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[[望月新一]]{{Efn|name="所属"|[[京都大学数理解析研究所]]教授}}は、自身の考案した[[宇宙際タイヒミュラー理論]]によるディオファントス的不等式(論文IUTT-IVの系2.3)の証明から、[[スピロ予想]]、[[ヴォイタ予想]]、ABC予想を証明したと主張している{{Efn|name="PRIMS"|2012年8月30日、自身が所属する京都大学数理解析研究所編集の専門誌『Publications of the Research Institute for Mathematical Sciences』(以下『PRIMS』)に投稿し、初稿が同誌の[[プレプリント]]で公開された{{R|Preprint|Mochizuki_a|Mochizuki_b|Mochizuki_c|Mochizuki_d}}。}}。(なお、宇宙際タイヒミュラー理論のサーベイ論文については[[宇宙際タイヒミュラー理論#サーベイ|こちら]]を参照。)
[[望月新一]]{{Efn|name="所属"|[[京都大学数理解析研究所]]教授}}は、自身の考案した[[宇宙際タイヒミュラー理論]]によるディオファントス的不等式(論文IUTT-IVの系2.3)の証明から、[[スピロ予想]]、[[ヴォイタ予想]]、ABC予想を証明したと主張している{{Efn|name="PRIMS"|2012年8月30日、自身が所属する京都大学数理解析研究所編集の専門誌『Publications of the Research Institute for Mathematical Sciences』(以下『PRIMS』)に投稿し、初稿が同誌の[[プレプリント]]で公開された{{R|Preprint|Mochizuki_a|Mochizuki_b|Mochizuki_c|Mochizuki_d}}。}}。(なお、宇宙際タイヒミュラー理論のサーベイ論文については[[宇宙際タイヒミュラー理論#サーベイ|こちら]]を参照。)


上記の証明に対し、[[ペーター・ショルツェ]]と[[ジェイコブ・スティックス]]が、論文IUTT-IIIの系3.12<ref>Mochizuki's corollary 3.12 in nLab[https://ncatlab.org/nlab/show/Mochizuki%27s+corollary+3.12]</ref>の証明の反例となるレポート{{R|Scholze_Stix}}にて「提案された〔望月のプレプリントの〕証明には深刻な問題があり、小さな修正で証明戦略を救うことはできず、証明になっていない」と指摘した(2018年5月公開、2018年9月一部修正)。望月は、反例において宇宙際タイヒミュラー理論にいくつかの簡略化がおこなわれており、それらの簡略化が悉く誤りであると指摘するレポート{{R|Mochizuki_x|Mochizuki_y}}を公表し反論した(2018年9月発表、2021年3月改訂)。(なお、指摘事項の詳細については[[宇宙際タイヒミュラー理論#指摘事項|こちら]]を参照。)
上記の証明に対し、[[ペーター・ショルツェ]]と[[ジェイコブ・スティックス]]が、論文IUTT-IIIの系3.12<ref>Mochizuki's corollary 3.12 in nLab[https://ncatlab.org/nlab/show/Mochizuki%27s+corollary+3.12]</ref>の証明の反例となるレポート{{R|Scholze_Stix}}にて「提案された〔望月のプレプリントの〕証明には深刻な問題があり、小さな修正で証明戦略を救うことはできず、証明になっていない」と指摘した(2018年5月公開、2018年9月一部修正)。望月は、反例において宇宙際タイヒミュラー理論にいくつかの簡略化がおこなわれており、それらの簡略化が悉く誤りであると主張するレポート{{R|Mochizuki_x|Mochizuki_y}}を公表し反論した(2018年9月発表、2021年3月改訂)。(なお、指摘事項の詳細については[[宇宙際タイヒミュラー理論#指摘事項|こちら]]を参照。)


