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BGN/PCGNラテン文字表記法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

BGN/PCGNラテン文字表記法(BGN/PCGNラテンもじひょうきほう、英語: BGN/PCGN romanization)はアメリカ合衆国アメリカ地名委員会BGN)とイギリスイギリス地名常置委員会PCGN)が共同で承認しているラテン文字表記に関する規則およびシステムである。日本語では他の翻字法にならいBGN/PCGN式と呼ばれることもある。また単にBGN/PCGNと省略されることも多い。

非ラテン文字言語のラテン文字化を主目的にしているが、どちらも英語圏の国家であることから英語話者に向けて策定されており、ドイツ語フェロー語といったラテン文字で記述する言語であっても英語では通常使用しない文字が含まれている場合は対象となる。またアゼルバイジャン語モルドバ語のように承認後にラテン文字表記へ転換を果たした言語であっても更新が続けられている。用途は地名を想定しているが、アメリカとイギリスでは人名や語句の翻字にも用いられている。また国際標準化機構(ISO)のISO 3166-2など国際機関でも使用例があるほか、30の言語では国際連合が使用を推奨している[1]。システムの詳細はアメリカ国家地理空間情報局が2012年に発行した Romanization Systems and Policies [2]とBGNが1994年に発行した Romanization Systems and Roman-Script Spelling Conventions [3] で説明されている。

BGN/PCGNは言語によって4種類に分類されており、規則(System)、合意(Agreement)、対応表(Table of Correspondences)、ラテン文字スペル規則(Roman-Script Spelling Convention)となっている [2]。このうち「合意」「対応表」は対象言語を使用している国家や教育機関が作成した規則をBGN/PCGNに採用したものとなる。

最も多くBGN/PCGNが定められている表記体系はキリル文字である。東側諸国(共産主義陣営)がキリル文字化を推進した影響から、キリル文字を使う言語は東ヨーロッパおよび旧ソビエト連邦構成国(ロシアなど)に多く分布している。

一覧

[編集]

2021年9月24日時点で、イギリス政府のウェブサイトで国防省が発表しているBGN/PCGNの一覧[4]アメリカ国家地理空間情報局のウェブサイトでも同一のもが発表されているが、アブハズ語が記載されていない(2021年11月時点[2])。

表の列は左から順に、

  • 対象となる言語
  • 対象となる表記体系(文字)
  • 対象言語を使用する主な国家・地域
  • 種類 [2]
  • 現行のBGN/PCGNが承認された年[2]
  • 最終更新年[4]
  • 作成した機関・国家。カッコ内は考案・制定年。BGNまたはPCGNが作成した場合は「BGN/PCGN」と表記 [2]
  • 備考
  • 最新のBGN/PCGNへの外部リンク[4]PDFファイル)

