砂糖袋
砂糖袋(さとうぶくろ)は、保管、輸送などの目的で砂糖を入れておく袋。
日本語における「砂糖袋」という表現は、文脈によって、貿易など長距離の輸送に用いられる大きな袋(例えば数十kgから百kgほどの重さの砂糖を詰めるもの)から[1][2]、コーヒーなどの飲み物の1杯用に小分けした袋(例えば10g程度以下の砂糖が入ったもの)まで[3]、多様な大きさのものを指して用いることがある。また、ありあわせの袋に砂糖を入れたものを指して、砂糖袋と呼ぶ場合もある[4]。
英語では、大きめの袋が「sugar bag」と呼ばれるのに対し、飲み物1杯用に小分けされた袋は「sugar packet」と呼ばれ、日本語の「袋」に相当する単語の表現が異なっている。
大きな砂糖袋
[編集]砂糖を入れることを目的として用意される袋や鞄を指す「sugar bag」については、中身の砂糖が入っていない状態でも、この表現で言及する場合がある[5]。また、後述のように、比喩表現として異なる内容を意味する場合もある。以下では、倉庫での保管や輸送用の大きな袋、小売りの包装単位となる袋、英語における比喩的表現としての「sugar bag」について述べる。
倉庫保管、輸送用の大きな袋
[編集]貿易など長距離輸送の際に、砂糖を詰める袋は、麻などで作られており[2]、数十kgから百kgほどの重量になる[1]。かつて、荷役作業の多くを人力に頼っていた時代には、沖仲仕などが落下した砂糖袋の下敷きになって死傷する事故がしばしば起きた[6]。
英語圏、特にオーストラリアやニュージーランドでは、コウマ(黄麻、ジュート)の平織で作るヘシアンクロスで作った小振りの鞄を「sugar bag」と呼び、砂糖のみならず、広く乾物(ドライグッズ)を入れて運ぶのに用いる[5][7]。
地域によっては、砂糖袋の布地を転用して、衣服を作ることもあった[8]。
30kg程度の重量の砂糖袋は、20世紀前半においても紙袋で作られることもあった[9]。近年では、砂糖袋として、ポリビニルアルコール (PVA) など合成樹脂類で補強された紙袋が用いられたり[10]、ポリプロピレン製の袋が用いられることもある[11]。
小売りの包装単位となる袋
[編集]欧米などの小売店で販売される砂糖は、1kg または 2ポンド (907g) 程度の量が、紙袋やポリエチレン袋に詰められた状態で流通することが一般的になっている(このため、これくらいの重量のものを「sugar bag」に喩える表現も見られる[12])。
これに対して日本では、1kg のポリエチレン製の袋に袋詰めされたものが、最も一般的になっている[9]。こうした袋詰めでの販売が一般化する前には、乾物店などが30kgなどの大きな紙袋に入った砂糖を仕入れ、店頭で量り売りする販売方法が広く行なわれていたが、スーパーマーケットなどセルフサービスによる販売の普及とともに、従前よりも小さな 1kg 程度の袋詰めされた砂糖の流通形態が増加していった[9]。1950年代まで、小売り用の砂糖袋は、内側にラミネート加工を施した紙袋であったが、1960年代以降はポリエチレン袋が主流となった[9]。こうした変化の背景には、自動包装機械の開発などの技術革新があった[9]。
英語「sugar bag」の比喩的表現
[編集]オーストラリアでは、野生の蜂の巣を「sugar bag」と称することがある[13]。また、野生ではなくとも、オーストラリア固有種の蜂のものをいう場合もある[14]。
糖尿病患者はインスリン注射を自ら日常的に行なう場合があるが、これに必要な道具一式をまとめた小さな入れ物も「sugar bag」と称することがあるが、これは Sugar Medical 社の商品名である[15]。
飲み物1杯用に小分けした袋 (sugar packet)
[編集]砂糖を飲み物1杯用に小分けした袋が普及する以前、レストランなどではテーブルに砂糖壷を用意し、客がそこからスプーンで適量を掬うのが一般的であったが、これには衛生上の懸念をもつ向きもあった[16]。もともとニューヨーク市ブルックリン区でダイナーを経営していたベンジャミン・アイぜンシュタットは、1945年に転業してカンバーランドパッキングコーポレイションを設立してティーバッグ製造業に転じたが、一緒にダイナーを切り盛りしていた妻ベティ (Betty) の助言を得て、砂糖を小分けにした紙袋に封入することを着想し、ティーバッグ製造装置を改造して、これに成功した[16]。以降、この小分け袋は同社の主力製品となり、後年の甘味料スイートンローの発明につながっていった[16]。
