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2021年5月6日 (木) 12:56時点における版

アルビレオ[1](アルビレオA)
Albireo (Albireo A)
アルビレオA(上)とB(下)
アルビレオA(上)とB(下)
仮符号・別名 はくちょう座β1[2],
はくちょう座β星A(β Cyg A[2])
星座 はくちょう座
見かけの等級 (mv) 3.085[2]
分類 連星
位置
元期:J2000.0[2]
赤経 (RA, α)  19h 30m 43.28052s[2]
赤緯 (Dec, δ) +27° 57′ 34.8483″[2]
赤方偏移 -0.000080[2]
視線速度 (Rv) -24.07 ± 0.12 km/s[2]
固有運動 (μ) 赤経: -7.17 ± 0.25 ミリ秒/年[2]
赤緯: -6.15 ± 0.33 ミリ秒/年[2]
年周視差 (π) 9.95 ± 0.60ミリ秒[3]
(誤差6%)
距離 330 ± 20 光年[注 1]
(101 ± 6 パーセク[注 1]
絶対等級 (MV) -2.5[注 2]
位置(右下の矢印)
位置(右下の矢印)
物理的性質
スペクトル分類 K3II+B9.5V [2]
色指数 (B-V) +1.13[4]
色指数 (U-B) +0.62[4]
色指数 (R-I) +0.66[4]
他のカタログでの名称
はくちょう座6番星A[2]
BD +27 3410[2]
FK5 732[2],
HIP 95947[2]
HR 7417[2],
SAO 87301[2]
Template (ノート 解説) ■Project
はくちょう座β星Aa
β Cyg Aa
仮符号・別名 アルビレオ (Albireo[5])
見かけの等級 (mv) 3.08[6]
分類 K型輝巨星
位置
元期:J2000.0[6]
赤経 (RA, α)  19h 30m 43.286s[6]
赤緯 (Dec, δ) +27° 57′ 34.84″[6]
物理的性質
半径 70 R[7]
質量 5 M[8][7]
≤ 0.75 M ?[3]
スペクトル分類 K3II [6]
光度 1,200 L[7]
表面温度 4,080 ± 10 K[9]
他のカタログでの名称
HD 183912[6]
Template (ノート 解説) ■Project
はくちょう座β星Ac
β Cyg Ac
見かけの等級 (mv) 5.16[10]
分類 B型主系列星
軌道の種類 Aの周回軌道
軌道要素と性質
軌道長半径 (a) 0.536"[11]
離心率 (e) 0.256[11]
公転周期 (P) 213.859 [11]
軌道傾斜角 (i) 154.9°[11]
近点引数 (ω) 39.4°[11]
昇交点黄経 (Ω) 170.4°[11]
位置
元期:J2000.0[10]
赤経 (RA, α)  19h 30m 43.295s[10]
赤緯 (Dec, δ) +27° 57′ 34.62″[10]
固有運動 (μ) 赤経: -1.5 ± 0.3 ミリ秒/[10]
赤緯: -1.4 ± 0.3 ミリ秒/年[10]
物理的性質
半径 3.5 R[7]
質量 3.2 M[8][7]
スペクトル分類 B9.5V[10]
光度 230 L[7]
表面温度 ~12,000 K[12][7]
色指数 (B-V) 0.09[10]
色指数 (V-R) 0.09[9]
他のカタログでの名称
HD 183913[10]
TYC 2133-2964-2[10]
Template (ノート 解説) ■Project
はくちょう座β2[13]
β2 Cyg
仮符号・別名 はくちょう座β星B[13]
見かけの等級 (mv) 5.11[13]
分類 B型主系列星
地球から見た位置 (β星Aとの関係)
元期 2006年
位置角 54°[14]
角距離 35.3"[14]
位置
元期:J2000.0[13]
赤経 (RA, α)  19h 30m 45.3960872028s[13]
赤緯 (Dec, δ) +27° 57′ 54.973848075″[13]
赤方偏移 -0.000063 ± 0.000007[13]
視線速度 (Rv) -18.80 ± 2.2 km/s[13]
固有運動 (μ) 赤経: -0.990 ミリ秒/年[13]
赤緯: -0.541 ミリ秒/年[13]
年周視差 (π) 8.38 ± 0.17ミリ秒[3]
(誤差2%)
距離 389 ± 8 光年[注 1]
(119 ± 2 パーセク[注 1]
絶対等級 (MV) -0.3[注 2]
物理的性質
半径 2.7 R[15]
質量 3.7 ± 0.8 M[16]
表面重力 4.00 ± 0.15 (log g)[16]
自転周期 < 0.6 [8]
スペクトル分類 B8Ve[13]
光度 230 ± 90 L[16]
表面温度 13,200 ± 600 K[16]
色指数 (B-V) -0.10[17]
色指数 (U-B) -0.32[17]
年齢 0.4 - 2億年[16]
他のカタログでの名称
はくちょう座6番星B[13]
BD +27 3411[13]
HD 183914[13]
HIP 95951[13],
HR 7418[13]
SAO 87302[13]
Template (ノート 解説) ■Project

