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『'''たった独りのあなたのために'''{{R|日本テレビドラマ史19860925_p407|脚本データベース2012}}』(たったひとりのあなたのために)は、[[1985年]][[12月24日]]に[[日本テレビ放送網|日本テレビ]]の「[[火曜サスペンス劇場]]」において放送された[[テレビドラマ|単発ドラマ]]である。[[東京都]]、[[札幌市]]、[[横浜市]]、[[名古屋市]]の4か所を結び、[[クリスマス・イヴ]]の特別番組直前の怪電話による騒動を、2時間の[[生放送]]で描く<ref name="毎日新聞19851224m_p22">{{Cite news|和書|language=ja|date=1985-12-24|title=火曜サスペンス劇場「たった独りのあなたのために」|newspaper=[[毎日新聞]]|edition=朝刊|publisher=[[毎日新聞社]]|page=22}}</ref><ref name="読売新聞19851224m_p22">{{Cite news|和書|language=ja|date=1985-12-24|title=たった独りのあなたのために|newspaper=[[読売新聞]]|edition=朝刊|publisher=[[読売新聞社]]|page=24}}</ref>。
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== あらすじ ==
== あらすじ ==
クリスマス・イヴの夜。テレビ局ではチャリティの特別番組の放送の準備が進められており、番組内で新人歌手である純子(演:[[刀根麻理子]]{{R|朝日新聞19851224m_p22|毎日新聞19851224m_p22}})のデビューが予定されている。[[アシスタントディレクター]]として勤めている涼子(演:[[岸本加世子]]{{R|朝日新聞19851224m_p22|毎日新聞19851224m_p22}})は番組の準備に追われつつ、この番組を最後に退職する決意を固めている。放映開始の1時間前、涼子のもとへ電話が入る。その歌手の曲が盗作であり、出演させれば抗議のために自殺するという{{R|朝日新聞19851224m_p22|毎日新聞19851224m_p22}}。テレビ局が混乱に陥る中、生放送が始まる。電話の男は札幌に現れ、回線を通じて東京の純子のもとへ呼びかける{{R|日本テレビドマ史19860925_p407}}<ref name="番組研究200405_p5">{{Cite web|url=https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/domestic/pdf/050201_01.pdf |title=テレビ・今もお前は現場にすぎ|accessdate=2020-11-30|date=2020-5-15|format=PDF|page=5|author=横江広幸|publisher=[[NHK放送文化研究所]]}}</ref>。2人の間の愛憎と、男の挫折という事情が明らかになる。純子は、かつての恋人1人のためだけに、歌を歌い上げる{{R|日本テレビドラマ史19860925_p407}}
クリスマス・イヴの夜。[[テレビ局]]ではチャリティの特別番組の放送の準備が進められており、番組内で新人歌手である奈々井純子の、自作の曲でのデビューが予定されている。[[アシスタントディレクター]]として勤めている相川涼子は番組の準備に追われつつ、この番組を最後に退職する決意を固めている{{R|イメージフォーム19860301_p149}}<ref name="朝日新聞19851224m_p22">{{Cite news|和書|language=ja|date=1985-12-24|title=火曜サスペンス劇場「たった独りたのために」|newspaper=[[朝日新聞]]|edition=朝刊|publisher=[[朝日新聞社]]|page=22}}</ref>。


放映開始の1時間前、涼子のもとへ脅迫の電話が入る。電話の内容によれば、純子のデビュー曲『たった独りのあなたのために{{R|イメージフォーラム19860301_p149}}』は盗作であり、出演させれば、電話の主は抗議のために自殺するという{{R|毎日新聞19851224m_p22}}<ref name="朝日新聞19851224m_p22">{{Cite news|和書|language=ja|date=1985-12-24|title=火曜サスペンス劇場「たった独りのあなたのために」|newspaper=[[朝日新聞]]|edition=朝刊|publisher=[[朝日新聞社]]|page=22}}</ref>。
== 製作 ==
脅迫電話に緊迫するテレビの現場を表現するため、生放送という形式がとられた<ref name="価格.com20100927">{{Cite web|url=https://kakaku.com/tv/channel=4/programID=22704/episodeID=436552/ |title=価格.com -「DON!」2010年9月27日(月)放送内容|accessdate=2020-11-30|date=2010-9-27|website=[[価格.com]]|publisher=[[カカクコム]]}}</ref>。2時間ドラマとしては初の生放送であり{{R|朝日新聞19851224m_p22}}、火曜サスペンス劇場の中で唯一の生放送である{{R|価格.com20100927}}。作家の鳥山拡は、東京2か所、大阪2か所の計4か所を結んだ1時間の生放送ドラマ『追跡』([[日本放送協会|NHK]]、1955年)との類似性を指摘している{{R|日本テレビドラマ史19860925_p407}}<ref>{{Cite web|url=https://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009040030_00000 |title=ドラマ 追跡|accessdate=2020-11-30|website=[[NHKアーカイブス]]|work=NHK放送史|publisher=[[日本放送協会]]}}</ref>。


