エアバス、A320増産へ 月産60機、ハンブルクに第4ライン新設]</ref>。
:{{CHN}} [[天津市|天津]] - 2009年5月より稼働、2014年12月3日A320ファミリーの生産が200機に到達。2016年から10年間のJV延長で2017年から開始するアジア地域へのA320neo納入も同工場製も含まれる模様<ref>[http://www.aviationwire.jp/archives/51094 エアバス、天津工場製A320ファミリー200機到達]</ref>。
:{{USA}} [[アラバマ州]][[モービル (アラバマ州)|モービル]] - 2015年9月14日本稼働。2016年3月4日同工場製造初号機、[[ジェットブルー]]向けのA321が完成、4月25日同機体引渡<ref>[http://www.aviationwire.jp/archives/88235 エアバス、米国製初号機のA321納入 ジェットブルーに]</ref>。


== 運航状況 ==
=== エンジン ===
A320のエンジンはA320ceoとA320neoで世代が分けられ、いずでも高バイパス比{{r|group="注釈"|bypass}}のターボファンエンジンである{{sfn|青木|2018|p=116}}{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-12-0}}{{sfn|青木|2018|pp=123–126}}。
[[File:Silkair A320-200 Economy Class cabin.JPG|thumb|250px|シルクエアーのA320-200のエコノミークラス]]
[[エールアンテール]]が最初にA320-100を受領したが、同社はエール・フランスに吸収されたためその後はエール・フランスが運航した。また、[[ブリティッシュ・カレドニアン航空]]もA320-100を受領したが、[[ブリティッシュ・エアウェイズ]]に吸収された。


A320ceoのエンジンは、CFMI社の[[CFMインターナショナル CFM56|CFM56]]とIAE社の[[V2500 (エンジン)|V2500]]の選択式である{{sfn|青木|2018|p=116}}{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-12-0}}。CFM56エンジンはA320ファミリー全てに設定されており、V2500エンジンはA318を除くA319、A320、A321に設定されている{{sfn|EASA|2019|pp=35, 85–86, 129, 156–157}}。ファミリー機の胴体長(重量)に応じて、推力増強型と抑制型が用意されている{{sfn|青木|2010|pp=52–57}}。
当初はエアバス社お膝元の[[ヨーロッパ]]を中心に運航されてきたが、最近ではボーイング社の本拠地[[アメリカ合衆国|アメリカ]]でも[[ノースウエスト航空]]、[[ジェットブルー航空]]、[[Ted]]([[ユナイテッド航空]]傘下の[[格安航空会社]])などの航空会社への売り込みにも成功し、A320-200と派生型のA318、A319、A321が運航されている。


A320neoのエンジンは新世代型ターボファンエンジンとなり、CFMI社の[[CFMインターナショナル LEAP|LEAP-1A]]あるいはP&W社の[[プラット・アンド・ホイットニー PW1000G|PW1100G-JM]]から選択できる{{sfn|青木|2018|pp=123–126}}。両エンジンはA320neoファミリー全てに設定され、やはり胴体長に応じて、推力増強型と抑制型が用意されている{{sfn|EASA|2019|pp=35, 85–86, 129, 156–157}}。
[[アジア]]・[[オセアニア]]でも、[[カンタス航空]]傘下の[[ジェットスター航空]]や、[[香港航空]]、[[シンガポール航空]]傘下の[[タイガーエア]]や、[[ベトナム航空]]を始め、殆どの[[フラッグ・キャリア]]で運航中。


エンジンの制御はデジタル式の電子制御装置 ([[FADEC]]) により行われる{{sfn|青木|2010|pp=52–53}}。FADECはエンジン版のフライ・バイ・ワイヤとも言えるもので、[[スラストレバー]]の入力と飛行状況に応じてコンピュータによりエンジン推力を自動制御する{{sfn|青木|2010|pp=52–53}}{{sfn|杉本|弘田|浦山|2008b}}{{sfn|杉本|弘田|浦山|2008c}}。
バニラエアやピーチなど、日本資本の格安航空会社でも、その経済性を存分に発揮させるために路線投入されており、[[日本の空港]]でも馴染みの旅客機となっている。


[[補助動力装置]] (APU) として[[ガスタービンエンジン]]を1基備えており、胴体尾部のテールコーン内に搭載されている{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009a}}{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-12-0}}。A320のAPUは、地上で主エンジンの停止中に電力や圧縮空気を供給するためのものであるが、非常時には空中でも始動可能である{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=29-30}}。
===日本での運航===
日本では[[1991年]]から[[全日本空輸|全日空]]と[[エアーニッポン]]が両社の共通機材として、また[[ボーイング727|B727]]の後継機としてA320-211型を導入し、[[東京国際空港|東京]]-[[山形空港|山形]]線で初就航した。以後現在まで国内線の亜幹線・ローカル線を中心に運航している。国内線用機材にはスカイビジョン(映像スクリーン・モニター)が装備されていないため、離陸前にセーフティ・デモンストレーション(救命胴衣の着用方法、酸素マスクの案内等)が[[客室乗務員]]の実演で行われている(全日空運航機材では1990年代以降唯一)。
全日空においては、将来的にA320を[[ボーイング737 ネクストジェネレーション|ボーイング737NG]]シリーズへ代替する予定であったが<ref>{{cite web|url=http://www.ana.co.jp/pr/03-0406/03-082.html|title=ボーイング737-Next Generation シリーズ 計45機を確定発注|accessdate=2014-03-28|date=2003-06-30|publisher=全日本空輸}}</ref>、[[2006年]]度事業計画でエアバスA320の増備を表明し、ClubANA.Asia([[ビジネスクラス]])装着のA320-214型、国際線機材をリースで[[2007年]]に5機導入したが、[[2012年]]から[[2013年]]の間に国際線機材の5機はリースバックされ、他の航空会社で現在は使用されている。全日空では派生機種のA321-131型も1998年に導入したが、エンジンがA320と異なり効率が悪いこともあり、2008年までに一度全機が退役した。


=== 飛行システム ===
[[File:Starflyer-ja01mc.jpg|thumb|250px|[[スターフライヤー]]のA320-200<br/>ランディングギアが長く主翼と地上のクリアランスが十分に確保されていることがわかる]]
==== フライ・バイ・ワイヤ ====
[[2006年]]3月に就航した[[スターフライヤー]]はA320-214型機を選定し、2013年3月時点でシートテレビを備えた新造機9機を導入しているほか、2012年3月からは[[Peach Aviation]]はA320-214型、同年7月3日からは[[ジェットスター・ジャパン]]はA320-232型(カンタス航空と日本航空傘下の格安航空会社)、同年8月1日からはエアアジア・ジャパンはA320-214型(エアアジアと全日空傘下の格安航空会社、リース機のため解散後エアアジアグループへ返却)、2013年12月には解散社名変更後の[[バニラ・エア]]もA320-214型を使用して運航開始し、燃費向上のため主翼端ウイングチップフェンスをシャークレットへ変更装備型を2013年2月にジェットスター・ジャパンが日本初受領した。
A320の特徴として、旅客機で初めて[[フライ・バイ・ワイヤ]]技術を全面的に採用したことが挙げられる{{sfn|杉本|弘田|浦山|2008a}}{{sfn|山崎|2009a|p=93}}。エアバスはA320のフライ・バイ・ワイヤ・システムをEFCS (Electronic Flight Control System) と呼んでいる{{sfn|平山|羽石|上田|1990|p=294}}{{sfn|神山|1988|p=93}}。


A320のフライ・バイ・ワイヤ・システムでは、パイロットの操縦操作は電気信号に変換されデジタル・コンピュータに送られる{{sfn|平山|羽石|上田|1990|p=294}}{{sfn|青木|2003c|p=49}}{{sfn|Briere|Favre|Traverse|2001|loc=§12.1, §12.2}}。コンピュータでは操縦入力と各種センサなどの情報に基づき計算処理が行われる{{sfn|平山|羽石|上田|1990|p=294}}{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009d}}{{sfn|青木|2003c|p=49}}。算出された指令値は電気信号として各操縦翼面や降着装置のアクチュエータに伝達される{{sfn|平山|羽石|上田|1990|p=294}}{{sfn|杉本|弘田|浦山|2008a}}{{sfn|杉本|弘田|浦山|2008f}}{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009d}}。
その後、ANAではA320の退役は少しずつ進んでいたが、エアバスでは2010年代になり、A320ファミリーはエンジンをさらなる高性能エンジンに変更し経済性をあげたneo型が開発され(以降、従来型はceo、改良型はneo表記)、2014年3月27日、ANAはエアバスA321neoを23機、A320neoを7機の発注を表明した<ref>{{Cite web|url=http://www.aviationwire.jp/archives/34148 |title=ANA、777-9XとA321neoなど70機発注 過去最大の投資規模 |author= |date=2014-3-27 |work= |publisher=Aviation Wire |accessdate=2014-03-27 }}</ref>。エンジンはいずれも米[[プラット・アンド・ホイットニー]]製PW1100G-JMを選定している。A320neoが2016年度から2018年度に受領、A321neoが2017年度から2023年度に受領する予定になっている。


エアバスはA320のシステムを開発するにあたり、馬車を操るように旅客機を操縦できるようなシステムを目指した{{sfn|Warwick|1986|p=}}{{sfn|山崎|2009a|p=93}}。馬車の場合、御者は馬に指示を出し、馬は指示をもとに道路状況に応じて走ることができる{{sfn|山崎|2009a|p=93}}。御者が馬の一歩一歩の足運びまで指示することはないし、明らかな危険があれば、馬は自分の判断で回避することもできる{{sfn|Warwick|1986|p=}}{{sfn|山崎|2009a|p=93}}。A320でも同じように、パイロットの指示と状況に応じてシステムが動翼を自動制御する{{sfn|Warwick|1986|p=}}。A320の飛行制御システムには、パイロットの操縦を補助する機能があるほか、機体や飛行の安全を守る保護機能が組み込まれている{{sfn|杉本|弘田|浦山|2008a}}{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009d}}{{sfn|杉本|弘田|浦山|2010b}}{{sfn|杉本|弘田|浦山|2010c}}{{sfn|青木|2003c|pp=50–51}}。そしてこのシステムは自動飛行制御システム (Automatic Flight Control System; AFCS) として、[[オートパイロット|自動操縦装置]]や{{仮リンク|オートスロットル|label=自動推力制御装置|en|Autothrottle}}、および[[航法]]などを担う[[飛行管理装置]]も統合されている{{sfn|Warwick|1986|pp=90–93}}{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009d}}。
[[2015年]]1月には、ANAがA321を7機(シャークレット付きのA321ceoが4機と、新型エンジンを搭載したA321neoが3機)追加発注することを発表し、これで2014年度発注分と合わせて全日空グループの合計発注数は37機となった。
追加発注したうちのA321ceoの4機はシャークレット付きの機体であり、以前、ANAから退役したA321-100型機はウイングチップフェンス装備機だったので、シャークレット付きA321を日本初就航で、エアバスがエアバスがA320ファミリー用の新しい客室レイアウトで提供している「スペース・フレックス」も日本初導入となった。なおA321neoを運航するのもANAが日本初である。


システムの設計思想を対比して、機械優先のエアバスと人間中心のボーイングと言われることもある{{sfn|阿施|2003|pp=108–109}}{{sfn|谷川|2016|loc=位置No. 1408}}。一方で、機械が得意な部分は機械に任せるというのがエアバス機の考え方であり、あくまで人間が中心のシステムであるとの評価もある{{sfn|阿施|2003|pp=108–109}}{{sfn|谷川|2016|loc=位置No. 1408}}。システムを上手に使いこなすことが、A320をうまく飛ばす要諦とも言われる{{sfn|阿施|2003|pp=108–109}}{{sfn|谷川|2016|loc=位置No. 1408}}。また、エアバスとボーイングは、相手の優れた機能を互いに取り入れてシステムの改善を重ねている{{sfn|阿施|2003|pp=108–109}}。
現在、ANAがA320ceoやボーイング737型機を使用して運航している地方路線に、2014年と2015年の2回に分けて発注されたA321neo26機とA321ceo4機(A321計30機)が投入された場合、運航機材がひと回り大型化する路線が多くなるがceoとneoではエンジンが異なり、以前退役したA321-100型とA320ceo型と同じように効率が悪くなるため、A321ceo型はneo導入後早期退役の可能性がある。全日空では今回発注したA320neoファミリーとローンチカスタマーである三菱航空機の[[Mitsubishi SpaceJet]]で国内線運航機材の機材更新を進めていくとしている。


A320のシステムにおいて、各種入力を受けて操縦翼面を制御するプログラムは「飛行制御則」と呼ばれる{{sfn|Learmount|1987|p=112}}{{sfn|青木|2003c|pp=48–50}}。飛行制御則は3種類用意されており、それぞれノーマル(通常)、オルタネート(代替)、ダイレクト(直接)と名付けられている{{sfn|青木|2003c|pp=49–50}}{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009d}}。通常はノーマル制御則で運航され、システムの障害の程度に応じてオルタネート制御則やダイレクト制御則へ切り替わる{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009d}}{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009e}}。ノーマル制御則では飛行段階に応じたモードがあり、地上モードから飛行モード、着陸モードと順に切り替わり、最後に地上モードに戻る{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009d}}。
2016年11月18日、Peach Aviationは日本のLCCとして初めてA320neoを10機発注し、同時にA320ceoを3機発注、計13機の契約を締結した。


ノーマル制御則では保護機能によって機体姿勢や荷重、飛行速度などが許容範囲を超えることがないよう機体が制御される{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009d}}{{sfn|青木|2003c|pp=50–51}}。例えば機体が失速状態に近づくと、自動的にエンジンを最大推力とし、迎え角がそれ以上大きくならないよう操縦翼面が制御される{{sfn|杉本|弘田|浦山|2008a}}。また、ノーマル制御則にはパイロットの操縦を補助する機能があり、例えばトリム{{r|group="注釈"|trim}}はシステムにより自動調整される{{sfn|杉本|弘田|浦山|2008a}}{{sfn|青木|2003c|pp=50–51}}。システムに2つの障害が発生した場合は、オルタネート制御則に切り替わる{{sfn|青木|2003c|pp=49–50}}{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009d}}。オルタネート制御則では、操縦特性はノーマル制御則と変わらないが、一部の保護機能が働かなくなるほか、乗員は操縦機能が喪失しないよう対処する必要がある{{sfn|青木|2003c|pp=49–50}}。システムに3つ以上の障害が発生した場合は、ダイレクト制御則に切り替わり、トリム調整も乗員が行う必要がある{{sfn|Hopkins|1987|p=25}}{{sfn|青木|2003c|pp=49–50}}。
== 受注および納入 ==
{{main|en:List of Airbus A320 orders}}


主操縦翼面(昇降舵・補助翼・方向舵)を制御するコンピュータは計7台あり、その他にも二次操縦翼面(高揚力装置等)を制御したり自動操縦の処理を行ったりする各種コンピュータを加えてシステム全体が構成される{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009d}}{{sfn|Hopkins|1987|p=23}}{{sfn|Warwick|1986|pp=90–93}}。コンピュータの異常を検出するための相互監視機能も備える{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009d}}{{sfn|Warwick|1986|pp=90–93}}。
{| class="wikitable" style="text-align:right; font-size:96%;"

A320の操縦システムは、操縦不能になるのは10{{sup|9}}時間に1回以内、操縦性の低下は10{{sup|5}}時間に1回以内という目標で設計された{{sfn|久世|2006|p=172}}。システムは[[信頼性]]を高めるため、複数のコンピュータにより[[冗長化]]が図られており、さらに単純な多重化ではなく異種冗長の考え方が取り入れられている{{sfn|神山|1988|p=93}}{{sfn|平山|羽石|上田|1990|pp=294–296}}。異種冗長とは同一の欠陥あるいは故障によりシステム全体が機能喪失することを防ぐための考え方である{{sfn|神山|1988|p=93}}{{sfn|平山|羽石|上田|1990|pp=294–296}}。具体的には、多重化に際してメーカー、[[プロセッサ]]、そして[[プログラミング言語]]が異なるコンピュータを組み合わせたり、コンピュータ内部の命令部と監視部を完全に独立させたりといった方策がとられている{{sfn|神山|1988|p=93}}{{sfn|平山|羽石|上田|1990|pp=294–296}}{{sfn|久世|2006|p=172}}。電源の分離や信号線の分離配置といった対策もとられている{{sfn|平山|羽石|上田|1990|pp=294–296}}。

油圧系統は、独立した3つの系統で構成される{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=22–23}}。油圧ポンプにより加圧された油圧は操縦系統や降着装置、ブレーキ、そしてエンジンの[[逆推力装置]]に供給される{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=22–23}}。全ての操縦翼面は油圧により駆動される{{sfn|平山|羽石|上田|1990|p=294}}。各翼面には複数のアクチュエータが備わり冗長化されている{{sfn|杉本|弘田|浦山|2008a}}。降着装置の出し入れ、ブレーキ、ステアリングも油圧駆動である{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=20–22}}。

A320の電源は、左右のエンジンおよびAPUに備わる発電機から供給される{{sfn|杉本|弘田|浦山|2008e}}。駐機中には、地上設備の外部電源を利用することも可能である{{sfn|杉本|弘田|浦山|2008e}}。電源系にはバッテリーが備わっているほか、緊急時には胴体から[[ラムエア・タービン]]を展開して発電および油圧の加圧を行うことができる{{sfn|杉本|弘田|浦山|2008e}}{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=22–23}}。さらに、機体の全電源が喪失した場合に備えて、水平尾翼と垂直尾翼のトリム操作には機械式の操縦系も備えているほか、降着装置も非常用にケーブル式の脚下げ機構を有する{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=18–22}}{{sfn|青木|2003c|pp=49–50}}。機械式の操縦系統が残っているのは、全電源が喪失する確率が10{{sup|9}}時間(約11万年)に1回以内ということを検証することが現実的に困難だったためとも言われる{{sfn|久世|2006|p=172}}。

==== コックピット ====
[[File:Airbus A320-232, Turkish Airlines AN1622955.jpg|thumb|[[ターキッシュ エアラインズ]]のA320コックピット。正面に操縦棹がなく、脇に操縦用のサイドスティックがある。正面には書類などが置けるテーブルが装備されている。]]
運航に必要な操縦士は[[機長]]と[[副操縦士]]の2名である{{sfn|EASA|2019|p=50}}{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009e}}。操縦室には機長席と副操縦席に加えてオブザーバ席が2席ある{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=30–31}}。居住性を重視した合理的なデザインであり、ポルシェのデザイン部門が設計に参画したことでポルシェ・コックピットとも呼ばれる{{sfn|山崎|2009a|p=93}}{{sfn|神山|1988|p=91}}。

A320の[[旅客機のコックピット|コックピット]]はいわゆる[[グラスコックピット]]化されているほか、従来機のような[[操縦桿|操縦輪]]はなくサイドスティックで操縦を行う{{sfn|青木|2010|pp=52–53}}{{sfn|平山|羽石|上田|1990|pp=291–292}}。