望月の証明論文は、2020年2月査読を通過し{{Efn|name="記者会見"|2020年4月に[[京都大学数理解析研究所]](RIMS)の雑誌『PRIMS』の共同編集委員長[[柏原正樹]]、[[玉川安騎男]]より発表された。}}、翌年、2021年3月4日、雑誌{{Efn|name="特別号"|『PRIMS』の特別号電子版}}に掲載された{{R|Mochizuki_z}}。(なお、記者会見および論文掲載時のコメントについては[[宇宙際タイヒミュラー理論#記者会見|こちら]]を参照。)
望月の証明論文は、2020年2月査読を通過し{{Efn|name="記者会見"|2020年4月に[[京都大学数理解析研究所]](RIMS)の雑誌『PRIMS』の共同編集委員長[[柏原正樹]]、[[玉川安騎男]]より発表された。}}、翌年、2021年3月4日、雑誌{{Efn|name="特別号"|『PRIMS』の特別号電子版}}に掲載された{{R|Mochizuki_z}}。(なお、記者会見および論文掲載時のコメントについては[[宇宙際タイヒミュラー理論#記者会見|こちら]]を参照。)
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上記論文に対し、[[ペーター・ショルツェ]]は書評{{Efn|name="zbMATH"|2021年7月31日、[[ヨーロッパ数学会]]が運営する[[zbMATH]]に掲載}}にて「このシリーズの最初の3つのパートにおいて、読者は残念ながら実質的な数学的内容をほんの少ししか見出さないだろう。第2部と第3部では、肝心の系3.12に、数行以上の証明を見出さないだろう」{{R|Scholze}}と否定的にコメントした。一方、{{仮リンク|モハメド・サイディ (数学者)|label=モハメド・サイディ|en|Mohamed Saidi (Mathematician)}}{{Efn|name="サイディ氏所属"|[[エクセター大学]]教授(京都大学数理解析研究所客員教授)}}<ref>{{Cite web |url = http://emps.exeter.ac.uk/mathematics/staff/ms220|title = Prof Mohamed Saidi|website = emps.exeter.ac.uk|publisher = University of Exeter|date = |accessdate = 2022-05-08}}</ref>は書評{{Efn|name="MR"|2022年4月、[[アメリカ数学会]]が運営するMath Reviews誌に掲載}}で、宇宙際タイヒミュラー理論の系3.12に関連する論文IUTT-IIIの定理3.11を肯定するコメントを行った{{R|Saidi}}。
上記論文に対し、[[ペーター・ショルツェ]]は書評{{Efn|name="zbMATH"|2021年7月31日、[[ヨーロッパ数学会]]が運営する[[zbMATH]]に掲載}}にて「このシリーズの最初の3つのパートにおいて、読者は残念ながら実質的な数学的内容をほんの少ししか見出さないだろう。第2部と第3部では、肝心の系3.12に、数行以上の証明を見出さないだろう」{{R|Scholze}}と否定的にコメントした。一方、{{仮リンク|モハメド・サイディ (数学者)|label=モハメド・サイディ|en|Mohamed Saidi (Mathematician)}}{{Efn|name="サイディ氏所属"|[[エクセター大学]]教授(京都大学数理解析研究所客員教授)}}<ref>{{Cite web |url = http://emps.exeter.ac.uk/mathematics/staff/ms220|title = Prof Mohamed Saidi|website = emps.exeter.ac.uk|publisher = University of Exeter|date = |accessdate = 2022-05-08}}</ref>は書評{{Efn|name="MR"|2022年4月、[[アメリカ数学会]]が運営するMath Reviews誌に掲載}}で、宇宙際タイヒミュラー理論の系3.12に関連する論文IUTT-IIIの定理3.11を肯定するコメントを行った{{R|Saidi}}。


2022年7月、ヴォイチェフ・ポロウスキ、南出新、星裕一郎、イヴァン・フェセンコ、望月新一らの査読論文が雑誌{{Efn|name="KodaiMath"|[[東京工業大学]]が編集する数学論文誌Kodai Mathematical Journal}}に掲載された{{R|MFJMP}}(受理は2021年11月)。この論文、楕円曲線の 6 等分点を用いて、ディオファントス的不等式中の定数を数値を明示した形(非明示的な「定数」が現れない)に修正した。2012年10月の、ヴェッセリン・ディミトロフ<ref>{{Cite web |url=https://www.math.toronto.edu/cms/people/faculty/dimitrov/|title=Vesselin Dimitrov|website=math.toronto.edu|publisher=[[トロント大学]]数学科|accessdate=2021-06-03}}</ref>と[[アクシェイ・ヴェンカテシュ]]による指摘<ref>この議論の発端は、[[MathOverflow]]の記事 [http://mathoverflow.net/questions/106560/philosophy-behind-mochizukis-work-on-the-abc-conjecture Philosophy behind Mochizuki’s work on the ABC conjecture] である</ref>により、望月の論文で証明される命題は「弱いABC予想」となっていたが、今回の結果により「強いABC予想」および「フェルマーの最終定理」の別証明を得たとされる。
2022年7月、ヴォイチェフ・ポロウスキ、南出新、星裕一郎、イヴァン・フェセンコ、望月新一らの査読論文が雑誌{{Efn|name="KodaiMath"|[[東京工業大学]]が編集する数学論文誌Kodai Mathematical Journal}}に掲載された{{R|MFJMP}}(受理は2021年11月)。この論文、楕円曲線の 6 等分点を用いて、ディオファントス的不等式中の定数を数値を明示した形(非明示的な「定数」が現れない)に修正したとしている。2012年10月の、ヴェッセリン・ディミトロフ<ref>{{Cite web |url=https://www.math.toronto.edu/cms/people/faculty/dimitrov/|title=Vesselin Dimitrov|website=math.toronto.edu|publisher=[[トロント大学]]数学科|accessdate=2021-06-03}}</ref>と[[アクシェイ・ヴェンカテシュ]]による指摘<ref>この議論の発端は、[[MathOverflow]]の記事 [http://mathoverflow.net/questions/106560/philosophy-behind-mochizukis-work-on-the-abc-conjecture Philosophy behind Mochizuki’s work on the ABC conjecture] である</ref>により、望月の論文で証明される命題は「弱いABC予想」となっていたが、今回の結果により「強いABC予想」および「フェルマーの最終定理」の別証明を得たとしている。


