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ホエールウォッチング

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
イルカウォッチングから転送)
ミナミセミクジラのホエールウォッチング(バルデス半島
世界自然遺産エル・ビスカイノ生物圏保護区におけるコククジラの観察(触れ合いが許可されている)
ニタリクジラと観察者たち(オークランド

ホエールウォッチング: whale watching)は、類やイルカ類を、自然の中で観察するという観光の一種。野鳥観察などと類似した趣味のひとつであり、また単に趣味というだけではなく、自然観察などの理科教育環境教育の一環という位置づけも持つ。もっぱらイルカを目的とする場合には、イルカウォッチング、ドルフィンウォッチング(: dolphin watching)と呼ぶ場合もある。

歴史

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マッコウクジラとの遊泳(アゾレス諸島
マッコウクジラとの遊泳
ザトウクジラの観察(シーシェルト
不適切な接近例(モントレー湾
不適切な接近例(アビラ・ビーチ

ホエールウォッチングの歴史は、アメリカ合衆国サンディエゴコククジラ の観察に好適な地であるとされた1950年に遡る[1]1955年には、カリフォルニア州サンディエゴのチャック・チェンバリンが「コククジラ・ウォッチング、1$」と書いたボートを出してより近くでコククジラを見るという現在のものに近い形態となった。このスペクタクルな見世物は、最初の年に10000人前後の訪問者を呼び寄せ、その後も増加していった。また、その後は周辺の海域でも同様の観光産業が成立した。この人気の背景には、カリフォルニア州の動物にコククジラが指定されてきた事によるコククジラの人気自体も拍車を掛けた可能性も指摘されている[2]

1970年および1971年には、モントリオールの団体「Montreal Zoological Society」が、アメリカ東海岸のセントローレンス川河口域で、ナガスクジラシロイルカ等を対象とするホエールウォッチングを開始した[3]

1970年代の終わりにはニューイングランドでは重要な産業のひとつと呼べるほどにまで成長し、アクロバティックな行動等で人気を博したザトウクジラが観察できる事も相まって、1985年には観客数で発祥の地であるカリフォルニア州を逆転した[2]

1980年代以降、ホエールウォッチングは全世界に広がりつつある。1998年にはエリック・ホイト英語版がホエールウォッチングに関する体系的な調査を行った[要出典]。それによると、ホエールウォッチングが産業として行われているのは世界中で87カ国にもおよび、900万人以上(おそらく年間・原資料に明記なし)の客を集め、産業規模は10億ドル(おそらく年間)に達しているとのことであった。更に2000年の調査[要出典]によると、その数字は1130万人/14億ドル以上となっているという。

中国広西チワン族自治区の潿洲島(英語版)と斜陽島(英語版)におけるカツオクジラを対象とした同国のウォッチング業の黎明により、自然環境・社会的に様々な好意的な兆候が見られ始めているとされる。例を挙げると、クジラの保護のために漁業規制や自然保護区が制定され、プラスチックごみなどの規制も促進されてきた[4][5]。また、従来の漁業は毎年死者が出るなど危険であるだけでなく、ホエールウォッチングによる収益よりも大幅に収入が小さいこともあり、エコツーリズムに転向する漁業関係者が増え、漁業規制がより適切になり、人々の環境保護への意識改革も促進され、適切なホエールウォッチングのルール化をツアー業者が率先的に行う様になったなどの漁業者にとっても好転的な変化が見られているとされる[6][7]