ディスプレイは左右の操縦席に各2枚、中央に2枚の計6枚あり、全てカラー表示である{{sfn|神山|1988|p=91}}。予備の計器以外の表示は全てディスプレイに集約されている{{sfn|神山|1988|p=91}}。ディスプレイにはそれぞれ役割が割り当てられているが互換性があり切り替え可能である{{sfn|平山|羽石|上田|1990|pp=292–293}}。ディスプレイが故障した場合には、 飛行の継続に支障ないように自動的に表示レイアウトが切り替わる{{sfn|平山|羽石|上田|1990|pp=292–293}}。ディスプレイには当初は[[ブラウン管]]が用いられたが、技術革新にともない[[液晶ディスプレイ]]に置き換えられた{{sfn|青木|2018|pp=119–120}}。2014年からは[[ヘッドアップディスプレイ]] (HUD) の装備が追加され、新造機にはオプション設定されているほか、既存機への装着も可能である{{sfn|青木|2018|pp=119–120}}。

サイドスティックは[[ピッチング|ピッチ]]と[[ローリング|ロール]]の主操縦に用いられ{{sfn|久世|2006|p=172}}、左の機長席には左側、右の副操縦士席には右側に配置されている{{sfn|青木|2003c|p=52}}。左右のサイドスティックは機械的には連結されていない{{sfn|神山|1988|pp=92–93}}。通常はどちらか一方のサイドスティックで操縦する{{sfn|神山|1988|pp=92–93}}。両方のサイドスティックを同時に操作した場合は、それぞれの指令の算術和がシステムへの入力となるが、不慮の事態に備えてもう一方のスティックの入力を無効にする機能も備わる{{sfn|神山|1988|pp=92–93}}。[[オートパイロット]]作動中のサイドスティクは、従来の操縦輪のように自動的に動くことはない{{sfn|杉本|弘田|浦山|2010b}}。操縦輪がなくなったことで各操縦席の前面には収納式のテーブルが設置され、ログを書いたり食事をとったりできる{{sfn|平山|羽石|上田|1990|pp=291–292}}{{sfn|山崎|2009a|p=93}}。

コックピットや飛行システムはA320ファミリーで共通化されており、操縦資格も共通である{{sfn|Moxon|1995|pp=57–58}}{{sfn|青木|2018|pp=119–120}}{{sfn|青木|2003a|pp=64–65}}。同時にエアバスの[[相互乗員資格]] (CCQ) の対象でもあることから、CCQ対象となるエアバス機との間であれば、短時間の訓練で他機種の資格を取得することが可能である{{sfn|van Dijk|Vadrot|2016|pp=4–11}}。

=== 客室・貨物室 ===
{{Multiple image|align=right|direction=vertical|footer_align=center|footer=A320の客室内装の例。
|Image1=Airbus A320-214, Jazeera Airways AN1341026.jpg
|caption1=前方から見た客室内。[[ジャジーラ航空]]のA320。
|alt1=A320の客室内を前方から見た写真。青緑のクッションの座席が、通路を挟んで3席ずつの配置で並んでいる。
んで3席ずつの配置で並んでいる。
|Image2=Airbus A320-214, S7 - Siberia Airlines AN1671493.jpg
|caption2=S7航空のビジネスクラスの座席。
|alt2=左前方から見たビジネスクラスの座席。紫色の座席が2席ずつ並んでいる。
}}
A320の胴体は中央付近の床面を境として上層に客室、下層に貨物室が配置されている{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=15–17}}。エンジンまたはAPUの[[圧縮機|コンプレッサー]]による圧縮空気を利用して、客室の空調および[[与圧]]が行われる{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009b}}{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|p=24}}。空調や与圧の制御および監視もコンピュータにより行われる{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|p=24}}。客室には緊急時のための酸素マスクが備わり、酸素発生装置から化学反応により酸素を生成・供給する{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009f}}。また、コックピットには乗客用と別に酸素供給系統がある{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009f}}。

操縦席を除いた客室全長は27.5メートルで{{sfn|青木|2010|pp=52–53}}、客室の最大幅は約3.6メートル、最大高は約2.1メートルである{{sfn|Warwick|1986|p=89}}。2クラス編成での標準座席数は、A320ceoが150席、A320neoが160席から190席となっている{{sfn|Airbus|2019e|p=4}}。最大定員は通常仕様で180席であり、緊急脱出口のオプションによっては195席まで拡張可能である{{sfn|EASA|2019|p=50}}。客室には中央に1本の通路があり、[[エコノミークラス]]の座席配置は通路を挟んで3-3席の6[[アブレスト]]、上級クラスでは2-2席の4アブレストである{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-5-0}}。座席の頭上には、手荷物を収容するオーバーヘッド・ストウェッジ・ビンが備わる{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=30–31}}{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-4-1}}{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009e}}。単通路機としては胴体幅が広いことから、3列の座席のうち中央席は両隣の座席よりも数センチメートル広くすることも可能である{{sfn|全日本空輸整備本部技術部|1991|pp=30–31}}。また、短距離路線向けに乗降時間短縮を図るため、座席幅を詰めて通路幅を広げた内装案も用意されている{{sfn|Warwick|1986|p=93}}{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-4-1}}。

客室の扉配置は左右対称である{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-4-1}}。乗降用ドアとして客室の最前方と最後方にタイプIドアが1組ずつある{{sfn|杉本|弘田|浦山|2010a}}{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-4-1}}。この扉は外開きのプラグ式で、非常脱出用スライドを備える{{sfn|杉本|弘田|浦山|2010a}}。緊急脱出口として主翼上に片側あたり2枚のタイプIIIドアがある{{sfn|EASA|2019|p=50}}{{sfn|杉本|弘田|浦山|2010a}}{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-4-1}}。この緊急脱出口に連動して展開される脱出用スライドは翼胴フェアリング内に備わる{{sfn|杉本|弘田|浦山|2010a}}{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009e}}。

[[File:Airbus A320 (Swiss) at CPH Sep 2013 (10043499005).jpg|thumb|LD-3-46W航空貨物コンテナを取り扱っているA320。尾部の扉にはバルク貨物用設備も接続している。]]
床下の貨物室は主翼を挟んで前後2区画に分かれている{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-6-0}}。貨物室にはLD-3-46またはLD-3-46W航空貨物コンテナを搭載できる{{sfn|青木|2003a|p=58}}。LD-3-46/-46Wコンテナは、大型機用のLD-3コンテナと同じ幅で、単通路機用に高さを低くしたものである{{sfn|青木|2003a|p=58}}。LD-3-46は、元となったLD3コンテナと同じ地上機材で取り扱いでき、そのまま大型機へ搭載することも可能である{{sfn|青木|2003a|pp=58, 62}}。LD-3-46Wの場合は前方貨物室に3個、後方貨物室に4個まで収容できる{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-6-0}}。コンテナの積み下ろしの作業負荷を軽減するため、貨物室の床を電動でスライドさせるオプションも備わる{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009e}}{{sfn|青木|2003a|p=58}}。後部貨物室は、生物を輸送できるように換気と暖房が可能である{{sfn|杉本|弘田|浦山|2009b}}。また、後方貨物室の尾部側は、ばら積み貨物の搭載スペースに割り当てられている{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-6-0}}。

貨物室の扉は全て右舷にある{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-7-0}}。各貨物室にはLD-3-46コンテナに対応した扉が1か所ずつ設けられている{{sfn|青木|2010|pp=52–53}}。この扉はは外開きで開口部の高さは1.24メートル、幅は1.82メートルである{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-7-0}}。加えて、ばら積み貨物用として内開きの扉が最後部にある{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-7-0}}。

== 運用 ==
[[File:737 vs a320 family deliveries per model 1967-2018.png|thumb|A320ファミリーと737シリーズの納入数比較(1967-2018年)]]
[[File:American Airlines aircraft at PHX (N657AW, N837AW, N604AW, N845NN) - Quintin Soloviev.jpg|thumb|2019年現在、アメリカン航空はA320ファミリーの運用数首位の航空会社である。]]
本節では、A320ファミリー全体とA320単体の運用状況について述べる。その他のファミリー機については、個別ページ([[エアバスA321#運用|A321#運用]]、[[エアバスA319#運用|A319#運用]]、[[エアバスA318#運用|A318#運用]])を参照のこと。

2018年末の時点で、A320ファミリーの総受注数は14,581機で、納入済みが8,525機、受注残が6,056機である{{sfn|日本航空機開発協会|2019|pp=II-4, II-8, II-12}}。同時点において、A320ファミリー全体で7,702機が運航中で、そのうちの7,097機がA320ceoファミリー、残る605機がA320neoファミリーである{{sfn|日本航空機開発協会|2019|p=II-17}}。

[[フライト・インターナショナル]]誌の統計によると、2018年7月時点で、A320ファミリー全体として民間航空会社284社で7,506機が運用されている{{r|WAC2018}}。地域別に見ると欧州の100社で2,325機、アジア・太平洋地域の94社で2,744機、南北アメリカの37社で1,977機、中東・アフリカ地域の53社で460機が運用されている{{r|WAC2018}}。

A320ファミリー全体の半数以上の機体は、運用数上位1割の会社で運航されている{{r|WAC2018}}。[[アメリカン航空]]が392機を運用し、A320ファミリー最大の運用者である{{r|WAC2018}}。次いで[[中国南方航空]]が261機、[[中国東方航空]]が248機と続く{{r|WAC2018}}。また[[イージージェット]]はグループ会社で合計すると314機を運用している{{r|WAC2018}}。この他に運用数が多い会社は、北米では[[ジェットブルー航空]](188機)、[[デルタ航空]](177機)、[[ユナイテッド航空]](165機)、欧州では[[ルフトハンザ・ドイツ航空]](173機)、[[ブリティッシュ・エアウェイズ]](135機)、アジアでは[[IndiGo|インディゴ]](162機)、[[中国国際航空]](142機)があげられるほか、[[エアアジア]]グループでも合計で200機超の運用がある{{r|WAC2018}}。

A320単独では、2018年末の時点で総受注数が8,961機、納入済みが5,213機、受注残が3,748機である{{sfn|日本航空機開発協会|2019|pp=II-4, II-8, II-12}}。運航中の機体は4,642機で、A320ceoが4,151機、A320neoが491機である{{sfn|日本航空機開発協会|2019|p=II-17}}。

[[フライト・インターナショナル]]誌の統計によると、2018年7月時点でA320は航空会社240社で4,155機が運用されている{{r|WAC2018}}。地域別の内訳はアジア・太平洋地域の84社で1,896機、欧州の78社で1,235機、南北アメリカの32社で981機、中東・アフリカ地域の47社で369機となっている{{r|WAC2018}}。

A320の運用数上位5位は、中国と北米の航空会社で占められる{{r|WAC2018}}。運用数首位はインディゴで162機、次いで中国東方航空が151機、ジェットブルー航空が130機、中国南方航空が128機、ユナイテッド航空が98機と続く{{r|WAC2018}}。欧州で運用数首位の会社は[[ブエリング航空]](98機)、次いでイージージェット(92機)、ルフトハンザ航空(80機)と続く{{r|WAC2018}}。イージージェットやエアアジアはグループ全体での運用数は200機近くにのぼるほか、[[ジェットスター航空]]もグループ全体では100機超を運用している{{r|WAC2018}}。

また、[[ビジネスジェット]]版のACJ320ファミリーは、ビジネス機や[[政府専用機]]などとして運用されている{{sfn|青木|2003a|pp=62–63}}<ref>{{Cite web |title=スイスVIPチャーター社、ACJ320neo初号機受領 A320neoビジネスジェット |date=2019-03-26 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/169349 |accessdate=2019-11-11}}</ref><ref name=fg-452090>{{Cite web |title=PICTURE: Ex-Lufthansa A321 joins Luftwaffe |date=2018-09-21 |work=Flightglobal |url=https://www.flightglobal.com/news/articles/picture-ex-lufthansa-a321-joins-luftwaffe-452090/ |accessdate=2019-06-25}}</ref>。

=== 日本の航空会社による導入 ===
[[File:Vanilla Air, Airbus A320-200 JA07VA NRT (32866525062) (cropped).jpg|thumb|[[バニラエア]]のA320。同社はエアアジア・ジャパンとして設立されA320を導入したが、親会社の提携解消によりバニラエアとなりその後ピーチ・アビエーションに統合された。]]
日本の航空会社でA320を最初に採用したのは[[全日本空輸]]である{{sfn|徳光|2003|pp=95–96}}。同社は日本の国内ローカル線向けに737の後継機としてA320導入し、1991年3月から運航を開始した{{sfn|徳光|2003|p=96}}。全日空のA320は、後に同社系列の[[エアーニッポン]]との共同事業機材として運用された{{sfn|徳光|2003|p=96}}。続いて全日空はA321も採用し、1998年4月から就航させたものの、当時は同社の路線需要に合わず2008年2月に全機退役させた{{sfn|徳光|2003|p=96}}<ref name=aw-128868>{{Cite web |title=各席に個人モニターや電源装備 写真特集・ANA A321neo初号機(機内編) |date=2017-09-10 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/128868 |accessdate=2019-06-30}}</ref>。A320についても737に置き換える計画を立てたものの、改めてA320の運航継続を決めた{{sfn|徳光|2003|p=97}}<ref>{{Citation |title=ANA VISION 2006(第56期 第3四半期報告書) |date=2006-03 |publisher=全日本空輸 |url=https://www.ana.co.jp/ir/rp/pdf/vision/05/56tq/00.pdf |accessdate=2019-11-11}}</ref>。2016年12日にはA320neoの運航も開始し、日本国内線や近距離国際線へ投入した<ref>{{Cite web |title=大型機並み装備のビジネスクラス 写真特集・ANA A320neo初号機就航(1) |date=2016-12-27 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/108333 |accessdate=2019-11-11}}</ref><ref>{{Cite web |title=ANAのA320neo、国際線に初就航 成田から上海へ |date=2017-01-23 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/110565 |accessdate=2019-11-11}}</ref>。さらにA321も再導入を決め、2016年11月にA321ceo<ref>{{Cite web |title=電動シートのプレミアムクラス 写真特集・ANA A321ceo国内線仕様(前編) |date=2016-11-17 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/105021 |accessdate=2019-11-11}}</ref>、そして2017年9月にはA321neo<ref name=aw-129064>{{Cite web |title=ANA、A321neo国内初就航 電源と個人モニター装備 |date=2018-09-12 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/129064 |accessdate=2019-06-22}}</ref>が就航している。

2006年3月に商業運航を開始した[[スターフライヤー]]は運航機材にA320を選定した<ref name=aw-108097>{{Cite web |title=薄型シートでより快適に 写真特集・スターフライヤー14機目のA320 |date=2016-12-26 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/108097 |accessdate=2019-11-11}}</ref>。当初はリース導入だったが、後に自社購入でもA320を導入している{{r|aw-108097}}。2012年3月に就航した[[Peach Aviation|ピーチ・アビエーション]]や同年7月に就航した[[ジェットスター・ジャパン]]をはじめ、日本の格安航空会社でもA320が採用された<ref>{{Cite web |title=ピーチ初号機が退役 地球325周分、就航初日のパイロットとCAも乗務 |date=2019-05-03 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/172310 |accessdate=2019-11-11}}</ref><ref>{{Cite web |title=ジェットスター、搭乗者数800万人突破 就航から2年9カ月 |date=2015-03-16 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/57242 |accessdate=2019-11-11}}</ref><ref>{{Citation |last1=野村 |first1=尚司 |title=新型機材 エアバスA320neoの航続距離と新規就航可能空港の特定 |journal=日本国際観光学会論文集 |year=2018 |volume=25 |pages=125–131 |doi=10.24526/jafit.25.0_125 |ref=harv}}</ref>。

=== 受注・納入数 ===
A320(A320ceoとA320neo)の受注・納入数は下表のとおりである。

{| class="wikitable" style="text-align:right; font-size:91%;"
|+ 表2: 年ごとの受注・納入数(キャンセル分は当初発注年度から減じている){{sfn|日本航空機開発協会|2019|pp=II-4, II-8}}
|-
|-
! rowspan=2 | タイプ !!colspan="2"|受注!!colspan="28"|納入
! !! colspan="2"|合計
! 2018 !! 2017 !! 2016 !! 2015 !! 2014 !! 2013 !! 2012 !! 2011
|-
|-
! 受注数 || colspan="2"|'''8,961'''
!合計!!Backlog!!合計!!2016!!2015!!2014!!2013!!2012!!2011!!2010!!2009!!2008
| 412 || 614 || 539 || 522 || 992 || 590 || 455 || 1,030
|-
|-
! 納入数 || colspan="2"|'''5,213'''
!A318
|80||||80||||1||||1||2||2||2||6||13
| 417 || 345 || 319 || 282 || 306 || 352 || 332 || 306
|-
|-
| style="height: 1px;" colspan=14 |
!A319
|1,478||21||1,457||4||24||34||38||38||47||51||88||98
|-
|-
! !! 2010 !! 2009 !! 2008 !! 2007 !! 2006 !! 2005 !! 2004 !! 2003 !! 2002 !! 2001
!A320
|4,698||315||4,383||251||282||306||352||332||306||297||221||209
|-
!A321
|1,741||308||1,433||222||184||150||102||83||66||51||87||66
|-
|-
! 受注数
!合計
|7,997||644||7,353||477||491||490||493||455||421||401||402||386
| 281 || 153 || 296 || 529 || 308 || 430 || 171 || 125 || 103 || 119
|}
|-
! 納入数

| 297 || 221 || 209 || 194 || 164 || 121 || 101 || 119 || 116 || 119
{| class="wikitable" style="text-align:right; font-size:96%;"
|-
| style="height: 1px;" colspan=14 |
|-
|-
! !! 2000 !! 1999 !! 1998 !! 1997 !! 1996 !! 1995 !! 1994 !! 1993 !! 1992 !! 1991
! rowspan=2 | タイプ !! colspan="28"|納入
|-
|-
! 受注数
!2007!!2006!!2005!!2004!!2003!!2002!!2001!!2000!!1999!!1998!!1997!!1996!!1995!!1994!!1993!!1992!!1991!!1990!!1989!!1988
| 128 || 155 || 175 || 98 || 124 || 22 || 42 || 13 || 59 || 14
|-
|-
! 納入数
!A318
|17||8||9||10||9|| || || || || || || || || || || || || || ||
| 101 || 101 || 80 || 58 || 38 || 34 || 48 || 71 || 111 || 119
|-
|-
| style="height: 1px;" colspan=14 |
!A319
|105||137||142||87||72||85||89||112||88||53||47||18|| || || || || || || ||
|-
|-
! !! 1990 !! 1989 !! 1988 !! 1987 !! 1986 !! 1985 !! 1984 !! 1983
!A320
|194||164||121||101||119||116||119||101||101||80||58||38||34||48||71||111||119||58||58||16
|-
|-
! 受注数
!A321
|51||30||17||35||33||35||49||28||33||35||22||16||22||16|| || || || || ||
| 69 || 63 || 105 || 53 || 84 || 74 || 4 || 12
|-
|-
! 納入数
!合計
| 58 || 58 || 16 || 0 || 0 || 0 || 0 || 0
|367||339||289||233||233||236||257||241||222||168||127||72||56||64||71||111||119||58||58||16
|}
|}
<small>''2016年12月末のデータ''</small><ref name="Airbus_Orders">{{Cite web |url=http://www.airbus.com/company/market/orders-deliveries/ |title = Airbus Orders and Deliveries |work=Airbus |date= 31 December 2016 |format=xls |accessdate=11 January 2017}}</ref>


