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「関数型プログラミング」の版間の差分

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関数型プログラミングにおける[[評価戦略]]とは「式存在」を「値存在」にする評価タイミングの定義を指す。これはまず正格評価(''strict evaluation'')と非正格評価(''non-strict evaluation'')の二つに大別される。正格評価の式存在は、関数による適用と同時に評価されて値存在になり、または変数による束縛と同時に評価されて値存在になる。関数の引数節で直積された式存在は理論上全て同時に評価される事になる。その実装は直積された式存在を副作用を伴わずに並行計算するか一つ一つ評価していく事になる。単に一つ一つ評価していくものは[[先行評価]]になり、ここでも副作用を伴わない事が原則とされるが必須ではなくなる。
関数型プログラミングにおける[[評価戦略]]とは「式存在」を「値存在」にする評価タイミングの定義を指す。これはまず正格評価(''strict evaluation'')と非正格評価(''non-strict evaluation'')の二つに大別される。正格評価の式存在は、関数による適用と同時に評価されて値存在になり、または変数による束縛と同時に評価されて値存在になる。関数の引数節で直積された式存在は理論上全て同時に評価される事になる。その実装は直積された式存在を副作用を伴わずに並行計算するか一つ一つ評価していく事になる。単に一つ一つ評価していくものは[[先行評価]]になり、ここでも副作用を伴わない事が原則とされるが必須ではなくなる。


後者の非正格評価はほとんどのケースで[[遅延評価]]と同義の言葉になる。遅延評価の式存在は、関数に適用されても式存在のままであり、または変数に束縛されても式存在のままである。後続式において改めて他の関数ないし演算子に適用される時に初めて評価されて値存在になり、または改めて他の変数に束縛される時に初めて評価されて値存在になる。これが遅延評価のデフォルトタイミングであるが、[[継続]]コール(''call/cc'')手法や不可反駁(''irrefutable'')指定によって更に評価を遅延させる事もできる。継続コールは変数束縛した第一級関数またはクロージャを任意のタイミングで評価して値を導出できる機能である。これは値の導出後も式存在のままなので再利用できる。コール前の部分適用とコール時の引数適用、クロージャの方では自由変数への任意時代入も可能である。不可反駁指定はその式存在の変数部分が不特定で[[ボトム型]]を導出する場合は評価を取り止め、特定してる場合のみに評価を成立させて値存在にする機能である。ただしこれは遅延パターンマッチングで等価性審査から評価値写像につなげる為の内包表記用途にほぼ限定されている。また代数的データ型の式パターンの多くは遅延評価対象であり、[[共用体]]、無限リスト、[[再帰データ型]]の表現が可能になっている。
後者の非正格評価はほとんどのケースで[[遅延評価]]と同義の言葉になる。遅延評価の式存在は、関数に適用されても式存在のままであり、または変数に束縛されても式存在のままである。後続式において改めて他の関数ないし演算子に適用される時に初めて評価されて値存在になり、または改めて他の変数に束縛される時に初めて評価されて値存在になる。これが遅延評価のデフォルトタイミングであるが、[[継続]]コール(''call/cc'')手法や不可反駁(''irrefutable'')指定によって更に評価を遅延させる事もできる。継続コールは変数束縛した第一級関数またはクロージャを任意のタイミングで評価して値を導出できる機能である。これは値の導出後も式存在のままなので再利用できる。コール前の部分適用とコール時の引数適用、クロージャの方では自由変数への任意時代入も可能である。不可反駁指定はその式存在の変数部分が不特定で[[ボトム型]]を導出する場合は評価を取り止め、特定してる場合のみに評価を成立させて値存在にする機能である。ただしこれは遅延パターンマッチングで等価性審査から評価値写像につなげる為の内包表記用途にほぼ限定されている。また代数的データ型の式パターンの多くは遅延評価対象であり、[[共用体]]、無限リスト、[[再帰データ型]]の表現が可能になっている。


