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稲葉清右衛門

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
稲葉 清右衛門
(いなば せいえもん)[1][2][注 1]
生誕 (1925-03-05) 1925年3月5日[3]
死没 (2020-10-02) 2020年10月2日(95歳没)[3]
国籍 日本の旗 日本
教育 東京帝国大学第二工学部精密工学科卒業
子供 稲葉善治(ファナック社長)
業績
専門分野 機械工学制御工学
勤務先 富士通→富士通ファナック→ファナック
プロジェクト 電気油圧パルスモーター、NC装置、産業用ロボット
受賞歴 紫綬褒章(1981年)
エンゲルバーガー賞(1987年)
藍綬褒章(1990年)
勲二等瑞宝章(1995年)
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稲葉 清右衛門(いなば せいえもん[1][2][注 1]1925年(大正14年)3月5日 - 2020年(令和2年)10月2日)[3]は、日本技術者経営者工学博士(東京工業大学、1965年)[5]富士通で電気油圧パルスモーターや数値制御器の研究開発に従事し、NC工作機械の黎明期に大きな業績を残す。富士通の計算制御部から分離独立したファナックでは、経営者として同社をNC装置、産業用ロボットのトップメーカーに育て上げた。

富士通ファナック専務副社長社長、ファナック社長代表取締役会長、相談役名誉会長を歴任し、精密工学会会長、日本ロボット学会副会長、日本産業用ロボット工業会会長なども務めた。NC関係の標準化活動にも実績がある。エンゲルバーガー賞紫綬褒章藍綬褒章勲二等瑞宝章を受けた。位階従四位ブルガリアルクセンブルク大公国からも勲章を受けている。

人物と業績

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やり手のワンマン経営者として知られ[6]、高羅芳光(富士通の当時の社長)により富士通の計算制御部から分離独立されたファナックを、一代で工作機械のトップメーカーとして育て上げた[7]。NC(数値制御)装置の世界シェアは50%、国内シェアは75%であり、世界トップシェアである[8]。また、同社はメーカーとして驚異的な利益率の高さでも知られ、売上高経常利益率は44.83%(2008年3月期)にものぼる[9]

「研究開発と企業経営は不可分」という考えを持つ[10]社長になってからも、研究員に目標を与え、月に一回の社長主催の技術会議で報告をさせ、指導していた[11]。名誉会長になってからも、2013年まで経営本部長や研究本部長に就いていた[12]。その後は本社の相談役名誉会長の座からは退いてはいないものの、連結子会社を含めて、ファナックと名がつく国内7社の代表を退いたため、経営の第一線からは身を引いたのではないかと報じられた[12]

技術者としてはNC工作機械数値制御[13][14]、電気油圧パルスモータ[15]、これらを活用した数値制御による連続切削[16]等に実績があり[17]、この分野の著書や記事も多い。日本ロボット学会副会長、精密工学会会長等を歴任。東京大学工学部において精密工学科(旧造兵学科)図書室の蔵書1万冊が処分されかけた際には、ファナック本社の書庫でそれを引き受けている[18]

稲葉は酒が好きであり、富士通の計算制御技術部長時代には飲み過ぎて橋から転落することもあったという[19]。学位取得時には富士通時代の上司で同郷の遠縁でもある尾見半左右(技術担当常務)から禁酒の助言を受けていたと述懐している[20]。また、稲葉の酒飲みは知られており、東京工業大学中田孝から「稲葉"虎"右衛門さん」と評されたと語っている[21]

経歴

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以下の経歴は主にお知らせ 2020SME東京支部 2014を参照。

略歴

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受賞

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栄典

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社会的活動

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  • 日本機械学会(以下のようなNC工作機械の標準化に関する分科会で委員を歴任した。)
    • JIS数値制御工作機械の標準仕様に関する調査分科会(昭和43年4月〜45年5月)[36][37]
    • JIS NC用語分科会(昭和46年度)[38]
    • JIS NC旋盤分科会(昭和46年6月〜47年2月)[39]
  • 日本ロボット学会(初代 副会長:1983〜1984年度)[40]
  • 精密工学会(第27代 会長:1996〜1997年度)[41]
  • 日本ロボット工業会[42](旧 日本産業用ロボット工業会 会長[43])
  • FA財団(評議員[44])
  • 機械振興協会(技術研究所 運営委員会 委員[45])

家族

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稲葉家は小田氏の末裔。江戸時代から庄屋だった名家で、代々清右衛門ないし雅楽之介と名乗った。しかし、父親の代で投資に失敗し没落した[46]

元富士通常務の尾見半左右も遠縁にあたり、第二次世界大戦敗戦直後の就職難の折、富士通への就職を手配した[49]