== 仕様 ==
== 事件・事故 ==
[[アビエーション・セーフティー・ネットワーク]](以下、ASN)の統計によると、2019年10月現在までにA320ファミリーが関係する[[航空事故]]および事件は、153件発生している{{r|asn-a320-series-index}}。そのうち機体損失に至ったのは航空事故が30件、テロ等の事件が7件、その他駐機中の火災や自然災害等によるものが7件ある{{r|asn-a320-series-database1}}{{r|asn-a320-series-database2}}。この中で30件の事故により951人、7件の事件により441人、1件のハイジャックにより1人(犯人)が死亡している{{r|asn-20000705-0}}。
※(仕様による差異あり)


以下、本節ではA320ceoおよびA320neoに関する事件事故について述べる。他のファミリー機については、各項目を参照のこと。
{| class="wikitable" style="text-align:center;font-size:80%;"

!!!A318!!A319!!A320!!A321
ASNの統計によると2019年10月までに、A320ceoが関係する航空事故および事件は93件発生し、A320neoでの事故や事件は報告されていない{{r|asn-a320-index}}{{r|asn-a320neo-index}}。そのうち機体損失に至ったのは航空事故が25件、テロ等の事件が5件、その他駐機中の火災等によるものが6件ある{{r|asn-a320-database}}{{r|asn-a320neo-index}}。11件の事故により計816人、2件の事件により計216人死亡している{{r|asn-a320-database}}。また、ハイジャックが1件発生し犯人1人が射殺された{{r|asn-a320-database}}<ref name=asn-20000705-0>{{Citation |title=ASN Aircraft accident Airbus A320 registration unknown Amman-Queen Alia International Airport (AMM) |url=https://aviation-safety.net/database/record.php?id=20000705-0 |work=Aviation Safety Network |accessdate=2019-10-31}}</ref>。

A320の最初の死亡事故は、1988年6月26日に発生した[[エールフランス296便事故]]である{{r|asn-a320-database}}。デモンストレーションのため滑走路上を低空飛行したA320が、滑走路の先にあった樹木に接触してそのまま墜落し、搭乗者136人のうち3人が死亡した{{sfn|加藤|2008|loc=第4章41}}<ref name=asn-19880626-0>{{Citation |title=ASN Aircraft accident Airbus A320-111 F-GFKC Mulhouse-Habsheim Airport |work=Aviation Safety Network |url=https://aviation-safety.net/database/record.php?id=19880626-0 |accessdate=2019-10-30}}</ref>。

この事故に続く2件の死亡事故は、[[ヒューマンファクター]]に起因したが、そこにはA320の飛行システムも関係した{{sfn|Gero|2017|pp=233–234}}{{sfn|加藤|2008|loc=第4章14, 47, 53}}。

1件目は1990年2月14日に発生した{{仮リンク|インディアン航空605便墜落事故|en|Indian Airlines Flight 605}}で、インドの[[HAL バンガロール空港|バンガロール空港]]に着陸しようとしていたA320が、空港手前に墜落し搭乗者148人中92人が死亡した{{sfn|加藤|2008|loc=第4章47}}<ref name=asn-19900214-2>{{Citation |title=ASN Aircraft accident Airbus A320-231 VT-EPN Bangalore-Hindustan Airport (BLR) |work=Aviation Safety Network |url=https://aviation-safety.net/database/record.php?id=19900214-2 |accessdate=2019-10-30}}</ref>。事故調査の結果、パイロットが降下率を変更しようとして誤って高度設定ノブを操作したと推測された{{sfn|加藤|2008|loc=第4章47}}{{r|asn-19900214-2}}。その結果、飛行システムがエンジン推力を絞り、降下経路と速度を維持できなくなったが、この事態に乗員が気づくのが遅れ、回復操作が間に合わず墜落した{{sfn|加藤|2008|loc=第4章47}}{{r|asn-19900214-2}}。

2件目は1992年1月20日に発生した[[エールアンテール148便墜落事故]]であり、フランスの[[ストラスブール国際空港]]に着陸しようとしていたA320が、空港手前の山に墜落し搭乗者96人中87人が死亡した{{sfn|加藤|2008|loc=第4章53}}<ref name=asn-19920120-0>{{Citation |title=ASN Aircraft accident Airbus A320-111 F-GGED Strasbourg-Entzheim Airport (SXB) |work=Aviation Safety Network |url=https://aviation-safety.net/database/record.php?id=19920120-0 |accessdate=2019-10-30}}</ref>。墜落前の事故機は異常に大きな降下率で降下していた{{sfn|加藤|2008|loc=第4章53}}。事故調査では異常な降下に至った原因は確定できなかったものの、降下角と降下率のモード選択をパイロットが取り違えた可能性が指摘された{{sfn|加藤|2008|loc=第4章53}}{{r|asn-19920120-0}}。事故後にエアバスは誤認を防ぐように表示を改善した{{sfn|加藤|2008|loc=第4章53}}{{r|asn-19920120-0}}{{sfn|Gero|2017|pp=233–234}}。

A320で最も多くの死者を伴った事故は、2007年7月17日に発生した[[TAM航空3054便オーバーラン事故]]である{{r|asn-a320-database}}。ブラジルの[[コンゴーニャス空港]]に着陸したTAM航空のA320が、滑走路を逸脱し、空港敷地外の建物とガソリンスタンドに衝突して炎上した<ref name=asn-20070717-0>{{Citation |titleASN Aircraft accident Airbus A320-233 PR-MBK São Paulo-Congonhas Airport, SP (CGH) |work=Aviation Safety Network |url=https://aviation-safety.net/database/record.php?id=20070717-0 |accessdate=2019-10-31}}</ref>。事故機の搭乗者187人全員と地上で巻き込まれた12人が死亡した{{r|asn-20070717-0}}。事故調査の結果、いくつかの要因が重なってパイロットが着陸時の操作を誤ったと推定された{{r|asn-20070717-0}}。

そのほかに100人以上が死亡した事故は、2000年の[[ガルフ・エア072便墜落事故]]、2006年の[[アルマビア航空967便墜落事故]]、2014年の[[インドネシア・エアアジア8501便墜落事故]]がある。

2009年1月15日には[[USエアウェイズ1549便不時着水事故]]が発生した<ref name=asn-20090115-0>{{Citation |title=ASN Aircraft accident Airbus A320-214 N106US Weehawken, NJ [Hudson River, NY] |work=Aviation Safety Network |url=https://aviation-safety.net/database/record.php?id=20090115-0 |accessdate=2019-10-31}}</ref>。ニューヨークの[[ラガーディア空港]]を離陸したA320が[[バードストライク]]により両エンジンの推力を失ったものの、乗員の迅速で適切な対応により[[ハドソン川]]へ不時着水した{{r|asn-20090115-0}}<ref name=paul>{{Citation |last1=Paul |first1=Simpson |title=The Mammoth Book of Air Disasters and Near Misses |year=2014 |publisher=Robinson |edition=Kindle |ref=harv}}</ref>。搭乗者150人全員が無事であったことから「ハドソン川の奇跡」とも呼ばれた{{r|paul}}。

2015年3月24日に発生した[[ジャーマンウイングス9525便墜落事故]]は、副操縦士の自殺が原因だと推定されている<ref name=asn-20150324-0>{{Citation |title=ASN Aircraft accident Airbus A320-211 D-AIPX Prads-Haute-Bléone |work=Aviation Safety Network |url=https://aviation-safety.net/database/record.php?id=20150324-0 |accessdate=2019-10-31}}</ref>{{sfn|Gero|2017|p=405}}。[[バルセロナ=エル・プラット空港|バルセロナ]]から[[デュッセルドルフ空港|デュッセルドルフ]]へ向かっていた事故機は、副操縦士の意図的な操作により[[アルプス山脈|アルプス]]山中に墜落し、搭乗者全員の150人が死亡した{{r|asn-20150324-0}}{{sfn|Gero|2017|p=405}}。

== 主要諸元 ==
{| class="wikitable" style="font-size:90%; text-align:center;"
|+ 表3: 各モデルの主要諸元
!!!A320neo!!A320ceo!!A321ceo!!A319ceo!!A318
|-
|-
!乗
!運航務員数
|colspan="5"|2名{{sfn|EASA|2019|pp=50, 99, 143, 163}}
|132 (1-class, 最大) <br/> 117 (1-class, 標準) <br/>107 (2-class, 標準)
|156 (1-class, 最大) <br/> 134 (1-class, 標準) <br/>124 (2-class, 標準)
|180 (1-class, 最大) <br/> 164 (1-class, 標準) <br/>150 (2-class, 標準)
|220 (1-class, 最大) <br/> 199 (1-class, 標準) <br/>185 (2-class, 標準)
|-
|-
!標準座席数
!貨物 (バルク)
| 160 - 190席{{sfn|Airbus|2019b|p=4}}
|21.21 [[立方メートル|m<sup>3</sup>]]||27.62 m<sup>3</sup>||37.41 m<sup>3</sup>||51.73 m<sup>3</sup>
| 150席{{sfn|Airbus|2019b|p=4}}
| 185席{{sfn|Airbus|2019b|p=4}}
| 124席{{sfn|Airbus|2019b|p=4}}
| 107席{{sfn|青木|2010|p=57}}
|-
|-
!最大座席数
!貨物 (コンテナ)
| 194席{{sfn|Airbus|2019b|p=4}}
|―――||LD-3-46/46Wx4||LD-3-46/46Wx7||LD-3-46/46Wx10
| 180席{{sfn|Airbus|2019b|p=4}}
| 220席{{sfn|Airbus|2019b|p=4}}
| 156席{{sfn|Airbus|2019b|p=4}}
| 136席{{sfn|EASA|2019|p=163}}
|-
|-
!全長
!全長
|colspan="2"|37.57&nbsp;[[メートル|m]]{{sfn|EASA|2019|p=34}}
|31.44 m||33.84 m||37.57 m||44.51 m
|44.51&nbsp;m{{sfn|EASA|2019|p=85}}
|33.84&nbsp;m{{sfn|EASA|2019|p=128}}
|31.45&nbsp;m{{sfn|EASA|2019|p=156}}
|-
|-
!全幅
!全幅
|colspan="5"|34.10&nbsp;m(シャークレット装備機は35.80&nbsp;m){{sfn|EASA|2019|pp=34, 85, 128, 156}}
|colspan="4"|34.09 m
|-
|-
!全高
!全高
|12.56 m||colspan="3"|11.76 m
|colspan="4"|11.76&nbsp;m{{sfn|EASA|2019|pp=34, 85, 128}}
|12.79&nbsp;m{{sfn|EASA|2019|p=156}}
|-
|-
!胴体幅
!胴体幅
|colspan="4"|外部3.96 m/ 内部 3.70 m
|colspan="5"|3.95&nbsp;m{{sfn|EASA|2019|pp=34, 85, 128, 156}}
|-
|-
!胴体高
!基本空虚重量
|colspan="5"|4.14&nbsp;m{{sfn|Airbus|2019a|loc=§2-2-0}}{{sfn|Airbus|2019b|loc=§2-2-0}}{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-2-0}}{{sfn|Airbus|2019d|loc=§2-2-0}}
|39.5 t||40.8 t||42.6 t||48.5 t
|-
|-
!最大無燃料重量
![[最大離陸重量]] (MTOW)
| 71.5 - 79.0&nbsp;[[トン|t]]{{sfn|EASA|2019|pp=48–49}}
|54.5 t l||58.5 t l||62.5 t l||73.8 t l
| 66.0 - 77.0&nbsp;t{{sfn|EASA|2019|pp=46–48}}
| 78.0 - 93.5&nbsp;t{{sfn|EASA|2019|pp=96–98}}
| 64.0 - 76.5&nbsp;t{{sfn|EASA|2019|p=142}}
| 56.0 - 68.0&nbsp;t{{sfn|EASA|2019|p=162}}
|-
|-
!最大陸重量
![[最大陸重量]] (MLW)
| 66.3 - 67.4&nbsp;t{{sfn|EASA|2019|pp=48–49}}
|68.0 t||75.5 t||78.0 t||93.5 t
| 64.5 - 66.0&nbsp;t{{sfn|EASA|2019|pp=46–48}}
| 73.5 - 77.8&nbsp;t{{sfn|EASA|2019|pp=96–98}}
| 61.0 - 62.5&nbsp;t{{sfn|EASA|2019|p=142}}
| 56.0 - 57.5&nbsp;t{{sfn|EASA|2019|p=162}}
|-
|-
!最大無燃料重量 (MZFW)
!エンジン
| 55.3 - 64.3&nbsp;t{{sfn|EASA|2019|pp=48–49}}
|CFM 56-5 ,<br/>PW6000||colspan="3"|CFM 56-5 ,<br/>IAE V2500
| 60.5 - 62.5&nbsp;t{{sfn|EASA|2019|pp=46–48}}
| 69.5 - 73.8&nbsp;t{{sfn|EASA|2019|pp=96–98}}
| 52.0 - 58.5&nbsp;t{{sfn|EASA|2019|p=142}}
| 53.0 - 54.5&nbsp;t{{sfn|EASA|2019|p=162}}
|-
|-
!貨物室有効容積
!エンジン推力
|colspan="2"|37.42&nbsp;[[立方メートル|m{{sup|3}}]]{{sfn|Airbus|2019a|loc=§2-1-1}}
|{{convert|96|-|106|kN|abbr=on}}
| 51.72&nbsp;m{{sup|3}}{{sfn|Airbus|2019b|loc=§2-1-1}}
|{{convert|98|-|120|kN|abbr=on}}
| 27.66&nbsp;m{{sup|3}}{{sfn|Airbus|2019c|loc=§2-1-1}}
|{{convert|111|-|120|kN|abbr=on}}
| 21.3&nbsp;m{{sup|3}}{{sfn|Airbus|2019d|loc=§2-1-1}}
|{{convert|133|-|147|kN|abbr=on}}
|-
|-
!エンジン (x2)
!巡航速度
|[[CFMインターナショナル LEAP|CFMI LEAP-1A]] または [[プラット・アンド・ホイットニー PW1000G|PW1100G-JM]]{{sfn|EASA|2019|pp=35, 85–86, 129, 156–157}}
|colspan="4"|Mach 0.82
|colspan="5"|[[CFMインターナショナル CFM56|CFMI CFM56]] または [[V2500 (エンジン)|IAE V2500]]{{sfn|EASA|2019|pp=35, 85–86, 129, 156–157}}
|-
|-
!エンジン推力 (x2)
!航続距離
| 106.80 - 130.29&nbsp;[[ニュートン (単位)|kN]]{{sfn|EASA|2019|p=45}}
|{{convert|3200|nmi|abbr=on}}
| 97.86 - 120.10&nbsp;kN{{sfn|EASA|2019|p=44}}
|{{convert|3700|nmi|abbr=on}} <br/> '''LR:''' {{convert|5600|nmi|abbr=on}} <br/> '''CJ:''' {{convert|6500|nmi|abbr=on}}
| 133.30 - 142.34&nbsp;kN{{sfn|EASA|2019|pp=94–95}}
|{{convert|3300|nmi|abbr=on}}
| 97.86 - 120.10&nbsp;kN{{sfn|EASA|2019|pp=140–141}}
|{{convert|3200|nmi|abbr=on}}
| 96.08 – 105.87&nbsp;kN{{sfn|EASA|2019|pp=161–162}}
|-
|-
!最大巡航速度
!離陸滑走距離
|colspan="5"|[[マッハ数|マッハ]]0.82{{sfn|EASA|2019|pp=43, 92, 138, 160}}
|colspan="4"|1,650m
|-
!航続距離
| 6,400&nbsp;[[キロメートル|km]]{{sfn|Airbus|2019e|p=4}}
| 6,200&nbsp;km{{sfn|Airbus|2019e|p=4}}
| 5,950&nbsp;km{{sfn|Airbus|2019e|p=4}}
| 3,750&nbsp;km{{sfn|Airbus|2019e|p=4}}
| 5,950&nbsp;km{{sfn|青木|2010|p=57}}
|-
|-
| colspan=6 style="text-align:left; font-size:90%;" |
!着陸滑走距離
* CFMI: [[CFMインターナショナル]]、IAE:[[インターナショナル・エアロ・エンジンズ]]、P&W: [[プラット・アンド・ホイットニー]]
|colspan="4"|1,550m
|}
|}


{| class="wikitable" style="font-size:90%; text-align:center;"
=== エンジンの仕様 ===
|+ 表4: 型式名と装備エンジンの一覧
{|class="wikitable sortable" style="text-align:center;font-size:80%;"
!機種!!認定日!!エンジン<ref>{{cite web |url=http://easa.europa.eu/certification/type-certificates/docs/aircraft/EASA-TCDS-A.064_AIRBUS_A318,_A319,_A320,_A321_Single_Aisle-10-21122012.pdf |title=EASA TYPE-CERTIFICATE DATA SHEET Airbus A318, A319, A320, A321 Single Aisle |work=EASA |date= 21 December 2012 |format=PDF |accessdate= 1 January 2013}}</ref>
|-
|-
! 機種 !! エンジン !! 型式証明取得
| A318-111 || 2003年5月23日 || CFM International CFM56|CFM56-5B8/P
|-
|-
| A318-112 || 2003年5月23日 || CFM International CFM56|CFM56-5B9/P
| A320-211 || [[CFMインターナショナル CFM56|CFMI CFM56-5A1]] || 1988年11月8日
|-
|-
| A320-212 || [[CFMインターナショナル CFM56|CFMI CFM56-5A3]] || 1990年11月20日
| A318-121 || 2005年12月21日 || Pratt & Whitney PW6000|PW6122A
|-
|-
| A320-214 || [[CFMインターナショナル CFM56|CFMI CFM56-5B4]] || 1995年3月10日
| A318-122 || 2005年12月21日 || Pratt & Whitney PW6000|PW6124A
|-
|-
| A319-111 || 1996年4月10日 || CFM International CFM56|CFM56-5B5 または 5B5/P
| A320-215 || [[CFMインターナショナル CFM56|CFMI CFM56-5B5]] || 2006年6月22日
|-
|-
| A319-112 || 1996年4月10日 || CFM International CFM56|CFM56-5B6 または 5B6/P または 5B6/2P
| A320-216 || [[CFMインターナショナル CFM56|CFMI CFM56-5B6]] || 2006年6月14日
|-
|-
| A320-231 || [[V2500 (エンジン)|IAE V2500-A1]] || 1989年4月20日
| A319-113 || 1996年5月31日 || CFM International CFM56|CFM56-5A4 または 5A4/F
|-
|-
| A320-232 || [[V2500 (エンジン)|IAE V2527-A5]] || 1993年9月28日
| A319-114 || 1996年5月31日 || CFM International CFM56|CFM56-5A5 または 5A5/F
|-
|-
| A320-233 || [[V2500 (エンジン)|IAE V2527-A5]] || 1995年10月26日
| A319-115 || 1999年7月30日 || CFM International CFM56|CFM56-5B7 または 5B7/P
|-
|-
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| A319-131 || 1996年12月18日 || International Aero Engines V2500|IAE Model V2522-A5
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| A320-252N || [[CFMインターナショナル LEAP|CFMI LEAP-1A24]] || 2017年12月18日
| A319-132 || 1996年12月18日 || International Aero Engines V2500|IAE Model V2524-A5
|-
|-
| A320-253N || [[CFMインターナショナル LEAP|CFMI LEAP-1A29]] || 2019年2月5日
| A319-133 || 1999年7月30日 || International Aero Engines V2500|IAE Model V2527M-A5
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|-
| A320-271N || [[プラット・アンド・ホイットニー PW1000G|P&W PW1127G-JM]] || 2015年11月24日
| A320-111 || 1988年2月26日 || CFM International CFM56|CFM56-5A1 または 5A1/F
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|-
| A320-272N || [[プラット・アンド・ホイットニー PW1000G|P&W PW1124G1-JM]] || 2018年10月17日
| A320-211 || 1988年11月8日 || CFM International CFM56|CFM56-5A1 または 5A1/F
|-
|-
| A320-273N || [[プラット・アンド・ホイットニー PW1000G|P&W PW1129G-JM]] || 2019年6月30日
| A320-212 || 1990年11月20日 || CFM International CFM56|CFM56-5A3
|-
| A320-214 || 1995年5月10日 || CFM International CFM56|CFM56-5B4 または 5B4/P または 5B4/2P
|-
| A320-216 || 2006年6月14日 || CFM International CFM56|CFM56-5B6
|-
| A320-231 || 1989年4月20日 || International Aero Engines V2500|IAE Model V2500-A1
|-
| A320-232 || 1993年9月28日 || International Aero Engines V2500|IAE Model V2527-A5
|-
| A320-233 || 1996年6月12日 || International Aero Engines V2500|IAE Model V2527E-A5
|-
| A321-111 || 1995年5月27日 || CFM International CFM56|CFM56-5B1 または 5B1/P または 5B1/2P
|-
| A321-112 || 1995年2月15日 || CFM International CFM56|CFM56-5B2 または 5B2/P
|-
| A321-131 || 1993年12月17日 || International Aero Engines V2500|IAE Model V2530-A5
|-
| A321-211 || 1997年5月20日 || CFM International CFM56|CFM56-5B3 または 5B3/P または 5B3/2P
|-
| A321-212 || 2001年8月31日 || CFM International CFM56|CFM56-5B1 または 5B1/P または 5B1/2P
|-
| A321-213 || 2001年8月31日 || CFM International CFM56|CFM56-5B2 または 5B2/P
|-
| A321-231 || 1997年5月20日 || International Aero Engines V2500|IAE Model V2533-A5
|-
| A321-232 || 2001年8月31日 || International Aero Engines V2500|IAE Model V2530-A5
|-
|-
| colspan=6 style="text-align:left; font-size:90%;" |
* 出典:{{harv|EASA|2019|pp=9–10, 35}}
* CFMI: [[CFMインターナショナル]]、IAE:[[インターナショナル・エアロ・エンジンズ]]、P&W: [[プラット・アンド・ホイットニー]]
|}
|}