プログラム実装上において先行評価は決して必須ではないが遅延評価の方は必須になる。[[帰納]]、[[再帰]]、[[無限]]、[[極限]]といった代数的表現は遅延評価でのみ実装できる。部分関数も遅延評価前提の式存在である。フロー分岐によって参照されなくなる式評価を結果的にスキップできる事は処理の高速化につながる。それはしばしばテクニックとしても用いられる。また[[ボトム型]]が発生する式評価のスキップは[[フォールトトレラント設計|フォールトトレランス]]にもつながる。ただし柔軟な評価タイミングは同時に式存在と値存在の区別を困難にしてバグの温床になりがちなので、遅延評価が必要になる場所以外では評価タイミングが明白である先行評価をデフォルトにする方が理想と見なされている。従来の関数型言語はおおむね遅延評価をデフォルトにしているが、先行評価の方が望ましいとする見方も広まっており純粋関数型や並行プログラミング分野では優勢である。
プログラム実装上において先行評価は決して必須ではないが遅延評価の方は必須になる。[[帰納]]、[[再帰]]、[[無限]]、[[極限]]といった代数的表現は遅延評価でのみ実装できる。部分関数も遅延評価前提の式存在である。フロー分岐によって参照されなくなる式評価を結果的にスキップできる事は処理の高速化につながる。それはしばしばテクニックとしても用いられる。また[[ボトム型]]が発生する式評価のスキップは[[フォールトトレラント設計|フォールトトレランス]]にもつながる。ただし柔軟な評価タイミングは同時に式存在と値存在の区別を困難にしてバグの温床になりがちなので、遅延評価が必要になる場所以外では評価タイミングが明白である先行評価をデフォルトにする方が理想と見なされている。従来の関数型言語はおおむね遅延評価をデフォルトにしているが、先行評価の方が望ましいとする見方も広まっており純粋関数型や並行プログラミング分野では優勢である。
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'''1960年代'''
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1964年に計算機科学者[[ケネス・アイバーソン]]が開発した「[[APL]]」は、数多く定義された関数記号を多次元配列データに適用する機能を中心にした言語であり、取り分け[[スプレッドシート]]処理に対する効率性が見出されて、1960年代以降の商業分野と産業分野に積極導入された。APLは関数型ではなく配列プログラミング型に位置付けられてるが、配列を始めとするデータ集合に対する関数適用の有用性を特に証明した言語になった。そのデータ集合処理の可能性に注目した「J」「K」「Q」といった派生言語が後年に登場している。続く1966年に発表された「[[ISWIM]]」は関数型を有用な構文スタイルとして扱うマルチパラダイム言語の原点とされ、[[ALGOL]]を参考にした構造化プログラミングに高階関数とwhereスコープが加えられていた。60年代の関数型プログラミングの歴史はもっぱらLISPの発展を中心にしていたが、ISWIMは後年の「ML」「Scheme」のモデルにされている。
1964年に計算機科学者[[ケネス・アイバーソン]]が開発した「[[APL]]」は、数多く定義された関数記号を多次元配列データに適用する機能を中心にした言語であり、取り分け[[スプレッドシート]]処理に対する効率性が見出されて、1960年代以降の商業分野と産業分野に積極導入された。APLは関数型ではなく配列プログラミング型に位置付けられてるが、配列を始めとするデータ集合に対する関数適用の有用性を特に証明した言語になった。そのデータ集合処理の可能性に注目した「J」「K」「Q」といった派生言語が後年に登場している。続く1966年に発表された「[[ISWIM]]」は関数型を有用な構文スタイルとして扱うマルチパラダイム言語の原点とされ、[[ALGOL]]を参考にした構造化プログラミングに高階関数とwhereスコープが加えられていた。60年代の関数型プログラミングの歴史はもっぱらLISPの発展を中心にしていたが、ISWIMは後年の「ML」「Scheme」のモデルにされている。


'''1970年代'''
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2020年6月6日 (土) 03:52時点における版

関数型言語: functional language)は、関数型プログラミングのスタイルまたはパラダイムを扱うプログラミング言語の総称である。関数型プログラミングは関数の適用合成から組み立てられる宣言型プログラミングの一種であり、関数は引数の適用から先行式の評価を後続式の適用に繋げて終端評価に到るツリーとして定義される。関数は引数ないし返値として渡せる第一級関数として扱われる。

関数型プログラミングは数理論理学と代数系をルーツにし、ラムダ計算コンビネータ論理を幹にして構築され、LISP言語が実装面の先駆になっている。応用面では圏論がパラダイムモデルにされている。関数の数学的な純粋性を指向したものは純粋関数型言語と個別に定義されている。命令型プログラミング言語では単に有用な構文スタイルとして扱われている事が多い。高階関数第一級関数関数合成英語版部分適用英語版無名関数クロージャ継続部分関数ポイントフリー英語版パイプラインイテレータジェネレータ代数的データ型型推論パターンマッチングガードパラメトリック多相英語版アドホック多相英語版束縛変数イミュータブル純粋関数英語版などが関数型プログラミングのスタイル要素として挙げられる[誰?]

