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「オルトコロナウイルス亜科」の版間の差分

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{{Redirect|コロナウイルス|
{{Otheruseslist|[[コロナウイルス科]] (Coronaviridae)に属するウイルス全般、|2019年に発見された新型コロナウイルス (SARS-CoV-2)|2019新型コロナウイルス|[[2019新型コロナウイルス|新型コロナウイルス (SARS-CoV-2)]]の流行による影響|新型コロナウイルス感染症の流行 (2019年-)}}
{{改名提案|オルトコロナウイルス科|コロナウイルス科|date=2020年4月}}
*上位分類であるコロナウイルス科|コロナウイルス科|
*ヒトに感染するコロナウイルス|ヒトコロナウイルス|
{{注意|この記事は「[[コロナウイルス科]]」に所属するウイルス全般に関する記事です。新型コロナウイルス (2019-nCoV, SARS-CoV-2) に特化した事項の記載は中止してください。また、医学的記事以外からこの項目に直接リンクがある場合の殆どが不自然なリンクです。(詳細はノート参照)}}
*2019年に発見された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)|SARSコロナウイルス2|
{{生物分類表|色=violet|名称=[[コロナウイルス科]]|画像=[[File:Coronaviruses 004 lores.jpg|240px]]|画像キャプション=伝染性気管支炎ウイルスの電子顕微鏡写真|status_ref=|status=|status_text=|群=第4群(1本鎖RNA +鎖)|目=[[ニドウイルス目]]|科=コロナウイルス科|下位分類名=亜科<span style="font-size:smaller; font-weight:normal">(本文参照)</span>|下位分類=* {{仮リンク|コロナウイルス亜科|en|Coronavirinae}}
*新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の流行による影響|新型コロナウイルス感染症の世界的流行 (2019年-)}}


{{生物分類表
* [[トロウイルス亜科]]|画像2=[[File:SARS-CoV-2 without background.png|240px]]|画像キャプション2={{legend|#FF0000|赤い突起:[[スパイク]]タンパク(S)<ref name="newton">板倉龍「猛威を振るう「新型コロナウイルス」」[[ニュートン (雑誌)|ニュートン]] 2020年4月号</ref>。スパイクペプロマーは[[電子顕微鏡]]で見ると[[ビリオン]](ウイルス粒子)を囲む光冠外観を作り出す。}}{{legend|#808080|灰色の被膜が[[エンベロープ (ウイルス)|エンベロープ]]、主成分は脂質でアルコールや石鹸で破壊できる<ref name="newton" />。}}{{legend|#FFFF00|黄色の付着物:エンベロープタンパク<ref name="newton" />。}}オレンジの付着物が[[膜タンパク質]]<ref name="newton" />。一部のCoVには[[ヘマグルチニン]][[エステラーゼ]]がある。}}
|色=violet
|名称=オルトコロナウイルス亜科
|画像=[[File:Coronaviruses 004 lores.jpg|240px]]
|画像キャプション=伝染性気管支炎ウイルスの電子顕微鏡写真
|status_ref=|status=|status_text=
|レルム = [[リボウィリア]] ''{{Sname||Riboviria}}''
|界 = [[オルトルナウイルス界 ]] ''{{Sname||Orthornavirae}}''
|門 = [[ピスウイルス門]] ''{{Sname||Pisuviricota}}''
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|目=[[ニドウイルス目]] ''Nidovirales''
|科=[[コロナウイルス科]] ''Coronaviridae''
|亜科='''オルトコロナウイルス亜科 ''Orthocoronavirinae'''''
|下位分類名=属
|下位分類=
* [[アルファコロナウイルス属]]
* [[ベータコロナウイルス属]]
* [[ガンマコロナウイルス属]]
* [[デルタコロナウイルス属]]
}}


'''オルトコロナウイルス亜科'''(オルトコロナウイルスあか、''Orthocoronavirinae'' / '''コロナウイルス'''〈'''Coronavirus'''〉)は、[[ゲノム]]として[[リボ核酸|リボ核酸 (RNA)]] をもつ[[一本鎖プラス鎖RNAウイルス]]で、[[哺乳類]]や[[鳥類]]に[[病気]]を引き起こす[[ウイルス]]のグループの1つ<ref name="naro">[http://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/niah/disease/sars/index.html 家畜・家禽のコロナウイルス病] 国立研究開発法人 [[農業・食品産業技術総合研究機構]] 動物衛生研究部門 2003年4月14日</ref>。[[ニドウイルス目]][[コロナウイルス科]]に属する<ref name="groot">{{Cite book|title=Ninth Report of the International Committee on Taxonomy of Viruses|publisher=Elsevier, Oxford|year=2011|isbn=978-0-12-384684-6|editor-last=AMQ King|pages=806-828|chapter=Family ''Coronaviridae''|author2-link=Susan Baker (virologist)}}</ref><ref>[http://talk.ictvonline.org/files/ictv_documents/m/msl/1231/download.aspx ICTV Master Species List 2009 - v10] (xls) - International Committee on Taxonomy of Viruses (24 August 2010)</ref>。
'''コロナウイルス'''({{Lang-en|coronavirus}}<ref>発音はUK: [/kəˈrəʊ.nəˌvaɪə.rəs] US: [/kəˈroʊ.nəˌvaɪ.rəs/]で、カナ表記は「コローナヴァイラス」が近い [https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/coronavirus

Meaning of coronavirus in English (Cambridge Dictionary)]</ref>; '''CoV''')は、[[ゲノム]]として[[リボ核酸|リボ核酸 (RNA)]] をもつ[[一本鎖プラス鎖RNAウイルス]]で、[[哺乳類]]や[[鳥類]]に[[病気]]を引き起こす[[ウイルス]]のグループの1つであり<ref name="naro">[http://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/niah/disease/sars/index.html 家畜・家禽のコロナウイルス病] 国立研究開発法人 [[農業・食品産業技術総合研究機構]] 動物衛生研究部門 2003年4月14日</ref>、[[ニドウイルス目]][[コロナウイルス科]]{{仮リンク|オルトコロナウイルス亜科|en|Orthocoronavirinae|label=}}に属するものを扱う<ref name="groot">{{Cite book|title=Ninth Report of the International Committee on Taxonomy of Viruses|publisher=Elsevier, Oxford|year=2011|isbn=978-0-12-384684-6|editor-last=AMQ King|pages=806–828|chapter=Family ''Coronaviridae''|author2-link=Susan Baker (virologist)}}</ref><ref>[http://talk.ictvonline.org/files/ictv_documents/m/msl/1231/download.aspx ICTV Master Species List 2009 – v10] (xls) - International Committee on Taxonomy of Viruses (24 August 2010)</ref>。
含まれるウイルスは、コロナウイルス科から[[両生類]]に感染するレトウイルス亜科を除いた、いわゆるアルファからデルタまでのコロナウイルスである。過去の記録として、[[2018年]]以前は「コロナウイルス亜科」、[[2009年]]以前は「コロナウイルス属」と呼ばれていた。[[ウイルスの分類|分類]]名としては、2018年に「'''オルトコロナウイルス亜科'''」に改名された。


== 概略 ==
== 概略 ==
単にコロナウイルスと言った場合、[[コロナウイルス科]]、あるいはこのオルトコロナウイルス亜科を指すとされている。コロナウイルス科は、アルファからデルタまでのコロナウイルス以外にも、レトウイルス亜科を含んでいるため、実際の分類範囲としては、コロナウイルス=オルトコロナウイルス亜科となっている。
ウイルス粒子表面の[[エンベロープ (ウイルス)|エンベロープ(膜構造)]]に、花弁状の長いスパイク蛋白の突起(S蛋白、約 20 nm)を持ち、外観が[[コロナ]]([[太陽]]の光冠)に似ていることからその名が付けられた<ref name="naro" />。らせん対称性の[[カプシド|ヌクレオカプシド]]をもつ[[エンベロープ (ウイルス)|エンベロープウイルス]]である。多形性で、コロナウイルスの大きさは直径80-220[[ナノメートル|nm]]程度である<ref name="naro" />。コロナウイルスのゲノムサイズは約26{{~}}32[[塩基対|キロベース]] (kb) で、既知の[[RNAウイルス]]では最大である<ref>{{cite journal|date=August 2016|title=Homology-Based Identification of a Mutation in the Coronavirus RNA-Dependent RNA Polymerase That Confers Resistance to Multiple Mutagens|journal=Journal of Virology|volume=90|issue=16|pages=7415–28|doi=10.1128/JVI.00080-16|pmid=27279608|pmc=4984655|vauthors=Sexton NR, Smith EC, Blanc H, Vignuzzi M, Peersen OB, Denison MR|quote=CoVs also have the largest known RNA virus genomes, ranging from 27 to 34 kb (31, 32), and increased fidelity in CoVs is likely required for the maintenance of these large genomes (14).}}</ref>。


オルトコロナウイルスは、ウイルス粒子表面の[[エンベロープ (ウイルス)|エンベロープ(膜構造)]]に、花弁状の長いスパイク蛋白の突起(S蛋白、約 20 nm)を持ち、外観が[[コロナ]]([[太陽]]の光冠)に似ている<ref name="naro" />。らせん対称性の[[カプシド|ヌクレオカプシド]]をもつ[[エンベロープ (ウイルス)|エンベロープウイルス]]である。多形性で、大きさは直径80-220[[ナノメートル|nm]]程度である<ref name="naro" />。ゲノムサイズは約26{{~}}32[[塩基対|キロベース]] (kb) で、既知の[[RNAウイルス]]では最大級である<ref>{{cite journal|date=August 2016|title=Homology-Based Identification of a Mutation in the Coronavirus RNA-Dependent RNA Polymerase That Confers Resistance to Multiple Mutagens|journal=Journal of Virology|volume=90|issue=16|pages=7415-28|doi=10.1128/JVI.00080-16|pmid=27279608|pmc=4984655|vauthors=Sexton NR, Smith EC, Blanc H, Vignuzzi M, Peersen OB, Denison MR|quote=CoVs also have the largest known RNA virus genomes, ranging from 27 to 34 kb (31, 32), and increased fidelity in CoVs is likely required for the maintenance of these large genomes (14).}}</ref>。
コロナウイルスの中にはエンベロープに[[ヘマグルチニンエステラーゼ]]を有し、赤血球凝集性を示す種が存在する({{仮リンク|ベータコロナウイルス属|en|Betacoronavirus}}{{仮リンク|エンベコウイルス亜属|en|Embecovirus|label=}}''(group 2a))''。


症状は生物の種類によって異なり、鶏の場合は[[上気道]]疾患を引き起こし、牛や豚の場合は[[下痢]]を引き起こす。
症状は生物の種類によって異なり、鶏の場合は[[上気道]]疾患を引き起こし、牛や豚の場合は[[下痢]]を引き起こす。


[[ヒト]]では、[[風邪]]を含む[[気道感染|呼吸器感染症]]を引き起こす。[[SARSコロナウイルス]] (SARS-CoV)、[[MERSコロナウイルス]] (MERS-CoV) および[[2019新型コロナウイルス]] (SARS-CoV-2) のようなタイプのウイルスでは、致死性を持つ。ヒトコロナウイルス感染を予防または治療するための[[ワクチン]]や[[抗ウイルス薬]]は、2020年4月時点ではまだ開発されてない<ref name="toyo">久住 英二 [https://toyokeizai.net/articles/-/327779 コロナウイルスは正しく知れば「防御」できる] 東洋経済 2020/02/01 5:30</ref>
[[ヒト]]では、[[風邪]]を含む[[気道感染|呼吸器感染症]]を引き起こす。[[SARSコロナウイルス]] (SARS-CoV)、[[MERSコロナウイルス]] (MERS-CoV) および[[SARSコロナウイルス2]] (SARS-CoV-2) のようなタイプのウイルスでは、致死性を持つ。

<!-- 上に書いてあった コロナウイルス属[要曖昧さ回避]のゲノムはRNAウイルス中最大(約30kb)である。 -->
=== 名前 ===
'''コロナウイルス''' (Coronavirus) の名称は、ウイルスを[[電子顕微鏡]]で観察したときに見られる、[[ビリオン]](感染性を有するウイルス粒子)の特徴的な外観に由来する。ビリオンは大きな球状の表面突起の縁をもち、[[コロナ|太陽コロナ]]を思わせる像をつくる。

また「コロナ: Corona」は、{{lang-la|''[[:wikt:corona|corona]]''}}([[コロナ (曖昧さ回避)|コロナ]])=[[光冠]](丸い光の輪)を意味する{{Lang-el|κορώνη}}({{lang|el|''korṓnē''}} コロネ)に由来している{{sfn|田口|2011}}<ref>Tyrell DA, Almeida JD, Berry DM. Cunningham CH, Hamre D, Hofstad MS, Mulluci L and McIntosh K. (1968) Coronaviruses. Nature (Lond.) 220: 650.</ref>。