== 不具合 ==
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
2008年、カンタス航空の[[エアバスA330|A330]]が、操縦レバーを正常に操作しても、意図せず機首下げを続け降下してしまう不具合が発生し、最寄りの空港に緊急着陸して乗員の一部に負傷者が発生した([[カンタス航空72便急降下事故]]を参照)。原因は機体の制御に用いられるソフトウェアに存在していたバグによるものであったが、実際にこのバグが修正されたのは2011年のことであった。日本の[[国土交通省]]はA330と同じくサイドスティックを操縦に用いるA320も対象として、2014年に耐空性改善通報を出した<ref>[http://it.slashdot.org/story/11/12/20/0127215/software-bug-caused-qantas-airbus-a330-to-nose-dive Software Bug Caused Qantas Airbus A330 To Nose-Dive caused by an airspeed sensor malfunction, linked to a bug in an algorithm which 'translated the sensors' data into actions, where the flight control computer could put the plane into a nosedive]</ref><ref>[http://www.dailytech.com/Qantas+A330+Nosedive+Likely+Caused+by+Rare+AirData+Signal+Spike+But+Remains+A+Mystery/article23560.htm On October 7, 2008, Qantas Flight 72 (QF72) uncommanded pitch-down maneuvers, ended up injuring 119 of the 315 occupants]Daily Tech December 20, 2011</ref><ref>[http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00282537.html エアバスA320機でパイロットの意に反し降下の不具合 12月10日、国交省が、耐空性改善通報を出した 今回は、A320機とA330機が対象]FNN 2014年12月12日(リンク切れ…アーカイブは以下[http://ai.2ch.sc/test/read.cgi/newsplus/1418364604/ 2ch.sc]2014/12/12)</ref>。


=== 注釈 ===
また2011年には、フィンランド航空のロンドン定期便が、[[:en:bleed air|ブリードエア]]システム<ref>エンジンから取り出した圧縮空気。与圧やタービンブレードの冷却、翼の防氷などに利用される。</ref>の不具合およびオペミスが原因で低空飛行および航路上オートパイロット不使用を余儀なくされた。これはメーカー側で当該部品の交換サイクルが明示されていなかったこと、マニュアル整備が不徹底だったこと、なども原因となった<ref>[http://www.alpajapan.org/37-07-a320%E9%AB%98%E5%9C%A7%E7%A9%BA%E6%B0%97%E7%B3%BB%E7%B5%B1%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%96%E3%83%AB%E3%81%A7%E7%B7%8A%E6%80%A5%E9%99%8D%E4%B8%8B%EF%BC%88%E3%81%9D%E3%81%AE%EF%BC%91%EF%BC%89/ A320高圧空気系統トラブルで緊急降下(その1)]</ref><ref>[http://www.alpajapan.org/37-08-a320%E9%AB%98%E5%9C%A7%E7%A9%BA%E6%B0%97%E7%B3%BB%E7%B5%B1%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%96%E3%83%AB%E3%81%A7%E7%B7%8A%E6%80%A5%E9%99%8D%E4%B8%8B%EF%BC%88%E3%81%9D%E3%81%AE%EF%BC%92%EF%BC%89/ A320高圧空気系統トラブルで緊急降下(その2)]</ref>。
{{notelist|refs=
{{efn|name=bypass|ターボファンエンジンでは、吸引された空気は、コアを通り燃焼・噴出されるものと、コアを通らず排出される(バイパスされる)ものに分けられる{{r|encyclopedia-31}}。コアをバイパスする空気流量をコアを通る空気流量で割った値がバイパス比であり、一般にこの値が大きいほど推進効率が高くなる{{r|encyclopedia-31}}{{r|PHAK-6-20}}。詳細は[[ターボファンエンジン]]を参照。}}
}}


== 事故概略 ==
=== 出典 ===
{{Reflist|23em|refs=
{{要出典|範囲=([[2014年]]現在、A320型ファミリー)|date=2015年3月}}
<ref name=encyclopedia-31>{{Citation |last=渡辺 |first=紀徳 |contribution=エンジンのしくみ |editor=飛行機の百科事典編集委員会 |title=飛行機の百科事典 |date=2009-12 |page=31 |isbn=978-4-621-08170-9}}</ref>
* {{要出典|範囲=機体損失事故:12回、総計440人死亡。|date=2015年3月}}
<ref name=encyclopedia-160>{{Citation |last=中島 |first=隆博 |contribution=トリムのとり方 |editor= 飛行機の百科事典編集委員会 |title=飛行機の百科事典 |date=2009-12 |page=160 |isbn=978-4-621-08170-9}}</ref>
* {{要出典|範囲=他の原因:4回、総計0人死亡。|date=2015年3月}}
<ref name=encyclopedia-314>{{Citation |last=李家 |first=賢一 |contribution=主翼平面形状 |editor=飛行機の百科事典編集委員会 |title=飛行機の百科事典 |date=2009-12 |pages=314–316 |isbn=978-4-621-08170-9}}</ref>
* {{要出典|範囲=[[ハイジャック]]:6回、総計1人死亡|date=2015年3月}}。
<ref name=encyclopedia-346>{{Citation |last=青木 |first=隆平 |contribution=翼の構造 |editor= 飛行機の百科事典編集委員会 |title=飛行機の百科事典 |date=2009-12 |page=346 |isbn=978-4-621-08170-9}}</ref>
<ref name=PHAK-6-20>{{Citation |contribution=Chapter 6: Aircraft Systems |title=Pilot's Handbook of Aeronautical Knowledge |publisher=Federal Aviation Administration (FAA) |format=PDF |pages=6–20 |url=https://www.faa.gov/regulations_policies/handbooks_manuals/aviation/pilot_handbook/ |accessdate=2014-07-06 |id=FAA-H-8083-25}}</ref>


<ref name="procedia">
=== 死者数の多かった航空事故・事件 ===
{{Citation
*[[コガリムアビア航空9268便|メトロジェット9268便爆破事件]] - [[2015年]][[10月31日]]、[[ロシア]]の[[コガリムアビア航空|メトロジェット航空]]の[[A321|A321-200]]型機が、[[エジプト]]上空で過激派組織[[イスラム国]]に爆破され空中分解、224人全員が死亡した。ロシア、エジプトの両国の航空史において、最悪の航空事故となった。
|last1=Mas |first1=F.
*[[TAM航空3054便オーバーラン事故]] - [[2007年]][[7月17日]]、[[ブラジル]]の[[LATAM ブラジル|TAMブラジル航空]]のA320型機が、[[サンパウロ]]の[[コンゴーニャス空港]]でオーバーラン。ガソリンスタンドに激突し、乗客乗員187人と地上の12人、合計199人が死亡した。これは南米大陸の航空事故で最悪のものである。
|last2=Menéndez |first2=J.L.
*[[インドネシア・エアアジア8501便墜落事故]] - [[2014年]][[12月28日]]、[[インドネシア・エアアジア]]のA320が、[[方向舵]]の障害と[[パイロットエラー|パイロットのミス]]により[[失速]]し、[[ジャワ海]]に墜落。乗客乗員162人全員が死亡した。[[エアアジア]]の本社がある[[マレーシア]]では、[[マレーシア航空370便墜落事故|マレーシア航空370便]]、[[マレーシア航空17便撃墜事件|マレーシア航空17便]]に次ぐ2014年の3番目の大惨事として国民に大きな衝撃を与えた。
|last3=Oliva |first3=M.
*[[エアブルー202便墜落事故]] - [[2010年]][[7月28日]]、[[パキスタン]]の[[エアブルー]]の[[A321]]型機が、悪天候だった[[イスラマバード]]の[[ベナジル・ブット国際空港]]へのアプローチ中にクルーが[[空間識失調]]に陥り、空港手前の丘に墜落。乗客乗員152人全員が死亡した。これはパキスタン最悪の航空事故である。
|last4=Ríos |first4=J.
*[[ジャーマンウイングス9525便墜落事故]] - [[2015年]][[3月24日]]、[[ドイツ]]の[[ルフトハンザドイツ航空]]傘下の[[ジャーマンウィングス]]が運航するA320が[[フランス]]の山に墜落、乗客乗員150人全員が死亡した。副操縦士の自殺が原因だった。この事故の7か月後、ジャーマンウィングスは[[ユーロウイングス]]と統合となり、"4U"という便名での運行はなくなった。
|title=Collaborative Engineering: an Airbus case study
|journal=Procedia Engineering
|year=2013
|volume=63
|number=null
|publisher=Elsevier
|pages=336–345
|doi=10.1016/j.proeng.2013.08.180
|ref=harv}}</ref>


<ref name=asn-a320-index>{{Citation
=== その他の事故 ===
|title=Aviation Safety Network > ASN Aviation Safety Database > Aircraft type index > Airbus A320
*[[エールフランス296便事故|エールフランス296便墜落事故]] - 就航直後の[[エールフランス航空]]のA320がデモフライト中に墜落した。
|work=Aviation Safety Network
* [[エールアンテール148便墜落事故]] - [[1992年]]のA320-111型機の墜落事故。
|url=https://aviation-safety.net/database/types/Airbus-A320/index
* [[ガルフ・エア072便墜落事故]] - [[2000年]]のA320-212型機の墜落事故。
|accessdate=2019-10-29}}</ref>
* [[ジェットブルー航空292便緊急着陸事故]] - [[2005年]]のA320-232型機の事故。
<ref name=asn-a320-database>{{Citation
* [[アルマビア航空967便墜落事故]] - [[2006年]]のA320-211型機の墜落事故。
|title=Aviation Safety Network > ASN Aviation Safety Database > Type index > ASN Aviation Safety Database results
* [[XLドイツ航空888T便墜落事故]] - [[2008年]]のA320-232型機の墜落事故。
|work=Aviation Safety Network
* [[USエアウェイズ1549便不時着水事故]] - [[2009年]]のA320-214型機の事故。離陸直後に[[ハドソン川]]に不時着水。一般的に困難とされる河川への不時着水を成功させた上に奇跡的に死者も出なかったことから、「ハドソン川の奇跡」と称される。
|url=https://aviation-safety.net/database/types/Airbus-A320/database
* [[アシアナ航空162便着陸失敗事故]] - [[2015年]]のA320-232型の事故。[[広島空港]]において[[仁川国際空港|ソウル・仁川]]発の当該便が着陸時に[[計器着陸装置|ローカライザ]]のアンテナに接触。滑走路から逸脱して停止した事故。
|accessdate=2019-10-29}}</ref>
<ref name=asn-a320neo-index>{{Citation
|title=Aviation Safety Network > ASN Aviation Safety Database > Aircraft type index > Airbus A320neo
|work=Aviation Safety Network
|url=https://aviation-safety.net/database/types/Airbus-A320neo/index
|accessdate=2019-10-29}}</ref>
<ref name=asn-a320-series-index>{{Citation
|title=Aviation Safety Network > ASN Aviation Safety Database > Aircraft type index > Airbus A319/320/321
|work=Aviation Safety Network
|url=https://aviation-safety.net/database/types/Airbus-A320-series/index
|accessdate=2019-10-29}}</ref>
<ref name=asn-a320-series-database1>{{Citation
|title=Aviation Safety Network > ASN Aviation Safety Database > Type index > ASN Aviation Safety Database results page 1
|work=Aviation Safety Network
|url=https://aviation-safety.net/database/types/Airbus-A320-series/database
|accessdate=2019-10-29}}</ref>
<ref name=asn-a320-series-database2>{{Citation
|title=Aviation Safety Network > ASN Aviation Safety Database > Type index > ASN Aviation Safety Database results page 2
|work=Aviation Safety Network
|url=https://aviation-safety.net/database/types/Airbus-A320-series/database/2
|accessdate=2019-10-29}}</ref>


<ref name=WAC2018>{{Citation
[[ワシントン・ポスト]]誌は、エアバスA320において重大事故が発生した確率は約8000万回のフライトあたり10回(0.0000125%)で、ライバル機であるボーイング737(1億7500万回のフライトあたり75件、約0.0000417%)に比べ、統計上は事故の確率が低いことから、「安全な航空機」であると評している<ref>[http://www.washingtonpost.com/blogs/the-switch/wp/2015/03/24/a-lingering-question-after-france-jet-crash-just-how-safe-is-the-airbus-a320/ A lingering question after Germanwings jet crash: Just how safe is the Airbus A320?] - [[ワシントン・ポスト]](2015年3月24日付)</ref>。
|title=World Airliner Census 2018
|work=Flightglobal
|date=2018-08-21/-09-03
|url=https://www.flightglobal.com/asset/24536
|accessdate=2019-02-14}}</ref>
<ref name=WAD2008>{{Citation
|title=Directory: World Airliners
|journal=Flight International
|date=2008-10-21/27
|pages=32–43
|url=https://www.flightglobal.com/assets/getAsset.aspx?ItemID=26014
|accessdate=2019-10-18}}</ref>
<ref name=WAD2015>{{Citation
|title=World Airliner Directory 2015 Part I
|journal=Flight International
|url=https://www.flightglobal.com/asset/6231
|accessdate=2019-10-18}}</ref>
<ref name=WAD2016>{{Citation
|title=World Airliner Directory - Mainliners: Battle for the middle ground
|date=2016-11-14
|work=Flight International
|url=https://www.flightglobal.com/asset/14332
|accessdate=2019-06-22
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<ref name=awst-20150126>{{Cite web
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|title=Viewpoint: Airbus Should Build A Truly Long-Range 757 Replacement
|date=2015-01-26
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|url=https://aviationweek.com/commercial-aviation/viewpoint-airbus-should-build-truly-long-range-757-replacement
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<ref name=awst-20160216>{{Cite web
|last=Flottau |first=Jens
|title=First A321neo Suffers Tail Strike, Out Of Service For Weeks | Commercial Aviation content from Aviation Week
|date=2016-02-16
|work=Aviation Week & Space Technology
|url=https://aviationweek.com/commercial-aviation/first-a321neo-suffers-tail-strike-out-service-weeks
|accessdate=2019-06-23
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<ref name=wuerfel>{{Citation
|last=Wuerfel |first=Tim
|title=Flying A321neo: Technology Upgrades Under The Skin
|date=2017-05-26
|work=Aviation Week & Space Technology
|url=https://aviationweek.com/commercial-aviation/flying-a321neo-technology-upgrades-under-skin
|accessdate=2019-06-23
|ref=harv}}</ref>
<ref name=aw-8125>{{Cite web
|title=エアバス、中国天津で100機目のA320ファミリー最終組立完了
|date=2012-09-03
|work=Aviation Wire
|url=https://www.aviationwire.jp/archives/8125
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<ref name=aw-53410>{{Cite web
|title=エアバス、A321neo離陸重量増加型ローンチ 大西洋路線にも
|date=2015-01-14
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|accessdate=2019-06-21
}}</ref>
<ref name=aw-63036>{{Cite web
|title=18インチ幅エコノミーで居住性の高さアピール 特集・エアバス イノベーションデイズ2015(後編)
|date=2015-06-15
|work=Aviation Wire
|url=https://www.aviationwire.jp/archives/63036
|accessdate=2019-09-16
|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190402193957/https://www.aviationwire.jp/archives/63036
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</ref>
<ref name=aw-70085>{{Cite web
|title=エアバス、A320のアラバマ工場稼働 米国で最終組立
|date=2015-09-15
|work=Aviation Wire
|url=https://www.aviationwire.jp/archives/70085
|accessdate=2019-11-02
|archiveurl=https://web.archive.org/web/20171007151740/https://www.aviationwire.jp/archives/70085
|archivedate=2017-10-07}}
</ref>
<ref name=aw-75516>{{Cite web
|title=A320neo、EASAとFAAから型式証明を同時取得
|date=2015-11-25
|work=Aviation Wire
|url=https://www.aviationwire.jp/archives/75516
|accessdate=2019-09-16
|archiveurl=https://web.archive.org/web/20171106141028/http://www.aviationwire.jp/archives/75516
|archivedate=2017-11-06}}
</ref>
<ref name=aw-79995>{{Cite web
|title=エアバス、A320neo初号機納入 ルフトハンザに
|date=2016-01-21
|work=Aviation Wire
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|accessdate=2019-09-16
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|archivedate=2018-11-27}}
</ref>
<ref name=aw-80506>{{Cite web
|title=ルフトハンザのA320neo初号機、フランクフルト-ハンブルク線に 年内5機体制へ
|date=2016-01-27
|work=Aviation Wire
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<ref name=aw-81975>{{Cite web
|title=A321neo、初飛行に成功 LEAP-1Aエンジンで
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<ref name=aw-88235>{{Cite web
|title=エアバス、米国製初号機のA321納入 ジェットブルーに
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|title=A320neo、LEAP機も型式証明を同時取得 EASAとFAAから
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<ref name=aw-95363>{{Cite web
|title=A320neo、LEAP機も納入 トルコLCCに
|date=2016-07-22
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<ref name=aw-107064>{{Cite web
|title=A321neo、EASAとFAAから型式証明 PW機で同時取得
|date=2016-12-16
|work=Aviation Wire
|url=https://www.aviationwire.jp/archives/107064
|accessdate=2019-06-21
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<ref name=aw-113348>{{Cite web
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[ボーイングとエアバス]]
* [[飛行機]]
* [[旅客機の構造]]
* [[旅客機のコックピット]]
* {{Portal-inline|航空}}