特徴

ここでは関数型プログラミング本来の構文スタイルを元にして説明する。式を基本文にする関数型に対して、ステートメントを基本文にする手続き型オブジェクト指向などの命令型プログラミング言語では必要に応じて構文スタイルを変えて実装されている。代表的なのは「式の引数への適用」に対する「引数を関数に渡す」である。ただし双方ともアセンブリコード上では同様なものに符号化される。

値(value)は代数的データ型(algebraic data type)として表現される。代数的データ型は型理論にある様々なタイプの複合体であり、各タイプの表現代数式を各言語仕様に沿ったプログラムパーツで置き換えてあらゆる値を数学的に表現する仕組みである。代数的データ型は言わば「型の式」であり、その式パターンが「型」になり、式パターンの構築が「型付け」になる。結果的に全ての値は「型」で分類される事になる。代数的データ型の実装方法はそれを意識させない位単純なものから忠実なものまで言語ごとに様々である。代数的データ型は単体値を兼ねたあらゆる多重集合の表現になる。命令型言語での導入例はまず無くより平易で直感的な構造体やクラスが型付けに使われている。

式と関数

  • 関数型プログラムの基本文はexpression)である。
  • 式は、値(value)と演算子(operator)と関数(function)で構成される。値は束縛変数自由変数を包括する。式内の変数部分が特定される前の式は評価できないボトム型存在である。特定後は評価戦略に従ったタイミングで評価(evaluation)されて式存在から値存在になる。
  • 式は値と同一視されるので上述の式と値は相互再帰の関係にある。式内の値は他の式の評価値である事があり、その式内にもまた他の値があるといった具合である。この仕組みは高階論理と呼ばれる。
  • 関数も値と同一視される。関数は式に引数を結び付ける機能であり、これは式の引数への適用application)と呼ばれる。式内の仮引数(parameter)箇所に実引数(argument)が順次当てはめられ、式ツリーの終端式が評価値になる。
  • 関数は、式を第1引数に適用したもの→第2引数に適用したもの→第x引数に適用したもの→評価値、という形をとる。引数を1個ずつ適用する形態はカリー化と呼ばれる。2個以上の引数を同時適用する形態は非カリー化と呼ばれる。関数の型は「A→B→C→D」のように各引数値から評価値までの写像パターンで表現される。
  • 関数も高階論理に組み込まれている。引数値または評価値として扱うことができる関数は第一級関数と呼ばれる。その第一級関数を扱うことができる関数は高階関数と呼ばれる。
  • カリー化された関数は引数の適用を途中で止めて残り引数を後から適用できる第一級関数を生成できる。これは部分適用と呼ばれる。
  • 片方の評価値と片方の第1引数が同じ型の両関数は任意に連結できる。この双方の写像のつなぎ合わせは関数合成と呼ばれる。
  • 仮引数記述を省略した関数はポイントフリーと呼ばれ、その省略箇所に先行式評価値が実引数として暗黙適用される。実引数記述を省略して先行式評価値を後続関数の仮引数箇所に暗黙適用するのもポイントフリーと呼ばれる。この暗黙適用の式を並べて連鎖させる手法はパイプラインと呼ばれる。言語によっては特別な演算子と併せて明示する。
  • 関数は名前付きと名前無しの二通りある。後者はラムダ抽象を模した構文で式中に直接定義される。これは無名関数と呼ばれる。式内に自由変数を持った無名関数はクロージャと個別に定義される。自由変数には外部データが代入される。自身を参照する無名関数を内包したデータ構造体(=関数オブジェクト)もクロージャに相当する。
  • 無名関数は引数をピュアマッピングする純粋関数であるが、毎回違う値が渡される用途から事実上メモ化できない事がコーディング上の利便性を除いた存在理由になっている。クロージャの引数マッピングは式内の自由変数に影響され、またその自由変数に作用する事もあるという副作用要素を閉包した非純粋関数である。
  • 関数の名前は、それに結び付けられた式または式ツリーの不動点の表現になる。自式の不動点を式内に置いて新たな引数と共に高階論理の式として評価する手法は再帰と呼ばれる。
  • イミュータブル性が重視されない場合、関数の終端式での再帰は、実引数の更新+先端式へのアドレスジャンプと同等に見なせるので専らそちらに最適化される。これは末尾再帰と呼ばれる。同様の仕組みで相互再帰を最適化した兄弟再帰(sibling recursion)もある。
  • リスト処理時にリストの各要素に対する作用子として渡される第一級関数はイテレータと呼ばれる。作用後の各要素を別の新生リストに向けて複製する働きを加えたものはジェネレータと呼ばれる。これはイミュータブル重視時に多用される。前者はポイントフリーの無名関数、後者はポイントフリーのクロージャとして定義される事が多い。
  • 任意のタイミングで遅延評価(call/cc)される用途の第一級関数は特別に継続と呼ばれる。関数の引数を順々に評価して間に分岐などを挟める継続渡しスタイルはその応用例である。
  • 部分関数は引数によってボトム型になる関数である。ボトム型は虚(falsity)と見なされており、式のツリーないし写像の連鎖の失敗した終着点になる。
  • 演算子はデフォルトの式内容を持ち、引数が1~2個に限定された関数と同義である。部分適用された演算子はセクションと呼ばれる第一級関数になる。演算子は任意の型にフックさせた再定義および追加定義ができる。これはアドホック多相と呼ばれる。

