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「オッペンハイマー (映画)」の版間の差分

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2023年9月4日 (月) 18:13時点における版

Oppenheimer(原題)
監督 クリストファー・ノーラン
脚本 クリストファー・ノーラン
原作 カイ・バード英語版
マーティン・J・シャーウィン
『オッペンハイマー「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』(PHP研究所
製作 エマ・トーマス
クリストファー・ノーラン
出演者 キリアン・マーフィー
エミリー・ブラント
マット・デイモン
ロバート・ダウニー・Jr.
フローレンス・ピュー
音楽 ルドウィグ・ゴランソン
撮影 ホイテ・ヴァン・ホイテマ
編集 ジェニファー・レイム英語版
製作会社 シンコピー・インク
アトラス・エンターテインメント
配給 アメリカ合衆国の旗 ユニバーサル・ピクチャーズ
日本の旗 東宝東和
公開 アメリカ合衆国の旗 2023年7月21日
上映時間 180分
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $100,000,000[1]
興行収入

世界の旗$852,984,000[2][3]

アメリカ合衆国の旗カナダの旗$310,271,000[2][3]
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Oppenheimer』(オッペンハイマー)は、2023年公開のアメリカ合衆国の映画。世界初の原子爆弾を開発した「原爆の父」として知られる理論物理学者ロバート・オッペンハイマーの生涯を描いた伝記スリラー映画クリストファー・ノーラン脚本監督

カイ・バード英語版マーティン・J・シャーウィンによる書籍『オッペンハイマー「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』を原作としている[注 1]

本作は、ユニバーサル・ピクチャーズ配給により、2023年7月21日に全米公開された。日本での公開は発表されていない[4]

ストーリー

赤狩りの嵐が吹き荒れる1954年、核兵器技術など機密情報の漏洩を疑われたロバート・オッペンハイマーが公聴会で追及を受けるところから物語が始まる。

1926年ハーバード大学を最優秀の成績で卒業したオッペンハイマーはイギリスのケンブリッジ大学に留学するが、内向的な性格からそこでの環境に嫌気が差して、ドイツのゲッティンゲン大学に留学する。留学先で出会ったニールス・ボーアヴェルナー・ハイゼンベルクの影響から理論物理学者の道を歩み始める。1929年に博士号を取得した彼はアメリカに戻り、若く優秀な科学者としてカリフォルニア大学で教鞭を取っていた。オッペンハイマーは自身の研究や活動を通して核分裂を応用した原子爆弾実現の可能性を感じており、1938年にはナチス・ドイツ核分裂が発見されるなど原爆開発は時間の問題と考えていた。

第二次世界大戦が中盤に差し掛かった1942年10月、オッペンハイマーはアメリカ軍のレズリー・グローヴス准将から呼び出しを受ける。ナチス・ドイツの勢いに焦りを感じたグローヴスは原爆を開発・製造するための極秘プロジェクト「マンハッタン計画」を立ち上げ、優秀な科学者と聞きつけたオッペンハイマーを原爆開発チームのリーダーに抜擢した。1943年、オッペンハイマーはニューメキシコ州にロスアラモス国立研究所を設立して所長に就任、全米各地の優秀な科学者やヨーロッパから亡命してきたユダヤ人科学者たちとその家族数千人をロスアラモスに移住させて本格的な原爆開発に着手する。オッペンハイマーはリーダーシップを発揮して精力的に開発を主導、ユダヤ人でもある彼は何としてもナチス・ドイツより先に原爆を完成させる必要があった。一方で原爆開発に成功しても各国間の開発競争や更に強力な水素爆弾の登場を危惧していた。

1945年5月8日に当初目標としていたナチス・ドイツが降伏、原爆開発の継続を疑問視する科学者もいたが、未だ戦い続ける日本に目標を切り替えて開発を続けてゆく。1945年7月16日、オッペンハイマーたち開発チームが多大な労力を費やした研究は遂に実を結び、人類史上初の核実験「トリニティ」を成功させた。原爆の凄まじい威力を目の当たりにして実験成功を喜ぶ科学者や政治家、軍関係者たちを見たオッペンハイマーは成功に安堵する反面、言い知れぬ不安を感じる。原爆完成を受けてハリー・S・トルーマン大統領は日本を無条件降伏に追い込み、ヨーロッパで影響力を強めるソ連に対する牽制として広島と長崎へ原爆を投下、ついに日本が無条件降伏して第二次世界大戦は終結した。