著作

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学位論文

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単著

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  • 『数値制御入門』日刊工業新聞社、1967年。 
  • 『やさしいNC読本』日本能率協会、1970年。 
  • 『新版 数値制御入門』日刊工業新聞社、1971年。 
  • 『ロボット時代を拓く-「黄色い城」からの挑戦』PHP研究所、1982年7月。 
  • 『黄色いロボット』日本工業新聞社〈大手町ブックス〉、1991年5月。ISBN 978-4819106108 

共著・編著

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  • 海輪利正、稲葉清右衛門 共著『工作機械の数値制御』日刊工業新聞社、1960年。 
  • 研野和人、稲葉清右衛門 共著『数値制御工作機械』ラジオ技術社〈機械工学全書106〉、1967年。 
  • 研野和人、稲葉清右衛門 共著『数値制御工作機械(増補版)』大河出版〈機械工学全書106〉、1969年。 
  • 稲葉清右衛門 編著『産業計算制御』コロナ社〈電子工学進歩シリーズ1〉、1970年。 

解説

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Inaba Techinical Award

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IEEEには稲葉の寄付により2007年から設けられた「Inaba Technical Award」がある[50]。製品のみならず、製品に至るロボティクス研究やイノベーション評価される賞で、賞金は1,000ドル[50]。2007年にはアイボを開発したソニーの藤田雅博[51]が、2008年にはマサチューセッツ工科大学ロドニー・ブルックスが、2017年には広瀬茂男ら(株)ハイボットのメンバーが受賞している[50]

脚注

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注釈

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  1. ^ a b 「清右衛門」を「せいうえもん」と読むサイト[3][4]もあるが、本記事では国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス[1]CiNii[2]に記載されている「せいえもん」にならった。