亜科名の「'''オルト''': Ortho-」は、ギリシア語で「歪みのない」を意味する {{lang|el|ορθός}}(オルソス)が由来である。
== 発見 ==
コロナウイルスは[[1960年代]]に発見された<ref>{{Cite web|url=https://www.caringlyyours.com/coronavirus/|title=Coronavirus: Common Symptoms, Preventive Measures, & How to Diagnose It|date=2020-01-28|website=Caringly Yours|language=en-US|accessdate=2020-01-28}}</ref>。最初に発見されたのは、ニワトリの[[鶏伝染性気管支炎ウイルス|伝染性気管支炎ウイルス]]と、[[風邪]]をひいたヒト患者の[[鼻腔]]からの2つのウイルスで、後に[[ヒトコロナウイルス229E]]および[[ヒトコロナウイルスOC43]]と名付けられた<ref name="pmid23202515">{{Cite journal|date=November 2012|title=Human coronaviruses: insights into environmental resistance and its influence on the development of new antiseptic strategies|journal=Viruses|volume=4|issue=11|pages=3044–3068|DOI=10.3390/v4113044|PMID=23202515|PMC=3509683}}</ref>。


=== 歴史 ===
その後、このファミリーの他のメンバーが同定され、2003年に[[SARSコロナウイルス|SARS-CoV]]、2004年に[[ヒトコロナウイルスNL63|HCoV NL63]]、2005年に[[ヒトコロナウイルスHKU1|HKU1]]、2012年に[[MERSコロナウイルス|MERS-CoV]]、2019年に[[2019新型コロナウイルス]] (SARS-CoV-2) が同定された。そのほとんどが重篤な[[気道感染|気道感染症]]に関与している。
このグループで最初に発見されたのは、1931年に報告されたニワトリの[[鶏伝染性気管支炎ウイルス|伝染性気管支炎ウイルス]]である<ref>{{Cite journal| vauthors = Estola T |date=1970|title=Coronaviruses, a New Group of Animal RNA Viruses|journal=Avian Diseases|volume=14|issue=2|pages=330-336|doi=10.2307/1588476|jstor=1588476|issn=0005-2086}}</ref>。1940年代にはマウス肝炎ウイルス、豚伝染性胃腸炎ウイルスも報告されている<ref group="注">ただしこれらのウイルスは、単に病原菌として分離されたのみで、電子顕微鏡などで特徴づけられたわけではない。</ref>。


ヒトの病原体としては、1960年に風邪をひいたヒトから、[[ヒトコロナウイルス]]B814が発見された。この株は培養が難しかったため後に失われた。1960年代には[[風邪]]をひいたヒト患者の[[鼻腔]]から[[ヒトコロナウイルス229E]]および[[ヒトコロナウイルスOC43]]の2つのウイルスが発見された<ref name="pmid23202515">{{Cite journal|date=November 2012|title=Human coronaviruses: insights into environmental resistance and its influence on the development of new antiseptic strategies|journal=Viruses|volume=4|issue=11|pages=3044-3068|DOI=10.3390/v4113044|PMID=23202515|PMC=3509683}}</ref>。当初はこれらのウイルスの関係は定かではなかった。ヒトコロナウイルスも一時はヒト呼吸器ウイルス(Human respiratory virus)とも呼ばれていた。
== 名前 ==
「コロナウイルス」の名称は[[ラテン語]]の''<!--[[wikiwikiweb:corona#Latin|]]-->[[:wikt:corona|corona]]''([[コロナ (曖昧さ回避)|コロナ]])および[[ギリシャ語]]の[[西洋の冠|王冠]]または[[光冠]](丸い光の輪)、[[花輪|花冠]]を意味する {{Lang|el|κορώνη}}(''korṓnē'' コロネ)に由来する<ref name="tagc" /><ref>Tyrell DA, Almeida JD, Berry DM. Cunningham CH, Hamre D, Hofstad MS, Mulluci L and McIntosh K. (1968) Coronaviruses. Nature (Lond.) 220: 650.</ref>。


1960年代になると、電子顕微鏡写真で構造の類似が指摘され<ref>{{Cite web|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC224637/|title=Recovery in tracheal organ cultures of novel viruses from patients with respiratory disease. - PMC|accessdate=2022/05/16}}</ref>、コロナウイルスと呼ぶ人が多くなった<ref>{{Cite journal|url=https://www.nature.com/articles/220650b0|title=Virology: Coronaviruses|date=1968/11/16|journal=Nature|volume=220|issue=5168|pages=650–650|accessdate=2022/05/16|via=www.nature.com|doi=10.1038/220650b0}}</ref>。1971年にはこれらが'''コロナウイルス属'''としてまとめられた。
この名称は[[電子顕微鏡]]による[[ビリオン]](感染性を有するウイルス粒子)の特徴的な外観に由来する。ビリオンは大きな球状の表面突起の縁をもち、樹冠や[[コロナ|太陽コロナ]]を思わせる像をつくる。この形態はウイルスのスパイク (S) ペプロマーによってつくられる。ペプロマーはウイルスの表面にあるタンパク質で、[[宿主]]の向性を決定する。

2009年には、分子系統解析の進展により分類の整理が進んだ。コロナウイルス属は解体され、新たにアルファからデルタコロナウイルスが設置された。また、コロナウイルスに近縁なウイルスとしてトロウイルス亜科(後にトロウイルス科として独立)が発見され、アルファからデルタまでのコロナウイルスのグループとして'''コロナウイルス亜科'''が設定された。

2018年にはまた新たな動きがあり、トロウイルス亜科がトロウイルス科として独立した一方で、コロナウイルス科の新たなグループとしてレトウイルス亜科が設定された。この時コロナウイルス亜科は'''オルトコロナウイルス亜科'''に改名され、現在に至っている。

=== コロナウイルス及び近縁系統の分類の変遷 ===
1971年
{| class="wikitable"
!上位分類 !! !! 下位分類
|-
|rowspan="3"| (設定無し) ||rowspan="3"| '''コロナウイルス属''' || 伝染性気管支炎ウイルス
|-
| マウス肝炎ウイルス
|-
| ヒト呼吸器ウイルス 等
|}
2009年
{| class="wikitable"
!上位分類 !! !! 下位分類
|-
|rowspan="5"| コロナウイルス科 ||rowspan="4"| '''コロナウイルス亜科''' || アルファコロナウイルス属
|-
|ベータコロナウイルス属
|-
|デルタコロナウイルス属
|-
|ガンマコロナウイルス属
|-
|トロウイルス亜科||トロウイルス属
|}
2018年
{| class="wikitable"
!上位分類 !! !! 下位分類
|-
|rowspan="5"| コロナウイルス科 ||rowspan="4"| '''オルトコロナウイルス亜科''' || アルファコロナウイルス属
|-
|ベータコロナウイルス属
|-
|デルタコロナウイルス属
|-
|ガンマコロナウイルス属
|-
|レトウイルス亜科||アルファレトウイルス属
|}

== 分類 ==
[[ウイルスの分類]]においてオルトコロナウイルス亜科は、レトウイルス亜科と共に[[コロナウイルス科]]に含まれる<ref name=ictv2019-taxon>[https://talk.ictvonline.org/taxonomy/ Virus Taxonomy: 2019 Release]ICTV</ref>。オルトコロナウイルスには4属45種を含む。

=== オルトコロナウイルス亜科 ===
==== アルファコロナウイルス属 ====
*{{仮リンク|アルファコロナウイルス属|en|Alphacoronavirus}}(''Alphacoronavirus'') タイプ種:[[アルファコロナウイルス1]]
**種:''Bat coronavirus CDPHE15、Bat coronavirus HKU10、Rhinolophus ferrumequinum alphacoronavirus HuB-2013''、[[ヒトコロナウイルス229E]]、''Lucheng Rn rat coronavirus、Mink coronavirus 1、Miniopterus bat coronavirus 1、Miniopterus bat coronavirus HKU8、Myotis ricketti alphacoronavirus Sax-2011、Nyctalus velutinus alphacoronavirus SC-2013、Pipistrellus kuhlii coronavirus 3398''、[[豚流行性下痢ウイルス]](''Porcine epidemic diarrhea virus'')、''Scotophilus bat coronavirus 512、Rhinolophus bat coronavirus HKU2、Human coronavirus NL63、NL63-related bat coronavirus strain BtKYNL63-9b、Sorex araneus coronavirus T14、Suncus murinus coronavirus X74''、アルファコロナウイルス1

==== ベータコロナウイルス属 ====
*{{仮リンク|ベータコロナウイルス属|en|Betacoronavirus}}(''Betacoronavirus'') タイプ種:マウスコロナウイルス
**種:[[ベータコロナウイルス1]]、''China Rattus coronavirus HKU24''、[[ヒトコロナウイルスHKU1]]、[[マウスコロナウイルス]]、''Myodes coronavirus 2JL14、Bat Hp-betacoronavirus Zhejiang2013、Hedgehog coronavirus 1''、[[MERSコロナウイルス]]、''Pipistrellus bat coronavirus HKU5、Tylonycteris bat coronavirus HKU4、Eidolon bat coronavirus C704、Rousettus bat coronavirus GCCDC1、Rousettus bat coronavirus HKU9''、[[SARS関連コロナウイルス]]

==== ガンマコロナウイルス属 ====
*{{仮リンク|ガンマコロナウイルス属|en|Gammacoronavirus}}(''Gammacoronavirus'') タイプ種:[[鶏伝染性気管支炎ウイルス]]
**種:''Goose coronavirus CB17、Beluga whale coronavirus SW1''、鶏伝染性気管支炎ウイルス、''Avian coronavirus 9203、Duck coronavirus 2714''

==== デルタコロナウイルス属 ====
*{{仮リンク|デルタコロナウイルス属|en|Deltacoronavirus}}(''Deltacoronavirus'') タイプ種:ヒヨドリコロナウイルスHKU11
**種:''Wigeon coronavirus HKU20''、ヒヨドリコロナウイルスHKU11、''Common moorhen coronavirus HKU21、Coronavirus HKU15、Munia coronavirus HKU13、White-eye coronavirus HKU16、Night heron coronavirus HKU19''


== 構造 ==
== 構造 ==
[[File:3D medical animation corona virus.jpg|alt=Cross-sectional model of a coronavirus|thumb|コロナウイルスの外観および内部の模式図]]
[[File:3D medical animation corona virus.jpg|alt=Cross-sectional model of a coronavirus|thumb|コロナウイルスの外観および内部の模式図]]


コロナウイルスは粒子状であり、その表面は細胞一般と同じ脂質二重膜である。コロナウイルスを電子顕微鏡で撮影すると表面にスパイクタンパク質が多数生えている様子が王冠のように見える。この脂質二重膜はエンベロープと呼ばれ、スパイクと共に感染先となる宿主細胞を認識する機能を持つ[[ヘマグルチニン]]タンパクが埋め込まれている(特にベータコロナウイルスサブグループAのメンバー)<ref name="groot2">{{Cite book|title=Ninth Report of the International Committee on Taxonomy of Viruses|publisher=Elsevier, Oxford|year=2011|isbn=978-0-12-384684-6|editor-last=AMQ King|pages=806–828|chapter=Family ''Coronaviridae''|author2-link=Susan Baker (virologist)}}</ref>。エンベロープの内部にはウイルスのゲノムがある。ゲノムはタンパク質に包まれた一本のRNAであり、このゲノムRNAがタンパク質に包まれた状態をヌクレオカプシドと呼ぶ。
オルトコロナウイルス亜科に属するウイルスは粒子状であり、その表面は細胞一般と同じ脂質二重膜である。電子顕微鏡で撮影すると表面にスパイクタンパク質が多数生えている様子が王冠のように見える。この脂質二重膜はエンベロープと呼ばれ、スパイクと共に感染先となる宿主細胞を認識する機能を持つ[[ヘマグルチニン]]タンパクが埋め込まれている(特にベータコロナウイルスサブグループAのメンバー)<ref name="groot"/>。エンベロープの内部にはウイルスのゲノムがある。ゲノムはタンパク質に包まれた一本のRNAであり、このゲノムRNAがタンパク質に包まれた状態をヌクレオカプシドと呼ぶ。


=== ゲノム ===
=== ゲノム ===
コロナウイルスの特徴の一つは、そのゲノムがDNAではなくRNAであることである。そのゲノムRNAは宿主細胞の中でそのまま[[伝令RNA]](messenger RNA、mRNA、[[タンパク質]]に[[翻訳 (生物学)|翻訳]]され得る[[塩基配列]]情報と構造を持った[[リボ核酸|RNA]])として機能する配列構造になっている<ref name="tagc" />コロナウイルスのmRNAは、ゲノムRNAの ‘3 側から ‘5 側に違う長さで伸張する数本のmRNAから構成され、各mRNAの ‘5 末端はゲノムRNAの 5’ 末端にある[[シグナルペプチド|リーダー配列]]を持つ<ref name="tagc" />
オルトコロナウイルス亜科(及び他の殆どの[[ニドウイルス目]])の特徴の一つは、そのゲノムがDNAではなくRNAであることである。そのゲノムRNAは宿主細胞の中でそのまま[[伝令RNA]](messenger RNA、mRNA、[[タンパク質]]に[[翻訳 (生物学)|翻訳]]され得る[[塩基配列]]情報と構造を持った[[リボ核酸|RNA]])として機能する配列構造になっている{{sfn|田口|2011}}。mRNAは、ゲノムRNAの ‘3 側から ‘5 側に違う長さで伸張する数本のmRNAから構成され、各mRNAの ‘5 末端はゲノムRNAの 5’ 末端にある[[シグナルペプチド|リーダー配列]]を持つ{{sfn|田口|2011}}


