ANM176
ANM176[注記 1]はフェルラ酸と特定成分が含まれるガーデンアンゼリカの根の抽出物を配合した食品用製剤で、脳機能の維持を目的とした食品やサプリメントの配合素材として用いられる。
ANM176開発の経緯
[編集]ANM176は、アミロイドベータタンパク質 (以下ではAβと表記する) によるAβ神経毒性の抑制成分に関する研究[1]が基になって開発された。Aβは、アルツハイマー病の原因タンパク質と考えられている。マウスの脳にマイクロインジェクト(en:Microinjection)したAβは、行動試験における記憶や学習力を阻害するAβ神経毒性が現われる[1][2]。このAβ神経毒性試験を応用したAβ神経毒性抑制力の評価方法が開発され[1]、健忘に有効と伝承されてきた漢方生薬トウキの根中からAβ神経毒性を抑制する成分がスクリーニングされた[1][3]。その結果、トウキにはAβ神経毒性抑制する成分が13種類含まれることが判明した。この13成分はフェルラ酸[1]とクマリン類の12種[3]で、また、これらの成分にはAβ神経毒性抑制の相乗効果があった[3]。これら13成分の307通りの組合せの中で、最もAβ神経毒性抑制効果が高かった176番目の配合を基にトウキを原料としたINM176[注記 2]が開発された。二重盲検法による臨床試験でINM176は、アルツハイマー病の進行を抑制できる可能性がプラセボ対比で示された[4]。
一方、医薬品として使用されるトウキは食品に使用できないため、トウキと同じせり科シシウド属の植物で ヨーロッパでは古くから食品として利用されているガーデンアンゼリカの根に着目された。しかし、ガーデンアンゼリカの根にはAβ神経毒性を抑制する13成分の中でヒトの消化器官から吸収できる形態のフェルラ酸がほとんど含まれていないため、食品用のフェルラ酸とAβ神経毒性を抑制するフェルラ酸以外の12種類のクマリン類が規定量含まれるガーデンアンゼリカの根の抽出物を配合した食品用製剤ANM176が開発され、マウスの行動試験でANM176のINM176と同等以上のAβ神経毒性抑制効果が確認された。
ANM176の生理作用
[編集]ANM176は、臨床試験でもアルツハイマー病の改善に有用である可能性が示されている[5]。ANM176を使用した143名のアルツハイマー病患者の認知機能を3ヵ月ごとに認知機能評価法ADAS-Jcogを用いて評価し、98名は9ヵ月後まで評価した。その結果、軽度から重度まで、どんな進行程度であってもANM176使用者の9ヵ月間の悪化率の平均値は公表された悪化率[6][7]より抑制されていること、さらに、進行程度が軽度ほど抑制効果が高いこと、また、認知症の医薬品であるドネペジル(アリセプト、エーザイ)を1年以上使い続けて抑制効果が感じられなくなったケースでもドネペジルにANM176を上乗せすることによって再び抑制効果が現れることが確認された[5]。 ANM176は、Aβ神経毒性を相乗的に抑制するフェルラ酸 [1]とガーデンアンゼリカの根に含まれる12種のクマリン類[3]が一定量に規格化されている。フェルラ酸は高齢によるストレス耐性の低下を抑制し[総説 1][総説 2]、ガーデンアンゼリカのAβ神経毒性抑制12成分中の一部のクマリン類には幅広い抗炎症作用がある[8][9][総説 3]。
これらフェルラ酸とガーデンアンゼリカのAβ神経毒性抑制12成分それぞれの単独ではアルツハイマー病用として不十分と考えられる。その理由は、フェルラ酸は100年以上前から認知症の改善に可能性があると言われていたが、それを示す臨床試験報告は見当たらない。また、ガーデンアンゼリカと同じ属のトウキは古くから健忘に有効と伝承されていたが漢方文献は見当たらない。トウキが処方された当帰芍薬散がアルツハイマー病に有効なことを示す文献はあるが[10]、認知症用として一般に利用されていない。これらの背景には、トウキに含まれるAβ神経毒性を抑制する13成分の含量が極端にバラつくことにあるのではないかとINM176とANM176の開発プロセスにおいて考えられるようになった。つまり、アルツハイマー病発症には多く因子が関与していると言われており、実際に役立つためにはフェルラ酸だけでなくガーデンアンゼリカのAβ神経毒性抑制12成分も不可欠と考えられる。
注記
[編集]- ^ ANM176は、株式会社エイワイシーの登録商標(T 5905052)
- ^ INMは翰林大学生薬研究所(Institute of Natural Medicine, Hallym University)の登録商標
総説
[編集]- ^ Barone E, Calabrese V, Mancuso C (Apr 2009). “Ferulic acid and its therapeutic potential as a hormetin for age-related diseases.” Biogerontology 10(2): 97–108 (https://link.springer.com/article/10.1007/s10522-008-9160-8)
- ^ Kumar N, Pruthi V (Sep 2014). “Potential applications of ferulic acid from natural sources” Biotechnol Rep (Amst) 4: 86-93 (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5466124/)
- ^ Venugopala KN, Rashmi V, Odhav B(2013). “Review on natural coumarin lead compounds for their pharmacological activity” Biomed Res Int 2013:963248 (https://www.hindawi.com/journals/bmri/2013/963248/
参考文献
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- ^ Yamada K , Tanaka T, Sensaki K, Kameyama T, Nabeshima T (Jan 1999). “Protective effects of idebenone and alpha-tocopherol on beta-amyloid-(1-42)-induced learning and memory deficits in rats: implication of oxidative stress in bete-amyloid-induced neurotoxicity in vivo.” Eur J Neurosci. 11(1): 83-90
- ^ a b c d Yan JJ, Kim DH, Moon YS, Jung JS, Ahn EM, Baek NI, Song DK(Jan 2004). “Protection against β-amyloid peptide-induced memory impairment with long-term administration of extract of Angelica gigas or decursinol in mice.” Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry 28(1): 25–30
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