阪神7890・7990形電車
阪神7890・7990形電車 | |
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武庫川線 洲先ー東鳴尾間を走る7990F | |
基本情報 | |
運用者 | 阪神電気鉄道 |
製造所 | 武庫川車両工業 |
種車 | 3801・3901形 |
製造年 | 1974年 - 1977年 |
改造年 | 1986年 |
改造数 | 2両 |
引退 | 2020年 |
投入先 | 武庫川線 |
主要諸元 | |
編成 | 2両編成 |
最高速度 | 45 km/h (武庫川線) |
全長 |
7890: 18,880 mm 7990: 18,980 mm |
全幅 | 2,800 mm |
制御装置 | 三菱電機製 ABFM-138-15-MDHA改 |
制動装置 | HSC電磁直通空気ブレーキ |
保安装置 | 阪神・山陽・阪急形ATS |
阪神7890・7990形電車(はんしん7890・7990がたでんしゃ)は、かつて阪神電気鉄道(阪神)が1986年より使用していた電車で、赤胴車と呼ばれる急行系車両の形式である。3801・3901形の先頭車2両を改造・改番し、武庫川線専用車として投入された[1]。
概要
[編集]1974年に西大阪線延伸用として登場した急行用車両の3801・3901形は、1977年までに4両編成3本の12両が製造されたが、1986年に第1編成の4両が脱線事故の頻発により廃車となり、残った4両編成2本の8両のうち6両は本線急行用の6両編成1本に組成変更され、8701・8801・8901形となった[2]。
6両編成化で残った先頭車2両については、武庫川線専用の2両編成に改造されることとなり、廃車となった第1編成の機器を流用した電動車化などの改造・改番により1986年に登場したのが本形式である[2]。
改造内容
[編集]先頭車は付随車であったため電装化改造が必要となったが、台車・制御装置等は3801形の発生品を流用している[1][3]。全長は7890(旧3904)が18,880mm、7990(旧3905)は100mm長い18,980mmとなっている[4]。内装は客室のみ8000系と同様の化粧板に変更され、乗務員室は緑系のまま存置[5]された[6]。
7890は、3901形で唯一電動発電機・蓄電池の無かった3904が電装化・改番された[6]。台車は付随台車のFS090から電動台車のFS390に換装[7]、制御装置は1C4MのABFM-138-15-MDHA改[8]に改造され、主電動機は4台となるため永久直列となり、発電ブレーキは撤去された[1]。
7890へ集電装置を搭載する際は、前よりから2個目の冷房装置を撤去し、下枠交差式パンタグラフを1基搭載した[4][2]。同時期には7861・7961形の電装化改造車7871・7873が同様の形態で改造されている[7]。
7990は3905より改番され、床下機器に大きな変更はないが、電動発電機のCLG-346(出力75kVA)が新設されている[9]。台車は改造前と同じFS-090である[10]。
電動車が偶数向きで、1形式1両ずつのみとなっている。車両番号は7892・7992とはされず、阪神の営業用車では唯一「0」で始まる形式となった[7]。
編成構成
[編集]種車は3801・3901形の4両編成2本のうちの先頭車2両であり、3901形の3904は電装化の上Mc車の7890に、3905は付随車のままTc車の7990に改番された[1][11]。残る6両は本線用として8701・8801・8901形の6両編成1本に改造されている[10]。
新旧車両番号の対応は以下のとおり[12]。
← 武庫川 武庫川団地前 →
|
竣工[13] | ||
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新車種 (旧車種) |
クハ
Tc |
クモハ
Mc |
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新番号 (旧番号) |
7990 (3905) |
7890 (3904) |
1986年9月29日 |
-
7990
-
7890
-
7890系の車内
編成表
[編集]2006年4月1日現在[14]。
← 武庫川 団地前 →
| |
Tc | Mc |
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7990 | 7890 |
導入以降の改造
[編集]1994年には7990の運転台後部に車椅子スペースが設置された[6]。2000年にはワンマン化改造が行われている。
ワンマン化改造
[編集]2000年10月1日からの武庫川線のワンマン運転開始に伴い、7890・7990形は7861・7961形の3編成6両とともにワンマン運転対応改造が施工された[15]。
バンドン連結器から廻り子式連結器への換装は実施されておらず、7890形の座席下に偏差アダプタを収納している[9][16]。
運用の変遷
[編集]7861・7961形とともに武庫川線で運用されていた。制御器の特性から高速運転が不可能なため、営業運転では最高速度45km/hの武庫川線限定で使用されていた[9]。1995年の阪神・淡路大震災発生時は尼崎車庫に留置されていたため被災は免れた[17]。