出典

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  1. ^ a b c "稲葉, 清右衛門, 1925-2020". Web NDL Authorities. 国会図書館. 2022年10月13日(UTC)閲覧。
  2. ^ a b c "代数演算式、補間装置と電気油圧パルスモータを主体とする工作機械の連続切削数値制御系の研究". CiNii 博士論文. 2022年10月13日(UTC)閲覧。
  3. ^ a b c d お知らせ 2020, p. 1.
  4. ^ "JSPE Presidents". The Japan Society for Precision Engineering. 2022年10月13日(UTC)閲覧。
  5. ^ a b 稲葉博士論文 1965.
  6. ^ a b c “事業リスクは露骨な世襲人事? あの世界のリーディングカンパニーに潜む懸念”. ビジネスジャーナル. (2013年7月10日). http://biz-journal.jp/2013/07/post_2478.html 2013年12月14日閲覧。 
  7. ^ “[時代のリーダー稲葉清右衛門・ファナック社長”]. 日経ビジネス. (2009年2月18日). http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20090210/185664/?P=1 2013年12月14日閲覧。 
  8. ^ “ファナック、キーエンス......「利益率40%超」企業の秘密”. PRESIDENT. (2012年8月1日). http://president.jp/articles/-/6772 2013年12月14日閲覧。 
  9. ^ “10年後も食える会社、消える会社[2”]. PRESIDENT. (2013年5月21日). http://president.jp/articles/-/9443 2013年12月14日閲覧。 
  10. ^ 稲葉清右衛門 1980.
  11. ^ 稲葉清右衛門「(小特集:社内教育)メカトロニクス技術教育の実情」『日本機械学会誌』第90巻第820号、1987年3月、pp.310-312。 
  12. ^ a b c “ファナック"大異変"カリスマついに引退 ベールに包まれた超優良企業で、創業以来の変化”. 東洋経済オンライン. (2013年12月22日). https://toyokeizai.net/articles/-/26736 2013年12月23日閲覧。 
  13. ^ 稲葉清右衛門「パンチプレスの数値制御」『日本機械学会誌』第61巻第473号、1958年6月、pp.651-658。 
  14. ^ 稲葉清右衛門、吉武智士、橋本至弘、小林堅吾「三次元フライス盤計算数値制御装置について」『自動制御』第8巻第2号、1961年、pp.100-109。 
  15. ^ 稲葉清右衛門、伊藤康平、白藤良孝「電気-油圧式パルスモータ」『自動制御』第8巻第3号、1961年、pp.194-197。 
  16. ^ 稲葉清右衛門、浜辺久米男、内田芳郎「数値制御によるタービン羽根の切削」『日本機械学会誌』第62巻第491号、1959年12月、pp.1746-1752。 
  17. ^ 稲葉清右衛門「電気・油圧パルスモータを主体とする連続切削数値制御系の研究」『計測と制御』第5巻第3号、1966年、pp.161-173。 
  18. ^ 高橋雄造「電気技術史研究の動向」『電気学会論文集』118A第7/8号、1998年、pp.753-758。 
  19. ^ SME東京支部 2014, p. 5.
  20. ^ SME東京支部 2014.
  21. ^ SME東京支部 2014, p. 7.
  22. ^ お知らせ 2020.
  23. ^ [茨城新聞稲葉清右衛門さん死去 95歳 ファナック創業 筑西市(旧明野町)出身] - 茨城新聞クロスアイ 2020年10月6日
  24. ^ 猪熊建夫 (2022年6月21日). "[下妻第一高校華麗なる卒業生人脈!三井不動産の江戸英雄、ファナックの稲葉清右衛門、作家の堂場瞬一]". ダイヤモンド・オンライン. 2023年2月19日(UTC)閲覧。
  25. ^ SME東京支部 2014, p. 11.
  26. ^ a b 学会からのお知らせ 日本ロボット学会名誉会員のお知らせ」『日本ロボット学会誌』第20巻第4号、2002年、お知らせp.2。 
  27. ^ ファナック創業者・稲葉清右衛門氏が死去 - 日本経済新聞 2020年10月6日
  28. ^ "Past Recipients by Year" (PDF). Robotics Online > Joseph F. Engelberger Awards (Press release). Robotics Industry Association. 2016年5月3日閲覧
  29. ^ 日本ロボット学会名誉員”. 2014年1月5日閲覧。
  30. ^ 筑西市名誉市民 - 筑西市公式ホームページ
  31. ^ ファナック株式会社 創業者 工学博士 稲葉清右衛門名誉会長 忍野村名誉村民顕彰式典を開催いたしました」(PDF)『広報おしの(2012年7月号)』2012年7月、p.2。  アーカイブ 2014年1月10日 - ウェイバックマシン
  32. ^ 公告「山梨県名誉県民の事績」 - 山梨県公報第273号 2022年4月4日 (PDF)
  33. ^ 山梨県 2022.
  34. ^ 「95年秋の叙勲 勲一等・勲二等」「読売新聞」1995年11月3日朝刊
  35. ^ 「官報」第368号9頁 令和2年11月6日号
  36. ^ JIS数値制御工作機械の標準仕様に関する調査文科会「JIS数値制御工作機械の標準仕様に関する調査報告書」『日本機械学会誌』第73巻第613号、1970年2月、pp.213-215。 
  37. ^ JIS数値制御工作機械の標準仕様に関する調査文科会「JIS数値制御工作機械の標準仕様に関する調査報告書」『日本機械学会誌』第74巻第627号、1971年4月、pp.418-421。 
  38. ^ JIS NC用語分科会「数値制御工作機械用語」『日本機械学会誌』第75巻第648号、1972年12月、pp.1823-1824。 
  39. ^ JIS NC旋盤分科会「日本工業規格(案)数値制御旋盤の試験および検査」『日本機械学会誌』第76巻第650号、1973年2月、pp.192-193。 
  40. ^ 学会案内>組織>歴代理事会一覧”. 日本ロボット学会. 2014年1月5日閲覧。
  41. ^ 学会について>学会概要>歴代会長・副会長”. 精密工学会. 2014年1月5日閲覧。
  42. ^ 稲葉清右衛門 1974.
  43. ^ 貫井健 1982.
  44. ^ 財団の概要”. 財団法人 FA財団. 2014年1月5日閲覧。
  45. ^ 事業概要・組織>技術研究所運営委員会委員名簿”. (財)機械振興協会. 2014年1月5日閲覧。
  46. ^ a b ファナック会長 稲葉善治(2)故郷明野 祖父の投機で身代傾く 父は一高不合格で発奮 猛勉強日本経済新聞2022年1月3日 2:00
  47. ^ 稲葉清右衛門 2004a.
  48. ^ “ファナック、35歳取締役を起用 名誉会長の孫”. 日本経済新聞. (2013年6月7日). https://www.nikkei.com/article/DGXNASDD07089_X00C13A6TJ1000/ 2013年12月14日閲覧。 
  49. ^ ファナック会長 稲葉善治(3)尾見半左右さん 「富士通の奇人」の道開く 両親の就職や縁談の恩人日本経済新聞
  50. ^ a b c "IEEE Inaba Technical Award for Innovation Leading to Production" IEEE. 2020年10月7日閲覧。
  51. ^ "2002 Business 企業の研究開発 エンターテインメントロボットAIBO". 日本のロボット研究開発の歩み. 日本ロボット学会. 2020年10月7日閲覧。

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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