アルビレオ (Albireo) ははくちょう座恒星で、3等星で二重星のはくちょう座β星の通称、あるいは、その二重星を構成する星の1つでそれ自体が連星であるはくちょう座β1(別名はくちょう座β星A)の固有名、あるいはその連星系の主星はくちょう座β星Aaの固有名である[5]

当記事では、はくちょう座β星(二重星全体)について記載する。はくちょう座β星は、北十字を構成する星の1つ。全天で最も有名な二重星の1つである。

構成する星

二重星AB

肉眼で見ると、はくちょう座β星は単一の星のように見える。しかし、望遠鏡で見ると、二重星であることがすぐに分かる。3等星のβ1星(β星A)は金色に見え、5等星のβ2星(β星B)は青色に見える。地球から見ると、2つの星は約35秒[18][3](わずかに広がりつつある[18])離れて色がはっきり異なり、天球上で最もコントラストの鮮やかな二重星の1つである(その美しさのため「北天の宝石」とも呼ばれ、宮沢賢治は「銀河鉄道の夜」でこの2つの星を、輪になって回るサファイアトパーズになぞらえている)。

A星系とB星が、見かけ上の二重星なのか、真の連星系なのかは長年議論の対象となってきた。ヒッパルコス衛星の観測結果によれば、2つの星の固有運動は、方向こそ一致しているものの、値は誤差の範囲を超える約3倍ほどの差があった。そのため、はくちょう座β星が連星系であれば、約10万年の周期で公転しており、約6千億km(太陽と海王星の距離の約130倍)以上離れていると考えられた[19]2018年ガイアの観測データ「Gaia Data Release 2(DR2)」に基づき、固有運動の大きさと向きがそれぞれ大きく異なることから見かけ上の二重星であるとする説が発表された[20][3][注 3]

A連星系

β1星(β星A)は、それ自身が、約4[18][3]離れたK3II型巨星の主星AaとB9V型主系列星の伴星Acからなる連星である。

原則として、Aがさらに連星の場合、主星はAa、伴星はAbとなるが、この伴星はAcと呼ばれている[18]。それは、先に発見が報告された別の伴星がAbと名づけられたからである[18]。Abは1978年の観測に基づき1980年に発表され、Acは1976年の観測に基づき1982年に発表された。Abの発見報告は1978年と1995年の観測による2回のみであり[18]、現在は存在を認められていない[2]

なおCCDM英語版は、伴星(Ac)をCとしている[21]。ただし現在の原則では、Cという符号はABの外側の星に使うことになっている[22]ワシントン重星カタログは、伴星をAcとし、約1離れた(Bより少し遠い)11等星をCとしている[18]

AaとAcは1923年ヘンリー・ドレイパーカタログに登録され、それぞれHD 183912とHD 183913という名称が付与された[7][6][10]1979年、C.E.ウォーレイはアメリカ海軍天文台の66cm望遠鏡を使い、主星から0.40秒角離れた位置に主星より1.5等級暗い星を確認している[23] 。なお、今日では補償光学により主星と伴星の分離が可能となっている[24]