ウイルスタンパクの[[翻訳 (生物学)|翻訳]]は一般に各mRNAの ‘5 末端に存在する[[オープンリーディングフレーム]] (ORF) からのみ翻訳される<ref name="tagc" />。ゲノムRNA (mRNA-1) の ‘5 末端約 20kb には2つのORF(1a と 1b で 802kDa をコードする)からなり、このORF間には[[シュードノット]] (pseudoknot, Pn) と呼ばれる[[核酸の三次構造]]を持つ<ref name="tagc" />。1a タンパクだけで翻訳が終止する場合と、Pn により 1a + 1b 融合タンパクが合成されるケースがある。1a + 1b タンパクは16個の調節タンパクに解裂され、[[プロテアーゼ]]([[ペプチド結合]][[加水分解酵素]])、[[RNAポリメラーゼ]]として働く<ref name="tagc" />
ウイルスタンパクの[[翻訳 (生物学)|翻訳]]は一般に各mRNAの ‘5 末端に存在する[[オープンリーディングフレーム]] (ORF) からのみ翻訳される{{sfn|田口|2011}}。ゲノムRNA (mRNA-1) の ‘5 末端約 20kb には2つのORF(1a と 1b で 802kDa をコードする)からなり、このORF間には[[シュードノット]] (pseudoknot, Pn) と呼ばれる[[核酸の三次構造]]を持つ{{sfn|田口|2011}}。1a タンパクだけで翻訳が終止する場合と、Pn により 1a + 1b 融合タンパクが合成されるケースがある。1a + 1b タンパクは16個の調節タンパクに解裂され、[[プロテアーゼ]]([[ペプチド結合]][[加水分解酵素]])、[[RNAポリメラーゼ]]として働く{{sfn|田口|2011}}


=== タンパク質 ===
=== タンパク質 ===
ウイルス粒子の構造[[タンパク]]としては、ゲノムRNAに結合するヌクレオタンパク (N) の量が最も多い。これはゲノムRNAと結合し、[[ヌクレオカプシド]]となる<ref name="tagc" />。ヌクレオカプシドを包み込む[[エンベロープ (ウイルス)|エンベロープ]]には、コロナウイルスに特徴的な王冠様突起をなす[[スパイク]]タンパク質 (S)、[[膜タンパク質|内在性膜タンパク質]] (M)、[[エンベロープ (ウイルス)|エンベロープタンパク質]] (E) がある(なおレトロウイルス亜科はエンベロープタンパク質を持っていない)<ref name="tagc" />
ウイルス粒子の構造[[タンパク]]としては、ゲノムRNAに結合するヌクレオタンパク (N) の量が最も多い。これはゲノムRNAと結合し、[[ヌクレオカプシド]]となる{{sfn|田口|2011}}。ヌクレオカプシドを包み込む[[エンベロープ (ウイルス)|エンベロープ]]には、コロナウイルスに特徴的な王冠様突起をなす[[スパイクタンパク質]] (S)、[[膜タンパク質|内在性膜タンパク質]] (M)、[[エンベロープ (ウイルス)|エンベロープタンパク質]] (E) がある{{sfn|田口|2011}}


== 増殖過程 ==
== 増殖過程 ==
[[ファイル:Coronavirus replication.png|thumb|200px|コロナウルスの増殖過程]]
[[ファイル:Coronavirus replication.png|thumb|200px|コロナウルスの増殖過程]]


コロナウイルスは動物細胞に感染することによって増殖する。その過程は、感染 (1、2)、複製 (35)、放出 (6) の3段階からなる。
オルトコロナウイルスは動物細胞に感染することによって増殖する。その過程は、おおむね、感染 (1、2)、複製 (3 - 5)、放出 (6) の3段階からなる。


# ウイルスエンベロープ表面に露出しているスパイクタンパク質および[[ヘマグルチニン]]タンパク質 HE が標的細胞表面の分子を認識し、結合する。
# ウイルスエンベロープ表面に露出しているスパイクタンパク質Sおよび、種によっては[[ヘマグルチニン]]タンパク質 HE が標的細胞表面の分子を認識し、結合する。
# TMPRSS2などの宿主プロテアーゼによって、スパイクタンパク質が切断、活性化を受ける。
# ウイルスエンベロープと標的細胞の細胞膜が融合して[[エンドサイトーシス]]が起こる事により、ウイルス全体が細胞内に取り込まれる。取込みによってウイルスが含まれた[[エンドソーム]]が細胞内に作られ、[[プロトンポンプ]]でその内部のpHが下げられるが、これは[[リソソーム]]への移送とともにウイルスによって阻害される。
# ウイルスエンベロープと標的細胞の細胞膜が直接融合、あるいは[[エンドサイトーシス]]によってウイルスが細胞内に取り込まれる。直接融合の場合、ウイルスゲノムが細胞内に直接導入されるが、エンドサイトーシスによって取り込まれる場合は、一旦ウイルスが含まれた[[エンドソーム]]が細胞内に作られ、そこでエンドソーム膜とウイルスが融合することによってウイルスゲノムが導入される。エンドソーム内は通常、[[プロトンポンプ]]でその内部のpHが下げられるが、これは[[リソソーム]]への移送とともにウイルスによって阻害される。
# コロナウイルスはプラス鎖の一本鎖RNAをゲノムとして持つため、標的細胞の細胞質でそのまま[[mRNA]]として機能し、標的細胞の[[リボソーム]]に結合して、RNA合成酵素を含むウイルスのタンパク質が作られる。ウイルスのRNA合成酵素はウイルスのゲノム配列以外は複製せず、ウイルスのゲノムRNAを鋳型にして、マイナス鎖のRNAとして複製する。
# マイス鎖ウイルスゲノムRNAから遺伝子ごとにプラス鎖RNAが合成され、それらが標的細胞のリボソームに結合し、それぞれからウイルスタンパク質が作られる。またマゲノムから、ウイルスを構成するプラス鎖ゲノム複製される。
# コロナウイルスプラス鎖の一本鎖RNAをゲノムとして持つため標的細胞の細胞質でのまま[[mRNA]]として機能する。標的細胞の[[リボソーム]]に結合しRNA合成酵素を含むウイルスタンパク質が作られる。のRNA合成酵素はウイルスのゲノム配列以外は複製せず、ウイルスゲノムRNAだけを鋳型にして、マイナス鎖のRNAとして複製。これにより、ウイルス自身のRNA塩基配列だけを複製していく準備が整う
# マイナス鎖ウイルスゲノムRNAから遺伝子ごとにプラス鎖RNAが合成され、それらが標的細胞のリボソームに結合し、それぞれからウイルスタンパク質が作られる。またマイナス鎖ゲノムから、ウイルスを構成するプラス鎖ゲノムが複製される。そのゲノムは細胞に侵入してきたRNA配列と同じである。
# 作られたウイルスタンパク質Nがプラス鎖ゲノムRNAに結合して[[ヌクレオカプシド]]を作り、標的細胞の[[小胞体]] (ER) に取り込まれる。ウイルス膜タンパク質M、スパイクタンパク質S、ヘマグルチニン HE は標的細胞の小胞体の膜に組み込まれる。ヌクレオカプシドと小胞体の膜(エンベロープになる)からウイルスが作られる。
# 作られたウイルスタンパク質Nがプラス鎖ゲノムRNAに結合して[[ヌクレオカプシド]]を作り、標的細胞の[[小胞体]] (ER) に取り込まれる。ウイルス膜タンパク質M、スパイクタンパク質S、ヘマグルチニン HE は標的細胞の小胞体の膜に組み込まれる。この小胞体の膜がそのままウイルスの膜となる。ヌクレオカプシドと小胞体の膜(エンベロープになる)からウイルスが作られる。
# 小胞体から[[ゴルジ体]]を経由して、[[エキソサイトーシス]]によって標的細胞からウイルスが細胞外に放出される。
# 小胞体から[[ゴルジ体]]を経由して、[[エキソサイトーシス]]によって標的細胞からウイルスが細胞外に放出される。そのとき、ウイルスのスパイクタンパク質はエキソサイトーシスの膜にしがみつくような形で放出される。これにより、ウイルスが複製される。


SARSコロナウイルスの特異的な例では、S上の定義された[[受容体]]結合ドメインがウイルスの細胞受容体である[[アンジオテンシン変換酵素|アンジオテンシン変換酵素2 (ACE2)]] への結合を仲介する<ref name="li">{{Cite journal|date=September 2005|title=Structure of SARS coronavirus spike receptor-binding domain complexed with receptor|url=https://semanticscholar.org/paper/bbedaafec1ea70e9ae405d1f2ac4c143951630bc|journal=Science|volume=309|issue=5742|pages=1864–1868|bibcode=2005Sci...309.1864L|DOI=10.1126/science.1116480|PMID=16166518}}</ref>。
SARSコロナウイルスの特異的な例では、S上の定義された[[受容体]]結合ドメインがウイルスの細胞受容体である[[アンジオテンシン変換酵素|アンジオテンシン変換酵素2 (ACE2)]] への結合を仲介する<ref name="li">{{Cite journal|date=September 2005|title=Structure of SARS coronavirus spike receptor-binding domain complexed with receptor|url=https://semanticscholar.org/paper/bbedaafec1ea70e9ae405d1f2ac4c143951630bc|journal=Science|volume=309|issue=5742|pages=1864-1868|bibcode=2005Sci...309.1864L|DOI=10.1126/science.1116480|PMID=16166518}}</ref>。


== 分類 ==
== 進化過程 ==
すべてのコロナウイルス(=オルトコロナウイルス亜科)の最新の[[最も近い共通祖先]] (MRCA)は、紀元前8000年には存在していたと考えられているが、一部のモデルのMRCAは5500万年以上前に遡って[[コウモリ]]との[[コウモリ由来のウイルス|長期的な共進化]]を示唆する<ref name="Wertheim2013">{{cite journal|date=June 2013|title=A case for the ancient origin of coronaviruses|journal=Journal of Virology|volume=87|issue=12|pages=7039-45|doi=10.1128/JVI.03273-1
[[File:Taxonomy tree of the order Nidovirales.webp|thumb|[[ニドウイルス目]]の[[系統樹]]]]
2|pmid=23596293|pmc=3676139|vauthors=Wertheim JO, Chu DK, Peiris JS, Kosakovsky Pond SL, Poon LL}}</ref>。 {{仮リンク|アルファコロナウイルス属|en|Alphacoronavirus}}のMRCAは紀元前2400年頃、{{仮リンク|ベータコロナウイルス属|en|Betacoronavirus}}紀元前3300年頃、{{仮リンク|ガンマコロナウイルス属|en|Gammacoronavirus|label=}}は紀元前2800年頃、{{仮リンク|デルタコロナウイルス属|en|Deltacoronavirus|label=}}は紀元前3000年頃と考えられている。飛翔温血[[脊椎動物]]であるコウモリと鳥は、コロナウイルスの遺伝子源(アルファコロナウイルスとベータコロナウイルスはコウモリ 、ガンマコロナウイルスとデルタコロナウイルスは鳥)にとって、コロナウイルスの進化と普及を促進する宿主として理想的である<ref name="Woo2012">{{cite journal|date=April 2012|title=Discovery of seven novel Mammalian and avian coronaviruses in the genus deltacoronavirus supports bat coronaviruses as the gene source of alphacoronavirus and betacoronavirus and avian coronaviruses as the gene source of gammacoronavirus and deltacoronavirus|journal=Journal of Virology|volume=86|issue=7|pages=3995-4008|doi=10.1128/JVI.06540-11|pmid=22278237|pmc=3302495|vauthors=Woo PC, Lau SK, Lam CS, Lau CC, Tsang AK, Lau JH, Bai R, Teng JL, Tsang CC, Wang M, Zheng BJ, Chan KH, Yuen KY|display-authors=6}}</ref>。
{{See also|ウイルスの分類|ニドウイルス目|コロナウイルス科|アルテリウイルス科}}
[[ウイルスの分類]]においてコロナウイルスは、[[アルテリウイルス科|アルテリウイルス]]と共に[[ニドウイルス目]]に属する<ref name="tagc">田口文広[http://jsv.umin.jp/journal/v61-2pdf/virus61-2_205-210.pdf コロナウイルス] ウイルス 第61巻 第2号, pp. 205-210, 2011年</ref>。[[ニドウイルス目]]は[[コロナウイルス科]]、[[アルテリウイルス科]]、メゾニウイルス科<ref name="pmid225">{{Cite journal
| last1 = Lauber | first1 = C.
| last2 = Ziebuhr | first2 = J.
| last3 = Junglen | first3 = S.
| last4 = Drosten | first4 = C.
| last5 = Zirkel | first5 = F.
| last6 = Nga | first6 = P. T.
| last7 = Morita | first7 = K.
| last8 = Snijder | first8 = E. J.
| last9 = Gorbalenya | first9 = A. E.
| doi = 10.1007/s00705-012-1295-x
| title = Mesoniviridae: A proposed new family in the order Nidovirales formed by a single species of mosquito-borne viruses
| journal = Archives of Virology
| volume = 157
| issue = 8
| pages = 1623–1628
| year = 2012
| pmid = 22527862
| pmc =3407358
}}</ref>、ロニウイルス科<ref>[https://viralzone.expasy.org/126 Roniviridae] [[ExPASy]] 下で公開されているウイルスデータベース [[:en:ViralZone|ViralZone]] のロニウイルス科の項目</ref>など14科、25亜科、39属、65亜属、109種を含む<ref name=ictv2019-taxon>[https://talk.ictvonline.org/taxonomy/ Virus Taxonomy: 2019 Release]ICTV</ref>。


