いとしのエリー (漫画)
いとしのエリー | |
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ジャンル | 恋愛漫画 |
漫画 | |
作者 | 高見まこ |
出版社 | 集英社 |
掲載誌 | 週刊ヤングジャンプ |
レーベル | ヤングジャンプ・コミックス |
発表号 | 1983年 - 1987年 |
巻数 | 全20巻 |
映画 | |
監督 | 佐藤雅道 |
脚本 | 藤長野火子 |
音楽 | 崎谷健次郎 |
制作 | ニュー・センチュリー・プロデューサーズ |
製作 | フジテレビジョン |
配給 | 東宝 |
封切日 | 1987年4月11日 |
上映時間 | 103分 |
テンプレート - ノート |
『いとしのエリー』は、1983年[注 1] から1987年まで週刊ヤングジャンプに連載されていた高見まこによる日本の漫画作品、及びそれを基にした日本の映画作品。
概要
[編集]新任の女教師・串田と都立高校に通うごく普通の高校生の少年・上野との恋模様を描いた恋愛漫画。連載が購買年齢層が成年付近である週刊ヤングジャンプ(以下YJ)であったことから、一般的にタブーとされている未成年者の喫煙・飲酒シーンや、生徒と教師の恋愛と過激な性描写があった。この禁断の恋愛や年下男性と年上女性の恋愛といった作風は以降の高見作品の基になっている。ヤングジャンプ・コミックス全20巻の他、復刻版も多数発売され、オンライン配信もされている。
連載は上野が高校1年生の夏休みから始まり、ほぼ実際の季節に準じて学校行事やスキー、五山送り火などのイベントが進行。連載初期はHをしたがる上野と、それをかわす串田をコミカルに描いていたが、上野の恋敵となる真名古や平石、そして一途に上野を想う今泉の登場以降はさまざまな人間関係が入り乱れる恋愛ドラマとなっていくと同時に、上野の精神的な成長を描く物語となる。最終回は高校生活最後の行事である卒業式で幕を閉じた。
またタイトルや登場人物に当時の流行・有名人などが反映されており[注 2]、現代劇であった事から当時の時世が色濃く反映されている(後述)。
登場人物
[編集]都立三田町高校
[編集]架空の学校。清水や本土寺が髭を生やしても許容されており、校規はややゆるい傾向にあるがアルバイトは原則禁止されている。生徒が放課後に渋谷に行くことが出来、上野が高田馬場(のち高円寺・西荻)、ヤン坊(後に枝理子も)が実家の五反田から通学している。通常は私服通学で標準服はブレザー。
- 串田枝理子 (くしだ えりこ)
- 上野は「エリー」と呼ぶ(たまに真名古も)。上野の7歳年上。三田町高に新任で入ってきた美人英語教師で2年生まで上野を受け持つ。夏休みに鎌倉の海岸で偶然出会った上野と親密になり、生徒と教師の一線を越えてしまう。が、それは“ひと夏の関係(=遊び)”と最初から割り切っていて、上野にもそれを受け入れさせ、その後の上野のアプローチも立場もあって意に介していなかったが、それでもめげない上野の一途な思いに次第に惹かれ、享受してゆく。だがそれは上野が学生としての本分を忘れ、串田の立場を顧みない行動を次第に助長させる要因となり、その全てを受け入れた自身が疲弊し、箱根旅行が真名古に知れて上野と別れる元凶となった。
- 大学生(慶應大学)時代は遊び人だったことを自認し、六本木のディスコに通いつめたり、パチプロ並みにパチンコに興じていた。また当時は中村と不倫、心酔しきっていて、真名古の思いは全く知らなかった。
- 恋愛に関しては相手にニコニコ応じているうちに、気づいたらにっちもさっちもいかなくなる方だと言われ、納得している。しかし一度自分が信じたことは父親譲りの頑固な性格もあり頑なに崩そうとはしない。
- 8歳離れた弟(康幸)がいる。串田曰く「上野よりしっかりした子」。
- 上野晋平(うえの しんぺい)
- 1月13日生。1年生の夏休みに海岸でのアイス売りのバイトの最中に串田と出会う。串田が初体験の相手だったがそれは前述の“ひと夏の関係”でしかなく、串田のそっけない態度にかなり憤慨した。しかし思いを諦めきれずアプローチし続け、次第に串田の想いを引き寄せてゆく。だが串田に執着するあまりに勉学はそっちのけだった為に自ら自分の首を絞め、また串田の社会的立場を考えない甘えた言動が仇となり、串田は上野の問題があるごとに頭を下げ、周囲に関係がバレないように警戒し、疲弊してゆく。
- 成績は最初こそ中の上だったがその後は“赤組(赤点組)”で、夏休みの出会い以降は進級・進学が危ぶまれ、3年生になる前までテストがあるごとに補習を受けていた。さらに家出や問題行動が累積した事で卒業が危ぶまれる事態に発展する。
- 本人曰く「母性本能を刺激するタイプ」。現に上野と交際した女性は皆、上野の為にあれこれと尽くしている。しかし優柔不断な性格が災いし、特に今泉と串田の件に関しては大きなトラブルを生んだ。
- 真名古敬一(まなこ けいいち)
- 上野の3年生時の担任。串田の大学時代の同回生だが、高校時代に1年留学、大学受験で一浪しており串田より2歳年上。さらに生来のストレートな物言いが災いし教員採用試験で不採用となり、串田に数ヶ月遅れて英語の産休補助教員として赴任してきた。長身で美男の九州男児で女子生徒に絶大な人気を誇る。愛車はミニクーパー。大学時代はモテながらも内心は串田に好意を寄せていたが、串田は当時中村に心酔していたことからアプローチは出来なかった。その後正規採用を機に積極的に串田に交際を迫り、周囲にも交際しているように吹聴し外堀も埋めようとする。高校就任直後は上野を子供扱いし軽くあしらっていたが、二人が箱根に3泊旅行していた事を突き止めその関係を知ると、上野を引き離し串田を自分のものにしようと画策する。
- 名前は実在する俳優、真名古敬二から取られている[注 3]。
- 清水文太郎(しみず ぶんたろう)
- 上野、本土寺の三人で「3バカトリオ」と言われる中のひとり。ヒゲを生やし、大人びたプレイボーイ。故に女心もよく理解する。最初は上野と串田の関係を知らず好意を寄せていることを茶化していたが、のちに真剣に恋愛をしていることを誰よりも早く見抜くと二人の仲を黙認、上野に助力するようになる。上野の悪友であり良き相談相手である。隣野を説得し上野と離れさせてからは5股をすべて清算し隣野と純愛に発展する。4月生まれのため高校3年生(18歳)になってからすぐに自動車免許を取得した。実家は美容室。初対面の上野や本土寺に胸やパンティーを見せる豪快な姉・文緒がいる。