== 得られる結果の例 ==
== 得られる結果の例 ==

2022年12月28日 (水) 04:37時点における版

a + b = c

を満たす、互いに素な自然数の組 (a, b, c) に対し、積 abc の互いに異なる素因数の積を d と表す。このとき、任意の ε > 0 に対して、

c > d1+ε

を満たす組 (a, b, c) は高々有限個しか存在しないであろうか?

ABC予想(ABCよそう、: abc conjecture, 別名:オステルレ–マッサー予想、: Oesterlé–Masser conjecture)は、1985年ジョゼフ・オステルレデイヴィッド・マッサーにより提起された数論の予想である。

これは多項式に関するメーソン・ストーサーズの定理整数における類似であり、互いに素でありかつ a + b = c を満たすような3つの自然数(この予想に呼び方を合わせると)a, b, c の和と積の関係について述べている[1][2]

ABC予想は、この予想から数々の興味深い結果が得られることから有名になった。数論における数多の有名な予想や定理がABC予想から直ちに導かれる。

Goldfeld (1996) は、ABC予想を「ディオファントス解析で最も重要な未解決問題」であるとしている。

定式化

自然数 n に対して、n の互いに異なる素因数の積を n根基 (radical) と呼び、rad n と書く。以下に例を挙げる。

  • p素数ならば、rad(p) = p.
  • rad(8) = rad(23) = 2.
  • rad(45) = rad(32 ⋅ 5) = 3 ⋅ 5 = 15.

自然数の組 (a, b, c) で、a + b = c, a < b で、ab互いに素であるものを abc-triple と呼ぶ。大抵の場合は c < rad(abc) が成り立つが、ABC予想が主張するのはこれが成り立たない例(例えば、a = 1, b = 8 のとき c = 9 であり、rad(abc) = 6 である)の方である。ただし、c > rad(abc) が成り立つ例も無限に存在する[注釈 1][注釈 2]ため、rad(abc) を少しだけ大きくすることで例を有限個にできないかどうかを考える。すなわち、ABC予想は任意の ε > 0 に対して、次を満たすような自然数の組 (a, b, c)高々有限個しか存在しないであろうと述べている:

これと同値な他の定式化(Oesterlé–Masser の ABC予想)として次のものがある。すなわち、任意の ε > 0 に対してある K(ε) > 0 が存在し、全ての abc-triple (a, b, c) について次が成り立つという:

K(ε)ε に依らずに取ることはできない。)

三つ目の定式化は「」(quality) と呼ばれる概念を導入して表現する。abc-triple (a, b, c) に対して、質 q(a, b, c) を次のように定義する:

このときABC予想は、任意の ε > 0 に対して、abc-triple (a, b, c) であって q(a, b, c) > 1 + ε を満たすものは高々有限個しか存在しないということを主張している。

現在、q(a, b, c) > 1.6 を満たす abc-triple は後述の通り3組しか知られていない。q(a, b, c) を 2 まで大きくすれば、そうした abc-triple は存在しないという予想もある。すなわち「全ての abc-triple (a, b, c) に対して、c < rad(abc)2 を満たすであろう」という主張だが、こちらも肯定も否定もされていない[注釈 3]

証明の提案

1985年の予想の提起から、数々の数学者によりABC予想の証明が提案されてきた[3]。しかし、現在、数学コミュニティの同意が得られたものはない[4][5]

