述異記 (任ボウ)
『述異記』(じゅついき)は、「山川等地理に関する異聞や、珍しい動植物に関する話などを多く集め[1]」た小説集。2巻。
中国の南朝梁の任昉が撰したとされているが、多くの問題があり、その真偽は明らかでない[2]。
概要
[編集]本書の真偽については古来諸説があるが、同時期に同名の祖沖之撰『述異記』があるなど、その問題と絡みあって解決していない。『隋書』や『旧唐書』の「経籍志」[3]および『新唐書』「芸文志」[4]に著録される『述異記』10巻は、撰者を祖沖之としている。一方で、『梁書』の「任昉伝」には、本書に関する記述が見られない。本書に関する記述が見出せるのは、北宋勅撰の『崇文総目』 [5]、南宋晁公武(ちょうこうぶ(中国語版))の『郡斎読書志』[6]を待ってからである。
祖沖之の作は志怪小説集であり、任昉の作は主として山川・動植物の奇異についての記録で地理書的な傾向が強い[7]。題名が同じためにしばしば混同されてきた[8]。『祖沖之述異記』はすでに散佚しており、本書との関係は分からない。真偽に関する議論としては、『任妨述異記』を任坊の撰とする説には晁公武『郡斎読書志』、王謨(中国語版)の『増訂漢魏叢書』所収『述異記』跋文があり、後人の偽作とする説には『四庫全書総目提要[9]』(1782年)、周中孚『鄭堂読書記』(1940年)、魯迅[10]『中国小説史略』がある。
任昉撰『述異記』は、『稗海[11]』、『漢魏叢書三十八種』、『漢魏叢書七十六種』、『漢魏叢書八十六種』、『龍威秘書[12]』、『百子全書[13]』、『隨庵徐氏叢書[14]』等に収録されているが。テキストとして最も優れているのは『臨安府大廟前經籍舗尹家刊本』(1198年、慶元4年)を徐乃昌が景刻(影印)した『隨庵徐氏叢書』とされる。なお、『稗海』本と『百子全書』本にはない同じ部分の脱落が『漢魏叢書』3種及び『龍威秘書』の4本にあり、これらが同じ底本に依ったことが判る[15]。
日本語訳
[編集]- 竹田晃・黒田真美子編、佐野誠子訳著『中国古典小説選2 六朝Ⅰ』(明治書院、2006年) ISBN 978-4625663437 、任昉『述異記』から8篇抜粋の詳細な原文・読み下し入りの訳。祖沖之撰『述異記』の11篇も収録している。
注・出典
[編集]- ^ 明治書院《中国古典小説選 パンフレット 》p.4 、述異記(梁・任昉)の説明文より引用。
- ^ 森野繁夫 『任昉述異記について』 《中國文學報 13》 p.54-68 1960-10 京都大學文學部中國語學中國文學硏究室 p.54 。
- ^ 中国語版ウィキソースに本記事に関連した原文があります:隋書/卷33 志第28 經籍二『述異記 十卷 祖沖之撰』、 中国語版ウィキソースに本記事に関連した原文があります:舊唐書/卷46 志第二十六 經籍上『述異記 十卷 祖沖之撰』とある。
- ^ 中国語版ウィキソースに本記事に関連した原文があります:新唐書/卷059 志第四十九藝文三『祖沖之 述異記 十卷』
- ^ 崇文総目 卷三 小説類下に『述異記二卷任妨撰』
- ^ 郡齋讀書志 卷十三 小説類 に『述異記 二卷』、 中国語版ウィキソースに本記事に関連した原文があります:郡齋讀書志/卷十三
- ^ 森野繁夫 『任昉述異記について』p.54-58 。
- ^ 前野直彬『六朝・唐・宋小説選』 平凡社 中国古典文学大系 第24巻 ISBN 978-4582312249 解説 p.469 。
- ^ 中国語版ウィキソースに本記事に関連した原文があります:四庫全書總目提要/卷142 卷一百四十二 子部五十二 小説家類三 『述異記 二卷 内府藏本』
- ^ 魯迅は『古小説鈎沈』に祖沖之撰のみを集め『祖沖之述異記』として93篇を採録している。
- ^ はいかい、明の商維濬(しょういしゅん)刊行の叢書。第9冊が『述異記』。
- ^ りゅういひしょ、馬俊良(ばしゅんりょう)輯の叢書。1796年。第1集第7冊に『述異記』他。
- ^ ひゃくしぜんしょ、1875年に湖北崇文書局が刊行した叢書。
- ^ ずいあんじょしそうしょ、徐乃昌(中国語版)が刊行した叢書。
- ^ 森野繁夫 『任昉述異記について』p.54 。
関連項目
[編集]- 述異記 (祖冲之) ………南朝斉の祖沖之選とされる志怪小説集。
- 述異記 (東軒主人) ……清の東軒主人撰とされる、聊斎志異とほぼ同時代の文言小説集。
- 『四庫全書総目提要』
- 『郡斎読書志』
- 『崇文総目』
- 志怪小説
- 『隋書』
- 『稗海』
- 『漢魏叢書三十八種』
- 『漢魏叢書七十六種』
- 『漢魏叢書八十六種』
- 『龍威秘書』
- 『隨庵徐氏叢書』
- 聊斎志異
- 中国文学
- 伝奇小説
- 中国の妖怪一覧
- 『旧唐書』の「経籍志」
- 『新唐書』「芸文志」
- 『中国小説史略』