値と代数的データ型

  • 値(value)は代数的データ型(algebraic data type)として表現される。代数的データ型は型理論にある様々なタイプの複合体である。代数的データ型は言わば「型の式」である。
  • 代数的データ型の式パターンは型構築子(type constructor)に束縛される。型構築子は新たな代数的データ型の識別名になる。式パターン内で代数的データ型は入れ子にできる。その入れ子とプロパー型は式パターン内で型変数(type variable)として扱われ、パラメトリック多相で総称化できる。型構築子は型引数(type parameter)と併せて定義され、総称化された各要素を決定する。
  • 数値、論理値、文字値、文字列はプロパー型proper type)に分類され、最も基本的な式パターン要素になる。
  • 代数的データ型は、代数的データ型の入れ子で帰納的に構成される事もあるがその末端は必ずプロパー型になる。この帰納的な仕組みは高階型(higher-order types)と呼ばれる。
  • 代数的データ型は、プロパー型に到るまでの帰納パターンであるカインドで抽象化分類される。カインドは「*→*」「*」のように表現される。カインドはパターンマッチングと型シノニムの成立基準になる。
  • 左辺のもので右辺のものを置き換えられるという代数的データ型間の代用(substitution)規則を定義できる。これは型シノニムと呼ばれる。これは厳密には異なるが継承リスコフの置換原則をイメージすると分かりやすい。
  • 代数的データ型は、直積型product type非交和型sum type)帰納型(inductive type依存型dependent type)ユニット型(unit type)などのタイプを持つ。式的役割は直積型=×演算子、非交和型=+演算子、帰納型=式再帰または高階式、依存型=パターンマッチング式、ユニット型=NILである。この5タイプで大半の値を表現できる。
  • 直積型は、(A, B) のようなタプルまたは標準的なレコードのパターンを表わす。
  • 非交和型は、(A | B) のような修飾共用体または列挙型のパターンを表わす。前者は型推論による等価性で、後者は評価による等値性で識別される非交和である。前者はユニオン型(union type)と個別定義されてもいる。
  • 帰納型は、ボックス化と前述の入れ子のパターンを表わす。また帰納型と非交和型とユニット型は併用されて連結リスト二分木データツリーのパターンを表わす。
  • 依存型は、一つの依存値によるパターンマッチング式をそのままタイプと見なしたものである。そのケース節パターンのみはオプション型(option typeガード節パターンのみはリファイン型(refinement type)と個別定義される。これらは動的配列、Maybe値、リスト内包表記などの構造を表わす。
  • ユニット型は、NILないしVOIDであり空集合のパターンを表わす。
  • 交差型(intersection type)は、型クラスや型エイリアスなどのアドホック多相によるパターンの表現に用いられる。
  • パターンマッチング式は、CASE式の値に依存した依存型またはオプション型のその場構築である。条件分岐式(IF-THEN-ELSE)は、IF式の値に依存したリファイン型のその場構築である。前者は型推論と式評価による等価性または等値性のパターン審査を行う。後者は式評価による等値性または順序性の論理的審査を行う。
  • 関数の写像パターンは指数型(exponential type)で説明される。”関数適用の評価値”は指数型と直積型の併用で表現される。そのまま関数の型(function type)と呼ばれる事が多い。関数のパターンマッチングはもっぱらアドホック多相の方で解釈される。
  • 型推論は、代数的データ型の式パターンを等価性を審査できる形まで演繹する機能である。これはいわゆる「型」を導き出すのと同義である。この機能により束縛変数の型注釈はもっぱら省略される。型推論は値の等価性審査の手段であり、いわゆる型チェックや遅延パターンマッチングなどを実現する。