望月新一による提案

望月新一[注釈 4]は、自身の考案した宇宙際タイヒミュラー理論によるディオファントス的不等式(論文IUTT-IVの系2.3)の証明から、スピロ予想ヴォイタ予想、ABC予想を証明したと主張している[注釈 5]。(なお、宇宙際タイヒミュラー理論のサーベイ論文についてはこちらを参照。)

上記の証明に対し、ペーター・ショルツェジェイコブ・スティックスが、論文IUTT-IIIの系3.12[11]の証明の反例となるレポート[12]にて「提案された〔望月のプレプリントの〕証明には深刻な問題があり、小さな修正で証明戦略を救うことはできず、証明になっていない」と指摘した(2018年5月公開、2018年9月一部修正)。望月は、反例において宇宙際タイヒミュラー理論にいくつかの簡略化がおこなわれており、それらの簡略化が悉く誤りであると主張するレポート[13][14]を公表し反論した(2018年9月発表、2021年3月改訂)。(なお、指摘事項の詳細についてはこちらを参照。)

望月の証明論文は、2020年2月査読を通過し[注釈 6]、翌年、2021年3月4日、雑誌[注釈 7]に掲載された[15]。(なお、記者会見および論文掲載時のコメントについてはこちらを参照。)

上記論文に対し、ペーター・ショルツェは書評[注釈 8]にて「このシリーズの最初の3つのパートにおいて、読者は残念ながら実質的な数学的内容をほんの少ししか見出さないだろう。第2部と第3部では、肝心の系3.12に、数行以上の証明を見出さないだろう」[16]と否定的にコメントした。一方、モハメド・サイディ英語版[注釈 9][17]は書評[注釈 10]で、宇宙際タイヒミュラー理論の系3.12に関連する論文IUTT-IIIの定理3.11を肯定するコメントを行った[18]

2022年7月、ヴォイチェフ・ポロウスキ、南出新、星裕一郎、イヴァン・フェセンコ、望月新一らの査読論文が雑誌[注釈 11]に掲載された[19](受理は2021年11月)。この論文は、楕円曲線の 6 等分点を用いて、ディオファントス的不等式中の定数を数値を明示した形(非明示的な「定数」が現れない)に修正したとしている。2012年10月の、ヴェッセリン・ディミトロフ[20]アクシェイ・ヴェンカテシュによる指摘[21]により、望月の論文で証明される命題は「弱いABC予想」となっていたが、今回の結果により「強いABC予想」および「フェルマーの最終定理」の別証明を得たとしている。

得られる結果の例

ABC予想を真だと仮定すると、多数の系が得られる。その中には既に知られている結果もあれば、予想の提出後に予想とは独立に証明されたものもあり、部分的証明となるものもある。ABC予想がもし早期に証明されていたなら、得られる系という意味での影響はもっと大きかったが、ABC予想が成立した場合に解決される予想はまだ残っており、また数論の深い問題と数多くの結び付きがあるので、ABC予想は依然として「重要な問題」であり続けている。「有限個に限定される」ことが結論である命題(予想)の証明に役に立つ。

トゥエ=ジーゲル=ロスの定理
代数的数のディオファントス近似に関する定理。
フェルマーの最終定理
ただし指数が十分大きい場合。どの程度大きければよいかは K(ε) に依存する。定理自体は、ABC予想とは独立にワイルズが証明した。ある K(ε) が具体的に求まれば、有限個の例外を直接計算することにより、原理的にはすべての指数 ≥ 4 に対して証明が可能である。ε = 1 のとき K(1) = 1 という予想もあり、この仮定の下で、指数が 6 以上の場合は直ちに証明される (Granville & Tucker 2002)[注釈 12]
モーデル予想ファルティングスの定理)
(Elkies 1991)
エルデシュ=ウッズ予想英語版
ただし有限個の反例を除く (Langevin 1993)。
ヴィーフェリッヒ素数英語版が無限個存在すること
(Silverman 1988)。
弱い形のマーシャル・ホール予想英語版
平方数と立方数の間隔に関する予想 (Nitaj 1996)。
フェルマー=カタラン予想
フェルマーの最終定理の拡張であり、冪の和である冪を扱う (Pomerance 2008)。
ルジャンドル記号を用いて記述したディリクレのL関数 L(s, (-d/.)) がジーゲル零点英語版を持たないこと
正確には、このためには上で紹介している有理整数を扱うABC予想に加えて、代数体上の一様なABC予想を用いる。(Granville & Stark 2000)。
Schinzel–Tijdeman theorem
P を少なくとも3つ以上の単根を持つ多項式とすると、P(1),P(2),P(3), … の中には高々有限個しか累乗数が存在しない、という定理 (1976)[22]
ティーデマンの定理英語版の一般化
ym = xn + k が持つ解の個数について。ティーデマンの定理は k = 1 の場合を述べている。また、Aym = Bxn + k が持つ解の個数に関するピライ予想 (1931)。
グランヴィル=ランジュバン予想英語版と同値。
修正したスピロ予想
これは境界として を与える (Oesterlé 1988)。
任意の整数A について、n! + A = k2 が有限個の解しか持たないこと(一般化されたブロカールの問題
(Dąbrowski 1996)と同値。

