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構造生化学者Jason McLellanの[[テキサス大学]]オースティン校チームは2020年2月19日『[[サイエンス]]』誌に発表した論文「Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation<ref>[https://science.sciencemag.org/content/early/2020/02/19/science.abb2507 Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation],Daniel Wrapp, Nianshuang Wang, Kizzmekia S. Corbett, Jory A. Goldsmith, Ching-Lin Hsieh, Olubukola Abiona, Barney S. Graham, Jason S. McLellan1,Science 19 Feb 2020:eabb2507,DOI: 10.1126/science.abb2507</ref>」で、[[SARSコロナウイルス]](2002-2003年流行)と新型コロナウイルスのスパイクタンパク質には類似性があるが、新型コロナウイルスの方がはるかに人の細胞に取り付きやすいとした<ref name=cnet>[https://japan.cnet.com/article/35149651/ 新型コロナウイルスのタンパク質、初の3Dマップ公開--ワクチン開発の足がかりに]JACKSON RYAN (CNET News) 翻訳校正: 緒方亮 長谷睦 (ガリレオ)2020年02月20日 11時03分,CNET Japan,朝日インタラクティブ株式会社</ref>。 |
構造生化学者Jason McLellanの[[テキサス大学]]オースティン校チームは2020年2月19日『[[サイエンス]]』誌に発表した論文「Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation<ref>[https://science.sciencemag.org/content/early/2020/02/19/science.abb2507 Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation],Daniel Wrapp, Nianshuang Wang, Kizzmekia S. Corbett, Jory A. Goldsmith, Ching-Lin Hsieh, Olubukola Abiona, Barney S. Graham, Jason S. McLellan1,Science 19 Feb 2020:eabb2507,DOI: 10.1126/science.abb2507</ref>」で、[[SARSコロナウイルス]](2002-2003年流行)と新型コロナウイルスのスパイクタンパク質には類似性があるが、新型コロナウイルスの方がはるかに人の細胞に取り付きやすいとした<ref name=cnet>[https://japan.cnet.com/article/35149651/ 新型コロナウイルスのタンパク質、初の3Dマップ公開--ワクチン開発の足がかりに]JACKSON RYAN (CNET News) 翻訳校正: 緒方亮 長谷睦 (ガリレオ)2020年02月20日 11時03分,CNET Japan,朝日インタラクティブ株式会社</ref>。 |
2020年3月6日 (金) 22:43時点における版
伝染性気管支炎ウイルスの電子顕微鏡写真
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分類 | |||||||||
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亜科(本文参照) | |||||||||
コロナウイルス(英語: coronavirus; CoV、中国語: 冠状病毒)は、ゲノムとしてリボ核酸(RNA)をもつ一本鎖プラス鎖RNAウイルスで、哺乳類や鳥類に病気を引き起こすウイルスのグループの1つである[2]。ニドウイルス目コロナウイルス科オルトコロナウイルス亜科に属す[3][4]。
ウイルス粒子表面のエンベロープ(膜構造)が花弁状の長い突起(S蛋白、約 20 nm)であり、コロナ(太陽の光冠)に似ていることからその名が付けられた[2]。らせん対称性のヌクレオカプシドをもつエンベロープウイルスである。多形性で、コロナウイルスの大きさは直径80-220ナノメートル(10億分の1メートル)程度である[2]。コロナウイルスのゲノムサイズは約26から32キロベース(kb)で、RNAウイルスでは最大である。