となっている。

言語 表記体系 対象地域 種類 承認年 更新年 作成者 備考 外部リンク
アブハズ語 キリル文字 アブハジア 規則 2011 2019 BGN/PCGN [1]
アディゲ語 キリル文字 アディゲ共和国ロシア 規則 2012 2019 BGN/PCGN [2]
パシュトー語(アフガニスタン) アラビア文字 アフガニスタン 規則 2007 2017 BGN/PCGN アフガニスタンにおける統一された規則。 [3]
ダリー語 ペルシア文字
アムハラ語 ゲエズ文字 エチオピア 規則 1967 2017 BGN/PCGN [4]
アラビア語 アラビア文字 アラブ諸国 規則 1956 2019 BGN/PCGN [5]
アルメニア語 アルメニア文字 アルメニア 規則 1981 2019 BGN/PCGN [6]
アヴァル語 キリル文字 ダゲスタン共和国(ロシア) 規則 2011 2019 BGN/PCGN [7]
アゼルバイジャン語 キリル文字 アゼルバイジャン 対応表 1993 2020 アゼルバイジャン政府 (1991年) BGN/PCGN1979年式に代わって承認された。同国がラテン文字表記へ転換するために定められた正書法である(現在はキリル文字表記を廃止)。 [8]
バローチー語 アラビア文字 パキスタンなど 規則 2008 2017 BGN/PCGN [9]
バシキール語 キリル文字 バシコルトスタン共和国(ロシア) 対応表 2007 2019 慣習 [10]
ベラルーシ語 キリル文字 ベラルーシ 規則 1979 2019 BGN/PCGN [11]
ブルガリア語 キリル文字 ブルガリア 合意 2013 2019 ブルガリア政府 (2009年) これまで使われてきたBGN/PCGN1952年式に代わって承認された。 [12]
ビルマ語(ミャンマー語) ビルマ文字 ミャンマー 合意 1970 2017 英領ビルマ政府印刷局 (1907年) [13]
チェチェン語 キリル文字 チェチェン共和国(ロシア) 対応表 2008 2019 慣習 [14]
中国語普通話 漢字 中華人民共和国 合意 1979 2017 中華人民共和国政府 (1958年) 漢語拼音方案を採用している。普通話以外の中国語や少数民族の表記法はこれとは別にBGNまたはPCGNが定めている(要問合せ)。 [15]
チュヴァシ語 キリル文字 チュヴァシ共和国(ロシア) 規則 2011 2019 BGN/PCGN [16]
ゾンカ語 チベット文字 ブータン 合意 2010 2019 ブータン政府 (1997年) [17]
グルジア語(ジョージア語) グルジア文字 ジョージアまたはグルジア 合意 2009 2019 国家地理省、ジョージア科学アカデミー (2002年) BGN/PCGN1981年式に代わって承認された。現行は2002年に考案され、2011年にジョージア政府が承認した正書法である。 [18]
ギリシア語 ギリシア文字 ギリシャ 合意 1996 2017 ギリシア語標準化機構英語版 ギリシア語標準化機構が制定し、1987年に国際連合地名標準化会議が採用した表記法。 [19]
ヘブライ語 ヘブライ文字 イスラエル 合意 2018 2020 ヘブライ語アカデミー (2006年/2011年) BGN/PCGN1962年式に代わって承認された。 [20]
イヌクティトゥット語 カナダ先住民文字 ヌナブト準州カナダ 対応表 2018 2018 イヌイット文化協会 (1976年) [21]
日本語(仮名) 仮名 日本 合意 1976 2017 ジェームス・カーティス・ヘボン (1876年) この表記法はヘボン式ローマ字として知られており、 BGN/PCGNは1950年代の修正ヘボン式を基にしている。 [22]
カバルド語 キリル文字 カバルダ・バルカル共和国カラチャイ・チェルケス共和国(ロシア) 規則 2011 2019 BGN/PCGN [23]
カラチャイ・バルカル語 キリル文字 対応表 2008 2019 慣習 [24]
カザフ語 キリル文字 カザフスタン 規則 1979 2019 BGN/PCGN 2017年にカザフスタン政府はラテン文字表記への転換を表明している。 [25]
クメール語 クメール文字 カンボジア 合意 1972 2017 クメール地理サービス (1959年) [26]
朝鮮語北朝鮮 チョソングル 朝鮮民主主義人民共和国 合意 1945 2017 マッキューンライシャワー (1937年) この表記法はマッキューン=ライシャワー式で知られ、2011年までは南北問わず朝鮮語のBGN/PCGNに採用されていた。 [27]
朝鮮語韓国語 ハングル 大韓民国 合意 2011 2017 大韓民国文化観光部 (2000年) この表記法は文化観光部2000年式で知られる。 [28]
クルド語 アラビア文字 クルディスタン 規則 2007 2017 BGN/PCGN [29]
キルギス語 キリル文字 キルギス 規則 1979 2019 BGN/PCGN [30]
ラーオ語 ラーオ文字 ラオス 合意 1966 2017 ラオス全国地名委員会 (1965年) [31]
マケドニア語 キリル文字 北マケドニア 合意 2013 2019 北マケドニア政府 BGN/PCGN1981年式に代わって承認された。 [32]
ディベヒ語 ターナ文字 モルディブ 合意 1988 2019 モルディブ政府 BGN/PCGN1972年式に代わって承認された。内容は2009年に改訂された。 [33]