このため多くのヒトコロナウイルスはコウモリに起源をもつ<ref name=":8" />。ヒトコロナウイルスNL63は、紀元1190~1449年の間に、コウモリコロナウイルス (ARCoV 2) と共通の祖先を有していた<ref name="Huynh2012">{{cite journal | vauthors = Huynh J, Li S, Yount B, Smith A, Sturges L, Olsen JC, Nagel J, Johnson JB, Agnihothram S, Gates JE, Frieman MB, Baric RS, Donaldson EF | display-authors = 6 | title = Evidence supporting a zoonotic origin of human coronavirus strain NL63 | journal = Journal of Virology | volume = 86 | issue = 23 | pages = 12816-25 | date = December 2012 | pmid = 22993147 | pmc = 3497669 | doi = 10.1128/JVI.00906-12 | quote = If these predictions are correct, this observation suggests that HCoV-NL63 may have originated from bats between 1190 and 1449 CE. }}</ref>。ヒトコロナウイルス229Eも、1686~1800年の間に、コウモリコロナウイルス(GhanaGrp1 Bt CoV)と共通の祖先を有していた<ref>{{cite journal | vauthors = Pfefferle S, Oppong S, Drexler JF, Gloza-Rausch F, Ipsen A, Seebens A, Müller MA, Annan A, Vallo P, Adu-Sarkodie Y, Kruppa TF, Drosten C | display-authors = 6 | title = Distant relatives of severe acute respiratory syndrome coronavirus and close relatives of human coronavirus 229E in bats, Ghana | journal = Emerging Infectious Diseases | volume = 15 | issue = 9 | pages = 1377-84 | date = September 2009 | pmid = 19788804 | pmc = 2819850 | doi = 10.3201/eid1509.090224 | quote = The most recent common ancestor of hCoV-229E and GhanaBt-CoVGrp1 existed in ≈1686-1800 AD. }}</ref>。より最近の例では、1960年以前にアルパカコロナウイルスとヒトコロナウイルス229Eが分岐した<ref name="Crossley2012">{{cite journal | vauthors = Crossley BM, Mock RE, Callison SA, Hietala SK | title = Identification and characterization of a novel alpaca respiratory coronavirus most closely related to the human coronavirus 229E | journal = Viruses | volume = 4 | issue = 12 | pages = 3689-700 | date = December 2012 | pmid = 23235471 | pmc = 3528286 | doi = 10.3390/v4123689 }}</ref>。MERSコロナウイルスは、コウモリから中間宿主としてラクダを介してヒトに現れた<ref>{{cite journal | vauthors = Forni D, Cagliani R, Clerici M, Sironi M | title = Molecular Evolution of Human Coronavirus Genomes | journal = Trends in Microbiology | volume = 25 | issue = 1 | pages = 35-48 | date = January 2017 | pmid = 27743750 | pmc = 7111218 | doi = 10.1016/j.tim.2016.09.001 }}</ref>。MERSコロナウイルスは、数種のコウモリコロナウイルスに関連しており、数世紀前にこれらの種から分岐したようである<ref name="Lau2013">{{cite journal | vauthors = Lau SK, Li KS, Tsang AK, Lam CS, Ahmed S, Chen H, Chan KH, Woo PC, Yuen KY | display-authors = 6 | title = Genetic characterization of Betacoronavirus lineage C viruses in bats reveals marked sequence divergence in the spike protein of pipistrellus bat coronavirus HKU5 in Japanese pipistrelle: implications for the origin of the novel Middle East respiratory syndrome coronavirus | journal = Journal of Virology | volume = 87 | issue = 15 | pages = 8638-50 | date = August 2013 | pmid = 23720729 | pmc = 3719811 | doi = 10.1128/JVI.01055-13 }}</ref>。
[[ICTV]]の2009年分類では、[[コロナウイルス科]]はコロナウイルス亜科とトロウイルス亜科(Torovirinae)に分かれていた<ref name="tagc" /><ref name=Torov-ictv/>。トロウイルス亜科(Torovirinae)は[[トロウイルス属]]を含む。トロウイルス亜科は2018年に[[ニドウイルス目]]の[[トルニドウイルス亜目]](Tornidovirineae)トバニウイルス科(Tobaniviridae)に移動した<ref name=Torov-ictv>[https://talk.ictvonline.org/taxonomy/p/taxonomy-history?taxnode_id=20090625&src=NCBI&ictv_id=20090625 ICTV Taxonomy history: Torovirinae]ICTV.</ref>。


特に、SARSコロナウイルスは、コウモリコロナウイルスとの関係が他のヒトコロナウイルスより深く、ごく最近の1986年ごろ分岐した<ref name="Vijaykrishna2007">{{cite journal | vauthors = Vijaykrishna D, Smith GJ, Zhang JX, Peiris JS, Chen H, Guan Y | title = Evolutionary insights into the ecology of coronaviruses | journal = Journal of Virology | volume = 81 | issue = 8 | pages = 4012-20 | date = April 2007 | pmid = 17267506 | pmc = 1866124 | doi = 10.1128/jvi.02605-06 }}</ref>。キーンコウモリコロナウイルス類とSARSコロナウイルスの進化経路は、SARS関連コロナウイルスが長期間コウモリで共進化していた可能性を示唆する。SARSコロナウイルスの祖先は、カグラコウモリ科のleaf-nose batsに最初に感染した。その後、キクガシラコウモリ科のhorseshoe batsに、更にはジャコウネコ、最後にヒトに感染した<ref>{{cite journal | vauthors = Gouilh MA, Puechmaille SJ, Gonzalez JP, Teeling E, Kittayapong P, Manuguerra JC | title = SARS-Coronavirus ancestor's foot-prints in South-East Asian bat colonies and the refuge theory | journal = Infection, Genetics and Evolution | volume = 11 | issue = 7 | pages = 1690-702 | date = October 2011 | pmid = 21763784 | doi = 10.1016/j.meegid.2011.06.021 | pmc = 7106191 }}</ref><ref name="pmid18258002">{{cite journal | vauthors = Cui J, Han N, Streicker D, Li G, Tang X, Shi Z, Hu Z, Zhao G, Fontanet A, Guan Y, Wang L, Jones G, Field HE, Daszak P, Zhang S | display-authors = 6 | title = Evolutionary relationships between bat coronaviruses and their hosts | journal = Emerging Infectious Diseases | volume = 13 | issue = 10 | pages = 1526-32 | date = October 2007 | pmid = 18258002 | pmc = 2851503 | doi = 10.3201/eid1310.070448 }}</ref>。
(''以下の記載は2019年のICTV分類を反映したものではない。[[ニドウイルス目]]を参照。'')


他のベータコロナウイルスとは異なり、ベータコロナウイルス1およびエンベコウイルス亜属のウシコロナウイルスは、コウモリ由来ではなくネズミに起源を持つと考えられている<ref name=":8">{{cite journal | vauthors = Forni D, Cagliani R, Clerici M, Sironi M | title = Molecular Evolution of Human Coronavirus Genomes | journal = Trends in Microbiology | volume = 25 | issue = 1 | pages = 35-48 | date = January 2017 | pmid = 27743750 | pmc = 7111218 | doi = 10.1016/j.tim.2016.09.001 | quote = Specifically, all HCoVs are thought to have a bat origin, with the exception of lineage A beta-CoVs, which may have reservoirs in rodents [2]. }}</ref><ref>{{cite journal | vauthors = Lau SK, Woo PC, Li KS, Tsang AK, Fan RY, Luk HK, Cai JP, Chan KH, Zheng BJ, Wang M, Yuen KY | display-authors = 6 | title = Discovery of a novel coronavirus, China Rattus coronavirus HKU24, from Norway rats supports the murine origin of Betacoronavirus 1 and has implications for the ancestor of Betacoronavirus lineage A | journal = Journal of Virology | volume = 89 | issue = 6 | pages = 3076-92 | date = March 2015 | pmid = 25552712 | pmc = 4337523 | doi = 10.1128/JVI.02420-14 }}</ref>。1790年代には、ウマコロナウイルスが種をまたいでウシコロナウイルスから分岐した<ref name=":7">{{cite journal | vauthors = Bidokhti MR, Tråvén M, Krishna NK, Munir M, Belák S, Alenius S, Cortey M | title = Evolutionary dynamics of bovine coronaviruses: natural selection pattern of the spike gene implies adaptive evolution of the strains | journal = The Journal of General Virology | volume = 94 | issue = Pt 9 | pages = 2036-2049 | date = September 2013 | pmid = 23804565 | doi = 10.1099/vir.0.054940-0 | quote = See Table 1 }}</ref>
=== コロナウイルス亜科 ===
[[File:Phylogenetic tree of coronaviruses.jpg|thumb|コロナウイルスの系統樹]]
*コロナウイルス亜科 (Subfamily: Coronavirinae)
**{{仮リンク|アルファコロナウイルス属|en|Alphacoronavirus}} - Alphacoronavirus
***[[アルファコロナウイルス1]] - Alphacoronavirus 1
***[[犬コロナウイルス]] - Canine coronavirus
***[[ヒトコロナウイルス229E]] - Human coronavirus 229E:'''[[風邪]]の[[病原体]]'''
***{{仮リンク|ヒトコロナウイルスNL63|en|Human coronavirus NL63}} - Human coronavirus NL63:'''風邪の病原体'''
***{{仮リンク|ミニオプトラスコウモリコロナウイルス1|en|Miniopterus bat coronavirus 1}} - Miniopterus bat coronavirus 1
***{{仮リンク|ミニオプトラスコウモリコロナウイルスHKU8|en|Miniopterus bat coronavirus HKU8}} - Miniopterus bat coronavirus HKU8
***{{仮リンク|ブタ流行性下痢ウイルス|en|Porcine epidemic diarrhea virus}} - Porcine epidemic diarrhea virus
***{{仮リンク|リノロフスコウモリコロナウイルスHKU2|en|Rhinolophus bat coronavirus HKU2}} - Rhinolophus bat coronavirus HKU2
***{{仮リンク|スコトフィラスコウモリコロナウイルス512|en|Scotophilus bat coronavirus 512}} - Scotophilus bat coronavirus 512
**{{仮リンク|ベータコロナウイルス属|en|Betacoronavirus}} - Betacoronavirus
***{{仮リンク|ベータコロナウイルス1|en|Betacoronavirus 1}} - Betacoronavirus 1
****[[ヒト腸コロナウイルス4408]] - Human enteric coronavirus 4408 (HECV-4408):'''下痢の小児から検出'''
****[[ヒトコロナウイルスOC43]] - Human coronavirus OC43:'''風邪の病原体'''
***[[マウス肝炎ウイルス|マウスコロナウイルス]] - Mouse hepatitis virus: MHV
***{{仮リンク|ヒトコロナウイルスHKU1|en|Human coronavirus HKU1}} - Human coronavirus HKU1:'''風邪の病原体'''
***[[SARS関連コロナウイルス]] - Severe acute respiratory syndrome-related coronavirus (SARSr-CoV)
****[[SARSコロナウイルス]] - Severe acute respiratory syndrome coronavirus (SARS-CoV):'''[[重症急性呼吸器症候群]] (SARS) の病原体'''
****[[2019新型コロナウイルス]] - Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) <ref group="注">'''SARS-CoV-2'''は[[国際ウイルス分類委員会]] (ICTV) による命名。世界保健機関 (WHO) による旧暫定名は'''2019-nCoV'''。</ref>:'''[[2019新型コロナウイルスによる急性呼吸器疾患]] (COVID-19) の病原体'''
***{{仮リンク|ルーセットコウモリコロナウイルスHKU9|en|Rousettus bat coronavirus HKU9}} - Rousettus bat coronavirus HKU9
***{{仮リンク|タケコウモリコロナウイルスHKU4|en|Tylonycteris bat coronavirus HKU4}} - Tylonycteris bat coronavirus HKU4
***{{仮リンク|アブラコウモリコロナウイルスHKU5|en|Pipistrellus Bat coronavirus HKU5}} - Pipistrellus Bat coronavirus HKU5
***[[MERSコロナウイルス]] - Human coronavirus-Erasmus Medical Center (HCoV-EMC), Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus (MERS-CoV):'''[[中東呼吸器症候群]] (MERS) の病原体'''
***[[ウマコロナウイルス]] - Equine coronavirus
**{{仮リンク|ガンマコロナウイルス属|en|Gammacoronavirus|label=}}
***{{仮リンク|鳥コロナウイルス|en|Avian coronavirus}} - Avian coronavirus
***{{仮リンク|シロイルカコロナウイルスSW1|en|Beluga whale coronavirus SW1}} - Beluga whale coronavirus SW1
**{{仮リンク|デルタコロナウイルス属|en|Deltacoronavirus|label=}}
***{{仮リンク|ヒヨドリコロナウイルスHKU11|en|Bulbul coronavirus HKU11}} - Bulbul coronavirus HKU11
***[[ムニアコロナウイルスHKU13]] - Munia coronavirus HKU13
***[[ツグミコロナウイルスHKU12]] - Thrush coronavirus HKU12