なお、現代における主要な捕鯨国においてもホエールウォッチング業は急成長を遂げており、たとえばアイスランドにおいてはウォッチング業の需要の増加がアニマルライツの意識の向上や鯨肉需要や捕鯨従事者の減少と相まって捕鯨撤廃を支持する声の増加が見られる[8][9]。一方で、日本やアイスランドにおいては商業捕鯨の継続や再開と(絶滅危惧種であるナガスクジラをふくめた)捕獲対象種や操業規模の拡大によって国内のウォッチング業に悪影響が出る可能性も指摘されており、実際にツアー中におけるミンククジラの観察が減少したり、ツアーが行われている各海域での確認数が大きく減少している場合がある[10][11][12][13]。また、世界自然遺産に指定されている知床半島でも、ツチクジラの捕獲を巡ってウォッチング業と捕鯨業の間に軋轢が発生した事例も存在する[14]。アイスランドでも観光業者と捕鯨業者の間には様々な問題が発生してきた。ミンククジラの人懐っこさを利用した捕鯨が行われたり、捕鯨の影響でクジラが海域から追い払われたり、観光ツアーの最中に観光客の眼前で捕鯨が行われたなどの問題が発生してきた。結果としてアイスランド政府は多数の苦情を受け、政府によって同国の沿岸域をホエールウォッチング用に、遠洋域を捕鯨用に別個指定したが、指定された以降も沿岸域や隣接する海域で捕鯨が行われてきた[15]

日本のホエールウォッチング(クジラ・イルカ観察)

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天草市五和町沖でのイルカウォッチング

比較的よく見られる種類(9m以上の大型種のみ)

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ヒゲクジラ類)

北海道・日本海側や瀬戸内海も含め、日本列島の大部分の沿岸海域で観察記録があり(出現自体は希で散発的)、定期的な出現が確認されている海域もある。小笠原や南西諸島各地が冬季の主な繁殖地だが、釧路や仙台湾、熊野灘沖など、日本列島における確認数は(一部海域で)増加傾向にある。かつては日本列島の両沿岸全土が回遊経路であったが、現在は沖合を回遊するので確認が少ない。
高知県の土佐湾(定住群が存在。)や鹿児島県笠沙町周辺ではウォッチングの主対象であり、1年中見ることができる。瀬戸内海で確認される事もある。鹿児島沖の個体群(東シナ海個体群)は長崎県沖や五島列島、山口県沖にも回遊する事が判明している。小笠原諸島沖合にも定住個体群が存在する。東日本等その他の地域にも個体群が存在したが、現在では希か消滅。
ツアー中の観察は、現在は北海道の沿岸部でのみ期待ができる。三陸沖、日本海の一部で比較的多く観察可能で、小笠原諸島を除く日本近海の大部分の海域で確認されている(漂着や散発的な確認例が多い)。定置網に混獲されて死亡する例が非常に多い。日本海には定住するミンククジラの個体群が存在するとされ、対馬平戸などの九州北部や山口県沖、若狭湾輪島市沖などで比較的よく観察されている。最も南では与那国島でも確認されている。北西太平洋ではIWCのHitter・Fitterプログラムによりミンククジラの資源量は比較的高位状況にあり近年増加傾向にあると分析されているが[26]、ミンククジラの日本海側個体群は日本哺乳類学会によって「保護すべき地域個体群」に指定されており[27](水産庁は「普通」に指定)、生息範囲も広いが観察できる確率は決して高くない。調査捕鯨や商業捕鯨、密猟等様々な影響にあり、太平洋側でも著しい減少が確認された海域は商業・調査捕鯨の時代から確認されており、室蘭等ホエールウォッチング業での確認数が激減、観察が難しくなっている海域も多い。

ハクジラ類)

現在の日本近海の大型鯨類では、個体数が最も豊富だとされる。瀬戸内海や日本海側での確認はまれ。太平洋側では北海道から南西諸島までの幅広い海域で観察ができる。オホーツク海・知床半島、や三陸、冬季の銚子沖、高知県室戸岬沖や熊野灘および静岡県伊東市沖、長崎県五島列島男女群島など。小笠原に定住個体群が存在する。
現在、観光ツアー中にある程度の高確率で見られるのは知床半島と網走沖のみ。三陸、佐渡島、富山湾以北の日本海でも見られるが観光ツアーはなく、減少が激しい。東京湾(特に浮島付近)や房総半島は太平洋側の個体群の冬季における生息の中心であったが、現在では消滅または激減、商業捕鯨の存続が難しいレベルにまで落ち込んだとされている。
北海道沖に広く分布し、本州以南でも三陸や銚子沖、伊豆半島、熊野灘、室戸岬、瀬戸内海、北九州、南西諸島など多くの海域で観察されている。個体数は少ないので確認は散発的である。日本海ではより少ない。