- 恋愛については高校生でありながら大学生や社会人の女性を手玉に取るなど達観の域に達しており、女性心理を上手く利用することもある。が、隣野には内緒で5股かけていたことで頭が上がらない。名前の由来は清水健太郎。
- 隣野美代子(となりの みよこ)
- 明るい性格と可愛らしさ、器量の良さで学校でも人気者。そんな彼女が誰かと付き合いたくてバレンタインデーに上野に本命チョコをあげた事から交際をスタートさせる。しかし上野は串田のことばかり考えていつもうわの空で、さらに入院した上野の見舞いで串田と親しくする場面を見て心の中にわだかまりが生じていた。そこに同席していた清水に(上野の優柔不断で隣野が悲しまないように離れるよう)説得され、それを機に清水と付き合うようになる。それ以降も上野の個人講師をするなど仲は良い。兄の成年雑誌などを借りて読んだりすることから男子の嗜好などに明るく、女友達との新しいお店の開拓に目がないミーハーな面を持つ。 名前の由来は浅田美代子(デビュー時のキャッチフレーズ「隣のミヨちゃん」より)。
- 恋愛に関しては中学生時代に彼氏がいたこともあり多少“男慣れ”している。セックスに多少関心はあるものの、真面目な関係の先にあるものと考えている(なので本来は清水のような遊び人タイプは苦手)。上野の気持ちを訊くために後ろから抱きついたり、清水に上目遣いでお願いをするなど「女の武器」の使い方が上手い。
- 串田の事故を機に、清水から自分が上野と付き合う以前より串田と付き合っていた事実を知らされる。が、串田が上野との別離後に表向きは気丈に振る舞いながらも実際はかなり深い悲しみを負っていた事がよりショックであった。以降は清水と一緒に上野の後押しをするようになる。
- 本土寺マコト(ほんどじ まこと)
- 3バカトリオのひとり。とは言っても上野らと行動を共にしていただけで学力は高い。常に敬語で「〜デス」「〜デスよ」が口癖。清水と対照的なベビーフェイス。ヒゲを生やしているが、薄くて剃り残しの様になっている。2年生の夏に予備校で出会った後藤順子という彼女が出来るが、真面目すぎる付き合いと手の遅さを清水と上野に馬鹿にされている。軽井沢旅行までは皆と行動を共にしていたが、それ以降は後藤と受験勉強に入り周りの情報に疎くなる。本土寺は実在するモデルがいる[注 4]。
- 串田康幸(くしだ やすゆき)
- 串田の弟。通称「ヤン坊」。奇しくも上野と誕生日が1年違いで体格もほぼ一緒だったことから、誕生日プレゼントの手編みセーターをめぐって上野が勘違いを起こす元となる。上野の事は姉から良いことも悪いことも聞いており、気さくな性格もあって上野と親しくなる。初登場時は中学3年生。のちに三田町高に入学し後輩となり、清水や本土寺とも親しくなる。
- 平石哲哉(ひらいし てつや)
- 慶應大学の英文科に進学する三田町高の卒業生で元テニス部のキャプテンで元生徒会長。有名自動車会社の子息であることはひた隠しにしている。将来留学をする為の口実で春休みから串田に英語の教えを乞い、より接触を謀る。在学中から串田に好意を寄せていた事を上野に知られるが「卒業生の余裕」「社会的立場の安定」で対立する。自分の車(MR2・AW11)で上野と串田の思い出の地と知らず串田と鎌倉を訪れ、ホテルでキスをした後に串田の口から思わず『上野君』と名前がこぼれた事から串田の心の深層に上野が存在する事を知り、大きな挫折を味わい、精神的に追い詰められてゆく。
その他
[編集]- 中村敦(なかむら あつし)
- 慶應大学に勤めていた教授で、大学時代の串田と彼氏との間に強引に割り込み不倫していた。串田を手中に収めるために手段を選ばない自分勝手な性格ではあるものの、その包容力から串田は不倫ながらも“大人の恋愛”に心酔していた。その後、継父の紹介で北海道へ転勤することになり串田を誘うが、串田は両親の大反対に遭い、中村の妻子の事も考え北海道へは行かず中村のもとから去った。しかしその後も串田のことが忘れられず、約1年後によりを戻そうと連絡を取ったことから、串田は思いに決着をつけようと上野を騙し北海道へ単身赴く(この北海道編のストーリーが映画版のプロットとなっている)。名前の由来は中村敦夫。
- 今泉今日子(いまいずみ きょうこ)
- 三田町高校の近くの都立渋山高校の生徒で上野と同学年。ショートヘアで隣野以上に快活で積極的。兄とその友人達とスキー場に居たときに上野が衝突し捻挫、その夜に上野の様子を見に行き意気投合したことがきっかけで三田町高のメンバーと知り合いになり、その後も三田町高へ押しかけ、上野を追いかけるようになる。学力はワセダに推薦入学するレベル[注 5] で物語中の高校生の中では最も優秀。そのことから上野の学力アップのために個人指導を申し出て交際をスタートさせる。その積極的な態度から上野は衝動にかられて遊園地デートでキスをしてしまうが、その後の上野の煮え切らない態度に憤慨し、上野が下宿をした時の引っ越し祝いで酔った勢いでファーストキスの相手が上野だった事を暴露、串田が上野から離れ平石へ傾く要因を作った。物語中盤以降では上智大学への進学を視野に入れている。
- 恋愛については言葉の端端から、何もかも上野が“初めての男性”だったようで、それが故か独占欲が強く、曖昧な事が嫌いな性格もあり好きになったら一直線で周りの事は顧みないが、行き過ぎた行動は事後に反省・謝罪するため、その性格の良さから関係を断ち切れなかった上野の優柔不断の被害者となった。名前の由来は小泉今日子。
物語前半〜中盤ストーリー
[編集]※ 以下の時系列は上野の学年が基準となっている。
物語前半
[編集]高校入学以前 | |
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高校1年生 | |
1学期 (3年2学期後半での回想) |
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夏休み (第1話) |
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2学期 |
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3学期 |
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春休み |
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高校2年生(2学期まで) | |
1学期 |
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夏休み |