戦後オッペンハイマーは原爆の父と呼ばれ、多くのアメリカ兵を救った英雄として賞賛されることに困惑、既に戦力を失って降伏間近だった日本への原爆投下によって多くの犠牲者が出た事実を知って深く苦悩していた。1949年、事前の予想より早くソ連が原爆開発に成功、衝撃を受けたアメリカでは水爆など核兵器の推進が盛んに議論される事態となった。当時、アメリカ原子力委員会の顧問だったオッペンハイマーはソ連との核開発競争を危惧して水爆開発に反対する。トルーマン大統領に直接会談を申し入れ、核兵器がもたらす甚大な被害を憂慮して国際的な核兵器管理機関の創設を提案したが、大統領は彼の姿勢を弱腰と決めつけ個人的な嫌悪と不信感を覚えて提案を無視した。その行動が核兵器推進派の科学者や政治家との対立に繋がり、彼のその後の人生を暗転させてゆく。

キャスト

製作

公開

アメリカでは、人類最初の核実験(トリニティ実験)から78年にあたる2023年7月16日から5日後の同月21日に公開された[5]。なお、オッペンハイマー役のキリアン・マーフィとジーン・タットロック役のフローレンス・ピューセックスするシーンでピューがトップレスになることから、モーション・ピクチャー・アソシエーション(アメリカ映画協会)が定めるレイティングシステムに抵触したため、R(Restricted)指定作品[注 3]となった[6][7]

2023年7月13日、イギリスロンドンにてプレミアイベントが行われた。なお、全米俳優組合のSAG-AFTRAがイベントの最中にストライキを開始することを受けて、同イベントの開始時間を1時間繰り上げた上で同組合に加入している出演者が途中で退席する事態となった[4][8][9][10][11]

韓国では日本統治からの解放記念日(光復節)にあたる2023年8月15日に公開となった。この事について、ユニバーサル・ピクチャーズの韓国法人は本作品がIMAXで撮影していることから、『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(パラマウント・ピクチャーズ配給)など、他のIMAX映画との間で上映館獲得の争奪戦を回避したいことや光復節が祝日であることから多くの人が鑑賞することができる飛び石連休を選択したのが理由であるとコメントしている[5]

インド中東ではヌードに対する規制が厳しいことから、これらの国と地域では一部の場面をCGなどで編集したバージョンを公開した[12]

日本

2023年8月時点で日本での公開は発表されておらず、日本語による公式サイトも設けられていない[13][14]。この事について、日本国内でのユニバーサル・ピクチャーズ作品の配給権を保有している東宝東和の関係者はブルームバーグの取材に対し、「オッペンハイマーの配給や公開に関する決定権はユニバーサル・ピクチャーズにある」とコメントしている[15]

一方で7月や8月に公開してしまうと広島市への原子爆弾投下日である8月6日や長崎市への原子爆弾投下日である8月9日、終戦の日である8月15日と重なるのを避けるためとの指摘[15][16][17]があるが、アメリカで製作された映画は北米から数か月遅れて公開されるのはよくあることで本作品が特別な訳ではないとの指摘[18][19]もある。

興行収入

2023年8月6日、ユニバーサル・ピクチャーズは本作品の世界興行収入が推定5億5290万ドルとなり、5億ドル(日本円で約710億円)を突破したことを発表した[7]

これは2023年に公開されたR指定作品の中では最多収入となり、ユニバーサルが配給したR指定映画作品の中ではアメリカ国内最速で2億ドルの大台に乗ったことになる[7]