その他

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下記の大型種はツアー中の観察例も存在するが、前述の種類に比べるとそれらは限られたものである。概して確認記録そのものが非常に少なく}、観光ツアー中に遭遇する可能性は極めて低い。
日本国沿岸のみならず、アジア圏全体で激減した。現在のアジア側の個体群は極めて絶滅危惧で、北米に越冬回遊する事が判明している。北海道、三陸、東京湾、相模湾、伊豆大島[28][29]、駿河湾[30]伊勢三河湾(日本沿岸では最大の確認数)、熊野灘、土佐湾、大隅海峡などで漂着や混獲、観察例がある。大隅半島以南、南西諸島に回遊したかは不明であるが、未確認の目撃例はトカラ海峡宮古島である。アジア側の同種が定期的に確実に報告されている唯一の海域は、樺太北東部およびカムチャッカ半島東岸である。日本海側では、北海道や富山湾などで漂着例があるが、2014年に大小2個体が新潟・寺泊沿岸に出現し、信濃川河口周辺(大河津分水路河口)に3週間ほど滞在した[31]。これは日本海側の日本沿岸における、捕鯨時代以降は初の生存個体の確認となった他のアジア圏では、中国韓国で記録はある(韓国の場合、1977年にウルサン沖で2頭が目撃された)。 また、伊良湖岬周辺でアジア系初の定期回遊が確認された。
全ての大型鯨類でも最も絶滅危惧であり、資源状態は極めて悪い。知床[32]、三陸、茨城県(漂着が数件)、房総半島、東京湾~伊豆半島周辺、伊豆大島伊豆諸島、小笠原諸島や串本、那智勝浦[33]、熊野灘沖、室戸岬、奄美大島などで複数回確認されている。東シナ海側の近年の唯一の観察地域はすべて奄美大島[34]周辺。日本海側では玄海灘佐渡島若狭湾などで記録がある(漂着)が、過去半世紀の記録は捕獲と漂着のみである。
絶滅危惧。かつて、オホーツク海から日本海、東シナ海、太平洋岸に複数の個体群が存在したが太平洋と東シナ海の個体群は絶滅かそれに近い。知床[35]、網走、釧路、室蘭[36]、三陸、新潟、佐渡島[37]、銚子?、対馬など。オホーツク海で個体数が多く、日本海にもミンククジラ同様、定住群が存在するとされる。現在は希である。かつては瀬戸内海への回遊も行われていた。網走[38]・知床・釧路沖[39]での確認数が微弱だが増加している。
沿岸では絶滅危惧。ほとんど観察例がない。主に外洋性だが、黒潮が接近する陸地近くには進出する。日本海にはあまり進出しない。釧路[40]、室蘭[36]、三陸、島根沖、室戸岬など。
幼個体が大阪湾に迷入、死亡した記録があるが、由来した個体群は不明。日本列島に最も近いオホーツク海の個体群は絶滅危惧だが、近年シャンタル諸島にて観察ツアーが検討され始めている。シャンタル諸島では陸から数mの距離にまで接近することも多く、鯨の生態を脅かすことなく観察ができる。

中・小型種

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日本列島沿岸には多様な種類が棲息しており、これらを対象にした観光事業は更に多くの場所で行われている。

