コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

L-セレクチン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
SELL
PDBに登録されている構造
PDBオルソログ検索: RCSB PDBe PDBj
PDBのIDコード一覧

2LGF, 3CFW

識別子
記号SELL, CD62L, LAM1, LECAM1, LEU8, LNHR, LSEL, LYAM1, PLNHR, TQ1, selectin L
外部IDOMIM: 153240 MGI: 98279 HomoloGene: 539 GeneCards: SELL
遺伝子の位置 (ヒト)
1番染色体 (ヒト)
染色体1番染色体 (ヒト)[1]
1番染色体 (ヒト)
SELL遺伝子の位置
SELL遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点169,690,665 bp[1]
終点169,711,702 bp[1]
遺伝子の位置 (マウス)
1番染色体 (マウス)
染色体1番染色体 (マウス)[2]
1番染色体 (マウス)
SELL遺伝子の位置
SELL遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点163,889,551 bp[2]
終点163,911,750 bp[2]
RNA発現パターン
さらなる参照発現データ
遺伝子オントロジー
分子機能 protease binding
heparin binding
血漿タンパク結合
glycosphingolipid binding
cell adhesion molecule binding
炭水化物結合
calcium ion binding
オリゴ糖結合
金属イオン結合
細胞の構成要素 integral component of membrane
cell surface
細胞膜

external side of plasma membrane
secretory granule membrane
integral component of plasma membrane
生物学的プロセス response to ATP
細胞接着
regulation of immune response
好中球脱顆粒
leukocyte migration
calcium-dependent cell-cell adhesion via plasma membrane cell adhesion molecules
leukocyte tethering or rolling
出典:Amigo / QuickGO
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)

NM_000655

NM_001164059
NM_011346

RefSeq
(タンパク質)

NP_000646

NP_001157531
NP_035476

場所
(UCSC)
Chr 1: 169.69 – 169.71 MbChr 1: 163.89 – 163.91 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
閲覧/編集 ヒト閲覧/編集 マウス

L-セレクチン: L-selectin)またはCD62Lは、白血球胚盤胞の細胞表面に存在する細胞接着分子である。ヒトでは、SELL遺伝子にコードされる。L-セレクチンはセレクチンファミリーに属し、このファミリーのタンパク質はシアリルルイスX英語版(sLeX)を含有するシアル化糖鎖を認識する[5]。L-セレクチンは白血球と内皮細胞の接着を促進することで、自然免疫応答と獲得免疫応答の双方において重要な役割を果たしている[6]。こうした相互作用は、単球好中球炎症組織への移動や、リンパ球の二次リンパ器官へのホーミングに必要不可欠である。また、L-セレクチンはリンパ球系へプライミングされた造血幹細胞でも発現しており、こうした幹細胞の一次リンパ器官への移動に関与している可能性がある[6]。こうした免疫応答における機能に加えて、L-セレクチンは細胞上にも発現しており、胚盤胞の着床の際に子宮内膜上皮への接着を促進する[7]

L-セレクチンは、N末端のC型レクチン英語版ドメイン、EGF様ドメイン、2つのコンセンサスリピート(consensus repeat、CR)、細胞外切断部位、短い膜貫通ドメイン、そして細胞質テールから構成される。L-セレクチンはADAM17英語版によって切断される[6][8]

発現

[編集]

L-セレクチンは大部分の循環白血球で恒常的に発現している[6]。こうした分子はエクトドメインシェディングによって次第に放出され、新たに合成されたL-セレクチンタンパク質で置き換えられてゆく。シェディングは主にADAM17による切断を介して行われる。

ヒトのL-セレクチン遺伝子(SELL)は1番染色体の長腕(1q24.2)に、セレクチンファミリーの他の遺伝子と並んで(L-、P-E-セレクチンの順)位置している。ヒトのSELL遺伝子は10個のエクソンから構成され、転写因子FOXO1の制御下に置かれている[9]。マウスのSell遺伝子は9個のエクソンから構成される[6]

その後のスプライシング過程を経て、mRNAは予測分子量30kのタンパク質へと翻訳される。細胞種特異的なグリコシル化を受け、最終的な分子量はリンパ球では65k、好中球では100kとなる。L-セレクチンのグリコシル化のパターンによって個々の細胞の特異的機能が指示されている可能性が高いが、詳細な研究はなされていない[6]