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
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* エアバス社公式サイト(英語)
* [http://www.airbusjapan.com/aircraft-families-jp/passengeraircraftjp/a320family0/ Airbus Japan - A320ファミリー]
* [http://www.airbus.com/aircraftfamilies/passengeraircraft/a320family/ Airbus - A320 Family(英語版)]
** [https://www.airbus.com/aircraft/passenger-aircraft/a320-family/a320ceo.html A320ceo]
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2019年11月22日 (金) 22:16時点における版

エアバスA320

ジェットスターのエアバスA320-200を上方から見る

ジェットスターのエアバスA320-200を上方から見る

エアバスA320 (Airbus A320) は、欧州エアバス社が開発・製造している単通路の双発ジェット旅客機である。

A320を基本型として長胴型のエアバスA321および短胴型のエアバスA319エアバスA318が開発され、エアバスA320ファミリーを構成している。A320ファミリーは二世代に分けることができ、当初型はA320ceoファミリー、エンジンを刷新した第二世代はA320neoファミリーと呼ばれる。A320ceoは1988年にエールフランスにより路線就航を開始し、A320neoは2016年にルフトハンザ・ドイツ航空により初就航した。

A320は旅客機として世界で初めてデジタル式フライ・バイ・ワイヤ操縦システムやサイドスティックを採用し、エアバス機の新時代を切り開いた。米国メーカーの単通路機と世界で競合しながらシェアを拡大し、エアバスがボーイングと肩を並べるまでに成長する立役者となった。

A320は低翼配置の主翼下に左右1発ずつターボファンエンジンを装備し、尾翼は低翼配置、降着装置は前輪配置である。全長は37.57メートル、全高は11.76メートル、全幅は最大で35.80メートルである。最大離陸重量は66トンから77トンで最大巡航速度はマッハ0.82である。

2018年末までの総納入数は、A320単体で5,213機、A320ファミリー全体で8,525機である。2019年10月現在、A320ファミリーの関係した機体損失事故および事件は、航空事故が30件、テロ等の事件が7件、その他駐機中の火災等によるものが7件発生している。30件の事故により951人、7件の事件により441人、1件のハイジャックにより犯人が死亡している。A320単体では、航空事故は25件、テロ等の事件が5件、その他駐機中の火災等によるものが6件である。11件の事故により計816人、2件の事件により計216人死亡しているほか、ハイジャック1件で犯人1人が死亡している。

以下、本項ではジェット旅客機については、一部社名を省略して英数字のみで表記する。例えば「エアバスA300」であれば「A300」、「ボーイング737」であれば「737」、「ダグラスDC-9」はDC-9とする。

沿革

開発の背景

米国の航空機メーカーに対抗するため、欧州の航空機メーカーは1970年12月に企業連合エアバス・インダストリー」(以下、エアバス)を設立し、世界初の双通路(ワイドボディ)双発ジェット旅客機となるA300を開発した[4][5]。A300は1972年10月に初飛行し、1974年5月に路線就航を開始した[6]。続けて1980年代前半にかけてエアバスは、A300の発展型となるA310A300-600を開発した[7][8]。A310やA300-600は、いわゆるグラスコックピットを採用するとともにシステムにコンピュータを導入して自動化することで、操縦士2人のみで運航可能なワイドボディ機の先駆けとなった[7][8]。こうしてエアバスは一定の成功を収めたものの、既に米国のボーイングマクドネル・ダグラスは、単通路機(ナローボディ機)からワイドボディの長距離機まで圧倒的な製品群を展開していた[9]。これまで双発ワイドボディ機という独自路線で他社との競合を避けてきたエアバスだが、旅客機メーカーとしての確固たる地位を確立するためには、米国メーカーが独占する市場に参入して積極的にシェアを獲得する必要があった[5][10]

一方そのころ、単通路機市場では150席級の新型旅客機が求められつつあった[11][5]727737-200DC-9BAC 1-11シュド・カラベルといった中近距離用の中小型機を更新する時期に差し掛かりつつあった[11][5][12]。それに加えて航空旅客需要が順調に伸びており、150席級の旅客機は今後20年で3,000機の需要があると見込まれた[13][14][11]。各国の航空機メーカーはこの市場を狙って熱心に新型機の研究を行った[11][15]。欧州のメーカー間でも単独あるいは共同事業にる開発構想が複数立ち上がった[15][11][12]。また、米国の航空機メーカーはエアバス・コンソーシアムの切り崩しを図り、欧州の航空機メーカーに接近して共同開発を提案した[15]

米国メーカーによる切り崩し戦術の効果は限定的で、開発構想が実現することはなかった[15][12]。むしろ、米国に対抗する機会を逃すまいと欧州のメーカーは新たな共同開発プロジェクトを1977年に立ち上げた[15][12]。このプロジェクトは JET (Joint European Transport) と名付けられ、参加メンバーはアエロスパシアルMBBVFW-フォッカー英語版、そしてブリティッシュ・エアロスペース (BAe) であった[15]。JET計画はエアバスと別のプロジェクトとして進行していたが、参加メンバーの大半はエアバス構成メンバーであり、唯一エアバスに不参加だったBAe社も1979年にエアバスに加盟した[15][16][17]。これによりJET計画はエアバス・コンソーシアムに継承され、単通路 (Single Aisle) を意味するSA計画と名付けられた[15][12]。SA計画ではSA1からSA3まで3種類の機体案が作られ、座席数はそれぞれ125席、150席、180席とされた[12]

航空会社の反応を踏まえ、エアバスは150席級のSA2に注力することとし、1981年2月に機体名をA320と定めた[12][11][15]。この頃1979年の第二次石油危機により燃料価格が高騰し、航空会社は燃費対策に追われていた[18]。米国のデルタ航空ユナイテッド航空は、燃費性能に優れた150席級旅客機の要求仕様をそれぞれ策定した[18][19]。これらの要求にまさに合致するようA320の仕様がまとまった[19][18][12][注釈 1]

正式開発の決定まで

エアバス参加国でもイギリスのブリティッシュ・エアウェイズやドイツのルフトハンザ航空はA320に消極的だった[21]。ブリティッシュ・エアウェイズは保有機の入れ替えが急務となっており、これから開発するA320では間に合わないと判断してボーイング機を発注した[22]。ルフトハンザは150席級ナローボディ機よりも、長距離路線向けワイドボディ機の開発を優先するよう求めた[21][12]。一方で、エールフランスはA320計画を歓迎し、1981年6月のパリ航空ショーにおいてオプションを含め50機を発注すると発表した[15][23]。フランス政府もA320の開発費の負担を約束した[22]

エールフランスが早々に発注を決め潜在需要も確実視されていたにもかかわらず、A320の正式開発が決定するまでここから3年を要した[22][12]。苦しい財政状況にあったドイツ政府とイギリス政府が開発費負担に難色を示したためである[22][21][12]。特にイギリスの状況は複雑であった[22]。航空機エンジンメーカーのロールス・ロイス(以下 R-R)が参画しイギリス政府も出資していた英日共同開発エンジンの先行きが不透明となり、新しい開発計画に転換するための追加出資を求められていた[22]。新たな計画は日本とイギリスを含む5か国の国際共同事業で、インターナショナル・エアロ・エンジンズ (IAE) 社を設立しV2500を開発するというものだった[24][22][25]。V2500エンジンはA320の搭載エンジンとして有望視されており、エンジンを商業的に成功させるためにイギリス政府はA320へも出資を迫られた[21]

やむをえずエアバスは日本やカナダにも参加を呼びかけたが、日本は当時ボーイングとの共同開発構想があったため断り、カナダも採算が見合わないとしてギリギリのところで参加を見送った[22]。このような状況下で、1984年の初めにフランスのミッテラン大統領、イギリスのサッチャー首相、ドイツのコール首相が会談し、A320への直接・間接の金融支援を行うことが確認された[5]。それを受けて同年2月にドイツ政府は必要経費の90パーセントに相当する15億マルク(約1352億円)の支出を決定した[22][21]。イギリス政府も苦慮の末、エンジンと機体の双方への出資を決めた[21]。ただしA320については4億3,700万ポンドの当初要求に対して2億5,000万ポンド(約875億円)の出資とし、不足分はBAe社が自己調達することとなった[22][21]

ようやく資金の目処がついたことで1984年3月2日、エアバスはA320の正式開発・製造を決定した[14][26]。この時点までに、エールフランスに加えてエールアンテールブリティッシュ・カレドニアン航空アドリア航空キプロス航空の5社からオプション含めて96機の受注を獲得していた[22]

設計の過程

フライ・バイ・ワイヤ

営業活動と並行して機体の設計も進められた[27]。A320の操縦システムには、旅客機として世界初となるフライ・バイ・ワイヤ技術が本格導入された[28][19]。フライ・バイ・ワイヤ方式では、パイロットの操縦操作は電気信号に変換されコンピュータに入力される[29]。そしてコンピュータで計算処理された結果が電気信号として各操縦翼面のアクチュエータに伝達される[29]。これにより、従来の操縦装置でコクピットから操縦翼面までを繋いでいたケーブル(索)やロッド、プーリーといった機械部品を削減でき、機体重量や整備負荷を軽減できる利点がある[19][29]

旅客機のような機体サイズで機械式の操縦装置を用いる場合、操舵力を適切な範囲に収めるためには大型の操縦輪を正面に配置する方式が適している[30]。これに対してフライ・バイ・ワイヤの場合は、操縦入力を電気信号に変換することから、操縦桿の形態や配置の自由度が高くなる[30]。そこでA320では操縦輪に代わりサイドスティックが採用された[30]。サイドスティックは操縦室の左右に配置され、機長は左手で、副操縦士は右手で操作することとなった[30]。操縦室はいわゆるグラスコックピット化され、計器類は6面のCRTディスプレイに集約された[26]

フライ・バイ・ワイヤやサイドスティックの全面採用はA320の商品力向上にとどまらず、エアバスにとって戦略上の重要な意味を持っていた[29]。エアバスは今後開発する全ての旅客機にA320と同様のシステムを搭載し、小型機から大型長距離機に至るまで操縦性を共通化する方針を立てていた[29][19]。従来の機械式の操縦系統では、機種ごとに異なる取り扱い特性を統一するのは困難であった[29]。そこでエアバスは、コンピュータ制御の本格的なフライ・バイ・ワイヤ技術を導入することで、全機種の操縦操作や操縦感覚を揃えることにした[29]。これにより、後に開発されるA320ファミリー機(派生型)の操縦資格は共通化され、さらに開発構想があったワイドボディ機のA340A330への資格移行訓練も短時間で済むと見込まれる[31][29][19]。小型機から大型機までをエアバス機で揃えれば航空会社は運航を大幅に合理化できるようになるため、エアバスの強力な強みとなる[32]。そして、フライ・バイ・ワイヤなどの革新技術を実用化する最初の機種として、A320は適していた[12]。短距離機のA320は整備拠点の近郊で運航されることから、重大な不具合が見つかった場合に対処しやすいとエアバスは考えたのである[12]

コックピットの設計はフランスのアエロスパシアル社が担当した[27]。同社をはじめとするエアバス参加企業は、これまでにコンコルドでアナログ式フライ・バイ・ワイヤを実用化し、A310ではデジタルコンピュータの導入を実現しているほか、軍用機開発でも経験を蓄積していた[26][33]。さらにアエロスパシアル社はA320の開発が決まる前から、次世代コックピットの研究開発に取り組んでいた[27]。これらの経験や研究成果がA320のシステム開発に活かされた[27][26][33]。エアバスはA300の3号機を試験機として、フライ・バイ・ワイヤ操縦システムの開発を行なった[34]。サイドスティックについてもA300の試験機に実装され、航空会社のパイロットも含む多くの操縦士により延べ136時間の飛行試験が行われた[34][35][36]。これらの評価の結果、問題がないとの結論が得られてA320への導入が決定した[34]

構造・空力設計

正面からみたA320。胴体断面の設計はA320ファミリーで共通である。

A320の機体構成は典型的な旅客機と同じく、低翼の主翼下にターボファンエンジンを1発ずつ配置し、尾翼も通常配置となった[37]。A320の機体構造は、A300およびA310の開発を通じて得られたデータやノウハウを活用して設計された[38]。そして、中短距離の運航に適した構造強度とし、腐食防止、構造品質の長期保証、整備性の向上、部品点数の削減が図られた[38]。部材には改良型のアルミニウム合金チタン合金が採用されたほか、複合材料の使用範囲も拡大された[38]

主翼の設計はイギリスのBAe社が担当した[27][26]。A320の設計上の巡航速度は、A300やA310より若干低くマッハ0.79から0.8に設定された[39]。航続距離は3,000海里(約5,556キロメートル)と設定され、このサイズの旅客機としては短くない値だった[40]

ウイング・チップ・フェンス装備のA320-200を下面からみる。

主翼の厚みは空力的には薄い方がよく、一方で翼内燃料タンク容量と構造強度を十分確保するためには厚い方が良い[40][41]。エアバスがA300で実用化したリア・ローディング翼型は様々な利点があったものの、翼の後方が薄いことから、A320の機体サイズではフラップを取り付ける空間をいかに確保するかが課題となった[40][42]。これらの要求を満たすよう、コンピュータによる三次元解析を活用して主翼が設計された[41]。出来上がったA320の主翼は、翼厚比[注釈 2]こそA310と近い値だったものの、翼型は大きく異なり後縁側の厚みが確保された[40]。主翼の平面形は浅い後退角と大きなアスペクト比を持つこととなった[45][39]。フラップはシンプルな1段のファウラー・フラップとし[46][47]、動翼には複合材料を多用することで軽量化が図られた[45]

胴体断面は2つの円構造を結合した「ダブル・バブル構造」とし、単通路機として最も太い胴体幅とされた[48][19]。これにより機体重量が増えるものの、競合機より余裕のある客室と貨物室が実現した[12][49]。さらに貨物室の扉を大型の外開きとして航空貨物コンテナを搭載可能にしたことで、貨物輸送の面でも競合機と差別化が図られた[50][51]

主翼端のウイング・チップ・フェンスは抗力を減らす効果がある。

A320の原型型は最大離陸重量が66トンで、乗客164人が搭乗した場合の航続距離は1,750海里(約3240キロメートル)という仕様であった[52]。これに対して、航空会社はもう少し航続距離を延ばすよう求めた[23]。そこで、最大離陸重量を72トンに引きあげて主翼中央翼内に燃料タンクを追加するとともに主翼端にウイング・チップ・フェンスを装備して、航続距離を3,200海里(約5,930キロメートル)に延長するタイプが計画された[52][23]。原型型はA320-100、重量増加型がA320-200と名付けられた[53]

エンジン

エンジン選定はA320の開発初期における大きな課題だった[53][54]。当初は150席級旅客機に相応しいエンジンが存在せず、CFMインターナショナル(以下CFMI)社のCFM56-2エンジンをひとまず主候補とし、そのほか開発中のエンジン数種が候補に挙げられた[54][27]。その後CFM56の改良型となるCFM56-4の開発が決定したことで、1983年に同エンジンの採用が決まった[27]。先に述べたIAE社のV2500エンジンも1984年に開発が決定し、A320に採用されることになった[55]。ライバルとなるV2500が登場したことでCFMI社はCFM56-4では性能が不十分と判断し、推力を増強したCFM56-5に改めた[55]。これにより、A320の装備エンジンはCFM56-5とV2500の2種からの選択式となった[34]。ボーイングやマクドネル・ダグラスの競合機は、エンジンが1種類のみの設定であり、この機体サイズではエンジンを選択できるのはA320のみであった[45]

生産と試験

これまでのエアバス機と同じく参加国が一定の仕事を確保できるように、A320の生産でも国際分業体制が採られた[56]。A320の主要コンポーネントの生産分担は表1とおりとなった。このほか、BAe社の担当する主翼部品の一部はオーストラリアの企業が下請けで受注した[57]。生産の拠点となる最終組立地については、エアバス参加国間で駆け引きがあったものの、結局は従来通りフランスのトゥールーズに決まった[22][58]。ただし機体内装の組み付けはドイツのハンブルクで行うこととなった[59]

表1: 2010年頃におけるA320の主要コンポーネントの生産分担
国名 企業名 生産分担部位
フランス アエロスパシアル 機首部および前部胴体(主翼前縁より前方)、中央翼、エンジンパイロン、客室扉、
ドイツ MBB 中央および後部胴体、テイルコーン、主翼フラップ、垂直尾翼
イギリス BAe 主翼本体(エルロンとスポイラー含む)、主脚フェアリング
スペイン CASA英語版 水平尾翼、主脚フェアリング
ベルギー ベルエアバス 主翼前縁スラット
ベルーガがA320の胴体前部を下ろしている様子。ベルーガはスーパーグッピー輸送機の後継として開発され、欧州の生産拠点感を結んでいる。

各国の工場で生産されたコンポーネントは、これまでのエアバス機同様にスーパーグッピー輸送機でトゥールーズまで空輸され組み立てられた[60][61]。ただしA320では、トゥールーズでの作業が完了すると機体は飛行可能になり、初飛行を行い通常はそのままハンブルクに移動する[59]。ハンブルクで内装作業を終えた機体は再びトゥールーズに飛行し、そこで顧客に引き渡されるという流れとなった[59]

A320の初号機はCFM56エンジン装備型のA320-100で、1986年4月に最終組立が開始された[62][23]。翌年2月14日にロールアウト式典が盛大に執り行われ、その5日後の1987年2月22日に初飛行に成功した[15][62]。その後、型式証明取得のために4機体制で試験飛行が行われた[62]

飛行制御システムのソフトウェア開発においては、試験飛行の前に複数のシミュレータが用いられ、そのためにコックピットおよび油圧・電源系統を完全に再現したシミュレータも開発された[63]。そして最終的に飛行試験によりソフトウェアやシステム全体の検証が行われた[63]。飛行試験においてコンピュータの内部パラメータを記録したり、試験のための条件設定を行うため、専用の試験システムも開発され用いられた[63]。また、電子制御化されたことで心配された電磁干渉 (EMI) の試験も行われ、エアバスによると軍用艦の電波妨害を受けるような状況にでもない限りシステムに支障がないことが確認された[30]

これらの飛行試験を終えて1988年2月26日、A320のCFM56エンジン装備型に対して、欧州の合同航空当局 (Joint Aviation Authorities; JAA) から交付された[62]

就航開始

エールフランスにより路線就航したA320-100。A320-100の生産は21機のみで、以降はA320-200となった。

1988年3月26日、A320の初引き渡しがエールフランスに対して行われた[64][65]。同年4月18日、エールフランスはA320の商業運航を開始した[66]。次に予定されていた納入先はブリティッシュ・カレドニアン航空だったものの、A320の受領前に同社はブリティッシュ・エアウェイズに吸収合併されることになった[67][68]。これによりブリティッシュ・カレドニアンの発注分はブリティッシュ・エアウェイズに継承され、同社は1988年3月31に最初の機体を受領し、翌月に路線投入した[67][66]。これまで、ブリティッシュ・エアウェイズは、エアバス参加国のフラッグ・キャリアで唯一エアバス機を導入していなかったが、こうしてエアバス運航者に加わった[64]。続いてエールアンテールへの納入も始まった[66]。競合機よりも広いA320の機内は乗客に好評だった[69]