純子は涼子に、電話の主はかつての同棲相手の男性である三島宅次だと告白するが、曲は自作だといい、盗作であることは否定する。局は混乱に陥り、純子に歌わせるかどうかの決断に迫られた末、札幌にいる宅次と東京のテレビ局を[[テレビ電話]]で接続し、純子に盗作を認めさせることを約束し、放送が始まる。しかし純子は番組内で、曲を自作と言い切り、テレビ局から逃亡する{{R|イメージフォーラム19860301_p149}}。
脚本を手掛けた[[今野勉]]によれば、番組スタッフの緊張感は大変なもので、進行に非常に苦労したが、番組としてはそれなりに成功した{{R|番組研究200405_p5}}。しかし視聴者からの反応はほとんどなく、「生放送だとわかったところで、ドラマとして何の意味があるのか」と問い返された{{R|番組研究200405_p5}}。このことで今野は、ニュースやバラエティ番組などで生放送が一般化したため、生放送という手段による緊迫感が薄れ、視聴者にとっては生放送がすでに普遍化してしまっており、ドラマにとって生放送であることが利点にはならなかったと分析している{{R|番組研究200405_p5}}。

札幌で待つ宅次に対して涼子は、純子は宅次だけのために歌を作ったと説得し、宅次は怒りを鎮める{{R|イメージフォーラム19860301_p149}}。そこへ純子が現れ、涙を流しつつ、かつての恋人1人のためだけに、歌を歌い上げる{{R|日本テレビドラマ史19860925_p407|イメージフォーラム19860301_p149}}。


== キャスト ==
== キャスト ==
*[[岸本加世子]]{{R|朝日新聞19851224m_p22|毎日新聞19851224m_p22}}
* 相川涼子 - [[岸本加世子]]{{R|イメージフォーラム19860301_p157}}
*[[松村雄基]]{{R|朝日新聞19851224m_p22|テレビドラマデタベ}}
* 三島宅次 - [[松村雄基]]{{R|イメジフォラム19860301_p157}}
*[[刀根麻理子]]{{R|朝日新聞19851224m_p22|毎日新聞19851224m_p22}}
* 奈々井純子 - [[刀根麻理子]]{{R|イメージフォーラム19860301_p157}}
* 乃本 - [[小林克也]]{{R|イメージフォーラム19860301_p157}}
*[[柳生博]]{{R|脚本データベース2012|テレビドラマデータベース}}
* 頭師 - [[蟹江敬三]]{{R|イメージフォーラム19860301_p157}}
* 染井 - [[伊武雅刀]]{{R|イメージフォーラム19860301_p157}}
* 近藤部長 - [[山本耕一]]{{R|イメージフォーラム19860301_p157}}

他、[[柳生博]]らが出演{{R|みんな、いい人_p257}}


== スタッフ ==
== スタッフ ==
*原:[[島田荘司]]{{R|朝日新聞19851224m_p22}}「糸のことジグザグ」{{R|テレビドラマデータベース}}
*原:[[島田荘司]]{{R|イメージフォーラム19860301_p157}}「糸のことジグザグ」{{R|テレビドラマデータベース}}
*脚本:[[今野勉]]{{R|日本テレビドラマ史19860925_p407|毎日新聞19851224m_p22}}
*脚本:[[今野勉]]{{R|日本テレビドラマ史19860925_p407|イメージフォーラム19860301_p157}}
*演出:[[石橋冠]]{{R|日本テレビドラマ史19860925_p407|毎日新聞19851224m_p22}}
*演出:[[石橋冠]]{{R|日本テレビドラマ史19860925_p407|イメージフォーラム19860301_p157}}
*音楽:[[木森敏之]]{{R|イメージフォーラム19860301_p157}}