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2学期 |
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冬休み |
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物語中盤
[編集]高校2年生(3学期から) | |
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3学期 |
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春休み |
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高校3年生 | |
1学期 |
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夏休み |
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2学期 |
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物語後半から結末まで
[編集]- 交通事故
- 「上野君!」と言いながら車道に飛び出した枝理子は横から走ってきた車に接触しフロントガラスに激突、車は電柱にぶつかり乗車していた人間も怪我を負う大事故となった。幸いスピードはさほど出ておらず身体に外傷は殆ど無かったが、フロントガラスに頭を強打した影響で昏睡状態に陥り面会謝絶となった。清水と隣野は事故の一部始終を目撃していたが後々の事を考え「上野」の言葉を聞いて車道に出たことは伏せた。このことを教えようと清水は京都の上野宅へ連絡を入れるが、そこにはすでに上野の姿はなかった。
- 上野、東京へ
- 枝理子が人形のように空を舞う夢で目が覚めた上野は気が気でなくなり、夜行バスで東京へ舞い戻る。そして以前下宿で世話になった五十嵐家の息子・慎二に事情を説明し初期資金を借り西荻にアパート住まいをすることになった。後日もう一度真意を確かめる為に枝理子のアパートを訪れるが、そこに偶然居合わせた大家から枝理子が交通事故に遭ったことと、再会した清水から枝理子が車道に出た理由を知り愕然とする。後日訪れた病院で、枝理子が意識を取り戻し対面は果たしたのだが、上野が誰なのか分らなくなっていた。その後の検査で家族は判るものの、高校赴任以降の記憶はすべて抜け落ちた、外傷性記憶喪失と判明する。上野は枝理子の真意が聞けなくなったことで東京へ出てきたことの意味を無くすが、一縷の望みをかけて留まることを決意、その後も枝理子の元を訪れるが記憶を取り戻す気配はなかった。
- 真名古の策略と母親の発見
- その後真名古が病室を訪れたが、大学の同級生だったことは記憶していた。真名古が高校の事情を説明すると、枝理子と母から高校の生徒・上野が見舞いにきている話を聞き東京に舞い戻っていることを知る。そこで真名古は枝理子が記憶を取り戻す前に何もかも手中にしてしまおうと計略を練る。一方、今の状態だと一人住まいが出来ないと判断した枝理子は、アパートを一時引き払う事を決断する。そして片付けに訪れた母親がアパートで見たものは、男物のよれた下着と海岸で嬉しそうにしている娘と上野の写真だった。他にも今までのデートの写真が多数見つかり、娘と上野が交際しアパートに呼び込んでいたと結論づける。教え子との恋愛が周囲に漏れると大事になると思った母親は、上野と写っている写真をひとつ残らず紙袋にまとめ娘の目に入らないようにした。帰宅して康幸に学校で姉の妙な噂が立ってないか探るが、特に変わった事がないと聞きひとまずは安心したが、娘の過去は封印し、これ以上上野を近づけないようにしなければと決意する。
- 疑問
- 枝理子の退院直前、枝理子は病院の売店で上野と出会う。病院内での散歩の途中、上野がふいにキスをするが、記憶が戻っていない枝理子は当然上野を怒る。しかしキスされたことになぜか違和感を覚えないでいた。その後真名古の車で実家に帰ってきた枝理子は、荷物の整理の途中でアルバムを発見する。昔の写真を見て懐かしむ枝理子と真名古だったが、2年前の夏以降からアルバムに奇妙な空きが出てくるのを不思議に思う。そこへ上野が花束を持ってやってきたが、母親は玄関で足止めし「もう来ないで欲しい」と告げ、枝理子には「近所の人から」と偽って花束を渡す。
- その後枝理子の両親から好感を得た真名古は、枝理子を連れ出して気分転換にドライブへ出かける。が、枝理子は途中で気分が悪くなってしまう。ホテルで休憩しながら重要な何かを思い出しそうな枝理子。真名古はそれを消し去るように、抱いた。そして真名古は「結婚しよう」と縁談を持ち掛け7年越しの恋を実らせようとする。
- その夜、枝理子は遠くに見える炎と「結婚しよう」「エリー!」と呼ぶ男性の声で目が覚める。何かを思い出しそうで思い出せない、もどかしい気持ちの中で、そもそもなぜ自分が事故に遭ったのか、2年前から何があったのか疑問を抱くようになる。
- 婚約
- ほぼ一日おきに枝理子と逢い、体を重ねあう真名古。しかし毎回の帰りの遅さに業を煮やした枝理子の両親は真名古と枝理子にどういうつもりか問いただす。しかし真名古はここぞとばかりに結婚を申し出る。大学でも一緒であり社会的にも安定した(特に上野と一緒にさせたくない母親は)真名古との結婚に大賛成し、その夜は“前祝い”となった。続けて真名古は九州から従妹の結婚式の為に東京に出てきた両親と枝理子を逢わせ縁談を着々と進めるが、当の枝理子はまるで他人事のようにその様子を見つめていた。果たしてこのまま結婚するべきなのか・・・
- 母親と上野
- 数日枝理子と会えなくなっていた上野は思いが募り枝理子の家までやってきた。雨が降る中どう会おうかと考えあぐねていると帰宅途中のヤン坊と会い、連れられて家の中に入ることに成功した。ヤン坊の好意で服を乾かす間、久々に枝理子と再会した上野。そこで以前送った花束が上野の名前で届いていないことが判明し、母親が二人の交際を知っているのではと感じる。後日上野は再度自宅に行き、母親と話をつけようとする。そこで母親が上野に見せたのは、枝理子に見せないようにした“あの頃の写真”だった。「あなたでは娘を幸せに出来ない」引き離そうとする母親に上野は枝理子が車道に飛び出した理由を話し、二人の時計をもう一度動かしたいと願い出るが、その願いは母親には逆効果となり、真名古と早く婚約することを願うようになる。家を出た上野はそのまま枝理子を待ち続け、持ってきていた花束を直接渡して二人で会う約束をとりつける。
- 真実は?