A320-100の納入と並行して重量増加型のA320-200は、1988年6月27日に初飛行している[62]。CFM56エンジン装備型のA320-200は、1988年11月9日に型式証明を取得した[70]。実際の注文はA3200-200に集中し、A320-100の生産は最初の21機のみで終わり、その後は全てA320-200となった[45]。これによりA320-200がA320の実質的な標準モデルとなり、その後も同モデルに対して改良が加えられることになる[45]。またV2500装備型はA320-200のみの生産となった[62]

A320の初号機は、最初の型式証明取得後にエンジンをV2500に換装し、1988年7月28日に同エンジンでの初飛行を行いそのまま試験飛行に従事した[62]。1989年4月20日にV2500装備型もJAAの型式証明を取得した[62]。V2500エンジン仕様の初納入はアドリア航空に対して行われ、間を置かずしてキプロス航空への納入も開始された[71]。同年6月までに両航空会社によって、V2500仕様のA320も路線就航を開始した[71]

型式証明の取得直前に細かい修正が重なったため、納入初期には機体納期が遅延したり保守部品の供給が遅れたりといったトラブルも見られた[66]。それでも最初の約3か月間の運航信頼度は97パーセントを記録した[66]。形式証明の取得後に、エアバスは細かいものを含めて800件の改良を行った[72]。その中で1件のみ、強制力のある耐空性改善命令に至った[72]。その内容は飛行システムの電源系統に関する問題で、電源供給ユニットの交換が行われた[72]。そのほかにはCFM56エンジン装備型では離陸時に客室前方で不快な騒音が響くことが問題視され、エアバスは対処に追われた[69]

好調な受注

1986年4月のロールアウト時点において、A320には15社から450機を超える受注が集まっていた[15]。そして同年10月には、ノースウエスト航空から100機のA320を受注した[26][73]。米国の主要な航空会社がエアバス機を大量発注したことに、米国の航空機メーカーは衝撃を受けた[74]。慌てたボーイングは金額を空白にした737の注文書をノースウエスト社長に送付したとも言われるが、ノースウエストを翻意させることはできなかった[74]

ただし、燃料価格は1980年代初頭の予測ほどは上昇しなかったことから、A320の直接運航費は期待したほど有利とはならず、機体価格の安い既存機を選択する航空会社も多かった[46]。A320の仕様策定に影響を与えたデルタ航空はMD-80を、ユナイテッド航空は737を選択していた[46]。それでも1992年には、3年越しの交渉の末にユナイテッド航空から大量受注を獲得し、エアバスは米国市場に本格進出を果たした[74]

A320が北米で受け入れられたのは、機体そのものが魅力的だったこともあるが、エアバスが戦略的な価格を提示したためだとの指摘もある[75]。提示価格はカタログ価格の4割引とも言われ、エアバスに金融支援していたイギリス政府から苦情が出るほどだった[75]。しかしこれは単なる安売りではなく、開発計画が進行していた双通路機のA340やA330の商談に繋げるためのエアバスの戦略であった[75]

ファミリー機の開発

エアバスは1987年にはA320の派生型開発の検討に着手していた[58]。A320を基準として胴体を延長するタイプと短縮するタイプが研究された[58][12]。すでにA340とA330の同時開発が始まっていたことから、A320の派生型開発には最小限のエンジニアが投入された[58]

A321

A320に続いて開発された長胴型のA321。

まず長胴型の開発を進めることになり、1988年5月に正式な受注活動を開始した[58][76]。1989年6月に航空機リースを手がけるインターナショナル・リース・ファイナンス (ILFC) が16機の発注を決め、これが最初の受注となった[77]。続いて同年9月22日にはルフトハンザドイツ航空がオプションを含めて42機を発注[78]したことで、11月24日に長胴型をA321と命名して正式開発が決定した[79][77]

A321では胴体が4.27メートル延長され、2クラス構成の標準座席数は185席とされた[80][35]。胴体延長と機体重量の増加に伴い揚力を強化するため、主翼のフラップが新規設計され、ダブル・スロッテッド・フラップ(二重隙間フラップ)に置き替えられた[80][81]。エンジンはA320と同様にCFMI社のCFM56とIAE社のV2500の選択式となり、機体の大型化に合わせて両エンジンとも推力増強型が設定された[82]。その他は、A320からの変更点を最小にするよう設計され、主翼の大半、尾部、胴体断面はA320と共通化された[83]。飛行システムはA320のものを基本とし、空力特性に合わせて若干の修正が加えられた[84]

A321の最終組立地は、エアバス機として初めてフランスを離れ、ドイツのハンブルクに決まった[85][85]。また、A321は各国政府の資金援助を受けずに開発された初のエアバス機となった[86][77]

A321の初飛行は1993年3月11日に行われ、同年12月17日に最初の型式証明がJAAから交付された[79]。A321は翌年1月に顧客引き渡しが開始され、同年3月にルフトハンザ航空とアリタリア航空によって路線就航を開始した[77][87][88]。続いてA321には貨物コンテナ型の燃料タンクを増備することで航続力を強化した派生型が開発され、当初仕様はA321-100、航続距離延長型はA321-200と名付けられた[89][79]

A319

ファミリー3機種目となった短胴型のA319。

短胴型についても並行して研究が進み、1992年5月1日にエアバスの取締役会で販売活動を開始することが承認された[90][91]。しかし、エアバスを構成する各国政府・企業間で最終組立地をどこにするか合意に手間取り、正式開発の決定は1993年6月10日にずれ込んだ[77][79]。結局、A319の最終組立地はハンブルクとなり、A320の組立地は引き続きトゥールーズとなった[77][92]

胴体は3.73メートル短縮され、標準座席数は2クラス構成で124席とされた[93][90]。胴体長や収容力の減少に合わせて、貨物扉や緊急脱出口の配置が変更された[93]。エンジンはCFM56とV2500から選択でき、小型化された機体に合わせて両エンジンとも推力抑制型が設定された[90]。そのほかの構造やシステムは、可能な限りA320と共通化された[93]

A319は1995年8月25日に初飛行し、約650時間の飛行試験を経て1996年4月10日にJAAから最初の型式証明を取得した[94]。A319の最初の引き渡しは同月中にスイス航空に対して行われ、翌5月に路線就航を開始した[94][95]

ACJ319

1996年6月のパリ航空ショーにおいて、エアバスはA319をベースとしたビジネスジェットを開発すると発表した[96]。旅客機ベースの余裕のある客室を活かして長距離ビジネス機市場に進出することにしたのである[96][92]。エアバスは、同社のビジネスジェット機を「エアバス・コーポレート・ジェット」と名付け、A319ベースの機体はA319CJあるいはACJ319と呼ばれた[97][96]。ACJ319の初号機は1998年11月12日に初飛行し、翌年1月に顧客に初引き渡しされた[96]。のちにACJはA320ファミリー全体に展開され、A320とA321をそれぞれベースにACJ320、ACJ321が開発されたほか、この後開発されるA318をベースとしたACJ318も登場した[98]

A318

A319をさらに胴体短縮して開発されたA318。

A319より小型の旅客機については、エアバスは当初は独自開発しない方針を立てていた[99]。1990年代前半に、座席数100席程度の旅客機を国際共同開発する構想がいくつか立ち上がり、その中で欧州とアジアの企業が共同で「エイジアン・エクスプレス」を開発する計画がまとまった[99][100]。この「エイジアン・エクスプレス」計画にエアバスも参画し、操縦システムや操縦資格はA320と共通化することとなった[99]。しかしエイジアン・エクスプレスは機体を完全に新規設計する計画であり、それに伴う事業リスクの高さが表面化したことで事業として行き詰まってしまった[101][99][102]。結局エアバスはA319の胴体をさらに短縮して100席級の旅客機を独自開発することにした[99]

新たな短胴型はA318と命名され、1999年4月26日に正式に開発が決まった[103]。A318はA319よりも2.39メートル胴体が短縮され、それに伴い方向安定性を維持するため垂直尾翼が延長された[104]。合わせて貨物扉が小型化され、貨物コンテナは搭載できなくなった[104]。エンジンはCFM56の推力抑制型と、プラット・アンド・ホイットニー (P&W) 社が新規開発したPW6000が設定された[104][105]

A318は2002年1月15日に初飛行し、2003年5月23日に最初の型式証明をJAAから取得した[106]。同年7月にフロンティア航空が初受領して路線就航を開始した[106]

双通路機との共通化

A380(奥)とA320(手前)。A320ファミリーとA380の開発により、エアバスは100席級から500席超級までの旅客機ラインナップを実現した。

A320ファミリーの拡充と並行して双通路機のA340とA330も完成し、1993年に航空会社への引き渡しが始まっていた[107]。さらにエアバスは、2000年代前半にA340の第2世代となるA340-500/-600を完成させたほか、客室を総2階建てとした巨人機A380を開発して2007年に路線就航させた[108][107][109]。A320以降に開発されたこれらの機種には、高い共通性を持つフライ・バイ・ワイヤ・システムが実装された[110][111]。そして操作装置や表示装置の配置や表示、操作方法を可能な限り同一化させ、基本的に同一の操縦席仕様を実現した[112]。これによりA320ファミリー各機は同一の乗務資格となった[113]。加えて相互乗員資格 (Cross Crew Qualification; CCQ) と呼ばれる資格制度がつくられたことで、エアバス機は100席級のA318から500席超級のA380まで、数日から2週間程度の短期間の訓練で操縦資格の移行が可能となった[114][19]。そして2007年までにはA300とA310の生産が終了したことで、エアバスが生産する旅客機は全てCCQの対象となった[111]

競合機との競争とLCCへの広がり

737-800(手前)と並んで飛行するA320(奥)。A320ファミリーと737シリーズは単通路機市場で直接対決している。

1990年代の後半にかけて、米国の航空機メーカーも相次いで単通路機の次世代化を行いA320に対抗した[115]。マクドネル・ダグラスはMD-80をベースにV2500エンジンを搭載して近代化したMD-90を開発した[116]。ボーイングも737のエンジン更新した737NG (Next Generation) を開発した[117]。小型の単通路機は双通路機よりも利幅が小さいことから、ボーイングもマクドネル・ダグラスも完全新規開発をためらい、既存機の改良の道を選んだ[118][115]。これに対してエアバスは、A330やA340とシステムを共通化して開発費を分散させたことで、A320のような単通路機にも最新鋭のシステムを実装することに成功した[119]

A320ファミリーの納入数は、1991年と1992年に年間100機を超え、それ以降も毎年50機以上を記録した[120]。そして1999年にはA320ファミリーの総納入数が1,000機を超え、4月15日に1,000号機と1,001号機の引き渡しセレモニーが行われた[121]。1999年以降の毎年の納入数は、A320単体で100機、ファミリー全体で200機を上回るようになった[120]

1990年代には、ノースウエスト航空やユナイテッド航空をはじめとして米国の大手・中堅航空会社が相次いでA320ファミリーを導入した[122]。次第に米国でもA320の乗務資格を有するパイロットやA320の整備経験を積んだ整備士が育ち、2000年代に入る頃には、新興のいわゆる格安航空会社 (LCC) でもA320ファミリーの運航体制を整えパイロットや整備士を確保できる環境ができつつあった[122]。また、A320は中古機市場でも人気があり、航空機リースを行う上で有利な機材となったことで、資金が限られる新興航空会社でもリースでA320を導入しやすい状況であった[123]。このような状況下で、2000年2月に運航開始した米国のジェットブルー航空は、A320を採用し3年間で40機にまで運用数を拡大した[123]。続いてフロンティア航空も2001年にA319を導入し、ファミリー機の採用を拡大していく[122]。欧州の格安航空会社でもA320ファミリーが選ばれるようになった[124]

A320(飛行中)とMD-80(地上)。2002年に、A320ファミリーとマクドネル・ダグラスの単通路機シリーズの運航数が逆転した。

この頃、これまでコンソーシアム(共同事業体)の形態とっていたエアバス・インダストリーは、2001年1月1日付で統合企業に改められ社名も単に「エアバス」となった[125][126]。同年、A320単体の累計納入数が1,000機を超えた[120]。そして翌2002年には年間納入数でA320ファミリーは737シリーズを上回り[127]、運航機数においては、A320ファミリーはマクドネル・ダグラスの単通路機シリーズ (DC-9/MD-80/MD-90) を抜いた[128]。2003年に、A320ファミリーの累計納入数は2,000機に到達した[120]

中国での生産開始

エアバスは生産力の増強を図りつつ中国市場へも攻勢をかけるため、欧州以外で初となる最終組立拠点を中国の天津に開設することを決めた[129][130]。2005年12月にエアバスと中国政府が工場建設の覚書を締結し[130]、工場は2007年5月に着工、2008年8月に稼働を開始して、9月に正式オープンした[59][130]。天津工場製の初号機は2009年5月18日に初飛行し、同年6月23日に顧客へ納入された[59]。天津で完成した機体は、当初は中国の航空会社向けであったが、後に一部アジアの航空会社へも納入されるようになった[59][130]

2009年3月時点で、A320ファミリー全体の累計受注数は6,313機で、納入数は3,764機であった[5]。発注者の地域別内訳は北米が1,988機、欧州が1,763機、アジアが1,595機であり、地域間の大きな偏りがなく販売された[5]

様々な改良

A320-200の登場時に72トンであった最大離陸重量は、その後段階的に引き上げられ、73.5トンや77トン、78トンといった仕様が設定された[62]。離陸重量の増加分は燃料搭載量の増加にあてられ、それに伴い標準航続距離が延長された[62]。エンジンも改良が加えられ、燃費や環境性能の向上が進められた[131]計算流体力学の技術を用いて空力面の改良も加えられ、翼と胴体をつなぐフェアリングやエンジン・パイロンの形状などが変更された[131]。飛行システムも改良され、継続降下進入 (CDA) 方式[注釈 3]広域航法に対応する機能が追加され、より効率的な運航の実現が図られている[134][131]。客室についても頭上の手荷物収容スペースが改良され容積効率が改善されたほか、内装の更新により室内空間が拡大された[134]。客室の照明・空調を管理したりメッセージ放送を行ったりする客室乗務員向けの業務システムも導入された[64]

代替飛行場から離れた経路を飛行可能となるETOPS要件の適用範囲も順次拡大され、2004年3月に欧州航空安全機関(以下、EASA)から、2006年5月には米国連邦航空局(以下、FAA)からA319、A320、A321に対して180分のETOPSが認められた[135][136]。続いて2006年11月には、A318についてもEASAより180分のETOPSが認められた[135][137]

シャークレットを装備したA320。

その後もさらなる燃費低減を進め、2009年11月にはウイング・チップ・フェンスに替えて新しい翼端装置を採用することが発表された[138]。この翼端装置は、主翼端が上方に折り曲げられて大型のフィン状をしており「シャークレット」と名付けられた[138][134]。エアバスは、飛行距離が2,000海里(3,704キロメートル)程度の場合に、シャークレットを装備することで燃料消費を3.5パーセント低減できるとした[138]。2010年から2011年にかけてシャークレットの開発や試作が進められた[138]。そしてA320の初号機にシャークレットが装着され、2011年11月30日に飛行試験を開始した[138]。シャークレット装備仕様は、2012年11月30日にEASAから最初の型式証明を取得し、翌月21日にエアアジアに初納入された[138][139][140]。シャークレットはA318を除くA320ファミリー機に設定され、2014年の納入機から原則としてシャークレットが標準仕様となった[138]

後継機の検討

A320の改良と並行して、エアバスはA320の後継機をどうするか研究を進めていた[141][142]。後継機の考え方は大きく分けて2つあり、一方は完全な新設計機を開発する案、もう一方はA320に新エンジンを搭載し新世代化を図る案であった[141][142]

新設計する案はNSR (New Short Range) と名付けられ、主翼や胴体構造への複合材料の採用、最新の空力設計、エンハンスト・ビジョン・システムといった最新のアビオニクスの導入などが検討された[143]。この頃、A320や737のサイズの旅客機向けに次世代エンジンの研究がいくつか進んでいた[144][142]。これらの次世代エンジンは、オープンローターあるいは大直径ファンを有することから、新たな機体設計を要した[144][142]。次世代エンジンの実用化時期は早くて2025年ごろと見積もられたが、これでは2010年代の就航を目指していたNSR計画には間に合わず、かといって既存エンジンでNSRを開発した場合は次世代エンジンの登場によりNSRがすぐに旧式化してしまうことが懸念された[145][144][142]

このような状況で、エアバスは多額の開発費を要する新規開発は行わず、A320を新世代化改良することを決めた[144][142]。具体的にはA320の機体設計はそのまま活用し、当時最新の高効率エンジンに刷新することとなった[144]。エアバスはこの改良型をA320neoと名付け、2010年12月1日に正式開発の決定を発表された[146]。「neo」は「New Engine Option」(新エンジン選択型の意)の頭字語と「新しい」という意味のギリシア語「neo」をかけたものである[146]。そしてneoの登場に伴い、従来型のA320ファミリーはA320ceo(Current Engine Option; 現行エンジン選択型の意)と呼ばれ区別されることとなった[146]

A320と競合する737についても同様の後継機問題を抱えていた[144]。ボーイングは新設計の単通路機を研究していたものの最終的には既存機の改良を選び、2011年8月30日に737MAXの開発を決定した[143][147][144]。こうして単通路機の市場競争は新たな段階に入ったが、9か月先行する形となったA320neoは、737MAXの発表までにリース会社を含む14社から900機を超える大量受注を獲得していた[148]

A320neoの開発

初飛行で撮影されたA320neo。
PW1100G装備型のA320neo。エンジン直径が大きくなったが、地上とのクリアランスが確保されており降着装置は従来と同様である。

A320neoは名前の通り装備エンジンが最新のターボファンエンジンに一新された[149][150]。設定されたエンジンは、プラット・アンド・ホイットニー (P&W) 社のピュアパワーPW1100Gシリーズと、CFMI社のLEAP-1Aシリーズの2種類である[149]。両エンジンとも直径が大きなファンを備えてバイパス比[注釈 4]を上げることで、燃費性能の向上が図られた[151]

PW1100Gは、ピュアパワーPW1000Gシリーズの中の1タイプである[150]。PW1100Gはファンの回転数を最適化するため減速機を備えておりギヤードターボファンエンジンとも呼ばれる[149][150]。これにより12:1という非常に高いバイパス比[注釈 4]を実現した[150]。エアバスは、2008年10月に開発中のPW1000エンジンをエアバス社有のA340-600に装備して飛行試験を行い、P&W社の開発作業を支援していた[150][152]。この時点でエアバスはPW1000エンジンの導入は未定だとしていたが、結果的にA320neoに採用されることになった[150]

LEAP-1Aは、CFM56の後継エンジンとして、2008年7月に正式開発が開始された[150][151]。こちらはファンの減速機を持たないものの、最新の材料技術や空力設計技術により、エンジンコア[注釈 5]を小型化・高効率化したりファンを最適化したほか、システムにも改良を加えることで燃費性能の向上が図られた[150][149][154][151]