== 製作 ==
== 余談・エピソード ==
脚本を手掛けた[[今野勉]]によれば、今野がテレビ局に入社した1959年(昭和34年)頃は、ドラマの約半分が生放送であったため([[生放送#ドラマ]]も参照)、その原点に立ち返ろうとしたこと、[[テレビ]]自体を題材としたドラマがそれまで存在しなかったことで、その二つを結びつけるという発想のもとに、今野と監督の[[石橋冠]]により製作された<ref name="イメージフォーラム19860301_p150">{{Harvnb|今野|1986|pp=150-151}}</ref>。また生放送という形式がとられたのは、脅迫電話に緊迫するテレビの現場を表現するためでもあった<ref name="価格.com20100927">{{Cite web|url=https://kakaku.com/tv/channel=4/programID=22704/episodeID=436552/ |title=価格.com -「DON!」2010年9月27日(月)放送内容|accessdate=2020-12-19|date=2010-9-27|website=[[価格.com]]|publisher=[[カカクコム]]}}</ref>。今中と石橋による提案が出たのが放送同年の10月頃で、脚本を始め、製作自体は非常にハイペースで進められた{{R|イメージフォーラム19860301_p150}}。
{{出典の明記|date=2020年11月|section=1}}

*[[熊本県民テレビ|くまもと県民テレビ]]には新聞の番組表に再放送の予定が掲載されていたが、{{独自研究範囲|date=2020年11月|この番組の本放送が[[生放送]]だったことを考慮したのか}}、再放送は実現しなかった。
生放送であることが不要な場面、たえばメイクアップルームなどは事前の録画が用いられたが、約8割は生放送である<ref name="イメージフォーラム19860301_p153">{{Harvnb|今野|1986|pp=153-154}}</ref>。生放送は2時間ドラマとしては初であり{{R|朝日新聞19851224m_p22}}、火曜サスペンス劇場の中で唯一である{{R|価格.com20100927}}。作家の鳥山拡は、東京2か所、大阪2か所の計4か所を結んだ1時間の生放送ドラマ『追跡』([[日本放送協会|NHK]]、1955年)との類似性を指摘している{{R|日本テレビドラマ史19860925_p407}}<ref>{{Cite web|url=https://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009040030_00000 |title=ドラマ 追跡|accessdate=2020-12-19|website=[[NHKアーカイブス]]|work=NHK放送史|publisher=[[日本放送協会]]}}</ref>。

作中ではテレビ電話で遠隔地同士を接続して会話する場面があるが、これは当時の技術的にはまだ普及した手段ではなかったため、会話する人物のみを映すカメラを双方に設置、テレビの視聴者のためにその両方を映すためのカメラを設置し、さらに作中のテレビ局での模様を捉えるためのカメラも必要と、非常に複雑な手段がとられた。こうした事情もあり、通常のドラマであればカメラは4台程度あれば済むところが、本作での数は約30台に達した{{Sfn|今野|1986|pp=151-153}}。

== 作品の評価 ==
今野勉によれば、番組スタッフの緊張感は大変なもので、進行に非常に苦労したが、番組としてはそれなりに成功した<ref name="番組研究200405_p5">{{Cite web|url=https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/domestic/pdf/050201_01.pdf |title=テレビ・今も「お前はただの現場にすぎない」か|accessdate=2020-12-19|date=2020-5-15|format=PDF|page=5|author=横江広幸|publisher=[[NHK放送文化研究所]]}}</ref>。生放送であることのハプニングは、出演者が緊張で台詞を少し誤る程度で、ほとんどないといって良かった{{R|イメージフォーラム19860301_p153}}。[[視聴率]]は約16パーセントであり、さほど高いとはいえないものの、当日の放送では最高の数字を記録した<ref name="イメージフォーラム19860301_p154">{{Harvnb|今野|1986|pp=154-155}}</ref>。新人歌手役を演じた刀根麻理子は、演技派は初体験であったが、今野は「非常の存在感のある人でした」「歌が良くなければドラマはどうしようもない」「歌い方が生の強さをとてもよく表した」と評価した{{R|イメージフォーラム19860301_p153}}。