日本では、1960年代から「ペットシュガー」などの名称で導入され[17]、当初は10g入り程度の内容量が、徐々に小振りなものへと主流が移り、1990年代には3g程度のものも普及した[18]。英語では「sugar sucket」などと呼ばれる細長い棒状のものもあり[19]、日本語では「スティックシュガー」などとも呼ばれる[20]。
デザインの多様性などから、この袋の収集を趣味とする愛好家も存在している[21]。ギネス世界記録には「砂糖袋 (sugar packets) の世界最大のコレクション」があり、2013年5月14日現在、世界最大のコレクションは、ドイツのラルフ・シュレーダー (Ralf Schröder) のもので、1987年から収集が始められた彼のコレクションには14,502種の砂糖袋があり、最も古いのは1950年代のものだという[22]。
脚注
[編集]- ^ a b 箕崎政子 (1991年10月19日). “声 捕虜:4(手紙 女たちの太平洋戦争)「かまかま」は「早く来い」だった”. 朝日新聞・朝刊: p. 5. "砂糖を船から荷揚げするときは、クレーンで22貫(1貫は3.75キロ)ほどの砂糖袋をつり上げ、トロッコに乗せる。" - 聞蔵IIビジュアルにて閲覧
“京都産業大 益川塾第2回シンポジウム「科学と社会」=特集”. 読売新聞・大阪朝刊: p. 11. (2012年2月4日). "子供の頃、実家の砂糖商の手伝いで100キロ・グラムの砂糖袋を背負えた。父は「労働力はこいつだ」と目をつけたが、「砂糖屋はやらない」と決めていた。" - ヨミダス歴史館にて閲覧:シンポジウムにおける益川敏英の発言 - ^ a b 萩尾浩「第三章 捕虜生活、そして祖国日本へ」『南方記:戦地で弾いたバイオリン』文芸社、2002年、427頁。「砂糖のいっぱい詰まった麻袋をこの手鉤で引っ掛けて動かしたり持ち上げたりするのである。... 一個百キロものずっしりと重い砂糖袋は、素人の手鉤さばきあざ笑うかのように、おいそれとは動いてくれようとはしなかった。」 Google books
- ^ 宮部修 (1989年8月14日). “[20世紀文学紀行](74)マレーシア S・クランタン「闘牛師」(連載)”. 読売新聞・東京夕刊: p. 4. "翌朝、部屋に備え付けのメモ用紙を見ると、“アベニューホテル”の刷り込みがあり、食堂の砂糖袋には“プリンスホテル”と印刷されていた。" - ヨミダス歴史館にて閲覧
カナ (2002年12月11日). “カナ式ラテン生活。”. ほぼ日刊イトイ新聞. 2016年1月22日閲覧。 “あぁ、あったあった、10g入りの砂糖袋。スリムな3g入りスティック・シュガーじゃなくて、この重みのある10g入り。” - ^ “(101歳私の証・あるがまま行く)グルー駐日大使との思い出:下 日野原重明”. 朝日新聞・朝刊: p. 17. (2013年6月29日). "しかも夫人は、私が帰宅する際、大きなビニール袋に大型の角砂糖をいっぱいに詰めて、おみやげに下さったのです。… 夢のような話をルース大使にお伝えした後、感謝状と砂糖袋を大切に持って帰宅しました。" - 聞蔵IIビジュアルにて閲覧
- ^ a b “The Free Dictionary by Farlex: sugar bag”. Farlex, Inc. 2016年1月22日閲覧。
- ^ “砂糖袋の下敷きで即死/東京都中央区”. 読売新聞・朝刊: p. 11. (1962年2月14日)
“砂糖袋の下敷き 労働者4人ケガ/東京都中央区”. 読売新聞・朝刊: p. 11. (1963年4月12日)
“砂糖袋の下敷きで死ぬ 荷揚げ作業員/東京都港区芝海岸通”. 読売新聞・朝刊: p. 15. (1965年1月15日) - いずれもヨミダス歴史館にて閲覧 - ^ “sugar bag”. goo 辞書/NTT Resonant Inc.. 2016年1月23日閲覧。 - 出典は『ランダムハウス英和大辞典』