評価戦略

関数型プログラミングにおける評価戦略とは「式存在」を「値存在」にする評価タイミングの定義を指す。これはまず正格評価(strict evaluation)と非正格評価(non-strict evaluation)の二つに大別される。正格評価の式存在は、関数による適用と同時に評価されて値存在になり、または変数による束縛と同時に評価されて値存在になる。関数の引数節で直積された式存在は理論上全て同時に評価される事になる。その実装は直積された式存在を副作用を伴わずに並行計算するか一つ一つ評価していく事になる。単に一つ一つ評価していくものは先行評価になり、ここでも副作用を伴わない事が原則とされるが必須ではなくなる。

後者の非正格評価はほとんどのケースで遅延評価と同義の言葉になる。遅延評価の式存在は、関数に適用されても式存在のままであり、または変数に束縛されても式存在のままである。後続式において改めて他の関数ないし演算子に適用される時に初めて評価されて値存在になり、または改めて他の変数に束縛される時に初めて評価されて値存在になる。これが遅延評価のデフォルトタイミングであるが、継続コール(call/cc)手法や不可反駁(irrefutable)指定によって更に評価を遅延させる事もできる。継続コールは変数束縛した第一級関数またはクロージャを任意のタイミングで評価して値を導出できる機能である。これは値の導出後も式存在のままなので再利用できる。コール前の部分適用とコール時の引数適用、クロージャの方では自由変数への任意時代入も可能である。不可反駁指定はその式存在の変数部分が不特定でボトム型を導出する場合は評価を取り止め、特定している場合のみに評価を成立させて値存在にする機能である。ただしこれは遅延パターンマッチングで等価性審査から評価値写像につなげる為の内包表記用途にほぼ限定されている。また代数的データ型の式パターンの多くは遅延評価対象であり、共用体、無限リスト、再帰データ型の表現が可能になっている。

プログラム実装上において先行評価は決して必須ではないが遅延評価の方は必須になる。帰納再帰無限極限といった代数的表現は遅延評価でのみ実装できる。部分関数も遅延評価前提の式存在である。フロー分岐によって参照されなくなる式評価を結果的にスキップできる事は処理の高速化につながる。それはしばしばテクニックとしても用いられる。またボトム型が発生する式評価のスキップはフォールトトレランスにもつながる。ただし柔軟な評価タイミングは同時に式存在と値存在の区別を困難にしてバグの温床になりがちなので、遅延評価が必要になる場所以外では評価タイミングが明白である先行評価をデフォルトにする方が理想と見なされている。従来の関数型言語はおおむね遅延評価をデフォルトにしているが、先行評価の方が望ましいとする見方も広まっており純粋関数型や並行プログラミング分野では優勢である。

参照透過性

参照透過性とは関数は同じ引数値に対して必ず同じ評価値を恒久的に導出し、その評価過程において現行計算枠外の情報資源に一切の作用を及ぼさないというプロセス上の枠組みを意味する。現行計算枠外のいずれかの情報資源が変化するのと同時にいずれかの関数の評価過程も変化してしまう現象は副作用と呼ばれる。参照透過性はこの副作用の排除も同時に意味している。参照透過性に則した関数実装は関数の純粋化と呼ばれる。参照透過性は関数の純粋化の他、変数の再代入をプログラムから排除する事で成立する。それによってあらゆる値の写像の履歴がプログラム開始時に宣言(declarative)された初期値まで遡れるようになる。この膨大な写像の履歴ツリーの解析と模型化はプロセス微積分ないしプロセス代数と呼ばれ、並行プログラミングの支柱にされている。並行プログラミングの基本メカニズムは、全プロセスをまず無制約に並行実行させておき、どこかで不整合(conflict)が発生した場合は一定の関連プロセスを整合性が取れる履歴ツリー上の写像位置まで巻き戻すというものである。過去に戻ったプロセスは不整合が反映された別の写像ルートを辿ることになるが、そのルート変化は未来情報の反映になるので副作用には当たらない。この時に履歴ツリーが用いられる。従って写像履歴の改ざんにつながる再代入は厳禁になり、ある時点の写像をただ書き留めておく束縛変数と、旧値の更新を新値の産出で代替したイミュータブルが不可欠になる。ループは再帰で行われ、条件分岐は代数的データ型依存型で表現される。