AaとAcの公転軌道については、伴星の発見以来まだ軌道を1周していないため不確実性が大きく、2008年に出された214年周期説と、2018年に出された69年周期説とがある[3]。しかし、214年周期からはAa+Acの質量が5.7+3.3太陽質量と求まるのに対し、69年周期からだと合計87太陽質量という重すぎる値となってしまう[3]。さらに、ヒッパルコスガイアで計測された固有運動から、Aaの軌道がAcの軌道より大きい、つまりAaはAcより軽いという可能性が出てきた(主星か伴星かは明るさで決まるため、主星が伴星より軽いということ自体は希にある)。その計算によると、Aaの質量推定として妥当なのは0.3太陽質量で、上限でも0.75太陽質量となる[3]。この結果は驚くべきことであるので、Aaが質量を失った、星系内にブラックホールが存在するなどの可能性も考察されている[3]

名称

はくちょう座において、はくちょう座β星は白鳥の頭部に位置しているため、英語では beak star つまり「くちばしの星」と呼ばれることがある[25]

この星は中世のアラビア語話者の天文学者には minqār al-dajāja (雌鳥のくちばし)と呼ばれていた[26]。現在のアルビレオという名称は、誤解と誤訳の結果である。はくちょう座はギリシア語ornis であったが、これがアラビア語では urnis に変化した[27][28]。中世にアラビア語のアルマゲストラテン語に翻訳された際、これが植物のカキネガラシ Sisymbrium officinale のギリシア名の erysimon のことであると考えられ、そのラテン語名である ireo に翻訳された[27]。後に ab ireo という記述がアラビア語の術語の誤写だと誤解され al-bireo とされた[27][29]

2016年7月20日、国際天文学連合の恒星の命名に関するワーキンググループ (Working Group on Star Names, WGSN) は、Albireo をβ星Aaの固有名として正式に承認した[5]

アルビレオに由来する事物

脚注

注釈

  1. ^ a b c d パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算
  2. ^ a b 視等級 + 5 + 5×log(年周視差(秒))より計算。小数第1位まで表記
  3. ^ はくちょう座β星Aaは3.08等と明るく、年周視差による観測では誤差が大きくなるため、固有運動による考察がなされた[20]