- 約束の日、上野は深夜まで起きて飲酒していたのが響き風邪をひいていしまう。どうしても連絡を取りたい上野は前田耕陽の偽名で電話をかけ、串田に会う日をずらすようにお願いする。次の日、枝理子は国生さゆりの偽名で上野のアパートを訪れた[注 6]。風邪の介抱や料理など一通り看病してもらい、安らかに眠る上野。ふと、枝理子は感じる。前にもこうやって誰かの寝顔を見ていたような・・・後日、調子の上がってきた上野と学校への復帰について話をする。しかし三田町高に戻ると(真名古と)結婚して同じ職場では・・・と枝理子がつぶやいた瞬間、激情にかられて上野は手をあげてしまう。「京都でのあのプロポーズの約束は?!」激怒する上野はプロポーズの発言に納得のできない枝理子に、母親が自分達の過去の証拠である“あの写真”を隠している事を告げる。枝理子は動揺する、なぜ自分が高校生の上野と付き合っていたのか?本当にプロポーズを受けた?それがなぜ京都?母親が色々隠している?混乱した枝理子は、自宅に帰ると母親の部屋で上野の言う写真を探し始めた。しかしどこを探しても写真は見当たらず、諦めた枝理子は自分の部屋に戻ってしまう。私はいったいどうしたらいいのか・・・
- 引き離される二人
- 頭の中が混乱している枝理子の家へ、真名古が訪れた。しかし枝理子は一人にしておいてくれという。枝理子の変化に疑問を持った母親と真名古の前に、病状が悪化した上野が現れる。もう1度枝理子に話を聴いて欲しいと懇願する上野と、その話を聴こうと階下に降りようとする枝理子。しかし母親は枝理子を制し、真名古に上野を家から連れ出してくれと願い出る。引き離される上野と枝理子。しかし母親と真名古の行為は、暗に二人の以前の仲を認めてしまっていた。真名古は連れ出した上野と話をしようとするが、上野は肺炎の一歩手前で意識不明になっていた。
- 学校へ
- 東京を離れていたとはいえ自分の受け持ちであった上野を見放す事はできず、真名古は自宅で上野を介抱する。一方枝理子は母親の眼を盗んで上野のアパートを訪れるが上野は帰ってきていなかった。真名古の家で介抱されているのを知らず、枝理子は上野の部屋で一人、昨日の事を反芻する。もしや真名古は上野と自分の過去を知っていながら、私を抱いた?・・・上野に全てを説明してもらおうと、部屋を整頓しながら日暮まで待ち続けた。
- 次の日もアパートを訪れたが上野はまだ帰ってきていない。また一人で時間をつぶし、手持ち無沙汰に清水たちが拾ってきたミニテレビを点けると、やっていたのは英語講座だった。テレビに合わせて英語を喋っていると一瞬、教室に自分が立っている情景がフラッシュバックする。自分が高校にいたのを感じ、いてもたっても居られなくなった枝理子は自然に三田町高校へ辿り着く。残っていた生徒達に連れられて教室に入り、教科書を借りて懐かしむように壇上でひとり授業を始めると、「上野くん」と生徒を指す言葉が出てきた。そこで確信する、私も上野もここに確かに居たのだと。そして、学校に戻ろうと決心する。
- 決意
- 意識が回復した上野は真名古にお礼を言い、アパートに戻ると枝理子が待っていた。真名古宅にいた事情を話し、手をあげた事を謝罪する上野。しかし枝理子は手をあげられたことが結婚前で良かったといい、昔の事がはっきりするまでは真名古との婚約を白紙に戻すこと、学校で上野の存在を感じた事、そして学校に復帰することを告げた。感激した上野は“どんなに時間がかかってもエリーを信じて心が戻るのを待ってるから”と真っ直ぐな眼差しで枝理子の手を取った。
- 自宅へ戻った枝理子は、学校への復帰を提案する。母親は大反対したが、学校で監視が出来るヤン坊と気分転換になるという父親の賛成で復職が決まった。学校へ行くと今まで色々と考え過ぎていたことが嘘のように晴れやかに授業を進める枝理子だったが、逆に真名古は自分から離れていきそうな枝理子の思案と、上野からうつされた風邪で意気消沈していた。しかも自分に何も相談せず復職するとは・・・そして教務室で枝理子が婚約の解消を持ち出そうとするものの、体調が良くなってからにしてくれと言ってその場から逃げた。しかし、まだ終わったわけではない、まだチャンスがあると思い直し、真名古は最後の詰めに出る。
- 婚約破棄
- 風邪が治りかけた真名古は重要な話がある、と枝理子を食事に誘う。枝理子は婚約の破棄を打ち出そうとその誘いを受ける。三田町駅で枝理子と待ち合わせしていた上野は、偶然食事に出かける真名古と枝理子を発見し青山まで後をつける。さながらカップルの様にレストランに入る枝理子と真名古、しかし上野は高級そうな外観の為入れずにいた。二人で何を話しているのか気にはなったが、枝理子を信じ外で様子を見守ることにした。
- レストランの中で真名古は九州の両親を枝理子の両親に合わせたいと話を切り出す。しかし枝理子は確信は持てないものの上野からの過去の説明と、それを知りながら策に走った真名古の態度から婚約は破棄したいと願い出る。真名古は畳み掛けるように枝理子の今の気持ちを問いただす。教え子の上野と恋愛していたと思われる過去、社会的立場、それは確かに記憶のない枝理子からすれば人生を危うくするものだが、気持ちのはっきりしない今ではそれは“過去のもの”であり、今から関係を築けば良いから婚約は破棄出来ないと詰め寄る真名古。「ずっと枝理子のことを思ってここまできたのに、いつまで待てばいいんだ…」
- 真名古のその言葉を聞きいた枝理子は“どんなに時間がかかってもエリーを信じて心が戻るのを待ってるから”という上野の言葉と眼差しを思い出しはっとする。周りが無きものにしようとする本当の真実、上野が枝理子を思う真実その1つさえあれば、他には何も怖いことはない!枝理子は立ち上がって真名古に謝罪するとその場から駆け去った。
- フラッシュバック
- レストランから飛び出した枝理子を追いかけ、問い詰めたことを謝罪した真名古は、もう一度彼女を捕まえたいが為にキスをした。その様子を横断歩道の反対側で見ていた上野はたまらず「エリー!」と叫ぶ。その声を聞き、雑踏の中に上野を発見した枝理子。上野を京都へ向かわせ、自身の心の穴を埋められぬまま街中を彷徨い、そして雑踏の向こうから聞こえた「上野!」の声に反応し無我夢中で声のした方向へ駆けていった、あの瞬間がフラッシュバックする。
- 青信号になり、横断歩道の真ん中に駆け寄り抱き合う二人。そこで出た枝理子の言葉は「京都へは行かなかったのね!」だった。京都に行く上野を清水と隣野が見送りに行ったのでは?そう問いかける枝理子に記憶を取り戻したと確信した上野は感激の雄叫びを上げる。真名古はとりあえず横断歩道の真ん中に抱擁したままの二人を歩道まで誘導した。
- 何が起こっているのか分らない枝理子に、青山に来ていることを告げる上野とさっきまで婚約の話しをしていたことを話す真名古だったが、枝理子は婚約が何の事か分らない。上野は真名古に、枝理子の記憶が戻っていることを告げると、2人でその場を去った。真名古は落胆する。あとちょっとだったのに、ほんの一瞬で立場が逆転するとは・・・