ヒトでは、風邪を含む呼吸器感染症などを引き起こす。SARSコロナウイルス(SARS-CoV)、MERSコロナウイルス(MERS-CoV)および2019新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のようなタイプのウイルスでは、致死的となる場合がある。また、症状は生物の種類によって異なり、鶏の場合は上気道疾患を引き起こし、牛や豚の場合は下痢を引き起こす。ヒトコロナウイルス感染を予防または治療するためのワクチンや抗ウイルス薬は、2020年2月時点ではまだ開発されてない[5]。
発見
コロナウイルスは1960年代に発見されており[6]、最初に発見されたのは、ニワトリの伝染性気管支炎ウイルスと、風邪をひいたヒト患者の鼻腔からの2つのウイルスで、後にヒトコロナウイルス229EおよびヒトコロナウイルスOC43と名付けられた[7]。その後、このファミリーの他のメンバーが同定され、 2003年にSARS-CoV、2004年にHCoV NL63、2005年にHKU1 、2012年にMERS-CoV、2019年に2019新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) が同定された。そのほとんどが重篤な気道感染症に関与している。
名前
「コロナウイルス」の名称はラテン語 corona (コロナ) およびギリシャ語の王冠または光冠(丸い光の輪)、花冠を意味する κορώνη (korṓnē コロネ) に由来する[8][9]。
この名称は電子顕微鏡によるビリオン (感染性を有するウイルス粒子) の特徴的な外観に由来する。ビリオンは大きな球状の表面突起の縁をもち、樹冠や太陽コロナを思わせる像をつくる。この形態はウイルスのスパイク (S) ペプロマーによってつくられる。ペプロマーはウイルスの表面にあるタンパク質で、宿主の向性を決定する。
構造と増殖
コロナウイルスの特徴は伝令RNA (messenger RNA:mRNA)(蛋白質に翻訳され得る塩基配列情報と構造を持ったRNA) の構造にある[8]。コロナウイルスのmRNAは、ゲノム RNA ‘3 側から ‘5 側に違う長さで伸張する数本の mRNA から構成され、各mRNA の‘5 末端はゲノム RNA 5’末端にあるリーダー配列を持つ[8]。
ウイルス蛋白の翻訳は一般に各mRNA の‘5 末端に存在するオープンリーディングフレーム(ORF)からのみ翻訳される[8]。ゲノムRNA (mRNA-1) の‘5 末端約 20kb には 2 つのORF(1a と 1b で 802kDa をコードする)からなり、このORF間にはシュードノット (pseudoknot:Pn)と呼ばれる核酸の三次構造を持つ[8]。1a 蛋白だけで翻訳が終止する場合と、Pnにより1a + 1b 融合蛋白が合成されるケースがある。1a + 1b 蛋白は 16 個の調節蛋白に解裂され、プロテアーゼ(ペプチド結合加水分解酵素)、RNAポリメラーゼとして働く[8]。
ウイルス粒子の構造蛋白としては、ゲノムRNAに結合するヌクレオ(N)蛋白が量的に 最も多く,ゲノム RNA と結合し,ヌクレオカプシドとなる[8]。ヌクレオカプシドを包み込むエンベロープには、 王冠様突起をなす スパイクタンパク質(S)、内在性膜タンパク質(M)、エンベロープタンパク質(E)がある[8]。
トロウイルス亜科はE蛋白を持っていない[8]。
SARSコロナウイルスの特異的な例では、S上の定義された受容体結合ドメインがウイルスの細胞受容体であるアンジオテンシン変換酵素2 (ACE2)への結合を仲介する[10]。
一部のコロナウイルス (特にベータコロナウイルスサブグループAのメンバー) は、血球凝集素エステラーゼ (HE) と呼ばれる、より短い棘状の蛋白質も有する[11]。
- ウィルスエンベロープ表面に露出しているスパイクタンパク質Sおよびヘマグルチニンタンパク質 HE が標的細胞表面の分子を認識し、結合する。
- ウィルスエンベロープと標的細胞の細胞膜が融合してエンドサイトーシスが起こる事により、ウィルス全体が細胞内に取り込まれる。取込みによってウィルスが含まれたエンドソームが細胞内に作られ、プロトンポンプでその内部の pH が下げられるが、これはウィルスによってリソソームへの移送とともに阻害される。
- コロナウィルスの一本鎖 RNA ゲノムは+鎖なので、標的細胞の細胞質でそのままmRNAとして機能し、標的細胞のリボソームに結合して、RNA 合成酵素を含むウィルスのタンパク質が作られる。ウィルスの RNA 合成酵素はウィルスのゲノム配列以外は複製せず、ウィルスのゲノム RNA を鋳型にして、マイナス鎖の RNA として複製する。
- マイナス鎖ウィルスゲノム RNA から遺伝子ごとにプラス鎖 RNA が合成され、それらが標的細胞のリボソームに結合し、それぞれからウィルスタンパク質が作られる。またマイナス鎖ゲノムから、ウィルスを構成するプラス鎖ゲノムが複製される。