A320neoの両エンジンは、A320ceoのエンジンと比べてファンの直径が数十センチメートルほど拡大しているが、エアバスはカウリング下端と地面の間には必要な距離が確保できるとして、降着装置の延長などは行われなかった[155][149]。限られた期間で開発するため、新エンジンのカウルの設計には3次元モデルによるデジタル・モックアップが積極的に用いられた[156]

エンジン以外の基本的な機体設計はA320ceoファミリーのものが踏襲され、設計の95パーセントが共通とされた[146][157]。A320neoでは、主翼のシャークレットが標準装備となった[146]

エアバスはA320neoの開発と合わせてA320ceoのさらなる改良も行なっていた。 neoとceoの双方に適用された改良として、スペースフレックス (Space-Flex) と名付けられた新客室レイアウトや、客室照明の完全LED化、コックピットへのヘッドアップディスプレイ (HUD) 導入があげられる[158][151]。スペースフレックスでは、機体後部のギャレーとトイレのスペースを圧縮することで、座席数を6席増やすことが可能になった[159][151]。ヘッドアップディスプレイは機長席と副操縦席にそれぞれ装着でき、新造機にオプション設定されたほか、既存機への装着改修も可能とされた[35]

A320neoの初号機はPW1100Gエンジン装備型で、2014年9月25日にトゥールーズで初飛行した[157][160]。翌2015年5月19日には、LEAP-1A装備型も初飛行した[161]。同年11月24日、まずPW1100G仕様に対してA320neoの最初となる型式証明がEASAとFAAより交付された[162][163][139]

当初は2015年中にカタール航空が最初のA320neoを受領する計画であったが、PW1100Gエンジンの性能上の問題により延期された[164]。その結果、翌年1月20日ルフトハンザ・ドイツ航空に対してA320neoの初引き渡しが行われた[165]。ルフトハンザは1月のうちにドイツ国内線でA320neoの路線就航を開始し、同年4月にはロンドンとフランクフルトを結ぶ国際線にも投入した[166][167][168]

2016年5月31日には、LEAP-1A装備仕様についてもEASAとFAAから型式証明が交付され[163][139]、7月19日にトルコのペガサス航空に対して初引き渡しが行われた[164][169]

PW1100Gの初期バージョンでは、エンジン始動に時間を要する問題があり、P&W社は改良に追われた[170][171]。それ以外にも、A320neoの運航開始後の初期にはPW1100GエンジンとLEAP-1Aエンジン共にいくつかの問題が見つかり、それぞれのメーカーによる改良や対策が行われた[170]

ファミリー機のneo化

全日本空輸はPW1100G装備型のA321neoの納入初号機を受領した[172]

2010年12月のA320neo開発決定時に、ファミリー機のA321とA319についてもneoを開発することが決まっていた[146]。ファミリー最小のA318については、2003年から2010年までの累計納入数が74機にとどまっており、将来需要が見込めないとしてneoの開発は見送られた[120][146]。A321とA319は共にPW1100GエンジンとLEAP-1Aエンジンを装備可能とされ、機体サイズに応じて各エンジンには推力増強型と抑制型が用意された[173][174]。2015年5月19日には、A320neoファミリーをベースとしたエアバス・コーポレート・ジェットの開発も決定し、ACJ320neoファミリーと名付けられた[175][176]

A321neoの初号機はLEAP-1Aエンジン装備型で2016年2月9日に初飛行した[177][178]。翌月にはPW1100Gを装備したA321neoも初飛行を行なった[168][179]。その後A321neoは試験飛行を行い、2016年12月15日にPW1100G仕様型、翌年3月1日にはLEAP-1A仕様型に対してそれぞれ型式証明が交付された[180][181]。2017年4月20日にLEAP-1A仕様のA321neoがヴァージン・アメリカに対して初引き渡しされ、同年9月5日にはPW1100Gエンジン装備機も全日本空輸に対して初納入された[182][183][184]

長胴型のA321はボーイング757の後継機市場にも進出しつつあったが、本格的に757を代替するためには、航続力の強化が必要だった[185][186]。そこでエアバスは2015年1月13日に、A321neoの航続距離延長型となるA321LR(Long Range、長距離の意味)の開発を決定した[187][188]。A321LRは2018年1月31日に初飛行し、10月2日に型式証明を取得、11月14日に初引き渡しがアルキア・イスラエル航空に対して行われた[189][190][191]。2019年6月17日には、A321の航続力をさらに強化したA321XLR (Xtra Long Range) を開発するとエアバスが発表した[188]。A321XLRは、アメリカン航空カンタス航空イベリア航空エアリンガスを傘下に持つインターナショナル・エアラインズ・グループなどから受注を獲得し、2023年納入の計画で開発が進んでいる[192][193][188]

この間にA319neoの初号機もLEAP-1Aエンジン仕様で製造され、2017年3月31日に初飛行した[194]。同様に試験飛行を経て、2018年12月にLEAP-1A仕様のA319neoへの型式証明が交付された[194][195]。その後、A319neoの初号機はエンジンをPW1100Gに換装し、2019年4月25日に同エンジンでの初飛行を行なった[194][195]。2019年現在においてPW1100G仕様のA319neoは、型式証明取得に向けた試験飛行を行なっている[196]。A319neoの納入初号機は2019年7月16日に個人客に引き渡された[197]

さらなる販売の伸びと生産強化

A320ファミリーの年間納入数は概ね増加を続け、2006年には300機を上回り2009年には400機を超えた[120]。A320単体の年間納入数も同様で、2008年に200機を超え2011年には300機を超えた[120]。A320ファミリーの累計納入数は伸び続け、2012年2月に5,000機、2014年3月には6,000機に達した[120][198][199]

この間、A320ファミリー内の需要の中心が大型機に移っている[200]。A320、A321、A319が揃った1996年以来、A320、A319、A321の順に納入数が多かったが、2000年代の後半から徐々に売れ筋が大型化してきた[200]。2006年のファミリー内の納入数シェアは、A321が10パーセント弱でA320が43パーセント、A319が73パーセントであった[200]。2010年を境にA319とA321の納入数が逆転し、2016年にはA321が44パーセント、A320が53パーセント、A319は3パーセントとなった[200][120]

A320neoファミリーの開発と並行して段階的に生産体制が強化されてきた[201]。エアバスは、2012年7月にA320ファミリーの最終組立を米国でも行うことを決め、アラバマ州モビールに工場を建設した[202]。アラバマ工場は2013年4月に着工し、2015年9月から本稼働している[202]。米国製の初号機は2016年3月に初飛行し、4月に顧客へ引き渡された[202][203]

2008年2月1日にはA320ファミリー全体での納入数が8,000機に達し[204]、2019年10月11日には、A320"neo"ファミリーの納入数が1,000機に達した[197][205]

2019年現在、A320の最終組立が行われているのはフランスのトゥールーズ、ドイツのハンブルク、中国の天津、アメリカのモビールの4か所である[206]。A319はハンブルク、天津、モビールの3か所、A321はハンブルクとモビールの2か所で最終組立されている[120]。A318については2015年を最後に生産が途絶えている[120]

機体

ファミリー構成

A320ファミリーは世代により、当初型のA320ceoファミリーと新世代エンジンに刷新したA320neoファミリーに分けられる。A320ceoファミリーは、基本型のA320、長胴型のA321、短胴型のA319とA318の4機種で構成される。A320neoファミリーは、A319neo、A320neo、A321neoで構成される。

以下本節では、主に基本型のA320について説明する。ファミリー各機種については、個別ページ(A321#機体A319#機体A318#機体)を参照のこと。A320neoについての詳細はA320neoも参照。またコーポレートジェット仕様についてはエアバス・コーポレート・ジェットも参照されたい。

形状・構造

基本構成

ウイング・チップ・フェンス仕様のA320を右側面から見る。
シャークレット仕様のA320を右側面から見る。
A320neoを同じく右側面から見る。

A320の機体構成は一般的な旅客機のものである[207]。片持ち翼の主翼を低翼に配置した単葉機であり、左右の主翼下に1発ずつターボファンエンジンを備える[208][53][146]尾翼は通常配置で、垂直尾翼水平尾翼はともに胴体尾部に直接取り付けられている[208]降着装置は前輪式配置で機首部に前脚、左右の主翼の付け根に主脚がある[209]。全長は37.57メートル、全高は11.76メートル、全幅はウイング・チップ・フェンス装備型が34.10メートルでシャークレット装備型が35.80メートルである[210]

機体構造の材料は、アルミニウム合金チタン合金といった金属が中心だが、構造重量の15パーセントは複合材料が用いられている[211][212]。使用されている複合材は、炭素繊維強化プラスチック (CFRP)、アラミド繊維強化プラスチック (AFRP)、ガラス繊維強化プラスチック (GFRP) であり、AFRPとGFRPは二次構造部材、CFRPは二次構造部材のほか主構造材にも用いられている[211][注釈 6]

主翼

主翼はテーパーがついた後退翼で、翼面積は122.6平方メートルである[208][216]。25パーセント翼弦での後退角は25度、アスペクト比[注釈 7] は約9.5と、後退角が浅く翼幅の大きい翼である[207][39]。翼厚比[注釈 2]は10.8パーセントでA310と近い値であるが、断面形状はかなり異なりA320の翼は後半部が比較的厚い[39][40]。主翼構造は、胴体と一体化している中央翼構造および左右の片持ち翼構造から構成される[47]。左右の主翼は箱型応力外皮構造(ボックス構造)であり、前桁、後桁、リブ(小骨)、ストリンガ(縦通材)、そして上下の外板らで構成される[220][47]。中央翼構造はトラスで補強されたボックス構造で、翼にかかる揚力などを胴体に伝える働きを担う[47]

主翼には高揚力装置として前縁にスラット、後縁にファウラー・フラップを備える[47][207]。スラットは片翼あたり6枚で、ほぼ全幅にわたり配置されている[47][208]。エンジン・パイロンの付け根を境にフラップは内翼と外翼に2分割されており、その外側に補助翼がある[47]。主翼上面には片翼あたり5枚のスポイラーがある[47]。スポイラーはロール操縦にも用いられる[207]。動翼には複合材料を多用することで軽量化が図られている[47]

翼端装置として誘導抵抗を減らす効果のあるウィング・チップ・フェンスまたはシャークレットを備える[207][221]。ウイング・チップ・フェンスは鏃状の整流板で、シャークレットはウイングレットのように翼端を上に曲げた形状を有する[47][207]。開発当初はウイング・チップ・フェンスが標準装備であったが、のちにシャークレット仕様が開発され、A320neoではシャークレットが標準装備となった[207][221]。また、既存の機体にシャークレットを後付けすることも可能である[222]

主翼のボックス構造内は燃料タンクである[47]。タンクは左右が各2分割され中央1区画と合わせて5区画に別れており、両端はサージタンクとなっている[223]

胴体

A320の胴体断面は直径が異なる2つの円構造を結合した「ダブル・バブル構造」である[48]。断面の外寸は幅3.95メートル、高さ4.14メートルである [208]。胴体長は全長に等しく37.57メートルである[208]。客室部分をできるだけ一定幅で保ちつつ、尾部の平面形のくびれを工夫するなどして抵抗を低減している[46]。胴体構造はセミモノコック構造であり、フレーム(円周方向の構造材)、ストリンガ(前後方向に延びる縦通材)、外板、ビーム(左右方向の補強部材)、圧力隔壁などで構成される[48][224]。胴体最下端から1.679メートル上にビーム構造があり、客室の床を支持する[48]。胴体は尾部を除き与圧構造である [48]

尾翼

水平尾翼の翼幅は12.45メートル、垂直尾翼の高さは5.87メートルである[208]。水平・垂直尾翼ともに前桁と後桁、外板、リブで構成されたボックス構造であり、ほとんどは複合材料製である[225]

水平尾翼は水平安定板と昇降舵で構成される[225]。水平尾翼は在来機のような中央翼構造は持たず、左右の翼が胴体内で金具により結合されている[225]。この結合部の前方にジェッキ・スクリューが取り付けられており、水平安定板の角度を変えてトリム[注釈 8]を調整できる[227]。水平尾翼と胴体との結合は、後桁に左右一か所ずつ設けられた金具とベアリングにより行われる[225]。左右の昇降舵はアクチュエータを2か所ずつ備え、左右独立して駆動される[225]

垂直尾翼は垂直安定板と方向舵で構成される[225]。垂直尾翼の最下部で胴体に結合されている[225]。方向舵は水平安定板の後桁にベアリングで結合されており、アクチュエータにより駆動される[225]

降着装置

A320の主翼の付け根部分。主脚等を格納するため「バスタブ」状に底面が張り出している。

左右の主脚および前脚はそれぞれ2輪式である[209]。前脚・主脚とも引き込み式で、昇降は通常時は油圧により行われ、非常用の脚下げ機構のみ他機種と同様にケーブルが用いられる[209]。ホイールはアルミニウム合金製、タイヤはラジアルタイヤである[209]。ブレーキは多板式のディスクブレーキで、ディスクにはカーボンが用いられる[209]。ブレーキは油圧で作動し、アンチスキッドや自動ブレーキシステムを備える[209]。前脚は油圧駆動のステアリング機構を有し、地上にいるときのみ旋回が可能である[209]

エンジン

A320のエンジンはA320ceoとA320neoで世代が分けられ、いずでも高バイパス比[注釈 4]のターボファンエンジンである[45][228][173]

A320ceoのエンジンは、CFMI社のCFM56とIAE社のV2500の選択式である[45][228]。CFM56エンジンはA320ファミリー全てに設定されており、V2500エンジンはA318を除くA319、A320、A321に設定されている[229]。ファミリー機の胴体長(重量)に応じて、推力増強型と抑制型が用意されている[230]

A320neoのエンジンは新世代型ターボファンエンジンとなり、CFMI社のLEAP-1AあるいはP&W社のPW1100G-JMから選択できる[173]。両エンジンはA320neoファミリー全てに設定され、やはり胴体長に応じて、推力増強型と抑制型が用意されている[229]

エンジンの制御はデジタル式の電子制御装置 (FADEC) により行われる[34]。FADECはエンジン版のフライ・バイ・ワイヤとも言えるもので、スラストレバーの入力と飛行状況に応じてコンピュータによりエンジン推力を自動制御する[34][231][232]

補助動力装置 (APU) としてガスタービンエンジンを1基備えており、胴体尾部のテールコーン内に搭載されている[233][228]。A320のAPUは、地上で主エンジンの停止中に電力や圧縮空気を供給するためのものであるが、非常時には空中でも始動可能である[234]

飛行システム

フライ・バイ・ワイヤ

A320の特徴として、旅客機で初めてフライ・バイ・ワイヤ技術を全面的に採用したことが挙げられる[235][19]。エアバスはA320のフライ・バイ・ワイヤ・システムをEFCS (Electronic Flight Control System) と呼んでいる[236][237]

A320のフライ・バイ・ワイヤ・システムでは、パイロットの操縦操作は電気信号に変換されデジタル・コンピュータに送られる[236][29][238]。コンピュータでは操縦入力と各種センサなどの情報に基づき計算処理が行われる[236][239][29]。算出された指令値は電気信号として各操縦翼面や降着装置のアクチュエータに伝達される[236][235][240][239]

エアバスはA320のシステムを開発するにあたり、馬車を操るように旅客機を操縦できるようなシステムを目指した[241][19]。馬車の場合、御者は馬に指示を出し、馬は指示をもとに道路状況に応じて走ることができる[19]。御者が馬の一歩一歩の足運びまで指示することはないし、明らかな危険があれば、馬は自分の判断で回避することもできる[241][19]。A320でも同じように、パイロットの指示と状況に応じてシステムが動翼を自動制御する[241]。A320の飛行制御システムには、パイロットの操縦を補助する機能があるほか、機体や飛行の安全を守る保護機能が組み込まれている[235][239][242][243][244]。そしてこのシステムは自動飛行制御システム (Automatic Flight Control System; AFCS) として、自動操縦装置自動推力制御装置、および航法などを担う飛行管理装置も統合されている[245][239]

システムの設計思想を対比して、機械優先のエアバスと人間中心のボーイングと言われることもある[246][247]。一方で、機械が得意な部分は機械に任せるというのがエアバス機の考え方であり、あくまで人間が中心のシステムであるとの評価もある[246][247]。システムを上手に使いこなすことが、A320をうまく飛ばす要諦とも言われる[246][247]。また、エアバスとボーイングは、相手の優れた機能を互いに取り入れてシステムの改善を重ねている[246]

A320のシステムにおいて、各種入力を受けて操縦翼面を制御するプログラムは「飛行制御則」と呼ばれる[248][249]。飛行制御則は3種類用意されており、それぞれノーマル(通常)、オルタネート(代替)、ダイレクト(直接)と名付けられている[250][239]。通常はノーマル制御則で運航され、システムの障害の程度に応じてオルタネート制御則やダイレクト制御則へ切り替わる[239][251]。ノーマル制御則では飛行段階に応じたモードがあり、地上モードから飛行モード、着陸モードと順に切り替わり、最後に地上モードに戻る[239]

ノーマル制御則では保護機能によって機体姿勢や荷重、飛行速度などが許容範囲を超えることがないよう機体が制御される[239][244]。例えば機体が失速状態に近づくと、自動的にエンジンを最大推力とし、迎え角がそれ以上大きくならないよう操縦翼面が制御される[235]。また、ノーマル制御則にはパイロットの操縦を補助する機能があり、例えばトリム[注釈 8]はシステムにより自動調整される[235][244]。システムに2つの障害が発生した場合は、オルタネート制御則に切り替わる[250][239]。オルタネート制御則では、操縦特性はノーマル制御則と変わらないが、一部の保護機能が働かなくなるほか、乗員は操縦機能が喪失しないよう対処する必要がある[250]。システムに3つ以上の障害が発生した場合は、ダイレクト制御則に切り替わり、トリム調整も乗員が行う必要がある[252][250]

主操縦翼面(昇降舵・補助翼・方向舵)を制御するコンピュータは計7台あり、その他にも二次操縦翼面(高揚力装置等)を制御したり自動操縦の処理を行ったりする各種コンピュータを加えてシステム全体が構成される[239][253][245]。コンピュータの異常を検出するための相互監視機能も備える[239][245]

A320の操縦システムは、操縦不能になるのは109時間に1回以内、操縦性の低下は105時間に1回以内という目標で設計された[46]。システムは信頼性を高めるため、複数のコンピュータにより冗長化が図られており、さらに単純な多重化ではなく異種冗長の考え方が取り入れられている[237][254]。異種冗長とは同一の欠陥あるいは故障によりシステム全体が機能喪失することを防ぐための考え方である[237][254]。具体的には、多重化に際してメーカー、プロセッサ、そしてプログラミング言語が異なるコンピュータを組み合わせたり、コンピュータ内部の命令部と監視部を完全に独立させたりといった方策がとられている[237][254][46]。電源の分離や信号線の分離配置といった対策もとられている[254]

油圧系統は、独立した3つの系統で構成される[255]。油圧ポンプにより加圧された油圧は操縦系統や降着装置、ブレーキ、そしてエンジンの逆推力装置に供給される[255]。全ての操縦翼面は油圧により駆動される[236]。各翼面には複数のアクチュエータが備わり冗長化されている[235]。降着装置の出し入れ、ブレーキ、ステアリングも油圧駆動である[209]