また参照透過性で有効になる写像の履歴ツリーは、一定の証明論に基づいたプルーフアシスタントによるプログラム正当性の自動的な形式的検証および数学的論証を可能にする。プルーフアシスタントはソフトウェアツールである。純粋関数型言語はその為に参照透過性をプログラム全体の枠組みにしている。ただしプログラム正当性が証明されてもランタイム環境側のプログラム運用部分のデバッグは残される事になる。プログラム全体に参照透過性を適用するには前述のコーディング上の注意の他に、プログラムレベルでは回避できない各種I/O作業に伴う必然的副作用の論理的排除も必要になるので専用のランタイム環境上での動作が必須になる。ランタイム環境は”環境データ”を走行プログラムとの仲介にする。プログラム内の各関数は、ライナー型引数値として渡された”環境データ”に作用するという形で各種I/O作業を行う。その仮想的I/O作業はランタイム環境側で実際に代行され、そのI/O作業で変化したコンピュータ環境はその都度”環境データ”に反映される。関数は”環境データ”をライナー型返り値として渡し返す。ライナ―型(linear type)は型理論における派生構造型(substructural type)の一形態であり線形合同法に似たデータ生成アルゴリズムによる写像履歴を維持するための型システムである。これはユニークネス型とも呼ばれる。”環境データ”に”関連値”を注入する仕組みはアフィン型(affine type)、抽出する仕組みは関連型(relevant type)と呼ばれる。双方とも派生構造型の一形態である。このように各種I/O作業を”環境データ”への作用という形にする事で副作用を論理的に排除し、ライナー型の疑似乱数列に似た仕組みで参照透過性を論理的に維持している。常にユニーク生産されるライナー型値は、I/O作業の副作用によって実際には変化しているランタイム環境の時系列状態を各個照会可能にしているマッピングキーである。これによってランタイム環境の変化も写像の履歴ツリーで論理的に辿れるようにしている。ここでの論理的とは言わば見せかけの意味に近いが、一定の問題をプログラム側から綺麗に切り離してランタイム環境側に丸投げできるメカニズムは開発上極めて有益と見なされている。なお、型システムの代わりに圏論を利用して写像履歴を維持するためのデザインパターン手法がモナドである。”環境データ”を加工するモナド演算子は数学問題における公理公式と同等の存在であり、決められたルールに従って用いるだけで副作用の排除と参照透過性の維持を論理的に表現できる。

型システム

歴史

1930年代に数学者アロンゾ・チャーチによって発明されたラムダ計算関数適用をベースにした計算用形式体系であり、1937年に数学者アラン・チューリング自身によりチューリング完全の性質が明らかにされて、チューリングマシンと等価な計算模型である事が証明されている。この経緯からラムダ計算は関数型プログラミングの基底に据えられた。ラムダ計算と同等の計算理論コンビネータ論理があり、1920年代から1930年代にかけて数学者ハスケル・カリーらによって発明されている。こちらは関数型プログラミングの原点である高階論理式の基礎モデルにされた。チャーチはラムダ計算を拡張してその各タームに型を付与した型付けラムダ計算も考案しており、これは関数型プログラミングにおける型理論型システムの源流になった。

1950年代

初の関数型プログラミング言語とされる「LISP」は、1958年にマサチューセッツ工科大学の計算機科学者ジョン・マッカーシーによって開発された。LISPの関数はラムダ計算の形式を元に定義され再帰可能に拡張されており、式のリスト化とその遅延評価および高階評価など幾つかの関数型的特徴を備えていた。LISPは数多くの”方言”を生み出しているが、その中でも「Scheme」「Dylan」「Racket」「Clojure」「Julia」は取り分け関数型の特徴を明確にした言語である。1956年に公開された「Information Processing Language」の方が先駆であるが、こちらはアセンブリベースの低水準言語なので前段階扱いである。IPLが備えていたニーモニックコードのリストをオペランドにできるジェネレータ機能はLISPに影響を与えたと言われる。高階オペランドの演算処理は高階関数と同じ働きをし、メモリ一括処理のストリング命令の効率を高めるなどした。

1960年代

1964年に計算機科学者ケネス・アイバーソンが開発した「APL」は、数多く定義された関数記号を多次元配列データに適用する機能を中心にした言語であり、取り分けスプレッドシート処理に対する効率性が見出されて、1960年代以降の商業分野と産業分野に積極導入された。APLは関数型ではなく配列プログラミング型に位置付けられているが、配列を始めとするデータ集合に対する関数適用の有用性を特に証明した言語になった。そのデータ集合処理の可能性に注目した「J」「K」「Q」といった派生言語が後年に登場している。続く1966年に発表された「ISWIM」は関数型を有用な構文スタイルとして扱うマルチパラダイム言語の原点とされ、ALGOLを参考にした構造化プログラミングに高階関数とwhereスコープが加えられていた。60年代の関数型プログラミングの歴史はもっぱらLISPの発展を中心にしていたが、ISWIMは後年の「ML」「Scheme」のモデルにされている。