- 家族の反応
- 枝理子の家への帰り道、上野は夢から覚めたような枝理子に記憶喪失中にあったことを話す。歩道に飛び出したこと、真名古との縁談、アパートの引き上げ。そして今までの自分のことを謝罪し記憶がまたなくなるのではと心配する上野に、枝理子は大丈夫だと言い自宅へ戻った。しかし二人の将来について語ったという真名古の言葉が頭から離ないまま、床に伏した。次の朝、ヤン坊の「親公認でほぼ毎日ヤれるからいいな」というコメントで、改めて真名古との縁談がそこまで進んでいたのかと驚愕する。記憶が戻ったことを知ったヤン坊は歓喜するが、逆に母親は憔悴し「あんな子連れてきて一緒になるんなんてあたしは認めない」「あんな高校生(こども)相手に」と詰めよる。母親が自分と上野のことを知っているのか?・・・とりあえず登校はし、記憶がなかった時の事を覚えていないので不安になった枝理子だったが、生徒の笑顔や真名古のアドバイスもありなんとかその日は凌いだ。
- 一方の上野はコンビニのアルバイトをクビになり、次の働き口を探していた。しかし復学したいという思いも少なからずあり、とりあえず清水たちに会おうとファストフード店を後にする。しかしその瞬間「上野くん!」と呼ぶ声が。振り返るとそこには今泉がいた。京都にいるとばかり思い込んでいた今泉は色々と詰問し今後の予定を聞くが、上野はやり残したことがあるから戻ってきたと説明し、用事があるのでまた連絡するといってその場から去った。
- 下校時間に合わせて三田町高の前で待ち伏せしていた上野は枝理子を発見し声をかけ、近くの喫茶店で待ち合わせをする。上野は母親がアパートの引き払い時に写真を発見し、それを見せられて上野が相手では幸福になれないと言われたと説明し、改めて真名古の絶大な信用に嫉妬した。枝理子はこれ以上母親とやりあいたくもない、一人暮らししたいと思ったところで、京都に全て引き払った筈の上野がどこに住んでいるか質問した。幸いすぐ近くだったので、上野はアパートに枝理子を案内した。以前何度も枝理子が訪れていた場所ではあったのだが。
- あなただけ
- 必要最低限のものしかない上野の部屋で、小さい電気ストーブに当たりながらコーヒーを飲んでいたがやはり寒い。上野はコタツ代わりに布団を持ち出して、壁によりかかり二人毛布に包まった。上野がずっと欠席になっていた事を把握していた枝理子は、この先どうするのか問いかける。大検を受けるのか、それともこのまま働くのか・・・もし三田町高を退学するのなら、一人残るのは上野の両親に申し訳がたたないと枝理子は言い、二人で辞めて駆け落ちしてもいいと提案するが、答えのないまま時は過ぎる。そのうち枝理子は上野に寄りかかり「今日は帰らない」とつぶやく。そして「抱いて」と・・・次の朝、上野が起きると枝理子はすでに自宅へ戻っていた。起き上がって玄関の戸を見ると、枝理子のメモ書きが貼ってあった。「only you」と。
- 復学の決意
- 上野は直ぐに三田町高に真名古を訪ね、復学したいと今後の事を話し合う。とりあえず出席日数は足りそうだが今までの事から他の教師からの風当たりが強い。しかし上野は枝理子に迷惑は掛けられないし留年してでも絶対に卒業したいと願い出る。それを聞いて安心した真名古は復学の手続きに入り、上野の事が気がかりで居残りしていた枝理子に教えてあげた。後日上野からの連絡で母親が京都から学校に訪れ、校長に挨拶したことで学校に復帰し、決意を新たにした。夕方、上野は新幹線乗り場まで見送った母親に「卒業したら逢わせたい人がいる」と告げる。それに気づき母親が「今泉さんが・・・」と言いかけたところで列車は出発してしまった。以前別れた後に何も連絡しない上野に痺れを切らした今泉が、京都の母親に電話し上野の西荻のアパートの住所を聞いていたのだ。まさか卒業後に逢わせたいのは今泉では?卒業も不安なうちからそういう事を言う息子に不安が残ったが・・・
- 今日子の目撃
- 母親の見送りから上野がアパートに帰ると、枝理子が勝手に入り夕食の準備をしていた。しかも京都からコタツがきており、枝理子もアパートにいた頃の暖房器具や家具・電化製品を母親の目を盗んで持ってきていた、そしてこれからの勉強の追い込みの為に来てあげるという。食事も終わり枝理子が帰ることになり、上野が送ると言うが時間も早いのでここでいいという枝理子は、ドアの前でお別れのキスをした。その瞬間ドアが開き、やっとのことで上野のアパートを探し出した今泉が現れた。うろたえる上野と枝理子に、今泉は京都の母親に住所を聞いてここに来た事を話し、その場から駆け出した。追いかけた上野はなんとか弁明するが、公表できない上野と枝理子の仲とはいえ、フラフラして煮え切らない態度の上野を追っていた今までの自分はなんだったのかと自問、叱責し悔しさを滲ませ、上野との別れを告げた。
- 次の日、今泉は寝不足で授業もうわの空だった。下校時に友人たちは別れているとも知らず上野との仲を囃し立てるが、夕べの事を思い出し急に友人たちの元から駆け出した。スキーでぶつかった時も、遊園地のベンチで膝枕してもらった時も、そしてキスされた時も、すでにあの二人は付き合っていた・・・夢中で駆けていたその時、デザイナーの卵・竹内と衝突する。その衝撃で落とした絵を拾うと、その中にウエディングドレスのデッサンが混じっていた。「卒業したらエリーと結婚するつもりでいる」上野の言葉を思い出した今泉は、竹内の見ている前で号泣した。
- 上野の復学
- 上野は進学を決意し、年末の期末試験に向けてラストスパートをかける。枝理子は家でのトラブルを避けるのと、上野のサポートの為になかば同棲のように上野のアパートを訪れた。試験が終わったクリスマスの夜、枝理子は道すがらクリスマスケーキを買ってアパートへ向かうが、途中で実家に電話をかけていた上野と遭遇する。その上野が手にしていたのは、枝理子と同じ店で買った全く同じケーキだった。1個は隣の部屋の住人にあげようとするが留守にしており、結局2人で1個と四分の一弱を食べて満腹になってしまう。二人で同じ店のケーキを買ってきた事を談笑するが、枝理子は「ひとつはウエディングケーキのケーキカットだと思えばいい」とつぶやいた。
- 年が明け、京都での正月気分もそこそこに勉強を始める上野。そして学年末試験も終わり、卒業判定会議となった。会議では担任の真名古が上野の事を指摘された。出席日数も足り、成績も上がったので問題ないと言うものの、他の教師から過去の成績や欠席、そして問題行動の多さを指摘され留年もやむを得ないという意見が出る。真名古もなんとか踏ん張っていたが、様子を見て堪りかねた枝理子が立ち上がり擁護に出る。緊迫する会議の中、最後に上野を遠くから見続けていた校長の一言で、上野の卒業が決定した。雪降るアパートの前で枝理子の報告を聞き喜ぶ二人。しかし、今までよりも大変なのはこれからだと・・・
- ぼくらの結婚式
- 大学への進路も決まり、無事に卒業式を終えた上野。式の終わった校内で生徒たちから寄せ書きをねだられる枝理子の元に、今泉が現れた。「ある人の事で重要な話がある」といい、枝理子が卒業コンパに誘われているのも構わず竹内の車で連れ出した。