- 作られたウィルスタンパク質Nがプラス鎖ゲノム RNA に結合してヌクレオカプシドを作り、標的細胞の小胞体 (ER) に取り込まれる。ウイルス膜タンパク質M、スパイクタンパク質S、ヘマグルチニン HE は標的細胞の小胞体の膜に組み込まれる。ヌクレオカプシドと小胞体の膜 (エンベロープになる) からウィルスが作られる。
- 小胞体からゴルジ体を経由して、エキソサイトーシスによって標的細胞からウィルスが細胞外に放出される。
分類
コロナウイルスは、アルテリウイルスと共にニドウイルス目に属する[8]。ニドウイルス目はコロナウイルス科とアルテリウイルス科からなる[8]。さらにコロナウイルス科はコロナウイルス亜科とトロウイルス亜科に分かれる[8]。
コロナウイルス亜科
- コロナウイルス亜科(Subfamily: Coronavirinae)
- アルファコロナウイルス属 - Alphacoronavirus
- アルファコロナウイルス1 - Alphacoronavirus 1
- 犬コロナウイルス - Canine coronavirus
- ヒトコロナウイルス229E - Human coronavirus 229E : 風邪の病原体
- ヒトコロナウイルスNL63 - Human coronavirus NL63 : 風邪の病原体
- ミニオプトラスコウモリコロナウイルス1 - Miniopterus bat coronavirus 1
- ミニオプトラスコウモリコロナウイルスHKU8 - Miniopterus bat coronavirus HKU8
- ブタ流行性下痢ウイルス - Porcine epidemic diarrhea virus
- リノロフスコウモリコロナウイルスHKU2 - Rhinolophus bat coronavirus HKU2
- スコトフィラスコウモリコロナウイルス512 - Scotophilus bat coronavirus 512
- ベータコロナウイルス属 - Betacoronavirus
- ベータコロナウイルス1 - Betacoronavirus 1
- マウスコロナウイルス - Mouse hepatitis virus:MHV
- ヒトコロナウイルスHKU1 - Human coronavirus HKU1 : 風邪の病原体
- ヒトコロナウイルスOC43 - Human coronavirus OC43 : 風邪の病原体
- SARS関連コロナウイルス - Severe acute respiratory syndrome-related coronavirus (SARSr-CoV)
- SARSコロナウイルス - Severe acute respiratory syndrome coronavirus (SARS-CoV) : 重症急性呼吸器症候群 (SARS) の病原体
- 2019新型コロナウイルス - Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) [注 1] : 2019新型コロナウイルスによる急性呼吸器疾患 (COVID-19) の病原体
- ルーセットコウモリコロナウイルスHKU9 - Rousettus bat coronavirus HKU9
- タケコウモリコロナウイルスHKU4 - Tylonycteris bat coronavirus HKU4
- アブラコウモリコロナウイルスHKU5 - Pipistrellus Bat coronavirus HKU5
- MERSコロナウイルス - Human coronavirus-Erasmus Medical Center (HCoV-EMC), Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus (MERS-CoV) : 中東呼吸器症候群 (MERS) の病原体
- ウマコロナウイルス - Equine coronavirus
- デルタコロナウイルス属
- ヒヨドリコロナウイルスHKU11 - Bulbul coronavirus HKU11
- ムニアコロナウイルスHKU13 - Munia coronavirus HKU13
- ツグミコロナウイルスHKU12 - Thrush coronavirus HKU12
- ガンマコロナウイルス属
- 鳥コロナウイルス - Avian coronavirus
- シロイルカコロナウイルスSW1 - Beluga whale coronavirus SW1
- アルファコロナウイルス属 - Alphacoronavirus
トロウイルス亜科
- トロウイルス亜科 - Subfamily: Torovirinae
動物コロナウイルス
コロナウイルスは家畜、実験動物、ペット、野生動物などあらゆる動物に感染し、様々な疾患を引き起こす[12]。イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ニワトリ、ウマ、ラクダなどの家畜、シロイルカ、キリン、フェレット、スンクス、コウモリ、スズメなどからも固有のコロナウイルスが検出されている[12]。