1890年代後半には別の{{仮リンク|種間伝播|en|Cross-species transmission|label=}}が起こり、ヒトコロナウイルスOC43がウシコロナウイルスから分岐した<ref name=":7" /><ref name="Vijgen2005">{{cite journal | vauthors = Vijgen L, Keyaerts E, Moës E, Thoelen I, Wollants E, Lemey P, Vandamme AM, Van Ranst M | display-authors = 6 | title = Complete genomic sequence of human coronavirus OC43: molecular clock analysis suggests a relatively recent zoonotic coronavirus transmission event | journal = Journal of Virology | volume = 79 | issue = 3 | pages = 1595-604 | date = February 2005 | pmid = 15650185 | pmc = 544107 | doi = 10.1128/jvi.79.3.1595-1604.2005 }}</ref>。1890年のインフルエンザ大流行は、病原体が実際には特定されていないこと、時期やその神経症状から、インフルエンザウイルスではなく、このウイルス(のスピルオーバー)によって引き起こされた可能性があると推測されている<ref>{{cite journal | vauthors = Vijgen L, Keyaerts E, Moës E, Thoelen I, Wollants E, Lemey P, Vandamme AM, Van Ranst M | display-authors = 6 | title = Complete genomic sequence of human coronavirus OC43: molecular clock analysis suggests a relatively recent zoonotic coronavirus transmission event | journal = Journal of Virology | volume = 79 | issue = 3 | pages = 1595-604 | date = February 2005 | pmid = 15650185 | pmc = 544107 | doi = 10.1128/JVI.79.3.1595-1604.2005 | quote = However, it is tempting to speculate about an alternative hypothesis, that the 1889-1890 pandemic may have been the result of interspecies transmission of bovine coronaviruses to humans, resulting in the subsequent emergence of HCoV-OC43. }}</ref>。ヒトコロナウイルスOC43は、呼吸器疾患を引き起こすほか、神経疾患への関与が疑われている<ref>{{cite journal | vauthors = Corman VM, Muth D, Niemeyer D, Drosten C | title = Hosts and Sources of Endemic Human Coronaviruses | journal = Advances in Virus Research | volume = 100 | pages = 163-188 | date = 2018 | pmid = 29551135 | pmc = 7112090 | doi = 10.1016/bs.aivir.2018.01.001 | isbn = 9780128152010 }}</ref>。現在最も一般的な遺伝子型が出現したのは、1950年代である<ref name="Lau2011">{{cite journal | vauthors = Lau SK, Lee P, Tsang AK, Yip CC, Tse H, Lee RA, So LY, Lau YL, Chan KH, Woo PC, Yuen KY | display-authors = 6 | title = Molecular epidemiology of human coronavirus OC43 reveals evolution of different genotypes over time and recent emergence of a novel genotype due to natural recombination | journal = Journal of Virology | volume = 85 | issue = 21 | pages = 11325-37 | date = November 2011 | pmid = 21849456 | pmc = 3194943 | doi = 10.1128/JVI.05512-11 }}</ref>。
==== ベータコロナウイルス属の分類 ====
この属をさらに亜属に分類すると以下の通り(ウイルス株は略す)<ref>{{Cite journal|last=Woo|first=Patrick C. Y.|last2=Wang|first2=Ming|last3=Lau|first3=Susanna K. P.|last4=Xu|first4=Huifang|last5=Poon|first5=Rosana W. S.|last6=Guo|first6=Rongtong|last7=Wong|first7=Beatrice H. L.|last8=Gao|first8=Kai|last9=Tsoi|first9=Hoi-wah|date=February 2007|title=Comparative Analysis of Twelve Genomes of Three Novel Group 2c and Group 2d Coronaviruses Reveals Unique Group and Subgroup Features|journal=Journal of Virology|volume=81|issue=4|pages=1574–1585|doi=10.1128/JVI.02182-06|issn=0022-538X|pmid=17121802|pmc=1797546|last10=Huang|first10=Yi|last11=Li|first11=Kenneth S. M.|quote=See figure 2.}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Wong|first=Antonio C. P.|last2=Li|first2=Xin|last3=Lau|first3=Susanna K. P.|last4=Woo|first4=Patrick C. Y.|date=2019-02-20|title=Global Epidemiology of Bat Coronaviruses|journal=Viruses|volume=11|issue=2|pages=174|doi=10.3390/v11020174|issn=1999-4915|pmid=30791586|pmc=6409556|quote=CoVs are classified into four genera, Alphacoronavirus, Betacoronavirus, Gammacoronavirus and Deltacoronavirus. Within Betacoronavirus, they can be further subclassified into lineages A, B, C and D [1]. In 2018, these four lineages were reclassified as subgenera of Betacoronavirus, and renamed as Embecovirus (previous lineage A), Sarbecovirus (previous lineage B), Merbecovirus (previous lineage C) and Nobecovirus (previous lineage D) [2]. In addition, a fifth subgenus, Hibecovirus, was also included (Figure 1) [2].}}</ref>


マウスの肝臓と中枢神経系に感染するマウス肝炎ウイルスは、系統的にヒトコロナウイルスOC43とウシコロナウイルスに関連する<ref>{{cite journal | vauthors = Schaumburg CS, Held KS, Lane TE | title = Mouse hepatitis virus infection of the CNS: a model for defense, disease, and repair | journal = Frontiers in Bioscience | volume = 13 | pages = 4393-406 | date = May 2008 | issue = 13 | pmid = 18508518 | pmc = 5025298 | doi = 10.2741/3012 }}</ref>。ヒトコロナウイルスHKU1も、同様にげっ歯類に起源を持つ<ref name=":8" />。
*{{仮リンク|ベータコロナウイルス属|en|Betacoronavirus}} - ''Betacoronavirus''
**{{仮リンク|エンベコウイルス亜属|en|Embecovirus|label=}} - ''Embecovirus (group 2a coronavirus)''
**{{仮リンク|サルベコウイルス亜属|en|Sarbecovirus|label=}} - ''Sarbecovirus (group 2b coronavirus)''
**{{仮リンク|メルベコウイルス亜属|en|Merbecovirus|label=}} - ''Merbecovirus (group 2c coronavirus)''
**{{仮リンク|ノベコウイルス亜属|en|nobecovirus|label=}} - ''Nobecovirus (group 2d coronavirus)''


=== トロウイルス亜科 ===
== ウイルス ==
*{{仮リンク|トロウイルス亜科|en|Subfamily: Torovirinae}} - Subfamily: Torovirinae
{{main|ウイルス}}
ヒトに感染するコロナウイルスは、風邪症候群の4種類と動物から感染する重症肺炎ウイルス2種類 (SARS-CoV, MERS-CoV) が知られていて<ref name="niid_1" />、更にSARS-CoV-2を加えた計7種類(2020年3月時点)<ref name=":0">{{Cite web|和書|url=https://toyokeizai.net/articles/-/334358|title=中国・新型コロナ「遺伝子情報」封じ込めの衝撃|date=2020-03-05|accessdate=2020-03-06|publisher=東洋経済オンライン}}</ref>である。アルファコロナウイルス属、ベータコロナウイルス属の下記のものが知られている<ref name=":0" /><ref group="注">[[ヒト腸コロナウイルス4408]] - Human enteric coronavirus 4408 (HECV-4408):については除外する。</ref>。
**[[トロウイルス属]] - Torovirus
***[[ウシトロウイルス]] Bovine torovirus
***[[ウマトロウイルス]] Equine torovirus
***[[ヒトトロウイルス]] Human torovirus
***[[ブタトロウイルス]] Porcine torovirus
**{{仮リンク|バフィンウイルス属|en|Bafinivirus}} - Genus: Bafinivirus
***{{仮リンク|ホワイトブリームウイルス|en|White bream virus}} - White bream virus


*{{仮リンク|アルファコロナウイルス属|en|Alphacoronavirus}}
== 進化過程 ==
**[[ヒトコロナウイルス229E]]:'''<u>[[風邪]]</u>の病原体'''
すべてのコロナウイルスの最新の[[最も近い共通祖先]] (MRCA)は、紀元前8000年には存在していたと考えられているが、一部のモデルのMRCAは5500万年以上前に遡って[[コウモリ]]との[[コウモリ由来のウイルス|長期的な共進化]]を示唆する<ref name="Wertheim2013">{{cite journal|date=June 2013|title=A case for the ancient origin of coronaviruses|journal=Journal of Virology|volume=87|issue=12|pages=7039–45|doi=10.1128/JVI.03273-12|pmid=23596293|pmc=3676139|vauthors=Wertheim JO, Chu DK, Peiris JS, Kosakovsky Pond SL, Poon LL}}</ref>。 {{仮リンク|アルファコロナウイルス属|en|Alphacoronavirus}}のMRCAは紀元前2400年頃、{{仮リンク|ベータコロナウイルス属|en|Betacoronavirus}}紀元前3300年頃、{{仮リンク|ガンマコロナウイルス属|en|Gammacoronavirus|label=}}は紀元前2800年頃、{{仮リンク|デルタコロナウイルス属|en|Deltacoronavirus|label=}}は紀元前3000年頃と考えられている。飛翔温血脊椎動物であるコウモリと鳥は、コロナウイルスの遺伝子源(アルファコロナウイルスとベータコロナウイルスはコウモリ 、ガンマコロナウイルスとデルタコロナウイルスは鳥)にとって、コロナウイルスの進化と普及を促進する宿主として理想的である<ref name="Woo2012">{{cite journal|date=April 2012|title=Discovery of seven novel Mammalian and avian coronaviruses in the genus deltacoronavirus supports bat coronaviruses as the gene source of alphacoronavirus and betacoronavirus and avian coronaviruses as the gene source of gammacoronavirus and deltacoronavirus|journal=Journal of Virology|volume=86|issue=7|pages=3995–4008|doi=10.1128/JVI.06540-11|pmid=22278237|pmc=3302495|vauthors=Woo PC, Lau SK, Lam CS, Lau CC, Tsang AK, Lau JH, Bai R, Teng JL, Tsang CC, Wang M, Zheng BJ, Chan KH, Yuen KY|display-authors=6}}</ref>。
**[[ヒトコロナウイルスNL63]]:'''<u>風邪</u>の病原体'''
{{節スタブ|date=2020年3月28日 (土) 17:08 (UTC)}}
*{{仮リンク|ベータコロナウイルス属|en|Betacoronavirus}}
**[[ヒトコロナウイルスHKU1]]:'''<u>風邪</u>の病原体'''
**[[ヒトコロナウイルスOC43]] :'''<u>風邪</u>の病原体'''
**[[SARSコロナウイルス]] (SARS-CoV):'''[[重症急性呼吸器症候群]] (SARS'''<sub>サーズ</sub>''') の病原体'''
**[[MERSコロナウイルス]] (MERS-CoV):'''[[中東呼吸器症候群]] (MERS'''<sub>マーズ</sub>''') の病原体'''
**[[SARSコロナウイルス2]] (SARS-CoV-2) :'''[[新型コロナウイルス感染症 (2019年)|新型コロナウイルス感染症]] (COVID-19'''<sub>コヴィット・ナインティーン</sub>''') の病原体'''


== 動物コロナウイルス ==
== 動物コロナウイルス ==
コロナウイルスは[[家畜]]、[[実験動物]]、[[ペット]]、[[野生動物]]などあらゆる[[動物]]に感染し、様々な疾患を引き起こす<ref name="niid_1" />。[[イヌ]]、[[ネコ]]、[[ウシ]]、[[ブタ]]、[[ニワトリ]]、[[ウマ]]、[[ラクダ]]などの家畜、[[シロイルカ]]、[[キリン]]、[[フェレット]]、[[スンクス]]、[[コウモリ]]、[[スズメ]]などからも固有のコロナウイルスが検出されている<ref name="niid_1" />。
コロナウイルスは[[家畜]]、[[実験動物]]、[[ペット]]、[[野生動物]]などあらゆる[[動物]]に感染し、様々な疾患を引き起こす<ref name="niid_1">[https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc/2482-2020-01-10-06-50-40/9303-coronavirus.html コロナウイルスとは] 国立感染症研究所, Jan 10, 2020 Accessed: 2020-01-20</ref>。[[イヌ]]、[[ネコ]]、[[ウシ]]、[[ブタ]]、[[ニワトリ]]、[[ウマ]]、[[ラクダ]]などの家畜、[[シロイルカ]]、[[キリン]]、[[フェレット]]、[[スンクス]]、[[コウモリ]]、[[スズメ]]などからも固有のコロナウイルスが検出されている<ref name="niid_1" />。


