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順位・規模法則

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

順位・規模法則(じゅんい・きぼほうそく、英語: rank-size rule)は、都市人口会社の規模、文章内の単語など様々な分野における分析によって得られる、順位と規模の間に一定の関係が見られるとする経験則[1]。特に都市の人口に関して言及する際、都市の順位・規模法則と呼ばれる[2]順位・規模の法則[3]ランク・サイズルール[4]ともいう。

本記事においては、都市の順位・規模法則について扱う。

概要

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ある地域内に存在する都市について、地域内で人口第2位の都市の人口は人口第1位の都市の人口の半分、第3位の都市の人口は第1位の都市の[2]、すなわち、第n位(nは自然数)の都市の人口は第1位の都市のとなるという法則である[5]1913年ドイツ地理学者アウエルバッハ(Auerbach, F.)によって発見され、1949年アメリカ合衆国言語学者ジョージ・キングズリー・ジップが明確に規定した[6]。数式で表せば、以下のようになる[7]

・・・(1)

ここでは第r位の都市の人口( >0, rは自然数)、は第1位の都市の人口[7]、qはパレート係数と呼ばれる順位の規模弾力性を表す定数である[8]。(1)の両辺に自然対数をとると

ここで、(aは定数、x, yは変数)とおけば

y=-qx+aが得られる。

すなわち、順位規模法則に従う地域の各都市を両対数グラフ上にプロットすれば、1次関数グラフが得られることを意味する[9]。順位・規模法則に完全に一致する国はないが、日本やアメリカのような先進国は順位・規模法則に従う場合が多い[9][注 1]。また、一国全体が順位・規模法則に従う場合、その国の中の部分的地域も、順位・規模法則に従う[注 2]ことが可能であることが、シミュレーション理論を用いて明らかになっている[12]。鈴木啓祐はこれを「ジップの順位規模法則の可分解性」と命名した[13]

順位・規模のパターン

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都市の人口規模と人口順位の関係
両対数グラフで示している。

世界各国の都市の順位と都市の規模を両対数グラフで示すと、3種類のパターンに分けることができる[14]

  1. 順位・規模パターン(グラフ中の緑色直線
    対数正規型ともいう[15]。主に先進国のように高度に都市化が進んでいる国でみられる[9]外国への経済依存が低く、政体連邦制である国がこのパターンになりやすい[16]
  2. プライメイトパターン(グラフ中の赤色曲線
    首位都市型ともいう[15]。主に人口が少なく面積の小さい国に見られるが、例外的にフランスはこのパターンを示す[14]。外国への経済依存が高く、経済への政府の介入の多い国がこのパターンになりやすい[16]。経済発展の過程で次第に順位・規模法則パターンに移行していく[16]
  3. ポリーナリィパターン(グラフ中の青色の曲線)
    複数の都市がほぼ同規模で上位を占め、下位の都市が順位・規模法則パターンを示す[14]オーストラリアなどに見られる[14]

プライマシィ指数

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プライマシィ指数(Index of primacy、首位性指数)は、プライメイトシティ(首位都市)の首位性(プライマシィ、primacy)を測定する指標である[14][15]。この値が高いほど首位性が高い、すなわちプライメイトパターンに近いと言える[14]。プライマシィ指数は第1位の都市の人口を第2位の都市の人口で割って算出する[14]。例えばフランスの場合、パリ大都市圏の人口が931.9万人、第2位のリヨン大都市圏の人口が126.2万人(いずれも1990年現在)である[9]から、プライマシィ指数Iは、I=931.9/126.2≒7.384となる。日本の場合、関東大都市圏の人口が37,273,866人、第2位の近畿大都市圏の人口が19,302,746人(いずれも2015年10月1日現在、国勢調査)であるから、プライマシィ指数Iは、I=37273866/19302746≒1.931となる。発展途上国、とくにラテンアメリカ諸国は高い値を示す[14]

首位性が高い(プライマシィ指数が高い)ことは、国全体の規模の経済集積の経済の恩恵を受けることができるとする肯定的見解と、生活水準の不均衡や農村の退廃をもたらすとする否定的見解の両方がある[16]

適用例

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順位・規模法則をさまざまな地域に適用しようとする試みが多くの研究者によってなされている。ここでは一例を示す。