- ^ 福士千恵子 (1992年5月27日). “[ひゅーまん探訪]ガイジン・村永義男さん 日「系」人の壁に挑む開拓魂”. 読売新聞・東京朝刊: p. 15. "砂糖袋で作ったシャツは毎日の汗を吸い、乾くと板のようになった。" - ヨミダス歴史館にて閲覧:1950年代のブラジルにおける日系移民の生活への言及
- ^ a b c d e 精糖工業会 (2010年3月6日). “お砂糖の疑問 第5回 「砂糖の包装について」”. 農畜産業振興機構. 2016年1月23日閲覧。
- ^ “Sugar Bag”. Green Packing Division of Gansu Zhanhua Import & Export Co., Ltd. & Lanzhou Jinan New Packing Co., Ltd.. 2016年1月23日閲覧。
- ^ “Sugar Bag”. Ispa Exim Pvt Ltd.. 2016年1月23日閲覧。
- ^ “2lb ‘sugar bag’ premature Wakefield baby could be home for Xmas”. Yorkshire Evening Post. (2014年11月12日) 2016年1月23日閲覧。
- ^ “sugar bag”. Merriam-Webster, Incorporated. 2016年1月23日閲覧。
- ^ “Welcome to the Sugarbag Website”. Sugarbag. 2016年1月23日閲覧。
- ^ Vieira, Ginger (2015年7月3日). “Diabetes Medical Bags: Colorful & Fits Most Meters, Insulin Pens, and CGMs!”. Diabetes Daily, LLC. 2016年1月23日閲覧。
- ^ a b c Weissmann, Dan (2015年5月11日). “Why are ketchup packets so... unsatisfying?”. American Public Media. 2016年1月22日閲覧。
- ^ 読売新聞のデータベースであるヨミダス歴史館によると、1962年9月20日、10月18日、1963年2月15日、3月14日、4月23日などに、日新製糖による「ペットシュガー」の広告の掲載がある。
- ^ 栗原雅直 (1996年10月5日). “ペットシュガーに思う(食楽考)”. 朝日新聞・夕刊: p. 8. "最近あまり粉末の砂糖にお目にかからず、もっぱら袋入りのペットシュガーばかり使われている。… 最初の十グラム入りのペットシュガー袋が、ダイエットばやりのためか、まず八グラム、次は五グラムに減量し、最近は一袋三グラムのものも登場した。甘さよりも、カロリーがないことを重視する時代なのだ。" - 聞蔵IIビジュアルにて閲覧
- ^ “派閥のタガが緩み乱れる自民(地殻は動く 同時進行・93政局:6)”. 朝日新聞・朝刊: p. 2. (1993年7月25日). "当選二回の議員はコーヒーについてきた細長い砂糖袋でくじを作り、当選四回の議員はあみだくじで代表を決めた。" - 聞蔵IIビジュアルにて閲覧
- ^ “三井製糖が子会社を吸収合併 営業の効率化図る”. 読売新聞・東京朝刊: p. 8. (1994年5月25日). "三井製糖は24日、スティックシュガーや角砂糖などを販売している100%子会社の三井製糖食品を..."
- ^ アメリカ合衆国の例:“Video: Collector putting interesting item on display”. WISH-TV/LIN Television Corporation, a Media General company (2014年9月28日). 2016年1月22日閲覧。
イギリスの例:“Welcome”. UK Sucrologists Club. 2016年1月22日閲覧。
オランダの例:“Hpme/Nieuws”. Club van Suikerzakjesverzamelaars in Nederland. 2016年1月22日閲覧。 - ^ “Largest collection of sugar packets”. Guinness World Records. 2016年1月22日閲覧。