1970年代

相互自動定理証明に向けて始められた「Logic for computable functions」プロジェクトの中で1973年に導入された「ML」は代数的データ型パラメトリック多相型推論などを備えた関数型言語であり、計算機科学者ロビン・ミルナーによって開発された。また1975年にMIT人工知能研究所の計算機科学者ガイ・スティールと工学者ジェイ・サスマンが設計してAIリサーチ用に導入された「Scheme」は任意時評価(call/cc)第一級継続などを備え、レキシカルスコープで構造化が図られており末尾再帰を最適化していた。MLとScheme双方の登場は関数型プログラミングのマイルストーンになった。また同年代に関数の数学的純粋性を重視した「SASL」とクリーネの再帰定理の実装を主な目的にした「Hope」も発表されている。1977年、バッカス・ナウア記法FORTRAN開発の功績でこの年のチューリング賞を受けた計算機科学者ジョン・バッカスは「Can Programming Be Liberated From the von Neumann Style? -A Functional Style and Its Algebra of Programs-」と題した記念講演を行い、一説にはこれを境にして関数型(functional)というパラダイム名が定着したと言われる。なお同時に発表された「FP」は関数水準(function-level)言語として紹介されている。バッカスはFPのプログラムをアトム+関数+フォーム(=高階関数)の階層構造と定義し、代数を用いるフォームの結合で全体構築されると提唱した。ノイマン型からの脱却を題目に掲げているバッカスの理論は、後年のCPUに導入される並列パイプライン処理に通じる構想であった。

1980年代

数学者マルティン=レーフが1972年から提唱していた直感的型理論は、関数型プログラミングの世界に型理論依存型の重要性を認識させて型システムの拡張に貢献した。1978年にML設計者のミルナーが発表した型推論アルゴリズムが1982年に証明されると、Hindley–Milner型体系と定義されて型システムは更に成熟した。1983年にMLの標準化を目的にした「Standard ML」が発表され、続く1985年にMLの派生言語「Caml」が公開された。同じく1985年にSASLの後継として発表された「Miranda」は、遅延評価を標準にしながら関数の数学的純粋性を追求した言語であり、関数型プログラミング研究用オープンスタンダードのコンセンサスで1987年から策定が開始されたHaskellのモデルになりその進捗を大きく後押しした。それと前後してMirandaは1987年公開の純粋関数型言語「Clean」にも大きな影響を与えている。Cleanは後発のHaskellをも叩き台にして改良を続けた。また関数型と並行計算の適性が認識される中で1986年の通信業界で開発された「Erlang」は並行プログラミング指向の面で特に注目を集めている言語である。

1990年代

1990年にこれも関数型プログラミングのマイルストーン的な純粋関数型言語「Haskell」が初リリースされた。1992年に動的型付けレコードクラスと多重ディスパッチメソッドを扱う関数型言語「Dylan」が登場した。1993年にベクトル行列表テーブルなどのデータストラクチャを扱えて統計的検定時系列分析クラスタリング分野に特化した関数型言語「R」が発表された。1995年にLISPのマクロ機能を大幅に強化したコンポーネント指向により各分野に合わせたドメイン固有言語として振る舞える「Racket」が登場した。1996年にはML系列のCamlにオブジェクト指向視点の抽象データ型を導入した「OCaml」が公開された。90年代の関数型プログラミングの歴史では、関数の数学的純粋さを追求する参照透過性指向とオブジェクト指向との連携が比較的目立っていた。日本ではStandard MLに独自の拡張を施した「SML#」が発表されている。風変りなものにコンビネータ論理の形式に立ち返った「Unlambda」がある。論理型プログラミングとの親和性も見直されるようになり1995年に「Mercury」が公開された。論理型のルール&ファクトパラダイムはデータ集合に対するフィルタリングなどに活用された。1988年公開の「Wolfram」はAPLスタイルのリスト処理に一定のデータリレーションを定義できる項書き換えを組み合わせた言語で90年代を通して改良が続けられていた。