ナイーブT細胞はL-セレクチンを発現しており、リンパ節への移動に必要となる。エフェクターメモリーT細胞への終末分化によってL-セレクチンはシェディングされ、転写レベルでも不活化される。一方、セントラルメモリーT細胞ではL-セレクチンを発現し続ける[6]。好中球では、L-セレクチンの発現レベルは細胞の老化とともに低下する。単球では、classical monocyteはL-セレクチンを高レベルで発現しているのに対し、intermediate monocyteやnon-classical monocyteでは発現レベルは低い。また、単球のtransendothelial migration(TEM)の際にL-セレクチンのシェディングが生じる[6]

L-セレクチンの発現は、卵母細胞や初期胚でも観察される。胚盤胞はL-セレクチンを発現しているが、表面への発現は透明帯から出た後に生じる。胚盤胞や細胞性栄養膜英語版が子宮内膜へ接着した際には、L-セレクチンの発現の増加が観察される。L-セレクチンの発現は妊娠17週までに低下し、その後出産まで低レベルもしくは検出できないレベルに維持される[7]

機能

[編集]

リンパ球

[編集]

L-セレクチンは、リンパ球が高内皮細静脈英語版を介して二次リンパ器官へ移行するための「ホーミング受容体」として機能する。内皮細胞上に位置するリガンドはL-セレクチンを発現しているリンパ球に結合し、リンパ球の血中移動速度を低下させることで、その地点での二次リンパ器官への移行を促進する[10]。L-セレクチンはT細胞の表面に広く存在する。まだ特異的抗原に遭遇していないナイーブT細胞は、抗原へ遭遇するために二次リンパ器官へ移行する必要がある。抗原と遭遇したセントラルメモリーT細胞は、二次リンパ器官内へ局在するためにL-セレクチンを発現し、抗原に再遭遇した際の増殖に備えている。エフェクターメモリーT細胞はL-セレクチンを発現しておらず、末梢を循環して抗原と再遭遇した際に迅速なエフェクター機能を発揮する。骨髄前駆細胞上でのL-セレクチンの高発現は、その細胞がリンパ球系への分化が決定されつつあることの初期の徴候となる[11]

好中球と単球

[編集]

リンパ球の二次リンパ器官へのホーミングにおける役割と同様、単球や好中球の表面に発現したL-セレクチンは高内皮細静脈の内皮細胞への接着の第一段階(ローリング)の促進に必要不可欠である[5][6]。活性化された内皮細胞への接着によって免疫細胞は血流から離れて炎症組織へ移動することが可能となり、免疫応答の重要段階となっている。ローリングやTEMの過程で、L-セレクチンの細胞膜からのシェディングが開始される場合があり[5]、抗体によってL-セレクチンをクラスタリングさせた後にはp38MAPKの活性化によって駆動されてシェディングが引き起こされる[6]。L-セレクチンの切断後に残った膜結合断片もまた、間質でのサイトカイン勾配に従った好中球の走化性に重要な役割を果たしていることが示唆されている[6]。L-セレクチンのシェディングは好中球のTEMの厳密な帰結であるわけではなく、急性炎症もしくは慢性炎症への好中球の移動において細胞接着分子の発現やターンオーバーに差異がみられる場合があることが観察されている[12]

L-セレクチンのシェディングは単球でも生じるが、接着過程の初期段階ではなくTEM時にのみ開始される[6]。L-セレクチンのシェディングはTEM中の単球の先導端から特異的に生じ、この過程が細胞の指向性移動の促進に関与していることが示唆される[6]

[編集]

ヒトの胚盤胞は子宮への着床に先立って、L-セレクチンを発現する。リンパ球における機能と同様に、L-セレクチンは子宮内膜上皮の浸潤部位への接着を促進する受容体として機能する。胚はヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を分泌し、浸潤部位の子宮上皮上に存在する抗接着因子MUC1英語版をダウンレギュレーションする。MUC1が除去されて子宮上皮のオリゴ糖リガンドが露出することで栄養膜細胞上のL-セレクチンは結合可能となり、続いて胚の接着と浸潤が行われる[13]

臨床的意義

[編集]

HIV

[編集]