モルドバ語 キリル文字 モルドバ 対応表 1990 2019 モルドバ政府 1990年制定のラテン文字の正書法を採用している。同国がラテン文字表記へ転換するために定められた正書法である(現在はキリル文字表記を廃止)。 [34]
モンゴル語 キリル文字 モンゴル国 規則 1964 2019 BGN/PCGN 中国の内モンゴル自治区で用いられるモンゴル文字表記はまだなく、代わりに中国政府が定めたラテン文字表記を使用している。 [35]
ネパール語 デーヴァナーガリー ネパール 合意 2011 2017 ネパール調査省 [36]
オセット語 キリル文字 オセチア 規則 2009 2019 BGN/PCGN [37]
パシュトー語 アラビア文字 パキスタン、アフガニスタン 規則 1968 2017 BGN/PCGN アフガニスタンでは2007年に別のBGN/PCGNが定められているが、ダリー語要素が含まれた地名の変換結果はこのBGN/PCGNと同じとなる。 [38]
ペルシア語 ペルシア文字 イラン 規則 1958 2019 BGN/PCGN ペルシア語のラテン文字表記法も参照。 [39]
ロシア語 キリル文字 ロシア 規則 1947 2019 BGN/PCGN ロシア語のラテン文字表記法も参照。 [40]
ルシン語 キリル文字 ウクライナなど 規則 2016 2019 BGN/PCGN [41]
セルビア語 キリル文字 セルビア 対応表 2005 2019年 セルビア政府 セルビア語はキリル文字表記とラテン文字表記の両方を使用する(ダイグラフィア)。また近縁のモンテネグロ語アルファベットにも対応している(セルビア・クロアチア語)。 [42]
シャン語 シャン文字英語版 シャン州(ミャンマー) 規則 2011 2017 BGN/PCGN [43]
現代アラム語 (en) シリア文字 イラクなど 規則 2011 2017 BGN/PCGN 現代シリア文字の規則。 [44]
タジク語 キリル文字 タジキスタン 規則 1994 2019 BGN/PCGN [45]
タタール語 キリル文字 タタールスタン共和国(ロシア) 対応表 2007 2019 慣習 [46]
タイ語 タイ文字 タイ王国 合意 2002 2017 タイ王立学院英語版 (2002年) 以前は1967年タイ王立学院式を採用していた。現行はその改訂版。 [47]
ティグリニャ語 ゲエズ文字 エリトリアなど 規則 2007 2017 BGN/PCGN [48]
トルクメン語 キリル文字 トルクメニスタン 対応表 2000 2019 トルクメニスタン政府 (1993年) BGN/PCGN1979年式に代わって承認された。同国がラテン文字表記へ転換するために定められた正書法である(現在はキリル文字表記を廃止)。 [49]
ウドムルト語 キリル文字 ウドムルト共和国(ロシア) 規則 2011 2019 BGN/PCGN [50]
ウクライナ語 キリル文字 ウクライナ 合意 2019 2020 ウクライナ政府 (2010年) 1965年式に代わって導入された。 [51]
ウルドゥー語 ウルドゥー文字 パキスタン 規則 2007 2017 BGN/PCGN [52]
ウズベク語 キリル文字 ウズベキスタン 対応表 2000 2019 ウズベキスタン政府 (1995年) 現行はBGN/PCGN1979年式に代わって承認された。同国がラテン文字表記へ転換するために定められた正書法である(現在はキリル文字表記を廃止)。 [53]
サハ語 キリル文字 サハ共和国(ロシア) 規則 2012 2019 BGN/PCGN ヤクート語として紹介されている。 [54]
フェロー語 ラテン文字 フェロー諸島 スペル規則 1968年 2021年 正書法 フェロー語アルファベットのÐ, ðの表記法。 [55]
ドイツ語 ドイツ 2000年 ドイツ語アルファベットを参照。
アイスランド語 アイスランド 1968年 アイスランド語アルファベットを参照。
北部サーミ語 ラップランド 1984年 初版は「北部ラッピ語」であった。

関連項目

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脚注

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  1. ^ Working Group on Romanization Systems”. 地理学的名称に関する国連専門家グループ (2019年8月30日). 2021年11月11日閲覧。
  2. ^ a b c d e f Romanization Systems”. アメリカ国家地理空間情報局 (2021年3月19日). 2021年11月11日閲覧。
  3. ^ アメリカ地名委員会 (1994) (PDF). Romanization Systems and Roman-Script Spelling Conventions. 国防地図局. OCLC 31881487. http://libraries.ucsd.edu/bib/fed/USBGN_romanization.pdf 8 January 2013閲覧。 
  4. ^ a b c Romanization systems”. イギリス政府 (2021年9月24日). 2021年11月11日閲覧。

外部リンク

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