家畜
- 豚流行性下痢ウイルス(PEDV):致死的[12]。:哺乳豚は下痢に伴う脱水によりほぼ100%が死亡するが、日齢が進むにしたがって症状は軽度[2]。
- 豚伝染性胃腸炎ウイルス(TGEV):致死的[12]。7日齢以下は致死率ほぼ100%[2]。
- ブタ呼吸器コロナウイルス(Porcine respiratory coronavirus ; PRCoV):不顕性であり症状を示さない[2]。
- ブタ血球凝集性脳脊髄炎ウイルス(Porcine hemagglutinating encephalomyelitis virus ; HEV):成豚の症状は軽度[2]。
- 鶏伝染性気管支炎ウイルス(IBV):致死的[12]。幼齢なものほど死亡率も高い[2]。
- 牛コロナウイルス[2]
- ウマコロナウイルス:死亡率約25%[2]
- シチメンチョウコロナウイルス性腸炎:幼鳥での死亡率は高い[2]。
実験動物
ペット
ヒトに感染するコロナウイルス
コロナウイルスによる感染症
2020年3月現在、ヒトに感染するコロナウイルスは7つ[13]。
風邪症候群
【初期症状】微熱、耳の痛み、頭痛のいずれか。 感染中期になると高熱となる。 風邪を引き起こすコロナウイルス(Human Coronavirus:HCoV ヒューマンコロナウイルス、ヒトコロナウイルス)が4種類あり、風邪の10〜15%(流行期35%)の原因を占める。HCoV-229E、HCoV-OC43は1960年代に発見され、HCoV-NL63、HCoV-HKU1は2000年代に入って発見された[12]。
発生年は毎年で、世界中で人類全体に蔓延しており、これまでの死者数は不明、感染者数は70億人と計算されている[12]。
潜伏期間:2-4日(HCoV-229E)[12]
SARSコロナウイルスによる重症急性呼吸器症候群 (2002-2004年)
2002年に発見されたSARSコロナウイルス (SARS-CoV)による。キクガシラコウモリが自然宿主であると考えられている[12]。2002年11月、中国広東省を起源とし中国を中心として全世界で感染が拡大したが、2003年7月5日にWHOはSARS封じ込め成功を発表した。ただし、その後も2004年に14人の感染例がある。最終的な罹患数は世界30ヶ国の8,422人が感染、916人が死亡した(致命率11%)[14]
潜伏期間:2-10日[12]
MERSコロナウイルスによる中東呼吸器症候群 (2012年-)
2012年に発見されたMERSコロナウイルスはヒトコブラクダを感染源として、ヒトに感染すると重症肺炎を引き起こす[12][15]。2012年9月[注 2] - 2020年1月現在流行中[12]。
2013年5月15日、世界保健機関 (WHO) は患者が入院したサウジアラビアの病院の2人(看護婦と医療関係者)への「ヒト-ヒト感染」が初めて確認されたと発表した[16][注 3][注 4]。2015年韓国でのアウトブレイクでは186人が感染し、36人が死亡した。2019年にもサウジアラビアで14人が感染し、5人が死亡した[17][18]。
WHOによれば2019年11月までに診断確定患者は2494人、死者858人[15]、約27ヶ国に感染例が波及している[19]。特別な治療法やワクチンはない[15]。
潜伏期間:2-14日[12]
新型コロナウイルスによる呼吸器症候群 (2019年-)
2019年12月31日に最初にWHOに報告された新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) [20]による疾患 (COVID-19) およびその流行である[21]。初発流行地は中国湖北省武漢市とされている。2020年2月には、中国国内と国外では規模に大きな差があるものの、東アジアを中心に東南アジア、中東、ヨーロッパなど感染拡大が続いた(国・地域毎の2019年コロナウイルス感染症流行状況)。2020年2月26日にブラジルで感染者が出たことで、南極大陸を除く5大陸全てに感染が拡大した[22]。
構造生化学者Jason McLellanのテキサス大学オースティン校チームは2020年2月19日『サイエンス』誌に発表した論文「Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation[23]」で、SARSコロナウイルス(2002-2003年流行)と新型コロナウイルスのスパイクタンパク質には類似性があるが、新型コロナウイルスの方がはるかに人の細胞に取り付きやすいとした[24]。
BSL3/ABSL3(Animal Biological Safety Level 3)施設で扱い、感染疑い患者由来の臨床検体はBSL2施設で扱う[25]。
感染経路