- 一方3年の教室では卒業生が集まり、以前から計画していた卒業コンパが始まろうとしていた。しかしなかなか枝理子が現れない。心配する上野達に同級生が“いつも校門にきていたショートカットの娘(今泉)がどこかに連れて行った”と話す。なんで今頃になって・・・焦って探しに出ようとする上野をなぜか清水が引き止めようとする。廊下で言い争いをするその二人の前に現れたのは、ウエディングドレスを纏った枝理子だった。実は事前にコンパの話を隣野から聴いていた今泉が、彼氏になった竹内に依頼し誂えていたという。なぜドレスを着ているのか分らないクラスメイト達に、清水が教壇で説明を始めた。
- 教壇に枝理子と上野を呼ぶと、1年生の頃から二人が付き合っていたことを皆に公表する。感嘆と罵倒で騒然とする教室。しかし今までの経緯を見守ってきた清水は二人の気持ちを理解し、門出を祝福しようと願い出る。騒然とした教室は祝福と拍手に変わり、清水を神父に見立ててそのまま結婚式に突入する。清水と隣野、そして今泉がコンパ計画時に裏で仕組んだ仕掛けだった。教会さながらに二人が誓いを立てた後、最後に清水は誓いのキスをしろと要求する。恥ずかしがる二人だったが、指輪がなくて格好がつかないからと押し付ける。そして皆の祝福を受けながら、誓いのキスを交わし二人はゴールインした。
昭和後期の時世を反映した内容
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作品のYJ掲載期間(昭和59(1984)年〜62(1987)年)は昭和後期で、作品・概要にあるとおり物語にその当時の時世が色濃く反映されている。その多くは平成年代になってから姿を消した、あるいは見ることが少なくなったもので、当時の生活様式を垣間見られる側面がある。以下は物語に登場した、時世を反映している物を挙げる。
- 0系新幹線 - 愛称「ひかり」。上野や母親が京都に行く際に使用した。1999年に東海道新幹線から姿を消している。
- ファミリーコンピュータ - 1983年発売の家庭用ゲーム機。ヤン坊が購入。平成初期に人気の座をスーパーファミコンに明け渡すまで、国内外で大ヒットした。物語中では「スーパーマリオブラザーズ」「グーニーズ」「ポートピア連続殺人事件」などをプレイしているという描写がある。
- ダイヤル式電話機・電話ボックス - 清水宅と電話ボックスがプッシュホンである以外、全ての家庭が黒電話などのダイヤル式で、上野が串田の実家に電話する際偽名を使ったり、エリー以外の人間が電話に出る事を防ぐためあらかじめ時間を申し合わせて連絡を取ったなど、連絡相手を直接指定できない当時の恋人同士の通話手段が垣間見える。また当時から存在していたテレホンカード式の公衆電話ボックスは描かれておらず、清水と上野が硬貨の山を積み上げて北海道に電話をかけている。現在はほぼ全ての固定電話がプッシュホンで連絡手段も携帯電話に代わっている。また携帯電話の普及で公衆電話ボックス自体も非常に少なくなっている。余談だがポケベルや携帯メールなども無い時代のため、連絡のやり取りは小さいメモ用紙だったり、小声で話すなどしている。
- レコード・レンタルレコード - 1980年代からコンパクトディスクが徐々に浸透している時期だが未だレコード盤での音楽視聴が主流となっている。上野がデビッド・ボウイの「レッツ・ダンス」やRCサクセションの「OK」などをレンタルレコード店で借りている。レンタル店は1990年代からレコード盤の衰退に伴いCD・DVDレンタル、ゲーム販売などの複合店舗などに変化し(例:ツタヤ)、レコード専門店は非常に少なくなっている。
- 氷枕・氷嚢 - 上野が風邪をひくたびにお世話になっていた冷却枕の一種。1990年代から冷却ジェルシートに代わられている。
- ザ・ベストテン - TBS製作のランキング形式の音楽番組。上野がスキー場で捻挫した夜、一人でふてくされながら見ている。番組は1989年(平成元年)に終了。
- なるほど!ザ・ワールド - フジテレビ製作の紀行・情報クイズ番組。上野の父親が見ようとしていた他度々ネタにされている。主人公串田枝理子の名はこの番組の初代司会のひとりだった楠田枝里子から取られている。番組は1996年にレギュラー終了。
- 三浦和義 - 当時ロス疑惑の渦中の人でマスコミを席巻した。上野が骨折・入院から復帰し松葉杖をついた様子を隣野が三浦に例えた。三浦は2008年に死亡している。
- ブルマー - 漫画の趣向に関係なく、当時の女子学生の標準体操着であった。球技大会で隣野など女子生徒が着用している。ブルマー#日本における普及と衰退にあるとおり1990年代から衰退が始まり、公立校では2004年にブルマーは指定外となっている。
また作品中に描写された歌も当時の流行が反映されている。傾向としてロック色が強く、アシスタントにロックフリークの夫、わたべ淳や喜国を起用していたことからもその系統の趣味の強さがうかがえる。
- いとしのエリー - サザンオールスターズのヒット曲。前述の通り連載当時はドラマの主題歌に起用されている。鎌倉の海岸で上野と串田の初キスシーンとなるバックで流れている。上野が串田を「エリー」と呼ぶきっかけとなった。
- Rock'n Rouge - 松田聖子の1984年のヒット曲。それまで資生堂製品のCMを多く歌っていたが、この曲が本人出演のカネボウ化粧品のCMソングとなった為、資生堂提供の音楽番組で歌えなかったといういわく付の曲。上野が1年春休み時に串田宅へ個人教授を受けに行く時に家から出かけばなに浮かれて歌っているが・・・
- 雨あがりの夜空に - RCサクセションの1980年のヒット曲で忌野清志郎の代表曲。串田宅での個人教授に一緒に呼ばれたヤン坊が歌っている。串田に“乗れないなんて”という上野の心情を揶揄している。
- Oh! Baby - 前述のレンタルレコード店で上野が借りたRCサクセションのLP盤「OK」収録のラブソング。串田と上野、二人だけの引っ越し祝いのBGMとして流している。上野は1曲目を飛ばして2曲目のこの曲からかけはじめ、串田も曲名を知っていたことから両者ともアルバムが出る前のシングル盤などで曲を知っていた模様。
- 朝起きたら - 小林万里子の1978年の曲。有線や深夜放送で人気の曲だった。西荻で一人暮らしを始めた上野の隣人がかけている。「朝起きたら男の態度が変わっとった」は記憶喪失中のシーンに当てつけている。小林本人の音楽活動の長期休止もあって“埋もれた”楽曲だったが、2009年に桑田佳祐がカバーしている(小林の項目を参照)。
- 本気でオンリーユー(Let's Get Married) - 竹内まりやの1984年発表の英語詞のラブソング。イントロに「結婚行進曲」が使われ、文字通り“すぐに結婚しましょう”という内容なので結婚式で使われることもある。最終回で上野と串田が誓いを交わすシーンで歌いだしの「Now Let's Get Married(漫画上はMarry[注 7])」が描かれている。