コンピューティング(演算)による成果

2006年、オランダのライデン大学数学研究所は、さらなる abc-triple を発見しようと、Kennislink科学協会と共に分散コンピューティングシステム「ABC@homeプロジェクト」を立ち上げた。たとえ演算によって発見された例または反例が ABC予想を解決することができなくとも、このプロジェクトによって発見される組み合わせが、予想と整数論についての洞察に繋がることが期待されている。

q は上記で定義した abc-triple (a, b, c) の質 q(a, b, c) である。このとき、c の上限によって、質 q は以下のような分布を取る。

q > 1 となる abc-triple の質 q の分布[23]
cの値 q > 1 q > 1.05 q > 1.1 q > 1.2 q > 1.3 q > 1.4
c < 102 6 4 4 2 0 0
c < 103 31 17 14 8 3 1
c < 104 120 74 50 22 8 3
c < 105 418 240 152 51 13 6
c < 106 1,268 667 379 102 29 11
c < 107 3,499 1,669 856 210 60 17
c < 108 8,987 3,869 1,801 384 98 25
c < 109 22,316 8,742 3,693 706 144 34
c < 1010 51,677 18,233 7,035 1,159 218 51
c < 1011 116,978 37,612 13,266 1,947 327 64
c < 1012 252,856 73,714 23,773 3,028 455 74
c < 1013 528,275 139,762 41,438 4,519 599 84
c < 1014 1,075,319 258,168 70,047 6,665 769 98
c < 1015 2,131,671 463,446 115,041 9,497 998 112
c < 1016 4,119,410 812,499 184,727 13,118 1,232 126
c < 1017 7,801,334 1,396,909 290,965 17,890 1,530 143
c < 1018 14,482,059 2,352,105 449,194 24,013 1,843 160

2012年9月 (2012-09)現在、ABC@homeは2310万個の3つ組を発見しており、当面の目標を 1020 を超えない c についての全ての abc-triple (a, b, c) を見つけることとしている[24]

質の大きいabc-triple[25]
番号 q a b c 発見者
1 1.6299 2 310·109 235 Eric Reyssat
2 1.6260 112 32·56·73 221·23 Benne de Weger
3 1.6235 19·1307 7·292·318 28·322·54 Jerzy Browkin, Juliusz Brzezinski
4 1.5808 283 511·132 28·38·173 Jerzy Browkin, Juliusz Brzezinski, Abderrahmane Nitaj
5 1.5679 1 2·37 54·7 Benne de Weger

2015年に、ABC@homeプロジェクトは合計2380万組の3つ組を見つけ、その直後にプロジェクトは終了した[26]