コロナウイルスの感染経路には、「飛沫感染」と「接触感染」がある、と考えられている[26]。 「飛沫感染」とは、感染者がくしゃみや咳などをする時に、ツバなどの飛沫(=しぶき)とともにウイルスが飛び散り、別の人がそのウイルスを口や鼻から吸い込み感染してしまうことである[26]。
接触感染とは、感染者がくしゃみや咳をする時に口を手で覆うなどして手がウイルスを含んだ唾液で汚染され、手で触れてモノの表面にウイルスが付き、別の人がそのモノに触ってウイルスが手に付着し、その手で顔(口や鼻(や眼)の周囲などの粘膜)に触ることで体内にウイルスが入り込むことである[26]。特に多い接触感染の経路は例えば電車のつり革、バスのつり革、ドアノブ、各種スイッチ[26](照明のスイッチ、エレベーターのスイッチ、エアコンのスイッチ、コピー機のボタン、PCの電源スイッチやキーボード、ATMのタッチパネル式スイッチ 等々)などである(また、スーパーやショッピングセンターの買い物かごの取っ手、ショッピングカートの取っ手 、代金や釣り銭として受け取った硬貨や紙幣、高速道路の通行券や鉄道の切符や乗船券、飲食店などに出入りする時に触れる暖簾、飲食店の(従業員が触れた)カトラリー類のもち手や箸袋の表面、ホテルやクルーズ船のルームサービスでやりとりされるトレー(お盆)、舐めて塗らして貼付した切手や郵便物、組織内や学校内や船内で手渡しする様々な書類、スマートフォンやタブレット、エスカレーターの手すり、揺れる船内の廊下を歩く時につかまる手すりや学校の階段の手すり 等々からも経由して感染する可能性がある)。
感染予防法
コロナウイルスに対しては、通常のインフルエンザウイルスと同様の感染予防法が有効だと考えられている。つまり、手指や顔を石鹸で洗う[26]、うがいをすること[26]、粘膜を護るために室内の湿度を50〜60%に保つこと[26]、などである。咳や発熱などの症状のある人に近づかない[26]、人混みの多い場所に行かない[26]、ということも重要である。
マスクの着用については、組織によって見解が異なり、日本国政府のウェブサイトでは薦められており[26]、マスクをしないと感染者が咳をする時に自分の口をつい手で覆ってしまい、手にツバのしぶきをかけてしまってその手で様々な物に触れることで多人数に感染させてしまう、マスクをすることは(自分が感染するのを防ぐという意味ではなくて)他者に感染させてしまう人数を減らすという意味で感染予防になっている、と日本国政府関係者も、感染症を専門とする日本の医師たちがテレビ番組などで解説する時も、全く同様に解説している(マスクについては、日本国政府のウェブページでも多少注釈はある)[26]。
なお、世界保健機関(WHO)やアメリカ疾病予防管理センター(CDC)も、マスクの感染予防の効果を認めている。そして、マスクという大切な医療資源、だが供給量に限界がある医療資源を優先的に配布すべき対象は、まずは看病をする医療関係者たちや、せき・くしゃみなどの症状がある人々であり、せき・くしゃみなどの症状が全く無い人々(何も症状の無い一般人、医療関係者でない人々)への配布は後回しにすべきだと考えている[27]。→#マスクの着用
東北医科薬科大学病院が作成した市民向け感染予防ハンドブックでは、以下に記述した複数の対策を組み合わせることで感染リスクを減らすことが出来るとしている[28]。
石鹸による、手指からひじまでの洗浄、アルコールによる消毒・殺菌、うがい、洗顔
つり革、ドアノブ、スイッチ、小銭、紙幣、スマートフォンなど様々なものに触れることにより、誰の手にも(コロナ)ウイルスが付着している可能性があるが、コロナウイルスの表面はエンベロープと呼ばれる脂質で覆われており、消毒用アルコールによる消毒が可能で、石鹸などの界面活性剤にも弱い[29]ので、以下のような時にこまめに手洗いを行う[26]。
「感染予防のための正しい手の洗い方」があり、まず手を濡らし、石鹸をつけ、手のひら側をこする→手の甲の側を洗い→指先、爪の間を念入りにこすり→(指と指をからませるようにして)指の間をよく洗い→(親指を手で包むようにして)「親指のねじり洗い」をし→手首までしっかりと洗う[26]。なお『医療従事者用の感染症対策マニュアル』では「手首からひじまでしっかり洗う」となっており、より一層安全である。
マスクの着用
感染者がマスクをすると、咳やくしゃみによる飛沫および、それらに含まれる病原体の飛散を防ぐ効果が高いとされ、マスク着用を「咳エチケット」として、日本国政府は推奨している[26]。またWHOやCDCでも「症状のある人」や「患者と接触する人」の使用を推奨している[27]。