2000年代

2000年代になると関数型プログラミングへの注目度は更に高まり、マルチパラダイムに応用された関数型言語が様々に登場した。2003年のJava仮想マシン動作「Scala」、2005年のマイクロソフト製「F#」、2007年のLISP方言「Clojure」など数々のポピュラー言語が生み出されている。また直感的型理論とカリー=ハワード同型対応の理論に基づいたプルーフアシスタント(Proof assistant)によるプログラム正当性の数学的証明を指向した関数型言語が支持され、2004年に「Epigram」2007年に「Agda」および純粋関数型「Idris」が発表されている。関数型構文の有用性がより広く認識されるに従い、オブジェクト指向言語やスクリプト言語にも積極的に導入されるようになった。産業分野からも注目されるようになり、CSG幾何フレームワーク上で動くCADへの導入も始められた。しかし関数型コンセプトに馴染まないオペレーターが定数化規則による値の再代入制限に困惑して設計作業に支障をきたすなどの弊害も明らかになっている。

代表的な関数型言語

LISP (1958年)

動的型付け

ISWIM (1966年)← LISP、ALGOL

静的型付け

ML (1973年)← ISWIM

静的型付け

Scheme (1975年)← LISP、ISWIM

LISP方言、動的型付け

FP (1977年)

純粋

Standard ML (1983年)← ML、Hope、PASCAL

ML派生、静的型付け

Miranda (1985年)← ML、SASL、Hope

純粋、静的型付け

Erlang (1986年)← LISP、PrologSmalltalk

動的型付け

Clean (1987年)← Miranda

純粋、静的型付け

Haskell (1990年)← ML、Scheme、Miranda、Clean、FP

純粋、静的型付け

Dylan (1993年)← Scheme、CLOSALGOL

LISP方言、動的型付け

R (1993年)← Scheme、CLOS

動的型付け

Racket (1995年)← Scheme、Eiffel

LISP方言、動的型付け

OCaml (1996年)← Caml、Standard ML、Modula-3

ML派生、静的型付け

Scala (2003年)← Scheme、Haskell、OCaml、Erlang、SmalltalkJava

静的型付け

F# (2005年)← Haskell、OCaml、Erlang、Scala、PythonC♯

静的型付け

Clojure (2007年)← Scheme、Haskell、OCaml、Erlang、Java

LISP方言、動的型付け

関数型プログラミングの例

関数型プログラミングは「計算とは何か」という数学の理論を基礎にしており、関数型プログラミングがもつ計算モデル関数モデルである[1]。たとえば、1 から 10 までの整数を足し合わせるプログラムを考える[注釈 1]命令型プログラミングでは以下のようにループ文を使って変数に数値を足していく(計算機の状態を書き換える)命令を繰り返し実行するという形を取る。

program test;
var total, i : Integer;
begin
total := 0;
for i := 1 to 10 do
    total := total + i;
WriteLn(total)
end.

一方、関数型プログラミングでは、繰り返しには一時変数およびループを使わず、関数再帰呼び出しを使う。

  • F#による例:
printfn "%d" (let rec sum x = if x > 0 then x + sum (x - 1) else 0
              sum 10)

ただし再帰呼び出しはスタックオーバーフローの危険性やオーバーヘッドを伴うため、注意深く使用しなければならない[2]。通例、関数型言語では、末尾再帰呼び出し (tail-recursive call) の形で書かれた関数をループに展開する末尾呼出し最適化により、スタックオーバーフローの危険性および再帰のオーバーヘッドを解消できる。Schemeなど、関数型言語の中には末尾再帰呼び出しの最適化を仕様で保証するものもある。再帰関数を末尾再帰に書き換えることが難しいケースも有り、そのような場合は一般的なループが採用される。

また、関数型言語は文 (statement) よりも式 (expression) を中心とした言語仕様となっていることも特徴である。前述の例において、再帰関数sum束縛するletは式である。また、条件分岐のif-then-elseも式である。文よりも式で書けることが多いほうが都合がよい。

関数型言語は関数型プログラミングをサポートする言語ではあるが、手続き型プログラミングを行なうことも可能である。例えばF#では以下のようなPascal風の書き方もできる。

let mutable total = 0
for i = 1 to 10 do
    total <- total + i
printfn "%d" total

ただしHaskellのようにループ構文をサポートせず、従来の手続き型プログラミングが難しいケースもある。

逆に手続き型言語を使って関数型プログラミングを行なうことも可能であるが、末尾再帰呼び出しの最適化がサポートされるかどうかはコンパイラ次第である。

脚注

注釈

  1. ^ 本来は等差数列の和の公式を用いて定数時間で問題を解く方法が最適解だが、ここではプログラミングスタイルの比較のため数値計算的手法を用いる。

出典

  1. ^ 計算モデル2 関数モデル. (中略) 関数モデルに基づくプログラミング言語. 関数型言語. Lisp 犬塚信博 (2007)「プログラミング言語論 第1回 イントロダクション」名古屋工業大学
  2. ^ 関数 (F#) | MSDN

外部リンク