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HD 269810

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
HD 269810
星座 かじき座
見かけの等級 (mv) 12.28[1]
位置
元期:J2000.0
赤経 (RA, α)  05h 35m 13.905s[2]
赤緯 (Dec, δ) −67° 33′ 27.51″[2]
視線速度 (Rv) 264 km/s[1]
固有運動 (μ) 赤経: 0.9 ミリ秒/[2]
赤緯: -0.9 ミリ秒/年[2]
距離 1.6 ×105 光年[注 1]
(4.9 ×104 パーセク[3]
絶対等級 (MV) -6.6[1]
物理的性質
半径 18 R[4][注 2]
質量 150 M[4]
表面重力 10 G[3][注 3]
自転速度 173 km/s[5]
スペクトル分類 O2 III(f*)[1]
光度 2.19 ×106 L[4]
表面温度 52,500 K[4]
色指数 (B-V) -0.23[1]
他のカタログでの名称
RMC 122, Sk-67 211, GSC 09162-00101, TYC 9162-101-1, 2MASS J05351389-6733275
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HD 269810は、大マゼラン雲にある青色巨星である。既知の恒星の中で、質量が最も大きい恒星の一つ、且つ光度が最も高い恒星の一つで、スペクトル型がO2の数少ない既知の恒星の一つである。

名称

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HD 269810は、ヘンリー・ドレイパーカタログ収録の恒星名だが、269810番はカタログ第1版には存在しなかった数字で、拡張版で追加されたものであり、正式にはHDE 269810という。

特徴

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HD 269810は、スペクトル型がO2 III(f*)で、表面温度は52,500Kにもなるとみられる。光度階級がIIIであるので、主系列からいくぶん進化した段階にあることを示している。(f*)は、スペクトルの特異性を示す記号で、3階電離窒素イオン波長4,058Å)の輝線が2階電離窒素イオン(波長4,634・4,640・4,642Å)輝線より強く、2階電離窒素イオンの輝線の強さは中程度で、そこに弱い1階電離ヘリウムイオン(波長4,686Å)の吸収線が付随することを示しており、HD 269810はこのようなスペクトル型の恒星の典型とされる[6]

半径は、太陽の18倍程度だが、表面温度が非常に高いので、太陽の200万倍くらい明るい。高い温度は、高速の恒星風を生み出し、その終端速度は3,750km/sに達する[7]。この恒星風で、1年当たり太陽質量の100万分の1という質量の物質を放出している[3]1995年の段階では、HD 269810の質量は太陽の190倍で、既知の恒星の中で最も大きいとされていた[7]が、その後の研究で太陽の150倍程度であろうと考えられている[4]

進化

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HD 269810くらい質量の大きい恒星が、大マゼラン雲に典型的な金属量だったとすると、強い対流自転による撹拌で、化学的にほぼ均質な状態で進化すると予想される[8]。そのような恒星の表面での組成は、水素核融合が起こっている段階でも、ヘリウム、窒素が過剰になる。

この先は、高光度青色変光星を経ずにウォルフ・ライエ星へと進化し、ウォルフ・ライエ星としての進化を経てIc型超新星(またはIb型)となり、後にはブラックホールが残ると考えられる[9]。全体での寿命はおよそ200-300万年で、そのうち大半をO型星として過ごす。

高速で自転する大質量星は、最終的に極超新星として、長周期ガンマ線バーストを起こすことが期待されるが、HD 269810のように質量があまりに大きいと、激しい質量放出と外層の急膨張のせいで、自転速度がどんどん低下すると予想され、長周期ガンマ線バーストにはならないのではないかと考えられる[8]

脚注

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注釈

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  1. ^ 距離(光年)は、3.26×距離(パーセク)により計算。
  2. ^ 光度と表面温度から、シュテファン=ボルツマンの法則に基づいて計算。
  3. ^ 出典での表記は、

出典

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  1. ^ a b c d e Walborn, Nolan R.; et al. (2002-08), “Far Ultraviolet Spectroscopic Explorer Atlas of OB Stars in the Magellanic Clouds”, Astrophysical Journal Supplement Series 141 (2): 443-468, Bibcode2002ApJS..141..443W, doi:10.1086/340571 
  2. ^ a b c d HD 269810 -- Emission-line Star”. SIMBAD. CDS. 2018年1月17日閲覧。
  3. ^ a b c Evans, C. J.; et al. (2010-06), “A Massive Runaway Star from 30 Doradus”, Astrophysical Journal Letters 715 (2): L74-L79, arXiv:1004.5402, Bibcode2010ApJ...715L..74E, doi:10.1088/2041-8205/715/2/L74 
  4. ^ a b c d e Walborn, Nolan R.; et al. (2004-06), “A CNO Dichotomy among O2 Giant Spectra in the Magellanic Clouds”, Astrophysical Journal 608 (2): 1028-1038, arXiv:astro-ph/0403557, Bibcode2004ApJ...608.1028W, doi:10.1086/420761 
  5. ^ Penny, Laura R.; et al. (2004-12), “Effects of Metallicity on the Rotational Velocities of Massive Stars”, Astrophysical Journal 617 (2): 1316-1322, arXiv:astro-ph/0409757, Bibcode2004ApJ...617.1316P, doi:10.1086/425573 
  6. ^ Walborn, Nolan R. (1982-03-01), “The O3 stars”, Astrophysical Journal 254 (2): L15-L17, Bibcode1982ApJ...254L..15W, doi:10.1086/183747 
  7. ^ a b Walborn, N. R.; et al. (1995-11), “The physics of massive OB stars in different parent galaxies. 1: Ultraviolet and optical spectral morphology in the Magellanic Clouds”, Publications of the Astronomical Society of the Pacific 107 (708): 104-119, Bibcode1995PASP..107..104W, doi:10.1086/133524 
  8. ^ a b Köhler, K.; et al. (2015-01), “The evolution of rotating very massive stars with LMC composition”, Astronomy & Astrophysics 573: A71, arXiv:1501.03794, Bibcode2015A&A...573A..71K, doi:10.1051/0004-6361/201424356 
  9. ^ Yusof, Norhasliza; et al. (2013-08), “Evolution and fate of very massive stars”, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 433 (2): 1114-1132, arXiv:1305.2099, Bibcode2013MNRAS.433.1114Y, doi:10.1093/mnras/stt794 

関連項目

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外部リンク

[編集]

座標: 星図 05h 35m 13.905s, −67° 33′ 27.51″