脚注

注釈

  1. ^ 例として、a = 1, b = 32n − 1, c = 32nのとき、全ての n について rad(abc) < 3c/4 が成り立つ。また、a = 1, b = 32n − 1, c = 32nのとき、全ての n について rad(abc) < 3c/2n+1が成り立つ。
  2. ^ なお、c = rad(abc) すなわち q(a, b, c) = 1 となるような abc-triple は1組もない。もし a < b を課さなければ (1, 1, 2) という1組だけがあるが、予想自体には支障をきたさない。
  3. ^ この主張と元のABC予想の主張の間に論理的な強弱関係はない。すなわち、ABC予想の主張の一部が弱められ、一部が強められている。この主張はen:Abc_conjectureでは「an effective form of a weak version of the abc conjecture」(ABC予想の弱いバージョンの有効な形(の一種))として言及されている。
  4. ^ 京都大学数理解析研究所教授
  5. ^ 2012年8月30日、自身が所属する京都大学数理解析研究所編集の専門誌『Publications of the Research Institute for Mathematical Sciences』(以下『PRIMS』)に投稿し、初稿が同誌のプレプリントで公開された[6][7][8][9][10]
  6. ^ 2020年4月に京都大学数理解析研究所(RIMS)の雑誌『PRIMS』の共同編集委員長柏原正樹玉川安騎男より発表された。
  7. ^ 『PRIMS』の特別号電子版
  8. ^ 2021年7月31日、ヨーロッパ数学会が運営するzbMATHに掲載
  9. ^ エクセター大学教授(京都大学数理解析研究所客員教授)
  10. ^ 2022年4月、アメリカ数学会が運営するMath Reviews誌に掲載
  11. ^ 東京工業大学が編集する数学論文誌Kodai Mathematical Journal
  12. ^ ABC予想が K = 1 かつ ε = 1 で正しければ、互いに素な自然数 A, B, CA + B = C を満たすとき C < (rad ABC)2 が成り立つ。互いに素な自然数 a, b, can + bn = cn を満たすと仮定すると、an, bn, cn は互いに素より、A = an, B = bn, C = cn を代入して
    が成り立つ。一般に であるから、 となる。ゆえに cn < c6, c > 1 より n < 6n = 3, 4, 5 については古典的な証明があるので定理が証明される(山崎 2010, p. 11)。

出典

  1. ^ 知恵蔵2013『ABC予想』”. kotobank.jp. コトバンク (2020年4月3日). 2020年4月3日閲覧。
  2. ^ "abc Conjecture".”. mathworld.wolfram.com. MathWorld (2020年4月3日). 2020年4月3日閲覧。
  3. ^ NHKスペシャル 数学者は宇宙をつなげるか?abc予想証明をめぐる数奇な物語(前編)[1]
  4. ^ NHKスペシャル 数学者は宇宙をつなげるか?abc予想証明をめぐる数奇な物語(後編)[2]
  5. ^ WHAT IS THE POINT OF COMPUTERS? A QUESTION FOR PURE MATHEMATICIANS,KEVIN BUZZARD[3]
  6. ^ 京都大学数理解析研究所 - プレプリント -”. www.kurims.kyoto-u.ac.jp. 2021年4月17日閲覧。
  7. ^ Mochizuki, Shinichi (PDF). Inter-universal Teichmüller Theory I: Construction of Hodge Theaters.. http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~motizuki/Inter-universal%20Teichmuller%20Theory%20I.pdf 2021年3月5日閲覧。. 
  8. ^ Mochizuki, Shinichi (PDF). Inter-universal Teichmüller Theory II: Hodge-Arakelov-theoretic Evaluation.. http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~motizuki/Inter-universal%20Teichmuller%20Theory%20II.pdf 2021年3月5日閲覧。. 
  9. ^ Mochizuki, Shinichi (PDF). Inter-universal Teichmüller Theory III: Canonical Splittings of the Log-theta-lattice.. http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~motizuki/Inter-universal%20Teichmuller%20Theory%20III.pdf 2021年3月5日閲覧。. 
  10. ^ Mochizuki, Shinichi (PDF). Inter-universal Teichmüller Theory IV: Log-volume Computations and Set-theoretic Foundations.. http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~motizuki/Inter-universal%20Teichmuller%20Theory%20IV.pdf 2021年3月5日閲覧。. 
  11. ^ Mochizuki's corollary 3.12 in nLab[4]
  12. ^ why abc is still a conjecture”. 2021年11月13日閲覧。
  13. ^ REPORT ON DISCUSSIONS, HELD DURING THE PERIOD MARCH 15 – 20, 2018, CONCERNING”. 2021年11月13日閲覧。
  14. ^ ON THE ESSENTIAL LOGICAL STRUCTURE OF INTER-UNIVERSAL TEICHM ̈ULLER THEORY IN TERMS OF LOGICAL AND “∧”/LOGICAL OR “∨””. 2021年11月13日閲覧。
  15. ^ EMS Press | Publications of the Research Institute for Mathematical Sciences Vol. 57, No. 1/2” (英語). ems.press. 2021年11月13日閲覧。
  16. ^ https://zbmath.org/pdf/07317908.pdf
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  18. ^ Mochizuki, Shinichi Inter-universal Teichmüller theory IV: Log-volume computations and set-theoretic foundations. Publ. Res. Inst. Math. Sci. 57 (2021), no. [1-2, 627–723.]”. 2022年4月29日閲覧。
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参考文献

関連文献

関連項目

外部リンク