漫画版エピソード
[編集]- 清水がテレビをつけっぱなしで寝ているシーンでYJに同時期連載されていた野球漫画『緑山高校』の試合が流れている。
- 3年生のクラス替え発表の張り紙に、元アシスタントだった喜国雅彦の名前がある(五十音順で上野の3つ隣)。喜国の名は他のシーンでも数度挙がっている。
- 北海道編が終わり、上野のアルバイトが生徒指導教師に見つかっているシーンの原稿用紙に担当編集者が「おもしろいもの見せてやるよ」といい、高見の目の前で原稿用紙の上に乗った紙に火を付けた。一部コーヒー色になっていると言うが印刷上ではこの焼け跡は殆ど判別できない。高見は「他の人の原稿だったらもっと面白かったのにね」と言い泣いたという。この事件の内容は編集長への抗議としてコマとコマの隙間に詳細に書かれている。1985年9月27日深夜の事らしい。
- 高見の夫のわたべ淳は当時なかなかヒット作が出ず高見のアシスタントをしていた(その後「レモンエンジェル」の爆発的ヒットで立場は変わる)。結婚式の翌々日は第3話の追い込みで集英社の用意した旅館でカンヅメに遭っていたという。
- 連載途中に子供が生まれている。名は清志郎。作中に歌を取り上げていることから忌野清志郎から取っていると思われる[1]。
書籍情報
[編集]紙媒体としては1984 - 1988年発行のYJコミックス、1992 - 1993年発行の傑作選集、1993 - 1994年発行のYJ・コミックス・スペシャル、1994 - 1995年発行のスコラ漫画文庫シリーズ、2002 - 2003年発行のメディアファクトリー(以下MF)文庫版が存在する。全て絶版。またインターネット上ではYahoo!コミック[1] [リンク切れ]、ebookjapan または コミックシーモア(携帯コミックサイト) で閲覧が可能となっている。傑作選のみ抜粋収録。
- YJコミックス版は発行年度が古く入手困難な状況にある。全20巻。
- 傑作選集は週刊ヤングジャンプによる特別編集で入手困難な状況にある。全3巻。
- YJ・コミックス・スペシャル版は全18巻にまとめ直しされ、カバーデザインを変更している。
- スコラ漫画文庫シリーズは全12巻にまとめ直しされ、表紙が高見の書き下ろしではなく写実的イラストになっている。文庫本サイズ。
- MF文庫版は全10巻にまとめ直しされた事で〝Lesson XX〟と話数が振られ、カバーは「いとしのエリー」よりも「Ellie My Love」の文字が大きく強調されるなど本編以外に大きな変更が施された。文庫本サイズ。
- 1巻〝Summer Vacation〟(1984年7月発行)ISBN 4-08-861421-6
- 2巻〝初めての朝帰り〟(1984年9月発行)ISBN 4-08-861422-4
- 3巻〝コジンキョウジュ〟(1984年12月発行)ISBN 4-08-861423-2
- 4巻〝先生の過去〟(1985年2月発行)ISBN 4-08-861424-0
- 5巻〝北海道の休日〟(1985年5月発行)ISBN 4-08-861425-9
- 6巻〝2人の朝〟(1985年8月発行)ISBN 4-08-861426-7
- 7巻〝キスの帰り道〟(1985年11月発行)ISBN 4-08-861427-5
- 8巻〝卒業式の告白〟(1986年2月発行)ISBN 4-08-861428-3
- 9巻〝共犯者〟(1986年5月発行)ISBN 4-08-861429-1
- 10巻〝先生のデート〟(1986年8月発行)ISBN 4-08-861430-5
- 11巻〝もつれた糸〟(1986年11月発行)ISBN 4-08-861431-3
- 12巻〝忘れられない人〟(1987年2月発行)ISBN 4-08-861432-1
- 13巻〝すれちがいの京都〟(1987年5月発行)ISBN 4-08-861433-X
- 14巻〝激しい二人〟(1987年8月発行)ISBN 4-08-861434-8
- 15巻〝破局の一言〟(1987年11月発行)ISBN 4-08-861435-6
- 16巻〝記憶喪失〟(1988年2月発行)ISBN 4-08-861436-4
- 17巻〝遠い記憶〟(1988年3月発行)ISBN 4-08-861437-2
- 18巻〝止まった時計〟(1988年4月発行)ISBN 4-08-861438-0
- 19巻〝エリーの決意〟(1988年5月発行)ISBN 4-08-861439-9
- 20巻〝ぼくらの結婚式〟(1988年6月発行)ISBN 4-08-861440-2
- 1巻〝サマーバケーション〟(1992年12月発行)ISBNナンバー発行なし
- 2巻〝先生の過去〟(1993年2月発行)ISBNナンバー発行なし
- 3巻〝ツインベッド〟(1993年3月発行)ISBNナンバー発行なし
- 1巻〝Summer Vacation〟(1993年6月発行)ISBN 4-08-875124-8
- 2巻〝初めての朝帰り〟(1993年7月発行)ISBN 4-08-875125-6
- 3巻〝先生の過去〟(1993年8月発行)ISBN 4-08-875126-4
- 4巻〝あのふたり〟(1993年9月発行)ISBN 4-08-875127-2
- 5巻〝2人の朝〟(1993年10月発行)ISBN 4-08-875128-0
- 6巻〝キスの帰り道〟(1993年11月発行)ISBN 4-08-875129-9
- 7巻〝卒業式の告白〟(1993年12月発行)ISBN 4-08-875130-2
- 8巻〝先生のデート〟(1994年1月発行)ISBN 4-08-875251-1
- 9巻〝もつれた糸〟(1994年2月発行)ISBN 4-08-875252-X
- 10巻〝忘れられない人〟(1994年3月発行)ISBN 4-08-875253-8
- 11巻〝すれちがいの京都〟(1994年4月発行)ISBN 4-08-875254-6
- 12巻〝三日目の欠席〟(1994年5月発行)ISBN 4-08-875255-4
- 13巻〝破局の一言〟(1994年6月発行)ISBN 4-08-875256-2
- 14巻〝記憶喪失〟(1994年7月発行)ISBN 4-08-875257-0
- 15巻〝遠い記憶〟(1987年11月発行)ISBN 4-08-875258-9
- 16巻〝止まった時計〟(1994年9月発行)ISBN 4-08-875259-7
- 17巻〝エリーの決意〟(1994年10月発行)ISBN 4-08-875260-0
- 18巻〝ぼくらの結婚式〟(1994年11月発行)ISBN 4-08-875067-5
- 1巻 (1994年12月発行)ISBN 4-7962-0243-9
- 2巻 (1994年12月発行)ISBN 4-7962-0244-7
- 3巻 (1994年12月発行)ISBN 4-7962-0245-5
- 4巻 (1994年12月発行)ISBN 4-7962-0246-3