=== 家畜 ===
=== 家畜 ===
*'''コロナウイルス科''' - Coronaviridae
*'''コロナウイルス科''' - ''Coronaviridae''
**{{仮リンク|アルファコロナウイルス属|en|Alphacoronavirus}} - Alphacoronavirus
**{{仮リンク|アルファコロナウイルス属|en|Alphacoronavirus}} - ''Alphacoronavirus''
***ペダコウイルス亜属 (Pedacovirus)
***ペダコウイルス亜属 (''Pedacovirus'')
****{{仮リンク|ブタ流行性下痢ウイルス|en|Porcine epidemic diarrhea virus}}:[[豚流行性下痢]]ウイルス (PEDV):致死的<ref name="niid_1" />。哺乳豚は下痢に伴う脱水によりほぼ100%が死亡するが、日齢が進むにしたがって症状は軽度<ref name="naro" />。
****{{仮リンク|ブタ流行性下痢ウイルス|en|Porcine epidemic diarrhea virus}}:[[豚流行性下痢]]ウイルス (PEDV):致死的<ref name="niid_1" />。哺乳豚は下痢に伴う脱水によりほぼ100%が死亡するが、日齢が進むにしたがって症状は軽度<ref name="naro" />。
***テガコウイルス亜属 (Tegacovirus)
***テガコウイルス亜属 (''Tegacovirus'')
****{{仮リンク|ブタ伝染性胃腸炎ウイルス|en|Transmissible gastroenteritis virus|label=}}:[[豚伝染性胃腸炎]]ウイルス (TGEV):致死的<ref name="niid_1" />。7日齢以下は致死率ほぼ100%<ref name="naro" />。
****{{仮リンク|ブタ伝染性胃腸炎ウイルス|en|Transmissible gastroenteritis virus|label=}}:[[豚伝染性胃腸炎]]ウイルス (TGEV):致死的<ref name="niid_1" />。7日齢以下は致死率ほぼ100%<ref name="naro" />。
**{{仮リンク|ベータコロナウイルス属|en|Betacoronavirus}} - Betacoronavirus
**{{仮リンク|ベータコロナウイルス属|en|Betacoronavirus}} - ''Betacoronavirus''
***{{仮リンク|エンベコウイルス亜属|en|Embecovirus}} - Embecovirus
***{{仮リンク|エンベコウイルス亜属|en|Embecovirus}} - ''Embecovirus''
****ブタ血球凝集性脳脊髄炎ウイルス (Porcine hemagglutinating encephalomyelitis virus; HEV):成豚の症状は軽度<ref name="naro" />。
****ブタ血球凝集性脳脊髄炎ウイルス (''Porcine hemagglutinating encephalomyelitis virus''; HEV):成豚の症状は軽度<ref name="naro" />。
****[[牛コロナウイルス病|牛コロナウイルス]]<ref name="naro" /> - Bovine coronavirus
****[[牛コロナウイルス病|牛コロナウイルス]]<ref name="naro" /> - ''Bovine coronavirus''
**{{仮リンク|ガンマコロナウイルス属|en|Gammacoronavirus}} - Gammacoronavirus
**{{仮リンク|ガンマコロナウイルス属|en|Gammacoronavirus}} - ''Gammacoronavirus''
***イガコウイルス亜属 - Igacovirus
***イガコウイルス亜属 - Igacovirus
****{{仮リンク|鶏コロナウイルス|en|Avian coronavirus}} - Avian coronavirus
****{{仮リンク|鶏コロナウイルス|en|Avian coronavirus}} - ''Avian coronavirus''
*****[[鶏伝染性気管支炎ウイルス]] - Avian infectious bronchitis virus (IBV):致死的<ref name="niid_1" />。幼齢なものほど死亡率も高い<ref name="naro" />。
*****[[鶏伝染性気管支炎ウイルス]] - ''Avian infectious bronchitis virus'' (IBV):致死的<ref name="niid_1" />。幼齢なものほど死亡率も高い<ref name="naro" />。
*ブタ呼吸器コロナウイルス (Porcine respiratory coronavirus; PRCoV):不顕性であり症状を示さない<ref name="naro" />。
*ブタ呼吸器コロナウイルス (''Porcine respiratory coronavirus; PRCoV''):不顕性であり症状を示さない<ref name="naro" />。
*ウマコロナウイルス:死亡率約25%<ref name="naro" />
*ウマコロナウイルス:死亡率約25%<ref name="naro" />
*シチメンチョウコロナウイルス性腸炎:幼鳥での死亡率は高い<ref name="naro" />。
*シチメンチョウコロナウイルス性腸炎:幼鳥での死亡率は高い<ref name="naro" />。
169行目: 200行目:
=== ペット ===
=== ペット ===
*[[猫伝染性腹膜炎]]ウイルス (FIPV):致死的<ref name="niid_1" />
*[[猫伝染性腹膜炎]]ウイルス (FIPV):致死的<ref name="niid_1" />

{{Anchors|ヒトに感染するコロナウイルス}}
== ヒトコロナウイルス ==
コロナウイルスのうち、ヒトに対して病原性を示すグループを特に'''ヒトコロナウイルス'''と呼ぶ。長くヒトコロナウイルスという単一の種と考えられていたが、1995年に[[ヒトコロナウイルス229E]]と[[ヒトコロナウイルスOC43]]に分割され、種名としては廃止された。しかしながら、その後もヒトに対して病原性を示すグループとして慣用的に用いられている。

ヒトに感染するコロナウイルスは、風邪症候群の4種類と動物から感染する重症肺炎ウイルス2種類 (SARS-CoV, MERS-CoV) が知られていて<ref name="niid_1" />、更にSARS-CoV-2を加えた計7種類(2020年3月時点)<ref name=":0">{{Cite web|url=https://toyokeizai.net/articles/-/334358|title=中国・新型コロナ「遺伝子情報」封じ込めの衝撃|date=2020-03-05|accessdate=2020-03-06|publisher=東洋経済オンライン}}</ref>である。アルファコロナウイルス属、ベータコロナウイルス属の下記のものが知られている<ref name=":0" /><ref group="注">([[ヒト腸コロナウイルス4408]] - Human enteric coronavirus 4408 (HECV-4408):については除外する)</ref>。

*{{仮リンク|アルファコロナウイルス属|en|Alphacoronavirus}}
**[[ヒトコロナウイルス229E]]:'''[[風邪]]の病原体'''
**{{仮リンク|ヒトコロナウイルスNL63|en|Human coronavirus NL63}}:'''風邪の病原体'''
*{{仮リンク|ベータコロナウイルス属|en|Betacoronavirus}}
**{{仮リンク|ヒトコロナウイルスHKU1|en|Human coronavirus HKU1}}:'''風邪の病原体'''
**[[ヒトコロナウイルスOC43]] :'''風邪の病原体'''
**[[SARSコロナウイルス]] (SARS-CoV):'''[[重症急性呼吸器症候群]] (SARS) の病原体'''
**[[MERSコロナウイルス]] (MERS-CoV):'''[[中東呼吸器症候群]] (MERS) の病原体'''
**[[2019新型コロナウイルス]] (SARS-CoV-2) :'''[[2019新型コロナウイルスによる急性呼吸器疾患]] (COVID-19) の病原体'''

=== ヒトコロナウイルス感染症 ===
文脈によっては単に「コロナウイルス感染症」と言う場合もある。

==== 風邪症候群 ====
{{Seealso|風邪|気道感染|ヒトコロナウイルス229E|ヒトコロナウイルスNL63|ヒトコロナウイルスOC43}}
【初期症状】微熱、耳の痛み、頭痛のいずれか。感染中期になると高熱となる。[[風邪]]を引き起こすコロナウイルス(Human Coronavirus:HCoV ヒューマンコロナウイルス、ヒトコロナウイルス)が4種類([[ヒトコロナウイルス229E|229E]]、[[ヒトコロナウイルスOC43|OC43]]、[[ヒトコロナウイルスNL63|NL63]]、HKU1)あり、風邪の10〜15%(流行期35%)の原因を占める。HCoV-229E、HCoV-OC43は[[1960年代]]に発見され、HCoV-NL63、HCoV-HKU1は[[2000年代]]に入って発見された<ref name="niid_1">[https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc/2482-2020-01-10-06-50-40/9303-coronavirus.html コロナウイルスとは] 国立感染症研究所, Jan 10, 2020 Accessed: 2020-01-20</ref>。

発生年は毎年で、世界中で[[人類]]全体に蔓延しており、これまでの死者数は不明、感染者数は70億人と計算されている<ref name="niid_1" />。

* 潜伏期間:10-14日 (HCoV-229E)<ref name="niid_1" />
* [[バイオセーフティーレベル#レベル2|BSL2]]施設で扱い、[[感染症法]]での指定なし<ref name="niid_1" />。

==== SARSコロナウイルスによる重症急性呼吸器症候群(2002-2004年) ====
{{Main|重症急性呼吸器症候群|SARSコロナウイルス}}
[[2002年]]に発見された[[SARSコロナウイルス|SARSコロナウイルス (SARS-CoV)]] による。[[キクガシラコウモリ]]が自然宿主であると考えられている<ref name="niid_1" />。2002年11月、[[中華人民共和国|中国]][[広東省]]を起源とし中国を中心として全世界で感染が拡大したが、2003年7月5日にWHOはSARS封じ込め成功を発表した。ただし、その後も2004年に14人の感染例がある。最終的な罹患数は世界30ヶ国の8,422人が感染、916人が死亡した(致命率11%)<ref>『標準微生物学』中込治・神谷茂(編集)、医学書院、2015年2月15日、第12版、p.498.</ref>。

* 潜伏期間:2-10日<ref name="niid_1" />
* [[バイオセーフティーレベル#レベル3|BSL3]]施設で扱う、感染症法で[[感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律#感染症の分類|二類感染症]]、[[感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律#二種病原体等|二種病原体]]<ref name="niid_1" />。

==== MERSコロナウイルスによる中東呼吸器症候群(2012年-) ====
{{Main|中東呼吸器症候群|MERSコロナウイルス}}
[[2012年]]に発見された[[MERSコロナウイルス|MERSコロナウイルス (MERS-CoV)]] は[[ヒトコブラクダ]]を感染源として、ヒトに感染すると重症肺炎を引き起こす<ref name="niid_1" /><ref name="mhlw">[https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/mers.html 中東呼吸器症候群(MERS)について] 厚生労働省 2020年2月25日閲覧</ref>。2012年9月<ref group="注">ザキ博士による全世界初の公表から始まった。<br>[http://www.promedmail.org/direct.php?id=20120920.1302733 "Novel coronavirus - Saudi Arabia: human isolate"] ProMED-mail, 2012-09-20 15:51:26</ref> - [[2020年]]1月現在流行中<ref name="niid_1" />。

[[2013年]][[5月15日]]、[[世界保健機関]] (WHO) は患者が入院した[[サウジアラビア]]の病院の2人(看護婦と医療関係者)への「ヒト-ヒト感染」が初めて確認されたと発表した<ref>[http://www.who.int/csr/don/2013_05_15_ncov/en/index.html "Novel coronavirus infection - update"] 15 May 2013, Global Alert and Response (GAR)</ref><ref group="注">また合計で関係者21人(死者9人)が医療機関関係者の感染者となる。</ref><ref group="注">ヒト-ヒト感染は、イギリスで父子感染例がある。</ref>。[[2015年韓国におけるMERSの流行|2015年韓国でのアウトブレイク]]では186人が感染し、36人が死亡した。[[2019年]]にもサウジアラビアで14人が感染し、5人が死亡した<ref>{{Cite web|url=https://www.who.int/csr/don/16-july-2019-mers-saudi-arabia/en/|title=Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) – The Kingdom of Saudi Arabia|accessdate=2020-01-16|publisher=Word Health Organization}}</ref><ref>{{Cite web|url=https://www.who.int/csr/don/20190626_mers_saudi_arabia.xls?ua=1|title=MERS-CoV cases reported betwen 1 to 31 May 2019|accessdate=2020-01-16|publisher=World Health Organization}}</ref>。

WHOによれば2019年11月までに診断確定患者は2494人、死者858人<ref name="mhlw" />、約27ヶ国に感染例が波及している<ref>{{Cite web|title=WHO {{!}} Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV)|url=http://www.who.int/emergencies/mers-cov/en/|website=WHO|accessdate=2020-01-27}}</ref>。特別な治療法や[[ワクチン]]はない<ref name="mhlw" />。

* 潜伏期間:2-14日<ref name="niid_1" />
* BSL3施設で扱い、感染症法で二類感染症、[[感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律#三種病原体等|三種病原体]]<ref name="niid_1" />。

==== 新型コロナウイルスによる呼吸器症候群(2019年-) ====
{{Main|2019新型コロナウイルスによる急性呼吸器疾患|2019新型コロナウイルス}}
[[2019年]][[12月31日]]、最初にWHOに報告された[[2019新型コロナウイルス|新型コロナウイルス (SARS-CoV-2)]]<ref>このウイルスについて、日本の[[厚生労働省]]は単に「'''新型コロナウイルス'''」と2020年1月時点で呼称している。{{Cite web|url=https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html|website=www.mhlw.go.jp|accessdate=2020-01-27|title=中華人民共和国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎の発生について|publisher=日本厚生労働省}}</ref> による[[2019新型コロナウイルスによる急性呼吸器疾患|急性呼吸器疾患 (COVID-19)]] およびその[[新型コロナウイルス感染症の流行 (2019年-)|流行]]である<ref name="WHO5Jan2020">{{cite web|url=https://www.who.int/csr/don/05-january-2020-pneumonia-of-unkown-cause-china/en/|title=Pneumonia of unknown cause – China. Disease outbreak news|date=5 January 2020|publisher=[[World Health Organization]]|accessdate=6 January 2020|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200107032945/https://www.who.int/csr/don/05-january-2020-pneumonia-of-unkown-cause-china/en/|archivedate=7 January 2020|url-status=live}}</ref>。初発流行地は、[[中華人民共和国]][[湖北省]][[武漢市]]とされている。2020年2月には、中国国内と国外では規模に大きな差があるものの、[[東アジア]]を中心に[[東南アジア]]、[[中東]]、[[ヨーロッパ]]で感染拡大が続いた。2020年2月26日に[[ブラジル]]で感染者が出たことで、[[南極大陸]]を除く[[大陸|5大陸]]全てに感染が拡大した<ref>[https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56103460X20C20A2000000/ 新型コロナ、五大陸に ギリシャやブラジルでも感染] 日本経済新聞 2020/2/27 1:56</ref>。