A320の電源は、左右のエンジンおよびAPUに備わる発電機から供給される[256]。駐機中には、地上設備の外部電源を利用することも可能である[256]。電源系にはバッテリーが備わっているほか、緊急時には胴体からラムエア・タービンを展開して発電および油圧の加圧を行うことができる[256][255]。さらに、機体の全電源が喪失した場合に備えて、水平尾翼と垂直尾翼のトリム操作には機械式の操縦系も備えているほか、降着装置も非常用にケーブル式の脚下げ機構を有する[257][250]。機械式の操縦系統が残っているのは、全電源が喪失する確率が109時間(約11万年)に1回以内ということを検証することが現実的に困難だったためとも言われる[46]

コックピット

ターキッシュ エアラインズのA320コックピット。正面に操縦棹がなく、脇に操縦用のサイドスティックがある。正面には書類などが置けるテーブルが装備されている。

運航に必要な操縦士は機長副操縦士の2名である[258][251]。操縦室には機長席と副操縦席に加えてオブザーバ席が2席ある[259]。居住性を重視した合理的なデザインであり、ポルシェのデザイン部門が設計に参画したことでポルシェ・コックピットとも呼ばれる[19][260]

A320のコックピットはいわゆるグラスコックピット化されているほか、従来機のような操縦輪はなくサイドスティックで操縦を行う[34][261]

ディスプレイは左右の操縦席に各2枚、中央に2枚の計6枚あり、全てカラー表示である[260]。予備の計器以外の表示は全てディスプレイに集約されている[260]。ディスプレイにはそれぞれ役割が割り当てられているが互換性があり切り替え可能である[262]。ディスプレイが故障した場合には、 飛行の継続に支障ないように自動的に表示レイアウトが切り替わる[262]。ディスプレイには当初はブラウン管が用いられたが、技術革新にともない液晶ディスプレイに置き換えられた[35]。2014年からはヘッドアップディスプレイ (HUD) の装備が追加され、新造機にはオプション設定されているほか、既存機への装着も可能である[35]

サイドスティックはピッチロールの主操縦に用いられ[46]、左の機長席には左側、右の副操縦士席には右側に配置されている[30]。左右のサイドスティックは機械的には連結されていない[263]。通常はどちらか一方のサイドスティックで操縦する[263]。両方のサイドスティックを同時に操作した場合は、それぞれの指令の算術和がシステムへの入力となるが、不慮の事態に備えてもう一方のスティックの入力を無効にする機能も備わる[263]オートパイロット作動中のサイドスティクは、従来の操縦輪のように自動的に動くことはない[242]。操縦輪がなくなったことで各操縦席の前面には収納式のテーブルが設置され、ログを書いたり食事をとったりできる[261][19]

コックピットや飛行システムはA320ファミリーで共通化されており、操縦資格も共通である[264][35][265]。同時にエアバスの相互乗員資格 (CCQ) の対象でもあることから、CCQ対象となるエアバス機との間であれば、短時間の訓練で他機種の資格を取得することが可能である[266]

客室・貨物室

A320の胴体は中央付近の床面を境として上層に客室、下層に貨物室が配置されている[48]。エンジンまたはAPUのコンプレッサーによる圧縮空気を利用して、客室の空調および与圧が行われる[267][268]。空調や与圧の制御および監視もコンピュータにより行われる[268]。客室には緊急時のための酸素マスクが備わり、酸素発生装置から化学反応により酸素を生成・供給する[269]。また、コックピットには乗客用と別に酸素供給系統がある[269]

操縦席を除いた客室全長は27.5メートルで[34]、客室の最大幅は約3.6メートル、最大高は約2.1メートルである[270]。2クラス編成での標準座席数は、A320ceoが150席、A320neoが160席から190席となっている[271]。最大定員は通常仕様で180席であり、緊急脱出口のオプションによっては195席まで拡張可能である[258]。客室には中央に1本の通路があり、エコノミークラスの座席配置は通路を挟んで3-3席の6アブレスト、上級クラスでは2-2席の4アブレストである[272]。座席の頭上には、手荷物を収容するオーバーヘッド・ストウェッジ・ビンが備わる[259][273][251]。単通路機としては胴体幅が広いことから、3列の座席のうち中央席は両隣の座席よりも数センチメートル広くすることも可能である[259]。また、短距離路線向けに乗降時間短縮を図るため、座席幅を詰めて通路幅を広げた内装案も用意されている[274][273]

客室の扉配置は左右対称である[273]。乗降用ドアとして客室の最前方と最後方にタイプIドアが1組ずつある[275][273]。この扉は外開きのプラグ式で、非常脱出用スライドを備える[275]。緊急脱出口として主翼上に片側あたり2枚のタイプIIIドアがある[258][275][273]。この緊急脱出口に連動して展開される脱出用スライドは翼胴フェアリング内に備わる[275][251]

LD-3-46W航空貨物コンテナを取り扱っているA320。尾部の扉にはバルク貨物用設備も接続している。

床下の貨物室は主翼を挟んで前後2区画に分かれている[276]。貨物室にはLD-3-46またはLD-3-46W航空貨物コンテナを搭載できる[50]。LD-3-46/-46Wコンテナは、大型機用のLD-3コンテナと同じ幅で、単通路機用に高さを低くしたものである[50]。LD-3-46は、元となったLD3コンテナと同じ地上機材で取り扱いでき、そのまま大型機へ搭載することも可能である[277]。LD-3-46Wの場合は前方貨物室に3個、後方貨物室に4個まで収容できる[276]。コンテナの積み下ろしの作業負荷を軽減するため、貨物室の床を電動でスライドさせるオプションも備わる[251][50]。後部貨物室は、生物を輸送できるように換気と暖房が可能である[267]。また、後方貨物室の尾部側は、ばら積み貨物の搭載スペースに割り当てられている[276]

貨物室の扉は全て右舷にある[278]。各貨物室にはLD-3-46コンテナに対応した扉が1か所ずつ設けられている[34]。この扉はは外開きで開口部の高さは1.24メートル、幅は1.82メートルである[278]。加えて、ばら積み貨物用として内開きの扉が最後部にある[278]

運用

A320ファミリーと737シリーズの納入数比較(1967-2018年)
2019年現在、アメリカン航空はA320ファミリーの運用数首位の航空会社である。

本節では、A320ファミリー全体とA320単体の運用状況について述べる。その他のファミリー機については、個別ページ(A321#運用A319#運用A318#運用)を参照のこと。

2018年末の時点で、A320ファミリーの総受注数は14,581機で、納入済みが8,525機、受注残が6,056機である[2]。同時点において、A320ファミリー全体で7,702機が運航中で、そのうちの7,097機がA320ceoファミリー、残る605機がA320neoファミリーである[279]

フライト・インターナショナル誌の統計によると、2018年7月時点で、A320ファミリー全体として民間航空会社284社で7,506機が運用されている[1]。地域別に見ると欧州の100社で2,325機、アジア・太平洋地域の94社で2,744機、南北アメリカの37社で1,977機、中東・アフリカ地域の53社で460機が運用されている[1]

A320ファミリー全体の半数以上の機体は、運用数上位1割の会社で運航されている[1]アメリカン航空が392機を運用し、A320ファミリー最大の運用者である[1]。次いで中国南方航空が261機、中国東方航空が248機と続く[1]。またイージージェットはグループ会社で合計すると314機を運用している[1]。この他に運用数が多い会社は、北米ではジェットブルー航空(188機)、デルタ航空(177機)、ユナイテッド航空(165機)、欧州ではルフトハンザ・ドイツ航空(173機)、ブリティッシュ・エアウェイズ(135機)、アジアではインディゴ(162機)、中国国際航空(142機)があげられるほか、エアアジアグループでも合計で200機超の運用がある[1]

A320単独では、2018年末の時点で総受注数が8,961機、納入済みが5,213機、受注残が3,748機である[2]。運航中の機体は4,642機で、A320ceoが4,151機、A320neoが491機である[279]

フライト・インターナショナル誌の統計によると、2018年7月時点でA320は航空会社240社で4,155機が運用されている[1]。地域別の内訳はアジア・太平洋地域の84社で1,896機、欧州の78社で1,235機、南北アメリカの32社で981機、中東・アフリカ地域の47社で369機となっている[1]

A320の運用数上位5位は、中国と北米の航空会社で占められる[1]。運用数首位はインディゴで162機、次いで中国東方航空が151機、ジェットブルー航空が130機、中国南方航空が128機、ユナイテッド航空が98機と続く[1]。欧州で運用数首位の会社はブエリング航空(98機)、次いでイージージェット(92機)、ルフトハンザ航空(80機)と続く[1]。イージージェットやエアアジアはグループ全体での運用数は200機近くにのぼるほか、ジェットスター航空もグループ全体では100機超を運用している[1]

また、ビジネスジェット版のACJ320ファミリーは、ビジネス機や政府専用機などとして運用されている[96][280][281]

日本の航空会社による導入

バニラエアのA320。同社はエアアジア・ジャパンとして設立されA320を導入したが、親会社の提携解消によりバニラエアとなりその後ピーチ・アビエーションに統合された。

日本の航空会社でA320を最初に採用したのは全日本空輸である[282]。同社は日本の国内ローカル線向けに737の後継機としてA320導入し、1991年3月から運航を開始した[283]。全日空のA320は、後に同社系列のエアーニッポンとの共同事業機材として運用された[283]。続いて全日空はA321も採用し、1998年4月から就航させたものの、当時は同社の路線需要に合わず2008年2月に全機退役させた[283][172]。A320についても737に置き換える計画を立てたものの、改めてA320の運航継続を決めた[284][285]。2016年12日にはA320neoの運航も開始し、日本国内線や近距離国際線へ投入した[286][287]。さらにA321も再導入を決め、2016年11月にA321ceo[288]、そして2017年9月にはA321neo[289]が就航している。

2006年3月に商業運航を開始したスターフライヤーは運航機材にA320を選定した[290]。当初はリース導入だったが、後に自社購入でもA320を導入している[290]。2012年3月に就航したピーチ・アビエーションや同年7月に就航したジェットスター・ジャパンをはじめ、日本の格安航空会社でもA320が採用された[291][292][293]

受注・納入数

A320(A320ceoとA320neo)の受注・納入数は下表のとおりである。

表2: 年ごとの受注・納入数(キャンセル分は当初発注年度から減じている)[294]
合計 2018 2017 2016 2015 2014 2013 2012 2011
受注数 8,961 412 614 539 522 992 590 455 1,030
納入数 5,213 417 345 319 282 306 352 332 306
2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001
受注数 281 153 296 529 308 430 171 125 103 119
納入数 297 221 209 194 164 121 101 119 116 119
2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991
受注数 128 155 175 98 124 22 42 13 59 14
納入数 101 101 80 58 38 34 48 71 111 119
1990 1989 1988 1987 1986 1985 1984 1983
受注数 69 63 105 53 84 74 4 12
納入数 58 58 16 0 0 0 0 0

事件・事故

アビエーション・セーフティー・ネットワーク(以下、ASN)の統計によると、2019年10月現在までにA320ファミリーが関係する航空事故および事件は、153件発生している[295]。そのうち機体損失に至ったのは航空事故が30件、テロ等の事件が7件、その他駐機中の火災や自然災害等によるものが7件ある[296][297]。この中で30件の事故により951人、7件の事件により441人、1件のハイジャックにより1人(犯人)が死亡している[298]

以下、本節ではA320ceoおよびA320neoに関する事件事故について述べる。他のファミリー機については、各項目を参照のこと。

ASNの統計によると2019年10月までに、A320ceoが関係する航空事故および事件は93件発生し、A320neoでの事故や事件は報告されていない[299][300]。そのうち機体損失に至ったのは航空事故が25件、テロ等の事件が5件、その他駐機中の火災等によるものが6件ある[301][300]。11件の事故により計816人、2件の事件により計216人死亡している[301]。また、ハイジャックが1件発生し犯人1人が射殺された[301][298]

A320の最初の死亡事故は、1988年6月26日に発生したエールフランス296便事故である[301]。デモンストレーションのため滑走路上を低空飛行したA320が、滑走路の先にあった樹木に接触してそのまま墜落し、搭乗者136人のうち3人が死亡した[302][303]

この事故に続く2件の死亡事故は、ヒューマンファクターに起因したが、そこにはA320の飛行システムも関係した[304][305]

1件目は1990年2月14日に発生したインディアン航空605便墜落事故で、インドのバンガロール空港に着陸しようとしていたA320が、空港手前に墜落し搭乗者148人中92人が死亡した[306][307]。事故調査の結果、パイロットが降下率を変更しようとして誤って高度設定ノブを操作したと推測された[306][307]。その結果、飛行システムがエンジン推力を絞り、降下経路と速度を維持できなくなったが、この事態に乗員が気づくのが遅れ、回復操作が間に合わず墜落した[306][307]

2件目は1992年1月20日に発生したエールアンテール148便墜落事故であり、フランスのストラスブール国際空港に着陸しようとしていたA320が、空港手前の山に墜落し搭乗者96人中87人が死亡した[308][309]。墜落前の事故機は異常に大きな降下率で降下していた[308]。事故調査では異常な降下に至った原因は確定できなかったものの、降下角と降下率のモード選択をパイロットが取り違えた可能性が指摘された[308][309]。事故後にエアバスは誤認を防ぐように表示を改善した[308][309][304]

A320で最も多くの死者を伴った事故は、2007年7月17日に発生したTAM航空3054便オーバーラン事故である[301]。ブラジルのコンゴーニャス空港に着陸したTAM航空のA320が、滑走路を逸脱し、空港敷地外の建物とガソリンスタンドに衝突して炎上した[310]。事故機の搭乗者187人全員と地上で巻き込まれた12人が死亡した[310]。事故調査の結果、いくつかの要因が重なってパイロットが着陸時の操作を誤ったと推定された[310]

そのほかに100人以上が死亡した事故は、2000年のガルフ・エア072便墜落事故、2006年のアルマビア航空967便墜落事故、2014年のインドネシア・エアアジア8501便墜落事故がある。

2009年1月15日にはUSエアウェイズ1549便不時着水事故が発生した[311]。ニューヨークのラガーディア空港を離陸したA320がバードストライクにより両エンジンの推力を失ったものの、乗員の迅速で適切な対応によりハドソン川へ不時着水した[311][312]。搭乗者150人全員が無事であったことから「ハドソン川の奇跡」とも呼ばれた[312]

2015年3月24日に発生したジャーマンウイングス9525便墜落事故は、副操縦士の自殺が原因だと推定されている[313][314]バルセロナからデュッセルドルフへ向かっていた事故機は、副操縦士の意図的な操作によりアルプス山中に墜落し、搭乗者全員の150人が死亡した[313][314]

主要諸元

表3: 各モデルの主要諸元
A320neo A320ceo A321ceo A319ceo A318
運航乗務員数 2名[315]
標準座席数 160 - 190席[316] 150席[316] 185席[316] 124席[316] 107席[317]
最大座席数 194席[316] 180席[316] 220席[316] 156席[316] 136席[318]
全長 37.57 m[210] 44.51 m[319] 33.84 m[320] 31.45 m[321]
全幅 34.10 m(シャークレット装備機は35.80 m)[322]
全高 11.76 m[323] 12.79 m[321]
胴体幅 3.95 m[322]
胴体高 4.14 m[324][325][208][326]
最大離陸重量 (MTOW) 71.5 - 79.0 t[327] 66.0 - 77.0 t[328] 78.0 - 93.5 t[329] 64.0 - 76.5 t[330] 56.0 - 68.0 t[331]
最大着陸重量 (MLW) 66.3 - 67.4 t[327] 64.5 - 66.0 t[328] 73.5 - 77.8 t[329] 61.0 - 62.5 t[330] 56.0 - 57.5 t[331]
最大無燃料重量 (MZFW) 55.3 - 64.3 t[327] 60.5 - 62.5 t[328] 69.5 - 73.8 t[329] 52.0 - 58.5 t[330] 53.0 - 54.5 t[331]
貨物室有効容積 37.42 m3[332] 51.72 m3[333] 27.66 m3[334] 21.3 m3[335]
エンジン (x2) CFMI LEAP-1A または PW1100G-JM[229] CFMI CFM56 または IAE V2500[229]
エンジン推力 (x2) 106.80 - 130.29 kN[336] 97.86 - 120.10 kN[337] 133.30 - 142.34 kN[338] 97.86 - 120.10 kN[339] 96.08 – 105.87 kN[340]
最大巡航速度 マッハ0.82[341]
航続距離 6,400 km[271] 6,200 km[271] 5,950 km[271] 3,750 km[271] 5,950 km[317]
表4: 型式名と装備エンジンの一覧
機種 エンジン 型式証明取得
A320-211 CFMI CFM56-5A1 1988年11月8日
A320-212 CFMI CFM56-5A3 1990年11月20日
A320-214 CFMI CFM56-5B4 1995年3月10日
A320-215 CFMI CFM56-5B5 2006年6月22日
A320-216 CFMI CFM56-5B6 2006年6月14日
A320-231 IAE V2500-A1 1989年4月20日
A320-232 IAE V2527-A5 1993年9月28日
A320-233 IAE V2527-A5 1995年10月26日
A320-251N CFMI LEAP-1A26 2016年5月31日
A320-252N CFMI LEAP-1A24 2017年12月18日
A320-253N CFMI LEAP-1A29 2019年2月5日
A320-271N P&W PW1127G-JM 2015年11月24日
A320-272N P&W PW1124G1-JM 2018年10月17日
A320-273N P&W PW1129G-JM 2019年6月30日

脚注

注釈

  1. ^ しかし、デルタ航空がA320を採用するのは20年以上先になる[20][12]
  2. ^ a b 翼の厚みを翼弦長(翼の前後の長さ)で割った値[43]。空力特性、強度と重量、翼内の燃料タンク容量などを踏まえて決定される[44]
  3. ^ 継続降下進入や広域航法(エリア・ナビゲーション)は、燃料消費や騒音の低減に繋がるとされる新しい運航方式である[132][133]
  4. ^ a b c ターボファンエンジンでは、吸引された空気は、コアを通り燃焼・噴出されるものと、コアを通らず排出される(バイパスされる)ものに分けられる[153]。コアをバイパスする空気流量をコアを通る空気流量で割った値がバイパス比であり、一般にこの値が大きいほど推進効率が高くなる[153][342]。詳細はターボファンエンジンを参照。
  5. ^ コアとは、ターボファンエンジンのエンジン駆動力を発生させる内燃機関部のこと[153]。詳細はターボファンエンジンを参照。
  6. ^ 航空機の構造部材は一次構造部材(主構造部材)と二次構造部材に分かれている。一次構造部材は飛行荷重・地上荷重・与圧加重の伝達を主要に受持つ構造部材であり[213]、主翼の桁間構造の部材などが相当し[214]、構造材の中でも最も安全上の信頼性が要求される[215]。一方、二次構造部材は、空力機能を発揮し風圧などの局部荷重を一次構造部分に伝える主翼の前縁および後縁などが相当する[214]
  7. ^ アスペクト比とは翼幅の2乗を面積で割った値で翼の細長比を示す値である[217]。アスペクト比が大きい方が誘導抵抗(揚力発生に伴う抵抗)が小さくなり、効率的な飛行に有利となる[217][218][219]
  8. ^ a b トリムとは、パイロットが操縦装置に力を加えることなく、そのままの姿勢で飛行できるよう釣合いをとること[226]

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オンライン資料

関連項目

外部リンク