しかし視聴者からの反応はほとんどなく、「生放送だとわかったところで、ドラマとして何の意味があるのか」と問い返された{{R|番組研究200405_p5}}。このことで今野は、ニュースやバラエティ番組などで生放送が一般化したため、生放送という手段による緊迫感が薄れ、視聴者にとっては生放送がすでに普遍化してしまっており、ドラマにとって生放送であることが利点にはならなかったと分析しており{{R|番組研究200405_p5}}、生放送であることが刺激になるような状況とは何かを考慮する必要性を課題としている{{R|イメージフォーラム19860301_p154}}。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
79行目: 94行目:
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== 参考文献 ==
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* {{Cite book|和書|author=[[小倉一郎]]|title=みんな、いい人 35年の俳優生活で出会った心に残る人たち|date=1995-7-15|publisher=太陽企画出版|isbn=978-4-88466-254-7|ref={{SfnRef|小倉|1995}}}}
* {{Cite book|和書|author=鳥山拡|title=日本テレビドラマ史|date=1986-9-25|publisher=映人社|isbn=978-4-87100-213-4|ref={{SfnRef|鳥山|1986}}}}
* {{Cite journal|和書|author=[[今野勉]]|date=1986-3-1|title=ドラマ本質に未知なる部分を孕みたい 生中継ドラマ『たった独りのあなたのために』をめぐるテレビの可能性|journal=月刊イメージフォーラム|issue=66|publisher=[[ダゲレオ出版]]|id={{NCID|AN10338102}}|ref={{SfnRef|今野|1986}}}}

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2020年12月19日 (土) 03:25時点における版

たった独りのあなたのために
- 12月24日の青春 -[1][2]
ジャンル テレビドラマ
原案 島田荘司[1][3]
企画 小坂敬、山本時雄[3]
脚本 今野勉[1][3]
監督 石橋冠[1][4]
演出 石橋冠[1][3]
出演者 岸本加世子松村雄基刀根麻理子柳生博[3][5]
音楽 木森敏之[3](音楽協力:日本テレビ音楽[6]
エンディング25時の愛の歌[6]
国・地域 日本の旗 日本
言語 日本語
製作
プロデューサー 川原康芳、田辺昌一[3]
制作 日本テレビ[6]
放送チャンネル日本テレビ系列[3][5]
放送国・地域日本の旗 日本
放送期間1985年12月24日[7]
放送時間21:02 - 22:54[7]
放送枠火曜サスペンス劇場[3][5]
放送分112分
回数1[6]

特記事項:
生放送
テンプレートを表示

たった独りのあなたのために[1][4]』(たったひとりのあなたのために)は、1985年12月24日日本テレビの「火曜サスペンス劇場」において放送された単発ドラマである。東京都札幌市横浜市名古屋市の4か所を結び、クリスマス・イヴの特別番組直前の怪電話による騒動を、2時間の生放送で描く[7][8]

あらすじ

クリスマス・イヴの夜。テレビ局ではチャリティの特別番組の放送の準備が進められており、番組内で新人歌手である奈々井純子の、自作の曲でのデビューが予定されている。アシスタントディレクターとして勤めている相川涼子は番組の準備に追われつつ、この番組を最後に退職する決意を固めている[2][9]

放映開始の1時間前、涼子のもとへ脅迫の電話が入る。電話の内容によれば、純子のデビュー曲『たった独りのあなたのために[2]』は盗作であり、出演させれば、電話の主は抗議のために自殺するという[7][9]

純子は涼子に、電話の主はかつての同棲相手の男性である三島宅次だと告白するが、曲は自作だといい、盗作であることは否定する。局は混乱に陥り、純子に歌わせるかどうかの決断に迫られた末、札幌にいる宅次と東京のテレビ局をテレビ電話で接続し、純子に盗作を認めさせることを約束し、放送が始まる。しかし純子は番組内で、曲を自作と言い切り、テレビ局から逃亡する[2]

札幌で待つ宅次に対して涼子は、純子は宅次だけのために歌を作ったと説得し、宅次は怒りを鎮める[2]。そこへ純子が現れ、涙を流しつつ、かつての恋人1人のためだけに、歌を歌い上げる[1][2]

キャスト

他、柳生博らが出演[5]

スタッフ

製作

脚本を手掛けた今野勉によれば、今野がテレビ局に入社した1959年(昭和34年)頃は、ドラマの約半分が生放送であったため(生放送#ドラマも参照)、その原点に立ち返ろうとしたこと、テレビ自体を題材としたドラマがそれまで存在しなかったことで、その二つを結びつけるという発想のもとに、今野と監督の石橋冠により製作された[10]。また生放送という形式がとられたのは、脅迫電話に緊迫するテレビの現場を表現するためでもあった[11]。今中と石橋による提案が出たのが放送同年の10月頃で、脚本を始め、製作自体は非常にハイペースで進められた[10]