車両の老朽化とバリアフリー対応推進に基づき、2020年度限りで5500系改造車に置き換えることが発表された[18]。5500系への置き換え日は5月末とされていたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため6月以降に延期されたのち、2020年6月2日をもって赤胴車の営業運転を終了した[19][20]。運行終了後、尼崎車庫で社員限定の撮影会が行われた[20]。
7890号は独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)に譲渡の上、2021年春から西宮市の武庫川団地に静態保存し地域住民のコミュニティースペースとして活用することを、阪神電鉄とUR都市機構が合同で発表した[21][22]。
運用を離脱した7890号・7990号のうち、7990号は2020年6月12日付けで廃車となった[23]。廃車後の7990号は深夜にトレーラーによる陸送でリサイクル工場へ搬出され、工場内で解体されている[23]。
7890号は尼崎車庫に保管されていたが、2021年3月4日未明に尼崎車庫からUR武庫川団地へ向けてトレーラーで陸送され、同日昼に団地内の広場に設置された[24]。同年7月10日からは武庫川団地内に設置される地域のコミュニティスペースとしてオープンしている[25][26]。
脚注
[編集]- ^ a b c d 『日本の私鉄5 阪神』61頁。
- ^ a b c 河渕則彦「阪神赤胴車(急行用高性能鋼製車)の系譜」『鉄道ピクトリアル』2020年10月号、pp.20-21。
- ^ 木下和弘「阪神電気鉄道 現有車両プロフィール2017」『鉄道ピクトリアル』2017年12月臨時増刊号、235頁。
- ^ a b 岡田久雄『阪神電車』JTBパブリッシング、2013年、169頁。
- ^ これは同時期に改造された8701・8801・8901形、3000系3111Fと3112F、8000系8502のリニューアルでも採り入れられている。
- ^ a b c レイルロード『サイドビュー阪神』55頁。
- ^ a b c 木下和弘「阪神電気鉄道 現有車両プロフィール2017」『鉄道ピクトリアル』2017年12月臨時増刊号、236頁。
- ^ 『日本の私鉄5 阪神』1989年、146-147頁。
- ^ a b c 木下和弘「阪神電気鉄道 現有車両プロフィール2017」『鉄道ピクトリアル』2017年12月臨時増刊号、237頁。
- ^ a b 阪神電車鉄道同好会「私鉄車両めぐり (157) 阪神電気鉄道」『鉄道ピクトリアル』1997年7月臨時増刊号、196頁。
- ^ レイルロード『サイドビュー阪神』54頁。
- ^ 阪神電車鉄道同好会「私鉄車両めぐり (157) 阪神電気鉄道」『鉄道ピクトリアル』1997年7月臨時増刊号、193頁。
- ^ 「阪神電気鉄道車両履歴表(高性能車以降:1954年〜)」『鉄道ピクトリアル』1997年7月臨時増刊号、電気車研究会。218頁。
- ^ ジェー・アール・アール『私鉄車両編成表 '06年版』2006年、130頁。
- ^ 小松克祥「車両総説」『鉄道ピクトリアル』2017年12月臨時増刊号、電気車研究会。42頁。
- ^ “阪神「赤胴車」静かに引退、伝統塗装"最後の姿" | 通勤電車 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準”. web.archive.org (2020年6月24日). 2020年6月24日閲覧。
- ^ レイルロード『サイドビュー阪神』126頁。
- ^ 『移動等円滑化取組計画書』(PDF)(プレスリリース)阪神電気鉄道、2019年12月27日 。2020年2月2日閲覧。
- ^ “伝統車両、ひっそり引退 阪神電鉄の「赤胴車」が運行終了”. 神戸新聞 (神戸新聞社). (2020年6月3日). オリジナルの2020年9月28日時点におけるアーカイブ。 2021年3月5日閲覧。
- ^ a b 阪神「赤胴車」静かに引退、伝統塗装"最後の姿" 東洋経済オンライン、2020年6月20日。
- ^ “阪神電鉄とUR都市機構が包括連携協定を締結 沿線のUR団地を中心とした地域活性化への取組みを開始 〜阪神電車の「赤胴車」を武庫川団地内に設置し、地域のコミュニティ拠点に〜” (PDF). 阪神電気鉄道/独立行政法人都市再生機構西日本支社 (2020年3月16日). 2020年11月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年11月4日閲覧。
- ^ “阪神引退の赤胴車、団地に譲渡 活躍60年さらに活用”. 朝日新聞 (朝日新聞社). (2020年10月31日). オリジナルの2020年11月4日時点におけるアーカイブ。 2020年11月4日閲覧。
- ^ a b 木下和弘「赤胴車時代の乗務日誌あれこれ」『鉄道ピクトリアル』2020年10月号、p.91。
- ^ “阪神電鉄「赤胴車」が団地へお引越し”. 神戸新聞. (2021年3月4日). オリジナルの2021年3月5日時点におけるアーカイブ。 2021年3月5日閲覧。
- ^ 『「赤胴車」が地域のコミュニティスペースとして再出発 〜UR都市機構武庫川団地に新たなランドマークが登場〜』(PDF)(プレスリリース)独立行政法人都市再生機構西日本支社/阪神電気鉄道、2021年6月30日。オリジナルの2021年6月30日時点におけるアーカイブ 。2021年7月1日閲覧。
- ^ “引退の阪神電鉄「赤胴車」が復帰 兵庫・武庫川団地の交流スペースに”. 毎日新聞. (2021年7月10日). オリジナルの2021年7月10日時点におけるアーカイブ。 2021年7月10日閲覧。