脚注

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  1. ^ 森 恭一『第10章 ホエールウォッチング 村山司(編者)「鯨類学」』東海大学出版会、2008年5月20日。ISBN 978-4-486-01733-2 
  2. ^ a b エリック・ホイト英語版, 2001年, Whale Watching 2001: Worldwide Tourism Numbers, Expenditures, and Expanding Socioeconomic Benefits, International Fund for Animal Welfare英語版
  3. ^ Jacques Prescott, 1991年, The Saint Lawrence Beluga: A Concerted Effort to Save an Endangered Isolated Population, Environmental Conservation, 18号, No.4, 351-355頁, ケンブリッジ大学出版局
  4. ^ Huaxia (2023年11月27日). “China's youngest volcanic island welcomes rare whale visitors”. 新華社. Marine Mammal Science(英語版. 2023年12月28日閲覧。
  5. ^ Zhao Ying (2023年4月29日). “What is it like to be a whale scientist?”. CGTN. 2023年11月2日閲覧。
  6. ^ Cao Shuyun (2024年5月13日). “Can China Protect Its Whales?”. Sixth Tone(英語版. 2024年6月26日閲覧。
  7. ^ 涠洲岛“网红鲸”,与追逐它的人”. Huxiu.com. ウォール・ストリート・ジャーナル (2024年4月7日). 2024年6月26日閲覧。
  8. ^ Heiner Kubny, 2023年, Does Iceland end whaling in 2024?, The Polar Journal
  9. ^ 篠田航一, 2024年12月12日, アイスランド、捕鯨反対の新政権になる前に「駆け込み」で捕獲を許可, 毎日新聞
  10. ^ 宇仁義和, 2024年5月7日, 網走の捕鯨100年 クジラの街で再出発するには, 98頁, 104頁, 網走青年会議所5月第1例会
  11. ^ 青森・陸奥湾 イルカ情報, 2021年6月10日
  12. ^ 千葉日報, 2020年09月10日, 北海道室蘭沖の捕鯨、今年は断念 新拠点、ミンククジラ確認できず
  13. ^ FMくしろ, fm946 midori Various Corners, 2024年9月18日, 42: 噴火湾の鯨類とアイヌ民族 - #285 笹森琴絵 編
  14. ^ 倉澤七生, 2007年, 海の生物多様性保全とクジラと私たち, JAWAN通信 No.89, 日本湿地ネットワーク
  15. ^ エリック・ホイト英語版), 田島木綿子 (監修), 片神貴子(翻訳), 尾崎憲和(編集), 2024年2月15日, 『ビジュアル クジラ&イルカ大図鑑』, 103-106頁, 日経ナショナル ジオグラフィック
  16. ^ [1]
  17. ^ [2]
  18. ^ [3]
  19. ^ [4]
  20. ^ [5]
  21. ^ [6]
  22. ^ [7]
  23. ^ [8]
  24. ^ [9]
  25. ^ [10]
  26. ^ 国際漁業資源の現況 平成24年度 48 ミンククジラ オホーツク海-北西太平洋
  27. ^ http://ika-net.jp/ja/whaleguide/22-minkewhale
  28. ^ https://www.youtube.com/watch?v=YrUcUmQSufE. retrieved on 14-05-2014
  29. ^ http://www.scc.u-tokai.ac.jp/sectu/kaihaku/umihaku/vol23/v23n6p2.html. retrieved on 14-05-2014
  30. ^ http://www.geocities.jp/kayak_surfing/note/9.html. retrieved on 14-05-2014
  31. ^ Kato H., Kishiro T., Nishiwaki S.,Nakamura G., Bando T., Yasunaga G., Takaaki Sakamoto T. ,Miyashita T., 2014. Status Report of Conservation and Researches on the Western North Pacific Gray Whales in Japan, May 2013 - April 2014. https://events.iwc.int/index.php/scientific/SC65B/paper/view/821/791. SC/65b/BRG12. retrieved on 14-05-2014
  32. ^ 岡部考大および宇仁義和(東京農業大学). 2013. 知床FOX クルーズ
  33. ^ 南紀マリンレジャーサービスおよび潮岬マリンガイド
  34. ^ [11] 海棲哺乳類ストランディングデータベース
  35. ^ 佐藤晴子および知床ネイチャークルーズ. 2013. https://plaza.rakuten.co.jp/shiretokorausu/diary/200806300001/ 知床・羅臼町観光協会
  36. ^ a b 株式会社エルム, 室蘭再開発市民協議会:室蘭ルネッサンス
  37. ^ アーカイブされたコピー”. 2013年1月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年1月11日閲覧。
  38. ^ あばしりネイチャークルーズ http://www.abakanko.jp/tour/nature_cruise.html
  39. ^ 笹森琴絵. 2013. http://sakamatablog.cocolog-nifty.com/blog/2013/12/post-eeba.html. さかまた組. retrieved on 13-05-2014
  40. ^ 笹森琴江. さかまた組