  • 日本への適用 - 吉村(1995)は日本の全市町村と全、流通経済圏としてのエリアの3種類のデータ群に順位規模法則の適用を試みた[17]。全市町村では1000位から2800位までの間[注 3]で順位・規模法則が成立、全市では不成立、エリアでは緩い基準を使えば成立することが分かった[17]
  • 中国への適用 - 張(2006)は中国の東部を北京天津地域、上海を含む長江デルタ地域、広州を含む珠江デルタ地域の3つに分け、それぞれに順位・規模法則の適用を試みた[19]。この結果、古い都市の多い北京・天津地域は順位・規模法則パターン、上海への集中が著しい長江デルタ地域はプライメイトパターン、外資系企業の投資により都市成長が進む珠江デルタ地域はプライメイトパターンと順位・規模法則パターンの中間形態を示した[20]
  • 日本テーマパークへの適用 - 角本(2008)は都市の人口をテーマパークの年間入場者数、都市の順位を年間入場者数の順位に置き換えて、1994年から2004年までのデータを1年ごとに順位・規模法則へ適用しようとした[21]。角本が使用したデータは社団法人日本観光協会が発行する『数字で見る観光』であり、そこには東北サファリパーク東京ディズニーランド志摩スペイン村ユニバーサルスタジオジャパンシーガイアなど20のテーマパークが掲載されていた[22]。この結果、各年とも順位・規模法則に従うことが示された[23]

脚注

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注釈

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  1. ^ 先進国であっても、フランスのように中央集権の強い国では順位・規模法則が成立しない[10]
  2. ^ このように、全体と部分が相似であるものを自己相似という[11]
  3. ^ 調査時点の日本の市町村数は3245あった[18]

出典

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  1. ^ Konishi and Nishiyama(2009):2869ページ
  2. ^ a b 高橋ほか(1997):73ページ
  3. ^ 吉村(1995):37ページ
  4. ^ 吉村・山根(2004):7ページ
  5. ^ 杉浦ほか(2005):142ページ
  6. ^ 高橋ほか(1997):73 - 74ページ
  7. ^ a b 高橋ほか(1997):74ページ
  8. ^ 吉村(1995):38ページ
  9. ^ a b c d 高橋ほか(1997):75ページ
  10. ^ 高橋ほか(1997):75 - 76ページ
  11. ^ 杉浦ほか(2005):143ページ
  12. ^ Suzuki(1983):61ページ
  13. ^ Suzuki(1983):62ページ
  14. ^ a b c d e f g h 高橋ほか(1997):76ページ
  15. ^ a b c 張(2006):96ページ
  16. ^ a b c d 高橋ほか(1997):78ページ
  17. ^ a b 吉村(1995):38 - 41ページ
  18. ^ 吉村(1995):40ページ
  19. ^ 張(2006):95ページ
  20. ^ 張(2006):96 - 101ページ
  21. ^ 角本(2008):6ページ
  22. ^ 角本(2008):5ページ
  23. ^ 角本(2008):6 - 15ページ

参考文献

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  • 角本伸晃(2008)"テーマパーク入場者数の規模分布"愛知大学経営総合科学研究科ディスカッション・ペーパー・シリーズ.08-01:23pp.
  • 張 長平(2006)"中国東部地域における都市の順位規模に関する実証分析"国際地域学研究(東洋大学国際地域学部
  • 杉浦章介・松原彰子・武山政直・髙木勇夫『人文地理学―その主題と課題―』慶應義塾大学出版会、2005年4月20日、389pp. ISBN 4-7664-1132-3
  • 高橋伸夫菅野峰明村山祐司・伊藤悟『新しい都市地理学』東洋書林、1997年9月17日、237pp. ISBN 4-88721-302-6
  • 吉村 弘(1995)"都市の順位・規模の法則について―1990年の日本の場合―"地域経済研究(広島大学経済学部附属地域経済システム研究センター).6:37-42.
  • 吉村 弘・山根 薫(2004)"日本における都市の階層性と空間構造―「規模」と「距離」による都市間構造分析―"地域経済研究(広島大学経済学部附属地域経済システム研究センター).15:3-13.
  • Yoko Konishi and Yoshihiko Nishiyama(2009)"Hypothesis testing in rank-size rule regression"Mathematics and Computers in Simulation(International Congress on Modelling and Simulation).79(9):2869-2878.
  • Suzuki Keisuke(1983)"Decomposability and Composability of the Zipf's Rank-size Rule"流通經濟大學論集(流通経済大学).17(3):33-62.

関連項目

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外部リンク

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