また、世界興行収入が5億ドルを突破した伝記映画としては『ボヘミアン・ラプソディ』(20世紀フォックス映画配給)、『パッション』(アイコン・プロダクションズ配給)、『アメリカン・スナイパー』(ワーナー・ブラザース配給)に次いで4作品目となり、ユニバーサルが配給した第二次世界大戦を舞台にした映画の興行収入としても史上最多となった[7]

作品の評価

本作は批評家と観客の双方から絶賛されている。映画批評集積サイトのRotten Tomatoesには220件のレビューがあり、批評家支持率は93%、平均点は10点満点で8.8点となっている。観客支持率は95%、平均点は5点満点で4.7点となっている。サイト側による批評家の見解の要約は「クリストファー・ノーランは『オッペンハイマー』によって新たな偉業を成し遂げた。キリアン・マーフィーの離れ業とも言うべき演技と驚くべき映像美に心を奪われる」となっている[20]。また、Metacriticには60件のレビューがあり、加重平均値は90/100となっている[21]

映画監督・脚本家のポール・シュレイダーは「今世紀最高かつ最も重要な映画だ。今年劇場で1本だけ映画を観るとすれば『オッペンハイマー』を選ぶべき。自分は熱心なノーランファンというわけではないが、ドアを吹き飛ばされたよ」と絶賛した[22]

なお、原子爆弾投下による広島長崎での核被害の惨状が描かれていないとの批判も一部で発生している。この事について、ノーランは「(本作品は)主人公であるオッペンハイマーの視点から描かれたものであり、彼は他の人達と同じようにラジオを通じて日本の2都市(広島と長崎)に原爆が落とされたことを初めて知った。決して主人公を美化するためではない」と反論している[6][23]。また、映画評論家の町山智浩も「この映画はオッペンハイマーの一人称で描かれている。広島の惨状を写したスライドも、彼は罪悪感によって見ることができなかった。たとえばホロコーストを扱った作品においては、犠牲者の惨状を見せないことが彼らに対する敬意であるとの論調が主流になってきている。見せることが全てではない」としている[24]

アメリカでは本作品と同日に公開されたコメディ映画の『バービー』(ワーナー・ブラザース配給)と一緒に鑑賞する者が多いと報じられており、インターネット上では両方の映画のタイトルを合わせた「バーベンハイマー」という造語(インターネット・ミーム)も誕生した[25]

脚注

注釈

  1. ^ NHK製作のドキュメンタリー『フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿』にシャーウィンが出演している。またこの番組では2016年にオッペンハイマーについて二回、マンハッタン計画、水素爆弾をめぐるエドワード・テラーとの確執を取材・放送した。
  2. ^ ドイツ語風の「ストラウス(シュトラウス)」表記もみられるが、本人はこのように呼ばれる事を嫌い"straw"z[strɔːz]と呼ぶよう求めた。英語版wikiより。
  3. ^ 17歳未満の観客に対して、成人と一緒に鑑賞するにように求めている。