WHOはマスクだけでは感染を防げる保証は無いとしてしている(「効果がない」と言っているのではなく「保証はない」と言っており、感染させられてしまう確率を下げる効果はある、ただしマスクだけでは0%にまで下げるほど完璧ではない、という意味。また、「だけでは」と言っているように、感染を本当に完璧に防ぎたかったら、マスクも必要だが、マスクに加えて、眼を護るゴーグルやシールド、防護服、マスクをはずした後のうがい、正しい手順を守った完璧な手洗い、なども必要、という意味。)。(WHOも、症状がある人、つまりくしゃみや咳が出る人がマスクをするのは当然いい、と考えており、ただし咳が出ていない人までがしたら「(医療)資源の無駄遣い」となる程度のレベルだろう、というのも供給に限界もあるマスクという(医療)資源の配分や配布の優先順位もあるので、社会全体としてはそれくらいの「さじ加減」や「目安」を用いて、真っ先に配布してつけるべき人と 配布を後回しにする人の優先順位をつければいいのでは、とWHOのこの担当者は考えている、ということ) WHOはまた、新型コロナウイルスの患者の看病などをする場合はやはりマスクをつけるべき [27]、とも。
CDCもマスクの効果は認めており、(せき、くしゃみの、熱などの症状がいずれも全く無い人たちまで、社会の全員がマスクをつけるレベルまでは推奨していないが) 一方で、人混みを避けられない場合や、妊婦や高齢者など発症するとリスクが大きい人や、家族などでそうした人と接触する場合は、マスクを使用してもいいとしている[27]。
日本国政府やCDCは、相当混み合っている場所、また屋内・乗り物など換気が不十分な場所でのマスク着用を推奨している[26][27]。ただし、屋外や人の少ない場所では、マスクをつけていてもつけていなくても さほど変わりは無いとしている[26]。
(部屋の)湿度を50〜60%に保つ
空気が乾燥すると、のどの粘膜の防御機能が低下してしまうので、乾燥しやすい室内では加湿器などを使って、適切な湿度(50〜60%)を保つ[26]。
普段からの健康管理
普段から、十分な睡眠とバランスのよい食事を心がけ、免疫力(自己治癒力)を高めておく[26]。
人混みの多い場所に行かない、人の密度が高くなる場所に行かない
人混みの多い場所に行かない、人の密度が高くなる場所に行かない、ということも重要である[26]。特に、限られた空間に多人数「ぎゅうぎゅう詰め」になるライブハウス、狭い船内に隣り合わせや対面で座って宴会をする屋形船、限られた船内空間で数千人もの人々が同じような時間帯に同じような行動を取り船内のレストランや劇場で人口密度が高くなるクルーズ客船[30]... などでは実際に集団感染が発生している。
脚注
注釈
- ^ SARS-CoV-2は国際ウイルス分類委員会 (ICTV) による命名。世界保健機関 (WHO) による旧暫定名は2019-nCoV。
- ^ ザキ博士による全世界初の公表から始まった。
"Novel coronavirus - Saudi Arabia: human isolate" ProMED-mail,2012-09-20 15:51:26 - ^ また合計で関係者21人(死者9人)が医療機関関係者の感染者となる。
- ^ ヒト-ヒト感染は、イギリスで父子感染例がある。
出典
- ^ a b c d 板倉龍「猛威を振るう「新型コロナウイルス」」ニュートン2020年4月号
- ^ a b c d e f g h i j k 家畜・家禽のコロナウイルス病国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究部門2003年4月14日
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- ^ ICTV Master Species List 2009 – v10 (xls) - International Committee on Taxonomy of Viruses (24 August 2010)
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参考文献
- 田口文広,「コロナウイルス」ウイルス第61巻第 2号,pp.205-210,2011年
- 原澤亮 「動物ウイルスの新しい分類(2005)」 『獣医畜産新報』 58号 921-931頁 2005年 ISSN 0447-0192
- 見上彪監修 『獣医感染症カラーアトラス』 文永堂出版 2006年 ISBN 4830032030
- 中込治・神谷茂(編集) 編『標準微生物学』(第12版)医学書院、2015年2月15日。ISBN 978-4-260-02046-6。 NCID BB18056640。OCLC 904535631。全国書誌番号:22540957。
- Tyrell DA, Almeida JD, Berry DM. Cunningham CH, Hamre D, Hofstad MS, Mulluci L and McIntosh K.(1968) Coronaviruses. Nature (Lond.) 220: 650.
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関連項目
- 牛コロナウイルス病
- 唾液腺涙腺炎
- 伝染性気管支炎
- コウモリ由来のウイルス
- 2019新型コロナウイルス (SARS-CoV-2)
- 感染症の歴史