構造生化学者Jason McLellanの[[テキサス大学]]オースティン校チームは、2020年2月19日『[[サイエンス]]』に発表した論文「Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation<ref>[https://science.sciencemag.org/content/early/2020/02/19/science.abb2507 Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation], Daniel Wrapp, Nianshuang Wang, Kizzmekia S. Corbett, Jory A. Goldsmith, Ching-Lin Hsieh, Olubukola Abiona, Barney S. Graham, Jason S. McLellan1, Science 19 Feb 2020: eabb2507, DOI: 10.1126/science.abb2507</ref>」で、[[SARSコロナウイルス]](2002-2003年流行)と[[SARS-CoV-2]]のスパイク[[タンパク質]]には類似性があるが、SARS-CoV-2の方が、はるかに人の細胞に取り付きやすいと報告した<ref name="cnet">[https://japan.cnet.com/article/35149651/ 新型コロナウイルスのタンパク質、初の3Dマップ公開--ワクチン開発の足がかりに] JACKSON RYAN (CNET News) 翻訳校正:緒方亮 長谷睦(ガリレオ)2020年02月20日 11時03分, CNET Japan, 朝日インタラクティブ株式会社</ref>。
* BSL3/ABSL3 (Animal Biological Safety Level 3) 施設で扱い、感染疑い患者由来の臨床検体はBSL2施設で扱い<ref>[https://www.niid.go.jp/niid/ja/byougen-kanri/9367-n-cov-bio.html 国立感染症研究所内での新型コロナウイルスSARS-CoV-2取り扱いについて](2020年1月30日)</ref>、[[指定感染症]]で、感染症法で二類感染症以上相当<ref>{{citeweb |url=https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202001/564056.html |title=「指定感染症」になると診療はどう変わる? |date=2020-01-29 |accessdate=2020-03-13 |publisher=日経メディカル}}</ref>。

==== コロナウイルス感染症の比較表 ====
{| class="wikitable" style="font-size:90%"
|-
!感染症の種類と比較<ref>[https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200131-00161096/ 症状、予防、経過と治療… 新型コロナウイルス感染症とは? 現時点で分かっていること] 忽那賢志(Yahoo!ニュース/個人)、2020年1月31日</ref>!![[風邪]]!![[重症急性呼吸器症候群|SARS]]<br>(重症急性呼吸器症候群)!![[中東呼吸器症候群|MERS]]<br>(中東呼吸器症候群)!![[2019新型コロナウイルスによる急性呼吸器疾患|新型コロナウイルス感染症]]<br>(COVID-19)
|-
|原因ウィルス
|[[コロナウイルス#ヒトに感染するコロナウイルス|ヒトコロナウィルス]]<br>4種類
|[[SARSコロナウイルス|SARS<br>コロナウィルス]]
|[[MERSコロナウイルス|MERS<br>コロナウィルス]]
|[[2019新型コロナウイルス]]<br>(<!--2019-nCoV/-->SARS-CoV-2)
|-
|発生年
|毎年
|2002年 - 2003年
|2012年 -
|2019年 -
|-
|流行地域
|世界中
|{{CHN}}[[広東省]]
|{{flag|サウジアラビア}}など[[アラビア半島]]
|{{CHN}}[[湖北省]][[武漢市]]から世界に拡大中
|-
|宿主動物
|ヒト
|[[キクガシラコウモリ]]
|[[ヒトコブラクダ]]
|不明<ref>{{Cite web|title=COVID-19に関するWHO・中国合同調査団による報告書|url=https://www.anzen.mofa.go.jp/covid19/WHO_Report.html|website=外務省|accessdate=2020-04-28}}</ref>
|-
|感染者数
|無数
|8,098人<br>(終息)
|2,521人<br />(2020年3月5日現在)<ref name="WHOMERS">[https://www.who.int/csr/don/12-march-2020-mers-qatar/en/ Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) – Qatar]</ref>
|2,471,136人<br>(2020年4月22日現在)<ref name="WHOCOVID19" />
|-
|死者数
|
|774人
|866人<br />(2020年3月5日現在)<ref name="WHOMERS" />
|169,006人<br>(2020年4月22日現在)<ref name="WHOCOVID19">[https://experience.arcgis.com/experience/685d0ace521648f8a5beeeee1b9125cd Coronavirus disease (COVID-19) Situation Dashboard - WHO(2020年3月30日閲覧)] </ref>
|-
|到命率
|まれ<ref group="注">合併症は含まない</ref>
|9.4%
|34.4%
|6.8% ※上記死者数/感染者数の単純計算)
|-
|感染経路
|飛沫感染、接触感染
|飛沫感染、接触感染、経口糞口感染
|飛沫感染、接触感染
|飛沫感染、接触感染
|-
|感染力<br>([[基本再生産数|基本再生算数]])
|1 -
|2 - 5
|
|多数論では 1.4 - 3.9
|-
|潜伏期間
|2 - 4日
|2 - 10日
|2 - 14日
|1 - 14日
|-
|感染症法
|非指定
|2類感染症
|2類感染症
|指定感染症<ref name="官報200128">{{PDFlink|[https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000589748.pdf 「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令」(令和二年政令第十一号)]}} [[厚生労働省]]([[官報]] 令和2年〈2020年〉1月28日)</ref>
|-
|}


== 脚注 ==
== 脚注 ==
300行目: 205行目:
=== 注釈 ===
=== 注釈 ===
<references group="注" />
<references group="注" />

=== 出典 ===
=== 出典 ===
<references/>
<references/>

{{Commonscat}}


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* {{Cite journal|和書|author=田口文広(日本獣医生命科学大学獣医感染症学教室) |title=特集 Positive Strand RNA Virus のウイルス学 - 3.コロナウイルス |year=2011 |publisher= |journal=ウイルス |volume=第61巻 |issue=2号 |id= |url=http://jsv.umin.jp/journal/v61-2pdf/virus61-2_205-210.pdf |format=PDF |pages=205-210 |ref={{sfnref|田口|2011}} }}
* 田口文広,「[http://jsv.umin.jp/journal/v61-2pdf/virus61-2_205-210.pdf コロナウイルス]」ウイルス 第61巻 第2号, pp. 205-210, 2011年
* 原澤亮 「動物ウイルスの新しい分類 (2005)」 『獣医畜産新報』 58号 921-931頁 [[2005年]] ISSN 0447-0192
* 原澤亮 「動物ウイルスの新しい分類 (2005)」 『獣医畜産新報』 58号 921-931頁 [[2005年]] ISSN 0447-0192
* 見上彪監修 『獣医感染症カラーアトラス』 文永堂出版 [[2006年]] ISBN 4830032030
* 見上彪監修 『獣医感染症カラーアトラス』 文永堂出版 [[2006年]] ISBN 4830032030
311行目: 217行目:
* Tyrell DA, Almeida JD, Berry DM. Cunningham CH, Hamre D, Hofstad MS, Mulluci L and McIntosh K. (1968) Coronaviruses. Nature (Lond.) 220: 650.
* Tyrell DA, Almeida JD, Berry DM. Cunningham CH, Hamre D, Hofstad MS, Mulluci L and McIntosh K. (1968) Coronaviruses. Nature (Lond.) 220: 650.
* [https://science.sciencemag.org/content/early/2020/02/19/science.abb2507 Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation], Daniel Wrapp, Nianshuang Wang, Kizzmekia S. Corbett, Jory A. Goldsmith, Ching-Lin Hsieh, Olubukola Abiona, Barney S. Graham, Jason S. McLellan1, [[サイエンス|Science]], 19 Feb 2020: eabb2507, DOI: 10.1126/science.abb2507
* [https://science.sciencemag.org/content/early/2020/02/19/science.abb2507 Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation], Daniel Wrapp, Nianshuang Wang, Kizzmekia S. Corbett, Jory A. Goldsmith, Ching-Lin Hsieh, Olubukola Abiona, Barney S. Graham, Jason S. McLellan1, [[サイエンス|Science]], 19 Feb 2020: eabb2507, DOI: 10.1126/science.abb2507

== 関連項目 ==
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* [[牛コロナウイルス病]]
* [[唾液腺涙腺炎]]
* [[伝染性気管支炎]]
* [[コウモリ由来のウイルス]]
* [[SARS関連コロナウイルス]] (SARSr-CoV)
** [[SARSコロナウイルス]] (SARS-CoV)
** [[2019新型コロナウイルス]] (SARS-CoV-2)
* [[MERSコロナウイルス]] (MERS-CoV)


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
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2023年11月10日 (金) 03:28時点における最新版

オルトコロナウイルス亜科
伝染性気管支炎ウイルスの電子顕微鏡写真
分類
レルム : リボウィリア Riboviria
: オルトルナウイルス界 Orthornavirae
: ピスウイルス門 Pisuviricota
: ピソニウイルス鋼 Pisoniviricetes
: ニドウイルス目 Nidovirales
: コロナウイルス科 Coronaviridae
亜科 : オルトコロナウイルス亜科 Orthocoronavirinae

オルトコロナウイルス亜科(オルトコロナウイルスあか、Orthocoronavirinae / コロナウイルスCoronavirus〉)は、ゲノムとしてリボ核酸 (RNA) をもつ一本鎖プラス鎖RNAウイルスで、哺乳類鳥類病気を引き起こすウイルスのグループの1つ[1]ニドウイルス目コロナウイルス科に属する[2][3]

含まれるウイルスは、コロナウイルス科から両生類に感染するレトウイルス亜科を除いた、いわゆるアルファからデルタまでのコロナウイルスである。過去の記録として、2018年以前は「コロナウイルス亜科」、2009年以前は「コロナウイルス属」と呼ばれていた。分類名としては、2018年に「オルトコロナウイルス亜科」に改名された。

概略

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単にコロナウイルスと言った場合、コロナウイルス科、あるいはこのオルトコロナウイルス亜科を指すとされている。コロナウイルス科は、アルファからデルタまでのコロナウイルス以外にも、レトウイルス亜科を含んでいるため、実際の分類範囲としては、コロナウイルス=オルトコロナウイルス亜科となっている。

オルトコロナウイルスは、ウイルス粒子表面のエンベロープ(膜構造)に、花弁状の長いスパイク蛋白の突起(S蛋白、約 20 nm)を持ち、外観がコロナ太陽の光冠)に似ている[1]。らせん対称性のヌクレオカプシドをもつエンベロープウイルスである。多形性で、大きさは直径80-220nm程度である[1]。ゲノムサイズは約26〜32キロベース (kb) で、既知のRNAウイルスでは最大級である[4]

症状は生物の種類によって異なり、鶏の場合は上気道疾患を引き起こし、牛や豚の場合は下痢を引き起こす。

ヒトでは、風邪を含む呼吸器感染症を引き起こす。SARSコロナウイルス (SARS-CoV)、MERSコロナウイルス (MERS-CoV) およびSARSコロナウイルス2 (SARS-CoV-2) のようなタイプのウイルスでは、致死性を持つ。

名前

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コロナウイルス (Coronavirus) の名称は、ウイルスを電子顕微鏡で観察したときに見られる、ビリオン(感染性を有するウイルス粒子)の特徴的な外観に由来する。ビリオンは大きな球状の表面突起の縁をもち、太陽コロナを思わせる像をつくる。

また「コロナ: Corona」は、ラテン語: coronaコロナ)=光冠(丸い光の輪)を意味するギリシア語: κορώνηkorṓnē コロネ)に由来している[5][6]

亜科名の「オルト: Ortho-」は、ギリシア語で「歪みのない」を意味する ορθός(オルソス)が由来である。

歴史

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このグループで最初に発見されたのは、1931年に報告されたニワトリの伝染性気管支炎ウイルスである[7]。1940年代にはマウス肝炎ウイルス、豚伝染性胃腸炎ウイルスも報告されている[注 1]

ヒトの病原体としては、1960年に風邪をひいたヒトから、ヒトコロナウイルスB814が発見された。この株は培養が難しかったため後に失われた。1960年代には風邪をひいたヒト患者の鼻腔からヒトコロナウイルス229EおよびヒトコロナウイルスOC43の2つのウイルスが発見された[8]。当初はこれらのウイルスの関係は定かではなかった。ヒトコロナウイルスも一時はヒト呼吸器ウイルス(Human respiratory virus)とも呼ばれていた。

1960年代になると、電子顕微鏡写真で構造の類似が指摘され[9]、コロナウイルスと呼ぶ人が多くなった[10]。1971年にはこれらがコロナウイルス属としてまとめられた。

2009年には、分子系統解析の進展により分類の整理が進んだ。コロナウイルス属は解体され、新たにアルファからデルタコロナウイルスが設置された。また、コロナウイルスに近縁なウイルスとしてトロウイルス亜科(後にトロウイルス科として独立)が発見され、アルファからデルタまでのコロナウイルスのグループとしてコロナウイルス亜科が設定された。

