AST・ALT比
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AST・ALT比は、血清中のAST活性とALT活性の比であり、肝疾患の病態を推定するのに用いられる。
概要
[編集]AST・ALT比(AST/ALT比、GOT/GPT比)は、血清中のアミノ基転移酵素(トランスアミナーゼ)である、AST(GOT)活性とALT(GPT)活性の比である。肝疾患の病態によりASTとSLTのどちらが高値になるかが異なるので、病態を推定するのに用いられる。 なお、1957年に初めてDe Ritisらにより報告されたので、De Ritis比とも呼ばれる[1]。
基準値
[編集]ASTおよびALTの酵素活性の測定法により、若干、基準値が異なる。
当初は、酵素活性がカルメン法(Karmen法)によって測定されて、1がカットオフ値(ASTが優位と判断する)となっていた。
近年、日本で用いられる、日本臨床化学会 (JSCC) 常用基準法においては、0.87がAST優位のカットオフ値とされている[2]。
臨床的意義
[編集]AST・ALT比はASTやALTの上昇している病態で鑑別に使用されるのが通常である。 血液検査で、ASTとALTという2種類の肝逸脱酵素が同時に測定されることが多いのは、AST・ALT比を評価するためである。
なお、AST・ALT比は固定的なものではなく、疾患の経過に応じて変化しうることに留意する。
- 健常人
- 急性肝炎
- 急性肝炎では検査時期に左右される。初期はAST優位(肝臓内にはASTのほうがALTより多いため)、その後はALT優位となる(ASTのほうが半減期が短いため)のが一般である。[4]
- 劇症肝炎ではASTが優位になることがある。
- 慢性肝炎
- 慢性肝炎ではALTの多い門脈域(肝小葉の周辺部)の壊死が強いためALT優位となる。
- 慢性肝炎・脂肪肝等、慢性肝疾患のAST/ALT比上昇は肝臓の線維化・肝硬変への移行を示唆する。
- 肝臓の線維化の進行とともにASTが増加する機序は不明である。
- 肝硬変、肝癌
- アルコール性肝炎
- アルコール性肝炎では、ALTの少ない肝小葉の中心部の壊死が強いため、AST優位になる。
- AST・ALT比>1.5〜2はアルコール濫用を強く示唆する。ミトコンドリアからのAST放出増加のためとされる。
- うっ血肝や虚血肝でも小葉中心部が虚血・低酸素状態になりやすいため、AST優位となる。(肝臓内でASTは均一に分布しているが、ALTは門脈域付近、すなわち、肝小葉の周辺部に多く存在する。)
- 脂肪肝
- 脂肪肝ではALTが優位となる。
- 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が進行して線維化が進むと、AST・ALT比が上昇し、0.8を越える。
- 薬剤性肝障害
- AST優位となるのが一般的であるが、ALT優位となる薬剤もある。
- 肝疾患以外の疾患
- 肝疾患以外でもALTが軽度上昇することがあるが、肝以外の臓器障害(心筋梗塞、筋疾患、溶血性疾患、など)では、ASTが大きく優位となるのが通常であり、診断に有用である(表.「各臓器のAST・ALT活性」を参照)。
AST・ALT比の臨床判断値[1][※ 1] | ||||
---|---|---|---|---|
AST・ALT比(De Ritis比) | <1.0 | 1.0〜<1.5 | 1.5〜<2.0 | ≧2.0 |
健常人 | 女性≦1.7、男性≦1.3 | 小児 | 新生児 | |
急性肝炎 | 回復期 | 極期付近 | 劇症肝炎 | |
アルコール性肝障害 | 回復期 | アルコール濫用 | 急性肝炎 | |
慢性肝炎(慢性肝疾患) | 安定 | 肝線維化のリスク | その他の原因 | |
筋肉疾患 | 慢性 | 回復期 | 急性期 |
各臓器のAST・ALT活性[5] | ||
---|---|---|
組織 | AST | ALT |
心筋 | 7800 | 450 |
肝臓 | 7100 | 2850 |
骨格筋 | 5000 | 300 |
腎臓 | 4500 | 1200 |
膵臓 | 1400 | 130 |
脾臓 | 700 | 80 |
肺 | 500 | 45 |
赤血球 | 15 | 7 |
血清 | 1 | 1 |
脚注
[編集]- ^ BotrosらのAST・ALT比の臨床判断値は海外のデータに基づくので、カットオフ値を日本のデータに適用する場合は留意する。日本のJSCC勧告法では、海外で用いられるIFCC法と異なり、測定時にビタミンB6を添加しないため、ビタミン欠乏状態ではAST(次いでALT)は低値となる。AST・ALT比へのビタミンB6添加の影響は個人差が大きい。
出典
[編集]- ^ a b The De Ritis Ratio: The Test of Time. Botros M, Sikaris KA. Clin Biochem Rev. 2013;34(3):117–130.
- ^ 「日本臨床化学会 (JSCC) 常用基準法に基づいたaspartate aminotransferase (AST)/alanine aminotransferase (ALT) 比の再設定 − Karmen法からJSCC常用基準法への変更に伴う肝疾患評価基準の変化」. 小谷 一夫, 前川 真人, 菅野 剛史. 日本消化器病学会雑誌. 1994;91(2):154-161.
- ^ 大西宏明, Medical Practice編集委員会 編『臨床検査ガイド 2020年改訂版』文光堂、2020年6月17日。ISBN 978-4-8306-8037-3。
- ^ 高久史麿 編『臨床検査データブック2021-2022』医学書院、2021年1月15日。ISBN 978-4-260-04287-1。
- ^ Tietz Fundamentals of Clinical Chemistry 5th Edition. Burtis CA. et al. Saunders, 2001. ISBN 0721686346; ISBN 978-0721686349
関連項目
[編集]- アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST]
- アラニンアミノ基転移酵素(ALT)
- 肝機能
- 脂肪肝、 非アルコール性脂肪性肝炎
- アルコール性肝障害、アルコール性肝炎
- 急性肝炎
- 慢性肝炎
- 肝硬変、肝癌
- 基準値
- 臨床検査