生放送であることが不要な場面、たとえばメイクアップルームなどは事前の録画が用いられたが、約8割は生放送である[12]。生放送は2時間ドラマとしては初であり[9]、火曜サスペンス劇場の中でも唯一である[11]。作家の鳥山拡は、東京2か所、大阪2か所の計4か所を結んだ1時間の生放送ドラマ『追跡』(NHK、1955年)との類似性を指摘している[1][13]

作中ではテレビ電話で遠隔地同士を接続して会話する場面があるが、これは当時の技術的にはまだ普及した手段ではなかったため、会話する人物のみを映すカメラを双方に設置、テレビの視聴者のためにその両方を映すためのカメラを設置し、さらに作中のテレビ局での模様を捉えるためのカメラも必要と、非常に複雑な手段がとられた。こうした事情もあり、通常のドラマであればカメラは4台程度あれば済むところが、本作での数は約30台に達した[14]

作品の評価

今野勉によれば、番組スタッフの緊張感は大変なもので、進行に非常に苦労したが、番組としてはそれなりに成功した[15]。生放送であることのハプニングは、出演者が緊張で台詞を少し誤る程度で、ほとんどないといって良かった[12]視聴率は約16パーセントであり、さほど高いとはいえないものの、当日の放送では最高の数字を記録した[16]。新人歌手役を演じた刀根麻理子は、演技派は初体験であったが、今野は「非常の存在感のある人でした」「歌が良くなければドラマはどうしようもない」「歌い方が生の強さをとてもよく表した」と評価した[12]

しかし視聴者からの反応はほとんどなく、「生放送だとわかったところで、ドラマとして何の意味があるのか」と問い返された[15]。このことで今野は、ニュースやバラエティ番組などで生放送が一般化したため、生放送という手段による緊迫感が薄れ、視聴者にとっては生放送がすでに普遍化してしまっており、ドラマにとって生放送であることが利点にはならなかったと分析しており[15]、生放送であることが刺激になるような状況とは何かを考慮する必要性を課題としている[16]

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j 鳥山 1986, p. 407
  2. ^ a b c d e f 今野 1986, pp. 149–150
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 今野 1986, p. 157
  4. ^ a b 脚本「たった独りのあなたのために―12月24日の青春―」”. 脚本データベース. 文化庁 (2012年). 2020年12月19日閲覧。
  5. ^ a b c d 小倉 1995, p. 257
  6. ^ a b c d e たった独りのあなたのために”. テレビドラマデータベース. 2020年12月19日閲覧。
  7. ^ a b c d 「火曜サスペンス劇場「たった独りのあなたのために」」『毎日新聞毎日新聞社、1985年12月24日、朝刊、22面。
  8. ^ 「たった独りのあなたのために」『読売新聞読売新聞社、1985年12月24日、朝刊、24面。
  9. ^ a b c 「火曜サスペンス劇場「たった独りのあなたのために」」『朝日新聞朝日新聞社、1985年12月24日、朝刊、22面。
  10. ^ a b 今野 1986, pp. 150–151
  11. ^ a b 価格.com -「DON!」2010年9月27日(月)放送内容”. 価格.com. カカクコム (2010年9月27日). 2020年12月19日閲覧。
  12. ^ a b c 今野 1986, pp. 153–154
  13. ^ ドラマ 追跡”. NHKアーカイブス. NHK放送史. 日本放送協会. 2020年12月19日閲覧。
  14. ^ 今野 1986, pp. 151–153.
  15. ^ a b c 横江広幸 (2020年5月15日). “テレビ・今も「お前はただの現場にすぎない」か” (PDF). NHK放送文化研究所. p. 5. 2020年12月19日閲覧。
  16. ^ a b 今野 1986, pp. 154–155

参考文献

  • 小倉一郎『みんな、いい人 35年の俳優生活で出会った心に残る人たち』太陽企画出版、1995年7月15日。ISBN 978-4-88466-254-7 
  • 鳥山拡『日本テレビドラマ史』映人社、1986年9月25日。ISBN 978-4-87100-213-4 
  • 今野勉「ドラマ本質に未知なる部分を孕みたい 生中継ドラマ『たった独りのあなたのために』をめぐるテレビの可能性」『月刊イメージフォーラム』第66号、ダゲレオ出版、1986年3月1日、NCID AN10338102