2018年にはまた新たな動きがあり、トロウイルス亜科がトロウイルス科として独立した一方で、コロナウイルス科の新たなグループとしてレトウイルス亜科が設定された。この時コロナウイルス亜科はオルトコロナウイルス亜科に改名され、現在に至っている。

コロナウイルス及び近縁系統の分類の変遷

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1971年

上位分類 下位分類
(設定無し) コロナウイルス属 伝染性気管支炎ウイルス
マウス肝炎ウイルス
ヒト呼吸器ウイルス 等

2009年

上位分類 下位分類
コロナウイルス科 コロナウイルス亜科 アルファコロナウイルス属
ベータコロナウイルス属
デルタコロナウイルス属
ガンマコロナウイルス属
トロウイルス亜科 トロウイルス属

2018年

上位分類 下位分類
コロナウイルス科 オルトコロナウイルス亜科 アルファコロナウイルス属
ベータコロナウイルス属
デルタコロナウイルス属
ガンマコロナウイルス属
レトウイルス亜科 アルファレトウイルス属

分類

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ウイルスの分類においてオルトコロナウイルス亜科は、レトウイルス亜科と共にコロナウイルス科に含まれる[11]。オルトコロナウイルスには4属45種を含む。

オルトコロナウイルス亜科

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アルファコロナウイルス属

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  • アルファコロナウイルス属英語版Alphacoronavirus) タイプ種:アルファコロナウイルス1
    • 種:Bat coronavirus CDPHE15、Bat coronavirus HKU10、Rhinolophus ferrumequinum alphacoronavirus HuB-2013ヒトコロナウイルス229ELucheng Rn rat coronavirus、Mink coronavirus 1、Miniopterus bat coronavirus 1、Miniopterus bat coronavirus HKU8、Myotis ricketti alphacoronavirus Sax-2011、Nyctalus velutinus alphacoronavirus SC-2013、Pipistrellus kuhlii coronavirus 3398豚流行性下痢ウイルスPorcine epidemic diarrhea virus)、Scotophilus bat coronavirus 512、Rhinolophus bat coronavirus HKU2、Human coronavirus NL63、NL63-related bat coronavirus strain BtKYNL63-9b、Sorex araneus coronavirus T14、Suncus murinus coronavirus X74、アルファコロナウイルス1

ベータコロナウイルス属

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ガンマコロナウイルス属

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デルタコロナウイルス属

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  • デルタコロナウイルス属英語版Deltacoronavirus) タイプ種:ヒヨドリコロナウイルスHKU11
    • 種:Wigeon coronavirus HKU20、ヒヨドリコロナウイルスHKU11、Common moorhen coronavirus HKU21、Coronavirus HKU15、Munia coronavirus HKU13、White-eye coronavirus HKU16、Night heron coronavirus HKU19

構造

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Cross-sectional model of a coronavirus
コロナウイルスの外観および内部の模式図

オルトコロナウイルス亜科に属するウイルスは粒子状であり、その表面は細胞一般と同じ脂質二重膜である。電子顕微鏡で撮影すると表面にスパイクタンパク質が多数生えている様子が王冠のように見える。この脂質二重膜はエンベロープと呼ばれ、スパイクと共に感染先となる宿主細胞を認識する機能を持つヘマグルチニンタンパクが埋め込まれている(特にベータコロナウイルスサブグループAのメンバー)[2]。エンベロープの内部にはウイルスのゲノムがある。ゲノムはタンパク質に包まれた一本のRNAであり、このゲノムRNAがタンパク質に包まれた状態をヌクレオカプシドと呼ぶ。

ゲノム

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オルトコロナウイルス亜科(及び他の殆どのニドウイルス目)の特徴の一つは、そのゲノムがDNAではなくRNAであることである。そのゲノムRNAは宿主細胞の中でそのまま伝令RNA(messenger RNA、mRNA、タンパク質翻訳され得る塩基配列情報と構造を持ったRNA)として機能する配列構造になっている[5]。mRNAは、ゲノムRNAの ‘3 側から ‘5 側に違う長さで伸張する数本のmRNAから構成され、各mRNAの ‘5 末端はゲノムRNAの 5’ 末端にあるリーダー配列を持つ[5]

ウイルスタンパクの翻訳は一般に各mRNAの ‘5 末端に存在するオープンリーディングフレーム (ORF) からのみ翻訳される[5]。ゲノムRNA (mRNA-1) の ‘5 末端約 20kb には2つのORF(1a と 1b で 802kDa をコードする)からなり、このORF間にはシュードノット (pseudoknot, Pn) と呼ばれる核酸の三次構造を持つ[5]。1a タンパクだけで翻訳が終止する場合と、Pn により 1a + 1b 融合タンパクが合成されるケースがある。1a + 1b タンパクは16個の調節タンパクに解裂され、プロテアーゼペプチド結合加水分解酵素)、RNAポリメラーゼとして働く[5]

タンパク質

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ウイルス粒子の構造タンパクとしては、ゲノムRNAに結合するヌクレオタンパク (N) の量が最も多い。これはゲノムRNAと結合し、ヌクレオカプシドとなる[5]。ヌクレオカプシドを包み込むエンベロープには、コロナウイルスに特徴的な王冠様突起をなすスパイクタンパク質 (S)、内在性膜タンパク質 (M)、エンベロープタンパク質 (E) がある[5]

増殖過程

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コロナウイルスの増殖過程

オルトコロナウイルスは動物細胞に感染することによって増殖する。その過程は、おおむね、感染 (1、2)、複製 (3 - 5)、放出 (6) の3段階からなる。

  1. ウイルスエンベロープ表面に露出しているスパイクタンパク質Sおよび、種によってはヘマグルチニンタンパク質 HE が標的細胞表面の分子を認識し、結合する。
  2. TMPRSS2などの宿主プロテアーゼによって、スパイクタンパク質が切断、活性化を受ける。
  3. ウイルスエンベロープと標的細胞の細胞膜が直接融合、あるいはエンドサイトーシスによってウイルスが細胞内に取り込まれる。直接融合の場合、ウイルスゲノムが細胞内に直接導入されるが、エンドサイトーシスによって取り込まれる場合は、一旦ウイルスが含まれたエンドソームが細胞内に作られ、そこでエンドソーム膜とウイルスが融合することによってウイルスゲノムが導入される。エンドソーム内は通常、プロトンポンプでその内部のpHが下げられるが、これはリソソームへの移送とともにウイルスによって阻害される。
  4. コロナウイルスはプラス鎖の一本鎖RNAをゲノムとして持つため、標的細胞の細胞質でそのままmRNAとして機能する。標的細胞のリボソームに結合して、RNA合成酵素を含むウイルスのタンパク質が作られる。ウイルスのRNA合成酵素はウイルスのゲノム配列以外は複製せず、ウイルスのゲノムRNAだけを鋳型にして、マイナス鎖のRNAとして複製する。これにより、ウイルス自身のRNA塩基配列だけを複製していく準備が整う。
  5. マイナス鎖ウイルスゲノムRNAから遺伝子ごとにプラス鎖RNAが合成され、それらが標的細胞のリボソームに結合し、それぞれからウイルスタンパク質が作られる。またマイナス鎖ゲノムから、ウイルスを構成するプラス鎖ゲノムが複製される。そのゲノムは細胞に侵入してきたRNA配列と同じである。
  6. 作られたウイルスタンパク質Nがプラス鎖ゲノムRNAに結合してヌクレオカプシドを作り、標的細胞の小胞体 (ER) に取り込まれる。ウイルス膜タンパク質M、スパイクタンパク質S、ヘマグルチニン HE は標的細胞の小胞体の膜に組み込まれる。この小胞体の膜がそのままウイルスの膜となる。ヌクレオカプシドと小胞体の膜(エンベロープになる)からウイルスが作られる。
  7. 小胞体からゴルジ体を経由して、エキソサイトーシスによって標的細胞からウイルスが細胞外に放出される。そのとき、ウイルスのスパイクタンパク質はエキソサイトーシスの膜にしがみつくような形で放出される。これにより、ウイルスが複製される。

SARSコロナウイルスの特異的な例では、S上の定義された受容体結合ドメインがウイルスの細胞受容体であるアンジオテンシン変換酵素2 (ACE2) への結合を仲介する[12]

進化過程

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すべてのコロナウイルス(=オルトコロナウイルス亜科)の最新の最も近い共通祖先 (MRCA)は、紀元前8000年には存在していたと考えられているが、一部のモデルのMRCAは5500万年以上前に遡ってコウモリとの長期的な共進化を示唆する[13]アルファコロナウイルス属英語版のMRCAは紀元前2400年頃、ベータコロナウイルス属英語版紀元前3300年頃、ガンマコロナウイルス属英語版は紀元前2800年頃、デルタコロナウイルス属英語版は紀元前3000年頃と考えられている。飛翔温血脊椎動物であるコウモリと鳥は、コロナウイルスの遺伝子源(アルファコロナウイルスとベータコロナウイルスはコウモリ 、ガンマコロナウイルスとデルタコロナウイルスは鳥)にとって、コロナウイルスの進化と普及を促進する宿主として理想的である[14]

このため多くのヒトコロナウイルスはコウモリに起源をもつ[15]。ヒトコロナウイルスNL63は、紀元1190~1449年の間に、コウモリコロナウイルス (ARCoV 2) と共通の祖先を有していた[16]。ヒトコロナウイルス229Eも、1686~1800年の間に、コウモリコロナウイルス(GhanaGrp1 Bt CoV)と共通の祖先を有していた[17]。より最近の例では、1960年以前にアルパカコロナウイルスとヒトコロナウイルス229Eが分岐した[18]。MERSコロナウイルスは、コウモリから中間宿主としてラクダを介してヒトに現れた[19]。MERSコロナウイルスは、数種のコウモリコロナウイルスに関連しており、数世紀前にこれらの種から分岐したようである[20]

特に、SARSコロナウイルスは、コウモリコロナウイルスとの関係が他のヒトコロナウイルスより深く、ごく最近の1986年ごろ分岐した[21]。キーンコウモリコロナウイルス類とSARSコロナウイルスの進化経路は、SARS関連コロナウイルスが長期間コウモリで共進化していた可能性を示唆する。SARSコロナウイルスの祖先は、カグラコウモリ科のleaf-nose batsに最初に感染した。その後、キクガシラコウモリ科のhorseshoe batsに、更にはジャコウネコ、最後にヒトに感染した[22][23]

他のベータコロナウイルスとは異なり、ベータコロナウイルス1およびエンベコウイルス亜属のウシコロナウイルスは、コウモリ由来ではなくネズミに起源を持つと考えられている[15][24]。1790年代には、ウマコロナウイルスが種をまたいでウシコロナウイルスから分岐した[25]

1890年代後半には別の種間伝播英語版が起こり、ヒトコロナウイルスOC43がウシコロナウイルスから分岐した[25][26]。1890年のインフルエンザ大流行は、病原体が実際には特定されていないこと、時期やその神経症状から、インフルエンザウイルスではなく、このウイルス(のスピルオーバー)によって引き起こされた可能性があると推測されている[27]。ヒトコロナウイルスOC43は、呼吸器疾患を引き起こすほか、神経疾患への関与が疑われている[28]。現在最も一般的な遺伝子型が出現したのは、1950年代である[29]

マウスの肝臓と中枢神経系に感染するマウス肝炎ウイルスは、系統的にヒトコロナウイルスOC43とウシコロナウイルスに関連する[30]。ヒトコロナウイルスHKU1も、同様にげっ歯類に起源を持つ[15]

ヒトコロナウイルス

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ヒトに感染するコロナウイルスは、風邪症候群の4種類と動物から感染する重症肺炎ウイルス2種類 (SARS-CoV, MERS-CoV) が知られていて[31]、更にSARS-CoV-2を加えた計7種類(2020年3月時点)[32]である。アルファコロナウイルス属、ベータコロナウイルス属の下記のものが知られている[32][注 2]

動物コロナウイルス

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コロナウイルスは家畜実験動物ペット野生動物などあらゆる動物に感染し、様々な疾患を引き起こす[31]イヌネコウシブタニワトリウマラクダなどの家畜、シロイルカキリンフェレットスンクスコウモリスズメなどからも固有のコロナウイルスが検出されている[31]

家畜

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実験動物

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ペット

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脚注

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注釈

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  1. ^ ただしこれらのウイルスは、単に病原菌として分離されたのみで、電子顕微鏡などで特徴づけられたわけではない。
  2. ^ ヒト腸コロナウイルス4408 - Human enteric coronavirus 4408 (HECV-4408):については除外する。

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e f g h i j k 家畜・家禽のコロナウイルス病 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究部門 2003年4月14日
  2. ^ a b AMQ King, ed (2011). “Family Coronaviridae”. Ninth Report of the International Committee on Taxonomy of Viruses. Elsevier, Oxford. pp. 806-828. ISBN 978-0-12-384684-6 
  3. ^ ICTV Master Species List 2009 - v10 (xls) - International Committee on Taxonomy of Viruses (24 August 2010)
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  5. ^ a b c d e f g h 田口 2011.
  6. ^ Tyrell DA, Almeida JD, Berry DM. Cunningham CH, Hamre D, Hofstad MS, Mulluci L and McIntosh K. (1968) Coronaviruses. Nature (Lond.) 220: 650.
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参考文献

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外部リンク

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