CD4陽性T細胞上に発現したL-セレクチンは、HIVの接着や侵入を媒介していることが示唆されている。HIVのエンベロープ上に存在する多くの糖タンパク質の1つであるgp120に対し、L-セレクチンは結合する。この結合はT細胞へのローリング接着を可能にし、HIVが標的受容体へ結合する過程を促進している[14]。細胞への感染によってL-セレクチンのシェディングが開始され、L-セレクチンの喪失は新たなウイルスの放出を補助している可能性が高い。

妊娠の異常

[編集]

L-セレクチンのリガンドへの結合は、ヒトの妊娠時の胚の着床に重要な役割を果たしている。上皮におけるL-セレクチンリガンドの発現の欠損は不妊と関係しており、発現の増加は異所性妊娠との関係が示唆されている[7]

がん

[編集]

L-セレクチンの接着作用は、がんのプログレッションに寄与していることが示唆されている。L-セレクチンを介した相互作用は慢性リンパ性白血病細胞がリンパ節へ移動する過程に関与しており、そこでの増殖と生存を可能にしている。さらに、L-セレクチンを介した相互作用は転移にも関与している可能性がある[15]

出典

[編集]
  1. ^ a b c GRCh38: Ensembl release 89: ENSG00000188404 - Ensembl, May 2017
  2. ^ a b c GRCm38: Ensembl release 89: ENSMUSG00000026581 - Ensembl, May 2017
  3. ^ Human PubMed Reference:
  4. ^ Mouse PubMed Reference:
  5. ^ a b c “A head-to-tail view of L-selectin and its impact on neutrophil behaviour”. Cell and Tissue Research 371 (3): 437–453. (March 2018). doi:10.1007/s00441-017-2774-x. PMC 5820395. PMID 29353325. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5820395/. 
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m “L-selectin: A Major Regulator of Leukocyte Adhesion, Migration and Signaling”. Frontiers in Immunology 10: 1068. (2019-05-14). doi:10.3389/fimmu.2019.01068. PMC 6527602. PMID 31139190. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6527602/. 
  7. ^ a b c “Role of selectins and their ligands in human implantation stage”. Glycobiology 27 (5): 385–391. (May 2017). doi:10.1093/glycob/cwx009. PMID 28115423. 
  8. ^ “Selectins-The Two Dr. Jekyll and Mr. Hyde Faces of Adhesion Molecules-A Review”. Molecules 25 (12): 2835. (June 2020). doi:10.3390/molecules25122835. PMC 7355470. PMID 32575485. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7355470/. 
  9. ^ “Foxo1 links homing and survival of naive T cells by regulating L-selectin, CCR7 and interleukin 7 receptor”. Nature Immunology 10 (2): 176–184. (February 2009). doi:10.1038/ni.1689. PMC 2856471. PMID 19136962. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2856471/. 
  10. ^ Robbins Pathologic Basis of Disease. Philadelphia: W.B Saunders Company. (1998). ISBN 0-7216-7335-X 
  11. ^ “Lymphoid priming in human bone marrow begins before expression of CD10 with upregulation of L-selectin”. Nature Immunology 13 (10): 963–971. (October 2012). doi:10.1038/ni.2405. PMC 3448017. PMID 22941246. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3448017/. 
  12. ^ “Neutrophil recruitment to inflamed joints can occur without cellular priming”. Journal of Leukocyte Biology 105 (6): 1123–1130. (June 2019). doi:10.1002/JLB.3AB0918-369R. PMID 30570778. 
  13. ^ “Human placentation from nidation to 5 weeks of gestation. Part I: What do we know about formative placental development following implantation?”. Placenta 33 (5): 327–334. (May 2012). doi:10.1016/j.placenta.2012.01.020. PMID 22374510. 
  14. ^ “The Role of L-Selectin in HIV Infection”. Frontiers in Microbiology 12: 725741. (2021-09-29). doi:10.3389/fmicb.2021.725741. PMC 8511817. PMID 34659153. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8511817/. 
  15. ^ “Targeting Selectins and Their Ligands in Cancer”. Frontiers in Oncology 6: 93. (2016). doi:10.3389/fonc.2016.00093. PMC 4834419. PMID 27148485. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4834419/. 

関連文献

[編集]

外部リンク

[編集]