出典

  1. ^ 原恵『星座の神話 - 星座史と星名の意味』(新装改訂版第4刷)恒星社厚生閣、2007年2月28日、174頁。ISBN 978-4-7699-0825-8 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r Results for bet Cyg A”. SIMBAD Astronomical Database. CDS. 2016年10月6日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j Bastian, U.; Anton, R. (2018), “The mass of Albireo Aa and the nature of Albireo AB. New aspects from Gaia DR2”, Astronomy&Astrophysics 620 (L2), https://arxiv.org/pdf/1811.01665.pdf 
  4. ^ a b c Hoffleit, D.; Warren, W. H., Jr. (1995-11). “Bright Star Catalogue, 5th Revised Ed.”. VizieR On-line Data Catalog: V/50. Bibcode1995yCat.5050....0H. http://vizier.u-strasbg.fr/viz-bin/VizieR-5?-ref=VIZ5a76628e9487&-out.add=.&-source=V/50/catalog&recno=7417. 
  5. ^ a b c IAU Catalog of Star Names”. 国際天文学連合. 2016年9月29日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g Results for HD 183912”. SIMBAD Astronomical Database. CDS. 2016年10月6日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h Albireo - Beta Cygni - β Cyg - Double Star”. freestarcharts.com. 2018年8月30日閲覧。
  8. ^ a b c Jim Kaler. “Albireo”. Stars. 2016年10月5日閲覧。
  9. ^ a b ten Brummelaar, Theo; Mason, Brian D. et al. (2000-5). “Binary Star Differential Photometry Using the Adaptive Optics System at Mount Wilson Observatory”. Astronomical Journal (5): 2403-2414. Bibcode2000AJ....119.2403T. doi:10.1086/301338. Table4, 5, 6, 8を参照。Luminosity from Lbol=102(4.75−Mbol)/5.
  10. ^ a b c d e f g h i j k Results for HD 183913”. SIMBAD Astronomical Database. CDS. 2016年10月6日閲覧。
  11. ^ a b c d e f Entry, WDS identifier 19307+2758, Sixth Catalog of Orbits of Visual Binary Stars, William I. Hartkopf & Brian D. Mason, U.S. Naval Observatory. Accessed on line July 9, 2008. (19307+2758)
  12. ^ Ginestet, N.; Carquillat, J. M. (2002). “Spectral Classification of the Hot Components of a Large Sample of Stars with Composite Spectra, and Implication for the Absolute Magnitudes of the Cool Supergiant Components”. The Astrophysical Journal Supplement Series 143 (2): 513. Bibcode2002ApJS..143..513G. doi:10.1086/342942. 
  13. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q Results for bet Cyg B”. SIMBAD Astronomical Database. CDS. 2018年8月30日閲覧。
  14. ^ a b Entry, The Washington Double Star Catalog, identifier 19307+2758, discoverer identifier STFA 43. Accessed on line October 5, 2016. アーカイブ 2008年9月8日 - ウェイバックマシン
  15. ^ Entry, HD 183914, Catalogue of Stellar Diameters (CADARS); CDS ID II/224.
  16. ^ a b c d e Levenhage, R. S.; Leister, and N. V. (2004-2). “Physical Parameters of Southern B- and Be-Type Stars”. The Astronomical Journal 127 (2): 1176-1180. Bibcode2004AJ....127.1176L. doi:10.1086/381063. , Table 1
  17. ^ a b Hoffleit, D.; Warren, W. H., Jr. (1995-11). “Bright Star Catalogue, 5th Revised Ed.”. VizieR On-line Data Catalog: V/50. Bibcode1995yCat.5050....0H. http://vizier.u-strasbg.fr/viz-bin/VizieR-5?-ref=VIZ5a76628e9487&-out.add=.&-source=V/50/catalog&recno=7418. 
  18. ^ a b c d e f g “18-23 hour section”, The Washington Double Star Catalog, http://www.astro.gsu.edu/wds/Webtextfiles/wdsnewerweb4.txt 2019年12月29日閲覧。 
  19. ^ Ian Ridpath; Wil Tirion (2006). The Monthly Sky Guide. Cambridge University Press. p. 46. ISBN 0-521-68435-8 
  20. ^ a b アルビレオは連星ではなく見かけの二重星”. アストロアーツ (2018年8月20日). 2018年8月30日閲覧。
  21. ^ Dommanget, J.; Nys, O. (1994). “Catalogue des composantes d'etoiles doubles et multiples (CCDM) premiere edition - Catalogue of the components of double and multiple stars (CCDM) first edition”. Com. De l'Observ. Royal de Belgique 115: 1. Bibcode1994CoORB.115....1D. 
  22. ^ Hessman, F. V.; Dhillon, V. S.; Winget, D. E.; Schreiber, M. R.; Horne, K.; Marsh, T. R.; Guenther, E.; Schwope, A.; Heber, U. (2010). "On the naming convention used for multiple star systems and extrasolar planets". arXiv:1012.0707 [astro-ph.SR]。
  23. ^ Sky and Telescope 1980 March 59, 210
  24. ^ Turner, Nils H.; ten Brummelaar, Theo A.; Mason, Brian D. (1999). “Adaptive Optics Observations of Arcturus using the Mount Wilson 100 Inch Telescope”. Publications of the Astronomical Society of the Pacific 111 (759): 556-558. Bibcode1999PASP..111..556T. doi:10.1086/316353. ISSN 0004-6280. 
  25. ^ Theo Koupelis; Karl F. Kuhn (2007). In Quest of the Universe (5th ed.). Sudbury, Massachusetts: Jones & Bartlett Publishers. p. 416. ISBN 0-7637-4387-9 
  26. ^ Allen, Richard Hinckley (1899), Star-names and Their Meanings, New York: G. E. Stechert, p. 196, http://books.google.com/books?id=5xQuAAAAIAAJ 
  27. ^ a b c Paul Kunitzsch; Tim Smart (2006). A Dictionary of Modern Star Names. Sky Publishing. pp. 32-33. ISBN 978-1-931559-44-7 
  28. ^ W. H. Higgins (1882). The names of the stars and constellations compiled from the Latin, Greek, and Arabic; with their derivations and meanings. https://books.google.com/books?id=9EUDAAAAQAAJ 
  29. ^ Allen 1899, p. 194.

外部リンク