- 5巻 (1995年2月発行)ISBN 4-7962-0260-9
- 6巻 (1995年2月発行)ISBN 4-7962-0261-7
- 7巻 (1995年2月発行)ISBN 4-7962-0262-5
- 8巻 (1995年2月発行)ISBN 4-7962-0263-3
- 9巻 (1995年3月発行)ISBN 4-7962-0274-9
- 10巻 (1995年3月発行)ISBN 4-7962-0275-7
- 11巻 (1995年4月発行)ISBN 4-7962-0276-5
- 12巻 (1995年4月発行)ISBN 4-7962-0277-3
- 1巻 (2002年9月発行)ISBN 4-8401-0624-X
- 2巻 (2002年9月発行)ISBN 4-8401-0625-8
- 3巻 (2002年10月発行)ISBN 4-8401-0638-X
- 4巻 (2002年10月発行)ISBN 4-8401-0639-8
- 5巻 (2002年11月発行)ISBN 4-8401-0660-6
- 6巻 (2002年11月発行)ISBN 4-8401-0661-4
- 7巻 (2002年12月発行)ISBN 4-8401-0679-7
- 8巻 (2002年12月発行)ISBN 4-8401-0680-0
- 9巻 (2003年1月発行)ISBN 4-8401-0695-9
- 10巻 (2003年1月発行)ISBN 4-8401-0696-7
映画
[編集]いとしのエリー | |
---|---|
監督 | 佐藤雅道 |
脚本 | 藤長野火子 |
原案 |
高見まこ 『いとしのエリー』 |
製作 | 岡田裕、酒井彰、中川好久 |
出演者 | |
音楽 | 崎谷健次郎 |
主題歌 | 崎谷健次郎「思いがけないSITUATION」 |
撮影 | 前田米造 |
編集 | 冨田功 |
製作会社 | フジテレビジョン、旭通信社、小学館、オービー企画 |
配給 | 東宝 |
公開 | 1987年4月11日 |
製作国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
1987年4月11日、東宝系で劇場公開された。同時上映は『タッチ3 君が通り過ぎたあとに -DON'T PASS ME BY-』。
キャスト
[編集]- 串田枝理子:国生さゆり
- 上野晋平:前田耕陽
- 真名古敬一:鶴見辰吾
- 清水文太郎:井浦秀知
- 隣野美代子:志村香
- 今泉今日子:森田まゆみ
- 上野貢平:斎藤晴彦
- 上野三津子:野川由美子
- 木戸彰子:山下裕子
- 本土寺マコト:家富洋二
- 北村満寿男:名古屋章
- 肥田一:奥村公延
- 校長:高橋昌也
- 山下千春:春川ますみ
- トラックの運ちゃん:伊武雅刀
- 山本達巳:陣内孝則
- 中村敦:三浦友和
スタッフ
[編集]- 監督:佐藤雅道
- 原作:高見まこ
- 脚本:藤長野火子
- 音楽:崎谷健次郎
- 主題歌:崎谷健次郎「思いがけないSITUATION」(作詞:秋元康 / 作曲 / 編曲:崎谷健次郎)
- 挿入歌:崎谷健次郎「もう一度夜を止めて」(作詞:秋元康 / 作曲:崎谷健次郎 / 編曲:崎谷健次郎・武部聡志)
上田浩恵「HELP ME CUPID」「NEVER GONNA SAY GOOD BYE」(作詞:LINDA HENNRICK / 作曲 / 編曲:崎谷健次郎) - エンディングテーマ:崎谷健次郎「KISSの花束」(作詞:秋元康 / 作曲:崎谷健次郎 / 編曲:崎谷健次郎・武部聡志)
- 音楽プロデューサー:吉田就彦 / 渡辺博
- 撮影:前田米造
- 美術:山口修
- 編集:冨田功
- 録音:北村峰晴
- カースタント:高橋レーシング
- 技斗:國井正廣
- ハイビジョン技術協力:フジテレビ技術局、IMAGICA
- 現像:東京現像所
- スタジオ:にっかつ撮影所
- 製作者:三ツ井康 / 関谷猪三男
- 企画:角谷優
- プロデューサー:岡田裕 / 酒井彰 / 中川好久
- プロデューサー補:成田尚哉 / 河井真也
- 製作協力:ニュー・センチュリー・プロデューサーズ
- 製作:フジテレビジョン / 旭通信社 / 小学館 / オービー企画
漫画版との相違点と背景
[編集]- 主演の国生が自動二輪免許を取得していたこともあり、漫画版にはない串田がバイクに乗る設定、シーンが追加されている。また上野との出会いは串田のバイクのチェーンが外れて困っていた事から始まり、その後上野が高校2年生時に串田が上野の学校に新任で赴任してくるという設定になっている。
- ヒロインが国生だけではおニャン子ファンしか映画館に足を運ばないのではと懸念したフジテレビが、『夕やけニャンニャン』のワンコーナー“ザ・スカウト アイドルを探せ”の派生企画として“いとしのエリーを探せ”という企画を設け、美人家庭教師・美人塾教師を募った。しかし、応募数が少なく企画倒れに終わった。
- また当時男闘呼組で人気を誇っていた前田耕陽とのダブル主演も話題にはなったが、人気アイドル同士の主演ということで、両者の事務所から多くの制約が課せられたこともあり、同時上映の“タッチ”同様、全年齢層を対象にした青春映画として制作された。原作では描かれたベッドシーンや際どいセリフは一切なく、教師と生徒の恋愛という設定以外は原作と全くかけ離れたトレンディードラマタッチのストーリー展開であった。興行的には不振に終わっている。VHSソフトが販売されていたが[2]DVD化はされていない。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 1983年8月に「Summer Vacation」というタイトルの読み切り作品として掲載される。好評だったため同年9月に後編が掲載された。同年11月からタイトルが「いとしのエリー」に改められ月一の連載が始まる。1984年1月から週刊新連載となった。
- ^ 当時TBS系列のテレビドラマ『ふぞろいの林檎たち』の主題歌であったサザンオールスターズの同名タイトル曲「いとしのエリー」や、楠田枝里子、小泉今日子、清水健太郎など。
- ^ YJコミックス1巻カバーにコメントを執筆している。現在は真那胡敬二として『水戸黄門 (第31-38部)』などで活動。オンシアター自由劇場→コスモプロジェクト。
- ^ 高見展(まこと)という人物で、YJコミックスのカバーにコメントを残している。
- ^ 実際には都立校は早稲田大学への推薦枠は持っていない。
- ^ 映画版で上野と枝理子を演じた2人へのオマージュ。
- ^ 作品中に日本音楽著作権協会許諾記載が無いのは歌詞上のMarriedがMarryと書かれているからか。
出典
[編集]- ^ 結婚式後のエピソードも含めYJコミックス20巻カバーのコメントより。
- ^ VHS『いとしのエリー』 1987年6月15日発売 PONY VIDEO V148F 1488 EAN 4988013469778