出典

  1. ^ Keegan, Rebecca (July 14, 2023). “"This Can't Be Safe. It's Got to Have Bite": Christopher Nolan and Cast Unleash Oppenheimer. The Hollywood Reporter. オリジナルのJuly 20, 2023時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20230720013003/https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-features/oppenheimer-christopher-nolan-cast-interview-film-1235535418/ July 15, 2023閲覧。. 
  2. ^ a b Oppenheimer (2023)”. Box Office Mojo. IMDb. August 21, 2023閲覧。
  3. ^ a b Oppenheimer”. The Numbers. Nash Information Services, LLC. September 4, 2023閲覧。
  4. ^ a b Dominick, Nora (2023年7月19日). “試写会からキャストが退席。ハリウッドのストライキ決行で、トム・クルーズの来日も中止に”. BuzzFeed. 2023年7月26日閲覧。
  5. ^ a b 米国は原爆実験日、韓国は光復節…映画『オッペンハイマー』公開日の政治学”. 中央日報 (2023年8月17日). 2023年8月22日閲覧。
  6. ^ a b 猿渡由紀 (2023年8月2日). “映画「オッペンハイマー」広島の被害描かない疑問”. 東洋経済新報. 2023年8月8日閲覧。
  7. ^ a b c d 「オッペンハイマー」興収5億ドルを突破、第2次大戦映画として最多”. CNN.co.jp (2023年8月7日). 2023年8月8日閲覧。
  8. ^ Ravindran, Manori (2023年7月13日). “‘Oppenheimer’ Cast Leaves U.K. Premiere as SAG-AFTRA Strike Imminent”. Variety. 2023年7月15日閲覧。
  9. ^ “アメリカの俳優労組がストライキ、過去43年で最大規模 映画イベントなどに影響も”. BBCNEWS JAPAN. (2023年7月14日). https://www.bbc.com/japanese/66197605 2023年7月15日閲覧。 
  10. ^ 平田雄介 (2023年7月15日). “ハリウッド俳優らスト突入、長期化で5000億円超損失も”. 産経新聞. 2023年7月26日閲覧。
  11. ^ 日本テレビ (2023年7月15日). “米 俳優ら43年ぶりストライキ 「安い金額では続けられない」「1日分の日当で私たちの顔をスキャンし、AIで永久に使おうとしている」”. 日テレNEWS. 2023年7月26日閲覧。
  12. ^ 市川遥 (2023年7月26日). “CGゼロで作られた『オッペンハイマー』、インド公開版では裸の女優にCG黒ドレスが着せられる”. シネマトゥデイ. 2023年7月26日閲覧。
  13. ^ 映画「バービー」が〝原爆ハートマーク〟で謝罪 巻き込まれたもう1つの米映画”. 東京スポーツ (2023年8月2日). 2023年8月2日閲覧。
  14. ^ 米ワーナー・ブラザース本社が謝罪 原爆とバービーの合成画像に好意、日本で批判噴出”. CNN.co.jp (2023年8月2日). 2023年8月2日閲覧。
  15. ^ a b 舞大樹 (2023年8月1日). “原爆連想の画像へ好反応で批判高まる、米映画めぐり配給元は遺憾表明”. Bloomberg.com. 2023年8月2日閲覧。
  16. ^ 中谷直登 (2023年6月30日). “ノーラン新作『オッペンハイマー』日本公開されるのか? ─ 米記事を受けて考える”. THE RIVER. 2023年8月2日閲覧。
  17. ^ 冷泉彰彦 (2023年7月26日). “クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』を日本で今すぐ公開するべき理由”. Newsweek日本版. p. 2. 2023年8月2日閲覧。
  18. ^ Rubin, Rebecca (2023年6月29日). “Will Christoper Nolan’s ‘Oppenheimer’ Get a Theatrical Release in Japan?”. Variety. 2023年8月2日閲覧。
  19. ^ Peter C. Pugsley (2023年8月13日). “世界唯一の被爆国・日本で『オッペンハイマー』はヒットするのか? 豪研究者が考察”. クーリエ・ジャポン. 2023年8月14日閲覧。
  20. ^ Oppenheimer - Rotten Tomatoes” (英語). www.rottentomatoes.com (2023年7月21日). 2023年7月21日閲覧。
  21. ^ Oppenheimer, https://www.metacritic.com/movie/oppenheimer 2023年7月21日閲覧。 
  22. ^ ‘Oppenheimer’ Is the ‘Best’ and ‘Most Important Film of This Century,’ Raves Paul Schrader: ‘This One Blows the Door Off the Hinges’”. 2023年7月22日閲覧。
  23. ^ 日米の原爆観、違い浮き彫り 「バーベンハイマー」映画騒動”. 時事通信 (2023年8月7日). 2023年8月8日閲覧。
  24. ^ 聴く映画秘宝「町山智浩のアメリカ特電」19回『オッペンハイマー』を観る前に”. note(ノート) (2023年8月10日). 2023年8月17日閲覧。
  25. ^ 五十嵐大介 (2023年7月25日). “映画「バービー」、週末で今年最高の収入 「原爆の父」の作品も好調”. 朝日新聞. 2023年7月26日閲覧。

外部リンク

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